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第75話 魔技研編 『S組のエースストライカー』

「アリアさんとクリスさんは血のつながった姉妹?」

「ええ、そうらしいわ」


 時は少し遡る。ここはウラノス魔導騎士学園新校舎の人気のない屋上である。

 ルージュからカーマイン家の秘密を聞かされフレアは少し驚いた様子である。


「クリスさんはカーマイン家の長女として生まれたものの幼少から魔法の素質、そして経営者としても優れた才能をみせていたようね。そこで後継者に恵まれなかったフォレスター侯爵家が伯爵家への援助を条件に養子としたようね」

「ほむ。アリアさんの不調はその辺りに原因がありそうですね」


 ルージュも同じ見解なので小さく頷いた。


「付け加えるなら残されたアリアさんは魔法の才能も含め様々な面で力及ばず。伯爵家の後継者として苦労していたようね」


 報告書にも目を通してフレアは表情が陰った。カーマイン家の内情は記されているがそれでも戦争の悲惨さを表す”数値”には思うところがある。

 

「カーマイン伯爵家ですか。領地が無魔の支配領域に面していることから戦闘も多い激戦地。犠牲者も戦費も増え続けていますね」


 アリアを学園にスカウトしたときも出された条件が戦費の一部を負担するということだった。


「初めてアリアさんと出会ったときは張り詰めていましたからね。家の重圧につぶされそうだったのでしょう」


 カーマイン家の借金はグローランス商会が無利子で肩代わりした。そのおかげか在学中はアリアも笑顔を見せるまでになった。

 それが最近はまた昔に戻ったようでもある。それもクリスが関わるほどに。


「フレアさん、これはカーマイン家内の事情よ」

 

 他家の問題に踏み込むべきではない。

 そう警告するルージュの表情は険しい。(いさ)めるようでもあるのだがフレアは迷わず答えを出す。


「それでも魔法少女が困っているのなら命がけで助けます」

「ふふ、フレアさんならそう言うと思ったわ」


 予想通りの返事にルージュは満足げだった。そんなフレアだからこそルージュは付き従うのだ。




 フレアたちはその後ウラノス魔導騎士学園附属校を訪ねていた。

 附属校も学園祭に参加したいという要請を受けアリアとリリアーヌ、ルージュ、更にはマルクスも呼ばれている。


「それで附属校も学園祭に参加したいとうかがいましたが?」

「ええ、附属生たちも何かしら学園祭に参加させて戴けませんか」

「ほむ。理由を伺っても?」

「ええ、もちろんです」


 そう言って校長が指し示したのは廊下に展示されている絵画などといった創作物である。(つたな)いながらも熱意が感じられる作品にフレアたちは自然と足が止まる。フレアはもっと近づき興味深く観賞しながら校長に尋ねる。


「これは生徒たちの作品ですか?」

「その通りです。中には将来有望な子もいます」

「そうですね。戦時下でもなければ芸術家を目指せるかもしれません」

「そう、今の世の中貴族の目に()まりパトロンを得なくては芸術家にはなれないでしょう。ですが王都から離れたガランではその機会もありません」


 ここまで聞かされるとフレアは校長の意図を理解する。


「なるほど。学園祭には多くの人、要人が訪れる予定です。そこで作品展示会をねじ込みたいのですね」

「ええ、加えて明日の見えない戦争にかり出され人の心は俯きがちです。ですが学園祭が開かれると知った生徒たちの表情は明るくなったように思います。未来に絶望していた生徒も見違えるようですよ」


 年老いた校長はさみしげで落ち込んでいるようにも見える。


「わたくしどもは恥じ入りました。我々は一体何を教えていたのだろうかと。人は明日を信じられなければ生きられない。我々は教育者として大事なことを失念していたのです」


 少しを間を置いて校長は告げる。


「それは希望です。未来に希望がなければ人は立ち止まってしまう。この国の未来である若者が自発的に学園祭を始めた。その意味のいかに大きなことか」


 深いため息をついた後、校長は白状する。


「当初は学園祭の開催を聞き、わたくしも含めて多くの教師は不謹慎であると憤ったものです。わたくしは学園長に詰め寄った。この戦時下にそのようなことをする暇があるならもっと教えることがあるだろうと」

