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第63話 魔技研編 『実行委員会を作ろう』

「――というわけで学園祭を開催することになりました。名誉なことに1年G組が主体となって運営することになりましたよ。さあ、頑張りましょう」


 フレアは朝のホームルームを手早く済ませると午前の授業を踏み倒し(のたま)った。

 突然の事態にアリアがすぐに制止をかける。


「ちょっとちょっとお待ちなさいなーー!!」


 教室に響き渡るアリアの大声にフレアはさすがに勢いを止められた。不満そうな顔をしつつもアリアを指名する。


「何ですか? 凄いテンションですね。授業が潰れてそんなに嬉しかったのですか。確かに予定されていた王国史の授業は退屈だと評判ですが……」

「違いますわよ。むしろ逆ですわよ。なぜ授業を取り潰して学園祭なんてことをしなければならないのですか?」

「ほむ。良い質問です。私はかつて言いました。魔法少女に大切なのは心だと」

「それが学園祭を行うこととどう関係しますの?」

「大ありです!!」


 バンッと教壇を両手で叩くとフレアは力説する。


「私は強さを追求するあまり、物事を性急に推し進めました。その結果生じるのは実力至上の偏った価値観です。今までの授業だけで健全な心を育めるでしょうか、伝えきれているでしょうか。否、否否否ーーーーっ」


 熱くフレアは語っていく。それには生徒たちもびっくりきょとんとした。

 

「学園祭とは皆で物事に取り組み成功に導くことで得られる達成感、多様的価値観の見直し、また戦うだけでは学び取ることができない経験をつむことが目的なのです」


 聞いていた多くの生徒がフレアの話に納得し理解が広がっていく。その流れを断ち切るようにセリーヌは声を上げた。


「ちょーーっとまったあっ!!」

「どうかしましたかセリーヌさん」


 席を立ってフレアの横に立つと手に持っていた資料を奪い取り、クラスの皆に広げて見せた。

 

「皆さん、騙されてはいけません。フレアさんは学園祭でこんな恥ずかしい衣装を着せようと画策しているのですよ」


 ペラペラと見せられたデザイン画はカフェのウェイトレスなどを想定した衣装。だが魔法少女の魔装法衣よりも更に脅威度が増したおぞましいものだった。

 それを見た生徒たちは一変して表情を青ざめる。


 こんな恥ずかしい衣装を誰が着るのかと彼女たちは左右で視線を交わしあう。そして、認めたくないものの確信した。

『私たちが着るの!?』

 もはや道化のレベルではないかと思えるあり得ないふりっふりの衣装。現代ではロリータファッションなどもあるのだがそれにしても少女趣味に過ぎる。

 ふんだんに使われた星やハートの装飾だけではない。腰を覆い隠さんばかりのピンクのリボンなど意味が分からない。


「フローレア教官。その衣装は何ですの!?」

「学園祭で定番の喫茶店は外せません。ウェイター役の子はその衣装を着てもらう予定です。可愛いでしょ」

「可愛すぎて着る側は恐怖しかありませんわよ」

 

 もはや罰ゲームとしか思えない衣装にアリアは頭を抱えた。セリーヌは皆に呼びかけるように反対を表明した。


「わたしは学園祭の開催に断固反対します」


 セリーヌの言葉を受けてアリアたちも次々に頷くも一丸となっているわけではない。今は賛成と反対派が半々と言ったところ。

 アリアはこの事態を打開すべくこの教室で最も発言力のある王女を頼った。


「ティアナクラン殿下、何とか言ってくださいまし。わたくしたちは学園祭などというものに時間を費やす余裕はないはずですわ」


 アリアを筆頭に期待を持って反対派の視線が集中する中、ティアナクランはフレアを擁護した。


「そうでしょうか。わたくしはフローレアが間違ったことを言っているとは思いません。むしろアリアさん、あなた方は素晴らしい衣装(王女の主観)と未知なる行事に二の足をふんでいるだけではないでしょうか?」


