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鍵開けのベアトリス  作者: 瑞野
13/16

~金の腕~Case:13




第7研究所を落とす、というのは、何も敵の親玉討伐を目指すわけではない。

呪術書を読み上げを担う術者達を、妨害する計画だ。

高確率でそのために戦うことになるだろうけれど。


大掛かりな術式は、合唱のように複数の呪文を唱える必要があるらしい。

ソプラノやアルト、バスのようなハモリを正確に行うことで1つの呪文となる。

そうして何層にも術式を展開していくことで、実態のあるものを生み出していく。

積み重ねることで目的の形になる故に、短期間での完全な解読は困難だという。

けれどもそれは、神使いの実現(金の男)を全て成すための話だ。

人を滅ぼすだけなら、金の男である必要はない。

金の腕も、金の足も、大災害になり得る。


「ここが第7研究所だけど…研究所内は大分拡張されているね。立派な魔術工房だ。」


工場のような、奥行きの広さ。

たくさんの長机と席がある。

ここで大勢の人が作業をしていたんだろうか。

研究所とは、思えないほどだ。


「あの、第7研究所も、非人道的な実験をしていたんですよね…?」


あまり聞きたくはないけれど、これほど多くの人が入る場所が、やけに静かだ。

どうしたって、悪い風に予想してしまう。

嫌な予感がしてしまう。


「…そうだね。第11についても調べたけど、彼らが誘拐等の活動をしているのは、どうやら第7からの援助(お金)目当てらしい。」


それなら、第7の目的は…。

誘拐された人々は、ここで働かされていたのだろうか。

実験の道具にされていないことを祈るけれど、ここはやけに血の跡がある。


「第11の奴らはペテン師の集まりだけど、第7は真のサイコ集団、とでも言うべきかな。それにしても…気配がなさすぎる…。」


どこかに移動しているんだろうか。

誰にも遭遇しない上に、物音1つしない。


「もう逃げたんですか?」


翡翠くんは、首を振る。


「それは無いよ。魔術工房っていうのは、魔術師にとって最も力を発揮できる場所だからね。早く人を滅ぼしたいなら、ここでやっているさ。」


どこかに、入口があるのだろうか。

調べて回る。

魔術師でもないし、物理的に探すしかない。

翡翠くんは使い魔をいくつか放ち、探させている。


「ふむ、逃げた痕跡もない。でも居場所はわかった。」


翡翠くんは、第7を一緒に捜索していた伯場家お抱えらしい魔術師に、指示を出す。

それに答えて、彼らの中の一人が、砂時計のようなものをひっくり返す。

直後、現実がぐにゃりと歪む。

地面は突然消えて、私は浮かぶ。

正直なところ、突然のことに吐き気がする。

「なんですか!?う、浮いてる!」

しかし、私はあっさりと、地面から地面に落っこちた。



世界がひっくり返ったかのようだ。

「これは反転だね。()()が逆なんだ。現実を逆に塗り替える結界魔法の一種だ。」

一条博士の上空の書斎を思い出す。

あれはどうして、反転にしなかったのだろう。

「あの、反転と、縁で別の場所と紐付けるのはどう違うんですか?」

翡翠くんは、説明のために少し考える仕草をする。

「反転はあくまで反転だから、広さや配置だけはそれほど変えられない。その分手練でも気づくのが難しい。今回も工房でなければ気づけなかったかな。」

対する縁による結びつけは、場所も広さも何もかもが自由、ということらしい。

「あとは…縁を辿る魔法は少ないけれど、反転結界は気づきさえすれば破れる魔術師も多い、とかかな。違いは。」


反転した空間は、先程の空間のあとに見ると、あまりにも違和感がある。

天井に机がついている。

床に照明。

沢山のインテリアは、基本的に天井から生えている。


「なんだか、気持ちが悪いですね…」


翡翠くんは、僅かに苦笑いする。


「魔術工房っていうのは、大体が本人以外にとって害にしかならない。避けたがるのは、当然の本能だからね。…と、早速お出ましかな。」


突然、音がする。

何を発声しているかはわからないけれど、まさしく合唱のような音。


この先に、術者が居る。


私達は目を合わせて頷いたあと、音の先へ駆け出す。

角の先には、大きな聖堂が広がっていた。

この不自然な構造も、魔術工房にはよくあるんだろうか。


「san sum som…」

「gate get god…」


羅列に意味は無い。

何層も合わさることで意味となる。


「翡翠くん…!どうしたら…え!?」

翡翠くんは、使い魔に大きな龍を喚ぶ。


そして何を言うまでもなく、使い魔に指示を出す。


龍はやがて、大砲のような光の束を練り始める。

そして全てを焼くように、熱量を放つ。


な……!


