第80話 魔技研編 『フレア対ゴーマン、謀略の応酬』
ある日、ルドルフはガランの商店街を部下の官僚たちと視察していた。賑やかで予想以上の栄えぶりに学ぶことの多いと彼らの目は真剣だった。そんな折にフレアと護衛のルージュにばったり出会った。
「これはファーブル翼竜共和国通産産業大臣ルドルフ様ですね。御機嫌よう」
恭しくお辞儀をするフレアにルドルフは動きが止まる。どう対応するべきか戸惑うルドルフにフレアはようやく自己紹介をしていなかった事に気づく。
フレアはルドルフらに料理を振る舞い会場外から確認しているが,
ルドルフらは一シェフの顔など気にしないだろう。
「失礼しました。自己紹介がまだでしたね。私はグローランス商会最高責任者のフローレア・グローランスと申します。以後、おみしりおきください」
名前を聞くとルドルフは慌てて挨拶を返す。王族でも貴族でもないフレアだが今や王国最大の商会を経営し、王国貴族らに最も恐れられる平民にして大富豪。何よりこれからの交易交渉において鍵となる人物とくればルドルフも貴族と同等か、それ以上の態度で臨む。
「これは失礼致しました。いかにも私が通産産業大臣のルドルフです」
手を差し出しフレアがそれに応じるとしっかりと握手を交わす。互いににこやかな表情なのに目が笑っていない。交渉においての駆け引きは既に始まっているのだ。
「グローランス商会の最高責任者とお会いできて光栄ですな。できればこれからお時間をいただけませんか」
「せっかくのお申し出に大変恐縮ですが実はこれから待ち合わせがありまして」
ルドルフの部下たちはルドルフの誘いよりも優先させる用事とは何だと不満を膨らませる。それでもルドルフは構わないとすぐに引いた。
「それは残念ですな。またの機会に致しましょう」
「ええ、申し訳ありません。遅れると”彼女”にどやされてしまうので。これで失礼させて頂きますね」
ルドルフは次に改めて話す際にはこの件を突けば多少優位に会話を運べるかもという思わくがあった。そのためにこやかな笑顔で見送るのだが、護衛のルージュがクスッと意味深に笑ったのが気になった。
ルージュの瞳は理知的な力に満ちており、ルドルフの内心など見透かしているようである。
「むっ?」
ならばその笑みは何を意味するのか。
ルドルフは妙な胸騒ぎを覚えてしばらく視線で追っていると絶句した。
「なっ!!」
離れたところでとても王女とは思えないラフな格好のシルヴィアに会っていたのだ。
しかも聞こえてくる会話の内容にルドルフの冷や汗は徐々に数を増していく。
「この駄メイド。遅いじゃない。何やってたのよ」
「すみません。ちょっと無視できない人と挨拶をしていまして……」
「ああん!? 私より優先すべきことがあるっていうの?」
「いえ、そうはいってませんよ」
ルドルフは脳裏に疑問が洪水のように押し寄せている。
(フローレア嬢を駄メイド呼ばわりだと!?)
それだけで頭を抱えたくなるというのに今のシルヴィアはとても竜人の王女として気品のかけらも見られない。普段の可憐さはどこに置き忘れたのだと叱りつけたくなる衝動を必死に抑える。
「じゃあ、案内なさい。つまらなかったら承知しないわよ」
「善処します」
「気合いが足りないわよ。全力で私をもてなしなさい。見習いで下っ端のあんたでもそれくらいできるでしょ」
(もしやシルヴィア様は目の前の少女があのグローランス嬢だと気がついていないのか?)
