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第50話 竜人王女編 『連合軍苦戦!! 水の魔物の脅威』

 人間側の暴動を扇動していた女性の名はシェラ。策略を暴かれたあと彼女とジェイクは既にベルカの外10キロ離れた林道に逃れていた。

 

「ああ、やばいやばいやばい……、やばいよ」

 

 ベルカ内部に潜ませた水の魔物を介しエクリスの宣言の中継情報が入るとシェラは頭を抱え、恐怖に震えていた。

 

「何をそこまでおびえている。竜人の治療薬が見つかったのは驚いたがそれだけだろう」

「あんたわかんないの。これ、同盟が成立する流れよ」

「なぜだ。ベルカの民の竜人に対する恨みは深い。小突けば簡単にほころびが出るだろう?」


 そもそもシェラは同盟阻止が失敗したことで震えているわけではない。


「一番の問題はそこじゃないの。呪いを打ち消す少女が死んだって話が超やばいのよ」

「少女1人に何だというのだ」

「バカなの。あの御方が作った呪い毒をうち消す存在なんて1人しか思い当たらないわよ。そいつは必ず生け捕りにしないといけなかったの」

「……まさかあの御方が探していたという人間か?」


 その話はジェイクも耳にしている。異常なまでの執着を持っていて、軽んじる発言だけで処刑されるという。


「追い詰めて死なせたなんて知れたら私たちの命はないわ」


 ようやくジェイクもことの深刻さを理解し青ざめていく。


「こうなったらせめて死体だけでも持ち帰らないと。うまくすれば魂だけは回収できる」

「そうだな。この際ゲールにはもう一働きしてもらおうか」

「ええ、ベルカにいる者には口封じが必要よ」


 口封じ。それはベルカの人間を全て滅ぼすという残虐な行為をさす。

 シェラが地面に手をついて呼びかける。


「出ておいで。私のかわいい手駒たち」


 すると地面からはたくさんの人型の水の魔物、ばかりではなく竜を模した水の魔物も数十体現れた。

 その数およそ2万ばかり。

 見渡す限り水の魔物が立ち並び、壮観な軍勢が待機する。

 その後、シェラの体は全長200メートルはある巨大な人型の水の魔物に包まれていく。


「私にはあの御方からいただいた神にも届く力が与えられている。ゲールに与えた力とは比べることも馬鹿らしい圧倒的な力をね。病み上がりで力が衰えているエクリス王女も竜人の軍団も敵ではないわ。あはははははっ」


 力に溺れたかのように狂った笑いをこぼすとシェラは進軍の指示を出したのだった。




 水の魔物の大軍勢を受けてベルカを守護し王都に匹敵する高さの城壁の上にティアナクランとエクリス、そしてセリーヌの3人が立っていた。


「なんて不気味な魔力なのかしら」


 水の魔物の濁った色はみるものに不浄な印象を与える。更に敵が近づくにつれて息苦しくなるような魔力の圧力に気が滅入りそうになる。

 その圧力はティアナクランにはまるで悲鳴ともつかない叫びを聞かされているような錯覚をおぼえていた。

 気分の優れない様子にエクリスが忠告する。


「飲み込まれるなよ。魔力の素質が高い者ほど影響を受けやすい。気をしっかり持て」

 

