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第84話 魔技研編 『ジェノムのわな。マコト窮地に陥る』

 ヒーローショーに乱入してきた異形は悪魔を思わせる。浅黒い肌に攻撃色が強い頭の角に手足の鋭い爪。どんよりとした体を覆う魔力の(まが)々(まが)しさは見るものに畏怖を植え付けた。

 そして、その異形はヒーローショーを見に来た何千もの一般人の命を刈り取る圧倒的な風の魔法を頭上から振り下ろす。

 暴風吹き荒れる塊は触れれば人など粉々に引きちぎりる猛威だ。まるで何千もの鋭い猛獣の牙を持っているかのように容赦なく命を刈り取ることだろう。


 見上げた人々は恐ろしい魔法の脅威に足が(すく)み腰を抜かしてしまう。誰もが死を予感した。理不尽な現実に怒りと絶望と悲しみが入り交じり、もはや神に祈るしかない状況。そんな圧倒的な魔法の脅威に立ち塞がった男がいる。

 前代未聞といえる魔装による変身を可能として魔装甲冑をまとい、強力な魔法砲撃で撃ち払い人々を救ったのである。


《魔装騎士マルクス》

 

 その名が浸透すると人々は熱狂した。特に子供たちが変身ヒーローの誕生の瞬間を間の当たりして狂ったように喜んで応援する。


『マルクスーーーー、がんばれええええーーーー』

 

 異形は明確な脅威と判断したマルクスに向かって同じく空に飛び上がり空中で格闘戦に突入する。もともと魔導騎士だったマルクス。接近戦は得意であり今は変身によって空の飛行を可能とし戦闘力も跳ね上がっている。

 強力な魔法を用いる襲撃者とも今渡り合っていた。手に汗握る拳と蹴りの応酬を地上から見ていた大人たちすら熱くなりマルクスを熱のこもった視線で見守った。

 マルクスもまた圧倒的な力を感じる敵に対して必死で戦い子供たちの応援に勇気づけられる。


「ぬおおおっ、《マッスルストライク》!!」


 風の魔法衝撃で大気を切るように打ち出されるキックが異形にヒットする。鋭い角度で異形は舞台に吹き飛ばされ突きささる。だが大して効いていないかのように無表情のまま立ち上がる。


「ハアッハアッ……。くそっ、どうなってやがる。攻撃が効いてないのか?」


 実力はもとより敵の方が上だと最初から分かっていた。マルクスは全力で魔力を使い消耗が激しい。短期決戦しかないと踏んでいるがこうも手応えがない敵は不気味であった。

 マルクスが戦っているのは精霊を使役するオラクル帝国の主力、契約精霊。

 本来門外不出であるはずの契約精霊の技術を手に入れたオズマ。彼が更にその力を攻撃的かつおぞましいものへと発展させたのがこの敵の正体だ。


【《アッシュウィンドスピリット》:風の上級精霊を邪悪な力で堕とした契約精霊の一種。攻撃的な力を無理矢理押し上げられたため契約精霊は常に想像を絶する苦痛に苦しみ、おぞましい変異を遂げている。現在はオズマの邪道騎士デザイヤに従わされている】


 フレアは神龍眼の鑑定スキルを発動し、現れた襲撃者の情報を分析していた。


(オズマの刺客ということですか。しかし、この情報を見ているとオズマとホロウの繋がりを疑いたくなりますねえ)


 更には契約精霊という技術自体帝国にホロウの影があるように思えてならない。

 フレアは頭に浮かんだ疑念をひとまず振り払い現状の対策を考える。

 

【対処法:浄化攻撃が有効。魔法少女による強力なフィニッシュアタックを推奨します。『ミラクルマギカブレス』の場合は通常浄化魔法で弱らせる必要あり。

 備考 :精霊解放後はユーナちゃんのようにあなたの持つ魔装宝玉に宿らせて保護してほしい。ちょっと考えがあるんだよね(by知の女神ミル)】


(備考は無視しよう)


 フレアはそう考えていると(もう)(まく)に女神ミルからの抗議の文章が映し出される。


【無視はひどくない? もっと神様は敬うべきではないかな】


(人の心を読んでおいてよく言う)


【口での会話にすると(はた)()には独り言を(つぶや)く怪しい人物にされる、と思っての配慮なのにひどいなあ】


 そう言われるとミルの言うことも一理あるとフレアは納得する。


(分かりました。謝ります。ですが私の魔装宝玉に上級精霊を保護してどうする気ですか?)