「しかし、学園長はいったよ。若者は国の未来だと。彼らの活力が国を元気にしていくのだと」


 その言葉は校長の心にしみたのだろう。深く頭を下げて要請した。


「大変だとはおもうがどうか附属校の生徒も参加させてもらえないだろうか」


 それにはフレアたちは顔を見合わせ頷いた。特に心優しい魔法少女たちが前向きな要請を断るはずがない。快く了承した。


「分かりましたわ。そういう理由であればこちらからも協力させてください」

「ありがとう」


 アリアと校長が具体的な意見を交わしている間、やることもないマルクスはフレアに尋ねる。


「フローレア、なんで俺が呼ばれたんだ」


 必要なかっただろうとマルクスは不満を口にする。しかしフレアからはマルクスが予想もしていなかった内容を聞かされる。


「いえ、むしろ附属校の出し物はマルクスがいないと始まりません」

「ん、それはどういう意味だ」


 どうにも嫌な予感がしつつも真意を問いただすマルクス。

 そこで校長がマルクスの名を聞いて話に加わった。


「おお、君がうわさの騎士かね」

「うわさ?」

「うむ。附属校では君の名を聞かない日はないからね。最近では君の活躍を描いた舞台や演劇の公演もひらかれていてね。わたくしも孫にせがまれて見に行ったものだよ。いやあ、痛快だったよ。あれは本当にあったことなのかね?」


 初耳のマルクスは開いた口が塞がらない様子でフレアを見る。

 

「マジかよ。聞いてねえぞ。そのうち街を歩けなくなるんじゃねえか」


 なんともいえない顔をしているとマルクスは校長にしげしげと顔をのぞき込まれる。


「な、なんすか?」

「いやすまない。舞台では随分な二枚目が演じていたものだからね。誰も君があの”マルクス”だとはわからないだろう」

「どういう意味っすか」


 分かってはいるが認めたくないマルクスは聞き返す。そんなマルクスにフレアが実に楽しそうに肩を叩く。


「本物は三枚目ですからね」


 容赦のないフレアの言葉はナイフのようにマルクスの心をえぐる。

 

「フローレア、お前には情けってものがねえのかよ」

「私としては好意的ですよ。あなたがイケメンだったら今まで何度殺していたか分かりません」

「全っ然喜べねえ。イケメンって理由だけで敵視するのやめたらどうだ」


 それにはフレアがとんでもないと首を左右に振る。


「マルクス。こう考えるのです。イケメンがいるから美女がとられるのです。奴らがいなくなればマルクスはきっとモテモテですよ」

「本当か?」

「そうです。マルクスがモテないのはつまりイケメンのせいです」

「飛躍しましたわ!?」


 フレアの暴論にはアリアもびっくりだ。だがマルクスはそうは思わなかったようでフレアの話を真に受けてしまった。

 