 鋭い指摘にアリアはタジタジになっているとセリーヌが資料の中の1ページに目をとめる。


「……殿下。このページにあるお菓子のお城計画とは何ですか」

「そっ、しょれはあっ!?」


 ティアナクランが明らかに動揺しているのは彼女自らデザインした全てお菓子でつくられるお城だ。色彩豊かな外観にジュースの川、そこに可愛い砂糖菓子の動物マスコットキャラたちが戯れている様子が描かれていた。女の子の果てなき夢がそこには詰まっている。

 そんなデザインを見られて慌てるティアナクランに生徒たちは悟った。

 王女は既に買収済みなのだと。

 アリアはティアナクランの助力を諦めるとリリアーヌに助力を求めた。


「リリアーヌ教官補佐。何とかいってくださいまし」


 学園では《ウラノス学園の良心》と呼ばれるリリアーヌ。フレアで困ったことがあれば彼女を頼れというのは全学園生徒共通の認識である。

 だが学園祭に関してリリアーヌは機能を果たさない。


「実はアタシも学園祭を開催するのは賛成なんだ。だって魔法少女は1人で戦うわけじゃないのだから。戦闘演習だけでは分からなかった1人1人の良いところや欠点も互いに知って認めてあげることで私たちの絆はずっと強くなる。学園祭はその意味を見つめ直すきっかけになると思んだ」


 リリアーヌの言葉には多くの生徒が心を動かされた。特にパティだ。


「ちょー感動だよーー!!」


 勢いよく立ち上がるとパティはセリーヌを視線でロックオンした。

 猛烈に嫌な予感がしたセリーヌは頬が引きつる。


(でましたね。理不尽の塊)

 

 目をキラキラさせたパティは警戒するセリーヌの前に走り込むと逃げる暇もなくガシッと両手を掴んだ。


「わたしたち、まだまだ仲良くなる必要があったんだね。そうだよ、遠慮してたら友達じゃないよね。気兼ねなく言いあえる間柄にならなきゃハッピーじゃないよ」

「いえ、あなただけならいつも幸せそうじゃないですか?」

「足りないよ。学園祭が終わったらみんな親友になろうね」

「本当にそれだけで親友になれると思っているのならあなたの頭の中はハッピィーハッピィーフラワーガーデンですね」


 それにはパティが(うつむ)いて震えだした。気がつくとパティが泣いていたのだ。それに気がついたセリーヌは言い過ぎたと思い至る。パティに対して慌てて訂正する。


「あ、すみませんでした。ごめんなさい。言い過ぎてしまいました。泣き止んでくださいよ」


 セリーヌの言葉を受けてパティは首を左右に振って否定する。


「違うよ。セリーヌちゃんが気兼ねなく本音をぶつけてくれたことが嬉しくて」

「そっちかーーい!?」


 思わずセリーヌがその場でずっこけそうになる。

 

「つまりもうあたしたちは親友だね」

「どうしてそうなるんですか」

「だってハッピィーハッピィーフラワーガーデンって愛称だよね。それって親友同士がすることだあ。ドキドキものだよーー」

「……あなたには皮肉という言葉を辞書で引くことをお勧めします」


 それはもう精一杯の皮肉を込めた笑みで伝えたのだがパティには逆効果だ。

  

「だったらあたしはセリーヌちゃんのことをセリリンって呼ぶね」

「死んでもお断りします」

「あ、もしかしてさっちゃんが良かった?」

「もう、名前の原型すらありませんよ!?」


 善意の塊みたいなパティの性格はセリーヌにとって理解出来ないものだ。我慢しきれなくなった彼女は周囲に助けを求める。


「ひいぃーー、もう限界です。誰かこの人を止めてください」


 クラスで誰よりもパティの恐ろしさを知るアリアがすぐにセリーヌの危機に同情し割って入った。


「パティさん、手加減しなさいな。あなたの感情は普通の人には耐えがたいものだと学びなさいな」

「大丈夫。アリアちゃんとは親友になれたもん」


 分かっていないパティに盛大に溜め息を吐きつつアリアは引き剥がすと席に着かせた。

 そこでカズハが手を挙げて疑問を口にする。


「学園祭を行う理念はとりあえず理解しました。ですが、我々が主体となっては男性貴族の生徒を中心に反発がおきませんか? なによりS組は参加しないのでしょうか」

「ふむ。その辺りは心配いりません。まず貴族の生徒には私が監督するので学園祭の実行委員をしないかと直接呼びかけに行きました。ですが謹んでお断りしますと言われてしまいました」