【ふふ、これはホロウのあの御方や無魔の天帝、いや、悲劇の”預言”に逆らう会心の一手になるかもしれないよ。元々君と『フローレア』が1つになる前に画策していたことへの補完的な手助けとなるだろうね】

 

(それは一体どういう……っ!!)


 何か重大なことを言われた気がしたのだがフレアはシルヴィアの声で現実に引き戻される。


「ボケメイド、何ぼーっとしてるのよ。会場のあちこちで怪しい武装集団が来てるわよ」

「邪道騎士たちですね。騒ぎに乗じて観客を無差別に狙うつもりですか」

「今はあの面白変身芸人(=マルクス)の衝撃で観客の意識がそれているけどね。これはまずいわよ」

「ええ。負傷者が出ればパニックになり被害は計り知れません。どうしたら……」


 悩むフレアにシルヴィアが背中をバンバンと叩き笑い飛ばす。


「大丈夫よ。この状況を利用すれば良いのよ。任せなさい」

「一体何をする気ですか?」

「どのみち台本からはそれてしまったわ。こうなったらアドリブで突き進むのよ」

「まさかの行き当たりばったり!?」

「あははっ、このテロもお芝居の(いっ)(かん)にしてしまうのよ!!」


 シルヴィアは実に生き生きとした表情で拡声器の魔導具を口元に持って行く。戸惑いも多い観客に向かってショーの続きのように語り出す。


〈説明するわ。ただの筋肉バカだと思っていたマルクスは人々から善意のパワー《キュアフォース》を受け取ることによって魔装騎士マルクス、もといドラグーンナイトに変身するのよ〉

「誰が筋肉バカだ!!」


 シルヴィアの説明にマルクスから間髪入れず突っ込みが入る。すると観客からは笑いが沸き上がる。

 ああなんだあ、これもショーの演出なのか、と人々は安心し落ち着きを取り戻す。

 一方ですらすらと思いつきで場をつなぐシルヴィアの対応能力にフレアは頭を抱える。


(シルヴィア王女って大物ですねえ)


 シルヴィアは語りながらも観客席に飛び込んでいき、守る警備側と襲撃者との戦いに割って入る。

 

「ちょっとーーーーっ、王女が何してくれるんですか!?」


 他国の王女がテロリストとの戦いに参戦しフレアは大慌てだ。これでシルヴィアに何かあっては国際問題である。そんなフレアの心配をよそにシルヴィアは快調に暴走していく。

 

〈突如現れたなぞのイケメン怪獣《ヨコドリン》。無差別に敵味方関係なく襲い始めたわよ。どうやらヨコドリンは悪意の力《ダーティーエネルギー》の食あたりで暴走してしまったみたいよ〉


 怪獣も食あたりするのかよ、などと会場からまたも笑いがこぼれるとシルヴィアが会場の子供たちに呼びかける。それも邪道騎士たちを殴る蹴る、ヘッドロックで落とすなど無双しながらである。


〈さあ、ドラグーンナイトに皆で声援を送るのよ。善意のパワー《キュアフォース》が集まればそれだけ助けになるわ、せーーの〉


『『『ドラグーンナイト、がんばれえええーーーー』』』


 声援を受けてマルクスは勇気づけられはするもののシルヴィアには怒りで叫びたくなる。


「(無茶ぶりするんじゃねえ。この敵は芝居じゃなくてガチなんだぞ。既にギリギリだっての。魔力がもう半分きったんだよおーー)」


 フレアはレイとマルクスが共闘し意外と善戦していることからまずは観客を襲う愚連隊を魔装銃で排除していく。

 その中で目立つのが実況しがらもテロリストたちを次々に蹴散らすシルヴィアの強さである。

 

「……おかしいですね。邪道騎士って王国の近衛騎士に匹敵かそれ以上の強さなのですが」

「彼女も王女とはいえ竜人。それに喧嘩慣れしているわね。意外と武闘派みたいよ」

「ルージュさんの見立てではどの位の実力ですか」

「さあ、まだ本気を出していないようだけれど。それでも邪道騎士の兵卒程度に遅れは取らないレベルね」

「さすがエクリス王女の妹といったところですか」

 

 フレアはシルヴィアの援護はそこそこに魔装銃で発砲する。主にシルヴィアの手が回らない場所の敵を狙うことにする。ここには通常の警備兵もいるが彼らでは邪道騎士の相手は荷が重い。そしてフレアの銃撃も射線の問題や手数の理由から限界がある。


