第72話 魔技研編 『マコトの最初の魔法少女(ヒロイン)』
夢を見ていた。だがそれは夢であると同時に過去の出来事でもある。
その夢では小さな女の子が俯いて泣いていた。
その子は金色に輝く髪とくりっとしたまん丸の目に特徴的な赤い瞳。真っ白に透き通るような肌と整った鼻筋にうっすらと口紅をひいたかのようなみずみずしい唇。
まるでお人形のような可愛らしさであり、お姫様のような薄桃色のドレスに身を包む様子を見ては北欧のプリンセスのようでもある。
「どうして泣いているの」
見ていた男の子が心配になって話しかけた。そっとハンカチを手渡し泣きやむようになだめていく。
男の子は女の子よりも少し年上ぐらい。黒髪で物静かそうな男の子が笑いかけると内面から優しさがにじみでたような声で女の子の心を包み込む。
女の子は少し安心したような表情を浮かべる。彼女はその男の子を信頼し、心を許しているようだ。
「また怖い女の人に殺される”未来”が見えたの」
「それは……辛かったね」
女の子は世界でも随一と言っていいぐらいに膨大な魔力を持っていた。同時に女の子は過酷な宿命を背負わされてこの世に生まれた。
「その女の人はたくさんの人の前で何かを言ってるの。そうすると聞いてた人たちも狂ったように怒って叫ぶの。私を殺せって……」
ガクガクと体が震え、目からは涙がこぼれる。
人々から死を望まれる。それは彼女にとってどれだけ心を傷つけることか想像だけでは計り知ることはできない。
女の子は男の子にしがみつく。
「私は死ぬために生まれてきたのかな……」
それは聞いていて胸が締め付けられるような言葉。男の子は悔しさで強く拳を握りしめる。
「人類のために私は殺されなければならないって……みんなが言うの」
男の子は思った。小さな女の子に責任を押しつけて公開処刑する。それで人類が救われたとしてその世界に未来があるのだろうか、と思わずにはいられない。
何より男の子はその女の子を守りたかった。
「そんなことはない。そんなことさせない」
憤って訴えるも女の子は力なくありがとう、と返すだけ。
瞳は悲しみに染まったままであり、諦めにも似た色が声に混じる。男の子の言葉は彼女の心に届かない。
それが男の子とってなおさらに悔しさをつのらせる。
「そんな運命は俺が変える。そもそもあの女に世界を救う意志はない。分かっているのだろう」
「……うん。あの人は私を殺して、魔法少女を滅ぼし、人類の未来もどうでも良いと思ってる。でも、滅びを先延ばしにできるかもしれない。それでママとじじ様が助かるなら……」
「そんなこと君のママもお祖父さんも望んでない」
男の子は立ち向かう勇気を持って欲しい。その思いで少女の手を暖かく包み込む。
「でも、でもぉ……」
女の子は優しくて、家族思いで、死なせていい子ではないと男の子は思う。だから手を差し伸べる。
「世界が君を――魔法少女を殺すというのなら、世界を敵にしても俺は君を守る」
はっとして少女は男の子を見つめた。
「魔法少女が世界を守るのなら、俺は魔法少女だけを守る救世主になる」
少女はその言葉をどう受け取ったのかは分からない。ただ、少女の表情に悲しみはない。
「――ありがとう、マコトお兄ちゃん」
男の子は輝くような満面の笑みをみた。その女の子は、《フローレア・グローランス》。
マコトが最初に守ると心に誓った魔法少女だった。
知の女神が管理するあらゆる知識、情報が集まる聖地『知の図書館』。
フレアは眠るとここに呼び出され、ほどなく脳裏に記憶がよみがえった。
気がつくとフレアの目の前を情報が詰まった1つの葉っぱがひらひらと舞い降りる。だが知の図書館にある葉は見た目通りではない。途方もない情報を内に宿し、様々な世界とも情報をつなげる器官である。
どうやらこの葉がフレアに見せたものらしいと気がつく。
「今のは一体?」
かいま見た記憶にフレアは戸惑いを隠せない。どういうわけかズキズキと頭が痛む。額を抑えてながらも今見た記憶をどうとらえたら良いのか困惑の表情を浮かべた。
フレアは5歳以前の記憶がほとんどない。見せられた記憶はその空白の記憶がよみがえったものかもしれなかった。だとしたらフレアはとんでもない思い違いをしていたことになる。
「今見たことが本当にあったことなのですか?」
