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第69話 魔技研編 『男主人公マコトがついに登場。魔法少女を救え』

「いらっしゃいませ。フラワーマギカカフェにようこそ!!」

 

 ついに学園祭の告知も兼ねた出張オープンカフェ開店当日を迎えた。

 交易都市ガランの中心、大きな噴水が象徴となっている中央広場。そこは人と物と施設が最も集まる一等地でもある。そこで特設された屋外カフェ。

 食欲を刺激する匂いと評判に誘われて開店前から大勢の人が行列をなし、期待と珍しさから盛り上がっていた。

 天気にも恵まれ、青空が広がる晴れ晴れとした陽気の中で魔法少女たちによるカフェが臨時オープンしたのだ。

 


『うわあーー、制服ちょー可愛い!!』

『こんなカフェがあったら私も働きたい』

 

 若い少女たちが彩り豊かな花であふれるゲートをくぐるとそこは別世界のようだった。

 おとぎの国に迷い込んだような世界観が内装で演出されていた。真っ白な石の床、魔力で光る大きな魔法の花の日よけ傘、味わい深いビンテージの木製テーブル、切り株のような椅子。

 更には魔法少女風ウェイトレス服に身を包む可愛らしい店員たちが元気に出迎えた。

 最初にお客様として来店した少女2人が足を踏み入れると服が突如お姫様にでもなったかのような豪華絢爛なドレスに変化する。


『うそーー、なにこれ』

『服がドレスに!?』

 

 喜び驚く少女たちにロザリーが説明する。


「店内は特別な幻影魔法が張り巡らせています。女性のお客様がご来店されますと服がドレスに変身したように見える仕様となっています」


『ふああーー、こんな服を一生に一度は着てみたかったのよね。こんな形で叶うなんて夢みたい』


 一般人の少女は貴族のようにドレスを買う金銭的余裕がない。だがこのカフェでは、綺麗になりたい、一度はお姫様みたいな服を着てみたい。そんな乙女の夢を疑似体験してもらい喜んでもらおうと企画した。

 狙いが上手くいったことを確信したロザリーは満足げに微笑む。お客様の夢が覚めないように恭しくお客様に礼をする。


「本日は当店にご来店戴きまして誠にありがとうございます。ここは魔法少女のカフェ。お嬢様方に魔法で夢の時間を提供するマギカカフェなのです」


 聞いていた少女2人はあまりの衝撃に感動し、涙ぐむ。


『す、凄いよ。学生のお遊びなんて言ってた人もいたけどこれは予想以上だよ。本当に夢見たい』


 2人の少女はロザリーに案内されながら店内を見回すと所々に擬人化した可愛らしいぬいぐるみたちが目に入る。隠れた仕草や、ほのぼのとした戯れの様子を切り取ったような展示になんとも言えず笑みがこぼれている。

 案内されて席につくと床からたちあがる光の立体投影により花が咲き乱れる。

 驚きの連続で少女たちはもう口が開きっぱなしだ。


「お嬢様、ご注文はいかがなされますか?」


 ロザリーの声でようやく我に返る2人は慌てた。メニューを見ても文字だけではどれが良いのか分からない。

 ロザリーはやんわり微笑むとテーブルに手を当てて魔力を流し込む。

 すると天板表面に光で映像が現れ、様々な美味しそうな料理がずらりと一望できる。


『もしかしてこれがメニュー?』

『もう、凄すぎ。本物みたいにみたいに見えるよ』


「これは魔法で記憶した料理を光で映しています。ご注文したいお品をお選びください」


『はあ、どれも凄く美味しそう』

『知ってる? ここの料理って最近(ちまた)で有名なグローランス家のお姫様が監修してるらしいよ。厨房にも立つらしいから運が良ければ食べられるかも』

『それって大貴族どころか、王族でも滅多に食べられなくて大金積んでも食べたいって有名になっている”あの”?』


 2人の少女が確認するようにロザリーに視線を向けると首肯した。


「その通りです。私の教官でもあるその方が厨房に立っていますよ。イケメンでもないかぎりお時間をいただければお1人様1品だけお作りします」

 