そして、明らかにシルヴィアが上から目線でフレアを叱りつけている姿と無理をして愛想笑いしているフレアの様子を見てはルドルフが苦悩する。
(だからあれほどグローランス家の心証を悪くするようなことは控えろと忠告したのに)
これでは交易交渉で不利になるのは共和国の方だ。むしろルドルフは後でフレアに誠心誠意謝罪する必要がある。
「もたもたしない、あいかわらず鈍くさいわね」
そう言ってシルヴィアがフレアの背中をけっとばす光景はルドルフを卒倒に追い込むほどのショックを与えた。
「ゲーッショッショ」
この日のゴーマンはご機嫌だった。愚連隊が使うガランの秘密のアジトを訪れていたゴーマンはデザイヤから工作活動の進展を聞きその成果に喜んでいたのだ。
「ガランに到着した共和国の一団に工作活動を行っているが概ね成功といっていいだろう。ハニートラップなどの色仕掛けは全く効果が見られなかったが賄賂は殊の外食いつきがいい。既に大部分の官僚が買収済みであり、交易では魔技研を通じてのみ王国と取引すると約束させた」
「全くもって素晴らしい成果でゲスなあ」
色仕掛けが竜人に効かないのは予想の範囲内だった。翼のない人種を見下す竜人には効果が薄いだろうというのは分かっていたことだ。
集めたイケメンや美女軍団はこれからそれ以外の工作に動くことになるだろう。
「しかし、買収に用いた資金は予想よりもはるかに高額になっている。約束を取り付けた者への賄賂も前金しか払えていないぞ。期日までに支払いができねば逆に不興を買ってグローランスに傾くかもしれない」
「むふふふ、竜人とはなんとも金に卑しい種族でゲスね。随分とふっかけてくれたでゲス」
「間に合うのだろうな?」
正直デザイヤも買収金額が何十倍にも膨れ上がり恐怖すら感じる。その額は国家予算にすら届く勢いである。
しかし、ゴーマンは事もなげに言う。
「問題ないでゲス。こっちで私財や魔技研の予算、さらには南の貴族連合から先行投資として金をかき集めるでゲス」
本当に集められるのだな。
そう呆れかけてデザイヤは言葉を飲み込む。依頼主の機嫌を損ねないようデザイヤは細心の注意を払わねばならないからだ。デザイヤにはもう後がない。
(魔技研と南の貴族連合はそれほど民から金を巻き上げていたということか)
「ゲショショ、グローランス家とティアナクラン王女には手を焼かされたでゲスがこれで勝ったでゲスな。共和国との交易交渉は魔技研が独占させてもらうでゲスよ。これで商品展示会も出来レースでゲス」
それはつまり商品の善しあしに関係なく魔技研が勝つということだ。
「王女もグローランスのガキも所詮はガキでゲスねえ。これが大人のやり方でゲスよ。悪く思うなでゲス。ゲーーッショッショッショーー」
もはやのけ反りそうなほどの高笑いをあげて、ゴーマンは共和国との交易後を見据えて皮算用を始めている。
「共和国との交易がなれば更なる富が舞い込んでくるでゲスよ。取引を成功させたこのゴーマンめの昇進間違いなし。買収で金がすっからかんになるでゲスがそれを補って余りある実りがあるでゲス。いまから笑いが止まらないでゲスなあ」
そこでデザイヤはふと脳裏に小さな違和感が生まれた。
(んっ、金がすっからかんだと!?)
デザイヤ自身それがどうして引っかかったのか分からずなんとも歯痒い感情にとらわれた。結局、違和感の正体にたどり着くことができずデザイヤは沈黙するしかない。
「…………」
「黙り込んでどうしたでゲスか?」
「いや、何でもない」
デザイヤの態度に釈然としないものがあったがゴーマンはすっかり調子に乗っていてデザイヤとそばに控えているシーリーン、それとカンノに命令を出す。
「このままグローランスのガキに畳み掛けるでゲスよ。フローレア嬢の周囲にハニートラップを仕掛けて絶望のどん底にたたき落としてやるでゲス」
ゴーマンの指示には3者ともしっかりと頷く。彼らは全員フレアとその仲間たちに遺恨を抱えているため否などなかったのである。
フレアとルージュ、ティアナクラン、マルクスは王女の屋敷内にある執務室に集まっていた。そこでルージュから衝撃的な報告がもたらされると重苦しい沈黙が流れた。
「…………はあ~~」
ティアナクランは何からツッコミを入れて何を叱るべきか戸惑う。あきれてため息しか出てこない。額に手を当ててゆがむ表情を見る限り頭痛に襲われているように見える。近頃はフレアが巻き起こす騒動によって頭痛が頻繁するだけに健康が危惧されるところだ。
「ごめんなさい。結論をもう一度、端的に言ってくださるかしら?」
「魔技研が”予想通り”共和国に買収を行っているわ。共和国は”事前協議”に従い、賄賂は全額王室に譲渡されるから、防衛費に使うなり富国に使うと良いわ」
「もうどこから突っ込めば良いのか全く分かりません」
どうしてこうなった。というかいつの間に事前協議を?