「ルージュさん、『マコト』になって対処します。そうすれば使える力が格段に上がりますからね。目くらましを」

「了解よ。既に会場にいる観客は魔法障壁で保護済みよ。観客に血は見せないよう警備兵にも個別に障壁の支援を張ったわ。だけど毒を使われたら防げないわよ」

「分かりました。制圧を急ぎましょう。デザイヤがまだ出てこないのが気になります。このことを管制室に連絡。情報の共有を図ってください」


 ルージュは頷くと辺り一帯に闇の魔法を振りまきフレアを狙って向かってくる敵に対して(かく)(らん)する。そして、これは同時にフレアがマコトに変わる変身のカモフラージュでもあった。


「神龍眼緊急コード発動。マコト覚醒!!」

 

 フレアの詠唱によってフローレア・グローランスの中に眠るもう一つの魂、マコトを呼びおこし男の姿に変身する。この姿になることで本物のフローレアの魂は一時的に凍結され、膨大すぎる魔力も封印される。これによりマコトの魔法使用が解禁されるのである。

 

「ルージュ、君を信頼してる。民を頼む」

「――っ、はい」


 口調もがらりと変わり男らしい姿にルージュはドキリとときめき、少しまごついた。ルージュの作り上げた闇の空間を飛びだしマコトが敵に立ち向かっていく姿をルージュはほうけた表情で見送る。


「本当に鈍感で無自覚なのね。きっとさっきのせりふも深い意味は無いのでしょうけれど」


 困った人と呆れながらもルージュは間近に迫ってきた邪道騎士たちを片手間にねじ伏せる。これは大規模防御魔法で人々を守りながらの戦闘であり、これを当然とばかりに可能とするのが天才魔法少女ルージュである。




 ヒーローショーがテロリストの襲撃を受ける中、姿を見せないデザイヤがどこにいるのか。それはウラノス魔導騎士学園附属校校舎の最も高いところにある時計塔の最上階に潜んでいた。


「くくくっ、ばかめ。会場の派手な襲撃は全て陽動だよ。全てはここから致死性の毒を散布することにある。魔技研の交渉も失敗した今、我々愚連隊の汚名をすすぐには報復しかない。何千という民を虐殺し再び愚連隊の恐ろしさを世に知らしめるのだ」


 附属校の校舎内は基本開放していなかったことと陽動によって警備が薄くなったためにデザイヤは容易に侵入することができた。

 問題は毒をばらまく装置が思いの外大きいので見つかれると怪しまれてしまう。そのための陽動作戦だった。


「どうだ。この完璧な作戦をみたか。グローランス嬢、今度こそ貴様を出し抜いてやったぞ」


 装置を設置し終わるとデザイヤは勝利を確信し高笑いを始める。しかし、その声も不意にかけられた少女の声で止まった。


「何がそんなにおかしいのかしら? ここは立ち入り禁止よ」


 デザイヤがふり返ると学園の制服を着た大人しそうな少女が警戒心のかけらもない様子で立っていた。

 デザイヤは内心ドキリとしたが少女の無警戒さと隙だらけの様子に醜悪な笑みを浮かべる。

 デザイヤは無害な一般人を装い少女に近づいた。


「いやあ、申し訳ない。うっかり迷い込んでしまいまして」

「あら、そうなの。でしたら入り口まで案内しましょう」


 一歩一歩近づきながらデザイヤは少女の分析をする。


(くくっ、どうやらこいつは魔法少女のようだな。しかし、(しょ)(せん)魔法少女よ。お人好しなところはあいかわらずだな。俺がテロリストなど疑いやしない)


 例え途中で気づかれたとしてもデザイヤは間合いに入ってしまえば変身する間もなく殺害する自信がある。


(魔法少女といえど変身しなければただの小娘よ。身なりと振る舞いから貴族のようだ。なおさらに楽勝だな。さあ、あと二歩、あと一歩……さあ、終わりだっ!!)


