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鍵開けのベアトリス  作者: 瑞野
12/16

~金の腕~Case:12




空が黒く染められたことで、地上もまた、日の当たらない地となった。


「今すぐ学園に移動したまえ!!」


黒江さんと連絡を取ったらしい学園長が、ワープゲートで姿を表した。

いつの間にか合流していた十六夜くんが、光魔法で明かりを作っている。

12区はどうなっているのだろうか。

もうここと、変わらないのだろうか。



弓咲学園では、ざわざわとした声が辺りを埋め尽くしていた。

12区の人々の動揺、特に新校舎からの不安の声が、旧校舎にまで届いている。

終末を前にした、漠然とした不安。


対して旧校舎の別教室では、静かに生徒が集まっていた。

円形の机を囲ういくつかの席。

机の上には、資料が並べられていた。

呆然と空を見上げる人々の写真。

あるいは、黒く塗りつぶされた空の写真。

会長と副会長が座ると、席は埋まる。

私は理事長と席を増やして、そこに混ざる。


「時間が無い。オペレーターと実働部隊に分ける。」


テキパキと会長が支持を出す。

静かに見守っていた理事長も、頷く。


会長と副会長と篝くんと白銀くんが、現地に向かうという。

そして残りは、オペレーターなりサポート。

特に理事長と十六夜くんは、現地に固定で行かないものの、ワープを使って行ったり来たりするらしい。

こうなってしまった今、私は特に何もできない。

見守るだけの立ち位置となってしまう。


そんな私を気にしてか、解散後に桜ちゃんがそばに来てくれた。

「ベアトちゃん、あとは私達にお任せくださいな。弓咲には女神様もいらっしゃいますし、私達は時間を稼ぐだけ。決してやけになってはいけませんわ。」

桜ちゃんには珍しく、少し厳しく言いつけていく。

ーー怖く、無いんだろうか。…いや、きっと怖いだろう。


それなのに私を気遣っている。

「私にも、何かできないのかな…」

情けない声が出た。


桜ちゃんは笑ったあと、思いついたように言う。

「でしたら伯場家に向かっていただけませんか。あちらも調査を進めていたはずですが、今は情報を合わせる時間がありませんの。」



理事長のワープゲートで、久々の武家屋敷に踏み込む。

いきなり部屋に入るのはどうかと思うのだけれど、外は多くの人が空を見ていて、誰かに見られてはまずい。

何せ、11区とは違い、他の区は電灯が多くあり、完全な暗闇ではない。


「あの、ベアトリスです…」

翡翠と名乗った少年は、驚きながらすぐに奥へ招く。

「丁度いい。些細でいいから情報が欲しい!何が、起こった!?」

私は知っている情報を、なるべく多く話した。

金の男や、一条博士の目的。

消えた11区の人々。




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「そうか…Sクラス生が……」

いつもは穏やかな雰囲気を纏っている翡翠くんも、深刻に考え込んでいる。

「その、皆はどうなるんでしょうか…」

彼は少し俯いたあと、静かに答える。

「このままでは、彼らはもちろん…他の人々もただでは済まないね。悪い予想が現実になるさ。」


あれだけの魔術師達であっても、太刀打ちできないなんて…。


「とにかく、落ち込んでいる時間はない。魔術師としての仕事は彼らに任せるしかない。いくら金の男が恐ろしかろうが、少なくとも彼らのほうが対処に向いている。」

襖が開かれる。

奥の部屋には、既に多くの人々が忙しなく対策を練っていた。

長机には沢山の資料。

ホワイトボードには顔写真とそれを繋げた組織図。

浮かび上がっているのは、第7研究所だ。

「今は時間が惜しい。混乱に乗じて、敵陣(第7研究所)を落とすよ。」







◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「ただの暗闇なら、祓えねえのか?」


白銀龍は、茶化しながら時を待つ。

それぞれ遠隔地にいるものの、黒江の魔法で実働部隊チームは会話できる。

空自体なら、万物干渉を持つ黒江や、陰陽師であるキーノなら、どうにかできそうだ。

もちろん、明るくするならば十六夜の魔法も有効だろう。


「貴乃下なら祓える。けど、意味が無い。」


それが何を指しているのかは、誰も聞かない。

何故なら既に情報共有は済んでいるからだ。


空は、やがて変質する。

黒い空は、帳に過ぎない。

終わりではなく、始まりなのだ。

黒い空は、壊れて弾けるが如く、()に変わる。


『一条博士は、金を神秘を喚ぶ土壌と考えている』


まるでガラスが吹き飛ぶように。

黒は消え、金が差す。

全てが金に変わるとき、大きな魔法陣が、地を焼くように現れる。


「一般人の意識は飛ばした見てえだな。」


呆然と立っていた人々は、時が止まったように虚ろな目で停止している。