 実に不可解だ言いたげなフレアにユーナが上品にクスクス笑うと理由を推察する。

 

「貴族社会を恐怖のどん底に陥れた《ブリアントの悪魔》に関わりたいと思う生徒は稀よ」

「えっ? 叩き潰して回ったのは親の方であって生徒にまで手を出してませんよ」


 それにはアリアが呆れた様子で指摘する。


「だからこそですわ。貴族の家にとって家父とは絶対ですの。それを潰して回った11歳の少女など恐怖以外の何者でもありませんわよ。絶対に関わり合いになりたくないと思うのが普通ですわ」

「ええっ、それってアリアさんもそう思っているのですか?」

「いいえ、わたくしはフローレア教官を、その、とも……仲間ぐらいには信頼していますので大丈夫ですわよ」

「ふわああ、ありがとうございます。だったら学園祭も『おっけー』ということですね」

「それとこれとは話が違いますわ」


 そんな反論など聞いていないかのようにフレアは持ち出した紙を広げて黒板に張り出す。そこにはこう書かれている。


『学園祭特別名誉顧問 ティアナクラン(ティアナ)

 学園祭顧問 フローレア(フレア)

 学園祭顧問補佐 リリアーヌ(リリー)

 実行委員長 アリア

 副委員長 ロザリー

 書記 リリーサラ(サリィ)

 会計 セリーヌ

 風紀委員長 ユーナ

 副風紀委員長 カズハ

 風紀委員兼庶務 レイ

 庶務 マルクス』


 それを眺めてたっぷり間を置くとアリアは質問した。


「フローレア教官。これは何ですの?」

「学園祭の実行委員会役員草案です」

「……風紀委員? まるで生徒会のようですわね」

「ええ、どこかのクソイケメンの生徒会長が失踪して以来あってないような組織です。ゆくゆくは学園祭実行委員会が実質の生徒会となるでしょう」

「これって乗っ取りですわよ」

「失礼な。生徒会よりも強力な生徒会を新設するだけです。乗っ取る気はありませんよ。ただ向こうが勝手に潰れていくだけです」


 もはや悪気すらないフレアにアリアは激しく痛む頭をおさえるのだった。


「むちゃくちゃですわ」


 フレアは構わず先ほどのカズハのもう一つの質問に答えを示した。


「一年で卒業するS組の魔法少女は役員にはなれません。彼女たちは来年いません。さすがに時間がありませんから純粋に学園祭当日楽しんでももらうつもりです」


 フレアは教室を見回すと生徒たちの意志を確認する。


「それでは現状で反対の人は挙手願います。余りに多いようなら学園祭は素直に諦めますが」


 その後、反対の生徒は全体の3割ほどに減っている。だが生徒たちの様子を見ればどちらとも言えないという中立の生徒も多そうだ。

 それを見て取ったアリアとセリーヌは反対派の生徒たちを集めた。

 主立った生徒はアリア、セリーヌ、カズハ、ロザリーである。


「まずいですわよ。このままでは恐怖の学園祭が現実のものとなりますわ」


 アリアの言葉を受けて反対派は危機感を共有する。カズハが身震いし、危惧を口にする。


「それは困る。正直、魔導法衣だけでも限界なのだ。あのキャピキャピした衣装を拙者が着ることになったら切腹ものでござるよ。しかも、学園祭に父兄を呼ぶとなるときを想像してみてほしい。もはや家には帰れぬ」

