第88話 魔技研編 『浮上するレイの疑惑』
「フローレアはどこですか」
実地訓練に出ていた試験クラスの歓迎が終わった後、ティアナクランが怒りをにじませフレアを探しに来た。今度の怒りは今までのそれとは少々質が違うように感じられる。それほど王女に鬼気迫るものがあった。第三者であっても王女の雰囲気にぎょっとして距離をとるほどである。
フレアは培った経験からいち早く危険を察知して物陰に隠れていた。こんなこともあろうかと学園祭にはフレアがちょうど隠れられる特注の隠密用空箱が至る所に配置されティアナクランから隠れられるようになっている。
露店などの資材の箱に紛れれば違和感などない――はず。
(ふふん、何度も怒られていれば千里眼を使わなくてもティアナを察知できますよ。怒りで殺気がダダ漏れです。達人でなくても分かりますとも)
逆を言えばそれほどに王女を怒らせたのだと気がつきフレアは肝が冷える。
(恐らくマギウスアーマーを秘密にしていたことなのでしょうが幻術だと情報操作はしていたはず。それでも察知するとは王族の密偵も侮れませんね)
魔装甲冑は本来清らかな心を持つ乙女にしか使えない変身用魔導具・魔装宝玉の男性版。男性は変身できないという定説を覆す前代未聞の発明だけに、知らされていなかったティアナクランは大激怒の様子を見せている。
(昨日ティアナが倒れたと聞きましたが間違いなく魔装甲冑のことで頭に血が上りすぎたのでしょう)
フレアは自身が首から提げている魔装宝玉をみる。これは超古代遺跡で手に入れた中でも特別なもの。これだけは手放さず持っている。
「これは所持者を選び、魔法少女たちに魔力を分け与えて共有し制御する魔装宝玉。私にしか使えませんからねえ」
協力型魔導具ミラクルマギカロッド発想の原点でもある。かつて無魔グラハムにG組の魔法少女全員で放った魔法砲撃もこの魔装宝玉がなければ不可能だった。これは魔法少女が増えるほどに真価を発揮する変わった魔装宝玉なのである。
(とにかくほとぼりが冷めるまで逃げ切らなくてはまずいです。絶対に逃げ切ってみせましょう)
フレアはこの段ボールに自信がある。完璧な偽装であり、見つかるはずがないとほくそ笑む。
しかし、ティアナクランはほどなくしてフレアが隠れた段ボールをロックオンすると確信したように近づいてきた。
(え、うそ。気づかれた!?)
なぜ、という動揺を見て取ったかのようにティアナクランは段ボールの前にたつと腰に両手を当てて勝ち誇る。
「甘いですよ、フローレア。あなたは自分がバカ魔力だという自覚がないようですね。隠しきれない魔力に注意すれば簡単に察知できるのですよ。そして、何より」
ティアナクランはズビシッと段ボールを指差して種明かしをする。
「資材の箱は木箱と決まっています。紙でできた箱など我が王国に存在しません。どうせ新発明なのでしょうがそんな物を用意できるのはフローレアしかあり得ません」
(しまったああーー)
策士策に溺れる。
現世の知識から段ボールでの密偵術に憧れ目が曇ってしまったようである。
段ボールなどこの世界ではまだ開発されていないので浮きまくりなのだ。
このまま見つかったら間違いなく説教で殺される。そんな危機感で目をむきフレアは最後の手段に踏み切った。
奥義、ジャンピング土下座は過去に使用済み。何度も使用すれば効果がうすい。ゆえにこれは本当に非常手段でもある。
「(神龍眼緊急コード発動。マコト覚醒)」
フレアは男のマコトに変身すると立ち上がり、段ボールから抜け出した。
「あの~~、フローレアとは誰のことですか?」
「へっ……」
ティアナクランが目にしたのは出会ったことのない優男。マコトである。正確には精神世界で会ったことがある。それでもあのときは消えかかっていたし、マコトの顔を間近で見るのは初めてのことだった。
だから、ティアナクランは焦った。散々自信をのぞかせて見えを切ったにもかかわらず人違いだったのだ。その羞恥の程といったら今すぐ布団をかぶって穴に入って引きこもりたい心情である。