あまりの眩しさに、目がチカチカする。

魔法によるものだから、眩しさ自体には害はないらしい。


目が眩みながらも、放たれた先を見る。

多くの術者が伸びている。

敵ながら命までは取られていないようで、良かった。

コントロールしているのだろう。


喰らわなかった術者は狂ったように読みつづけているけれど、手に持っていた紙は全員分焼かれたことで、先ほどと同じフレーズだけを繰り返している。

この人達、何か変だ。

まるで壊れたCDだ。


とにかく、作戦は成功した。

翡翠くんも強い。

これほどあっさり術者を無効化するなんて。


煙の中から、パチパチと音がする。

誰かの拍手だ。

音の先には、一人の男が立っていた。



「いやあ、素晴らしい。ドラゴンなんて初めて見ましたよ!」


大人しそうな男だ。

不思議なローブを着ている。


「誰…?」


他の同じフレーズを続けている人々とは、明らかに違う。


「なに、私はただのピアニストですよ。」


男はにこにこ、と笑いかけている。

その笑顔に歪みはない。

だというのに、非常に()()()がある。



「…もう一度聞くわ。あなたは何者、なの……?」


本能が言う。

こいつは只者ではない。


1拍を置いて、男は微笑む。

先ほどとは違う、下卑た笑みを。


「そんなことはいい。楽しもうじゃないか。僕の名はアモン!君の能力は、僕と似ているらしい。」


アモンと名乗る男は、翡翠くんを指差す。

翡翠くんと似た魔法…?


男はくつくつと笑う。

手に持っていたスマートフォンで、何かを映し出す。

それを指で弾くと、ピアノの音が鳴る。


それに合わせて、倒れていた術者達が、全員起き上がる。


「同じ()()()()()()()だ」





◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



街を闊歩するのは、異形の生命だ。

金色の両腕と、片足と。

戦い始めてから、3時間以上が経過している。



「あら、限界だわ。足止めはここらが限界。むしろ小娘、よく3時間も持ったわね。」


長いツインテールと丸いカールの女は、あっさりと元の髪に戻る。

かつてディアリアと呼ばれた女王は、必要な魔力量が桁違いだ。


「俺様ちゃんはまだ行けるけど…こいつ、何も効かないからなあ」


炎帝もまた、困ったように頭を掻く。

3時間で手足と腕を生やした魔法陣は、先ほど掻き消えた。

何者かの協力によるものだとは思うが、生まれてしまったこれを消す方法は、見えてこない。

ただでさえ左腕だけでも厄介だというのに、足が生えるごとに強くなっていた。

ディアリアの絶対王声(絶対命令権)が無ければ、とっくにここは焦土となっていただろう。

けれども、それももう期待はできない。

間近で見て理解したが、この金の男は体の部位それぞれが破壊兵器となっている。

足は地下を焼き、腕は地上を焼き、頭は天を焼く。

そういう機構のものだ。

これほどの規模は珍しいが、それでも創世神話(俺たちの時代)の兵器に、そういう機構のものを見たことがある。

通常は、あえて知能をもたせる。

何故なら敵味方も対象問わず襲うことになっては、兵器としては使えないからだ。


「ま、ここらが限界かな」


炎帝は、地上を眺める。

この星の寿命が来た、と。


『ふざけるな、諦める気か』


宿主がそう呼びかける。


「そうは言ってもな、若造。知能が無いアレは、これから地下と地上を焼き尽くすぜ。ああいう滅法強いもんは、使う側のが弱いって弱点はあるが……そもそもな。()()()()()()()()()()()()()


黒江暁の魔法では、この地上にある万物への干渉ができる。

炎帝の真意も、直にわかる。


"彼らも脳を持たせる予定だったが、脳役が死んで失敗したのではないか"


そう言っているのだ。

そしてそれは、おそらく当たっている。

明らかに、糸を引いている敵の姿が見えてこない。


けれど、地上を焼くとわかっている以上、桜の自己強化魔法による防御等、何か無いのか。


「忠告するぜ、小僧。お嬢ちゃんに盾をやらせるのはやめな。…お嬢ちゃんの命を失いたくないならな。」



この宇宙にない物質に作用できる魔法は、そう多くないらしい。

一体、どうしたらいいのか。


知能のない生命は、待ってくれはしない。

ひっくり返っていた()()は、徐に起き上がる。

もう女王の拘束はない。

桜も自分も、魔力はほとんど底をつきていた。




























































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