「なんだかイケメンに腹が立ってきたなあ」

「その調子です。さあ、叫びましょう」

「「イケメン滅ぶべし!!」」


 高々と両手を突き上げフレアとマルクスが叫ぶと、アリアがどこにしまっていたのか張り扇を取り出してはスパーン、スパーンと小気味いい音が鳴り響く。


「あんまりふざけたこと言うとぶっ飛ばしますわよ」

「…………あい」


 アリアの張り扇に頭をぶたれて(うずくま)るフレアは力なく答える。これには校長も苦笑いを浮かべ、リリアーヌはペコペコと謝るしかない。


「それで、フローレア教官はマルクスさんに何をさせるおつもりでしたの」


 アリアに聞かれるとフレアはすぐに復活し揚々と語り出す。


「附属校ではマルクスのヒーローショーを開催する予定なのですよ」

「ヒーローショーですの?」

「そのとおりです。マルクスを正義の味方として悪の無魔と戦う勧善懲悪型の劇を行うのです。それも附属生たちには観客であると同時に演者としても参加してもらいます」

「観客なのに演者ですの?」


 意味が分からないといった様子のアリアたち。分かっているのはフレアとルージュだけであり意味ありげに笑っていた。

 そこで附属生のちびっ子たちが話を聞きつけてわらわらと集まってくる。


『マルクス兄ちゃんのヒーローショー楽しそう』

『マルクスしゃま、絶対に応援します』


 マルクスは年下にはものすごくモテる。そして、年下には全くといって良いほどに嫌われる。本人にとっては非常に不本意ではあるのだが現実は無情である。

 マルクスの周りはあっという間に附属生たちに囲まれてしまう。

 

「おい。俺はまだやるとはいってねえぞ」

『『『ええ~~』』』

 

 廊下には失望の声が広がっていく。明らかにしょぼんとするものや泣きそうにしている子供を見るとリリアーヌがフレアを頼った。


「フレアっち、なんとかしてよ。このままじゃかわいそうでしょ」

「わかりました」


 フレアはマルクスの腕を取り耳打ちする。


「マルクス、ほんとにやらないのですか」

「ああ、なんでガキのために面倒なことをしなきゃならん」

「はあ、何を言ってるのですか。附属生の中にはお姉ちゃんもいて父兄として見に来るとは思わないのですか?」

「何だと?」


 それにはマルクスが耳をピクンとひくつかせて反応を示す。彼の脳裏には美女のお姉様方がマルクスの劇に魅了され詰め寄られてしまう妄想が広がっていく。

 そのときの表情は鼻の下が伸びきっておりなんともいやらしい。これがマルクスがモテない原因なのだと本人は気がつかない。


「附属生の子に気に入られればヒーローショーを見に来た年上の姉美女も攻略しやすいでしょうに。ああーー、もったいない」

「待て。誰がやらないと言った」

「え、べつに二枚目の演者を代役にしても私はかまわないのですが?」

「冷たいこと言うなよ親友。俺はやるぜ。全ては子供たちの笑顔のために」

「「「(絶対うそだ)」」」


 アリアたちは心を1つにして確信した。爽やかに答えたマルクスの笑顔は実に嘘くさいと。それでも歓喜に沸く附属生たちをみては口にするのもはばかられてしまった。





 その頃、人間に化けてガランに潜入していたシンリーとカノンはウラノス魔導騎士学園附属校近くの住宅街にやってきていた。

 シンリーは(よう)(えん)な踊り子シーリーンとして。

 カノンはイケメンホストのカンノとして。

 それぞれゴーマンが共和国の要人を(ろう)(らく)する接待要員として手引きされガランに入ることができたのだ。


「なんて精霊の加護の強さなのよ。これも魔法少女が集まってるせいだし」


 強力な無魔ほど精霊の加護が強い場所では力が制限され、反魔の力を使うほどに反動で深刻なダメージを負う。

 シンリーたちは学園を覆う精霊の加護の強さに近づくことすらできないでいた。


「力をほとんど封印しても肌にピリピリくるじゃん。これじゃ工作どころじゃないじゃんよ」


 カノンはお手上げのポーズを取るとシンリーは親指の爪を噛む。


「手ぶらで帰るなんてあり得ないし。学園祭当日までに加護を揺さぶっておく必要があるし」


 シンリーの目的は人間から汚れた魂を集めて傷ついて動けないグラハムを完全復活させることにある。

 王国の切り崩し工作など今は二の次である。

 そこで視線を巡らせるとゴーマンに呼び寄せられた魔技研の職員たちが少し離れたところで愚痴をこぼしているを目にした。彼らはゴーマンの指示でフレアたちの動きを偵察するように言われていたのだ。


