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第87話 魔技研編 『学園祭2日目』

 ヒーローショーでのテロが解決してすぐフレアは寝込んだ。マコトの状態で血が流れすぎたせいだ。ルージュが治療のためとうまく隔離したことでシルヴィアたちにマコトの正体が露見することはなかった。

 ルージュの一晩かけた治療のおかげでフレアは何とか体調を回復させ、学園祭2日目に間に合わせた。


「マコ……フレアさん、本当はもう少し安静にして欲しいところですけれど」

「私は学園祭の顧問ですから休めませんよ」

「でしょうね。でしたら激しい運動は控えてほしいわ。戦闘なんてもってのほかだから」

「前向きに善処します」


 玉虫色の返事にルージュは確信する。

 約束を守るつもりはなさそうね、と。

 家のキッチンにやってくるとまず母のフロレリアが朝食の準備をしている姿が目に入る。どういうわけか今日は一段と気合いが入っているように思える。

 とても1児の母親とは思えない若さのフロレリアはフリッフリの可愛らしいエプロンを身につけてキッチンを踊るようにして動き回る。


「……相変わらずママは若いですねえ」


 少女と言い張れば誰も疑問を抱かないレベル。2人で街を歩けば親子より姉妹だと間違われる。そもそもフロレリアは成長期を過ぎているはずなのに日に日に魔法少女としての能力が上がっていた。母はいろんな意味で規格外であった。


「フロレリア様はいつも以上に張り切っていらっしゃるわね。何かあったのかしら」

「あら、フレアにルージュちゃん。おはよう」


 陽気で楽しげな(あい)(さつ)がキッチンから聞こえる。愛する母親の声を聞けばフレアも自然と笑顔がこぼれ挨拶を返す。

 

「ママ、おはようございます」

「フロレリア様、おはようございます」


 フレアの元気な挨拶には満足げだが、ルージュにはフロレリアが不満そうに口をとがらせる。


「むう~~、ルージュちゃん。様付けなんてやめてっていつもいってるじゃない」

「たとえフロレリア様が義理の母になってもわたくしの態度は変わりませんわ」


 めざといフロレリアはルージュを見たあとでフレアを見比べる。今のルージュの婉曲の意図を正確に理解してしまう。そして、ほほに手を当てにやけた。


「あらあら、もしかしてそういうことなの?」

「ご想像にお任せします」


 2人でわかり合っているように頷きあう。よくは分からないがフレアはあらぬ誤解が全速力で暴走している気がしてならなかった。だから、探りを入れてみる。

 

「一体何の話ですか?」


 不安げに尋ねるフレアにフロレリアが愛らしい仕草で人差し指を口元で立てるとウインクする。

 

「ふふ、なーいしょ」

「むう、ママがこういう浮かれかたをしたときはろくなことがありません。ルージュさん2人して悪巧みをしてませんよね?」

「心外だわ。これはとても楽しい未来に関するお話よ」

「うふふ、その通りね。ああーー、将来が楽しみよねーー」

 


 意味深に語るルージュはそこでダイニングテーブルに視線を移すと眉をひそめた。なぜそこにいるのだと表情が凍り付く。

 フレアもその視線を追うとどういうわけかシルヴィアがグローランス家の食卓にお邪魔していたのである。フレアは丁寧に共和国第5王女に挨拶する。


「シルヴィア様、おはようございます。朝から何かご用でしたか?」

「おはようございますわ、フローレア様。朝早くからお邪魔させてもらっていますわ」


 可憐でお淑やか、丁寧に挨拶してくる様子にフレアはぎょっと驚いた。フレアの知る本来のシルヴィアは今見せたようなお嬢様然とした態度ではない。

 衝撃のあまり思わず悪意のない悪態が口から飛び出す。


「あ、あなたは何者ですか!?」

「はあ? シルヴィアよ。一体何を言っているのかしら?」

「それはこちらのせりふですよ。私の知るシルヴィア王女はがさつで暴力的で男以上に男前なところがあって、自分の体が()(わく)(てき)なことに無自覚で、動きづらいからと露出の多い衣装を恥ずかしげもなく着こなす()(てん)()王女なのですよ」