 間合いに入ると善良な一般人の顔を脱ぎ捨てて隠し持ったナイフで襲いかかる。

 しかし、デザイヤは相手を侮るあまりに見誤った。相手もまた普段から仮面をかぶることにかけては超一流のおてんば貴族令嬢なのだ。お淑やかな令嬢の仮面を脱ぎ捨てるとデザイヤすら萎縮する覇気をまといデザイヤを圧倒する。


「がはっ――な、なんだと?」


 少女の放ったあまりにも重いパンチを腹部に受けたデザイヤは壁までふっ飛ばされてから膝を突く。

 か弱いはずの少女の一撃にデザイヤは体がショックを受けて動かない。


「生身でもこれほどの魔法少女がいるとは聞いてないぞ。貴様は一体?」


 少女は優雅さを失うことなく恭しくその場で貴族のお辞儀をすると言った。


「私は学園祭風紀員の長、ユーナ・ウェンディアナというわ。テロリストさん。私はお人好しではないし、フレアさんは表の襲撃が陽動だと既に看破していたわよ。さあ、お覚悟を決めなさい」


 だがデザイヤは往生際が悪い。顔面真っ青になりガチガチと歯を鳴らして震え出す。


「駄目だ。どのみち捕まってもすぐにジェノム隊長に殺される。だったら……」


 あがくデザイヤにユーナは指を振るとその頭を水で満たして空間に固定する。突然水で顔が包まれたデザイヤはパニックを起こし、のたうち回ると窒息して意識を失う。ユーナは水の魔法ですぐさま拘束する。


「ジェノム隊長ね……」


 ユーナはどうにもその名が引っかかるも通信魔導具で連絡を取る。


「こちらユーナ。時計塔最上階にてテロリストを確保。毒物をまこうとしていた模様。処理班をよこして頂戴」

『管制室、了解。すぐに手配します』


 ユーナは考え込んだ後何が引っかかったのかようやく気がつく。デザイヤは捕まってもすぐに殺されると言ったのだ。


「すぐに殺される……。まさかっ」


 ユーナは走り出す。デザイヤの上司は近くにいるのではないのか。ならばいまだに姿を見せないのはなぜか。

 答えは今の状況を考えればすぐに予想が付く。


「敵の本当の狙いはシルヴィア王女の暗殺よ」

 

 ユーナは時計塔の壁を拳でうち抜き、風穴を開ける。いち早く駆けつけるためにユーナはその場から飛び降りるのだった。




 邪道騎士たちはシルヴィアが最大の障害と認識し集まって包囲する。シルヴィアは特に危機感は感じていない。彼らを無傷で制圧する自信があったのだ。

 しかし、シルヴィアを守るように見知らぬ少年が空から眼前に降り立った。

 そして、向かってくる邪道騎士をその少年は迎え撃つ。


「無極性魔法多重展開、強化鎧装《ベルセルク》」


 詠唱が終わるとマコトの体は赤と黒に輝く半透明の魔力が鎧のようにまとわりつく。その形状はシルヴィアの闘気と魔法によって形成する鎧竜鱗と似ていてわずかに驚いた。

 似ているようでいて違いもある。マコトが邪道騎士を蹴り飛ばすと頑強な魔導鎧が飴細工のように弾き飛び、あり得ないほどの勢いで吹き飛ばされていく。

 これには邪道騎士たちが警戒して動きを止めた。


「鎧竜鱗とは真逆ね。防御よりも攻撃性に特化したのね」

「一目で見破るとはさすがですね」


 シルヴィアはマコトを向かい合うと観察する。ふわりとした笑顔で礼をし挨拶する。


「俺はマコト。フレアちゃんの要請をうけて参戦させていただきます。露払いはお任せ下さい。あなた様はどうか自重しご自愛下さい」

「いやよ」

「即答!?」


 シルヴィアはマコトの間髪入れずの返事に反応が良いわね、と満足する。それに今の今までマコトの視線が不快な方向に動かないことにも好印象を抱く。


「へえ~~、あなた面白いわね」

「えっ、俺って見た目だけで面白芸人だったの?」

「ぷっ、あはは、違うわよ」


 本気で嫌そうな顔をしているのでシルヴィアはお腹を抱えた。

 あまりにも隙だらけなので邪道騎士たちも舐められていると感じ激高した。


『おのれええ、我らに包囲されて笑うなどとふざけおって。一斉にかかれっ』


 周囲から一斉に斬りかかってくる邪道騎士にマコトは背中から炎のように真っ赤な翼を出現させる。


「炎の、翼?」


 見たこともない力強い翼に見とれていたシルヴィアはあっさりとマコトに抱えられてしまう。そのまま空へと飛びあがった。


「失礼します」

「ちょ、何軽々しく触ってるのよ。あれくらいの攻撃、私の鎧竜鱗ならビクともしないわよ」

「鎧竜鱗は確かに鉄壁の優れた能力ですが過信は禁物です。打ち破る方法がないとも限りません」

「余計なお世話よ」

 