「――そうさ。これは君が今の《フローレア・グローランス》になる前の封印された記憶さ」
フレアの疑問に答えたのは知の女神ミル。
人間離れした美しい顔かたちと超越した力を持つ存在がフレアの前にふわりと降臨した。
「あれが本当だとしたら、フローレア・グローランスとホウジョウ・マコトは別人ということになる」
「判断は君に任せるよ」
「とぼけるのですか?」
ミルは心外だと首を振って否定する。
「今の君に提供できる情報はこれが限界だ。これ以上は君と命を共にしている少女を危険にさらすことになるよ」
フレアはその意味を考えると1つ心当たりがある。
「記憶に出てきた少女は何かにおびえていました。それと何か関係があるのですか?」
「それもないとはいえないね。彼女は自分の運命を知り、心が弱りきっている。それは薄氷のようにもろく儚いことだろう。だがそれとは別にもっと現実的な問題だよ」
いつの間にか用意していたであろうウッドテーブル。
その上に用意されていたティーカップには紅茶が既に入れられていた。
「君はこのカップのお茶のようなものだよ」
そこに一カップ分のミルクを注ぎ込むと当然入りきらずにあふれてしまう。
「1つの体が受け止められる魂は限られている。2人分を無理に詰め込もうにもこぼれてしまう。でも現実はこのカップよりも厳しいよ。そんなことをしては器となる体が持たないだろうね」
フレアはミルが何を言いたいのかようやく理解していく。
「この体に2人分の意識は入りきらない。だから5歳以前の記憶がほとんど失われているのですか」
「それも想像に任せるよ。これでもかなりサービスしている方だからね」
ここでなぜと聞き返しても愚問だろう。だとしたらフレアは切り込み方を変えるしかない。
「どうすれば全てを知ることができるのですか?」
「その質問はとてもいいね」
「ここに来て重要な記憶の1部を開放しました。つまり、私はその分の条件を満たす何かを達成したのでしょう。その条件を教えてください」
「うん、混乱してもおかしくない情報だったはずだけど冷静だね。さすがだ」
「これでもショックは受けているんですよ」
「それはそうだろう」
恐らくだが今ある自分はフレアとマコトの魂の一部分ずつが混ざり合っている状態なのだろうとフレアは予想した。
(今の私は1つの体に2人分の意識が混ざり合う不安定な存在なのでしょうね)
マコトの本体が今どうなっているのかなど疑問は尽きない。だがミルに聞いても答えが返ってこないことは想像できる。予測は立てておけるが疑問の幾つかは頭の片隅に置いておくしか今のところできそうにない。
今聞くべきことはどうすれば真実を知ることができるのか、その方法だ。
「答えは簡単だよ。救世主経験値を溜めてレベルを上げるといい。徳を積むということは魂を受け入れる器を鍛えることにもなる。一石二鳥だろ」
「話がうまくできていますね。どうも手のひらの上で転がされている気がしてきたのですが……」
「うえっ?」
まるで図星とでもいっているかのような奇声があがった。口をつけていた紅茶にむせてしまう女神を見てますますフレアは疑惑を深めていく。
「やっぱりあなたは信用できませんね。契約破棄して良いですか?」
「うわっ、そんな理由でクーリングオフはひどいと思わないかい」
「でもいろいろと隠していることは間違いありません」
「こういうとき頭がいい人って面倒でもあるよね」
仕方ないとミルは降参の仕草をしつつ認めた。
「うん、いろいろ隠していることは認めるよ。でも今は話せない事情があると察して欲しい」
「その事情も話せないのですか?」
「知識っていうのは君が思っている以上に危険なんだよ。知っているが故に道を誤り誰かを傷つけることもある」
「でも隠しているからこそ間違うこともありますよ」
「うん、そうだね。でもそれは君にも言えることだよ」
「どういうことですか?」
「今の君のお母さんのことだよ」
ミルの指摘にフレアは返す言葉がない。フロレリアには前世の記憶ことも明かしていない。更に言えば先ほど見た記憶が本当ならば、半分はフロレリアの娘ではないということになる。
そのことに気がついたフレアは気落ちすると黙り込んだ。
(今後ママをだましたまま娘として振る舞うのですか?)