 セリーヌは水の魔物の奥に見える巨大な人型に注目した。


「なんですかね。あれが親玉ですかあ」

「ふん、だろうな。ティアナクラン、障壁を都市周辺に全力で張れ」

「ええ」


 ティアナクランは巨大な光の膜でベルカを包み込む。直後、巨大な人型が手のひらをベルカに向けて魔力を集積する。それを魔法に変えて巨大な魔法砲撃として放ってきた。


「うそでしょ」


 まるで魔装砲のような高出力の砲撃にティアナクランは慌てて障壁強度の補強に回る。

 凄まじい砲撃が直撃するとベルカが余波に震えた。砲撃は障壁によって飛散し周囲に飛び散って爆発する。

 都市の周りに次々とクレーターができていくのを確認しセリーヌはびっくり観察した。


「これはティアナクラン殿下には都市の防御に専念してもらわないといけませんね」

「ああ、共和国ではかつてあのクラスに数発の砲撃を受けただけで壊滅させられた都市もある」

「あのーーぅ、連射されたらさすがに防ぎきれませんわよ」

「心配ないだろう。連射はできないはずだ」


 それにはティアナクランはほっとする。


「どのみち我ら最高戦力2人はあの敵の(けん)(せい)のためにうごけん。ゆえに戦闘指揮は任せる、軍師」

「そうですね、軍師セリーヌ」

「え、わたしそのために呼ばれたんですか」

「「ほかに何をしろと?」」

「えーー、責任重大じゃないですかあ。過剰な期待とか勘弁なのですが」

 

 それにはエクリスがティアナクランに顔を向けた。


「大丈夫なのか?」

「大丈夫ですよ、追い込んだ状況で戦場に放り込めば頑張ってくれるはずだとフローレアが前に話していましたから」

「フレアさん、あなたって人はあーーっ」


 セリーヌの嘆きを無視してエクリスが軍師としての報告を求める。


「して、勝算はどれほどだ」

「まだなんとも。相手の能力をわたしはよく知りませんからね」

「ふむ」


 もっともだとエクリスは突然闘気と魔力を突き出した両手に集めると巨大遠距離砲撃を放出した。


「《ドラゴニックバスター》」

「ちょー、何をそんな軽々と!! 戦術級遠距離砲撃も撃てるんですか?」

「まあ見てみろ」


 エクリスがとんでいった砲撃を指差していると爆炎が広範囲に広がり魔物の軍勢覆い隠してしまった。もはや殲滅したのではと思える凄まじい砲撃にセリーヌは呆れ気味に確認を取る。


「……あれ、もう勝負ついたんじゃないですかあ?」


 だが煙が消えて視界が晴れてくると、それは楽観的観測であったと思い知らされる。2万の軍勢の損害は極めて軽微。エクリスの砲撃などなかったかのように変わらぬ進軍速度でむかってきた。


「なっ、どういうことですか!?」

「セリーヌのいうとおりです。敵はあれに耐えきるほど強いというのですか?」


 焦りを見せる2人にエクリスが説明する。


「水の魔物の厄介さは膨張し姿を変えることにある。そして、他の個体を守るために少数の個体が膨張し身代わりとなっている。よく見ろ」


 2人はドーム状に膨張して盾となり消滅していく水の魔物たちをどうにかとらえる。


「奴らの群体としての行動は感情に流されず無駄がない訓練された精兵のそれだ。死兵を相手どるのに等しい。心してかからねばなるまいよ」


 これは威力の高い砲撃でもって一網打尽にする戦術が使えないことを意味している。これにはセリーヌが更に頭を悩ませることとなる。

 

「これは予想以上に難敵ですねえ。その上、魔法少女はやはりフレアさんのことで士気が低く、竜人は戦い前の病で消耗が激しい」

「ふむ、実に的確な状況認識だ。なるほど、やはり貴様に軍師をやらせる方が勝率は高そうだ」


 エクリスの期待にセリーヌはげんなりとした表情である。貧乏くじだと嘆きつつも城壁の下に視線を移す。

 王国と共和国の連合軍による先手(さきて)と魔物の戦闘がついに始まった。

 セリーヌは戦闘が始まって数分で損耗率を計算し勝算についての修正を行う。


(やはり何か手を打たないといけませんねえ。このまま行くと戦略的敗北の公算が高いですか)


 こんなとき、フレアがいればガランのときのように効果的な敵の攻略法を導き出しそうであるがセリーヌには無理な話だ。


(効果的な戦術を用意するにしても時間がない。どうすれば……)

 

