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第40話 竜人王女編 『魔法少女VS竜人』

 移動魔工房内にあるブリーフィングルームにはルージュを除く魔法少女の生徒59名、それとミレイユ率いる魔導騎士科の生徒たちが集められた。

 王都での戦闘の様子はティアナクランの光魔法によって映像化され正面のスクリーンに映し出された。

 ここにいる多くの生徒が竜族を見たことがない。凶暴な外観と人間を圧倒する戦闘能力に思わず息をのみ生徒たちの表情が緊張で引き締まる。

 生徒たちの恐れを感じ取りつつもティアナクランは集まった生徒たちに説明を始めた。


「現在私たちは王都の戦闘域手前まで到達しました。リリアーヌとフロレリアが先行して出撃。王都を襲っている竜人部隊の対処にあたります。皆さんにはリリアーヌが上空の安全確保後、住民の避難支援を担当してもらいます」

 

 ティアナクランの要請に誰も否はとなえない。真剣な様子で聞き入っている。


「避難誘導の際には迫る竜人の足止め、または撃破が皆さんの役割となります。そのため先行した教官の戦闘を観察し対処法を学習してもらいます」


 映像の中のリリアーヌは超高速推進飛行でワイバーンの群れに飛び込んでいく。そして衝撃波をまき散らしていった。乱れる気流に翻弄され姿勢を崩したワイバーンは必死で立て直そうとその場で動きが止まる。

 その隙を見逃さずリリアーヌがとってかえして飛び回り次々と翼の付け根を斬りつけていく。翼の根元を斬られたワイバーンは飛行能力を失い次々と地上に吸い込まれていく。


「凄いですわ。どうしてリリアーヌ教官は大気が乱れた空を縦横無尽に飛べるのですか?」


 アリアの疑問にティアナクランが良い質問だと頷く。


「竜とリリアーヌの飛行は異なります。竜は翼で大気をとらえ飛行します。ですがリリアーヌは最新の飛翔技術を導入した結果、風をとらえるだけでなく、無極性魔法を併用し物理エネルギーを制御して飛行します」

「ですから荒れた気流の中でも有利に攻撃できますのね」


 そして地上に落下し飛べなくなったワイバーンは動きの遅いただの大きな的である。カチュアの小隊の砲撃によってあっけなく撃破されていく。


「空を駆ける竜は脅威です。素早い動きで空を自在に移動されては狙いが定まりません。ですのでまずは地上に落としてからとどめを刺す。これがフローレアの考えた竜の攻略方法となります」

 

 次にティアナクランはフロレリアの映像に切り替えた。王都上空で戦場を見渡しフロレリアの周囲に立体映像の照準画面が立ち上がると視線を走らせていく。画面で確認した味方の兵士をとらえると一気に水の魔法球を数十と作り出してとばしていく。


「なっ、味方を攻撃しましたの?」

「いいえ、違いますよ」

 

 アリアの叫びを即座に否定するティアナクラン。よく見ると負傷した味方の兵に治癒魔法をかけていた。

 同じ治癒魔法が使える数少ないユーナはフロレリアのしたことがいかに凄いことなのか理解している。ただただ感心するしかない。


「凄いわ。広域ロックオンシステムを利用しての多重詠唱。戦場の味方を効率よく癒やしているのね。こんな使い方を思いつくなんてさすがフレアさんのお母様」


 感嘆の声をもらすユーナは更に気がつく。


「それだけではなく味方の兵士に付与の支援を行っているわ」

「その通りです。多くの味方がいる戦場では支援魔法を行うことも効果的です。一般兵でも攻撃が敵に届くようになれば相手にとっても脅威となり戦況すら変えうるのです。数は力です」

 