 これにはシルヴィアが大いにこめかみの血管を浮き上がらせていら立った。ルージュは手で口元を押さえつつも吹き出すような笑いを堪えている。


「あなたが私をどう見ているのかよーく分かりましたわ」


 フレアは真面目に心配してるのだが飽くまでも可憐な王女像を崩したがらないシルヴィアは怒りをぐっと堪えて優雅に笑うだけだ。

 その笑いをフレアは勘違いし、

 

「悪い物でも食べましたか。毒キノコで錯乱しているとか」

「誰が錯乱よ!!」

「あ、今のキレのある返しはシルヴィアさんですね。よかった~~、本物です」

「ツッコミで判別される王女ってどうなのよ」


 後で覚えていなさい。

 などとフレアにだけ聞こえるように脅迫してくるので震え上がった。

 こほん、と仕切り直してシルヴィアはフレアに歩み寄ると耳打ちする。


「あなたはマコト様とどういう関係なのよ」

「えっ、どういう関係と言われましても」


 フレアはどう説明したものか悩む。まさか自分のもう一つの姿とでも言えばいいのだろうか。適切な言葉が見つからないでいる。

 そもそも、なぜシルヴィアがマコトを気にするのかが謎だ。だから、ひとまず当たり障りのない言葉でぼかして伝えてみる。


「マコトさんは昔からお兄ちゃんみたいな存在でしょうか」


 ウソは言っていない。思い出した過去の記憶では本物のフローレア・グローランスがマコトのことをお兄ちゃんと呼んでいたからだ。


「そうなのね。マコト様も私を助けに来てくれたときあなたにお願いされたというし知り合いなのね」


 そう納得するとシルヴィアは思い詰めたような顔をしてフレアに(こん)(がん)する。


「お願い。マコト様が今どこにいるのか教えて。無事なの?」

「それは大丈夫ですよ。しかし、必死ですね。シルヴィア様こそ知り合いなのですか?」

「そうよ、彼とは昔共和国で一緒に過ごしたことがあるの。マコト様からは友達だといって下さりましたわ。そして、私の運命の皇子様なの」


 ぽっとらしくもなくほほを赤らめ恥じらうシルヴィア。


(皇子様? 夢見がちな乙女がよく用いる()()なのでしょうが。昔の私は(ずい)(ぶん)と入れ込まれたものですね)


 今のフレアはマコトの過去の記憶がほとんど思い出せないのでシルヴィアとの間に何が会ったのか全く分からず困る。


「ええっと彼は……マコトお兄ちゃんは忙しい方ですからなかなか連絡が付きません。何か伝言でもあれば承りますが?」

「それには及びませんわ。幾らでも待ちます」


 それはどういう意味だろう。

 どことなく嫌な予感がするのだがフレアはあえて聞くことに(ちゅう)(ちょ)してしまう。その答えはパティと同レベルのお花畑な母、フロレリアから聞かされることになる。


「あ、そういえばフレアに言い忘れていたことがあったわ。今日からシルヴィア王女殿下がウラノス魔導騎士学園魔法少女科Gクラスへ留学編入することに決まったのよ。ホームステイ先としてグローランス家が預かることになったの。うふふ、娘が増えたみたいで嬉しいわ~~」

「「はあ~~!?」」


 これにはフレアばかりかルージュまでもが嫌そうな表情を隠さずに聞き返した。


「おほほほほ、ということですのでしばらくお世話になりますわ。あ、本国には飛竜便を飛ばして連絡済みですからご安心くださいね」

 

 もはやシルヴィアの言葉は右から耳に入っても左に抜けていくかのように頭に入ってこない。

 どうしてこうなった。

 フレアとルージュは双子のようにそろって頭を抱えることになる。

 そんなフレアにシルヴィアは抱き込むと耳打ちする。


「いいこと、私の忠実な下僕メイド。私が実は御転婆だってことマコト様にばらすんじゃないわよ」


(無理ですよ。だって私がマコトなんですから!!)


