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鍵開けのベアトリス  作者: 瑞野
9/16

~金の腕~Case:9



資料をすべて一か所に集めるのに、3時間をかからなかった。

もちろん2人の魔法によるところも大きいけれど。


散らかっているとはいえ、ここは研究所。

メモ書きよりも研究材料や実験器具、実験の名残のようなものが多い。

他の部屋はほとんどそれで、この研究室だけが生活圏という感じだ。


「資料は見たところ…普通の研究ですね…。」


医療の進歩のため、移植可能な疑似臓器の研究をしている場所だったらしい。非人道的な内容でもない。

一条博士も魔術師として、4区でも魔法の秘匿は徹底していたのだろうと思う。


「強いて言うなら、神書っぽいのが、気になるね。」


クロキアとしての嗅覚が、反応しているのだろうか。

言われてみれば、医療本の中には少し宗教的なタイトルが混じっている。

どれも研究に関係ない本ではないが…。


「そういえば、金の男っていうのは、神話には出てこないんですか?読んだことがなくて…。」


本を読むのは好きだけれど、それほど宗教には明るくない。

森の奥で育ったことが、仇となっている。


「うーん…男、ねえ…。金という色は結構出てくるよ。金の林檎、金の星…」


金色というのは神秘の象徴というイメージがある。

太陽に照らされた光のような。


「金の空は、神の使いの登場時に出てくるね。3作の中編で、それぞれ神使いとの出会いが描かれるんだ。そのそれぞれの登場シーンの絵は、金色の空だね。」


関係があるのかもしれないけれど、今のところはわからないようだ。









「めぼしいものは、無かったね。まあ、ここからが本題だ。」


そうだ。目的は地下を探すこと。

敵に先を越されないためにも、急ぐ必要がある。


「まず、篝。生物はいそうかい?」


篝くんは首を振る。


「ラットがいないこともないけど…不規則な動きで、見てはいなかったっぽいね。他は虫だけど…クロキアは神使い。そういうのはやらないんだ。役に立てなくてごめんね。」


首を振る。

むしろ神使いの眷属をこき使うなんて、罰が当たりそうだ。


「じゃあ僕だけど…グラメスさんの縁を辿ることはできそうだ。ただ…」


グラメスさんにも感謝だ。

けれど、何か問題発生だろうか。


「位置が、とても遠い。流石は一条博士だ、いったいどんな手を使ったのかはわからないけれど、全然視えない…どこだろう…上空、かな。」


「「上空!?」」


貴乃下さんは、相当力をフルに使っているらしく、目を瞑りながら、眉間に深い皺を作っている。

心なしか、置換された景色が揺らぐ。

やがて限界とばかりに、声を荒げる。


「…ごめん、置換を維持しながらでは追い切れない!切るね。」


強い風の中、幻のように一瞬で、景色はSクラス用の寮のロビーに戻る。

飛ばされるかというほどの風の中、篝君に倣ってどうにか固定された椅子に隠れる。

このびくともいない椅子も、もしかすると魔法による防護がなされているのかもしれない。


「…よし、場所が分かった。」


風が一瞬でやむ。

相当の魔力消費量だろう。

彼は長く走ったの後のように肩で息をしながら、辛うじて椅子に座った。


「第7研究所のはるか上空に、浮いている。座標もわかったし、理事長ならワープできると思う。研究所というよりは、個人的な書斎一部屋だけだけ。ただ、散らかり方はさっきの比じゃなかった。」


それだけ散らかっているのなら、情報がある可能性はある。


「盛り上がってるところ悪いけど、そろそろ食べて寝た方がいい。」


時計はすでに、9時半を指していた…。


「うん、そうだね。急がば回れ。今日は解散して、また明日にしよう。理事長にも話を通さないとだし。」


貴乃下さんには、頭が上がらない。


「お2人とも、本当にありがとうございます。しかも明日まで。ゆっくり休んでください。」


篝くんも貴乃下さんも、柔らかく微笑む。


「ボク達は心が読めるからさ。事の重大さも、そのためにキミが必死で頑張ろうとしてるのもわかるよ。」


そう言って、手を振って食堂に去っていく。

温かい子だ。

魔法の食堂は、24時間稼働していると書かれている。


「僕も同じかな。それにね、僕は魔法を使うのが好きなんだ。使いすぎれば疲れるとしてもね。機会に恵まれるのは、喜ばしいことだよ。」


おまけ、と数時間前の人型の紙に、息を吹きかける。

すると、紙は桜の花びらになる。

やがて白虎にも龍にも変わり、思わず瞬きしたときには居なかった。


「では、おやすみ」


振り返るころには、粋な陰陽師もまた、どこかへと姿をくらましていた。












「そんなことがあったのですわね!み、見たかったですわ…。とはいえ、昨日は凝ったご飯を作らねばならず…」


家ではご飯を作っているのだろうか。

そういえば、桜ちゃんは一人暮らしなのかな。

いや、お嬢様だし、危ないかな。

…聞いてもいいのかな?