 フロレリアの支援魔法によって竜人たちの勢いも止まり一時的に密集地帯が生じる。

 そこをフロレリアは見逃さない。白銀の精霊結晶が納められた魔法杖(マジックロッド)を構えると絶対零度の氷撃魔法が収束していく。

 そして、次々と自動追尾の砲撃が竜人を撃ち抜く。正確無比な砲撃に竜人は次々と被弾しその部位が凍り固まっていく。

 鎧竜鱗があろうとも外側から凍っていくので動きが阻害される。そのすきを王国兵に追撃されていった。


「2人にはシールドスルーショット並びにアブソリュートアタックを封印していただきました。これは共和国との外交に悪影響を与える可能性を避けるためです」


 その間に移動魔工房はついに戦闘域に到達。2人の魔法少女が切り開いた安全な航路があるからこそ問題なくここまでたどり着くことができた。


「さあ、移動魔工房はまもなく本格的に戦闘域に突入します。竜人への基本戦術と対策を簡潔に説明します。皆さんしっかり聞いてください」


 ティアナクランの言葉に生徒たちはしっかりと頷いた。




 王都ロンドウィルを攻め入っていた竜人たちの将ゲール。あまりにもあっけなく南門を突破したことで完全に王国軍を侮っている。慢心で頬が緩み後方で高みの見物を決めこんでいた。


「くくく、ブリアント王国よ。もろすぎるぞ。警戒するまでもない。我々竜族の手にかかれば赤子の手をひねるようなものだ」

 

 (ぜい)(じゃく)な人間を()(べつ)し竜人に支配されてこそ安寧に生きることが許されるのだと本気で考えているゲール。


「この程度の弱小国、王族を倒しこの俺様が支配してくれるわ。ケタケタケタ」

 

 既に頭にあるのは勝利の後のこと。立ち上がりゲールは部下に指示を出す。


「もういい。予備戦力も投入しさっさと叩き潰すぞ」


 ゲールの号令で後方で控えていた竜人たちは雄叫びを上げて突撃を開始する。エクリスの命に反してまで王都に攻め入った者たち。ここにいる竜人たちはゲール直属の部隊である。

 彼らは略奪の恩恵を得ようと追随する荒れくれ者の集まりであり品のない雄叫びをあげて突き進んでいく。


『イーーヤッハーーッ』


「さあ、占領後この国は俺様が支配するのだ。ケタケタケタ」

 

 悠々と南門を抜けたゲールは勝利を確信し高笑いを挙げたところで異変が起こる。突如、極光の線条が頭上を通り過ぎ、空にいたはずのワイバーンが巻き込まれ多数消滅したのだ。

 断末魔すらその砲撃の轟音はかき消して圧倒的な破壊を残していく。


「なっ、何だこれはっ!?」


 予想もしない威力の魔法砲撃。それは移動魔工房による魔装砲であった。

 エクリスから預かったワイバーンが半数以下に減ったことでゲールは顔が青ざめる。


「ゲール様、今の砲撃は王都奥の上空にある空飛ぶ馬車? によるものと思われます」

「空飛ぶ馬車だと。何を寝ぼけたことを……」


 そういって目をこらして遠くを見ると、


「なんじゃありゃああああああ」


 将にあるまじき品のないせりふが思わず口から漏れ出る。それほどにゲールがみたものは常識外れの乗り物だった。

 しかも、(きょう)(がく)はそれだけに留まらない。移動魔工房から2人の魔法少女が空を飛び戦場に舞い降りた。

 1人は異常とも呼べる加速でワイバーンに特攻し次々と斬り落としていく。


「バカな、竜より速く飛び空で圧倒するだと。何なのだあの魔法少女は?」


 ゲールの部下が悲鳴のような報告を挙げてくる。

 

「ゲール様、たった1人の魔法少女によって王国軍が息を吹き返していきます」


 言われてゲールは地上に目を向けると白銀の魔法少女が信じられないほどの数の魔法を多重詠唱し正確に治癒魔法を王国兵に与えて支援していた。

 加えて付与魔法も混ぜてあるせいで傷が癒えた兵が別人のような動きで戦いに舞い戻り属性付与の強力な斬撃をふるった。


「あれほどの多重詠唱を可能とする魔法少女がいるというのか。聞いたことがないぞ。王国の魔法少女とはこれほど強かったのか? 前情報と全然違うではないか」


 更に移動魔工房が戦闘宙域に入ると車輌に搭載された自動迎撃システムが起動。()(そう)された魔装銃が地上に向けて発砲、おそるべき正確性で狙われゲールの部下が数を次々減じていく。

