第85話 品のある?枢機卿
主人公が空気気味(笑)
そこに、何者からか声がかかる。
「おやおや。聖女様と騎士団長殿がお揃いとは珍しい」
現れたのは、身体も目も細く、髪を長く伸ばし、カイゼル髭と呼ばれる髭を生やした中年の男性だった。
着ている服は、聖職者が着るには、なんとなく豪華な装飾がみてとれた。
「テウコグ枢機卿…」
一緒にいた2人が、あわてて頭をさげたので、僕も一緒にさげる。
当然向こうは僕の姿に気がつき、視線を向けてくる。
「おや?そちらは?」
「リーフェン王国のメセ在住の薬師・ヤムです」
僕が答える前に、騎士団長さんが質問に答えた。
「ほう、貴女が」
すると枢機卿は、髭をさわりながら僕に近づき、じろじろと見回し始め、さらには鼻を鳴らして匂いを嗅いでくる。
「うむ。ローア草を始めとした薬草の良い匂いだ。それだけで、傷の1つも治りそうだな」
僕がその枢機卿の行動に呆然としていると、ラシャナさんが僕の腕を掴んで枢機卿から引き剥がした。
「なにをなさるんですか!?」
「なに。近頃寄ってくるのが、聖職者の癖に香水をぷんぷんさせている連中が多かったものでな」
枢機卿は少し満足げに髭を撫で付けていた。
それとは対称的に、騎士団長さんは厳しい顔で睨み付けていた。
「近寄らせているのは貴方ご自身では?」
「ふむ。そうだったかな?まあとにかく、拝金主義の小物がそなたを狙っているらしい。気を付けたほうがよいぞ。あの連中は我輩と違い品も節度もない。まあ、そこの騎士団長殿が、不逞のやからは始末してくれるであろうから心配はなかろうがな」
騎士団長さんの威嚇などどこ吹く風とばかりに、僕に話しかけてくる。
「あ…ありがとうございます…」
偉い人らしいし、乱暴をされたわけでもないので、とりあえずなにもしないでおいた。
セクハラをされたら魔眼を使うつもりだったけれど。
結局枢機卿は、匂いをかいだだけで、まあ、匂いを嗅いだだけでも十分にアウトだけど、そのまま廊下の向こうに歩いていった。
しかし急に足を止めると、こちらに振り返り、
「そうそう。法王猊下が代替わりをお考えらしい。という噂をききましたぞ。色々準備をしたほうがよろしいのではないかな?」
と、言ってきた。
法王といえば、ラシャナさんのおじいさんであり、パウディル聖教のトップに君臨する人だ。
そんな人が代替わり、すなわち隠退しようとするなら、かなりの一大事ではないだろうか?
「嘘を言わないでください!」
ラシャナさんは否定の声をあげるが、
「孫娘である貴女には、余計な心配をかけたく無かったから言わなかっただけでは?」
「お祖父様は話してくださいます!」
枢機卿はにやにやしながら理由を説明し、
「なるほど。では、噂はデマだったようですな」
ラシャナさんの発言を受け流しながら、その場を離れていった。
「ちっ!噂を流しているのは自分だろうに…」
騎士団長さんはその背中を睨み付け、盛大に舌打ちをしていた。
怪しいおっさんの登場です。
カイゼル髭にするかチョビ髭にするか悩みました。
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