そんなことを思うと胸がぎゅっと締め付けられるような気がして手で押さえる。
(そんなのできそうにありません。でも……)
もし正直に打ち明けて拒絶されたとしたら。
そう思うと足元が崩れ落ちてしまうような不安に狩られてしまう。
呼吸が乱れ、足に力が入らず頭が真っ白になってしまう。
(嫌われるのが……怖い)
そして、娘としてたくさん愛してくれたフロレリアを裏切っているという思いと板挟みになり塞ぎ込んでしまう。
そんなフレアにミルが気遣い、助言を残す。
「フロレリアは君が考えている以上に強くて頼りになる女性だよ。ゆっくり考えてみることだね」
その後、フレアは徐々に意識が遠いていったのだ。
次の日。フレアはリリアーヌに起こされることなく1人で起きて身支度し、朝食まで作ってフロレリアとリリアーヌを迎えた。
最近の朝食は母親であるフロレリアが作っているだけに驚かれた。
特にリリアーヌの驚きようは輪をかけてすごかった。
「ええっ、フレアっちが自分で起きてる!?」
「起きてたら悪いですか?」
「あなた本物のフレアっちなの? 偽者じゃないよね」
「リリーはふだん私をどう思っているのか問いただしたくなりますね。ちゃんと睡眠時間を取れば普通に起きれますよ」
それにはリリアーヌばかりかフロレリアも驚愕でよろめきそうになる。
「ウソでしょ? フレアっちがちゃんと睡眠時間を取った!? どうしよう。今日は嵐が来るかも?」
「……リリー、私を何だと思っているのですか」
「う、うぅっ。フレアがようやく更生してくれる気になったのね。お母さん嬉しいわ」
「更生!? 私が睡眠時間を取ることはそんなに大事なのですか?」
「こうしてはいられないわ。すぐにお赤飯作らなきゃ」
「普通に寝ただけで祝われるこちらの身にもなってください」
朝から騒がしくなってしまった、がいつも通り3人で食卓を囲んだ。
いつも通りとはいっても今朝の空気はわずかに重苦しかった。それはフレアが母親の顔をのぞいてはぎこちない挙動を見せていたからだ。
「フレア、どうしたの?」
いつものようにフロレリアは聖母のごとく慈愛の表情と声でいとしい娘を気にかけた。本来ならば安心するその優しさも今のフレアにとっては胸にチクチクと刺さるような罪悪感が広がっていく。
「……ぁ、何でもありません」
言わなくてはいけないと思いつつもあと一歩分勇気がでない。フロレリアの娘であることが余りにも幸せであるからこそ余計に恐ろしかった。
浮かない顔のフレアに何か様子が変だとフロレリアはリリアーヌに視線を送る。だが心当たりがない彼女は困ったように首を左右に振った。
それからもフレアが何かを言いたげにしていることは分かった。フロレリアは絶やさぬ笑顔の裏で注意深く見守ることを心に決めた。
学園への出勤前。フロレリアはフレアと久々に一緒に行こうと考えていた。親が学園まで一緒に行くのは年頃の子供には嫌だろうと母親なりに配慮して今までは別々に出ていた。
『それでも今日は一緒にいてあげるべきでは?』
そんな思いから家を出るフレアを呼び止めようとしたところで思いもよらない来客があった。
「お、おはようございますっ!!」
家の前で可愛らしい少女が緊張した面持ちでフロレリアに挨拶する。ツインテールがよく似合う活力にあふれた女の子だ。元気な声による挨拶はフロレリアの耳に心地良く通った。
「あら、あなたは確かフレアのクラスの子ね。名前は確か……」
「シャルロッテといいます。シャルとお呼びください。フローレアさんのお母様」
「あらあら、まあまあ。お母様なんてそんな固くならなくても良いのよ」