 言いたいけど言えないフレアは心の中でのみシルヴィアに訴える。


「共和国の民の間では『共和国の至宝』とまで言われる美姫で名がとおっているの。全てはマコト様に見初めてもらうため努力してきたんだから。積年の恋心甘く見ないでよね。もしばらしたら友達のあんただろうが殺す。そして、マコト様と心中自殺するわ」

 

(ひいいいぃぃぃっ!!)


 シルヴィアの恐ろしい発言にフレアは魂の底から震え上がった。こうなってはすべて手遅れ。


(言えない。これはもはや言える空気ではありませんよ。私とマコトがある意味同一人物だという事実は何が何でも隠し遠さなければ…………殺される!!)


 フロレリアに助けを求める視線を向ければまるで分かっていない彼女から力強い後押しのガッツポーズが返ってくる。フレアはこのことから母の助けはないものと判断する。


(ママは援護どころか火にガソリンをくべる効果になりかねません)

 

 そしてルージュに助けを求める視線を送ると大丈夫分かってる、と頼もしい頷きが返ってくる。

 最強の護衛はフレアの命綱になってくれるらしい。


(ルージュさん、あなたが私の救世主です)

 

 フレアは心の中でルージュに手を合わせ有り難がるのだった。

 

 


 学園祭2日目。

 2日目は一般人を全て受け入れていた初日と違って学園関係者や父兄など入場を制限したものとなる。

 それには理由がある。魔法少女科にはG組とS組の他に試験的な試みとして2年前より始めた2学年、あわせて20名の魔法少女がいる。

 彼女たちは西や北方の前線の後方支援が主だが、実地訓練を約2ヶ月間こなして一時的に学園に帰ってきた。その魔法少女たちをもてなそうというのがフレアの考えである。久々に帰ってきた先輩魔法少女たちを学園祭でもてなすための2日目でもある。


 学園前では魔法少女の生徒の帰還にS組とG組の生徒による魔法のデモンストレーションが始まった。といっても攻撃魔法ではなく空に光の線を描き生徒たちが巧みな連携で大輪の花を咲かせていく。

 これは魔法少女たちの協調性、魔法技術の向上を先輩魔法少女たちに示すものである。同時に歓迎ぶりを表すものであり、気持ちが沈むような前線から戻った魔法少女たちに笑顔が浮かぶ。


「あ……、フレアちゃ……、お久しぶり」


 魔法少女科3年目のゼロクラスをまとめる魔法少女メリルがたどたどしい口調で、出迎えるフレアに駆け寄った。

 メリルはリーダーシップをとれるタイプではない。それでも醸し出すやんわりとした雰囲気に周りの生徒が自然とフォローする。そんな不思議な魅力を持つ少女だ。


「実地訓練、ひとまずはお疲れ様でした。今日は学園祭をやっていまして楽しんでくださいね」

「あ、ありがと……。わたしからもフレアちゃんに、お土産、ある。……あれっ?」


 何かを取り出そうとしてメリルはキョロキョロと周囲を見回した。そして、フレアに渡そうとした物がないことに気がつくと涙目になる。


「あうう、ご、ごめんね。どこかにおいてきちゃったのかも?」


 それはもう、申し訳なさそうに上目遣いで見つめてくるのでフレアは笑って応じた。


「気持ちはたくさん受け取りましたよ。とても嬉しく思います。だから泣かないでください」


 そこに寡黙そうな小柄な魔法少女がやってくる。手にはお土産の包みがあった。


「メリル、落とし物」

「はわわ、それ、それだよ。ありがと、フランちゃん」

「……気安く抱きつかないで(息ができない)」


 感激してメリルが抱きついた少女はフラン。今年で魔法少女科2年目になるクラスをまとめる少女だ。

 彼女は言葉が少なくきつそうな印象を与えがちだ。その実面倒見が良く、人付き合いが不器用なだけの少女だ。それがいったん分かってしまうと同級生たちは中毒のようにフランを熱烈に慕っていたりする。