 セリーヌにできることは陣形や隊列交代で疲労と被害を抑えつつ勝機を見いだすしか手がなかった。




 敵は城壁の外ばかりではない。ベルカ内部にも敵は現れる。

 外は魔法少女のS組と王国軍、そして竜人部隊を率いるレジーナに任せて内部はG組の魔法少女たちが小隊ごとに分かれて迎撃に当たっていた。

 アリアはセシルの店の最上階で各地に魔法通信で指示を送り、現場指揮をこなしている。


『パティさん、ミュリさんのフォローをお願いしますわ』

『うわああ、大惨事だね』

「何をのんきに言ってますの』


 中にはフレアを失ったことで深刻な状況に陥っている生徒がいる。それがミュリだった。


『フレアさんがいなくなった途端にミュリさんの天災級の不運が爆発してますわね』


 言葉通りにミュリは街を焼き払い、大爆発を引き起こしていた。

 ミュリは途中フレアがいなくなったことを思い出してしまいパニックになった。そして、戦闘中にもかかわらず怖がって建物の中に逃げこみ、そこに敵が襲いかかったのだ。

 そこは小麦粉を販売する商店だった。魔物の攻撃によって巻き上がった大量の小麦粉と店の密室。そんな中でミュリは火の魔法を放ったのである。


(ふん)(じん)(ばく)(はつ)

 

 耳を覆いたくなる爆発とともに魔物は吹き飛んだ。幸いミュリは斥力の防御障壁によって無事だった。

 しかし火の手が周辺住居に延焼し、消火に戦闘とパティの小隊は大忙しとなっていた。

 

「幸い、あの地区は避難が完了しているわ。運が良かったわね」


 ユーナがほっとしているとアリアが付け加える。


「そういう場所にミュリさんのいる小隊を送り込んだのですわよ。セリーヌさんの指示ですわ」

「なるほど、さすが軍師ね」

「ついでに言うならパティさんの強運でミュリさんの不運を相殺しようという狙いもあるそうですわ」

「その効果があってか、一応爆発で水の魔物は大量に数を減らしたわね」

「そこは恐らくパティさんの強運のおかげですわね」


 そこでユーナは何かが引っかかった。


「んっ、粉塵爆発で水の魔物が倒せたの? しかも再生もしないなんて一体」

「ユーナさん、どうしましたの?」

「……いいえ、何でもないわ」


(こんなときフレアさんがいたら何か気がついたのかもしれないわね)

 

 それからも次々と各小隊が敵に手間取っていると報告が上がる。都市内の敵の対処が綱渡りになっている現状にアリアは焦り、ぽつりと弱音をこぼした。


「こんなとき、フローレア教官がいてくれたら……」


 きっとあっと驚かせる策を披露して魔法少女を助けてくれるだろうに。そう思わずにはいられなかった。




 移動魔工房にも魔の手が伸びていた。


「ゲール様の再起のために必要ならば《竜人の聖女》とやらの遺体。いただくことにしよう」


 現れたのはハーケンだ。シェラにそそのかされたゲールがフレアの遺体を(さら)ってくるように指示したのだ。


「その面妖な乗り物の中に遺体は安置されているだろうという情報だ。《竜人の聖女》が誰かは知らぬが中にいる遺体を手に入れればいいのだ。易い任務だ」

 

