第91話 魔技研編 『宣戦布告!? 八英公のザイアーク出現』
『ピュアマギカ』
それは無魔にとっては悪夢と同義の名前である。シンリーは目を見開いてつぶやく。
「伝説の魔法少女ピュアマギカ。無魔の天敵にして人類の救世主。あり得ないし」
シンリーはフレアがいずれなるものと考えていただけに全くノーマークの少女がピュアマギカに変身したことで動揺を隠せない。完全に想定外のことが起きていた。
「だがこの力。ただもんじゃねえ。マジでピュアマギカじゃんよ」
レイスティアから感じる魔力の圧力はカノンの知る魔法少女のレベルをはるかに超えるものだ。嫌でも本物だと自覚させられる。
「そんなあり得ないし。ピュアマギカが同時に複数誕生するなんて予言はなかったはずだし」
シンリーは指を鳴らすと後方に隠れ潜んでいた無魔指揮官級の部隊を呼び出した。指揮官級は手練れの魔導騎士でさえ苦戦する強敵。
ガランをカノンの砲撃で蹂躙した後、200体もの戦力で一気に殲滅。魔法少女たちに大打撃を与える手はずであった。更にはグラハム復活の糧を集めるための大切な戦力をシンリーはたった1人の魔法少女に差し向ける。
「のこのこ1人でやってきたことを後悔するといいし」
シンリーの突撃の合図を受けて配下の指揮官級たちは一斉に動き出す。隊列を組みながらレイスティアを取り囲み戦力差を生かす戦法で襲いかかっていく。
反魔の力をまとった拳が全周囲から次々に襲いかかるがレイスティアは冷静そのものだ。指揮官級たちが動き回る中で1人だけ時の流れが違うかのようにゆっくりと優雅にかわしていく。
「邪悪な攻撃が――手に取るように分かります」
柳のごとく柔軟に体を捻り攻撃がまるで当たらない。シンリーは苛立ちを隠せず指揮官級をけしかけた。
「何やってるの。もっと数にものを言わせて畳み掛けるし」
攻撃の密度が増した全周囲の攻撃殺法。レイスティアは涼しい顔のままに言い切った。
「あなたたちの動きはもう見切りました。私には通じません」
その言葉が示すようにレイスティアは相手の攻撃を自滅へと導くよう位置どっては同士討ちを誘発させていく。連携は乱れ雪崩を起こすように無魔たちの大半が倒れ込んだ。レイスティアはその前に跳躍し上空へと抜け出した。
滞空したまま青き稲妻を魔法が傍をぬけるとそれを手に取り弓へと変える。浄化の魔法矢を発生させて引き絞ると紫電が魔法の矢にまとわりつき蓄えた力を解き放つ。
「《ピュアマギ・ライトニングアロー》」
吸い込まれるように無魔の集団の中心に矢が入り込む。瞬間、浄化の光が輪となって爆発的に広がると指揮官級の無魔が光となって消しとんだ。青白く輝く粒子がキラキラと星のように瞬き夜空を彩る。
あまりの威力にシンリーはあんぐりと口を開きとても信じられないと言った顔をした。
「……一撃? たったの一撃で200体もの指揮官級が全滅ですって!?」
「信じらんねえ。これがピュアマギカかよ。ただの魔法砲撃でフィニッシュアタック並みの浄化力とかありえねえじゃん」
警戒心をあらわにする2人と違い、キリングだけは強敵の出現に声を弾ませた。
「クククククッ、遠距離は強そうだが接近戦はどうかな」
体をほぐすような仕草ののち、キリングは両手に大剣を装備すると重い一歩を踏み出す。力強い歩みに大地が震えだす。。キリングは心底楽しそうな声をあげながら殺気を振りまいた。
「シャアアアァァァーーーーッ」
大気は緊張で張り詰め、重苦しい気迫がレイスティアにのしかかる。
「避けるのは得意のようだが俺の剣はしのぎきれるか? ぬおおおーー斬るキルキルーーゥ」
たぎる闘争本能に突き動かされるまま、キリングが単身レイスティアに切り込んだ。その体裁きは風すら切るような鋭い踏み込み。まるで瞬間移動のような速度で肉薄した。
対してレイスティアは涼しい表情のまま回避する。するすると手を伸ばしキリングの手首をつかみ取る。
「なにぃ!!」
手首を絡め取られてキリングの体はフワリと宙に浮き上がり、そのままレイスティアによって地面へと叩きつけられる。
「いかに剛の者とてフローレア様に教わった柔の体術には無意味」