そして、隣に視線を移すとこれまた可愛らしい少女が控えめに立っている。気が弱そうな感じだが清楚でかつ身なりが整っている。華やかな小物とわずかなフレグランスから女の子らしさの素養もかいま見える。
(それにしても最近の子供の発育はすごいのねえ)
小柄にもかかわらずアンバランスなほどに胸が張り出しているように見える。これを見てフロレリアは胸の発育が遅い我が娘を不憫に思う。
「あ、あの。あたちはニャムといいましゅ――。あうぅ」
慌てて舌を噛んだのか涙目で口元を押さえるニャムにフロレリアは萌えにも似た感情を抱く。
「あらあら、大丈夫かしら」
母性本能を刺激されたフロレリアはとっさに水の治癒魔法で噛んだ舌を治療してあげた。
「あ、治癒魔法なの。すごい。あっという間に治ったの。ありがとうなのーー」
「ふふ、どういたしまして」
「あれ? シャルさんとニャムさんではないですか。どうしたのですか?」
そこでフレアがリリアーヌを伴って合流した。わざわざ家を尋ねてきた生徒にフレアは何事だろうという顔をする。
「ふん、たまたま近くに用事があったから寄っただけよ。フローレアさんがどうしてもというなら一緒に登校してあげても良いわよ」
「え、無理しなくて良いのですよ」
「な、なによ。私と一緒に行きたくないっていうの」
焦ったように怒り出すシャルを見てフロレリアが助け船を出す。分かっていないフレアに耳打ちし翻訳してあげた。
「フレア。あのねえ、いまのは……(フローレアさんともっと仲良くしたいからわざわざ迎えにきたの。良かったら一緒に登校しませんか、って解釈するのよ)」
「おおっ、さすがママ。危うく勘違いするところでした」
フレアは母に感謝するとシャルに手を差し伸べる。
「ええ、どうしても一緒に行きたいです。一緒に学園に行きましょう」
シャルは差し伸べられた手を取ると明らかに上機嫌で応じた。
「ふん、最初からそう誘いなさいよね」
どうやらフロレリアが正しかったとフレアは確信するも次なる言葉でまたも混乱した。
「でも勘違いしないでよね。私はフローレアさんのことまだ親友とも思ってないんだから。だから今回だけよ」
「……はい?」
またも首をかしげるフレアにフロレリアが言い換えてあげる。
「今のも……(今度はそっちから誘ってほしいの。これからは親友として付き合いたいから毎日一緒に行こう、って言っているのよ)」
それにはフレアがママは天才です、と内心尊敬のまなざしで見るとシャルに提案する。
「シャルさん。これからは一緒に学園に登校しませんか。それも、親友として付き合いましょう」
「あ、……うんうん。かまわないわよ。私にはニャムちゃんがいるけど特別にフローレアさんも親友にしてあげる。光栄に思いなさい。あーーはははっ」
それはもう嬉しそうにシャルは喜んだ。時々、小さく飛び跳ねている様を見れば明らかだ。
「シャルちゃん、良かったね」
「ありがとう、ニャムちゃん」
そして、シャルがニャムとフレアの手を引くと元気にかけていく。それをフロレリアはひらひらと手を振って見送った。
「いってらっしゃーーい」
「「「いってきまーす!!」」」
フレアたちの元気な返事をきいてフロレリアが安どの息を漏らす。
(よかったわ。フレアに笑顔が戻ったわね。でもしばらくは注意して見守りましょうか)
遅れてフロレリアも学園に向けて歩き出すのだった。
ファーブル翼竜共和国南方領土サウスゲート。
そこには《ホロウ》によって壊滅した共和国の空中大都市アルゴスが存在する。
現在は《ホロウ》最大の拠点と目されており共和国最大の攻撃目標となっている。度々共和国が軍を差し向けるがいまだに攻略することはかなわずにいた。
