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第64話 魔技研編 『ニャムの覚醒。無魔シンリーに立ち向かえ』

 学園祭を推し進めるに当たってフレアはとある提案をする。

 

「学園祭の周知のため、ガラン中心商店街で喫茶店を出張オープンしたいと思います。これは都市の人々に学園祭とはどういうものなのか知ってもらうこと、もう一つに皆さんにも肌で雰囲気を感じてもらうためです」


 それからフレアはニャムとシャルに視線を向けると2人を指名する。


「責任者はニャムさんとシャルさんにやってもらいます。学園祭ならではの特色あふれる喫茶店を期待していますよ」


 それにはニャムががたっと立ち上がり驚き叫んだ。


「ええ~~っ、なの~~!?」


 その傍らでシャルは胸を張って強がる。

 

「あーーはははっ、面白そうじゃない。わたしとニャムの2人でフローレアさんの期待以上の成果をあげてみせるわ」


 相変わらず頼もしいと頷くフレアだがニャムは不安を隠せない。


「あたちが喫茶店なんて無理なの。そもそもお店に出せる料理なんて作れないの」

「だったら特訓ね」

「シャルちゃんは黙ってて」

「……はい」


 責任感の強いニャムは次々にフレアに懸念事項をあげていく。


「資金だってどのくらいか分からないし、普通の喫茶店じゃ興味を持ってもらえないよ。許可もいろいろあるだろうし、ああ、どうしよう」


 あたふたするニャムにフレアは苦笑しつつ言った。


「学園祭はグローランス商会が全面協力します。資金も、面倒な手続きもこちらに任せてください。皆さんには来る人を幸せにするような楽しい催しを思いのままに話し合って決めてください。企画する時間すらもきっと財産になるでしょう」

「ふわあ、フレアちゃんって大人みたいなの」


(まあ、私は前世の記憶がありますからね)


「それと料理は私が監修します。大変なら直接腕を振るいます。遠慮しないで良いですよ」


 それにはクラスの生徒たちが目の色を変えた。特にシャルがフレアに詰め寄る。


「それってフローレアさんの料理が食べられるってこと? そんなうらやましすぎでしょ。むしろわたしが食べたいわ」

「試作料理も作りますし担当者は試食をお願いするでしょうね」


 それを聞くとクラスでは喫茶店に参加すると表明する生徒が殺到する。フレアの美味しい料理とスィーツが食べられるとものすごい人気になった。

 あわあわとニャムが余裕を失い立ち尽くす。だがそこはシャルが上手く仕切る。


「学園祭の仕事は山ほどあるんだから定員を決めるわよ。希望者も多いし抽選で選ぶけどいいわよね」


 さんせー、とあっさり場は収まっていく。

 あまりの混乱に収拾が付きそうにない修羅場をシャルがあっさり収めた。それには力不足を感じてただニャムが肩を落とす。


(やっぱりあたちはお荷物なの。きっと選ばれたのもシャルちゃんのついでなんだよ)


「あとはどうやって人の興味を引くかよね。正直フローレアさんの料理ってだけで人は来そうだけど……」


 シャルの意見にフレアは口出しする。


「学園祭の主役は生徒1人1人です。もちろんニャムさんもその1人ですよ」


 気落ちして黙り込んでいたニャムは急に話を振られて慌てる。


「ほえーー、あたちですか?」

「そうですよ。ニャムさんはどんな喫茶店にしたいですか」


 問われてニャムは自信なさげに思ったことを口にする。

 

「そうですね。来る人に癒やしの空間を提供したいの。あたちお花が好きだから皆にも楽しんで欲しいの」


 それからのニャムは徐々に(じょう)(ぜつ)となっていく。


「入り口は花のアーチで出迎えたいなあ。それから華やかな衣装でいらっしゃいませって元気に出迎えて、それから来てくれたお客様に好きな一輪の花をプレゼントしてあげるの。色とりどりの花に囲まれた店内と優しい香りに包まれて美味しいお茶と食事を楽しんでもらえると素敵なの~~。あっ、テーブルの中心にも花を飾れると良いと思うの。料理も花を意識したスィーツがあってもいいと思うなあ」