「なんの、この程度痛くもかゆくもないわ」
すぐに立ち上がり、双剣で次々と連撃が振るわれる。轟々と風を切り、当たれば粉々になってしまいそうな剛剣にもレイスティアは舞うような身のこなしで避けていく。
「ふはははは、楽しいな。俺の剣にここまで反応してみせるとは。――楽しいぞおお」
「戦闘狂ですね、不愉快です」
「くひひひっ、斬らせてくれたらもっと楽しいだろうな」
「遠慮します。斬るならご自分をどうぞ」
「おおっ、切腹か。自分を斬るのも一興だな。フヒヒ」
「……救いようがありませんね」
レイスティアは一気に攻勢にでる。そして素手でキリングの大剣を受け止めた。強力な魔装法衣の防御がレイスティアの体を包み込みキリングの攻撃を難なく無力化した結果である。それほどまでにピュアマギカの法衣の防御は固く鉄壁。
これにはキリングが明確な力量差を把握する。少なくともこのままでは歯が立たない。そう感じたときにはレイスティアの拳が振り抜かれた後だった。
その一撃、――まるで大砲の砲撃。
岩盤すら撃ち抜きそうな鋭い突きが大気の大砲のごとく轟音を響かせキリングを軽々と吹き飛ばした。
「がはっ、ぬおああーーーー」
「その名のごとく無に帰しなさい、無魔」
シンリーの手前の地面に激突しキリングはたったの一撃で深い傷を負っていた。
「ぐあああっ、痛イィーー。でもキモチイィーー」
「痛がるか喜ぶかどっちかにするし。この変態」
シンリーがとがった靴のかかとでキリングを踏みつけると一層狂った奇声が漏れてレイスティアが眉をひそめる。
カノンもキリングの性癖には侮蔑のこもった視線で見下す。
「最悪だな、キリング。同じ反魔五惨騎であることが恥ずかしくなるじゃんよ。普通は相手の頭を撃ち抜いたときが最高に気持ちいいんだぜ、あっはあぁーー」
カノンはヘッドショットの瞬間を想像しくねくねと身もだえる。これを見てはレイスティアは思わずひるんでじりっと後ずさる。
(私からすれば皆変態です)
こんな敵と拳を合わせなければいけないのか。
レイスティアは心底嫌になって思わず溜め息がこぼれた。できることなら戦いたくないなあ、というのがレイスティアの心境だった。
「行かなきゃ。止めないと。ティアちゃんの命が……」
夢から覚めたフレアは千里眼のスキルを発動し、レイスティアが無魔と戦おうとしている状況を把握する。フレアの予想が正しければさし迫った事態にある。
夢の中で知の女神ミルがレイスティアに持ちかけた契約。そのおぞましい内容を聞いてはレイスティアをこれ以上戦わせる訳にはいかなかった。
「くうぅ……」
学園の保健室のベッドから起き上がろうとすると強烈な眠気が襲い来て足元がおぼつかなくなる。
明らかに外部の干渉による意識の混濁。フレアは誰によるものか察しが付いた。これは知の女神ミルであろうと。フレアは頭に血が沸き立ちながらも叫ぶ。
「知の図書館に無理矢理誘い込んで閉じ込める気ですか? 女神ミル!!」
意識を手放してなるものかとフレアは強靱な精神力で抗い、一歩一歩前に進む。平衡感覚も失いフレアは無防備に転びテーブルに頭をぶつけてしまった。
頭からは血がドクドクと流れ出るが、今はこの痛みが辛うじてフレアの意識を現実につなぎ止める。
「ティアちゃんを犠牲にして手に入れる未来なんて……」
這ってでも進もうとするフレアにようやくミルから網膜の情報を通じて告げられる。
【何をそんなに焦っているんだい? これで世界を救える。人類にとっても君たち魔法少女にとっても幸せなことだろう】
今やフレアの中でミルは信用のならない危険な敵に位置づけられた。なぜなら、フレアとミルの望む未来は同じようでいて致命的にずれている。
「ようやく分かりましたよ。なぜあなたが信用できなかったのか。あなたは人類さえ守れれば良いのですね。なにせ、人の神であるあなたにとって人の滅亡は何より避けなくてははならないことだからです」
【だからこそボクは君たちの味方じゃないか】
「黙れ、私は友達を見捨てたりしない」