等々あふれる疑問にティアナクランは頭を抱えてデスクに突っ伏してしまった。
「あれ? どこが分からないのですか? 非常にわかりやすいと思いますが」
「全部よ、全部。わたくしが把握してない事前協議の内容も、魔技研が行っている不正の件もどこまで把握しているのか。これで共和国に借りを作って外交カードにされるんじゃないということも、ルージュさんが提出した資料にある賄賂のこの馬鹿げた金額とかも、全部説明しなさーーーーーーい!!」
ティアナクランの怒号にそれはもう屋敷自体が震え上がったかのように揺れたのだった。
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その場で正座するフレアは誠心誠意の説明を強要された。説明を受けたティアナクランはおおよそ理解したものの幾つか確認を取る。
「魔技研の買収工作を確信していたフローレアは予めレジーナ卿と話して策を決めていたのね」
「はい。そもそも現状で共和国との交易は平等とは言い難いものです。この策はその是正のためあえて共和国に提供した外交カードなのです」
「どういうことですの?」
フレアはルージュに目配せすると忠実な護衛はテキパキとスタンド式のホワイトボードを組み立てて用意する。そこにフレアがペンで書き込んでいくと王国と共和国の予想される交易の品目がおおよそ並べられた。
「王国からはグローランスの医療研究所から竜人の抱える深刻な病の治療について技術交流が始まります」
「それはフローレアの血清で解決したのはないのですか?」
「いいえ、ベルカで猛威を振るった病は撲滅できそうですが古くから抱える竜人の病については一時的な効果しか見込めません。根本的な治療法を探る必要があります。あっ、それとこれは竜人の秘事でもあり迂闊に人に話してはなりませんよ」
フレアはマルクスに視線を向けると『おう、わかったよ』と返事が返ってきたのを確認し話を続ける。
「つまり原因すら分かっていなかった病を解明した王国への共和国の借りは大きいのですよ。それに加えて今年は共和国で食糧不足が深刻化。食糧の取引も重要度が高い。更にグローランス商会の商品も売り込む予定です」
ボードに書かれた項目を見ただけでも明らかに王国が過剰である。
それを見てティアナクランは納得する。
「なるほどね。共和国も特産や希少な鉱石資源などを輸出するでしょう。それを差し引いても王国側ばかりが輸出することになりそうね。これではいずれ共和国の富と資源は枯渇するわ」
「その通りなのです。策は考えてレジーナ卿に伝えてあります。ですがそれもすぐにとはいきません」
「それで当面のしのぎに外交カードを共和国に提供したという訳ね」
話を聞くとティアナクランも納得がいった。むしろこういう政治は王族である自分が考えておくべきことなのにと申し訳なく思ってしまう。それでも感謝と謝罪は心の中でとどめておいた。それはフレアを調子に乗せないためと黙って事を運んだことへの怒りが理由だ。
「不正によるの金品ですので魔技研や南の貴族連合もさすがに返せとは言えませんよね。しかも共和国の皆さんの頑張りによって相当な額になったのですよ。これで不穏な動きを見せる南の貴族連合は弱体化し、しばらく大人しくなることでしょう。正に一石二鳥の策です」
マルクスは資料に書かれた回収資金の膨大な額を見て愕然とする。そして、それを謀略によってむしり取ったフレアのあくどさに震え上がった。
「ひでえ。よくもまあこれだけの額をむしり取れたもんだな。お前が本物の悪魔に見えるぜ」
何ともひどい言い様だがフレアは褒め言葉と受け取った。
「ふふん、どうですか。マルクス。これが謀略の威力です」
「ああ、うん。お前が敵じゃなくてつくづく良かったぜ」
それにはティアナクランも心の中で激しく同意する。
だがルージュは更なるフレアのたくらみを見抜いていた。実はこれ、グローランス家に対して共和国は狩りができた形だ。フレアはその事実をあえて置き去りにしていた。これがきっと後々に生きてくるのだろう。ルージュはクスッと笑う。
「ところでフローレア。何で俺がここに呼ばれたんだ。場違いじゃね?」
ここは王女の執務室だ。ただの見習い騎士を同席させる理由が分からない。というよりもマルクスはフレアの謀略に巻き込まれたくないと理由を見つけてこの場を離れたがっていた。
