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第74話 魔技研編 『学園祭に舞踏会を』

 学園祭実行委員会は困難に直面していた。フレアがたたき台用に各クラスへ用意した案には許可できないものが多かったのだ。

 たこ焼きやチョコバナナなど食べ物の販売はまだ良かった。お化け屋敷もまだギリギリで許容できた。

 それが屋外演習場を用いた魔装銃の射撃体験になってくるとまずティアナクランが却下した。魔装銃はそもそも国家機密なのでとんでもない話だとフレアは怒られてしまった。

 魔法少女適正占いなどは明らかにフレアの趣味が透けて見えて却下される。


 極めつけはモグラたたきならぬイケメンたたき。信じられないほどフレアの悪意が込められたゲームだった。8つの穴からでてきた精巧なイケメン人形をピコピコハンマーに恨みをのせてたたき込む爽快なゲームであると説明。話題になること間違い無しとフレアは意気込む。そんなフレアに対して『苦情の嵐にわたくしたちが叩きのめされますわ』とアリアが大激怒。

 これらのことから予定が遅れた経緯がある。

 そして現在、一般生徒たちから悩ましい提案が舞い込んできたのだ。


「舞踏会ですの?」


 アリアはまず苦虫をかみつぶしたような顔をする。委員会室にいる貴族の生徒たちは程度の差はあれどいい感情は抱かなかったようだ。一様に否定的な態度である。

 そんな彼女らにセリーヌが生徒たちの署名を持って説明する。


「一般生徒の間では社交パーティーの華やかなイメージに憧れを抱き、是非やってみたいという意見が多く寄せられていますよ。……正直めんどっ」

 

 商家出身のセリーヌは舞踏会のかかる費用と手間を考え思わず言葉の毒を吐く。

 ユーナはセリーヌの毒に苦笑しつつも貴族の現実を話した。


「それほどいいものでもないわよ。華やかなのは外見だけで悪意と謀略が飛び交うのが社交界よ。義務でもなければ遠慮したいわね」

「わかりますの~~。私の場合は縁談の話が多くて本当に嫌になりますわ~~」


 サリィもユーナに同意し、実感のこもった様子でしみじみといった。

 ロザリーは舞踏会なんてとんでもないと強く反対する。


「私は反対です。舞踏会は費用がかかりすぎます。学生は身の丈に合った催しをするべきです。神はいいました。(ぜい)(たく)は悪魔の誘惑であると」


 強い拒否の姿勢を見せるロザリーに対して、カズハが費用に関して打開策を提示した。


「ドレスは出張カフェに使った幻術の魔法を使えばそれほど費用はかからぬのではござらぬか」

「とにかく駄目なものは駄目です」

「それは少々強引でござる。署名は結構な数でござるよ。反対するなら納得のいく説明を頂きたい。ないのであれば是非開催を」


 カズハの気迫に押されロザリーはつい本音がぽろっとこぼれる。

 

「だって自由参加の舞踏会はお金が稼げないのですよ」

「「「そんな理由で反対するなっ(でござる)」」」

 

 ロザリーの残念な返答には思わずアリアたちも突っ込んでしまった。

 だが冷静になってみるとシャルがとある気掛かりを口にする。


「でも私ダンスを踊れないのよね。失敗して恥かきたくないし。私みたいな一般の生徒も多いんじゃないの」


 ああ~~。

 とそれには納得の声が重なった。いざ冷静に考えてみえると本番前に二の足を踏んでしまう生徒も多いのではないかと思えた。

 舞踏会開催は危ぶまれたかに思えた。だがそこで顧問のフレアが動いた。シャルの声には華やかな舞台を体験してみたいという女の子の夢見る気持ち感じ取れたからだ。

 

「シャルさん」


 フレアがシャルの手を取ると抱き寄せハミングを響かせる。そして、2人で踊り出した。フレアがリードしシャルはわたわたと必死についていく。

 

「フローレアさん、な、何を」

「いいから合わせて(にこり)」


 ふわりとほほ笑みかけられるとシャルは頬がリンゴのように真っ赤に染まって恥じらった。シャルは踊っていることも忘れて、ただフレアだけを意識してしまう。


(フ、フローレアさんの顔が近い。うう、すっごくドキドキする)


 じっと見つめているとシャルの思い人であるとマコトの顔と重なってしまう。


(やっぱりフローレアさんがあのときの男の子なの?)