 フレアは今回魔装銃の弾丸に障壁破甲弾を採用。堅い竜の鱗であろうとも容易につらぬく特殊弾頭によってゲールたちも目を疑う被害を与えていた。


「ゲール様、あの空飛ぶ馬車のせいで味方の被害甚大」


 悲鳴のような報告にゲールはわかっているとその兵を突き飛ばす。


「翼持ちの竜人は空飛ぶ馬車もどきにとりつき制圧しろ。あれをどうにかしなければ負けるぞ」


 ゲールの命令を受けて急ぎ竜人の強襲部隊が空に飛び上がる。だが、またしてもゲールにとって予想外の事態が起ころうとしていた。



 移動魔工房先頭車輌の上部には上半身裸で座禅を組む騎士ランスローがいた。普段の黒の騎士服では着痩せして見えるがその下には鍛え上げられた見事な肉体が姿を現す。

 彼の場合、上半身の服は強風によって動きを阻害され隙を作りかねないので脱いでいるだけだ。露出狂ではない。


「来たか」


 近づいてくる竜人飛行部隊にランスローは落ち着いた様子で腰に下げた二刀の柄に手をかける。

 

「なんだ。上半身裸の男があんなところで座禅をくむだと!?」


 戸惑う竜人にランスローは素早く立ち上がり刀を抜き放った。


「北神二刀流『瞬身返し斬り』」


 瞬身返し斬りとはとにかく気合いで離れた敵に素早く飛び込んで斬っては反動で元の位置に戻るとんでも攻撃である。あまりの速さにみているものは斬撃を飛ばしたようにしか見えない。初見の敵では混乱必至である。


「なっ、どうなってる? 魔法の発動は感知できなかったぞ」

「おまえら気合いがたりねえぞ。戦場で動きを止めることは死を意味すると知れ」


 二刀を交差させつつふりかぶると突然刀が発光をみせスパークする。


「北神二刀流『巻き撃ち・嵐』」


 今度はランスローの剣によって無数の風の斬撃が竜人たちに襲いかかる。ティアナクラン曰く、力業の剣圧によって纏まっていた竜人は次々と落ちていく。

 指揮官は夢でも見ているのかと呆然とする。

 

「ばかな……はっ、いかん。散開しろ。接近戦で仕留めるんだ。先の砲撃を撃たせてはならん」


 散り散りとなって迫ってくる竜人たちにランスローは口端をつり上げる。


「わかってねえな」


 そう言って向かってきた竜人が次々にランスローの剣技の前に切り捨てられる。

 

「剣士に接近戦は悪手だろうが。だが、心意気は買うぜ」


 竜人たちは自らの身体能力を過信するあまり剣技の(けん)(さん)を怠りがちである。であるのならば過酷な修行によって竜人をも凌駕する肉体を手に入れた達人のランスローに敵うはずがない。

 あまりの技量差故に剣すら交錯させることなく一方的に斬られていくのだ。


「だめだ。あの剣士にはかなわん。一方が剣士を引きつけて他は迂回してその乗り物を制圧しろ」

「させん」


 近づく敵を排除しながら巻き撃ちで抜けようとする竜人を撃ち落とす。ランスローの圧倒的な力を前に強襲部隊は手も足も出ないでいた。

 また大きく迂回しようとすると魔装銃の自動迎撃にさらされ竜人たちは手がつけられない状態だ。


「なんという鉄壁の護りか。とりつくことができん」


 強襲部隊の指揮官が手をこまねいていると突然ランスローに飛びかかる竜人がいた。ランスローが素早く対応し甲高い金属音を響かせ剣を交錯させる。

 乱入した竜人はダールトンとも渡り合ったハーケンである。ハーケンはこちらをこそ脅威と判断し空に飛び上がってきたのだ。

 防がれるとは思わなかったハーケンはランスローに上から目線で話しかける。

 