「ああ~~、そのことですが今後敵は戦術を切り替えてくるでしょう。そこでマルクスにだけは忠告する必要があるなと思ったのです」
「そこでなんで俺の名前があがるんだ?」
「敵が用いる手段がハニートラップや色仕掛けだと予想されるからです」
「はあ?」
マルクスは分かっていないようだがルージュは白い目で、ティアナクランはなるほどと頷いた。
「え、何でみんなしてそんな目で見るんだよ」
「「一番引っかかりそうだから」」
「何でだよ!?」
分かっていないマルクスにフレアは両手で叩くと入り口から色気にあふれた美女が入室してくる。体のメリハリがものすごい。歩くたびにゆれ動く豊満な肉体はマルクスの意識をとらえて離さない。マルクスはもうその美女をガン見している。
やっぱり駄目じゃない。
既に結果は見えているがティアナクランは大人しく見守ることにする。
『あら、いい男ね。私のタ、イ、プ』
「ぬほほ~~」
いきなりボディタッチをしてくる美女に対してマルクスの目は期待で血走り、興奮のあまり呼吸が荒い。もはや獣の息づかいだ。
『私と付き合わない。向こうで楽しいことしましょ』
「喜んでっ!!」
「「「マルクス、アウトーー!!」」」
フレアたちが指摘すると美女は用は済んだとばかりにマルクスからすぐに距離をとって退出していく。それを呆然と見送りマルクスは目尻から漢の汗を流した。彼にも今の美女がフレアの用意したハニートラップだと理解したからだ。
「ぬおおおーーーー、お前らはかったな。あんまりだ」
「むしろこれほどわかりやすいトラップに引っかかるのね」
ティアナクランはどうしてフレアが心配したのか今なら分かる。マルクスはあまりにも思春期の男すぎた。
「これは絶対に騙されるわよ。お猿さんの方がまだ理性があるわ」
「ルージュ、お前はその口の悪さを治せ」
「これでも遠慮したのだけど?」
「俺の評価どんだけ低いの!?」
嘆き落ち込むマルクスにフレアがぽんぽんと肩をたたき慰めると対処法を伝授する。
「大丈夫これさえ気をつければマルクスも必ず防ぐことができる必勝法があります」
「マジか。教えてくれ」
「マルクスが年上にモテるなんて絶対にあり得ません。もしも美女に声をかけられたら問答無用でハニートラップだと思ってください。それで防げますよ」
「お前の言葉が一番傷つくわっ!!」
「クスッ、ふふふふっ」
「そしてルージュ。テメーは人の悲劇を笑うんじゃねえ」
このやりとりを見ていたティアナクランはマルクスが気の毒になり話をそらす。
「で、フローレア。対策はしてあるのかしら?」
「一応グローランス家の《渡り商人》の人員を増やしてひそかに護衛と監視をつけています。ですが基本的に私が何かをする必要があるでしょうか?」
「どういうことですの?」
「標的が私の周囲の人物なのだとしたら大抵は各々で返り討ちでしょうね。警告しておくだけで十分ですよ」
「えっ?」
分かっていないティアナクランにルージュがヒントをいう。
「例えばG組の魔法少女たちなのだけど相当キャラが濃い変わり者揃いよ」
「ルージュさん、そこはせめて粒ぞろいといってください」
「というかルージュ、お前こそ変人の最たる分類だと思うぞ」
フレアとマルクスがルージュに抗議する。
ここまで言われるとティアナクランも何人か心当たりがあった。そして、ハニートラップを仕掛ける側に思わず同情してしまった。
「ああなるほど。これはゴーマンの呆けた顔が目に浮かぶようですわね」
数日後、またも秘密のアジトを訪れたゴーマンはハニートラップの結果を驚きをもって聞かされた。
「はあ、全て失敗したあ?」
幾ら何でも全てはあり得ないだろうとゴーマンはデザイヤの報告を聞き返す。
「とびっきりのイケメンと美女を集めたはずでゲスよ。若いガキどもが食いつかないはずがないでゲスよ」
「結論から言おう。まず魔法少女たちにイケメンを充てたのは最悪の悪手だった」
「どういうことでゲスか」
「フローレア嬢はまず凄まじいイケメン嫌いだった。籠絡などとんでもない。イケメンとみるやいきなり襲いかかりボコボコにして病院送りだ。これだけでイケメン工作員の半数が排除された」
