第57話 竜人王女編 『皆の想いで奇蹟を起こせ!』
再びベルカの上空に現れた上級精霊。精霊の気持ちとは裏腹に体は勝手に動き都市中に魔法砲撃を降らせていく。無数の砲撃の軌跡が流星群のように都市に降り注ぐ。その光景を見れば無力な一般の民は死の予感に絶望し神に祈るしかない。
だが今、ブリアント王国には新たな盟友が加わったのだ。
『大丈夫か』
竜人が空を飛び鎧竜鱗という防御能力でもって人々に直撃する魔法砲撃を防ぐ。
直撃すれば家屋すら吹き飛ばしかねない攻撃を竜人は体を張って守っている。人々はその姿を見て心動かされていく。
『はい、ありがとうございます』
若い女性がかばってくれた竜人に心からの感謝を述べる。
『民は我々竜人が守る。落ち着いて避難しなさい』
竜人の指示を受けてベルカの警備兵が人々の避難誘導に入る。警備兵たちもいつの間にか竜人に敬意を払う。そして頭を下げて人々の盾となり誘導する。
このような光景が今、ベルカの都市各所に見られているのだ。
人と竜人の関係はこの事件をきっかけに大きく変わろうとしていた。
上空では暴れる上級精霊を抑えるためにリリアーヌに率いられた1年G組の生徒たちが必死に戦っていた。
それでも状況は互角。あまりに上級精霊が強すぎた。
その上魔法少女たちは誰もが空を飛べるわけではない。必然空戦型の法衣を持つ者だけが直接戦うことになる。
放出系魔法を無効化する精霊を相手に支援砲撃もできない。そのため数の利も生かしきれていなかった。
「みんな……」
苦戦する生徒たちをフレアは地上からただ見守ることだけしかできない。不安で瞳は揺れ動き、魔装宝玉の能力不足を見て責任を感じていた。
フレアの近くには孤児院でもある教会が存在し多くの子供たちがいる。下手に動けず飛べない魔法少女数人が防御障壁を広く張って警戒していた。
「……私も戦闘に加わりたいけどこれでは足手まといかしら」
ユーナの魔装宝玉は壊れかけており、法衣から火花が散っている。いつとも壊れ変身が解けるかもしれない状態では仲間の足を引っ張りかねない。
「無茶ですよ。治癒魔法をかけたとはいえあの精霊の攻撃力は相当なものです。それを何度と受けたユーナさんの体はボロボロのはずですよ。安静にしてください」
それはもう必死にユーナの腕を掴んで行かせまいと訴える。
「わかったわ。――こんなときルージュさんがいてくれたらね」
「すみません。ルージュさんは他の対処のためベルカにはいません」
「他の対処?」
「上級精霊持ちが周辺の都市にも潜んでいるということです。あのレベルがこぞってベルカに来たら大変です」
空にいる精霊を指しながらフレアは肩をすくめる。それを聞いてはユーナも納得する。
「逆を言えばルージュさん1人であれを倒せるという訳ね。知ってはいたけど桁違いの魔法少女だわ」
「ティアナは今エクリス様の腕の治療中です。直接攻撃しか有効な手段がない以上彼女を頼るのが最善です」
「確かにそうね」
フレアは魔法通信用のピアスをつかって上空の魔法少女たちに指示を送る。
「アリアさん、パティさん。準備はいいですか」
『いつでもいけますわよ』
「フレアさん、何をするのかしら」
「次なる懸念は放出系のミラクルマギカブレスが通じるのかという点です」
それにはなるほど、とユーナも頷いた。
「けれどもどうやってエクリス王女なしに隙を作るつもりなの? わざわざフィニッシュアタックを受けてくれるかしら」
「大丈夫ですよ。リリーだって接近戦では最強クラスの魔法少女ですから」
フレアは見上げて魔法少女たちの戦いを見守っていた。
リリアーヌが中心となって接近戦を繰り広げているが、そこでは意外な人物が活躍していた。
「雷魔法、フラッシュダッシュ」
シャルの気合いの入った言葉とともに目にもとまらぬ突貫攻撃が精霊に襲いかかる。
精霊はもっとも脅威となるリリアーヌの対処に重きを置いていてシャルの閃光のような飛翔攻撃にまで手が回っていない。