 フレアは総勢20名の魔法少女の帰還に涙を流さんばかりに感激する。


「うんうん、みんな元気そうで安心しました。本当によかったですよ」

「相変わらず魔法少女バカ……」


 魔法少女のことになると過保護すぎるフレア。フランはフレアの大げさな態度に(しん)(らつ)な言葉を投げかける。それも、フランなりの親愛の言葉と知るフレアはますます嬉しそうだ。


「前線で困ったことがあったら言ってください。魔法少女をあしざまする貴族(イケメン)は潰しますし、必要な物があったら全力で支援しますから」


 それを聞いて『ならば教会に寄付をおおーー』とめざとく聞きつけたロザリーの怨念めいた声が聞こえた気がした。が、フレアは無視をする。

 これにはメリルが苦笑いで聞き流すことにした。


「あ、うん。フレアちゃん、大げさ。前線の砦に魔導兵器がほしいっていったら最新の魔導式固定砲台が100門届いた。あれ、みんな言葉失ってた」

「やはり足りませんでしたか」

「……ちがう。あんな高級兵器は大きい拠点でも5つあれば良い方。現地の指揮官驚いてひっくり返ってた」

「それは良かった」

「良くないでしょ、バカフレア」


 フランから容赦ない罵倒が浴びせかけられる。良いことをしたと思っていただけにフレアの肩は目に見えてさがった。

 戦線はいつも死と隣り合わせ。大層驚かれはしたがその兵器で犠牲は減ったのは事実。フランはそのことも伝えようとするも自分は口下手だから余計に傷つけるかもしれない。そう思うと言葉が出ないでいる。だからフランはフレアのことを見つめることしかできない。


「……あっ」


 そんなフランの葛藤に気がついたメリルが代弁する。


「フランちゃんは、ね、前線の人たちが助かったのを知ってフレアちゃんにありがとうって言いたかったんだよ。ねっ、そうでしょフランちゃん」

「んっ、そう」

「よかったです。余計なことではなかったのですね」

「ん、そう。だたフレアは加減を知った方が良い。だからちょっと、めっ、なの」


 一連のフランの様子に同級生たちは可愛い~~、と悶え始める。それは見ていたフレアも同感だった。

 

「今日は学園祭2日目。楽しい催しがたくさんありますから楽しんでくださいね」

「ん、そうする」

「た、たのしみ、だね。フランちゃん」

「じゃあ、皆さん解散して良いですよ」


 フレアがそう言うと待ちきれなかったように彼女たちは思い思いに散っていく。

 珍しい食べ物がたくさん売っている露天の数々。子供たちに食べられてボロボロのお菓子の家や、魔法の植物による花園迷路コーナーやぬいぐるみたちによる楽しい曲芸など先輩魔法少女たちの興味を引く物が目白押しであった。まだまだ少女である彼女たちが自分を抑えきれなかったのも仕方ない。それでもフランは苦言が抑えきれなかったようである。


「はしたない」


 辛辣な物言いにメリルがあはは、と乾いた笑いで流す。メリル自身、このはしゃぎようは先輩の面目が立たないと考えているようだった。とはいえせっかくのお祭りに水を差すこともしなかったのである。


 

