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鍵開けのベアトリス  作者: 瑞野
2/16

~金の腕~Case:2



「魔法…そんなもの、存在するんでしょうか?」

アタッシュケースのお客さんも、自身を魔法使いと名乗っていた。

けれど、あまり信じられない。

もし、魔法が存在するというのなら、何故知れ渡っていないのだろうか。


「魔術師は本来、魔法を隠すんだ。」


良く張った糸のような声で、青年は語る。

まるで夢でも見ているような話だが、彼の姿はどことなく人でないように思う。

その妖精のような姿は、魔法の存在に説得力を与える。


「理由はね、無関係の人間を巻き込んだ時、

その人間の記憶を消さなければならない。」


客間に声が響く。

流れてくる風が寒くて、私はゆっくりと窓を閉める。

「…それは、私の話ですか?」

恐る恐る発した声が少し掠れた。

私はやっぱり、厄介ごとに巻き込まれたのだろうか。

「本来ならね。別に危害を加えに来たわけじゃないよ、怖がらせてごめんね。君の血縁者に、外国の人間は居ない?」

青年は不思議なことを聞く。


振り返って見た表情は、打って変わって穏やかな様子だった。


「えっと。」

思わずポカンとする。

魔導書の話と、関係あるのだろうか。

「…怪しい組織の指示で私を始末しにきたんじゃないんですか…?」

青年も私と同じ顔をした後、小首をかしげた。

「君は、不思議なことを言うね。」

私こそそう思うけれど。

「…血縁者ですか。それがよく、わからないんです…。」

父親にも母親にも会ったことは無い。

唯一知るお爺様は、私と同じ金糸の髪と水の目を持つ。

といっても晩年はもちろん、白髪だったから、金の髪は写真で見た程度だけど。

そうか、写真。

「あの、写真が、もしかしたら。」

お爺様の部屋は、勝手に入っていいものかと、いまだに踏み込めずにいた。

執事のロスさんが片付けをしてくれていたけれど、当主様の宝物のお写真は動かせない、と笑っていた。

ロスさんを呼ぶと、快諾してくれた。

「ご覧になるのですね。嬉しく思います。」

感慨深そうに、私と客人をお爺様の部屋に導く。


お爺様の部屋は、何度か覗いたことならある。

けれど少し開いた隙間からは、中の様子ははっきりとはわからなかった。

扉の手前にある机で、お爺様はいつも作業していた。

机の棚の内側にあるらしい写真たちは、今日初めて見ることになる。

いつもは、ちょうど見えなかったから。



並べられた写真は、5枚。


2枚は、祖母に関する写真。

若い頃の祖母と祖父の写真、そして晩年の祖母の写真。

2人とも金の髪に碧眼だ。


1枚は、家族写真。

祖父と祖母、そして父の小さい頃の写真だ。


そして残りの2枚は、父と母の夫婦写真と、私の生まれた時の写真だ。

「お嬢様の写真はアルバムがあるんです。でもご当主様は、その赤子の頃の写真をよく気に入っていらして。」


何だか、嬉しいやら複雑やら。

でも、お爺様の意外な一面を知れたことは、素直に嬉しい。


「君のお母さんは…」


そう。

私の母は、この国ではありえない、黒髪をしていた。


「ロスさん、母は…もしかして倭国の方なのですか。」


ロスさんはにこやかに頷く。


「ええ。倭国の…一際大きな家の、お嬢様だった方です。」


続けて白髪の青年も質問を投げかける。


「あの、執事さん。ベアトのお母様は、四上院家の1つ・伯場家のご長女ではないですか。」


四上院、とは聞いたこともない単語だ。

母は、倭国では有名なのだろうか。

「よくご存じで。いかにも、晶子様は、伯場から嫁がれたご令嬢で御座います。」

ロスさんは驚いているものの、やはり懐かしそうに語る。


「あの?」

青年を覗くと、彼は手をひらひらと揺らし、疑問を解消してくれる。


「倭国にはね、古くから続く最もお金持ちの一族が4つある。君のお母さんは、そのうちの1つ・伯場という家の娘さんなんだ。」


お爺様からは、そういった話を聞いたことがない。


「どうしてそれを?」

彼はロスさんの方を一瞥してから、私に客間に戻るように促す。

どうやら、あまり言いたくない話らしい。

しかし、彼は懐から鍵付きの手帳を取り出す。

どうやら、先に仕事のようです。



*****



「自己紹介が遅れたね。僕の名前は、伯場翡翠」

それはつまり、彼は私の親戚…?