それというのもここには《ホロウ》の首魁の右腕とされる最大にして忠実な大幹部が守護していることが理由に挙げられる。
その大幹部の名はマーガレット。見た目は麗しい女性騎士のようであるがその鋭い紫紺の眼光は刃のように鋭く恐怖が先立ってしまう。
煌めく銀髪をポニーテールでまとめ上げ、寒気がするほどの整った顔立ちは近寄り難い印象を他者に与える。
そんな彼女は堕天使のごとく漆黒の翼を背に持ち、空では竜人を圧倒する。大精霊や神をも殺したことがあるおそるべき力を持った神殺しの魔剣を持っていることも脅威の1つだ。
そして、何よりも伝説の魔法少女と相打ち、傷み分けたことで《ホロウ》内ではその地位を確たるものにした実績がある。
その日は《ホロウ》の中でも力のある7大幹部がアルゴスの城内にて一堂に会していた。マーガレット以外の6人の幹部は全身をローブに包み遠距離通信魔法を用いての参加である。
集まった主な議題は、《ホロウ》のトップに君臨する女帝がとある理由で塞ぎ込んでいる件である。
そのせいというわけではないのだろうが外の天気は大いに荒れており、雷雨に見舞われこの玉座の間にも轟音が鳴り響く。
マーガレットは他の幹部たちからの報告をまとめるとある結論に至った。
「……そうか。やはり生きているか」
マーゴットにとってそれは何よりの朗報である。
『ひぃーっひっひっ、共和国内でも限られた者しか知らされておらんが間違いないわい』
杖をもった老婆の幹部にマーガレットはねぎらいの声をかける。ベルカで探していた人物が死んだ。そう報告を受けたときにはここにいる全員が生きた心地がしなかったものだ。
だが誤報であり生存しているという報告には7大幹部内の対立を超えて、皆が安どの息をこぼした。
「よくやってくれた。あの御方もさぞかしお喜びになろう。私からきちんと報告すると約束しよう」
『ワシから報告できないのが残念じゃが仕方あるまい。機嫌を損ねたあの御方と話せるのはあんただけさね』
マーガレットは良くも悪くも公平であり、7大幹部筆頭としてそうあろうと努めてきた。だからこそこの老婆の幹部も簡単に引き下がった。
「これであの御方も立ち直られるだろう。なにせあの御方の○○なのだからな」
またも雷鳴が城を震わせた。マーガレットの言葉が時折聞き取れなくなるがここにいた幹部たちには伝わっていた。
後は通常の情報交換のみにとどめ解散する。
会合を終えるとマーガレットは『あの御方』に報告すべく足早に歩いていたが報告の中に気になることがあった。
「ベルカに強力な氷属性を使う魔法少女がいた……か」
マーガレットの脳裏に浮かぶのは昔相まみえた魔法少女のことだ。先代の意志と伝説の魔装宝玉を継ぎ、2代目の人類の守護者として立ち塞がった宿敵。
後にも先にもマーガレットはあれほどの強敵と戦ったことはない。正にギリギリの戦いだった。
最後は相打ちとなってマーガレットが相手の魔装宝玉を破壊し力を奪い、二度と伝説の魔法少女に変身できなくすることができた。代わりにマーガレットも深手を負い、今も後遺症が残っている。
そっと彼女は頬に走る一筋の傷跡を手でさする。
ズキズキと痛みは強くなるいっぽうでありマーガレットは確信する。
「伝説の魔装宝玉を失っても、力を奪われても、まだ折れずに力を取り戻そうとしているのか。この傷を通して高まっている力を感じるぞ。またいつか相まみえるのだろうな」
マーガレットはそんな未来を予言するとブリアント王国に一度足を運んでみようと思案する。自分を目の前にしてかつての宿敵はどんな顔をするのか楽しみで仕方ない。
「そうだろう、フロレリア。――伝説の魔法少女よ」