 魔法少女たちが解散して学園祭を視察して回ろうと考えていたフレアの元にシャルとニャムがやってくる。

 照れているシャルにニャムが背中を押して元気づけているようにも見える。ああいう仲の良い様子を見ているだけでフレアは自然と笑みがこぼれた。

 だからフレアの方から話しかける。


「シャルさん、ニャムさん。どうかしましたか」

「ひゃわっ、えっと……、どうしようニャムちゃん。どう言おうか考えてたこと飛んじゃった」


 あわあわと慌てふためくシャルにニャムが任せて、と前に出る。


「フレアちゃん。実はお願いがあるの」

「構いませんよ。魔法少女のお願いなら全力でお応えしましょう」


 前世では魔法少女おたくだったフレアである。魔法少女のお願いなどむしろご褒美だ。


「フレアちゃんは最近魔法少女の危機に現れる謎の男の子のこと知ってるよね」

「え、ええ。ソウデスネ」


 むしろ、マコトの正体はフレアなのだから知っているどころではない。


「フレアちゃんならその男の子に何とか伝言をお願いできないかなって思ったの」

「……なぜ、私に?」


 まさか正体を見破られているのかと疑う。


「フレアちゃんって商会の情報網があるでしょ。なんとか連絡つける方法を見つけてくれるんじゃないかって思ったのーー」

「ああ、そういうことですか」


 内心ほっ、と息をつく。ニャムは今度こそシャルを前に出して話の続きを促す。


「さあ、シャルちゃん。後は簡単でしょ。頑張るの」

「わ、分かってるわよ。こ、ここ、この程度楽勝だし」


 強がっているもののシャルの声は震える。ぎゅっと手を握りしめてシャルはフレアにお願いする。


「お願い、フローレアさん。私と舞踏会一緒に踊ってください」

「はっ?」


 てっきりマコトに伝言を頼まれると思っていたのだがなぜかフレアにお願いが来た。意味が分からずぽかんとしているとニャムがシャルの脇腹を小突く。


「違うの。フレアちゃん誘ってどうするの(ある意味間違ってないけど)」

「あああっ、そうだったわ。ごめんなさい」


 そういってシャルは改めてフレアにお願いする。

 

「マコトさんに私と舞踏会で踊ってくださいっていう伝言をお願いしたいの」

「あ、そういうことでしたか」


 てっきり正体がばれたのかと驚いたがシャルが焦って間違えたらしいと納得する。


「伝言だけなら可能だと思います。ただ応じてくれる保証はありませんよ」

「構わないわ。舞踏会は夕方からよ。私ずっと待ってるから。そ、それだけっ」


 その後は顔を沸騰しそうなほど赤くして恥ずかしさに耐えきれず走り去っていく。

 その様子を見送りフレアは頭を悩ませた。


「う~~ん。どうしますかねえ」


 変身はフローレア・グローランスの体に負担をかける。頻繁に使っていいものではない。だからといって魔法少女の願いを無下にするのもはばかられた。

 何よりシャルの様子を見るにマコトがくるまでずっと1人でも待っているのではと心配した。

 

 


(とある少女の視点)


 ここは魂の深い所にある精神世界。私は美しい自然が広がる仮想の世界に閉じこもる。誰もいないからか美しさだけが強調されているようで温かみを感じない。今も外の様子を水面に映される情報の泉をすくい上げて知識を得る。

 最近、私の胸で軋むような痛みが襲うのです。ここにいればあの人がそばにいてくれる。それだけで満たされ安心する。

 ――そのはずだった。

 でも今は私の心に不安と焦燥感にも似た嫌な気持ちが棘のように刺さって抜けないの。

 先日もルージュちゃんに抱きつかれたあの人は動揺してたの。私はそばでみてるからすぐに分かるもん。ルージュちゃんはとっても美人さんだし抱きつかれたら浮かれちゃうよね。あ、少しもやもやしてきたんだよ。


「ふみゅぅ、私の体ってぺったんこだし……」


 言ってて悲しくなります。私って基本ドジだし、子供っぽいし、泣き虫だって自覚はあるの。あの人みたいに自分に自信が持てない。

 強くいわれると萎縮して何も言えなくなる弱い私。


「未来は変わってきてるの。でも、私はこのままでいいの?」


 自分に問いかける。答えなんて返ってくるわけではない。だけれども私は言わずにはいられない。

 この気持ちが何なのか分からない。でもきっとこのままだといけないって思う。

 私が出てあの人みたいにうまくやっていけるのかと言われれば自信がない。というよりも無理。

 そして、そんなダメダメな私に自己嫌悪してしまう。


「今までは誰よりもそばにいられるこのままが良いと思っていたのに……」


 今日もあの人は朝から女の子にアプローチをかけられている。今はシャルロッテという魔法少女クラスの子が舞踏会に誘っている。

 間違いなくシャルちゃんはあの人の正体に気がついているのだろう。だから『フレア』に伝言を頼むという形をとっている。


「……お兄ちゃんは誘いを受けるのかな」


 口にした何げない言葉。直後、私の心はまたも悲鳴をあげた。

 受けないでほしいと願った私はきっと嫌な子だ。


(とある少女の視点終わり)


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