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鍵開けのベアトリス  作者: 瑞野
4/16

~金の腕~Case:4



座学の授業は続く。

弓咲学園には、魔術師だけのクラスが存在する。

それが、生徒会クラス――、通称Sクラスだ。

彼らは学校1優秀なため、生徒会を務めるだけでなく、Sクラスとして高校で習うものとはかけ離れた難しい授業を受けている、というのが他クラスの生徒の認識だ。

しかし、実際は、魔法の知識の取得と魔法を生かした課外授業を行っている。

そもそも、魔術師にとって、通常の勉強など必要がない。

理由は、簡単な話だ。



魔法には3種類ある。


まず、1つ目。


授業曰く、5~7歳のとき、魔力を持った子どもたちは、神様から願いを問われるのだという。


ヒーローに憧れた子どもならば、強くなりたいと願うだろう。

その時欲しいものがあれば、その欲しいものを願うだろうか。


子どもたちは、自らの望みを伝える。


すると、その伝えた願いは、子どもの持つ魔力によって再現される。

空を飛びたいと願えば、魔力が高ければ翼が生え、低ければジャンプする時間がかなり長くなる。

また、漠然としたもの――例えば強くなりたい、だとかは、相当な魔力の高さが無ければ効果が薄くなるらしい。


また、第1魔法は、願いの解釈次第で、少しだけ魔法を変化できるという。

例えば空を飛ぶのに邪魔となるものを、翼で払うこともできる。

ジャンプ時に圧で地面を割ることも、割らないこともできる。

これらは魔力次第、また願い次第で、変化の幅が広がる。


これら、幼少の願いが形になったものを、第1魔法と言うのだという。


次に、2つ目。


魔術師は、生まれつき憑依体と非憑依体のどちらかに分けられる。


憑依素質を持つ子供は、憑依魔法と言う力を生まれつき持つ。

非憑依素質を持つ子供は、非憑依魔法を言う力を生まれつき持つ。


憑依魔法は読んで字のごとく、過去の強い存在に憑依される魔法。

神話では、かつて神様の時代があって、そのころは魔族やら妖精が存在した、という。

そういう神話の存在を身に宿す人も、理論上ありえる。

とはいえ憑依体は、憑依相手も先天的に決まる。

しかしどの憑依相手も一定以上の強さを誇るため、3つの魔法で最も強い魔法である。

命を落とすものすらいる、危険と強さどちらも最大の魔法なのだ。


非憑依魔法は、第1魔法のような普通の魔法だ。

しかし、第1魔法より強く、憑依魔法より弱い。

神の時代の魔法すら得る、憑依魔法に比べれば威力は大きく劣るものの、危険が一切ないのが特徴だ。



憑依魔法は、憑依してくる存在が強ければ、魔力の消費も馬鹿にはならない。

しかし、上位の憑依相手は、かつての自分の強大な魔力量を前提に魔法を唱えてくる。

魔力を空にすれば2週間ほど全快に掛かり、空にすれば3日間死よりも大きな激痛が走るとか。

また、魔力を空にすることは、命にも関わることもある。

そのため、講義の中でも何度も第2魔法は成人するまで使用を控えるべきだと言っていた。

魔法を失うか命を落とすか、そういった結末を迎えたくないのならば、と。


それらを防ぐために、リミッターが各自支給される。

それは首輪のようなものから指輪まで、自由に選べるが、首輪――チョーカーなのだろうかが強い憑依魔法を持つ生徒には推奨されていた。

理由として、憑依魔法を唱える喉の動きを制限するためだという。


また、憑依魔法の使用は、必ず理由の報告と承認を、とか細かい契約書みたいなものが配られた。


非憑依魔法、または憑依魔法。

そのどちらかの力を、第2魔法という。


最後に、3つ目。

簡単に言うと、魔法使いのもしもの時の魔法。

どんな願いも、大抵叶えることができる、1度きりの大魔法。

瀕死のわが身を蘇生することも、成しえる。

完全な過去の存在を蘇生することは難しいらしいが、直後ならば可能だという。