「ほう、人間にしてはたいした腕だ」

「ほざけ、その余裕っつらごとたたっ斬る」


 2人は何合と切り結ぶとハーケンはランスローの刀をまともに体に受ける。だがハーケンの纏う鎧竜鱗が刃を阻み通らない体にまで到達しなかった。


「――これは?」


 その間にハーケンの振るわれる剣から距離をとって初めてランスローが引いた。


「他の竜人の鎧竜鱗は斬れたんだがな」


 仕切り直してランスローが自らの刀に刃こぼれがないか確認する。彼の刀は未だに欠けることなく美しい曇りない輝きを維持していた。

 老練の竜人ハーケンは彫りの深い顔を更に深めて笑みを浮かべる。


「他とはものが違うのだよ、若造」

「おもしれえ、てめえの自信ごとたたっ斬ってやる」

 

 ハーケンは魔剣の雷撃を刀身に纏わせ、ランスローは体に闘気をみなぎらせて力を溜めると両者はぶつかり合った。

 ランスローは雷の魔剣による移動魔工房の被害を考え、切り結びながらハーケンを車輌から引き離す。そして、通信用の魔導具でフレアに報告する。


「姫、敵の将クラスを引き離すぞ」

〈分かりました。その敵は頼みます〉

「引き受けた」

 

 直後、移動魔工房は急速に降下しながらカチュアのいる教会前に着陸した。

 すぐにフレアは拡声器を通してカチュアに呼びかける。


〈カチュアさん、保護している子供たちを中に避難させてください。その後移動魔工房の護衛をお願いします〉

「わかりましたの」

 

 カチュアはすぐに空を飛び追いすがる竜人部隊を相手に戦闘に入る。

 その間に移動魔工房の昇降口が開くとすぐに魔法少女の生徒たちが外に出て子供たちを保護、敵の掃討に入った。魔導騎士とフロレリアのS組の生徒たちはミレイユに率いられてすぐに移動を開始する。


「魔導騎士生とS組の魔法少女はあたしについてきな。民の避難を支援して回るよ」

「「「はい」」」


 最後にティアナクランとフロレリアが降りてきてG組の生徒に指示を出す。


「残りはここで竜人をくい止めますよ。指揮はわたくしがとります。それとカチュア、ここに」

「はっ」

 

 カチュアがティアナクランの傍に降り立つと通信用の魔導具を手渡す。


「ダールトン卿に通信用の魔導具を渡してきてください。連携し竜人を押しかえします」

「すぐに届けます」

 

