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第94話 魔技研編 『奇蹟が駄目なら物理法則で攻めろ』

「シルヴィア様、どれが良いですか?」


 ある日授業の冒頭で、シルヴィアはガラスケースに飾られた幾つかの衣装を見せられた。キラキラな装飾過多なドレスやフリルの多いガーリースタイルの行きすぎたデザイン。果てはメルヘンチックな動物の可愛さが余すことなく表現された乙女の変身法衣。

 それを見せられたシルヴィアは嫌悪を隠そうとせず率直な感想を口にした。


「何ですか。この趣味の悪い衣装は? これを着ろとか言いませんわよね。正気を疑いますわ」


 (しん)(らつ)なシルヴィアの物言い。これには聞いていた魔法少女の生徒たちが目に見えて落ち込んでいる。

 なぜなら、シルヴィアに披露した衣装は魔法少女の変身後の衣装。魔装法衣なのである。彼女らは改めて思い知るのだ。自分たちはそんな趣味の悪い法衣を着て戦っているのかと。カズハに至っては切腹用の小刀を手に取りかけたので隣のソルが泡を食って制止している。

 魔装法衣に関して並々ならぬこだわりがあるフレアはシルヴィアと視線を交わして冷戦も辞さない覚悟で言い返す。


「あはは、面白い冗談ですね。これは魔法少女の着る魔装法衣。この可愛らしさと素晴らしさが分からないとは嘆かわしいことです」

「それこそご冗談を。魔法少女の法衣ということは戦装束。なぜこれほど無駄の多い装飾が必要なのか教えて下さいまし。戦闘に邪魔なヒダの多いスカートとか戦闘を舐めていますの?」


 聞けば胸が痛む言葉ではあるが実に的を射た指摘だと生徒たちは思った。かなうのならそのままフレアを説得して大人しいデザインを。

 そんな期待に満ちた視線がシルヴィアに集まる。

 その流れに異を(とな)えるのがフレアの同志、ティアナクランである。


「それは違いますよ、シルヴィア様。魔法少女とは絶望に塞ぎ込む人々の希望の象徴。その魔法少女の衣装であるからこそ戦いとは隔絶した装いでなくてはなりません。戦場に光さす希望、戦いを忘れさせてくれる華やかさ。魔法少女の可愛さに無駄などありませんわ」


 ティアナクランが持論を展開すると、それはそれでなるほどそういう意図があったのか、とだまされる純真な生徒もちらほら。

 ただティアナクランは可愛いものに目がない。排斥する動きを(けん)(せい)するために思いついた()()(くつ)に過ぎない。であるのだがよくもまあすらすらと思いつくもだ。


「せっかくシルヴィア様も魔法少女科に編入されたのです。魔装宝玉をお譲りしようと思ったのですが」

「お気遣い結構ですわ。竜人の姫にはまだまだ隠された秘技がございますわ。魔法少女が共和国にいないのもその変身秘技があるためですのよ」

「えっ」


 フレアはまるで瞬間移動でもしたかのようにシルヴィアに近寄った。その動きは初動が読めず素早いために完全に見切れた者はいない。


(何? 今の動き、まるで見えませんでしたわ)


 フレアは魔法少女のことになると冷静さを欠く。代わりに戦闘力はバカみたいに跳ね上がる。それはまるで達人のような動きを可能とした。

 そしてあっさりと間合いに入り込まれたシルヴィアは内心ヒヤリとしたがフレアは構うことなく詰め寄っていく。


「今、変身秘技があると言いましたか!? しかも竜人の姫限定。それはつまり変身少女ではありませんか。いえ魔法少女でないはずがありません。私の知らない共和国だけの魔法少女がいるのですね」

「……近いです。あなた目の色が変わってますわよ」


 あまりの気迫にドン引いているシルヴィアだが構わずフレアが質問を続ける。その熱量は凄まじく止まる気配がない。目はとろんと蕩けたようであり新たな魔法少女の可能性にトランスしかかっている。

 

「しょ、しょんなことより共和国製の魔法少女はどんな感じですか。何人いるのですか。まさか、エクリス王女も?」

「え、ええ、変身できるはずですわよ。例外としてレジーナさんも」

「な、なんということでしょう。それを言ってくれたなら(こく)(ひん)待遇以上でおもてなし致しましたのに、ああーーなんてこと」


 シルヴィアは(ひょう)(へん)したように叫ぶフレアを見てティアナクランに聞いた。


「フローレア様はどうなさったのでしょうか。かなり様子がおかしいのですか?」


 これにはティアナクランが額に手を当てて呆れつつも教える。


「フローレアは魔法少女が大好きなのです。それも熱狂的なレベルで」

「でしょうね。かなり興奮しているように見えますわ」


 フレアがそれはもう潤んだ瞳でシルヴィアに頼み込む。

 

「シルヴィア様、その変身を見せて頂けませんか。新作のチーズバーガーとフライドポテトをご()(そう)しますから」

「マジでっ!?」


 チーズバーガー?

