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第36話 竜人王女編 『謎の魔法少女を追え』

 魔法少女たちの新型魔装法衣の訓練が進み、研究開発もきりがいいところでフレアはマルクスとレイ、それにティアナクランとユーナを集めて突然決意する。


「うわさの魔法少女を必ず私のものにします」

「……またフローレアの『病気』ですか」


 ティアナクランは呆れ、


「俺帰っていいか?」


 マルクスからやる気のなさそうな返事が返ってくる。

 ユーナはフレアさんらしいとかすかに笑みを浮かべるだけだ。

 フレアは渡り商人の特選部隊『御園衆』から所属不明の魔法少女について報告を受けていた。暗躍する柄の悪い竜人を見つけては成敗しているという話だ。以前にレジーナとは話をつけているので柄の悪い竜人は別の勢力に所属する質の悪い諜報員だと分かっている。そのことでフレアは魔法少女と話をしてみたいとますます興味を持ったのだ。しかし、


「フローレア様、それはやめた方がいいのではありませんか?」

 

 珍しくレイがフレアの意見に反対する。イケメンは帰っていいですよと言いたげな顔をしつつもフレアは理由を聞く。


「それはなぜでしょうか」

「その(かた)は正体を隠していることといい、暴くことで取り返しのつかないことがあるかもしれません」

「なるほど、確かに」

「分かって頂けましたか」


 ほっとするレイだがフレアは諦めが悪かった。


「ですが会って話だけでもしてみましょう。それでもし事情があるのなら(せん)(さく)はしないようにします」


 それにはティアナクランがフレアを(よう)()した。


「王国としても正体不明の魔法少女をそのままに、というわけにはいきませんわね。少なくとも目的と所属の確認など最低限のことはしておきたいところです」


 分が悪いと知ったレイは肩を落として渋々了承した。


「分かりました。ところでフローレア様はどうやってうわさの魔法少女を探すのですか?」

「私も今まで()()に時間を過ごしたわけではありません」

「といいますと?」

「魔法少女の出現する時間と場所、様々な情報を集めて幾つか分かったことがあります」


 フレアは懐から交易都市ガランと周辺の地図を取り出すとまずティアナクランが驚きの声を上げた。


「ちょっと待ちなさい。フローレア」

「何ですか、ティアナ。ここからがいいところなのに」

「その詳細な地図は何ですか? 王国の持つ軍事機密の地図よりもはるかに精密なのですが?」

「ああ、これはグローランス商会の(ちょう)(ほう)()(もん)が作成した地図です。しかし王国の地図はこれよりも精度が低いのですか?」

「ええ、そもそも高低差まで地図に書き込まれているのですが?」


 地図には等高線が引かれている。現代では当たり前に見ることができるがこの世界の文明では考えられないことだった。


「でしたら後日ビスラード陛下にこの国の詳細な地図を献上することとしましょう」

「いいのですか?」

「ええ、かまいません。それよりも話の続きをしてもいいですか」

「機密レベルの地図よりも魔法少女優先かよ」

 

(本当にまずい情報が載った地図は別にありますし)

 

 それは特区にあるフレアの秘密工場施設だったり未発見の鉱脈だったり戦局を左右しかねない危険な地形の情報などが載った地図だ。


「……話を戻しますが情報を統合し分かったことは、謎の魔法少女はこのガランで生活しています。それも都市内の教育施設に通う学生でしょうね」

「なぜそんなことが分かるのですか?」

「情報は見聞きするだけでは分からないものも図や表にして整理することで見えてくることも多いのですよ。そして、地図に出現位置を書き写せば活動範囲が絞り込めます。ガランを中心に分布していることは(いち)(もく)(りょう)(ぜん)です」

 

 フレアは出現位置の点が集中するガランをペンでまるっと囲った。


「更に時間別で表に示すと出現にはとある傾向が見受けられます。それは学生の授業時間にはほぼ活動していないということです。外見も少女ならば学生と結びついて当然の帰結」

 

 聞いていたマルクスたちはフレアの執念に絶句する。わずかな情報でそこまで読み解くのかと悪寒にも似た感覚をおぼえた。

 ユーナだけがフレアの手法に興味を持ち真剣に聞き入っている。


「つづいて人を使って魔法少女の活動時間に目撃証言を得られるか聞き込みを行い100人近くに絞り込みました」

「正体暴く気満々じゃねえかっ!!」

「フローレア、……恐ろしい子」


 ティアナクランは魔法少女が絡むときのフレアの暴走ぶりに呆れるしかない。レイはといえば冷や汗が幾つも伝い青ざめている。

 