それゆえ、魔術師はそのもしもの瞬間まで、この魔法を温存するらしい。

また、第3魔法には謎が多く、1度きりの魔法ではなく、自分にふさわしい、繰り返し使える魔法を得られることもあるらしい。

第1第2に対して、第3魔法は魔力を消費せず、この星の有り余る魔力を使う。

自分にふさわしい唯一の魔法を見つけられた時のみ、繰り返し使える。


この3つ目の魔法を第3魔法と言う。


何にせよ、普段使い出来る第1魔法は、願いの解釈によって応用できる。


学生に必要な知識程度なら、その解釈の範囲でカバーできるのだろう。

そもそも魔術師は魔法を脳による演算で行うらしい。

ある程度の頭脳を持ち合わせていなければ、魔法を使うこともできない。

しかし魔法を使えない魔術師はいない。

理由はわからないが、第1魔法が与えられた際に、魔力により脳の利用法が作り替えられている、という説もあるらしい。


とにかくだ。

魔術師に勉強など必要ない。

私はこうして講義を受けているが、その他のSクラスは聞いてなどいない。

それどころか、誰も教室にはいなかった。

大半が自室だろうか。寮生でない生徒は帰宅しているかもしれない。

しかし、登校はしている。

授業開始時、テキストや教材の記録されたレコーダーのヘッドフォンを装着し、数秒ほどで帰っていくのを見た。

おそらく、皆それで充分なのだろう。

その数秒で、私が今日学んだこれほどの情報量を簡単に理解してしまう。

それほどの処理速度が、魔術師には必須なのだ。


そもそも今回の講義は、彼らにとっては幼少期からの常識なのかもしれない。

私しかいないため、初歩について説明をしてくれているに過ぎない。

確かに、魔法が使えたら、いくらでも抜け道がありそうだ。

肉体強化で正解がわかる体に強化するとか、自分の脳から過去の正解を見た記憶を取ってくるとか。

何なら全て暗記しているのかも。


****




「オンメエは、どう思うヨオォ?」

どしり、と地面を軋ませながら、みすぼらしい大男は隣のやせ細った男に訊ねる。

細い男もまた、およそ外では白い目で見られるような小汚い服だが、衣服以外は少なからず人らしい姿ではある。

「ヒ、ヒヒッ、お、俺は…」

しかし彼の黒髪は、伸びきっていて、見た目を意識しているとは到底思えない。

「よろこばしく、おも、う。」

ヒヒッ、と小ギザミに震える様は、不気味だ。

しかし男は止める気配もなく、哂い続ける。


相対する大男は、その言葉に目を見開いて、狂気をはらんだ目で、笑顔を向けている。


一体彼らがどんな関係なのかは、誰にも窺い知れない。

しかし2人はここ―――、第4区一条第7研究所の施設内に入っていく。

関係者以外立入禁止の看板を踏みつけて。

大男は片手に斧を持って。

はたして、彼らは関係者なのだろうか。



****


「ベアトリスちゃん、こんにちは」

Sクラス(生徒会)の副会長、宮川桜ちゃんだ。

右肩に副会長の文字が入った、ワッペンのようなものを安全ピンでとめている。


彼女は桜色の髪をした可憐な少女でありながら、生徒会長と学力の1位2位を争う秀才でもあるらしい。

廊下に張り出された学力テストのランキングは、どの試験も2人が競っていた。


「ベアトでいいわ、桜ちゃん。どうかした?」


彼女の宮川家は、歴史ある四上院とは違い、まだ発展からそれほど代を経ていない。

しかし既にその規模は四上院すら超えるほど近年成長がめぼしいという。

何にせよ正真正銘のお嬢様である。


ちなみに、桜ちゃんの情報は、十六夜(いざよい)と名乗るチャラい少年が懇切丁寧に教えてくれた。

彼は軽薄そうな態度でありながらも、彼女に憧れか好意があるのかもしれない。

私には口説いてきたけれど、彼女には深く関われない気おくれがあるように思えた。

「課外授業に、4区の探索がありますの。いくつかの研究所…といっても問題起こしているのは一条博士に関係する、条グループの研究所ですわね。…ああ、失礼。理事長から話を伺ってますの。それで、これまでに得た情報を伝えられればと。」