「すみません。紛らわしい真似をしてしまって。親戚の子とかくれんぼで遊んでいまして隠れていたのです」
「……はあ、そうでしたか」
「もう行っても構わないでしょうか」
「むしろ、今あったことは早々に忘れて立ち去ってください」
顔を赤くして顔を背ける王女。その隙にフレアはまんまと逃げ出した。
数瞬間を置いてティアナクランははっとする。
「あの顔、どこかで……」
そして、呼び止めようと振り返るとマコトは忽然と姿を消していた。
「――もういなくなりましたの!?」
ティアナクランからどうにか逃げ出すことに成功したフレアだが正直負けた気分だ。体に負担のかかる変身をくだらないことに使ってしまったのである。
(しかし説教は嫌です。せめてほとぼりが冷めるのを待たないと……)
こんな醜態を知ったら知の女神ミルはきっとバカにするだろうと溜め息をつく。そこで網膜にメッセージが入る。
【いや、見てたけどね。傑作だったよ。あはははは(By知の女神ミル)】
(ばれてるし)
王女から安全な距離を稼いですぐのこと。
フレアは学園の入り口で堂々と仁王立ちするマルクスの姿を見つけた。その顔は自信といやらしさにみちていて、フレアは彼の心情を手に取るように察した。
「マルクス、何をしているのですか?」
「フッ、話しかけるなよ、フローレア。美女が俺に声をかけづらくなるだろ」
白い歯を覗かせながらマルクスは芝居がかったような口調でいった。イケメンボイスをひねりだそうとも伸びる鼻の下が下心をわかりやすいほどに写し出す。フレアは苦笑しジャブから質問を始めた。
「サインですか?」
「違う。いや、それも含むが昨日のヒーローショーだ。あれだけの熱狂があったんだから誰かしら声をかけてくるはずだ」
周囲を見回せばマルクスに声をかけようとする美女の気配など感じられない。彼女たちの視線は物珍しいアイスクリームやカラフルなチョコがかかったチョコバナナ、生クリームたっぷりのクレープである。
マルクスに目を向ける様子が見られない。
「そんな気配は感じられませんが?」
「フッ、俺には分かるぜ。じっと見つめるたくさんの熱い視線を感じるんだ。随分恥ずかしがり屋みたいだな」
それはフレアも察知していた。むしろフレアの方が正確に把握している。正し、それはマルクスの親衛隊にまで発展した幼女軍団である。美女など1人もいない。10年もたてばそれなり育つだろうが……。
「それってストーカー?」
「不吉なこと言うんじゃねえよ」
そこにミラクルが起こった。少なくともフレアは雷にでも撃たれたかのような衝撃を持って信じられない事象を観測した。
『あの……』
スレンダー系の、マルクスよりわずかに年上と思われる顔立ちが整った美女が声をかけてきたのだ。ほほを桜色に染めて、照れてか細い声ではあったがはっきりとマルクスに声をかけたのだ。
「奇蹟!?」
「いや、ふざけんなよ。当然の結果だろ」
フレアに抗議を入れた後、マルクスは気を取り直し美女に向き直った。勝ち誇ったような笑みのあと、とびっきりのイケメン顔(それでもいやらしさを隠せていない)でマルクスは対応する。
「どうかしましたか、お嬢さん。もしかして昨日のショーを見て声をかけてくれたのかな」
『あ、はい。昨日のアクションシーンはとにかく大迫力ですごく話題になってます』
(でしょうね。あれ、ショーで押し通しましたが本物のテロとの戦闘でしたから)
マルクスは自らの力こぶをつくり誇らしげに語る。
「もしかしてファンになってくれたのかな。サインもいるかい」
『いいえ、畏れ多いですよ。今、すごい勢いで人気が上がってるんです。既に淑女同盟が結成されているとか。ですけど抑えきれない思いを手紙にしたためました』
そう言って美女が取り出したのは可愛らしい封の手紙である。
「おお、奥ゆかしい」
マルクスは感動のあまり男泣きしている。きっと、ファンレターもラブレターも受け取ったことはないのだろう。本気で感動していた。