 王女に相応しくないようなジャンクフードを耳にして周囲の生徒たちは首をひねる。まずいと思ったシルヴィアは上品に笑ってごまかしつつ返事した。

 

「おほほほ、嫌ですわフローレア様ったら。冗談がお好きですのね。私がそのようなものを口にするとでも?」


 そうだよねーー。

 生徒たちが笑って納得してくれているのに胸をなで下ろし、シルヴィアは改めてフレアに言い聞かせる。


「秘技と言いましたでしょう。他人に軽々しく見せるものではありませんの」

「水くさいじゃないですか。他人じゃなくて私たち友達ですよね」

「友達にも見せる気がありませんわ。そうですね。伴侶になってくださる方、マコト様がいるのでしたら考えますが」

「えっ!?」


 シルヴィアはマコトの名を出すと実に乙女な表情を作って大人しくなる。このときばかりはシルヴィアは演技ではなく素で可憐な恋する少女の顔をみせる。

 だがフレアは答えに(きゅう)した。まさか自分がマコトの正体だと知られるわけにはいかない。ホロウがマコトを狙っているというし、その理由も目的も定かでない。秘密は最小限の人物にとどめるべきなのだ。

 だが共和国の変身も見たい。その誘惑にフレアは心底悩む。

 そこにシルヴィアから爆弾発言が投下された。


「マコト様はフレア様のお兄様なのですわよね。会わせてくれるのでしたら考えてあげますわよ」


 その発言はGクラスの生徒たちにも衝撃となって広まっていく。魔法少女を度々助けてくれたなぞの少年は彼女たちも気になっていたことだ。最近になってマコトという名前だけは浸透してきたが知っているのはそれだけだ。

 そして、明らかになった意外な正体に生徒たちは口を揃えて叫ぶ。


「「「ええ~~~~、お兄様っ!?」」」


 特に、ティアナクランとアリアは誰よりも早くフレアに詰め寄り問いただす。


「フローレア、それはどういうことですか。詳しく話しなさい」

「そうですわ。その彼はいまどこにいますの」


 困惑したようなティアナクランとものすごい食いつきで問いただしてくるアリア。特にアリアは人一倍必死さを見せる。フレアの肩を掴んでは何度も揺らし居場所を聞き出そうとした。


「はわわ、なぜか大騒ぎに」


 鈍感なフレアは魔法少女たちの間でマコトの人気が上がり意識されていることに全く気がついていない。だからマコトの存在がなぜここまで騒がれるのか理解できず戸惑うばかりであった。

 その中で一人だけ教官補佐のリリアーヌが首をひねった。


「マコトって誰?」


 そういえばリリアーヌはマコトと面識がない。見事なまでにこの教室で蚊帳の外にあった。

 フレアはこの後マコトと会えない言い訳とはぐらかすことに時間を割くことになる。




 屋外魔法演習場の魔法演習授業にて。

 以前話題に出た絶対魔法障壁。その対策を教える授業へついにフレアは踏み込んだ。かつてベルカではたった1体のホロウ相手にGクラスの魔法少女の大半が戦闘継続不能に追い込まれている。

 その危機感から生徒たちの表情も険しく、いつにも増して真剣である。


「本授業内容はホロウの上級精霊がもつ遠距離魔法無力化能力についてです。アンダインさんら上級精霊さんたちの協力をえて理論が固まりましたのでまずはどういった能力なのか解説します」