『えっ、イケメンは駄目なの? 普通逆じゃん』

『そうよねえ。かっこいい男の人なら普通張り切って頑張るけど』


 それにはロザリーもおかしそうに表情を緩めてしまう。


「あの方はイケメンが大嫌いなのです。どうにもイケメンは全て性格が歪んでるかクズ人間ばかりだと固く信じているようで……」


『もったいない』

『ほんとにね』


「私もそう思います」


 そして、しばらくして料理が運ばれてくると2人の少女ははやる気持ちを抑えきれずにフォークやナイフ、スプーンに手を伸ばす。そして、一口頬張ると口の中に広がる幸せの味に身もだえた。

 テーブルに並べられたのは卵サンドウィッチにクリームたっぷりのふわふわパンケーキ、カスタードプディング、イチゴのショートケーキ。

 それらの余りのおいしさに彼女たちの手は止まる気配がない。そして、最後の1口を食べ終えると名残惜しさに2人は肩を落とした。


『う~~ん、すっごく美味しい。こんなの食べたことない』

『もっと食べていたいねっ』

『ねえ、お勧めってある』


 おいしさのあまり暗黙の内に少女たちは追加オーダーをきめてしまった。2人の少女に尋ねられたロザリーは自分の好みをお勧めする。


「私個人のとしてはパフェがおすすめです。美味しいスィーツを1つのグラスに目一杯詰め込んだ至高の一品ですよ」

 


 大きなガラス容器にまずはチョコのムース。続いてサイコロ状のスポンジケーキ。たっぷりのホイップクリームの上にカズタードプディングとバニラアイスクリームをトッピング。その上に酸味の聞いたイチゴソースが振りかけられ、最後にメロンやイチゴ、バナナや色とりどりの焼きクレープが容器にあふれんばかりに盛り付けられている。


 パフェは生徒たちの発案した。あまりにも詰め込みすぎてフレアはそれぞれの味を台無しにしやしないかと難色を示した物だ。しかし、見た目のインパクトはどのメニューにも勝っている。

 映像だけでも2人の少女はパフェの迫力と豪華さに目を奪われ迷うことなく決めた。


『パフェをください!!』


 ボリュームのあったパフェもペロリと平らげて満足げに2人の少女はカフェを出る。見た目、店の雰囲気、待遇、何より料理のおいしさに2人の少女はまだ余韻が冷めない様子で興奮していた。


『もう凄い。それしかないね。知り合いに紹介しよう』

『そうだね。絶対に友達に羨ましがられるよ』


 2人は待ちきれないとまだ足を運んでいない知り合いや友達に魔法少女のカフェを自慢して回った。

 これは1例であり、フラワーマギカカフェは3時間と経たずに都市中のうわさとなり、より大きな行列に成長していった。これはある人物にとって大きな誤算となっていたのである。




 魔技研の副所長ゴーマンはフラワーマギカカフェのあまりの盛況ぶりに唖然としていた。

 窓から中央広場が見える高級宿の3階に宿泊していた彼は行列のあまり中央広場を埋め尽くす人々の現状が信じられない。


「どうなっているでゲス。魔法少女たちの催しが失敗するように悪いうわさを流させたはずでゲスよ」


 ゴーマンは部下たちを使ってカフェの良くないうわさを流させていた。

 例えば、子供が提供する料理が美味しいはずがない、行かない方が良い、などと言った感じにだ。

 ゴーマンに報告に来た部下は恐縮しきっていて床に額をつける勢いで深く謝罪する。


『うわさの効果はありました。実際開店当初は行かない人という者も大勢いたのです』


「だったらなぜこうなったのでゲスか」


『それはうわさが吹き飛んでしまうほど人々を引きつける内容のカフェだったからに他なりません。視察はしてきました。ですが正直ここまでやるのか、と頭を横から強打されたかのような斬新なものでした。提供される食事も王都の超一流の料理人でも見たこともないクオリティです。それでいて舌が衝撃で突き抜けそうな程甘美な絶品料理でありました』


 部下があまりにも褒め称えるのでゴーマンは面白ない。その場で地団駄を踏んで悔しがる。


「敵を褒めるとは何事でゲスか」


 部下に当たり散らすゴーマンだが音もなく現れた邪道騎士を見るとはっとして動きを止める。


「ゴーマン殿。その辺にしておけ。その点に関しては相手が1枚も2枚も上手だということだ」

「どういうことでゲス」

「グローランス家はうわさを広めたお前の部下を見張って対策を取っているぞ。今頃は不正を行った部下の大半にティアナクラン王女の指揮した騎士団が拘束のため動いているだろうな」

