~金の腕~Case:16
神の作り直した世界は、街を一瞬で作り直す。
そしてひっそりと1日は再開される。
人々はそれぞれの家で眠りから覚め、温かな朝を迎えていた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
深い森にある大きな城。
少し前までは鍵開けの魔術師が居ると噂されていたこの場所は、その在り様を大きく変えている。
私はここによく来るが、大変お気に入りだ。
宿は数あれど、これほど素晴らしい場は中々ない。
歴史的なロマンも感じる、まさに城だ。
「マスターちゃん、鍵開けの魔術師なんだろう?本当なのかい?」
向かいのソファに座る可愛らしい女の子が、この城の持ち主だ。
彼女は懐かしむかのように、照れ笑う。
「ええ。でも…鍵開けは懲り懲りです。」
どこか誇らしそうにも見える横顔だ。
「気になるなあ、僕達には秘密なのかい?」
宿としてこの城を経営する少女・ベアトリス・フォスターは、何も言わずにニッコリと微笑む。
その笑顔は、誰にも告げずに墓場まで持っていくのだと、雄弁に語っていた。
(もう数カ月経っているのに、まだ昨日のことのよう。)
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ーー4ヶ月前 8月下旬
『私達は、消えるの?』
言葉にしなかった疑問に対して、その者は静かに首を振る。
怪物にそうしたように、私達の手も引いてみせる。
『アレが消えたのだから、私達も消えるのでしょう?』
けれども、その者はただ微笑んで首を振る。
やがて、地面に空が映る鏡の床に連れて来られる。
見たことのないほど綺麗な空と雲に思わず見とれていて、私は上を向くのが遅れた。
しかし、上を向いたとき、思わず固まる。
7つの神がいた。
神だと言われずとも、人として造られた私達にはわかる。
その者は、凛とした声で告げる。
初めて声を聞いたけれど、彼女もまた神であると思い知らされる。
「人の神・アリア、戻りました。先程の話の通り、この者達を人として命を受けさせてあげたいのです。」
6人の神達は、何も答えない。
話は既についているらしい。
ただ1人、真ん中にいた長老のような神が頷く。
「うむ。人の為に消えようとする人造兵器ーーうむが望むのであればそれもよかろう。して、本の精よ…人に生まれたいか?」
飲み込むとか、畏怖とか、そういったものがどこかに消えていく。
私は、ありのままをぶつけた。
私達にだって、願いはあるのだから。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
あの弓咲での騒動から、数カ月が経った。
季節はついに冬に。
弓咲は綺麗で驚きに満ちていたけれど、実家のベットは格別だ。
「桜ちゃん、元気?」
私は鍵開けを封印し、お城を宿として、定期的に有料で貸し出している。
そのお金は、伯場家に返す予定だ。
あの魔導書の一件は、死者が出なかったことでお咎め無しで帰ることができた。
しかし、尻拭いのために伯場の人達は相当頑張ってくれていた。
本当は理事長さん達にも持っていくべきなのだけれど、そのお金も含めて伯場家に入れてあげなさい、と優しく諭された。
「はい。元気ですわ。ベアトちゃんも元気そうですわね!」
桜ちゃんは最近各地を飛び回っているらしい。
心配していたのだけれど、むしろ幸せそうで嬉しくなる。
「弓咲の方はたまに戻ってるの?」
こうして話すたびに違う場所にいるくらいだから、あまり帰っていないんじゃないかと思ってしまう。
お客さんが眠ったあとの城は、静かだ。
ロスさん達は今も勤務中だけれども、彼らは黙々と作業する仕事人。
星を見上げる静かな時間は、ロマンチックでもある。
「たまに帰ってますわよ?戻っては行っていますけど…。ベアトちゃんも弓咲に遊びに来ませんの?またお食事でも行きたいですわ」
私は目を輝かせる。
「それに、会わせたい子達が居ますの。ベアトちゃんのお知り合いだと名乗ってまして…見覚えはありませんが、悪い子達ではなさそうなので是非会ってほしいですわ!」
携帯のラインで写真が届く。
2人とも黒髪の兄妹だった。
見覚えはない。
ないのだけれど……。
「サクラとアカツキ!?」
電話口から、桜ちゃんの愛らしい笑い声がかかる。
「やっぱり、そうでしたか。」
姿形が変わっても、変わらない何かに気づくことができる。
家族愛や友愛、恋愛とも違うけれど、これもまた愛なのだろうか。
なんて私らしくないかな。
気が早いけれど、私は当日の予定を練り始めることにした。