 ダンスは2人の世界を作り上げ、見ていた生徒たちも徐々に引き込まれていく。いつの間にか2人のアンサンブルは玄人と見まがうほどであった。それは元々シャルのずば抜けた身体能力とセンスもあってのことだ。

 一通りの流れが終わり、シャルにとっては長かったのか短かったのか夢見心地の時間が突然に幕を閉じた。

 とたんにシャルの胸には寂しさが去来して過ぎ去った時間を惜しんだ。


「(ぼそぼそ)もう少し踊っていたかったな」


 シャルはか細い声でつぶやく。


「えっ、何かいいましたか」

「なっ、何でもない。私はフローレアさんのこと何とも思っていないんだから」

「ん?」


 どうしていきなりそんなことを言い出すのかと不思議そうにするフレア。それをユーナが目を細めて『ふ~~ん』とちょっとだけ不機嫌そうに眺めていた。

 ダンスの余韻が過ぎるとフレアは皆に向かって提案する。


「ダンスは楽しむものですよ。(じょう)()かどうかなんて重要ではないと思います」

「そ、そうね。悪くないかも(また、フローレアさんと踊りたいし……)」


 シャルも同意すると流れは一気に逆転した。2人のダンスを見てユーナが賛成派に傾いたのだ。


「そうね。そもそも学園祭は多様性と可能性を見つめる目的でもあったはずよ。協調性も養われるだろうし、何より見ていて楽しそうだったわ」

「そうでしょうとも。ダンスは楽しいですよ」


 明るく言い放つフレアになぜかユーナは詰め寄って半目で繰り返す。


「そう……楽しそうだったわね」

「あの、ユーナさん。もしかして……怒ってます?」

「あら、どうして?」

「いえ、それが分からないのですが?」


 もういいわ、と不満を残しぷいっと顔を背けた後、周囲に向かって説得した。


「参加希望者の中で踊れない人には私とフレアさんの”2人”で時間を作り指導に当たることにしましょう。フレアさん、付き合ってもらうわよ」

「んん? かまいませんが……」


 実際フレアのダンスを見た後で舞踏会への印象が変わった。ダンスを教えてもらえることもありやっても良いかという空気がうまれる。セリーヌがその空気を感じ取りこれ以上面倒な仕事を増やされてなるものかと一層反対に力が入る。


「反対反対。これ以上は手が回りません。私はほどほどが良いんです。これ以上仕事を増やさないでくださいよぉ」


 対して賛成派にまわった生徒の中にはセリーヌの天敵がいる。大人しく聞いていたものの目をキラキラさせたパティが立ち上がった。


「やろうよ皆」

「……あの、パティさん。私の話を聞いてましたか。もう実行委員会は手一杯なんですよぉ」

「そんなことない。学園祭は皆でやれば良いんだよ。私も手伝うから頑張ろう」

「あ、いや、ですから」

「大丈夫、分かってるよ」

「……はい?」


 突然の切り返しにセリーヌは首を傾け不思議がった。脈絡もない返事に意味を図りかねていた。

 

「照れ隠しなんだよね」

「どうしてそうなったぁーーっ?」

「セリーヌちゃんはなんだかんだいってちゃんとやってくれるもん。ベルカでは軍師なんて面倒な仕事も立派にこなしてたよね」

「切羽詰まった状況に追い込まれただけですが?」

「妹のセシルちゃんのためならすごく頑張るよね。他人のために一生懸命になれるセリーヌちゃんはすごいよ」

「いや、妹は他人じゃなくて家族ですし」


『それにシスコンだね』

 声には出さないがアリアたちは心の中でそう突っ込んだ。

 

「つまり、セリーヌちゃんは素直じゃないけどいい人なんだ。周りの苦労も背負って立つ頑張り屋さんなんだよ」

「見当違いもいいところですよぉ。このハッピーハッピーフラワーガーデンがっ」


 何事も適度にだらけるのが至上のセリーヌにとってはこの上なく迷惑な認識だった。つい語気を強めて言い返してしまう。

 セリーヌの言葉を受けてパティはショックを受けたように後ずさる。


「あっ……ごめんなさい」

 