「グローランス嬢は狂犬でゲスか!?」
ゴーマンが視線を向けるとボロボロのカンノが壁にもたれかかり、やさぐれていた。
「信じられねーじゃん。フローレア嬢に、『可愛いね、お茶しない?』って誘ったら来世で出直せっていきなり撃ってきたじゃん。あいつどういう教育受けてんの。母親はきっととんでもねえ極悪の殺人鬼だぜ」
注:フレアのお母さんは慈愛の女神のように温厚な女性です。
「グローランスのガキはイケメンが嫌いだったでゲスか。誤算だったでゲス。しかし、残りのイケメンたちは何をしていたでゲスか」
ゴーマンの疑問にデザイヤは幾つか例を挙げて語っていく。
「それについてだが……」
デザイヤはなんとも形容し難いと眉をひそめてある意味満身創痍のイケメンたちを見る。ここにいるのはフレア以外で精神的に、経済的に追い詰められた敗者たちだ。
「グローランス嬢のイケメン嫌いに影響されてか魔法少女たちのガードが恐ろしいほどに堅い。その上風紀委員を筆頭とした年長の生徒たちが守っていて実力行使をしようとすれば排除されている。だがそれはまだ良い方だ」
「どういうことでゲスか」
デザイヤが重度の精神病患者のように幸せな笑いをこぼしているイケメンを指差した。『ラブアンドピース、人類皆兄弟』などと、お花畑な発言をしては周囲を引かせている。
「そいつらはパティとかいう魔法少女を狙った。しかし戻るとこの調子だ。恐らく強力な洗脳魔法を使われたのだろう。ハニートラップと見破り何人も返り討ちにしたようだ。もはやこいつらは使い物にならんな」
注:パティは洗脳魔法を使っていません。ただお花畑な思考とピュアすぎる返答にイケメンのチャラい精神が耐えられなかっただけです。
更に視線をずらすと女神に祈りを捧げているイケメンたちがいる。
あまりにも熱心に祈るのでゴーマンは何事かとデザイヤに確認した。
「奴らは何をしてるでゲスか?」
「礼拝だ。そいつらはロザリーという生徒に声をかけたらしいが丸め込まれてこの有様だ。全員教会に入信させられ、有り金を全て寄付させられたらしい」
「魔法少女のクラスは魔窟でゲスか!?」
いい加減にゴーマンは開いた口が塞がらず戦慄を覚える。
しかも、ゴーマンの記憶が確かならハニートラップは全て失敗したのだ。
「とっておきの美女軍団たちはどうなってるでゲスか。そういえばほとんど姿が見えないでゲスが?」
「グローランス嬢の専属騎士は主君以外眼中にないようだ。騎士道に女は不要と言葉の刃でバッサリ女を斬りつけたらしい。傷心のあまり寝込んでいる」
「んん?」
「グローランス嬢の婚約者である準公爵は一途で全く揺らがなかった。自分には心に決めた姫がいると誠実に断ったそうだ。問題はそいつがとんでもないイケメンだったため半数の若い美女軍団が離反した」
「はあ!? だったら他の美女はどうしたでゲスか。男好きするムチムチボインボインの年上系美女もたくさんいたはずでゲス」
「特にそういった女どもはカロンという竜人に阻まれた」
「阻まれたとはどういうことでゲスか。まさかハニートラップに気づかれたでゲスか?」
「そうではない。胸や尻の大きい女どもはその竜人がことごとく見つけ出して醜い、おぞましいと説教してまわったらしい。今ではグローランス商会のフィットネスクラブにそいつらは通っていて任務はそっちのけだな」
そこでシーリーンがゴーマンに説明を求める視線で見られるとばつが悪そうに言い訳をする。
「いや、無理。私はマルクスってガキに声をかけたんだけどお、ほんといやらしい顔をするませガキで気持ち悪くて吐きそう。あれはないわーー」
他にもマルクスを狙った美女たちが激しくリーリーンの意見に賛同した。皆、マルクスの獣欲に対して生理的に受け付けなかったようである。
任務とはいえ耐えきれず早々にごめんなさいをして別れるに至る。マルクスの年上へのモテなさぶりはハニートラップすら寄せ付けないほどだった。マルクスへのハニートラップを心配していたフレアも思わぬ理由で杞憂に終わったのである。
「…………」
ゴーマンは自慢のイケメン美女軍団を完膚なきまでに粉砕されてしばらく何も語らなかったという。
この状況に激しい怒りを膨らませていたのがデザイヤである。
(グローランス嬢はやはり危険だ。ここは俺が出るべきだな)