にこやかに語るけれど、一条博士への嫌悪感が少しばかりうかがえる。

何度か訪れたことがある様子だし、きっとどの研究所も、ろくでもないのだろう。


「ありがとう。その…良ければどんな場所なのか教えてくれるかな。条グループっていうのも、よくわからなくて。」

文献はまだ図書館の許可証を発行されていないとかで、読めずにいる。

4区は立ち入り禁止区域らしく、一条博士レベルならば名前程度は伝えられているものの、4区の多くの詳細は機密事項だというのだ。

一条博士の研究所についても、一般には情報閲覧権はない。

しかし、Sクラスの図書館許可証により、電子図書館に集められた国中の書物の閲覧がすべて許されるらしい。

Sクラスの権利はすさまじいが、これも彼らには秘匿が難しいからかもしれない。

「ええ、私見で良ければ構いませんわ。一条博士の一族が中心となっている研究団体の総称が、条グループですの。」



「危険なのは第7研究所と第11研究所。条グループは解散したというのに、ここらはいまだ不当に活動をしてますの。あとは一条のいた第13研究所。あそこは日夜あらゆる組織が墓荒らしを目論んでますから、仕事が絶えませんわ。」

桜ちゃん曰く、一般人相手の時は、記憶を消すのが大変だという。

記憶の除去は生物への干渉という、相当強いスペルが必要となるため、悪い言い方をすれば生け捕りをし、それをこなせる魔術師へ引き渡すなど、厄介な手続きをするのだという。

「第7は詳細不明ですが、条グループは、基本的に研究のためなら非人道的な行いも厭わない人達ですから、注意すべきですわ。そして第11は過激派の宗教団体とも関係が噂されている、危険思想の集まりですから、耳を傾けないように。」



****



11時間後、今は深夜2時だ。

金曜日を越せば、休日だというのに、私は大げさな武装で危険地区に踏み出す。

「本当に、いいんですわね?」

第11研究所は、街灯が切れかけた、怪しい色を主体としていた。

「うん。何か情報があるかもしれない。」

過激派団体の新入りとして、潜入してみることにしたのだ。

新入りと言っても、話を聞くだけ、とは伝えてあるのだが。

桜ちゃんは心配だからと変装して来てくれるらしい。

危険なのはわかっているが、私には時間がない。


ふと、鍵開けのお客としてきた、サクラとアカツキを思い出す。

桜ちゃんのほかにも、弓咲学園の生徒会長が暁だというし、なんだかすごい偶然だ。

けれど、彼らと桜たちは、年齢も見た目も少し違う。

桜の方は同じ桜色だけれど、生徒会長は黒髪ではなく、ほんの少し赤みのかかった茶色だった。

染めているとしても、どちらにせよ年齢が合わない。

「桜ちゃ…咲はサクラとアカツキと言う少年を知らない?ああ、えっと、小さい子たちなんだけど…弓咲学園の関係者かもしれなくて。」

潜入では、偽名として咲と呼ぶことになっている。ちなみに私の偽名は、アスターだ。

しばらく考えるようなそぶりをしたものの、思い浮かばなかったらしい。

「記憶をたどりましたけど、これといって該当者はいませんわね。」

少年少女たちの話を伝えてみる。

宝箱から出てきた指輪。小さな人形。

「そういえば、弓咲の童話に、小さな人形を持った少女と少年のお話がありますわよ。親を探して旅をしている2人が、最後には父親に出会うお話でして。関係ないですが、何だか似ていますわね。」