 赤い下縁フレームの伊達眼鏡をかけ、後ろ髪をまとめたフレアが知的な女性を演出していた。

 くいっと眼鏡をあげる仕草をしては生徒たちを見回す。せっかく気合いが入っているところにフレアのこのイメージチェンジは不評のようで沈黙が痛々しい。

 息苦しい空気の中で話が進まないとアリアが悩ましげに眉間に手を当て聞いてみる。


「……フローレア教官。その眼鏡は何ですの?」

「ようやく気付いてくれましたか。せっかくイメチェンしたのに誰も気づいてくれなくて……」

「皆気づいてますわよ」

「じゃあ何で誰も突っ込んでくれないんですか。もしかして学級崩壊ですか?」

「飛躍しすぎですわよ!!」

「じゃあ放置プレイ?」

「するかっ!!」

(なかなかキレのあるツッコミをするわね。――できるわ)


 フレアとアリアのやりとりに緊張で張り詰めていた空気が弛緩し始める。その一方でシルヴィアはアリアのツッコミに感心し、どうでも良いことを考えていた。


「一体何を考えていますの?」

「いえ、シルヴィアさんの衣装に関する意見のことです。反発もしましたが一考の余地もあると思い授業にして見合った装いをしてみたのです。これで皆さんのやる気も一層引き締まるかと期待したのですが」

「一応まともな動機があったことにわたくし驚いていますわ」


 ここでカズハとセリーヌははっとすると視線を交わしあう。フレアが可愛さよりも機能的なデザインを一考したという信じれない事態を理解したのだ。内心尻餅をつきそうな驚きとともに、喜びと期待に舞い上がりそうな気持ちを抑えてカズハは言った。


「教官殿、それはつまり魔装法衣をシンプルなものに変更してもらえるということでしょうか?」

「それを確かめる意味での真面目なイメチェンでしたが不評のようです。今後変更はありません」

「な、なんていうことだ……」


 天国から一転地獄。

 千載一遇のチャンスをふいにしたことを悟った生徒たちが後悔に崩れ落ちることになる。フレアのイメチェンを褒めちぎっていれば未来は変わっていたかもしれない。そう思うとやりきれない思いにカズハは泣きそうだった。

 そんな生徒たちの思わくを知らないフレアは無情にも話を切り替える。

 

「脱線しましたが授業に戻ります」


 フレアは手をたたき切り替えるとルージュが用意したホワイトボードに書き込んでいく。


「かの魔法無効化現象は今後『絶対魔法障壁』と呼称します。この能力は簡単にいってしまうと奇蹟の帳消しです」

「奇蹟の帳消し?」


 ティアナクランの疑問にフレアは頷く。


「上位精霊の体の周囲には強力な奇蹟の不可侵領域が存在するのです。私はこれを『聖域』と呼びます。聖域は常時発動型であり、死角はありません」

「常時発動型……、厄介ですね。不意を突いてどうにかなるわけではないのですね」


 付け入る隙が無いように思えたティアナクランの落胆は深い。

 そこでユーナが矛盾点に気がつき疑問を口にする。


「待って、だとしたら近接攻撃の補助効果や魔装法衣すらうち消されるということかしら? でもそれは変だわ。奇蹟の帳消しにも条件があるということじゃないかしら」


 ユーナの記憶の限りでは、ホロウの上級精霊との戦いで身体強化の無効現象は確認できていない。

 これは突破口になり得ないか。

 ユーナの鋭い指摘にフレアは満足げだ。


「さすがユーナさん、良い質問ですね。身体強化等の補助魔法や魔装法衣がこれにうち消されることはありません。理由は二つあります。一つは聖域の範囲が他者の体の内部や装備まで浸食することがないからです」


 フレアは上級精霊と人の図を張り出すと精霊の周囲を囲む聖域範囲を描き、同じように人にも描く。正し、人の範囲はその体と服や手に持つ武器の周りに薄くなぞっていくだけで狭い。


「このように人にも微弱ではりますが聖域のようなものは存在します。ただ、奇蹟を無効化するものではなく幾分魔法をレジストするというものです。私はこれを聖域ではなく『魔法防御力』と呼びます」

「なるほど、魔法防御力があるから人は直接聖域の干渉を受けないのね。そして体の内部に生じる身体強化魔法は阻害されないと」

「その通りです」

 

 聞いていた多くの生徒に納得の声が上がる。

 シルヴィアもフレアの教える魔法学が共和国でも知らなかった新発見も多く興味を引いた。本国にもたらすべき有益な情報と認め真剣に聞き入っている。共和国でも上級精霊のホロウの魔法無効化には手を焼いているのだ。