むしろパティとアリアが外れて空間が空いたことによりシャルの機動力が生きてくる。素早い動きで精霊は翻弄されその隙にリリアーヌが猛攻を重ねていく。
「あーはははっ、秘密兵器登場! クラス最強はルージュじゃないわ。あたしよ」
「まだ秘密兵器ひっぱてるんですかあ」
強気な発言のシャルにセリーヌは信じられないと首を振る。
(親善試合でシャルさんを大人しくさせる方便だったのですけどねえ)
とはいえシャルのテンションの高さが戦闘力の底上げに貢献しているようなのでセリーヌはあえて説明はしない。
少し引いたところで眺めるだけのセリーヌにアリアが注意する。
「ちょっとセリーヌさん、あなたも援護しなさいな。何を突っ立っていますの」
ええーー、あの暑苦しい戦いに混じりたくない。そんな思いが顔に出るがセリーヌは嘘を並び立てる。
「違いますよ。わたしは軍師です。今も相手の分析に忙しいのですよお」
「ああ、そうでしたの。それは申し訳ありませんわ」
それであっさり納得して引き下がるあたり良い子ちゃんですねえと黒いことを考えているセリーヌ。
(まあ、ただサボっているのもあれなんでアリアさんとパティさんの護衛でもしますかねえ)
そう思っているとセリーヌはふと気がついた。精霊の動きがわずかに鈍っていることに。
それはユーナの頭突きのダメージが残っていたのだが……。
セリーヌはすかさず空戦型のマギカイージスを投擲すると注意が散漫になったところをつかれて体勢を崩す。
その隙を逃すリリアーヌではない。
「時空魔法、追憶の軌跡」
ため込んだ何十という斬撃を一気に解放し全身がバラバラになりそうな衝撃が精霊を襲った。
ダメージに動きが止まるとリリアーヌは合図を送る。
「今だよ」
アリアとパティが頷きミラクルマギカロッドを手に掲げる。そして大精霊が支配する精霊境界を展開させる。そこは虹色の極彩色の世界が広がり幻想的な光景に見る人々は心を奪われている。
2人の持つ精霊結晶で作られたロッドは魔力を発して輝き、浄化の力を集めていく。アリアとパティは精霊を救うため心を1つにしてミラクルマギカロッドを精霊に向けた。
「「フィニッシュアタック《ミラクル・マギカ・ブレス》」」
杖の先からおびただしい光の光線が唸りをあげて精霊を覆い尽くす。
善なる光の放射を受けて精霊は苦しそうな叫びをあげて耐えている。
光の放射が終わり精霊は疲弊した様子でゆっくりと高度を下げていった。そして、音もなく地上に降り立つとその場で膝をつく。
「やったの?」
リリアーヌが警戒しつつ近づいて様子をうかがうと精霊は突然天を仰いでより凶暴化し、手当たり次第に攻撃を開始する。
攻撃をさばきながらも一撃まともに受けて後ずさりながらリリアーヌは剣を構える。
「くぅっ、ミラクルマギカブレスが効いてないの?」
「いえ、効果はあったはずです。ただ大半は無効化されたようですね」
(もしかしたら一定以上の出力で放出系魔法を放てば効果があるのかもしれません)
そう考えていると凶暴化した精霊が大出力の魔法を全方位に向けて放射する。精霊を中心に爆発的に衝撃が広がり魔法少女たちが慌てて防御魔法を張り巡らせる。
しかも後方には避難している多くの子供たちがいる教会がある。
必然魔法少女たちは必要以上に防御障壁を展開させなくてはならない。
後には魔力を著しく消費しダメージも負った魔法少女たちが次々に地面に倒れ込んでいる。
「皆さん、大丈夫ですか」
フレアが生徒たちに声をかけると顔を上げて全員がしっかりと答えた。それにはフレアは安どするも戦闘継続できそうな魔法少女が半数を割ってしまっている。
(これでは精霊を正気に戻すだけの魔力と制御力が足りません。どうしたら……)
精霊を救うには魔法少女全員で使うミラクルマギカブレスリミテッドしかない。だが疲弊した今、その方法は現実的ではない。
何か方法がないものかと精霊を見ると様子がおかしいことに気がつく。