 どうにもシルヴィアは調子が狂う。マコトはシルヴィアを王女と知っている振る舞いをする。なのに今のシルヴィアは王女の仮面のスイッチが入らない。

 まるでマコトが昔から気心の知れた友人のように感じられた。

 それでも男に抱えられたままなのは居心地が悪いので突き放すと自分の翼で空を飛ぶ。

 マコトはその後地上のテロリストたちを空から見下ろすと拳を引いて舞えた。


「ガンマギウスナックル……」


 拳に高密度の魔法が幾つも重ねられシルヴィアはマコトの繊細な魔法制御をみてあっ気にとられる。だがその後に起こった攻撃はさらなる衝撃をうむ。


「――スナイパーカノン!!」

 

 マコトの突き出した拳から無数の魔法砲撃が放たれた。邪道騎士たちは頭上より降り注ぐ精密な魔法砲撃の雨に次々と直撃し倒れていく。気がつけばたった一度の魔法でテロリストは最初の襲撃者を除き全滅である。

 あまりのことにシルヴィアはマコトに詰め寄る。


「な、あんた自分が何したのか分かってるの?」

「えっ、手加減はしているので殺してませんよ。観客に血を見せるわけにはいきませんから」


 シルヴィアはがくっと空中にもかかわらずずっこける仕草を見せた。


「なんで竜人でもない人間の男があんなすごい遠距離魔法砲撃が撃てるのよ。ありえないわよ」


 そこでシルヴィアははっとする。近くでのぞき見るとマコトの瞳は縦に瞳孔が走り、それは竜人を思わせる。

 何より今度こそ度肝を抜かれる。目に神力の波動を宿し輝く様はシルヴィアも伝承でしか知らない伝説の瞳術『神龍眼』だったのだ。竜人にとってその意味はとてつもなく大きい。それこそ現在共和国で続いている王族間での王位継承戦争すら左右しかねない。


「うそ、神龍眼? あれは迷信ではなかったというの」

「神龍眼ってそれほど珍しいのですか?」


 あまりのシルヴィアの動揺ぶりマコトが聞き返した。

 意識が戦闘からそれて警戒が緩んだときだ。不意に背後から圧倒的な存在感を持つ精霊が空間を突き破り突如出現する。


「なっ、また契約精霊!? それもいまマルクスが戦っている個体よりもはるかに強い」


 2人は戦わなくても相手の強さが分かってしまう。

 ベルカで出会ったホロウの上級精霊すら凌ぐ圧倒的な魔力の圧力が力の程を表している。

 そもそも空間を突き破ってきたこの精霊は空間跳躍が可能だということである。マコトはこの契約精霊の攻撃は絶対に避ける必要があると判断した。

 空間系魔法使いの厄介さはルージュとリリアーヌを護衛に持つマコトならよく分かる。だが正面の敵に気を取られ、マコトはその死角から迫る敵の本命に気づくのが遅れた。


「隙あり!!」


 背にかばったシルヴィアの背後から同じく空間を突き破り、愚連隊の隊長ジェノムが襲いかかってきた。


「何が隙有りよ。鎧竜鱗の防御を抜けるとでも……、あっ」


 シルヴィアは特に焦ることなくジェノムの突き出される剣を待ち受けたのがまずかった。鉄壁の防御を誇る鎧竜鱗も空間をゆがめて突き進む剣を防ぐことはできない。わずかに抵抗があっただけで剣はシルヴィアの心臓に向けて突き進む。

『死ぬ?』

 死の予感に硬直し恐怖したシルヴィアだがとっさにマコトが体をすり替えて盾になる。


「がはっ」


 そうなるとジェノムの剣はシルヴィアからはそれたがマコトの胸を貫いた。

 地上からルージュの悲鳴が聞こえた。激怒したルージュが空へと飛び上がり救出しようと剣を抜く。

 ジェノムは視線をルージュに向けると自身の契約精霊に命じる。


「あの黒の魔法少女は厄介だ。跳ぶぞ」


 ジェノムの命令に女性型の精霊が無言のまま4人を空間魔法で包み込み消えた。

 マコトとシルヴィアを別の空間に跳ばし孤立させようとしたのだ。しかし、間一髪ルージュではない1人の魔法少女が高速で飛び込み、乱入したことにジェノムたちは気づかなかった。


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