『俺たち本来技術者だぜ。なんでこんなスパイごっこしなきゃなんねえのかねえ』

『ゴーマン副所長は今頃になってグローランス商会を警戒し出すとか遅すぎ』

『全くだ。あの商会の技術はやべえって前から報告挙げてたのによお。魔技研がたかが新参商会の技術者を警戒するなど何ごとでゲスかって逆にどなられたんだぜ。あれ絶対報告握りつぶしてるぜ』

『それで魔技研の上層部は今の今までグローランス商会を野放しにしていたと。おわってんな』

『肥大化した組織なんてそんなもんよ』

『はあ~~、もう魔技研やめてえ。他の仕事探すかな』

『そうだな。もうやってらんねえよ』


 魔技研の職員たちの愚痴は止まらない。シンリーの目には彼らの内から沸き上がる汚れた魂の邪気がはっきりと見えていた。


「ふふふ、こんな所にいい生け贄がいーーっぱいいるし」


 シンリーは彼ら職員を利用することに決め、30人をまとめて反魔の力で取り込むと邪悪な光で彼らの体を撃ち抜いた。

 その後彼らはそれぞれ丸い黒の反魔結晶に取り込まれ、邪悪な力がドクンドクンと胎動する。気温が下がったわけではないのに薄ら寒い邪気が周囲に拡散していく。そして人型の怪物が黒の結晶体を中心に形成されていった。

 こうしてそれぞれが5メートルを超える巨大なよこし魔が誕生したのだ。それが30体も出現し空に向かって声を揃えて咆哮する。


『『『グオオオオッ!!』』』


 よこし魔の挙げる猛々しい雄叫びにシンリーの顔は愉悦に歪む。


「あははは、これが汚れた人の魂を魔物に変える秘術よ。いけ、よこし魔。恐怖と破壊を振りまき私のオーブに負の力が集めるのよ。これでますますグラハム様の復活が近づくし」


 更にはカノンがよこし魔の中でも1番活きの良い個体を見つけると更に力を与える。


「そらあ、パワーアップだ。毒を振りまいちまいな。《毒・絶、よこし魔》」


 カノンから凝縮した反魔の力を与えられ大きく肥大化すると10メートルを超える巨大なよこし魔が誕生する。見た目も力強くより悪魔的な姿に変貌した。


『ガアアアアーーーーッ』


 突然現れたよこし魔の襲撃に、すくみ上がったガランの住民たちはパニックを起こして逃げ惑う。


『きゃあああーーーー、よこし魔よ』

『に、にげろーー』


 よこし魔たちは無慈悲に人々の家を破壊し、追い立て恐怖を煽るように暴れ回る。それをシンリーとカノンは遠くから見物する。


「魔法少女、くるならくるがいいし。これだけの数のよこし魔を相手にできるかしら。こっちは汚れた魂と加護が少しでも弱まれば目的は達するのよ」


 シンリーは直接手を汚すことなく利を得ることができる。彼らはただ安全な場所から見ているだけでいいのだ。




 附属校の外が騒がしいことに気がつきフレアたちは何事かと見合わせる。

 気になって校舎の外に出るとよこし魔が3体校門を踏み倒し侵入してくるところだ。アリアは目を見開いた。


「なっ、あれはよこし魔ですの?」


 よこし魔の恐ろしさをうけて、グラウンドで授業を受けていた附属生たちは萎縮する。泣き出したり、竦んで動けない子供も多い。そんな中でただぼーっとよこし魔を眺めることしかでない子供に狙いを定めるとよこし魔が迫る。


『モウ、イヤダーー、ヤメタイ』

『ワリニ、アワナイ』

『きゃあああーー』


 苦悩に満ちた叫びを上げながら附属生たちに迫るよこし魔。窮地に陥っている附属生を見て突き動かされたリリアーヌとアリアが駆け出した。そのまま魔装宝玉を構える。


「《ディレクトセイバー》、変身(トランス)魔装法衣(マギカコート)