「なっ……」


 ゴーマンが絶句する。そうなると捕まった部下の口からゴーマンの指示だとばれるかもしれない。ティアナクランの直属である魔法少女たちに手を出すことはゴーマンのにとってはリスクを伴う。

 現れた邪道騎士がそんなゴーマンに手で制する。


「安心しろ。我々は邪道騎士の中でも名の知れた『愚連隊』だ。口の割りそうな奴、マークされた奴も既に”処理済み”だ」


 この場合の処理とは口封じによる殺害を指している。それを理解しているゴーマンだが部下のことよりも何より()(しん)が保証されたことに安どした。

 

「ふう、助かったでゲス。それにしても送ってくれた邪道騎士が『愚連隊』だったとはオズマ殿も太っ腹でゲスなあ。感謝するでゲス」


 邪道騎士には無数の隊が存在する。中でも名の知れた隊の1つが愚連隊。彼らは暗殺や破壊工作など裏社会で知らない者はいない。

 ガランには愚連隊の副隊長であるデザイヤとその部下たちが派遣されていた。

 オズマに逆らえば愚連隊がくるとおびえて恭順する者も少なくない。

 それほどのネームバリューのある騎士たちが味方に付いたとなるとゴーマンは気が強くなっていく。


「ゲショショ、これならグローランスの商会を叩き潰すのも楽勝でゲスな」


 おごりが見えるゴーマンに邪道騎士デザイヤが忠告する。


「グローランス家を甘く見るな。オズマ様は愚連隊でなくば無駄に人員を失うだけだと見越して派遣されたのだ。貴様の部下たちの大半がガランに到着して3日と経たずに抑えられた事実を忘れないことだ」

「わ、わかったでゲス。こうなったら例の作戦を実行してもらうしかないでゲスな」

「貴様から預かった魔法のしびれ薬か」

「そうでゲス。騒ぎを起こせばグローランス家の信用も一気に地に落ちる。これだけ人が集まれば逆に悪評は広まってくれるでゲスよ」

「了解した。工作はこちらで受け持とう。なにせ我々にとってもグローランス家は目障りなのでな」


 そう言うと、デザイヤは音もなくスウッとその場から消え去りいなくなった。


「ゲッショッショ、この特等席から観賞させてもらうデスよ」


 邪道騎士の愚連隊が味方に付いた。作戦の成功を確信したゴーマンは中央広場の人々見下し眺めた。




 デザイヤの指示で数人の一般男性に(ふん)した邪道騎士たちがお客様としてフラワーマギカカフェに紛れ込んでいく。


(ふん、チョロいな。この程度の任務、我ら愚連隊にかかれば造作ない)

 

 それぞれの工作員たちは懐やカバンに強力なしびれ薬を隠し持っている。しびれ薬と言っても大量に吸い込めば呼吸が難しくなり死の危険すらありうる。

 工作員たちは解毒剤を予め服用し対策済みだ。


(この魔法薬を振りまけば大パニックになることは間違いない。それだけでもそれなりに重傷者は出る。変身前に動けなくなった魔法少女など赤子をひねるようなおの)


 わずかに口元を歪ませて工作員たちは全員が配置につき時が満ちるのをじっと待っていた。


(我らを工作員と見破るのは不可能だ。それだけの厳しい訓練を乗り越えてきたのだ。見破られることなどあり得ない。まして、怪しいと万が一にも話しかけられたとして幾らでも(とぼ)けてみせるし、隙を見て薬を振りまける。ここまで敵を懐に入れた時点で敗北したに等しんだよ)

 

 ここにきて止める方法があるとしたら疑わしいというだけでいきなり実力行使にうったえ一瞬で制圧に取りかかるしかない。

 だがそのようなことはあり得ない。つまり、この計画は絶対に完遂できるのだと工作員たちは誰もがそのことを疑っていなかった。

 


 そんな中フレアは厨房を外れると店の入り口に来て難しい顔をしていた。

 

「ふみゅ……、お店の名前が変わってる」


 カフェの看板を見て不満を漏らす。『キラキラ☆フラワーマギカカフェ』の最初のキラキラ☆がニャムの魔法の花で見事に隠しつつ違和感なく華やかにしていた。


「ちょっとフローレアさん、忙しいんだから厨房抜けないでよね」


 フラワーマギカカフェは常に満席。お昼はとっくに過ぎているのに人の波は退くどころか大きくなって押し寄せる。

 そんな状態なので注意するシャルの声も余裕が感じられない。それでもフレアは店名が無断で変えられたことに憤りを隠せないでいる。

 