しかし、彼女からは残酷な言葉が続くのだ。
『ですのでこの手紙をイケメン地獄大公役の方に渡して頂けませんか』
「あ、がっ……、なん、だと……」
思わせぶりな展開からの見事な落ちっぷりにさすがのフレアも気の毒になる。マルクスが本気で感動しただけにこれはいたたまれない。
本来なら破り捨てたいところだろうがマルクスはぎこちないながらも笑顔を作りどうにか声を絞り出す。
「ま、任せな。あいつはダチだからな。ちゃんと届ける」
その言葉に美女は胸をなで下ろすと深く頭を下げ感謝する。
『ありがとうございます。マルクスさんはとても良い方なんですね』
悪気はないのだろうがフレアにはつまりマルクスはいい人止まりで眼中にないという心情が透けて見える。
マルクスの表情も一層凍り付くようであったのだが必死で耐えている。見ているフレアはもはやからかう気持ちが消え失せた。フレアにできるのは最後まで誠実に対応したマルクスの背中を優しくなでるだけだ。
「フローレア、何泣いてやがる」
「いえ、マルクスは頑張った。あなたは真の漢です」
「ありがとよ。なぜかな……俺も涙が止まらないぜ」
一連の様子をうかがっていた他の美女たちもこれを機に次々とマルクスにラブレター、もしくはファンレターを預けていくようになる。
どんなにつらくとも笑顔で乗り切った勇姿をフレアはきっと忘れないだろう。
そこにレイが通りがかった。
――周囲にはたくさんの美女が引き連れて。マルクスはその様子を見るとレイにつかみかかった。
「レイーー!! お前にだとよ。受け取りやがれっ」
憎しみに染まった目で詰め寄るマルクスの迫力に、驚いた美女たちは退散する。レイは大量の手紙を押しつけられ困った顔をするがマルクスはきっと悪くない。フレアはマルクスに理解を示した。
「いやあ、やっと見つけましたよ、フローレア様」
「なんでついてくるんですか、イケメン」
フレアはイケメンが大っ嫌いだ。イケメンは信頼できない。前世で腐るほどイケメンにだまされ、トラウマになるような殺され方をしたのだから仕方ない部分もある。
「ルージュさんにお願いされまして。忙しいので代わりに護衛をして欲しいと」
「何をばかなことを。なぜルージュさんがあなたを推薦するのですか」
そう言ってすぐ近くに潜んでいる連絡役の諜報員に確認の視線を向ける。すると驚くべきことに頷きが返ってきたのだ。
(え、マジで)
信じられないとった様子でフレアはレイに視線を戻す。
「よりにもよってイケメンを寄越すなんて意味がわかりませんよ。というかレイこそ私を護衛する義理も理由もないでしょう。帰っていいですよ。リリーは任務があるので手が離せないから他の護衛を手配します」
「いえ、私が全力であなたを守ります。命に代えても守ります」
「それですよ」
「は!?」
まるで分かっていないレイにフレアが説明する。レイとは出会ったときからこの調子。理由もなくフレアに尽くそうとする。それがフレアには不気味なのだ。
「いきなり忠臣のごとく接してくるなんてあり得ませんよ。裏があると考えるのが普通です」
図星だろう、とレイの顔色をうかがえば全く動じる様子はない。ニコニコとフレアを見つめるだけだ。まるでこうして普通に話せるだけでも幸せだと感じているかのような目である。
「理由ならありますよ」
「えっ」
どういうことかと聞こうと思えば元気な少女の声が割り込んでくる。
「フレアお姉様ーーっ」
フレアを見ると目をキラキラと輝かせたセシルが駆け寄ってきてフレアに抱きつく。
「ああ、フレアお姉様お久しぶりです。会いたかったです」
「セシルさん、お久しぶりですね。ベルカのお店は順調ですか?」
「おかげさまでしっかりと軌道に乗りました。これもフレアお姉様のご指導のたまものです」
「大げさですよ」
謙遜するフレアに突然恨みがましい視線でもってセリーヌがはいりこむ。