変身(トランス)上級魔装法衣(ハイマギカコート)法衣(コート)選択(セレクト)《エアフォース》」


 2人は聖なる魔力に包まれ魔法少女に変身する。

 リリアーヌは青の魔法騎士のごとく清らかな武装に包まれる。

 アリアは空戦特化の指揮官用上級魔装法衣に身を包む。

 瞬時に変身を終えた2人は附属生たちとよこし魔の間に割って入った。

 リリアーヌが風を纏った魔法剣で2体のよこし魔をなぎ払い、アリアの全体重を乗せた魔力パンチが1体のよこし魔を吹き飛ばす。


「これ以上の(ろう)(ぜき)は許しませんわよ」

「その通りよ。魔法少女リリアーヌ、この清い剣に誓い、悪を斬る」


 魔法少女の(さっ)(そう)とした登場に附属生たちは目を輝かせながら沸き上がった。


『魔法少女だあーー』

『魔法少女頑張れーー』


 元気な声援に励まされ一瞬だけリリアーヌとアリアが頬を緩めるがすぐに表情を引き締めてよこし魔を押し返していった。

 奥からはまだまだばれているよこし魔の姿が見えたからだ。


「フレアっち、よこし魔の数が多い。避難と応援要請をお願い」

「分かりました」


 そしてフレアは既に変身済みのルージュに目配せする。


「ルージュさん、これ以上被害広がらないよう広域に魔法障壁を展開しよこし魔を押さえ込んでもらえますか?」

「おい、フローレア。そんな大規模魔法は王国最強のティアナクラン王女じゃなきゃ難しいだろ」


 それには気分を害したルージュは横髪を掻き上げた後マルクスにいった。


「見くびられたものね。たかが王国最強にできることを世界最強の魔法少女であるわたくしができないなんてあり得ないわ」


 ルージュは右手を天に向けて魔法を展開すると音速の速さで周囲に広げていく。よこし魔を中心とした広い地域に強固な壁が空高く立ち上がる。

 外に被害を広めようとするよこし魔はまるで(おり)のような障壁に囲まれてしまった。よこし魔は不快な感情を隠そうとせず乱暴にぶち当たって破ろうと試みる。しかし、ルージュの魔法障壁はビクともしない。それどころか殴りかかろうものならその拳は浄化の力で消滅してしまう。

 マルクスはようやくルージュが規格外の魔法少女なのだと理解した。


「すげえ。お前ほんとに見習いの魔法少女かよ。もう学園卒業して現役でいいんじゃね」

「天才だもの。これくらい当然よ」

 

 よこし魔を押し返して附属校の敷地から追い出すとフレアは魔装銃を手に持ち校門前に立つ。


「ここを防衛ラインと定め、私とルージュさんが死守します」

「俺はどうすれば良い」

「この先の住宅街には逃げ遅れた民が大勢います。彼らを附属校に避難させてもらえますか?」

「まかせろ」

 

 マルクスが快く請け負うと臆することなく住宅街の人々を救うため奔走する。

 それを見届けるとフレアは魔法通信の魔導具を手に持った。


「さて連絡を……」

「待って、フレアさん。奥の様子が変だわ」

「えっ」


 フレアはルージュに言われて神龍眼の能力を発動させると遠くの様子を確認した。

 よこし魔の中に明らかに異質な個体が確認できた。


 

 アリアはよこし魔3体を1カ所に追い込むとリリアーヌが時空の精霊境界を発動する。万華鏡のような空間が伸びていくと3体のよこし魔を包み込むんでいった。

 対して時空の大精霊の力を借りリリアーヌは剣に力をため込んでいく。そんなリリアーヌを援護するためアリアが大地に手を添えると魔法を行使した。

 

「はああーーっ、大人しくしなさい」


 アリアはその間よこし魔をその場で釘付けにするため土属性の魔法で足元を絡め取る。


「今ですわ」


 リリアーヌが頷くと新しく習得した遠距離型の奥義を解き放つ。


「フィニッシュアタック《空覇斬翔》」

 