「私は怒っています。ニャムさん、今すぐ看板のあの花をどけてください」

「ええっ、でも~~」


 ニャムが困惑していると不意に若い女性を中心として黄色い声が響く。


『きゃあーー。チョー可愛いよーー』


 沸き上がる声にフレアは当然だと内心胸を張る。店内の内装と魔導具の演出はフレア(こん)(しん)の作品である。ちょっとだけ気分がよくなる。

 だがいつの間にかフレアとシャルとニャムを女子が取り囲み話しかけてくる。

 注目されていたいのはフレアたちだった。


『3人ともお持ち帰りしたい』

『妹にしたい』

『抱きしめて可愛がりたい』


 フレアは現代で言うパティシエを思わせる衣装だ。白を基調として水色と黄色とピンクのレースを重ね合わせたスカートにフリフリのエプロン姿。

 シャルはピンク色の活動的なフリフリ生地のウェイター姿。

 ニャムは胸元が強調されている肩が露出したタイプの上着にゴスロリ風のふわふわな袖、丈の短いヒダが5割増しのスカートに身を包む。

 クラス最年少にしてもっとも小柄な3人はお人形さんみたいだと注目を集めていた。あまりの迫力に押され3人とも気押されてしまうほどだ。


「シャルさん、ニャムさん。お客様ですよ。任せました」

「あ、ずるい。逃げるの!?」

「人聞きが悪いですよ。料理は私の担当ですからね」

「フローレアさん、魔法少女を守るって言葉はウソだったの」


 シャルがぐいっとフレアを盾にするようにお客様に突き出す。

 

「これは魔法少女と民の微笑ましい交流に過ぎません。であれば魔法少女ではない私が前にたつわけにはいかないでしょう」


 今度はフレアがシャルと体を入れ替えてその背中に隠れる。

 そこでニャムが、がしっとフレアの腕を掴み引き留める。そして、にこりと微笑みかける。


「逃がさないの。顧問のフレアちゃん」

「ニャムさん、は、離して……って、んっ」


 3人で揉めているとフレアはお客に紛れている男の1人が目に入る。普通とはわずかに違う挙動をみつけ違和感を覚えた。

 

「あの男性、怪しいですね」

「どうしてそう思うの?」


 ニャムは首をかしげるがフレアはその理由を得意げに言い放つ。


「あの男、イケメンです。きっと凶悪な犯罪を企てているに違いないのです」

「そんな理由で犯罪者扱いするなっ!!」


 シャルのもっともなツッコミにニャムもうんうんと頷き同意する。


「ああっ!!」

「今度は何よ」

「あっちにも、こっちにもイケメンがっ、――もとい怪しい人間がっ」

「イケメンだからって人を疑うんじゃないわよ」

「えっ、むしろ確信していますがっ」


 フレアは亜空間から突然魔装銃を取り出すと迷うことなく引き金を引き始めたのだ。1人、2人、3人と一撃でイケメンたちは沈んでいく。

 突然のことにシャルは目の前で怒ったことに頭が真っ白になった。


「えっ、えーーーーっ、フローレアさん。ちょ、何やってるのよ!!」


 ニャムはもはや反射的に動いて銃口を向けられたイケメンの盾になるように体を割り込ませた。

 

「フレアちゃん、お客様に発砲したらだめえーー」


 異変に気がついた生徒たちが慌てて駆け寄ってフレアの銃を抑えにかかる。


「止めないでください。相手はイケメンですよ」

「そんな理由で発砲する人がありますか」


 ロザリーが混乱しつつも止めに入る。


「安心してください。気絶させているだけです。それよりはやく危険人物イケメンどもを全員拘束してください」

「今は教官が危険人物です」

 

 そんな中で突然銃口を向けられたイケメンの男が信じられないといった様子で立ち上がる。


『なぜ、我々が危険人物だと分かった!?』


 それは男が思わず漏れ出た心からの叫びだった。あり得ない事態につい口にでてしまう。

 それを聞いた魔法少女たちが逆に度肝を抜かれて絶叫した。


「「「ええーーーー、ほんとに危険事物だったの!?」」」

 