「もう一つの理由は奇蹟から物理法則への変換です。魔法で生み出した純粋な奇蹟の力は無効化されます。ですが奇蹟によって生み出された間接的な作用は無効化できないことが分かったのです」

「ん? フローレア教官。それはどういうことですの」


 アリアの疑問にフレアは手を打つとルージュが演習場の遠くにマネキン型の的を用意した。


「あれは絶対魔法障壁の力を込めた的ですがアリアさん、前に来て岩の魔法球を作って打ち込んで下さい」

「分かりましたわ」


 アリアは魔法の小さいステッキを取り出すと軽く詠唱する。


「ストーンショット」


 バスケットボール大の玉が魔法で形成されると勢いよく飛びだしていく。そして、的に当たる直前に魔法は消滅した。的には傷一つつけることはかなわない。


「ではルージュさん、”同じような魔法”であれを破壊してもらえますか」


 これにはフッと意地の悪い笑みを浮かべてルージュが頷く。


「了解よ」


 アリアと同じ位置に来てルージュは地面に手を添えると大地から硬い岩が飛びだし浮き上がる。その岩を風の魔法の反発力で弾きとばした。

 するとルージュの魔法を無効化することなく魔法が的を撃ち抜いてしまう。


「「「えっ!?」」」


 生徒たちから『なんでっ?』と言いたげな顔で(きょう)(がく)の声が聞こえる。大半の生徒は同じ『ストーンショット』の魔法と見えたことだろう。だがルージュの魔法は複雑な工程を経た末の魔法である。そのことに気がついたのは一握りの生徒だ。


「フローレア教官、これはどういうことですの?」


 アリアは意味が分からずフレアに詰め寄った。


「言っておきますが似たような魔法というだけであってルージュさんの魔法は別物ですからね」


 フレアは周囲を見渡し、理解しているであろうレイスティアに説明をお願いする。


「ティアちゃんはルージュさんの魔法を説明できますか?」

「はい。恐らくですが岩は地面にある素材をそのまま魔法で圧縮して固めたものでしょう。岩を撃ちだしたときも爆発の反発力を用いて銃のような方法で撃ちだしたとみます。岩は本物。撃ち出す力は作用済み、つまり物理エネルギーに変わっているわけですね。絶対魔法障壁に接触するときにはうち消すべき魔法の奇蹟はないのです。それゆえに攻撃がとおった。そういうことです」

「素晴らしいですね。アリアさんのときは岩も魔法でできていて飛ばす間も魔法の奇蹟で飛ばし続けていました。確かに魔法で運べば狙いも楽で正確ですがそれでは絶対魔法障壁に無効化されるのです」


 そこでパティが質問する。


「でも、フレアちゃん。ルージュちゃんが今やったことって誰にでもできることじゃないよ。得意な属性も人によって違うし。それに水がない場所とか、火がない場所だとどうすれば良いの」


 パティの疑問には多くの生徒が不安そうにしている。この質問にフレアが首をかしげた。皆さんの抱く不安はどういうことなのかと。

 ここでルージュがフレアに助言する。


「フレアさん、みんな知らないのよ。水は大気中にあるし、火はそもそも現象であって元素じゃないのよね」

「ああ~~、そういうことですか」


 何やら2人で納得しているようだがシルヴィアが白い目で話しかける。


「あなたたちは何をおしゃっているのかしら。大気に水がある? ばかなことを」

「じゃあ、これはどう説明するの?」


 ルージュは持ち出したグラスの水を熱によって一気に煮沸させ、みるみる水蒸気となると次第に水は消えていった。


「さて、水はどこに消えたのかしら」

「そ、それは……」

「水は熱によって水蒸気となり気化して水は大気中に存在するのよ。ならば大気中から水を取り出すことも可能とは思えないかしら」

「なっ、まさかそんなことが」


 困惑しているのはシルヴィアだけではない。生徒たちもルージュの話に半信半疑でありつつもまさかと衝撃をうけていた。

 フレアはにっこりと微笑むと言った。


「結論を言います。絶対魔法障壁は破れます。正し、魔法の奇蹟だけでは不可能です。――魔法によって引き起こす物理法則で対抗できるのです」


 それから、フレアは一等不穏な笑顔をつくり生徒たちに恐怖を与えると、地獄の授業の始まりを告げる。


「これから皆さんには楽しい楽しい科学と物理学、この世の真理をたくさんお勉強してもらいますね♪」


 生徒たちは科学や物理学、聞き慣れない言葉に疑問を浮かべる。しかし、全員が共通して確信したことがある。

 その授業は絶対に楽しくないだろうと。

 それは間違っていない。なぜなら、現代日本社会では小学生高学年レベルの授業内容でもこの世界では最高峰のレベルとなり得る。それだけ文明に差がありすぎるのだ。それなのにフレアは現代で高校や大学で習う内容を教えようとしている。それがどれほどの困難を極めるかは想像に難くなかった。