 魔法力を剣に集めて一気に解放するこの技は空間が歪むほどの力を秘めている。よこし魔に向けて剣閃が高速で伸びていき、空間がガラス細工のようにひび割れ走る。危険を感じ取ったよこし魔は必死に避けようともがくが空間の歪みはさながら蟻地獄のようだ。ずるずるとより射線の中心に吸い込まれていく。

 こうなるともはや回避はかなわない。絶対的な破壊がよこし魔をまともに襲うのだ。よこし魔の邪悪な体が消しとび、囚われた人を浄化の力で救い出していく。


「やりましたわ」


 喜びの声を上げるアリアだがリリアーヌからすぐに厳しい忠告が飛ぶ。


「気を抜かない。敵はまだまだいるよ」


 リリアーヌの言葉は全くその通りである。むしろ浄化を使う魔法少女を危険な敵と認識し多くのよこし魔が集まってくる。


「数が多すぎる。アリアさん後退して」

「いいえ、教官補佐。よこし魔を多く引きつけることができればそれだけ民の避難が容易になりますわ」

「無茶よ。下がりなさい」


 アリアはリリアーヌを無視して多数のよこし魔を相手に戦おうとする。

 しかし、アリアの実力では一対一ではまだ良いが複数相手では分が悪い。攻撃を捌ききれずまともによこし魔によってなぎ払われてしまう。


「きゃあああ」

「アリアさん!?」


 強く地面に叩きつけられて転がるアリアをかばい、リリアーヌは四方から放たれるよこし魔の反魔砲撃を剣で次々たたき落としていく。


「アリアさん、立てる?」

「……大丈夫ですわよ。まだいけますわ」


 痛めた箇所をかばいながらも立ち上がったアリアだがそこで一際大きなよこし魔を目にして硬直する。


「教官補佐、奥になにかいますわ」


 そのよこし魔はつり上がった大きな口から緑色のブレスを吐くと周囲にいた人々が次々に倒れていくのを目撃する。

 それをみて思い起こすのは出張カフェで邪道騎士が振りまいた魔法の毒。嫌な予感が脳裏をよぎる。


「まさかあのよこし魔は毒を振りまきますの?」

「くっ、だったら……風よ」


 リリアーヌがそのよこし魔の吐き出すブレスから風の障壁を展開して人々を守ろうとする。しかし、不思議なことにブレスは風の障壁を素通りし次々に倒れていく。


「魔法障壁が効かない?」


 戸惑うアリアだがリリアーヌはそのよこし魔を注意深く観察すると眉をひそめ自らの結論に首をかしげる。


「いや、まさか……ありえないっしょ」

「どうしましたの?」

「もしかしたらあのよこし魔のはく毒って毒は毒でも……」


『ゲハハハハッ、コノデブガッ、キモインダヨ』

『うわああ、気にしていることを~~』


 言われた住民の1人は肥満気味でよこし魔の悪口を受けてショックを受けると黒い邪気をまとい地面に倒れてしまった。

 このよこし魔の毒舌を受けた人々は気力を失い暗い心に支配されていくのだ。


『コノキツネ顔。オマエ性格ワルイ。ダカラボッチ』

『ぐはっ、お金持ちの俺が気にしていることを』

 

 そうして次々言葉の毒で人々を陥れる様子にアリアが思わず1人突っ込んだ。


「毒って毒舌のことですの?」


 そして、そのよこし魔がアリアに気がついてやってくると名乗りを上げる。


『オレハァ、チョー絶、イケテルよこし魔ァ、ソノ名モ、《毒・絶、よこし魔》」


「《毒舌よこし魔》の間違いではなくって!?」


『ハッハー、ツッコミノキレハイイ。ガ、戦闘ノキレハイマイチダ』


 カチンときたアリアは挑発に乗って魔法剣を形成し斬りかかる。しかし、それがまずかった。リリアーヌと分断され、アリアはよこし魔に囲まれてしまう。


「アリアさん、くっ」


 助けに行こうにも他のよこし魔たちが立ち塞がる。()(かつ)にもアリアを孤立させてしまったことをリリアーヌは()()みする。

 アリアは多勢に無勢の状況だ。防戦一方になるとダメージと疲労が積み重ねられ動きも鈍り始める。


「あ、ぐっ……。この程度で、負けるわけにはいきませんわ。わたくしが民を守らないと……」

 