【悲しいことじゃないか。ボクは君も人類も愛しているのにね。大丈夫、安心して君は休んでくれ】
更に強力な眠気がフレアを襲った。これら強引なミルの行動によってフレアは確信したことがある。ミルの行動には焦りと珍しくずさんさが垣間見える。このことから現状が想定外だったことが分かる。そして、この状況から得られる情報の意味は大きい。
「そうか、この警告の夢はあなたにとって予想外だったのですね。いえ、神龍眼の能力はそもそもあなたにとって――」
【やはり、頭が良すぎるのも考えものだね。ピュアマギカに覚醒するまでずっと眠れ!!】
直後、ただただ強烈な睡魔がフレアを襲う。もはや優しさのかけらもない暴力的な眠気がフレアを襲う。抗うほどに吐き気がこみ上げる。頭痛に脳が悲鳴を上げている。
(これしきで。ティアちゃんは無理な変身でもっと苦しんできたはず)
変身するほどに、魔法少女の力を使うほどに命を削る契約をレイスティアは結んだ。契約を交わした動機はフレアを救うため。
そして、最後はレイスティアの犠牲によって目的が達成されると分かれば止めない理由はない。
(私は友達を犠牲にするために頑張ってきたのではありません。そうさせないために頑張ってきたのです)
自分を追い込んでまで無魔との戦いに備え、準備と開発を進めてきた。それはミルも知っているはずだ。その想いを踏みにじるレイスティアの契約は断固容認できない。
(誰かを守りたい。その思いを利用して自身の目的を果たそうなんて絶対に許さない)
倒れ込むフレアは怒りのあまり爪が食い込み血が滲むほど手を握りしめた。そうしてまでレイスティアを助けに向かおうとした。だが精神力だけではどうしようもなく、限界はやってくる。
まぶたは徐々に重くなり抗いがたい。視界はぼやけていく……。
(だめ、眠ったら、取り返しの付かないことに、お願い、誰か)
フレアは最後の力を振りしぼって叫ぶ。
「誰か助けてっ!!」
その声に応えるかのように保健室に飛び込んでくる魔法少女がいた。シャルとユーナである。フレアが倒れたと聞いて様子を見に来ていたところに声が届いたのである。
「フローレアさん」
「フレアさん」
保健室に飛び込んできた2人はまず息を飲んだ。フレアが頭から流血して倒れているのだ。
どうして?
シャルが訳も分からず混乱する中でユーナは周囲に襲撃者がいないのか探す。
「誰もいない?」
「でも、フローレアさんの助けてって確かに聞こえたわ」
そこにユーナの魔装宝玉に宿る上位精霊《アンダイン》から注意が入る。
『グローランス嬢は何者かの干渉を受けています。彼女は現在これに抗っているようです』
「アンダイン、その干渉を遮断できるかしら?」
『私よりもはるかに上位の存在が関与しています。対抗するにはユーナの魔力を大量に消費しますよ』
「構わない、やって頂戴」
アンダインはユーナに返答する間もなく大量の魔力を犠牲に奇蹟を起こす。これによってフレアに干渉していた女神ミルの影響を取り除く。
代わりにユーナは急激な魔力の消耗で膝を突いた。
「こ、これは……。これほどの魔力が必要だなんて相手はどれだけの大物なの?」
『分かりませんが神だった可能性があります』
「フローレアさん、何があったの?」
シャルが心配しフレアの上半身を抱き起こすとフレアはうっすらと目を開けては大粒の涙をこぼす。
「私は、取り返しの付かないことを……ううぅ」
「一体何があったのよ?」
フレアはシャルの服を掴んで握りしめると泣きながら頼み込んだ。
「お願い、助けて。友達が、大切な友達がガランの外でシンリーたちと1人で戦っています」
「「――っ!?」」
シャルとユーナは驚きにはっとする。
「戦いを止めないと、ティアちゃんが呪いで死んじゃう。私のせいでしんじゃうよぉ」
いまだに事態は飲み込めないものの切迫した状況だということは2人も理解した。2人はフレアの話を聞いても疑問を差し挟まずに信じ、すぐ請け負った。
「「わかった。任せて」」
特にシャルはマコトと舞踏会で踊ることを楽しみにしているはずだった。それでも即決して助けると言ってくれたことにフレアはますます涙がこぼれて止まらなかった。