 そこまで語って教室がしーーんと静まりかえっていることにニャムは気づいた。ニャムははっと我に返ると慌ててその場で謝罪する。


「ご、ごめんなさい。引いちゃったよね」

「何言ってるのよ。凄く良いじゃない。それ採用よ」

「えっ、いいの?」

「わたしじゃ思いつかないわ。さすがニャムね、女子力高いわ」


 それには聞いていたクラスの生徒も頷き賛成する。ティアナクランも絶賛する。


「素晴らしいわね。是非わたくしも当日寄らせてもらうわ」

「ニャムちゃんすっごく乙女だね。もっと話聞かせてよ」


 続いてパティが興味津々でニャムに話をせがむ。最初は戸惑うもニャムは自分の趣味をさらけ出しても良いのだと気がつくと楽しそうに話し出した。語り出す止まらない。

 クラスで浮いていたニャムが今は中心となって場を盛り上げる。ここのところ暗い表情も目立っていたがそれが嘘のようにニャムは輝いていた。

 ニャムの生き生きとした様子を眺めていたリリアーヌはフレアに本音を聞いた。


「フレアっちはこうなること狙ってたの」

「なればいいなあ、くらいですよ。こんなにすぐ効果がでるとは思いませんでした」

「ふふっ、そっか」

「ですが彼女の悩みは伸び悩む戦闘力です。これは今すぐに解決できる悩みではないでしょう。うーーん、どうしたものでしょうね。ああーーっ、ニャムさんを笑顔にするにはどうすればっ」


 ニャムのため、生徒のために一生懸命何とかしようと悩むフレアをリリアーヌは嬉しそうに見守っていた。




 その日のニャムはいつもより遅めの下校であった。


「ふふ、ふふふふ」


 学園で周囲から頼りにされることは初めてだった。自分でも人に負けないものがあるのだと思えると自信につながる。

 いつものは重い足取りで家に帰る道も軽やかに踏み越えていける。


「フレアちゃんの言ってたことってきっとこういうことなんだね」


 戦闘能力だけが全てじゃない。その意味が今は少しだけニャムにも理解できる気がした。だがそう思うとフレアはニャムのために学園祭などと大規模行事を推し進めたのでは、と考えてしまう。そんなはずはないだろうとすぐに首を左右に振ってその思考を振り払う。


「さすがにあたちのために学園祭を企画したなんておおげさなの」


 ごまかすように笑ってみたがまたも浮かび出ては消えてくれない。


「……うぬぼれなの」


 ニャムの実家は大きなお花屋さんである。大きな自然公園に隣接し色とりどりの花園が広がっている。

 そんな大きなお花畑を両親とニャムと妹で協力して育てて売っているのだ。

 ニャムのお店は高級住宅街も近い。ありがたいことに貴族からも好評で注文をうけることもある。そのためかお金に困ることはない。かといってお金持ちというわけでもない。


 そして、自然公園を抜けて家に帰る途中で可愛らしい魔法少女のような衣装に身を包む少女を見てしまった。

 その少女がニャムにとってよく知る顔だったので(いぶか)しみながら足を止めた。


「……レア。何をしているの?」


 ニャムの声にレアと呼ばれた子はビクッと驚いた後固まった。ぎこちない動きで振り返る。ニャムを見るとものすごい量の冷や汗が頬を伝っていく。


「レア? それは誰のことでしょう」

「あなた以外にいないの」


 はあっ、と溜め息をつくとレアと呼ばれた少女はおもちゃの魔法のステッキを振り回し、決めポーズを決める。


「私はレアではありません。人知れず悪をうち、人々の平和を守る正義の魔法少女レイアなのです」


 どやっと効果音が聞こえそうな様子でその子は言い張った。


「っていうごっこ遊びがあなたの学校では流行っているの?」


 思わず頷きそうになったレアだがすぐに怒って否定する。


「違うの。私は魔法少女なの。もう知らない」


 ぷいっと顔を背けるとそのまま逃げるように去っていく。そして植物生い茂る自然の中に消えていくとガサガサと葉がこすれ合う。その後普段着のレアが姿を現した。


「……着替えたのね」

「ふっ、私の完璧な変装を見破るなんてさすが本物の魔法少女だね」

「あたちまだ見習いなの」


 ニャムの反論も無視してレアはやむなく最大の秘密を打ち明けるといった覚悟でニャムに告白する。


「世を”はばかる”正義の魔法少女レイアとは仮の姿……」

「はばかるじゃなくてしのぶなの」


 ピクッと言い間違いに気がついて表情が硬くなったがレアはかまわずニャムに言った。


「実は私は魔法少女じゃないのっ!!」

「うん、知ってる」


 冷めたニャムの反応にレアは大層ご立腹だ。頬を膨らませるとぽかぽかと姉のニャムを叩いた。


「もうもう、お姉ちゃんノリが悪いの。それでも魔法少女なの?」

「ノリは魔法少女に関係ないと思うの」


(まあ、フレアちゃんなら本気で反応して残念がると思うけど)