 何気にまた凄い発明をと驚くカチュアだがフローレアのこと、いつものことだと納得し飛び立っていく。

 その後移動魔工房と援軍によって形勢は逆転した。

 ダールトンと連携しミレイユの部隊が活躍、押し返しつつあると報告を受けるとティアナクランがほっと息をつく。


「このまま何事もなければよいのですが」

「あっ……」


 優勢の報告を聞いて何気なく口にしたティアナクラン。それを聞いてフレアがやっちまった、といいたげに王女をみた。


「あの、フローレア、どうかしましたか」

「いえ、今のでフラグが立ったかもしれないなあと」

「フラグとはなんですか」


 わからないよなあ、とフレアは苦笑する。現代知識のないティアナクランが知るはずもないお約束。だが無視できないふりであった。

 フレアはすぐに通信を用いて警戒を促す。


〈緊急連絡。総員気を抜かず警戒を一層強めるのです〉

「何なのですか?」


 訳が分からないと言いたげなティアナクランを無視してフレアは五感を研ぎすます。そして、とらえた。


〈リリー、危ない!!〉



 不意に響いたフレアの声にリリアーヌはとにかく回避行動をとった。

 突然背筋が凍るような圧力に気がつき全力で距離をとる。すると恐ろしい速度で何かが駆け抜けていったのだけは理解する。


「ほう、いまの攻撃をよけるか。面白い」


 背後に気配を感じてリリアーヌはすぐに前方に直進しながら上にターンして相手を目視する。そこにいたのはファーブル翼竜共和国の第一王女エクリスであった。

 一撃は空を切っていたがすぐに追撃がくる。


「くっ、なんてはやいの」


 単純に速度だけではない。攻撃が躱されたとしてもその後の動きによどみがない。流れるように追撃に迫れる判断の速さが尋常ではなかった。

 迫る拳に剣を振るって迎撃するリリアーヌ。

 エクリスの纏う鎧竜鱗はまるで手甲のように強固に形成されリリアーヌの装飾剣を弾き飛ばす。


「あーーははは、やるではないか。ティアナクランのほかにここまでのやれる魔法少女がいたとは面白い」

「時空魔法《追憶の軌跡》」


 リリアーヌに言い返す余裕はない。すかさずため込んだ斬撃を一度に解放する魔法をたたき込む。


「これは!?」


 本能で危険性を察知したエクリスが後方に下がりつつ両手に鎧竜鱗を展開、まるでラージシールドのような障壁を形成して防ぎきる。


「初見で見切られた!? なんて戦闘種族」


 それでもその間に体勢を立て直したリリアーヌはエクリスに問いかける。


「あなた何者なの!?」


 投げかけられる疑問に愉快そうに口元をゆがめてエクリスは口を開く。

 本来であれば相手に先に名乗らせるべきである。だがここまでしのぎきったリリアーヌに敬意を表して名乗ったのである。



 一方でフロレリアにも敵が迫っていた。エクリスの側近レジーナである。

 しかし、こちらはフロレリアに攻撃する直前、その姿を見て手を止めた。


「その姿は、まさか」

「はい?」


 警戒したフロレリアは突然闘争心を霧散させた相手に訝しみ首をかしげた。


「フローレア様のお姉様でしょうか」

「あら、あなたは私の娘とお知り合いですか」


 その返答にレジーナはガツンと殴られたような衝撃を受ける。


「……娘?」

「ええ、フローレアの母、フロレリアといいます」

「お、おかあさまあーーっ!?」


 レジーナが大仰に仰け反りながら額に手を当てた。とても一時の母とは思えないフロレリアの容姿にあり得ないと首を振る。

 どう見ても16歳、もっと見積もっても18歳がいいところだ。あまりにも見た目が若い。

 何より悩ましいのは大きな子供を持ちながら、いまだに魔法少女として変身し違和感が全くないことである。


「ええっと、ずいぶんとお若いですね」

「よくいわれるの。でも娘が心配で年甲斐もなく――ね」


 そこではっとしたレジーナは深く頭を下げた。


「突然襲いかかり大変申し訳ありませんでした。私のことはレジーナと呼び捨てでかまいません」

「あらあら、あなたも竜人でしょう。ここであやまってもいいのかしら」

「お母様を傷つけたとあってはフローレア様に嫌われてしまいます」

「お母様? ああそういうこと」


 呼び方で察したフロレリアはにっこにこになってレジーナの手を取った。


「あなたフレアが好きなのね。そういえば竜人は高位だと性別変えられるものね」

「は、はい。そのとおりです。いずれは嫁に迎えたいと考えております」

「竜人なのに力尽くではないのね」

「それでは美味しい料理を作ってもらえません」


 それにはきょとんとしたあと、フロレリアが上品にも笑って頷いた。


「そうそう、あの子機械いじりが目立つけれどちゃんと女の子らしい料理が得意なの。とてもお買い得だと思うわよ」

「それだけではありませんよ。フローレア様は気配りなど優れた器量を持ち合わせています。得がたい妻となってくれるでしょう」


 娘を褒められて実に機嫌が良くなったフロレリアはなぜか共和国の重鎮と戦場の上で和やかに会話の花を咲かせた。

 ある意味、フロレリアらしい敵の無力化に成功していたのである。




 リリアーヌに名乗った後、エクリスはレジーナがどういうわけか敵と親しげに話し始めたので頬がひきつっていた。


「レジーナ、あやつは一体何をやっているのだ」


 問い詰めたい気持ちを抑えてエクリスは切り替える。大きく息を吸うと戦場全体に大号令をかける。


「ファーブル翼竜共和国第一王女エクリスの名において命ずる。ブリアント王国軍、並びに共和国軍は即刻戦闘を中止せよ。以後、戦闘を継続した者は陣営にかかわらずぶち殺す。分かったらさっさとしずまらんかっ!!」