 フレアが倒せなかった残り2人のイケメンが苦し紛れに薬をばらまき周囲に霧が立ちこめて視界が悪化していく。


「ちっ、逃がすか」


 フレアは拘束が緩むと背中を向けて逃走する男2人を魔装銃で撃ち抜いた。

 種明かしをするとフレアには鑑定スキルがあるのだ。イケメンとみれば全て疑ってかかるフレア。鑑定してみるととオズマの工作員だと判明した。それも危険な薬を所持していることも分かっていたので行動に移される前に問答無用で魔装銃をぶちかましたのである。


 5人中2人分の薬だけでも被害はカフェとその周囲にまで広がっていく。

 中央広場全体に広がらなかったのは不幸中の幸いだがそれでも魔法のしびれ薬はまかれてしまった。


『げほっ、ごほっ』

『体が、うごかない』


 次々に店内の人から倒れていく。薬の拡散は魔技研の開発した物だけあってあっという間に広がった。

 異常と思える速度で広がったのはフレアも予想外で避難を促すひまもなく体が痺れて倒れてしまう。


(まずい。この薬普通じゃない)

 

 なすすべなく生徒たちも次々に倒れて動けなくなっている。

 そんな中で魔導鎧を着た騎士がやってくる。それはデザイヤだった。


「さすがだな。失敗するかと肝を冷やしたが思った以上に手に入れた魔法薬が強力だったらしい」

「……その鎧。オズマの、……邪道騎士」


 フレアは気力で首を動かし声を出す。解毒剤を飲んでいる邪道騎士以外で話してみせたフレアにデザイヤが感心する。


「たいした気力だな。解毒剤もなしに意識を保つどころかまだ話せるとはな」


 デザイヤがフレアに近づくと腰の剣を引き抜いてフレアに向ける。


「本当は殺してやりたい所だがクライアントの意向で今回は腕をもらう程度で済ませてやる。それと魔法少女は何人か死んでもらおうか」

「なん、ですって……」


 そんなことはさせないと立ち上がろうとするが体に力が入らず歯を食いしばるしかない。


(そんな、魔法少女を、生徒を、何より友達を殺させたりしない!)


 リリアーヌは店の外を警戒して人々の避難に追われて近づけない。ランスローはジークの特訓を受けて傍にいない。ルージュは不穏な動きを見せる魔技研の調査に出回っている。助けが来そうにない。フレアは自分でなんとかするしかなかった。

 

「無駄だ。声を出すのもやっとな状態で俺をとめられんよ」


 剣を振り上げるとデザイヤは一気に振り下ろす。


「まずは貴様だ。グローランス嬢――」

「さ、させるかーーっ、変身(トランス)魔装法衣(マギカコート)


 気合いとともにデザイヤの剣を弾き守ったのはシャルだった。とっさに魔法少女標準形態に変身すると気力で魔剣をふるった。辛そうな表情ではあるが辛うじて動けるようである。


「なにっ、この霧で動けるだとっ!!」

「シャルさん? どうして……」


 シャルは魔剣を両手でなんとか握りしめるとしっかりと大地を踏みしめる。


「わたしの家は騎士の名門。対人訓練も受けてるのよ。毒も幼少から耐性を持たされている。だから私ならこの霧でも戦えるわ」

「それにしては動くのも辛そうだな。まあ、最新型の魔法のしびれ薬。全く効かないのでは困るがなっ」


 デザイヤが踏み込みシャルに斬りかかってくる。襲いかかる剣をシャルは魔剣で受けるのが精一杯だ。

 劣勢はシャルの不調のせいだけではない。デザイヤは元々魔法少女とも渡り合えるほどに強い騎士でもある。


「こいつ、強い。きゃああっ」


 続く攻撃は捌ききれず、体に攻撃を受けて大きく後ずさる。


「シャルさん!!」

「大丈夫よ、フローレアさん。マギカ・アイアスのおかげか思ったよりはダメージが少ないから」

「魔装法衣の防御力。聞いていた以上の堅さだな。ならば倒れるまで攻撃するまで」

「くっ、ぐう」


 剣を振るのもやっとといったシャルは何度も攻撃を受けてボロボロになっていく。


「シャルさん、もう、いいです。……逃げて!!」

「できるわけないじゃない!!」


 ダメージが積み重なって魔剣を杖代わりにようやく立っている。シャルはフレアに振り向くといった。


「あなたと約束したんだから。死なないって。魔法少女の仲間も誰も死なせない」

「シャル、さん……」


 フレアはシャルのその言葉に胸を打たれ泣きそうになる。あのとき交わした約束のためにシャルは必死に戦ってくれているのだ。


(なんとかしなきゃ、シャルさんを助けないと)