「ええ、その通りです。セシルのことはあたしが助言しているのですよ。決してあなたのおかげではありません」
「セリーヌお姉ちゃんって耳に良い肯定しかしてくれないから参考にならないよ」
「えっ……」
「それに引き換えフレアお姉様は良いところも悪いところも指摘してどうすれば良いのかも的確に指導してくれるもん。手紙のやりとりも頻繁にしてるよ」
「な、なあーー」
ベルカとの手紙はお金がかかる。たまにやりとりする程度のセリーヌを差し置いて頻繁にやりとりをしているなど羨ましくて仕方ない。
「そんなフレアお姉様を悪く言うお姉ちゃん嫌い。ううん、セリーヌさん」
最後の言葉は決定的にとどめとなる。セリーヌは思わずよろめくほどのショックを受けた。何せ他人行儀にさん付けである。お姉ちゃん呼びがなくなった。シスコンであるセリーヌにとってこのダメージはいかほどのことか。
「あ、あはは、聞き違いかなあ。セリーヌお姉ちゃんでしょう?」
「何かな、セリーヌさん。私のお姉ちゃんはフレアお姉様だけだよ」
これに対してセリーヌは興奮し、フレアの肩に掴みかかる。目は血走り、憎しみで相手を呪わんばかりの気迫を叩きつける。
「おのれええ、妹をかえせええーー」
「落ち着いてください。シスコン」
「そうですね。セリーヌさん、少し落ち着きましょう」
本気で取っ組み合いになりそうなところでレイが割って入る。手際よくセリーヌを引き剥がしていく。
なかなかのフォローにフレアはわずかに感謝するもイケメンであることを思い出しその気持ちを振り払う。そしてセシルに話題を振る。
「学園祭は楽しんでくれていますか」
「はい、そのことなのですが幾つか私の商会で販売の許可を頂きたい物があります。ここで出されている食べ物はきっと王国を幸せにする美味です。もっと広めるべきですよ」
「分かりました。その話は後日伺いましょうか」
そこでセシルがフレアに耳打ちする。
「それとは別に王都で良くない情報を手にしました。詳しくはこれを」
セシルはそっとフレアに手紙を差し出す。
「お姉様は現在魔技研とことを構えているとか。魔技研が南の公爵家に働きかけて強硬な手段に出るかもしれません。お姉様のことですから情報を得ているかもしれませんが念のためです」
「そんなことはありません。多角的な情報は必要です。情報源が1つというのは怖いですからね」
「なるほど、確かにそうですね。参考にします。できればお姉様の商会とも情報交換できるようパイプを作りたいのですが……」
これにはフレアも満足げだ。セシルはフレアの助言ですぐにグローランス商会の情報収集能力に目をつけ協力を持ちかけてきた。子供であっても商人としては末恐ろしい才覚を持っているのだろう。商売のパートナーとして心強い限りだった。
もちろんフレアの答えはイエスである。
学園祭を回るフレアをじっと見つめる男がいる。魔技研の職員であり商品展示会で目玉商品イトニングバーンランスを開発したのもこの男だ。
『この俺を虚仮にしやがって』
彼の作ったライトニングバーンランスはグローランス商会のフライトランスに完膚なきまでに負けた。
それも彼の作ったランスの渾身の攻撃力をグローランスのそれはおまけ機能のように同等かそれ以上の威力をたたき出した。面目丸つぶれもいいところである。
『どんなトリックを使ったか知らないがあんな空を自在に飛ぶ槍など一商会にできるわけがない。だましやがったに違いない』
そんなはずはないのだが男にとって理解できないものはあり得ないと考える癖がある。だから、グローランスの商品を偽りと断じるのである。
こうした男は厄介だ。自分で被害妄想を拡大させて過激な行動に導くのである。
『俺が目を覚まさせてやる。俺こそが、俺の作る武器こそが最強だってことをな。威力だけを追求すればグローランスの武器を超えることだってできる。それを証明してやる。グローランスのガキ。お前の目の前でな』
男の手にあるのは遠隔式の起動スイッチ。