 

 カズハの懸念には特に貴族令嬢の生徒が慌てだす。もはや事態は死活問題に発展しつつあるのだと彼女らは気付かされた。

 ここは軍師セリーヌに期待のこもった視線が集まる。


「現状反対派は劣勢にあります。まずは引き込めそうな生徒に的を絞って取り込んでいきましょう。こういうのは勢いが大切です。一気に意見が傾けば勝機はあります」


 心強い言葉に反対派の生徒たちは思わず手を打った。


「サリィさんとミュリさん、カレンさんは駄目ですね。サリィさんはティアナクラン殿下と同類の可愛い物好きです。しかもフローレア派急先鋒の1人です。ミュリさんとカレンさんも同様ですね」

「――続いてユーナさんは中立のようです。狙うならここでしょう」


 アリアたちが話し合いをしているうちにフレアは既に動いていた。


「ゆ、ユーナさん。学園祭一緒にやってくれませんか」

「ふふ、かまわないわ。わたくしたち親友でしょ」

「あ、ありがとうございます」


 その様子を見て反対派は悟った。

 遅きに失したと。

 

 更にフレアの動きは素早い。

 ロザリーに近づくと説得に入る。


「ロザリーさん、どうしても嫌ですか」

「私は見習いとはいえシスターです。あのような慎みのない衣装など教会の者に見られでもしたら破門ものです」

「女神リュカ様は愛の女神と聞いています。学園祭での出し物による売り上げの利益はチャリティーとして教会に寄付されることになります。きっと多くの孤児も救えるのではないでしょうか」

「う、それは……」


 そこで”うっかり”フレアの懐から紙切れが落ちる。それを拾い上げるとロザリーは(せん)(りつ)した。

 それはグローランス商会の小切手だった。しかも書かれている金額のケタの多さに思わず瞳がお金色に染まっていく。


「こ、これは何ですか?」

「あ、すみません。学園祭が終わったら教会に寄付しようと思っていたのですがリザリーさんは反対のようです。つまりそれも紙切れですよ」


 フレアのいう言葉の意味に気がついたロザリーはあっさりと陥落した。


「いいえ、私が間違っていました。学園祭とは神の愛だったのですね。喜んで参加させていただきましょう」

「ありがとうございます」

「聖職者が買収されましたわ!?」


 それで良いのかと反対派の視線は冷たいがロザリーはそれらを無視してフレアの側についた。もう目がお金の形に変わっていてそれを見たアリアは思わず俗物とつぶやく。

 裏切ったロザリーを見てセリーヌは失望感を隠せない。


「情けない。プライドはないのでござるか」

「仕方ありませんね、こうなったら私たちが最後の砦です」


 そこにフレアから新たな秘密兵器が投入された。


「あ、セリーヌさん、妹さんからお手紙預かっていますよ」

「えっ?」


 嫌な予感がしつつも、妹大好きお姉ちゃんのセリーヌは手紙を受け取って目を通した。

 するとみるみるセリーヌの表情が変化していく。


「フレアさん、あなたって人は、セシルに学園祭をやると既に話してしまったのですか?」


 フレアは悪魔のような可愛い笑顔でにこりと微笑む。

 

「学園祭にはセシルさんも遊びに来てくれるそうですよ。大丈夫。その間セシルさんのお店にはグローランス商会から応援を出しますので問題ありません」


 そして、とどめの一言。


「お姉ちゃんにまたお会いする日を楽しみにしていると言ってましたね」

「学園祭必ず成功させましょう」


 ころっと手のひらを返したセリーヌにアリアは反射的に罵った。


「裏切り者ですわ!?」


 セリーヌは失念していた。セシルはセリーヌのことをお姉様と呼ぶ。お姉ちゃんはフレアのことなのだと気がつくことはなかった。

 セリーヌの離反は反対派にとって致命的となる。

 ついにはフレアの策略に屈して学園祭の実行委員も草案通りに決まっていったのである。


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