「ぐすっ、ありがどぅ」
あれからシンリーたちはレイスティアに3人がかりで挑むが逆にたたき潰される結果となっていた。
その場で立っているのはレイスティアのみだ。ピュアマギカの魔力と存在に精霊が呼応し常人にすら目視できるほどの光が舞っている。
それがシンリーたちの力を弱体化させ、実力を発揮させないでいた。無魔にとってピュアマギカは天敵。その能力の一端が精霊の加護の活性化なのである。
「ぐがあああ、もっと斬り合いたいいぃーー」
「ぐっ、あの魔法少女のせいで精霊の加護が活性化してるし。これじゃあ第二形態に変身できないし」
「おいおいおい、これってやべえんじゃんよ。あいつ強すぎだぜ」
レイスティアが地にはいつくばる無魔たちをいちべつし、黙々ととどめの準備に入った。マスターマギカジュエルから魔法少女の杖を出現させる。
「《エレメンタルマギカワンド》」
まるで神器のごとく美しい様式。装飾が無駄なく施された魔法の杖。
先端から増幅された魔力が魔法へと変化し超常現象を引き起こす。青き稲妻が巨大な矢となってレイスティアの周囲に千本出現する。
「これで終わりです。《ピュアマギ・サウザンドシュート》」
シンリーたちの命を刈り取る圧倒的な浄化の矢が殺到していく。
逃げ場のない砲撃に死を覚悟したシンリーたちだが突如上空に現れたローブ姿の男によって救われることになる。男は指を鳴らしてシンリーたちを反魔の障壁で包むとレイスティアの魔法を防ぎきった。
レイスティアは空にいる新手を見上げて警戒を強め身構える。男からはかつてないほどの邪悪な力が感じられたからだ。
「何者ですか」
男は深くかぶったフードをとり顔を見せる。
まるで少年のような顔立ちの無魔がそこにいた。額には角があり、三ツ目、圧倒的な反魔の力を持つ以外は人に似た特徴を持つ少年。少年はレイスティアを見下ろすと醜悪なほどに口の端をつり上げた。そして、慇懃無礼な態度で礼をする。
「初めまして下等な人間。僕は東の無魔侵攻軍を天帝より任されし総大将。《ザイアーク》」
「……ザイアーク!? まさか無魔『八英公』の……」
「へえ、知ってるんだ。さすがピュアマギカ。女神から聞いてたのかな」
ザイアークは指をパチンと鳴らすとシンリーたちを空に浮上させていく。
「弱小国ブリアント王国はグラハムにまかせていたんだけどね。独断で『あれ』の申請をしたというから気になって見に来たんだよ」
ザイアークはシンリーたちを嗜虐的な目で射貫いた。するとシンリーたちは明らかに怯えて震えた。
「グラハムは別の『八英公』所属だから僕を出し抜こうとしたのかな。これはお仕置きが必要だな~~」
ますますシンリーたちは怯えきった顔をする。
その姿に満足するとザイアークは興味をレイスティアに移す。
「帝国ではなく王国にピュアマギカが現れるとはね。面白くなってきた」
明らかに悪巧みを考えている様子にレイスティアが焦りをにじませる。
「何を企んでいるのですか」
「ふふ、とても楽しいことだよ」
ザイアークはレイスティアの後方に意識を向けた。遠くから数多くの魔法少女たちがここに集結しつつある事に気がつき興がそがれていく。再び指を鳴らすとシンリーたちとザイアークの周りを反魔の力が包み込んだ。
ザイアークが逃げようとしているのだと気がつきレイスティアはすぐに雷撃の魔法砲撃を放つ。
「逃がしません」
「また会おう。――今度はしかるべき戦場で」
ザイアークとシンリーたちは転移の力によってその場から消え、レイスティアの魔法は空を切った。
「戦場……まさか、予言にある戦争がついに始まるというの。まだ早すぎる」
深刻な表情でうつむいているとレイスティアの口元から血が流れ出す。口元を手で押さえてレイスティアの顔が青ざめる。
「くっ、もう限界が……。だんだん変身時間が短くなっている」
そんなとき背後からかけられた声を聞き、レイスティアはますます血の気が引いていく。
「ティアちゃん……」
ばっとふり返るとシャルの高速飛行によって運ばれてきたフレアを視界に捕らえる。
なぜここに!?