 肩を落として頭を下げ、パティは謝罪した。さすがに言い過ぎたと冷静になったセリーヌは大人しくなる。だがパティは顔を上げるとコロッと明るい調子で言った。


「愛称で呼ぶのを忘れてたよ。ごめんねセリリン」

「そっちかーーいっ!? というかその名は死んでもお断りっていいましたよねっ!!」

「それも照れ隠し?」

「あああぁぁーーーー」


 ハナシガツウジナイ。

 もはや発狂しかねないセリーヌの叫びに同情したアリアが助け船を出す。


「パティさん。大事な仕事を命じます。あなたにしかできないことです」

「えっ、なになに」

「わたくしがいいというまでしゃべらないという重要な仕事です」

「? わかった。頑張るよ」


 よく分からないがパティにしかできないと言われ大人しく従う様子をみせる。これにはセリーヌが尊敬のまなざしでアリアを見つめた。

 パティの扱いにかけてはアリアの右に出るものはいない。それだけパティの独特な雰囲気の被害に遭い、学習したともいえる。

 苦労人アリアの一端がうかがい知れる出来事だ。


「それでは決を採ります。舞踏会に賛成の人は挙手を」


 アリアが見回すとロザリーをのぞいて役員は全員賛成に回った。これによりアリアは賛成多数で可決とした。


「それでは舞踏会は開催の方向で動きます。草案はわたくしが明日までに作成しておきますわ」

「アリアさん。ちょっと仕事を抱え込みすぎよ~~。私がやるから回して頂戴」

「いえ、かまいませんわ。この程度の仕事はこなしてみせますわよ」

「そうなの~~?」


 サリィが気を遣ってアリアに申し出たのだが断られてしまう。何かとアリアは自分で仕事を抱え込む傾向がある。そのためアリアの表情には疲労がにじみ出ていてサリィは心配そうにしながらフレアを見た。フレアは頷きアリアに指摘する。


「アリアさん。周りに仕事を振ることもトップの大事な資質ですよ」

「大丈夫ですわよ。この程度わたくし1人でできますわ」


 それからぼつりと呟いた。

『クリスにできてわたくしにできないとは言わせませんわ』と。

 フレアはそのつぶやきのうち、辛うじてクリスという名が聞き取れた。だがここでなぜその名が出るのかはわからない。


(アリアさんは確かに人を頼ることに苦手意識があります。ですがここまでひどかったでしょうか?)

 

 フレアはこれが戦闘指揮にまで影響するようなら深刻ではないかと危機感をもった。

 そんな時だった。

 S組のクリスが学園祭実行委員会室に乗り込んできたのは。


「おーーほっほ。お困りのようね」


 高笑いとともにクリスはドアから入室してきた。それをアリアが敵意をだして真っ先に叫ぶ。

 

「クリス。何をしにきましたの」

「G組だけでは手が足りないのでしょう? ここは優秀なS組に頼るべきではないかしら」

「帰って。あなたたちの手助けなど不要ですわ」


 問答無用といったアリアの態度にはクリスばかりかフレアたちも驚き黙って見守った。

 アリアは執務席から立ち上がるとクリスを力ずくで部屋から押し出そうとする。


「せっかく来てあげましたのにその態度は何ですかっ」

「余計なお世話です。特にあなたの力なんて借りたくもありませんわ」

「なっ――」


 アリアのいいようにクリスも怒って反論しようとするも体の芯から冷えるような冷たい言葉を耳にして息を飲む。


「見捨てたくせに」

「――っ!!」


 それにはクリスが絶句すると抵抗する力も失いあっさりと部屋を押し出される。

 その後フレアは気になって廊下に出ると走って廊下を去っていくところだった。


「クリスさんっ」


 放っておけなくてフレアが後を追おうとするとそっと手が肩に乗せられる。その手はフロレリアのものだった。


「フレア。クリスちゃんは任せて。あなたはアリアちゃんをお願い」

「……分かりました」


 フロレリアが頷くとクリスを追って駆けだした。その後フレアは突然現れたルージュに話しかけられる。


「フレアさん、あの2人について話しておくことがあるわ」

「……場所を変えましょうか」


 込み入った話になる。ルージュの様子からそう判断したフレアはカレンに目配せして後を任せると人気のない場所に移動した。





 学園から飛びだしてどれだけ走ったことだろうか。クリスは気がつけば人気の少ない自然公園にたどり着いていた。

 一体何をやっているのだろうとクリスは拳を握りしめて立ち止まると心をえぐるようなせりふが何度も頭を回った。

『見捨てたくせに』と。


「……ぐすっ」


 涙腺が思わず緩み、涙がこぼれるのをぐっと堪える。まるでその資格もないと自分を戒めているようにも見えた。


「そんなつもりじゃ……なかっ……」


 唇をかみしめて下を向く。クリスの心は曇天の空のように気分が重くなる。

 塞ぎ込みたくなる気持ちに支配されそうなとき、暖かな声が耳に入りこむ。


「待ってーー。クリスちゃん」


包容力にあふれた声は聞いているだけで安心感を与えてくれた。クリスはふり返るとフロレリアは黙って微笑み頷くだけ。

 それでも受け入れてもらえるかもしれないとクリスはフロレリアに抱きつくとしがみついた。

 小さく震える教え子をみてフロレリアは黙って受け入れる。


「1人で抱え込まないで。クリスちゃんは1人じゃないからね」

「教官。……教官。私……」


 フロレリアはクリスが落ち着くまで辛抱強く抱きしめて支え続けた。

 ――――――

 ――――

 ――



「落ち着いたかしら」

「はい。申し訳ありませんわ」

「いいのよ。私はあなたの味方だから。絶対に1人にしないから。よかったら話してくれないかな」

「それは……」


 話していいものか。(しゅん)(じゅん)し、ためらっているとフロレリアが代わりに話し出す。


「クリスちゃんはアリアちゃんの前だとわざと嫌われるような態度を取っているように見えたわ。クリスちゃんはクラスでもとても面倒見がいい優しい子だもの。見ていて変ねえ、とは思っていたのよ」

