~金の腕~Case:11
理事長とロートルさんに部屋を任せ、他のSクラスで向かうこととなった。
理事長は11区までのワープのゲートを作って、状況が分かり次第連絡するように、と真面目に送り出した。
けれども、辿り着く頃には、それは終わっていた。
「人が居ない…。」
民家の人影もなく、声をあげてみても誰も現れない。
試しに鍵開けをしてみても、室内にも誰一人として見つからない。
黒江さんと桜ちゃんが、少し離れたところで会話している。
けれど様子を見るに、近くにも気配がないということだろう。
「社が危ない。ごめん、先に行くね」
猫の姿の篝くんが、駆け出す。
遠目に見える、大きな神社。
社神社、と書かれている。
「篝!」
貴乃下さんが大きな声で止める。
しかし、既に篝くんの姿は見えない。
「ここは何かが変だ。土地のざわつきが1つもない。霊的な気配が無さすぎる。」
言葉ともに、貴乃下さんも陰陽師としての姿に変化する。
警戒しているのだろう。
木々のざわめきもない、耳鳴りがしそうなほど静かな町。
ようやく社神社の石の鳥居の前に来ても、不穏さが拭えない。
「他のクロキアの眷属の方達が…、いらっしゃらないのですか?」
桜ちゃんが、驚いた表情で固まる。
ーー消えた?
「いない。どこにもいないよ。」
篝くんが、俯きながら痛々しい声で告げる。
一体、どういうことなのか。
彼の様子を見て、その場の誰もが気づいてしまった。
「ここに住んでいた眷属たちも、生贄にされた。おしまいだ。金の男は、もう不完全な形では、いつ起動してもおかしくない。」
ぽつり。
ぽつり。
ぽつりぽつり。
雨が降り始める。
いつの間にかザーザーと大きな音になっていく。
誰も声をかけることができず、沈黙が雨の音を強調する。
やがて、暗い空から白い布切れが降ってくる。
まるで雪のように、空からたくさん降ってくる。
ローブの切れ端か何かだ。
それぞれが思い当たるものかどうか、見る。
やがて、桜ちゃんが声を上げる。
「これは、条グループの傘下団体のマークですわ…!」
もしかして、7区を占領している方だろうか。
それとも、邪教の方だろうか。
「全員伏せろ!!」
黒江さんの焦った声が響く。
直後、グオオオオ…と上から嫌な音が鳴り始める。
咄嗟に反応できなかった私と篝くんは、黒江さんが魔法で地面に伏せさせる。
何が起きているのか。
尋ねようとして、音の方を見た直後、私は言葉を失った。
空が、闇に侵されていく。
上には黒しかない。
街を黒く塗りつぶしたような、異様な光景。
始まってしまった。
金の男が、不完全ながら目を覚ましてしまったのだ。