だがそれよりもレイスティアを驚かせたのはフレアが自分を見てティアと呼んだこと。
「……どうして」
ショックなことが続きレイスティアは思いがけずよろめいた。
「ティアちゃん!」
フレアが駆け寄ってレイスティアを支えるとぎゅっと抱きしめた。レイスティアの口元の血の跡をみてフレアがハンカチを取り出して拭う。
「無茶をして」
そういうフレアの瞳は涙でにじみ、声は震えている。
「知ってしまったのですか?」
フレアは頷き、しかし抱きしめる両手はしっかり背後に回して離さない。
それはレイスティアを逃がさないように。
しっかりと受け止めるよ、と伝えるように。
「私は魔法少女になれなくていい。だからお願い。死なないで」
きっとフレアを悲しませないためにレイスティアは距離を取ってきた。レイスティアがしようとしていることは命を引き換えにすることだから。
人知れず戦い、そして正体を隠したまま死ぬつもりだったのだろうとフレアは思った。
フレアの友達を思う気持ちが伝わったのだろうか。まるで糸が切れたようにレイスティアはフレアに倒れ込む。
「ふわっ」
フレアはなんとかその体を支えてゆっくりと降ろすとレイスティアに膝枕をして頭をなでる。
レイスティアの変身が解けると光となって法衣が消え、後には見惚れるような美少女が姿を現す。
ミルの呪いですっかり女の子になっているレイスティアをみてフレアは申し訳なさで胸が一杯になる。
「私のためにこんな姿になって……」
イケメン嫌いがレイスティアをここまで追い詰めたのかと思うと罪の意識にフレアは落ち込んだ。
「これからはイケメンってだけで嫌ったりしないから、だから一緒にいよう」
レイスティアは目を見開いて、それから一筋の涙がこぼれ落ちる。
「はい」
それから続々とGクラスの魔法少女たちが駆けつけてくる。これにはレイスティアが意外そうにしている。
「まさか学園祭を放ってみんなここにきたのですか」
「当たり前でしょう」
「そんな、せっかくの学園祭を……」
申し訳なさそうにするレイスティアだがフレアは当然だと言い切る。
「あなたは1人じゃありません。困難には皆で立ち向かう。それが魔法少女ですよ」
あつまった魔法少女たちはフレアの言葉に一様に頷いてみせる。それを見てレイスティアは心が温かくなる。そして、不思議なほど肩の力が抜けていくのを自覚した。
「ティアちゃん、ここでだって学園祭は楽しめますよ」
フレアは腕時計を確認するとレイスティアに学園の方を見るように指差した。
「あっ」
何かと思って視線を向ければ光の軌跡が闇を切り開き登っていく。そして、一度消えたかと思えばそこで大輪の花が咲く。
後から後から次々に美しい火の芸術が夜を彩る。これには皆が目を奪われ感嘆の声をあがった。
「これは?」
花火を見たことがないレイスティアはフレアに聞いた。
「花火と言います。”前の私のいた国”ではお祭りの定番ですよ」
「綺麗ですね」
「あの花火を見ていると希望がわいてきませんか」
「そうですね」
「あなたの呪いことも、人類のことも、私がなんとかします。いいえ、みんなで乗り越えていきましょう」
レイスティアは思い出す。
そういえば絶望の淵にあった自分を不治の病から救ってくれたのはフローレア様だったな、と。
レイスティアとフレアはしばらく黙って花火を見て時を過ごす。学園祭の最後はこうして過ぎていった。
その間、2人の手はしっかりと握られ離れることがなかった。