 にやりとほくそ笑むハーケンは叫ぶ。


「《竜人の聖女》の遺体を確保する。遺体とはいえその価値は竜人にとって計り知れない。確保した者は欲しいだけの財宝をとらすぞ」

『ひゃっはーー、ぼろい仕事だぜ』


 柄の悪そうな竜人たちが品のない叫びを上げて集まってくる。

 ハーケンは遺体を逃さないように取り囲むよう指示を出す。


「決して逃がさぬよう包囲しろ」


 ハーケンの言葉に動き出す竜人たち。しかし、彼らは突然足を止めた。


「むっ、何をしている。はやく配置につけ!!」


 ハーケンが駆け寄ると配下の竜人は次々と血を吹き出し倒れていく。


「なにっ!?」


 倒れた竜人の体を観察すると鋭い刃物に切られたような跡が無数にはしっている。

 しかも必要以上に斬りつけている様子からこれをなした者の怒りがうかがえた。


「中には入れさせねえよ」


 ゆらりと(うごめ)く気配を感じ取り、ハーケンは慌てて飛び退く。そして反応できなかった配下たちが次々と絶命していく。


「貴様はあのときの剣士か」


 ハーケンの前に姿を現したのはフレアの忠実なる騎士ランスローだった。

 今はフレアの状況もあって全身からピリピリした怒気が闘気となって吹き出している。


「ばかな、これほどの荒々しい殺気を放ちながらいままで気がつかなかっただと」

「いまの俺は機嫌が悪い。前と違って手加減してやるつもりはねえ」


 それにはハーケンもふっと不敵な笑みをみせる。


「それはこちらの台詞だ。儂は新たな力を手にいれた。若造がっ、敵ではないわ」


 突如、ハーケンからは禍々しい黒く濁った魔力を纏い全身に力がみなぎっていく。


「ふはーー、素晴らしい力だ。みよ。鎧竜鱗がかつてない強度で形成されている。今の儂は鋼鉄よりもはるかに固い防御力と全盛期すらはるかに(りょう)()する力にみちておるわ。貴様に勝ち目はない」


 ランスローは静かに腰にさげた刀の柄に手を添えて戦闘態勢に入る。


「おい、年齢詐称おやじ。その腐った忠誠とともに根拠のねえ自信たたき切ってやるから覚悟しろ」

「いいよるわ」


 2人の忠臣による剣の戦いが始まろうとしていた。



 一方その頃。

 移動魔工房の中ではいまだにフロレリアが必死の魔法治療を行っていた。


「絶対に諦めない。娘の死を簡単に受け入れる母親なんているものですかっ」


 心臓も停止し少なくない時間も経過した。絶望的な状況の中でも(いち)()ののぞみにかけて生命維持の魔法と治療の魔法を同時にこなす。

 血液も無理矢理循環させ、作らせ、魔法による治療が続く。

 本来であればとっくに精神がすり減り、高度な魔法の酷使で気を失いかねない状況でも立っていられるのは母親だからに他ならない。


「お願い、フレア。目を覚まして。私の可愛い子」


 フロレリアの涙が頬を伝ってフレアの顔にこぼれると異変が起こった。

 気がつけばフレアの体にまばゆい光が集まり虹色の精霊の光が可視化できるほど無数に瞬く。


「これは、まさか……」


 虹色の精霊の光。その光に心当たりがあったフロレリアは魂に呼びかける魔法を試みる。


「お願い、フレアを助けて!!」


 直後、集まった魔力が部屋中を真っ白に染め上げた。程なくして輝きは消えていく。

 恐る恐るフレアの様子を見守るフロレリア。弱く、小さくだが呼吸音が聞こえてきた。

 胸に耳を当てるとフレアの心臓が力強く動き出したのを確認する。


「ああ、フレア。よかった」


 フロレリアは感極まってぎゅっとフレアを抱きしめる。

 その際にフロレリアの豊満な胸部に顔が埋もれるとフレアから怒りともつかないうめき声が漏れ聞こえる。

 そして、腕を無意識に振り上げ振り下ろすとズドン、と重々しい音が響きベッドがくんと崩れる。


「へっ?」


 きょとんとしたがフロレリアは何が起こったのか確認する。フレアが何気なく振り下ろした腕がベッドを簡単に壊してしまった。


「ふみゅ、くるじい……」


 もがくフレアの様子にようやく胸で窒息に追いやっているのだと気がつき解放する。

 するとフロレリアは息を飲んだのだ。

 フレアの瞳孔がまるでエクリス王女のように縦にはしり、加えて瞳は魔力光がともっている。


「フレア、その眼はまさか、《神龍眼》!?」

 

 フレアの瞳からは信じられないほどの力が感じられフロレリアは驚くしかなかった。


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