『弱イ。弱イオマエ、ナニモ守レナイ』


 《毒・絶、よこし魔》の剛拳をまともに受けて吹き飛ばされるアリア。それでも気力で立ち上がるがアリアの脳裏には故郷の伯爵領がちらついた。

 力不足で十分な装備も兵力もなく、自身の力不足で死なせてしまった多くの領民の顔がちらつくとアリアの心を(きし)ませていく。魔装法衣の加護があっても徐々によこし魔の毒舌に蝕まれているせいでもある。

 ()()(きょう)(さく)に陥っているアリアはそのことすら気がつかない。


(守れない。わたくしはクリスよりはるかに弱い。でもあの人は伯爵家を見捨てましたわ。わたくしが代わりに頑張らないと)


『オマエハ、ナニモデキナイ』


 そう言って《毒・絶、よこし魔》は逃げ遅れた周囲の人々に毒を吐き次々に犠牲者を増やしていく。


「あ、ああ……、やめて」


『絶望シロ。オマエハ無力ダ』


「やめてーーーー」


 更に特大の毒を吐こうというとき、《毒・絶、よこし魔》は不意に懐に潜り込んできた魔法少女に気がつかずまともに腹に拳を打ち込まれる。

 メキメキと耳を塞ぎたくなるような不快な音が響き、その魔法少女は眼前に飛び込むと回し蹴りで200メートル先まで吹き飛ばした。


「妹を泣かせるなっ!!」

「……クリス姉様?」


 続いてクリスは魔法戦には向かない対テロ特殊制圧型魔装法衣のままで右手で水属性の上級魔法砲撃を放つと、左手には火属性の上級魔法砲撃を放ち、よこし魔たちをなぎ払った。着弾後周囲には嵐が巻き起こり、強風で足が止まったよこし魔をすかさずクリスは畳み掛ける。


「デュアル・ミラクルマギカロッド、召還」

 

 両手にミラクルマギカロッドをもって構えるとクリスは周囲に精霊境界が展開させる。射線上は虹色の極彩色の世界が伸びていき聖なる魔力で満たされていく。

 その意味に気がつきアリアははっとする。


「まさか……1人2役でミラクルマギカブレスを撃つつもりですの」


 信じられなかった。本来は2人以上で協力しなければ発動できないミラクルマギカブレス。1人で制御し使いこなすなどアリアは考えらえなかった。

 クリスの持つ2つのロッドはキラキラと浄化の光が迸る。それはクリスがしっかりと魔法を制御していることを示している。

 

「フィニッシュアタック《ミラクル・マギカ・ブレス》」


 クリスの口から凜々しい気合いが発せられた。極光の光がよこし魔たちを飲み込み2体まとめ浄化していった。

 善なる光にさらされてよこし魔は消失し、悪意の檻から解き放たれていく。


「アリアも民も私が守るわ。汚らわしい魔物が軽々しく触れるな」

  

 怒り心頭で《毒・絶、よこし魔》とよこし魔を圧倒したクリスの背中をアリアは複雑な目で見守った。

 やはりクリスはすごい。

 アリアはそう心の中で認めると同時にどうして故郷を見捨てたのかと悔しくて仕方ない。その力を領民のために使って欲しかったと思ってしまうのだ。


《ダブルキャスター》


 魔法少女になる前から既に前線で活躍し、2つ名を与えられた少女の名はクリス。

 S組魔法少女でも屈指のエースストライカーが戦場に降り立ったのだ。

 彼女の登場により戦況は一気にひっくり返ろうとしていた。

 

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