「の、使い魔だ。」



つ、使い魔…?



彼はご丁寧に、自身の姿を変える。

人ほどのサイズの巨大猫になった。

「騙してごめんね。主の命令で、この手帳の鍵開けと、」

毛並みはやはり、紫がかった白髪をしていた。

これが本当の姿なのだろうか。

正直なこところ、頭がパンクしそうだ。

これが幻覚でないなんて、常識が変わってしまう。

「主の姉を迎えに行くように頼まれてきたんだ。」

彼は猫から、蛇に姿を変える。

「姉…?」

姉?つまり…私に弟?


「主から、明日には倭国に連れてくるように、命令されてる。滞在は長くなるから、そのつもりでね。」


こちらの抵抗は、はなから考えていないらしい。


「あの…今でないといけないんですか…?」

使い魔を名乗る蛇は、少し恐ろしいほど、目を赤く光らせる。

「拒否権はないよ。知らなかったとはいえ…


君は大事件の実行犯なんだ。もちろん、うまく解決するために来てもらうんだけどね。」





準備を終え、執事たちにしばらく家を空ける説明をする。

2人は何か察したのか、深くは聞かず、口々に心配をしてくれた。

「どうかご無事で。留守番はお任せください!いつまでもお帰りをお待ちしております。」

「お帰りの際は、ご一報ください。美味しい料理でお出迎え致しますゆえ。」

えっと、断れない雰囲気?

使い魔を名乗る蛇は、しっかりと本物の伯場家のみが持つという証?をロスさんに認められ、私を馬車に乗せる。


*****


魔法とは便利なもので、いつの間にか馬車が消え、現地についていた。

馬車はあくまで人がいない場所までのカモフラージュだという。

何だか非現実的だが、ついわくわくしてしまう。



伯場の家は、渡された倭国の本では、武家屋敷と書かれていた。

道場に和風庭園。

どうやら観光用の本らしいのだが、11区の神社とか、すごい。

倭国を舞台にした物語でも、神社なら出てくる。

NINJAとたこ焼き…気になる。

NINJAはピザのデリバリーとかしてくれるんでしょうか。


本曰く、ここ伯場家は、第9区・伯場区という場所にあるらしい。

伯場区は、名前の通り伯場家が管理する地で、スポーツなどの施設が揃う観光地だという。

昨日話に出た四上院家は、それぞれ管理してる区があり、どこも観光地らしい。


「ベアトリス様、遠方からはるばるお疲れ様です。馬車でお疲れでしょう。」

メイドのような人が、優しく言う。

でも、馬車…ワープで一瞬だったんだよね…。


そういえば。

白蛇が少し前に言っていたことを思い出す。

『魔術師は魔法を秘匿する。』

何故なら、その事実を知った無関係の一般人の記憶を、消さなければならないから。

身内であっても、隠さなければならないのだろう。



*****


案内された広い場所には、男の子がいた。


「はじめまして。姉さん。僕は伯場翡翠。伯場本家の次男だ。」


とても落ち着いているが、物腰が柔らかく威圧的ではない。

その動きは見入るほど自然で、独特の美しさがある。

しかし、古風であっても古い人間ではないらしく。

手に持っていたタブレット端末を私に差し出す。


正直に言うと、使い方もわからない…。

こういった端末は、客人の多くが持っていたし、知ってはいる。

けれど、山奥の劣悪な通信環境では、とても持つ気にはなれなかったのだ。

「左が兄さん。文武両道の極みみたいな人だよ。ちょっと…いやかなり無口だけど。」

弟の彼とそっくりだ。

黒髪を横も前髪もバッサリと切った髪。

かむろ、とかおかっぱ?と言うんだっけ。

先ほどの本の、武家屋敷の説明で見たような気がする。


「君には、少し厳しいお話をしなくちゃならない。まず…すでにロスさんたちには話を通してあるんだけど。」


彼はタブレットを回収し、先ほどと同じく畳に正座になる。


「君には僕らと同じ、弓咲学園に通ってもらいたいんだ。」


ゆみさき、学園?

先ほどのガイドブックで、最初に大きく書かれていた。


12区の中心ともいえる、大きな高校。


この国の頂点に位置する最高峰の頭脳がそろう場所。

この学園に通うものは皆、将来国の中枢を担うという。

そんな文章で、一際目を引いた。



…どうして、そんな場所に?









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