『もう誰も傷つけたくない』
頭の中から響くように女性の声が聞こえてくる。穏やかで優しさに満ちた母性的な声。それは周囲にいる全ての人にも聞こえるようで戸惑いが波紋のように広がった。
そして、その声の主が精霊なのだと人々は気がつく。
『誰か私を止めてください』
動きが止まり精霊は操られていることに必死にあらがっている。それがみるもの誰にも分かると悲しいお願いが聞こえてくる。
『誰か私を殺してください』
悲痛な願いに聞いていた魔法少女たちは迷いが生まれ立ち止まる。黙って精霊の話を聞き胸を痛めた。こんな話を聞いては魔法少女が攻撃できるはずがないのだ。
なぜなら似たような自己犠牲を彼女たちは知っているのだから。
魔法少女たちの視線は自然とフレアに集中していく。
『先ほどの浄化の光でホロウの制御が弱まっている今が好機です。長くは抑えられません。どうか、お願いです。止めてください。私は人を殺したくはない』
そんな悲痛の叫びに心を動かされたのは魔法少女だけではない。聞いていた子供たちも精霊を心配し案じた。
幼い子供たちがユーナに駆け寄ってお願いする。
「お姉ちゃん、あの精霊さん助けられないの?」
「お願い、助けてあげて。かわいそうだよ」
次々に上がる声にユーナは困惑しフレアに助言を求める。
「フレアさん、何か方法はないのかしら。このままでは……」
フレアもどうしたものかと困っていると神龍眼が輝き今まで見えていなかったものが見え始める。子供たちの魔力が急速に向上しているのだ。
(これは、子供たちが全員魔法少女に覚醒しかかっている? いえ、ちがいますね。男の子も、みんなから暖かい力を感じます)
しかもユーナの持つミラクルマギカリングが独りでに輝きだす。それは何かを訴えているようでもありはっとしたフレアは亜空間からミラクルマギカリングを大量に取り出した。
「やっぱり……」
取り出したミラクルマギカリングが全て魔力で光り輝き、子供たちの想いに反応していた。
「フレアさん、この光は一体何事なの?」
「ユーナさん、私はとんでもない勘違いをしていました」
「えっ?」
「ミラクルマギカリングは魔法少女にしか使えません」
「だけれど子供たちに反応しているわよね」
「ええ、魔法少女の力の源は善なる心。誰かを思いやる心は尊いものです。困っている人を助けたい。その真摯な想いの前には誰だって魔法少女になりえるのです」
フレアはありったけのミラクルマギカリングを亜空間からよびだすと子供たちや人々に配っていく。
「皆さん、これからあの操られている精霊を助けます。それには皆さんの想いの力が必要です。願ってください。あの精霊を助けたいと。その想いが力となります」
フレアはミラクルマギカリングからロッドを召還するとユーナに協力を求めた。
「ユーナさん、人々の願いを集めてぶつけます。手伝ってください」
「ええ、了解よ」
フレアとユーナはミラクルマギカロッドを握りしめて人々からの願い集めて大いなる力へと変えていく。
「凄い、とてつもない力を感じる」
「ええ、ですがまだです。皆さん、もっと願いを。助けたいという優しい気持ちをどうか貸してください」
フレアの呼びかけに多くの人が参加してミラクルマギカロッドを手に持ち、次々に暖かい魔法の力があふれていく。
それだけではない。満身創痍の魔法少女たちも傷ついた体を押してフレアに集まった。
「フレアお姉様、皆の想いの力で精霊を助けましょう」
魔法少女たちがミュリの言葉に頷き、手を取り合って力の制御に加わっていく。
『無駄です。動けない今が好機だというのに……。どうしてふいにするのですか』
悲観的な言葉を連ねる精霊にユーナはまっすぐ答える。
「あなたが私たちを助けたいと思うように私たちはあなたを助けたいのよ」
『想いの強さは見ました。あなたが荒々しい様子でその隣の子を助けて見せたことは知っています。ですがそれでもあの存在の呪縛から解放されるはずがない』