 

 だがレアはじっとニャムを見つめていると嬉しそうに笑った。


「何かおかしい?」

「ううん、今日のお姉ちゃん嬉しそう」

「そうかな?」

「そうだよ。何かあった?」

「うーーん、あったかもなの」


 ニャムとレアは実家の花園が見渡せる自然公園のベンチがある場所に座った。

 レアは魔法少女に憧れており学園の話をよくせがむのだった。そして、魔法少女であるニャムのことを尊敬して慕ってもいる。

 ニャムは今日学園であった出来事を聞かせてあげるとレアは我がことのように喜んだ。

 学園祭でクラスの出し物があること。喫茶店の責任者となったことを。


「凄いよお姉ちゃん。大抜擢だね」

「そ、そうかな」


 顔を真っ赤にして照れるとレアが頷く。


「最近元気なかったけど悩みは解消したのです?」

「それは……まだかな。私、皆のお荷物で戦いでは足手まといだからいつか魔法少女をやめさせられるんじゃないのかって」

「そんなことない」


 レアは立ち上がり体を目一杯使ってニャムを力づけようとする。


「お姉ちゃんは私の自慢のお姉ちゃんだよ。きっとすぐに凄い魔法少女になれる。私は魔法少女になれないけど。才能ないけど私もいつか努力してお姉ちゃんと同じ魔法少女になりたい。夢を諦めたくない」

「だからあんな格好を?」

「そうだよ。私も頑張るからお姉ちゃんもくじけちゃ駄目だよ。フレッフレッ、ガンバ、だよ」


 魔法少女の適正がないレアの方が(つら)いはず。なのにニャムのことを元気づけようとする妹の姿勢に涙腺が緩む。


「レア、ありがとう」

 

 クラスの仲間との今日のやりとり。そして家族の応援を受けてニャムは胸の奥で何かが芽吹くような暖かい力を感じ始めていた。

 そこにレアの気持ちを踏みにじるような笑い声が響く。


「あはははは、なり損ないと落ちこぼれが傷をなめ合うなんて惨めすぎだし」


 声がした方を向くと上空から降りてくる純粋種の無魔シンリーの姿を目にする。


「あなたは、前にガランを襲った無魔?」

「お姉ちゃん」


 レアはシンリーにおびえ、ニャムは格上の敵を前にして恐怖で不安になる。それでも勇気を振り絞り妹を背にかばった。


「なり損ないの妹ちゃんは魔法少女になれたお姉ちゃんをほんとは嫉妬してるんじゃない。それなのに応援とかばっかじゃないの」

「そんなことない」

「いいや、そんなことあるし。あたしには見えるから。妹ちゃんの中にある負の感情がさっ。でも」

 

 すっとシンリーの瞳に殺意が宿るとレアを(にら)みつける。


「同時に胸くそ悪い正の感情もあふれてるし。もしかしたら本当に魔法少女覚醒するかもしれないかもだし。だったらここで潰しちゃおうかなーー」

 