それから、と呟いた後、桜ちゃんは小さな人形を眺める。

「そのお人形は、縁を繋ぐものですわね。例えば召喚の護符や使い魔を呼びだす御札、赤い糸や触媒なんかもそう。おそらく、貴女を護りたい、という意思が込められたもの。常に持っていると良いことがあると思いますわ。」

確かにこの人形は、見ているとどこか温かい気持ちになる。

少年少女たちもまた、魔術師だったのだろうか。


「君たちが、新入りかな?なに、今宵も大勢新しい方がお見えになります。良きことです。」

ふくよかな神父だ。

手を混ぜるように動かしながら、神父は協会に誘う。

教会の中は、座って祈りを捧げる人で溢れており、私たちは最後尾の椅子に座るよう指示される。

ステンドグラスには、女が十字架に括りつけられ、あるいは男が新たな神と言う風に称えられていた。

教会の1番前には、祭壇があるが、一体聖体とはどのような存在なのだろうか。

私の国でも、宗教は当たり前にある。

けれど、それはおそらく弓咲と同一だ。

アリアフォード・クゥインツェオという唯一神が、この人間の世界を、始まりから現在まで見守っている。

それが、世界の共通認識なのだ。

世界中の宗教倫理の統一は、実際にアリア神が各地で目撃され、数々の逸話を遺している故だ。

彼らの冒涜が、何故看過されるのかは、想像もつかない。

神のご慈悲だとでも言うのだろうか。

『e su pelroda e us eperlode s ae' as peirodle』

神父が祭壇を前に唱えだす。

聞いたこともない言葉だ。英語どころか、どの国の言葉でも無いように思える。

しかし信者たちが、倭国の言葉でも唱え始めた。

『悲哀を。冒涜を。奴らの神に鉄槌を。』

『Osclipe,Aselipe i 's askipe(オスターヴェの月、アスターヴェの月。我らの真なる神。)』

『Gulipho gnoise,aflaider aflieuder(破壊と殺戮を、ここに繰り返したまえ。)』

『Aria 's boflite on decolro(アリアの権能を冒涜せよ)』

『Aria 's boflite on decolro(アリアの権能を冒涜せよ)』

繰り返されるこの歌は、唯一神を冒涜し、神を含むこの星全てを殺戮しよう、そういった内容らしい。

オスターヴェの月とアスターヴェの月は、おそらくはあの神父か、あるいは一条博士だろうか。

教祖のことを指しているのだと思う。

一般的な宗教人には、あまりの屈辱で耐え切れないかもしれない。

アリアの権能とは、彼女が統べるこの星全てだろうか。

桜ちゃんも、どこか不快がっているように思う。

祭壇には、十字架に括られた女の藁人形のようなものが置かれ、神父の手により火をつけられる。

やがて信者たちはいつの間にか手に持っていた火の付いた蝋燭を人形に投げ始める。

よく見ると、教会の建物の至る所に、焼けた跡があった。

「咲、ここの活動は、さぞ楽しそうだけど、どんなことをするの?」

聞き耳立てられているのだろう。

声が震えないよう、必死に平静を装った。

「…そう、ね。回数自体は多くないけど、」

彼女もまた、不審に思われないよう、凛とした声で言う。


「放火と殺人、または誘拐がメインね。」


ろくでもないにもほどがある。


今も人形遊びに夢中な信者たち。

やがては自ら火に入ろうとするものすら現れていた。

火を前にしていながら、目の焦点が合わないものばかりだ。


彼らならば、魔導書案件に関係していてもおかしくない。

脳か、それとも実部隊か。

どちらにせよ、調査の必要がある。

けれどもあまりにも異常な光景に、すでに逃げ出したいとすら思った。
















 


















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