「いいえ、あなたは想いの強さを見誤っているわ。1人の思いだけではあなたの強さには届きはしなかった」
『では、あの力はなんだと』
「それは互いに思いやる心よ」
あのとき、ユーナは心から案じるフレアの想いを感じた。それが力となりユーナにかつていない力を与えたのだ。ゆえに互いの想い。
ユーナの言葉に目を見開いた様子の精霊だが突然態度が豹変し黒い魔力が吹き上がり抵抗の意思をみせる。
【くだらない。そんな幻想、打ち砕いてやるわ】
精霊の抵抗が抑え込まれ、精霊を苦しめている邪悪な存在が表に現れる。邪魔なユーナに襲いかかろうとするも上空から現れた人物が立ち塞がった。
「もう大人しくしくきえるがいい、ホロウよ」
【――っ、竜人の王女があああっ、邪魔をするな】
数度の拳の応酬の後、エクリスが打ち勝って最後は蹴りで吹き飛ばす。
【ガアアーーー】
魔物のような叫びとともに精霊は建物の壁に叩きつけられる。
「今だ、フローレア嬢」
エクリスの言葉をきっかけにユーナとフレアは同時に叫ぶ。
「「想いよ届け、《ミラクルマギカブレス・マックスハート》」」
射線上には一瞬で虹色の精霊境界が伸びていき、精霊を逃げ場がないほどの桃色の極光で包み込んだ。
精霊を温かで清らかな魔法の力が浄化し中で巣くう邪悪な意志が断末魔をあげて消えていく。
『暖かい。これが誰かを思う力。……そうか、あのとき私に足りなかったものはこれだったのね』
胸の奥底から愛おしさであふれ暗い感情など綺麗に洗い流していく。精霊は人々の優しさに包まれながら正気を取り戻す。
水の上級精霊はホロウの呪縛からついに解放されたのである。
浄化の光は徐々に収まり残ったのは女神と見紛うような神聖な法衣と慈愛に満ちた表情の精霊が生まれ変わったような姿で立っている。
『人間たちよ、ありがとう』
水の精霊はその強大な力でベルカの都市中に治癒の魔法光を広げて雪のように降らせていく。
ある者は命に関わる傷が癒え、ある者は病を治した。
砂で固まり動けなくなっていた水の魔物は正気を取り戻すと解放された。
『ベルカの黒い霧が完全にはれていく』
人々は曇りのない青空に笑顔を取り戻し空を見上げた。いつの間にか鳥たちも空に飛び立ちさえずりが耳に心地良い。
穏やかな空をみて人々はようやく実感する。
長かった戦いがようやく終わったのだと。
『終わった』
誰かがこぼした声をきっかけに人々は歓喜に震えて近くの人と喜びを分かち合う。そこに人種は関係ない。人間も竜人も等しく勝利に沸き立った。
王国兵も共和国の竜人も肩を組んで互いの健闘をたたえ合う。
その様子をみれば両国の未来は明るいに違いない。
もう両者はいがみ合い対立することはないだろう。
ここに強固なきずなが結ばれたのだから。
「くっ……」
ユーナは自身の魔装宝玉がついに壊れてその役目を全うしたことを悟る。変身は解けて力を失った相棒をユーナは大事に両手で包んだ。
「今までありがとう。あなたのおかげでフレアさんを助けることができたわ」
砲撃特化型にもかかわらず無茶な近接戦に耐えユーナを守った魔装宝玉に思わず涙がこぼれる。
「フレアお姉様、ユーナちゃんの魔装宝玉は治らないのですか」
「すいません。核となる精霊結晶が完全に砕けてしまってはもう……」
そんなとき、水の上級精霊がユーナに声をかける。
『大丈夫ですよ』
その言葉の後、彼女は青い光の粒子となって魔装宝玉に入り込んでいく。
すると精霊結晶はたちまち修復され魔装宝玉は青のクリスタルに包まれる。
『これからは私がこの魔装宝玉とともにあなたの力となりましょう』
ユーナの持つ魔装宝玉の入れ物はルージュのようにコスメの化粧容器ようであり精霊結晶で作られている。
しかも以前の魔装宝玉とは比較にならない力を内包していることがユーナには分かった。
「とてつもない力を感じるわ」