これほど異常な光景は、何度見てもなれない。


「さあ、派手にかましてやろうぜ!」


魔法陣のそばには、沢山のローブの人々がいる。

黒江や桜の話では、今回の騒動は第7辺りの研究者崩れが起こしたという。

彼らもまた、その仲間だろう。

仲間に裏切られたのか、喜んで命を差し出したのかはわからない。


魔法陣は、およそ()()()()()()()()()でできている。

黒江の万物干渉すら寄せ付けない、この世界に存在しない概念。

それを操れるのは、この星の外にでも行かなければ、見つからないかもしれない。

神様でもなければ、どうにもならない外敵。

俺死ぬかも、なんて弱音を吐くには、時間が足りなかった。


早速魔法陣から、()()が目覚めたのだから。






「黒様、アレはどれくらい発現しますの?」


弓咲を一望できる高台から、いまこの世に生まれ落ちる化物を監視する。

金の男全ての読み取りは、誰にもできない。

第7がどの程度まで至ったのかが、鍵となる。



「両腕両足を解読したみたいだね。…発現にはそれぞれ1時間ってところかな。」



魔法陣が一際輝く。

生み出されたのは、金の左腕だ。


「4時間ですか、それは厄介ですわね。」


首のチョーカーを乱雑に外す。

短いツインテールが、途端に長く変わる。

これは私の髪の長さではない。

憑依する彼女の長さだ。


「あら?早速私達の出番かしらぁ。ご機嫌よう、炎帝サマ」


宮川桜が出したこともないような表情と声。

服も何もかもが変わる。

その姿を一目見れば、多くの人は畏れる。


鏡合わせに立っていた黒江暁もまた、大きく姿を変える。

燃えるような赤髪に。

あるいは話し方を。


「ディアリアじゃねえか!いつ見てもいい女だなあ。手を出したら何もかも毟りとられちまうけどな!」


憑依魔法は、本来の肉体の持ち主を意識を、下に追いやる。

けれどそれは、消すわけではない。


「全く現代っ子ってやつは、皇帝使いが荒いねえ」


体全てを覆い尽くす火に、辺りも燃える。

簡単に投げたそれらの業炎に、金の腕はピクリともしない。


「あらやだ、貴方は下がってた方がよくてよ?」


女は扇を振るうだけの魅了のような魔法で、金の腕を少しばかり押しとどめる。

女王ディアリアには、この土地自体にアドバンテージがある。


「けど駄目ね…この地への絶対命令権も、わけのわからないテスクチャを塗られては半減もいいところだわ。」


弓咲の女王ディアリアと業炎の皇帝ウィル。

生きる時代は違えど、どちらも遜色ない神話の王だ。


「雑魚処理担当とは…全く情けなくて俺様ちゃん泣いちゃうぜ」

ウィルは炎が効かない以上、この世にはない物質を燃やすことで、サポートに回る。

それによりディアリアの拘束時間が、少しは伸びていく。

しかし、4時間。

あるいはそれ以上。

神話級であっても、所詮は憑依しているに過ぎない以上、術者の魔力枯渇という問題もある。


単純な話だ。

これは命懸けの時間稼ぎ。

打開策は、振り下ろされる腕を止めることではない。

神に祈るか、糸を引いている人間を討つか。

何にせよ彼らの役割ではない次元の話だ。


憑依体の2人は、宿主たちに静かに同情を浮かべる。

自ら肉壁を買って出るとは、難儀な生き物だ、と。






◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「はっ!はっはっはっ!あはははは。やった、ついにやったんだ!」


用意していた監視カメラから街を一望しながら、太った男が叫ぶ。

用心棒の2人は、不思議そうにその姿を見ている。


「オンメェ、何かあったんだずかァ?」


片方は、やたらとなまった声で尋ねる。

けれども、気性の荒い主は、それを殴ってとめる。

殴られた大柄な男は、体を1つも揺らさず、声すら上げず、ただ主を覗き込む。


「キヒッキヒッ」


細い男は、何が面白いのかその様を嗤っている。


「くそっ…!木偶の癖に図体だけでかい!クソ!クソ!クソ!」


太った男がぶつぶつと呟く。

神経質でプライドが高く、いつも怒っている。


「とにかくお前らは用済みだ!さっさと帰れ!」


けれど。そのわずか一瞬で自体は急変する。

用心棒の2人組は、人が変わったかのように男の方を向く。

大柄な男は、地面においた自分の鉄塊のような獲物を掴む。

細い男は、自らの雇い主を羽交い締めにする。


「な、なんだ!?何のつもりだ!な、なにをする!こんなことをしていいと思っているのか!おい、お」


断末魔は、大きすぎるピアノの音でかき消される。

いつから鳴っていたのか。

それは誰にもわからない。

けれど鍵盤を弾く男だけは、恍惚としている。


「ついにやりました、我が主よ。また1つ世界が綺麗になりました、あゝ、わたしの唯一神よ…」






























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