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鍵開けのベアトリス  作者: 瑞野
14/16

~金の腕~Case:14



「同じ、魔法ね…」


翡翠くんは、地面を蹴る。


「一緒にしないでくれるかな!」


急激に距離を詰めてきたことに驚いたのか、アモンの反応は僅かに遅れる。

その隙を見逃さず、龍をいつの間にか消して、自らの拳から咆哮を放つ。

真っ直ぐに突っ込んできたことに怯んだらしく、アモンもまた後方に地面を蹴る。

翡翠くんはすかさず蛇を放ち、アモンの両手足を抑える。

アモンのピアノを弾いていた指が止まる。

それに呼応して、周りの術者達は静止する。

まるで石のように。

彼らは、音に操られていたのだろうか。


「いやぁ、お見事。けど甘いね。命取りだよ。」


アモンは口笛を吹く。

それを聞いた周りの術者は、蛇を引きちぎる。

そして一人は、携帯をアモンに差し出す。

男は煽るようにゆっくりと指を伸ばす。

また工房に、ピアノの演奏が響く。


これだけ操られている人がいれば、携帯は大量にあるだろう。

予めインストールさせていたのだろうか。


翡翠くんは光線をまた放ち、術者達をアモンから遠ざける。

しかしこの工房にはどれだけ操られている人がいるのか。

倒しても動くゾンビのような術者達は、さっきより増えている気がする。



光線の風を切る大きな音がする。

直後には破壊音が。


私や翡翠くんは、どうしてピアノの影響を受けないのだろう。

周りを見回すと、一人だけ違う動きをする術者を見つけた。


その術者は、格好は他と同じだ。

しかし皆が操られて好戦的となっているのに、一人だけ逃げようとしている。

明らかに光線におびえていた。


戦いに参加することはできない。

身を守る術もない私は、せめて邪魔にならないように引いたほうがいい。


「あの」

男の背後から、肩を叩く。

「ひぃ…!」

大袈裟に驚いたかと思えば、男はこちらをじっくり見る。


「その人形…家族の本の……」


◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「篝と俺で、一般人を避難させるのは終わった。けど…。」


ビデオ通話のような形で、Sクラス生は連絡を取り合う。

金の空を前に、気分だけが冷えていく。


「もうそろそろ、被害は止められないだろう…。」


ズズズ、と大きな音に、全員が頭を抑える。

これほど無遠慮なテレパスは、初めてのことだった。


「おい、誰かいないのか!早くしろ!」


怒号に近い、叫び声。

黒江暁の干渉魔法だ。

彼にしては珍しい声色から、深刻な何かがあったことは、誰もが理解した。


「何があったんだい?黒江くん!」


理事長が、焦りながら質問を投げかける。


西()()()()()()()()()()()()()


喉から嫌な音がした。

思わず、考えてしまう。

西側には誰が居た?知り合いに被害があった奴は居ないか?

避難は済んでいる。

しかし、前線に出ている俺達には、いつ何が起きてもおかしくない。

そもそも、西が飛んで終わりではない。


「おい!黒江!桜は無事なのか!?」

幼馴染を、心配する。

こういうときにそんなことを言っている場合じゃない。

それはわかっていても、冷静ではいられなかった。


「…ああ、魔力は底を尽きて倒れてるけどな。」


少しだけ、安堵を覚える。

あの妹のような存在に何かがあっては、冷静でいられる自信がなかった。


「けどこっちも、いつまで持つかわからねえ。次はここが吹き飛ぶかもな」


何とかしなくては、そう考えるが、手段は思いつかない。

神様に祈るくらいしか、目の前の何を使っても難しいだろう。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「家族の本…?」

術者の男は、自らを元一条博士の部下だと名乗る。

「おお…死ぬ前にまた見れるとは…。」

人形をなでながら、懐かしそうに呟く。


「あの、その本と人形に、何の関連があるのでしょう?」

聞いたこともない本だ。


一条の部下を名乗る男は、ゆっくりとすべてを語る。

「その人形は、本の中で夫婦が出会うきっかけになったものでね。母親の形見として、娘に与えられるんだ」


男の胸元のプレートには、シュード、と書かれている。

「一条には、想いを寄せていた女性が居てね。結ばれる前に亡くなってしまって…。その気持ちを整理する意味を込めて作ったのが、家族の本なんだ。」


シュードさんは、一条と女性の別れを、自分の事のように悲しそうに話す。

この人は、一条博士のことが人として好きなんだろうと思う。

話に聞く一条博士は、無機質で科学者然とした、普通の人とは違う認識がある。

けれど、この話を聞いてしまうと、ただ無機質だとは思えない。

「自他共に痛い妄想の産物だって認識だろうが…自分はあの本が好きでね。他のどんな実験より、あの本を作るのは楽しかった。」

書斎の資料を思い出す。

子どもという文字が、よく出てきていた。

もしも、想い人と結ばれ、家庭を築いていたら。

そういう夢が、一条博士にもあったんだ。


何とも言えない気持ちになる。

私は思わず、シュードさんの肩に手を乗せ、もっと詳しい話を聞こうとする。

肩に手を触れたとき、何かに繋がった感覚があった。




「こんばんは、鍵開けの魔術師さん」

「こんばんは」


それは、どこからやってくるのだろうか。


例えば晴れた空に降る雪のような。

寒い朝の窓辺に、懸命に咲く花を見るような。


「あなたを待っていました。」


天使のような小さな兄妹が、私の目の前に現れる。

時が止まったみたいだ。

奥底の方で、シュードさんの心配する声を聞いた気がした。


けれどその声を知っていた私は、恐れることなく意識を手放した。









































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