 シンリーはレアに人差し指を向けると指先からおぞましい反魔の邪悪な種を飛ばした。


「レア」


 ニャムが体を張ってかばおうとするも邪悪な光は魔法少女のニャムを嫌ってすり抜けてレアの心臓を撃ち抜く。


「うわあああっ、お姉ちゃんっ!!」

「レアーーーー」


 反魔の力の圧力にニャムは吹き飛ばされて、100メートルも後方に飛ばされてしまった。


「あぐっ」


 地面に叩きつけられる痛みに顔が歪む。それでもニャムはレアのことが心配でそれどころではないと立ち上がる。

 その間にもレアは暗く冷たいおぞましい意志に飲まれていく。小さな丸い黒の結晶に閉じ込められ封じられたレアは死んだようにその中で動かない。

 そして、そばにある巨大な大樹を取り込むと黒い力が実体化し擬人化した樹が膨れ上がる。それはすぐに実体を形作り、体長20メートルの《よこし魔》が誕生してしまった。


『ブオオオオオン!!』


 枝にある黒い葉を震わせ耳障りな音を響かせると周囲に衝撃波を発生させた。

 物が簡単に空へと巻き上げられ、建物は大きな音を立てて崩れていく。公園にいた多くの民が《よこし魔》の出現に気がつき悲鳴を上げて逃げていく。


『あれは《よこし魔》だ!!』

『それに無魔もいるぞ、逃げろ。騎士団に連絡を』

「きゃああああーーーー』


 おびえる人々を見下ろしながらシンリーはあざ笑う。そして、愛おしそうに黒いオーブを手に持つ。

 

「あははは、逃げろ。おびえろ。思い知るといいし。《よこし魔》は強い正の感情を負に反転させ魔物に変える秘術よ。負の感情がオーブに集まるほどにグラハム様の復活が近づくのよ」


 周囲の人々から沸き上がる暗い感情が目に見える形で吸い上げられシンリーの持つオーブへと吸い込まれていく。

 シンリーと化け物に変えられた妹を見てニャムは手足が震える。それでも目をつむると魔法少女の仲間の顔が、守るべき人の顔が浮かんでは力をくれた。ニャムの心に勇気が湧いてくる。


「あはは、震えてるじゃん。びびってるの。だったら逃げてもいいよ。化け物になった妹を見捨てられるのならね。あははははは」


 いやらしいあざ笑いを聞いているとニャムは許せないと拳を握りしめる。


「あたちは逃げないの」

「あっ?」


 ニャムは吹っ切れた顔で一度目を閉じる。


(弱くてもあたちには戦う力があるの。だったら逃げない。相手がどんなに強くても諦めず誰かを守るために戦う。それがレアの大好きな魔法少女だから)


 そして、目を見開き魔装宝玉を手に構えた。

 

(それにわたちは1人じゃない)


変身(トランス)上級魔装法衣(ハイマギカコート)法衣(コート)選択(セレクト)《シューティングフォーム》」

 

 ニャムの詠唱とともに周囲はピンク色の魔力で支配されていく。全身を高密度の魔法が覆うと実体化した法衣がニャムを包んでいく。

 ひらひらとした頼りない生地のように思えるが綿密に織り込まれた防御魔法と強化魔法の糸で織り込まれている。力は岩石をたやすく砕き、守りは鋼鉄よりも堅い。

 砲撃特化型の魔法少女の法衣はドレスのようである。しかしその上に装着される精霊結晶製の軽装の防具が戦う装束であることを示している。それでも防具がドレスの可愛らしさを引き立てるのはフレアの苦心がうかがえる。


 魔法少女への変身を終えたニャムはシンリーに叫ぶ。


「悪を討ち、人々の平和を守る正義の魔法少女ニャム。弱きを助け、あなたの悪事を打ち砕くの」


 それは妹の名乗りをアレンジしたものだ。

 生意気なせりふを受けてシンリーが不機嫌になると《よこし魔》をけしかける。


「生意気だし。やれ、《よこし魔》」

『グガァァァ』


 巨大な樹木の体を持って擬人化した人型のよこし魔は耳を覆いたくなるほどの叫びを上げつつニャムに向かっていく。

 巨大な枝の腕を振り下ろすとニャムはサイドステップを踏んで回避する。よこし魔の攻撃は大地を大きくえぐりつぶてが周囲に飛び散る。

 身震いしてしまうような攻撃をかいくぐったニャムは中心の幹に(こん)(しん)のキックで応じた。

 だが巨大な大樹の《よこし魔》は防御力が高くなかなかに動じない。ニャムは足に重厚で揺るがない抵抗を感じつつも諦めたりしない。


「まだまだなの」


 ニャムが立て続けにパンチと蹴りの連続技を浴びせかける。徐々に押し込んでくる衝撃に《よこし魔》の体がわずかに浮き上がっていった。


「ふっとべえーーなの」

 


 地に根っこのような足が離れるとニャムは全体重を乗せた跳び蹴りで《よこし魔》を今度こそ吹き飛ばした。

 大きく吹き飛んでいくよこし魔を眺めながら追撃を試みる。


(えっと、確か《よこし魔》になった妹を助けるには《ミラクルマギカブレス》の浄化が必要なの。それまで弱らせる必要もあるの)