 気力でデザイヤに斬りかかるもシャルは容易にあしらわれる。返り討ちにあって後方に吹き飛ばされフレアの目の前に倒れてくる。

 フレアはシャルに力の入らない左手を動かしてどうにかその体に触れる。シャルは心配かけまいとフレアの手を握り返す。


「わたしはあきらめない。絶対にフローレアさんも、皆も守ってみせる。悲しませたり、しないんだから……」


 シャルの不屈の思い。優しさが手から伝わってくる。シャルのフレアを思う心が暖かくてフレアは目頭が熱くなってくる。


(シャルさんがこんなに頑張っているのに。私は諦めるのですか?)


 状況は覆し難いほど絶望的。それでもフレアは必死で打開策を考える。


(考えろ。私の武器はこの頭です。神龍眼も集中できないせいで発動が難しい。どうすれば切り抜けられる。どうすれば皆を守れる?)


 今もデザイヤがとどめの一撃を放とうと剣を振り上げる。シャルは立ち上がりフレアを守る意志を表すようにたった。シャルはフレアの身代わりになろうとしている。

 そんなことはさせない。

 必死で、頭が痛むのもかまわず限界まで思考を巡らせようとする。そのときだった。目が突然痛み熱を帯びる。


【神龍眼緊急コード発動。フローレア・○○○・○○○・グローランスの魂を凍結し…………】

 

「終わりだ、魔法少女」

「っ!」

「だめえーーーーっ」


 フレアは絶叫すると体から爆発的に光があふれでる。そして、ふっと意識を失った。


 

 デザイヤの攻撃にシャルが身を固くして目を閉じると、なかなか体に衝撃が伝わってこないので恐る恐る目を開ける。

 すると目に入ったのはシャルを見つめ優しい顔で案じる男の子だった。

 シャルはその男の子にお姫様抱っこで抱きかかえられながら移動しておりデザイヤの振り下ろす剣から逃れていた。男の子の周辺だけ霧が晴れている。

 

(綺麗な顔……、それにすごく優しそう)

 

 シャルは目の前の男の子から目が離せない。

 シャルよりは年上であろうか。小柄で可愛らしい顔立ちと柔らかい雰囲気にシャルは経験したことがない感情が沸き上がる。ただどうしようもなく心臓の激しい鼓動だけがはっきりと感じ取れる。


(何でだろう。安心するのに緊張する。この気持ちは一体何なの)


 シャルは彼に見惚れていたがはっと我に返る。男の子からフレアと全く同じ甘い匂いがしたのだ。周囲を見回すがフレアの姿が見当たらない。


「フローレアさんは?」

「心配はいりません。安全な場所に逃がしました」


 シャルを優しく降ろすと無防備な男の子にデザイヤが襲いかかる。


「貴様、邪魔をするなら殺す!!」

 

 男の子はデザイヤに素早く対峙し、右拳を引き絞りながら構えを取る。拳には不可視の力場が急速に集中していく。


(あの構えって、パティさんの《ガンマギカナックル》じゃあ……)


「《サイキックガンナックル》!!」

 

 果たして、シャルの予想通りパティの技に酷似した攻撃が繰り出された。目では追えないほどの念動力の塊が弾丸のように拳から打ち出されるとデザイヤのボディをとらえて吹き飛ばした。


「――がはあっ」

 

 信じられないといった様子でその男の子に近づくとシャルは尋ねた。


「あなたは誰なの?」


 シャルは竜人のように瞳孔が縦に走り、フレアと同じ神龍眼の光を目に宿す謎の男の子をじっと見つめた。そして、彼の口からはっきりと聞いた。


「俺はホウジョウ・マコトだ」


 デザイヤの劣勢を感じ取り、隠れていた30近い数の精強な邪道騎士たちが援護に近づいている。にもかかわらずシャルに絶望の色はない。

 きっとマコトは彼らを相手に1人でも負けたりしない。

 マコトの圧倒的な強さを肌で感じるシャルはそんな確信があった。

 むしろ、彼をみてますます高鳴っている心臓の方がシャルにとっては大問題だった。


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