『生まれ変わった精霊魔装宝玉、《アンダイン》。これからは濁流のごとき猛々しいときも、清流のごとく穏やかなるときも、水のように変幻自在にあなたを支えることでしょう』
「どうしてあなたほどの力ある精霊が私に?」
『あなた様の荒々しい戦いに惚れ込んでしまいました』
「「「荒々しい?」」」
聞いていた生徒たちは多くが首をかしげ、ユーナは余計なことは言わないで欲しいと魔装宝玉をぺチンと軽く叩いたのだった。
ベルカでの水の魔物との戦いから1週間後。
復興もそこそこに共和国との同盟も無事かわされ、エクリスたち竜人は一度本国に報告のため帰国することとなった。
フレアたちはエクリスらを見送るためベルカの城門の外に集まっていた。
だがなかなかエクリスたちは出発することができずにいた。原因はレジーナにある。
「嫌です。私は帰りません」
「お前がいないと共和国に同盟の説明ができん。諦めろ」
レジーナが駄々をこねて残ると言い出したのだ。
「はあ、一体何が不満なのだ」
「だってしばらくフローレア様の料理が食べられなくなるのですよ」
「ぐっ、それは確かに」
エクリスは動揺し、竜人たちも激しくレジーナに賛同した。しかも自分も残りたいと次々に声が上がる始末だ。
フレアの作る現代料理は竜人に効果がありすぎたようである。
「あなたたちどれだけフレアさんの料理が好きなんですの!?」
思わずアリアが突っ込んでしまうがティアナクランたちは誰もとがめない。それは彼女たちも感じていたことだから。
竜人の食欲には感心を通り越して呆れるしかない。
「日持ちのする加工品ならば定期的に送りますよ。それにレジーナさんには100人前のお弁当と加工食品1か月分を渡してあるはずですが」
そう言って荷車3台にこれでもかと詰んだ食料の数々。それを見てレジーナは衝撃的な告白をする。
「えっ、あんなの3日でなくなると思います」
「あなたどれだけたべますのよ!?」
「あはははははは」
「フレアさんも笑ってないで何か言ってくださいな」
「じゃあ、後で更に追加して送りますから。それにレジーナさんの事務能力は共和国での円滑な手続きと周知に不可欠です。安定したらいつでも遊びに来てください。私なんかの料理で良いのならいつでも作りますから」
「分かりました。死ぬほど最速で帰ってきます。反対するバカは力一杯説得するので快く協力してくれるでしょう」
「いや、力一杯は駄目でしょう。それ絶対肉体言語ですわよね」
アリアのツッコミは無視してレジーナは渋々エクリスに引きずられていく。
「ああ、そうだ」
エクリスは思い出したように振りかえってフレアに近づくといたずらっぽい笑みを浮かべる。
「本国に話をつけたら迎えにくる。浮気はするなよ」
「はあ?」
意味が分からないと眉をひそめているとエクリスは顎を持ち上げて不意打ちでフレアの唇を奪う。
「――――んんっ」
あわててエクリスを突き飛ばし羞恥に顔を真っ赤にする。
「何をするのですか」
「お前をわらわの正妻に迎える」
「いや、性別を考えてください」
「何を言っている。竜人の王族やその血筋は性別を自在に変えることが出来る。知らないのか?」
「なっ、なんですってーーっ!!」
それにはティアナクランが頭を抱え、リリアーヌがわなわなを震えながらフレアを背にかばい剣を抜く構えを見せている。
そんな中でユーナがエクリスの前に来るとぼそっとエクリスだけに聞こえるようにつぶやく。
「(寝言いってんじゃねえぞ。色ぼけ竜人が)」
一瞬だけだが驚くほどの気迫を感じ取りエクリスは愉快そうに笑う。
「ふははは、その喧嘩いずれ買ってやろう。今は国に戻るのでな。預けておく」
そう言って立ち去る一行をティアナクランたちは微妙な表情で見送る。
フレアはといえばショックのあまり放心状態となっていしまい正気に戻る頃には頭を抱えた。
「私なんかのどこが良いのでしょうか」
その発言にはなぜか多くの魔法少女たちが反論し、『なんかなんていうな』と叱られてしまった。