「フローレア様の執念。甘く見ていました」

「あはは、褒めても何も出ませんよ」

「恐怖してんだって気付け、魔法少女バカ」


 新しい魔法少女への期待感からマルクスの辛辣な言葉責めもまるで動じないフレア。

 ユーナがかまわずフレアに質問する。


「この流れだとこれから向かっている先にも何か調査を進展させる目的があってのことかしら」

「さすがユーナさんですね」


 たどり着いた先は西門近くのクロノスナイツ臨時駐屯施設である。

 現在は100人近くの騎士が訓練に汗を流す。大型の猛獣が発するような威勢のいいかけ声が響き屈強な男たちがおもりのついた武具で実戦さながらの打ち込みをしている。


「すげえ、ガランの警備兵と体つきからして違うぜ」


 筋肉にはうるさいマルクスは一目で騎士たちの鍛え上げられた肉体に感心している。


「訓練は実戦よりも過酷に、が方針だそうですよ。下手をすれば死にかねない無茶な鍛え方してます。バカですよねーー」


 フレアは実に平然と言い放つ。だがその言葉には親しみがあふれている。

 駐屯地にフレアが足を踏み入れると突然全員が訓練をピタリと止めて駆け足。整列し騎士の礼をとる。


「な、何なのこれは?」


 恐ろしいほどに訓練された騎士たちの様子にティアナクランは困惑していると更に驚きが上塗りされていく。


「おお、姫ーー。よく来たな」

「ジーク。おはようございます」


 クロノスナイツの団長ジークは10メートルはある巨岩を担ぎながらスクワットをしているのだ。ティアナクランが(がく)(ぜん)とするのも無理はない。

 フレアに驚いた様子がないということはこれが見慣れた光景なのだと理解出来た。それがまた悩ましい。

 ジークは巨岩を降ろすとフレアの前にやってきてひざまずく。


「おはようございます姫様。本日もご健勝のご様子、心よりお喜び申し上げます」

「何を似合わないことをしているのですか。それにティアナの前で失礼ですよ」


 王国の姫はティアナクランである。彼女を前に別の人物にひざまずくなど不敬罪に問われも仕方ないことだ。

 ジークは暗に自分たちの主はグローランス家、それもフレアに忠誠を誓っていると言っている。ティアナクランは特に気にした様子はない。


「かまいません。民の目もないようですし陛下も目をつぶっていることです。ガランの民が愛称代わりに姫と呼んでいることも知っています」

「そうなのですか」

 

 フレアが申し訳なさそうにしているとジークは立ち上がりティアナクランに礼をする。

 

「ご理解頂き感謝します、ティアナクラン様」

「全くです。ティアナは私の大事な友人です。恥をかかせるジークは嫌いです」

「ぐはーーっ!!」


 崩れ落ちるジークを無視してフレアは周囲をキョロキョロと見渡す。


「ところでランスローとロランはどこですか」

「ははっ……、奥にいますよ。ご案内しましょう」


 ショックが抜けきらないままにジークは足取り重く案内する。フレアたちは後に続きその間ずっと騎士たちは微動だにせず直立していた。それにはティアナクランは感心するしかない。


「なんて騎士団なの。この軍気、規律。近衛軍と比べても比較になりません」


 それは統制も、個の戦闘力も近衛軍が劣っているのだろうと肌で感じ取ってのことだ。その衝撃はティアナクランの意気を消沈させていった。

 聞いていたレイたちもかける言葉が見つからないでいる。それほどにクロノスナイツから感じ取れる覇気は突出しているように思える。


(お父様が黙認してでも騎士団を国内にとどめようとする理由がわかりますわね)


 奥に向かうとまず目に入ったのがすぐにも折れてしまいそうな細剣であっという間に西門城壁修復用の石を整形していくロランの姿だ。

 続いて見えるのが燃えさかる炎の上で座禅を組み、平然と耐えながら伸ばした腕に大きな鋼鉄の塊を下げているランスローが見える。


「ここは化け物の巣窟かよ」


 マルクスの声に2人は気がつきフレアを目にするとすぐに身を整えて集まってきた。不思議なことにランスローはやけどの様子が全くない。


「相変わらずランスローは危ない訓練が好きですねーー」

「気合いがあれば大丈夫だろ」

「そうですね」

「その通りだ」

「あはははは」


 ランスローの言葉にジークどころか知性派に見えるロランも即答した。それをフレアはお腹を抱えて笑うのだ。

 マルクスたちはどこに笑う要素があったのかと理解出来ない。

 クロノスナイツの非常識さにティアナクランが頭を抑える。


「気合い? それは何の冗談ですか」

「クロノスナイツは男性騎士も魔法砲撃ができるのですよ」


 フレアの言葉にユーナが驚く。


「男性は放出系の魔法は使えないはずよ。使えたとしても微々たるもののはず」

「うーーん、私もまだ理由は分かっていないのですが事実ですよ。ランスロー、試しに向こうの岩をここから砲撃してもらえますか?」


 ランスローからは100メートル先にあるゴツゴツした岩の塊を見据える。ランスローは小さく頷くと腰の刀を抜き構える。


「はあああああーーーー」


 気合いとともに目に見えるほどの闘気が巻き上がる。

 