「桜ちゃんって…」


しかし、ちょうどいいタイミングで、たくさんの人が現れた。


「いやーおまたせ!会長を捕まえるのに手こずっちゃってねー。まったく、働き者だなあ。」


扉を開けて現れたのは、理事長と貴乃下さんと篝くんと、…扉を開けていたのは黒江さんだ。


「黒様!いらっしゃったのですね!」


桜ちゃんは手をぶんぶんと振る。

黒江さんは動じないものの、代わりに理事長が手を振り返している。

桜ちゃんも別段気にせず。理事長には会釈をする。


「本拠地に乗り込むなら、人では多い方が良いからね。それでなくても会長なら、一人でこなせちゃうだろうからね!」


理事長のお達しとなれば、さすがの黒江さんも嫌そうな態度はとらないらしい。

もしかしなくても、篝くんや貴乃下さんの入れ知恵だろうか。

旧校舎の実験部屋は、日ごろあまり使われていないのか、少し埃っぽい。

黒江さんは理事長の要望で、手を簡単に降ると、部屋は一気に良い空気になる。

まるで、森の奥の我が家のような心地よさが、部屋に広がる。

慣れてきたものの、魔法を知らなかった私にとって、違和感が凄まじい。


「準備は良いかな?今回は私も向かおう!個人的に興味もある。」


理事長は全員を順番に見て、全員が準備良し、と頷く。


「よろしい。では、3、2、1…!」


教室から一瞬で、知らない床に変わる。

ふわっと浮遊感があり、柔らかく地面に降り立つ。

見まわしてみると、あたり一面高そうな本。

本棚がたくさんある。

難しい、見たことのない文字も多い。


「素晴らしいコレクションですわ。我が家に無い本もたくさんありますの。」


宮川家でも無い本、というのは、想像したくないレベルの値段なのでは…。


「絶版の海外書籍も勢ぞろいだねぇ。相当のコレクター、といったところ。して、机の紙の山…会長クンなら解析可能かなぁ…?」


黒江さんは、問題なさそうに頷く。

魔法の力って、すごい…。

この量を手作業で調べるには、ここにいる全員で取り掛かっても今日中には終わらない。

ましてや、走り書きの多くは、どこの国の言葉かもわからない。

黒江さんの干渉魔法は、明らかなチートだ。

生徒会長なのも、魔法の実力の意味合いもあるのかもしれない。


「どうせですし、お時間いただきますよ。ここの保護の時間分、猶予はあるでしょうし。」


理事長はにこやかに笑い、頷く。







解析の黒江さんとその補佐に回っている桜ちゃん、空間を保護している理事長以外は、それぞれで書斎を見て回っていて時間をつぶした。

基本的にはコレクター的であってもおかしなものはない。

強いて言うなら、やはり唯一神関連の書籍は、多い。


それから1時間ほどたった時、理事長が私の肩をたたき、扉を手で示す。


「さぁ、扉を出てみるかい?」

本来ならば、空中にある関係で、この部屋には扉がない。

先ほど理事長が何かの道具で、扉を生み出していたのは見たけれど…。


開いてみると、見たことのある豪勢な廊下だ。

空中の書斎は、すでに旧校舎の一室となっていた。


そういえば、理事長のワープは、当然ながら衣服や物も運べる。

それなら、この書斎を別の場所に移すこともできるのか。

学園の中に移せば、他に奪われる危険も減る。


「これでいつでも調べられますね!あ、」


扉の前には、ロートルさんが、待機していた。


示し合わせたように、黒江さんも理事長のもとへ現れる。

もしかしなくても、あの量を1時間ほどで…。


「準備が整いましたな。ではミスター・ロートル。是非、知恵をお貸しいただきたい。」
















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