自分は離れた安全な場所まで離れ、学園祭の会場で派手に破壊兵器を披露する。大惨事を引き起こせば処罰されることは必至だ。死者でも出れば魔技研の後ろ盾があろうとも死罪の可能性だってある。そんなことすら後ろ盾があればどうとでもなると浅はかになっていた。
『ふひ、ふひひひひ。ここにいる人間どもを一掃すれば共和国も理解するはずだ。魔技研の、俺の発明が優れていたということをな。そうなれば俺は魔技研で英雄扱い。出世も間違い無しだあ』
もはや狂気に取り憑かれた男はまともな思考すらできないほどにい詰められている。このまま戻っても彼に魔技研の居場所はない。男は嬉々として破滅を引き起こすボタンを押すのだった。
いち早く異変に気がついたのは意外にもレイだった。荒れ狂う魔力の気配を感じ取り一度足を止める。
「これは、精霊が苦しんでいる」
「えっ?」
突然のレイのつぶやきにフレアも気がつく。通常人には見えない大気にあふれている下級の精霊たちがザワついていることを。
すぐに神龍眼の能力、千里眼を用いて不審な点がないか探した。
そして、近くの物陰に置かれた奇妙な袋から異常な魔法の兆候を見つける。これはフレアにしてみれば魔法とは呼べない。魔力を破壊に用いするために暴走させただけの制御不能な無差別テロである。
「まずい、爆発する」
フレアの見積もった被害予測はこの学園を半分は吹き飛ばす。その被害は想像を絶するだろう。
これほど魔法が荒れ狂っては亜空間にしまうこともかなわない。
「この感じ、爆炎系魔法の暴走でしょうか。だったら……」
フレアはすぐに駆け寄っていつ爆発するかもしれない袋を持つと上空に放り上げた。爆心地点を上にすることで被害を軽減しようという狙い。
そしてフレアは袋が落下する前に下から魔装銃で撃ち抜こうとしたが袋は間に合わず爆発する。
人など簡単に消しとばしそうな衝撃と炎が周囲に広がっていく。そのおそるべき破壊は真っ先にフレアに降りかかる。大きな灼熱の炎が大きな唸りをあげて燃え広がり、フレアを飲み込んでいこうとする。
レイはフレアを守るように抱きしめると右手を空に掲げる。
「フローレア様は絶対に守る」
レイの内からあふれ出る圧倒的な魔力が解放されると掲げた手から雷光の魔法が急速に集約する。
同時にフレアの胸にある魔装宝玉も反応し、レイに膨大な魔力が流れ込んでいく。
「ええっ、どうして!?」
突然膨れ上がった魔力もレイは冷静に対処。事もなげに制御し”遠距離魔法砲撃”を撃ち上げた。それも無詠唱である。
レイの魔法砲撃は戦術級とすら錯覚するほどの広い範囲を雷光で薙ぎ、爆発を相殺。炎を圧倒的な雷光で消しとばし残ったのは静寂だった。
学園祭に被害らしい被害すら出すことなくレイはしずめたのである。
「…………うそ」
この事態にフレアの頭はパニックだ。いろいろと説明が付かないことが多すぎた。
レイが精霊を認識しているらしいこと。男であるはずがなぜか放出系の魔法を使い、しかもあり得ない威力で撃ったこと。
何より信じられないのが、
『魔法少女にしか反応しないフレアの魔装宝玉がレイに魔力を流したこと』
である。
「レイ、あなたはまさか……」
魔法少女なのですか、という言葉は辛うじてせき止める。
ここに来てフレアはレイに対し疑念が浮上した。信頼しているはずのルージュ、諜報組織《渡り商人》に対してもだ。
王国の各所で現れ、数多くの無魔の脅威から人々を守っているという正体不明の魔法少女がいる。渡り商人を使ってもいまだにつかめなかったその正体。
今、レイに疑惑がむいたことでバラバラだった情報が一本にまとまる気がした。レイこそが正体不明だった謎の魔法少女なのではないのかと。
果たしてルージュはこの真相にたどり着けていなかったのか。今となっては疑わしい。ルージュはとっくに正体をつかんでいたのではないかとフレアは思う。今回の推薦がなければルージュを疑うことはなかっただろう。
新たな疑問が次々とフレアの脳裏に沸き上がるのを止められなかった。