 


 ファーブル翼竜共和国南方領土サウスゲートに存在する空中大都市アルゴス。

 ホロウの拠点となっている城の執務室でマーガレットは政務をこなすと最後に報告書に目を通した。そして、切れ長の目が細められ、美しい美貌に笑みが咲く。


「無魔八英公のザイアークが動いたか」


 執務机の横にあるハープをひと撫ですると聞き惚れるような旋律響いた。音に誘われて間もなく2人の人間がやってくる。人と言うには語弊があるだろう。彼らの背には堕天使の翼が生えており、頭上には堕天使のオーラが輪となって可視化した光輪が浮かぶ。

 一方は麗しい姿とスレンダーな体格。いちいち所作が絵になっていてみるものを惹きつける。


「マーガレット様、お呼びによりソフィア参上致しました」


 ソフィアは文官としても、武官としても優秀でマーガレットを支える側近である。

 

 もう一方は筋骨隆々とした無骨な見た目をしている。好戦的な性格が雰囲気に滲み出ていてマーガレットの前でも畏まる様子がない。

 服装も派手で気取った容姿が目に余る。


「クライム、来てやったぜ」


 上司の前にも関わらず敬語を用いないクライムにソフィアが殺意を込めた視線を投げかける。


「クライム、貴様っ、マーガレット様の前で無礼だぞ」

「はっ、俺は生来より反骨者よ。マーガレット様に対してもそれはかわらねえさ」


 なお殺気立つソフィアにマーガレットは手で制する。


「良い。クライムはそれが許される武功を挙げて許される立場にある。それに最低限の礼儀はわきまえているさ。そうだろう、クライム」


 突如マーガレットからあふれ出すオーラは何重にもなった後光となって現れ、絶対的な力を誇示して見せた。それをうけてクライムは脂汗をこぼすと膝をつく。


「はっ、ご命令は絶対服従すると誓います」


 クライムはわかりやすいほどマーガレットの強さに憧れ陶酔している。それゆえに忠誠心は高い。

 今も体の震えが止まらない。それでも絶対なる存在に従っていることに喜びを感じている。


「無魔ザイアークが帝国を離れている。確かな情報だ」


 ソフィアが思案し質問する。


「罠ではありませんか?」

「ブリアント王国に興味を持ったようだ。ひそかに戦力を王国に集中する動きを見せている」

「ブリアント王国にザイアークが興味を持つ何かがあると……」

「であるならば救世主であろう」

「「っ!?」」


 ソフィアとクライムは息を飲む。それは上司であるマーガレットとて無視できない相手である。


「八英公がいない無魔軍など私がいなくとも追い散らせよう、ソフィア」

「はっ」

「指揮権を預ける。帝国とここの留守を任せるぞ」

「お任せ下さい」


 次にマーガレットはクライムに視線を送る。


「クライムは私に同行しろ」

「どちらに行かれるので?」

「ブリアント王国だ。情報が出そろい準備が整ったら出立する。それまでにアルゴスに群がる共和国の軍を蹴散らしておけ」


 クライムは手加減なしに共和国で暴れられるとお墨付きをもらい喜色満面に飛び上がる。


「ひゃっほーい、早速竜人ども血祭りに上げてきますぜ」


 後の話も聞かずクライムは執務室を跳びだしていく。それを見送るソフィアは頭を抱えた。


「馬鹿者がっ」


 そして、改めてマーガレットに視線を送るとふっと優しげな表情になる。ソフィアにこれほどの柔らかい笑みが作れるのかと知らぬ者がみれば驚いてしまう珍しい表情だ。


「迎えに行かれるのですか?」

「ああ、きっとあの子は怒っているだろう」

「……辛いですね」

「構わぬ。決めたことだ」

 

 静かに窓の外に目を向け2人は黙り込むのだった。


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