 王都全体に響くような良く通る声が圧倒的な威圧と覇気を伴って戦場に浸透していく。

 まず迅速に反応したのは竜人たちだ。エクリスの恐ろしさをよく知る彼らはすぐに攻撃を停止する。

 すると慌ててダールトンも王国軍に攻撃中止命令を指示する。


「すごい。言葉で戦争を止めるなんて」


 リリアーヌはそれがどれだけとんでもないことか理解する。竜人たちにとってはエクリスの命令が絶対であり恐怖が一兵卒に至るまで徹底してたたき込まれているのだろう。

 そして、エクリスを知らない王国兵すら圧倒的な威圧を受けて戦意が霧散してしまった。


(この人1人で王都を落としてしまえるくらい強い。アタシ1人じゃ対抗できないかも)


 この敵に1人で抵抗できる王国側の戦力は誰なのかと思い浮かべるとティアナクランではなくルージュの姿が真っ先に浮かぶ。

 今は別の任務で西の前線に出ていることに気がつきリリアーヌは自身を鼓舞する。


(今はアタシがフレアっちを守らないと。またルージュに何言われるか分かったものじゃないわ。それに魔法少女は1人じゃないんだから)


 最大限警戒しているとエクリスがリリアーヌに話しかける。


「そう警戒するな。王都の戦闘は本当に終わりだ」

「既に被害は双方に出ているわ。それで収まりがつくの?」

「ふふふ、もっともだ。だから提案がある。後日、ベルカで団体戦形式の試合を執り行う。わらわたちが戦っては被害が大きくなるからな。両国の若い戦力をぶつけ合おう」


 そこにティアナクランが飛翔して対峙しエクリスに確認する。


「試合をするということは何かをかけて行うのですね」

「当然だ。こちらが勝てばブリアント王国が匿っている神聖オラクル帝国皇位継承権一位の子供を差し出してもらう」


 それにはえっ、と驚いた様子でリリアーヌがティアナクランを見る。王女の表情にはやられたと言いたげにしつつも眉をひそめて瞳に怒りが滲んでいる。


「そんなに怒るな。嫌なら、王都を救ったとんでもない魔法使いがいたはずだ。そっちでもいい」


 むしろこちらの方が本命といった様子でエクリスが切り出した。高い条件を最初に提示して譲歩案を突きつける。エクリスは王都の民を巻き込まないためにも後者の条件で応じるはずだと確信していた。

 なのにティアナクランの表情がますます厳しくなっていた。リリアーヌもとんでもないと突然闘志をみなぎらせて装飾剣に手をかけた。


「王女様。アタシこのまま戦闘を続けてもいいかな? そんな要求絶対に飲むわけにはいかないんだけど」

「……同感ですね。2人でこのふざけたことをいう敵を殲滅しましょうか。かまいません。王都を攻撃してきた敵の首魁です。遠慮はいりませんよ」


 どういわけかエクリスが悪寒を感じるほどの殺気をみなぎらせていく2人。さすがにエクリスは慌てた。この展開は完全に想定外だ。


「まてまて、ティアナクラン。そちらが勝てば水に流して協力関係を強化してやろうというのだ。破格の条件であろう。王族がそれでいいのか?」

「そもそも突然宣戦布告も無しに王都に攻めてきた礼儀知らずです。約束を守る保証はありません。かまいません。やってしまいましょう」

「いや、そもそも王都の襲撃に関してはわらわの指示ではなくてだな」

「トカゲの尻尾切りですか。竜族がすると笑えませんね」

 

 冗談ではない本気の殺意がティアナクランに宿っていた。ようやくエクリスはティアナクランの逆鱗に触れたことを悟る。

 

「仕方ない。この場は退こう。とりあえずベルカで待つ。いい返事を待っているぞ」


 エクリスが竜人部隊に撤退の指示を出すと速やかに王都を引き上げていく。

 このときのことを後で冷静になったティアナクランは頭を抱え自己嫌悪に陥ることとなる。


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