 腕輪の魔導具ミラクルマギカリングからミラクルマギカロッドを召還する。ミラクルマギカロッドの助力で浄化力を増した風の魔法砲撃を無数に発生させニャムはよこし魔に射出した。

 地面に倒れ体勢を崩したよこし魔に躱せるはずもなく風の魔法砲撃が次々に着弾する。着弾による爆風が幾重にも重なって大気を震わせ衝撃波と砂煙が舞い上がっていった。


「やった!?」


 倒れて、というニャムの願いは裏切られる。爆炎で姿を見失ったよこし魔からものすごい勢いで(つる)が伸びニャムを(したた)かに跳ね飛ばしたのだ。


「きゃああぁっ」


 100メートルは後ずさるもニャムは思ったよりもダメージが少なかったことに気がつく。


(そうか、これって《マギカアイアス》の障壁が効いてるの)


 ニャムは自動制御式ピンポイント障壁システムの効果を実感し、まるでフレアに守られているような気になる。

 まだ寝てはいられないと立ち上がると、砂煙の中から無傷のよこし魔が姿を現した。

 魔法砲撃が効いていない。その事実に心が折れそうになるがニャムは自身の心を鼓舞する。


「くじけちゃ駄目。まだ、戦えるの」


 そんなニャムの姿によこし魔から悲痛な声が響く。


『オ、オネエチャン。ニゲ、テ……』


 それは浄化の力がこもった魔法砲撃により、よこし魔の支配にほころびが見えた証でもある。いや、もしかしたら姉を思うレアの心の強さゆえなのかもしれない。どちらにしてもニャムはそんな悲しい言葉をかけられては退けるはずもなかった。妹を助けたい思いはますます強くなる。


「魔法で駄目なら殴ってでも戦うの。絶対に諦めない」


 よこし魔の間合いに踏み込むも、変幻自在の蔓のムチに翻弄され、ニャムはなかなか近づけないでいる。風の着るような鋭い音が無数に飛び交うのだが目では追いきれずダメージは増えていく一方だ。


「あっ、ぐっ……。まだまだなの」

「その調子だし、よこし魔。このままやっちゃうといいし」


 大きな枝を振りかぶりふらふらのニャムに無情にも攻撃が振るわれる。それでもニャムの目は死んでいない。


『ニゲテエエーー』

 

「にげるもんかあーーっ」


 ニャムが絶叫し全身から緑の魔力光を吹き上げさせると大地もえぐるような衝撃を受け止めきった。


「なっ、その力は何だし」


 ニャムの発現させた能力にシンリーが目を見開きうろたえる。どういうわけかニャムを守るように背後の薔薇(ばら)の木が地面から突然芽を出すと、著しく成長し強力な浄化の力を纏った枝が力強くよこし魔の攻撃を受け止め押し返していた。


「植物を生み出す魔法? 何だし。そんな魔法聞いたことないし。あんたどうなってるのさ」

 

 浄化の力を持った植物に触れているとよこし魔は苦しみだした。触れている部分から黒い力が霧のように拡散しては消えていく。


「やばっ、よこし魔離れろ。その植物に触れるなし」


 危険を感じ取ったシンリーが(ぼう)(かん)をやめ自らニャムに襲いかかっていく。


「あんた危険だし。ここで死ぬといいじゃん」


 よこし魔とは格の違う力にニャムは反応すらできずにまともに蹴り飛ばされてしまう。


「あぐっ。凄い攻撃なの」


 蓄積したダメージもあって動きが硬直するニャム。シンリーがとどめとばかりに手の指から鋭い凶悪な爪を伸ばすと振りかぶった。


「とどめだし」

「――ニャムちゃんに触れるな!!」


 もう駄目かと思っていたニャムだがよく知る友達の声が耳に入ると胸が熱くなった。空戦特化型魔装法衣《エアフォース》を纏い魔法少女シャルが駆けつけたのだ。頼もしい援軍にニャムの声は弾む。


「シャルちゃんっ!!」


 ニャムでは力負けしそうなシンリーの攻撃を大きな魔剣でしっかりと受け止め防いでいた。

 大切な友達を守る。ビクともしないシャルの魔剣はその決意の表れのようであった。



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