「……私は優しくなんかない」

「優しいわよ。G組に突っかかるのも本当はアリアちゃんが大変なのを知って無理矢理にでも手伝おうとしたからじゃないかしら」

「――っ、それだけじゃないわ」


 少しいいづらそうにしつつクリスは()(ちょう)する。


「どんな形でもアリアと話したかった。これは私のわがままですわ。アリアは私を恨んでいると知っていたのに我慢できなかった。アリアの心がかき乱されると分かっていたのに私は最低よ。けどアリアは私が思っている以上にずっと憎んでいた」

 

 フロレリアは慎重に、それでも何があったのかせかさず頷き聞いていた。


「私は侯爵家に養子に出されたのですわ」


 クリスの告白にフロレリアは察しが付いた。

 よく見るとクリスとアリアは顔立ちが似ている。それで姉妹なのではと想像がついた。


「アリアちゃんは血のつながった姉妹なのね」

「はい」


 それからはどうして養子に出されることになったのか。クリスは語る。


「カーマイン伯爵家は無魔との戦争で前線を受け持ち、膨らむ軍事費用と人的損失で戦線維持が困難になっていました。私はそんな家を助けるために財政の見直しを行ったり、戦線を得意の魔法で支えたりと将来を期待されていました。妹のアリアもその頃はとても慕ってくれていたのです。ですが私は侯爵家に養子に出されたのですわ」

「そうなのね。アリアちゃんはお姉ちゃんに伯爵家に残って支えて欲しかったのかもしれないわね」

「そのとおりです。伯爵家に残るようアリアにも散々懇願されたのです。それでも私は妹を見捨てて侯爵家にいってしまった。重荷を妹のアリアに押しつけて……」


 そのときの行動を後悔しているのかクリスはぎゅっと拳を握りしめる。


「クリスちゃんのことだからその行動には理由があるのでしょう?」

「はい。それでも私は伯爵家に残るべきだったと今にしてみれば思うのです。アリアは深く傷つき、伯爵家を継ぐため随分無理をしているようにみえます。私はアリアを追い詰めるために侯爵家に行ったわけではないのに」

 

 クリスの悩みはとても繊細な対応が求められる内容だった。安易に意見を述べてもいいものではない。フロレリアはどうやってクリスを支えるべきか考えていると突然魔装宝玉《シルバーゼロ》から魔法通信が起動する。

 シルバーゼロは赤く点滅しそれが何を意味するのか知っているフロレリアの表情には緊張が走った。


「これはフレアからの緊急の救援要請だわ」

「えっ、フローレア教官からですか?」


 クリスの質問にフロレリアは頷いて通信をつなげる。すると魔装宝玉をとおして近くにいる全ての魔法少女に向け命令が発せられていた。


『これよりティアナクラン王女名代フローレア・グローランスの名において指揮権を発動します。現在、ウラノス魔導騎士学園附属校周辺の住宅街にて『よこし魔』が出現し暴れています。数は30。その中には新型のよこし魔も確認。周囲に毒をまき散らし被害は急速に拡大中……』

 

「そんな……」


 被害に遭っていると思われる民を想像しクリスは口に手を当ててショックを受けている。


『近くにいる魔法少女は対テロ特殊制圧型魔装法衣に変身後、現場に急行してください。民の安全確保を最優先とし対処にあたります。現在はルージュさんに超広範囲の魔法障壁を張ってもらい被害を抑え、リリーとアリアさんがよこし魔と戦闘中、苦戦しています。私とマルクスが民の避難誘導を行っていますが手が足りません。至急応援願います』

 

「大変だわ。クリスちゃん、ってあら?」


 フロレリアがクリスに視線を向けると既にそこにはいない。全力でかけだし魔装宝玉で魔法少女に変身するところだった。


変身(トランス)魔装法衣(マギカコート)。《ライオネスフォーム》」

 

 百獣の王ライオンをモチーフとした魔装法衣に身に包み、一瞬で変身を完了したクリスは更に加速して現場に向けて走り抜けていく。


「待ってて、アリア。すぐに助けに行きますわ」


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