「北神二刀流『巻き撃ち』」


 気合いとともに振るわれた刀から凄まじい風圧が放たれ、3メートル以上の大きな岩がバコンッと音を立てて粉々にはじけ飛んだ。

 それを見てユーナは興味深そうに観察し悩んだ。


「興味深いわね。普通の魔法現象とは違うようだけど原理が分からないわ」

「ユーナさんもですか。私も幾ら考えても全く解明できないのですよ」

「あれはどう見ても力業でしょうが!?」


 ティアナクランがフレアとユーナに訴えるがフレアは笑い飛ばす。


「おかしなことを言いますね。力だけで風の魔法現象は起きませんよ」

「そうね。あれは風の上級魔法に匹敵するわ」

「魔力反応がなかったでしょう!? 2人とも気付きなさい」

「だから、分からないのですよ」

「ええ、不思議だわ」


 そこでランスローがフレアに尋ねる。


「で、姫はなぜここに?」

「ああ、そうでした。2人の内のどちらかに『気配探知の魔法』を使って人捜しを手伝って欲しいのです」

「気配探知の魔法ですか……」


 ティアナクランはそれすらも魔法という言葉が適切かどうか懐疑的な表情を隠せない。

 フレアの依頼にジークがちょうどいいとランスローを(すい)(せん)する。


「だったらランスローを連れていけ。ロランは西門復旧の仕事があるから手が離せない」

「みたいですね。ランスローそれでよろしいですか」

「かまわねえ。俺は姫についていくだけだ」


 そこで思い出したようにジークが提案する。


「おおそうだ。クラウディオ司令がランスローに辞令を出していたな。今後は要請があれば最優先で姫の護衛につけって話だ」

「いいのですか?」

「おう、後進の育成も進んで余裕が出てきたからな。それより姫に何かあったらことだ」

「ありがとう。ではランスローをしばらく借りますね」

「おう。そうしろ」

「さあ、まだ見ぬ魔法少女を見つけ出しますよ」


 ランスローの手を引っ張り待ちきれないとフレアは去っていく。

 そんなフレア一行見送りつつジークとロランはとある人物を見てにらみつけていた。


「あのヤローどっかで見たような」

「ええ、何でしょうか。このふつふつと沸き上がる嫌悪感は」


 2人はレイに殺気だった視線を向けながら見送った。




 フローレアは西門付近の商店街にたどり着くとランスローにお願いする。


「ではランスロー。ここで2日前に商人に化けた竜人が魔法少女に成敗されたようなのです。その魔法少女を追いたいのですが『気配察知の魔法』をお願いします」

「フローレア、2日前の気配を読むなどそんな都合のいい魔法聞いたことがありませんよ」

「やってみよう」

「できるのですか?」


 ランスローは精神を研ぎ澄まし気配を探ると首をかしげた。


「妙だな」

「といいますと」

「竜人の気配は探れたがその魔法少女の気配は途中で途切れている。まるで(こつ)(ぜん)と存在が消えたかのようだ」

「ほむ。転移系の魔法でも使えるのでしょうか」


 それにはティアナクランが懐疑的だ。


「転移の魔法は伝承のみで知られる魔法です。時空魔法を得意とするリリアーヌでも出来ないのですよ」

「そうですね。やはり地道に探すしかありませんか」

「それって、聞き込みをするのか?」

「他にも方法は探ってみますよ」


『ああっ、金を持ってねえだと』


 露天で店を構える串焼き屋の店主が客にどなっている。大きな声だったのでフレアたちは視線を向けるのだが険悪な様子が離れても伝わってくる。


「ああそうだ。だが下々の店にしてはなかなかにうまかった。褒めてつかわそう」


 真っ赤な髪の美少女が今も肉汁がしたたる串焼きを豪快に頬張りながら言った。


「何偉そうに言ってやがる」

「わらわに褒められることは黄金を与えられるよりも名誉なことだぞ」

「そんなんで飯が食えるか。だったら黄金でもよこせ」

「……不敬な」


 チリッとピリつく殺気を感じたフレアはランスローに命じる。


「ランスロー、止めるのです」

「ちっ、了解」


 飛び出したランスローは素早く刀の鞘で赤髪の少女のデコピンを防いだ。そう、デコピンだ。にもかかわらず衝撃波が発生し付近に見られる簡易の幌屋根程度ならばけし飛んでしまう。

 ようやく、串焼き屋の店主は赤髪の少女がとんでもない化け物であり殺させる所だったのだと理解する。


「ひ、ひいぃ」


 尻餅をつきつつも這うように逃げていく。赤髪の少女は店主を追うことはしない。目の前で攻撃を防いだランスローに興味が移っていた。


「お前、強いな」


 強者の出現に嬉しそうな声を抑えきれない少女。

 今度はしなやかな体から人差し指で次々と突き込んでいくる。ランスローはひたすらに鞘の腹でそれを防ぐ。それが常人の目には負いきれない速度であるため周囲の人々は腕が消えているように、または幾つもの腕が生えているかのように錯覚する。


「な、なんちゅう身体速度だよ。あの女何者だ?」

「恐ろしいのはどちらもまだまだ力を隠していることですね」


 魔導騎士であるマルクスとレイは見ているだけしか出来ないでいる。

 周囲の人々も同様で赤髪の少女のまき散らす威圧に萎縮して逃げることすらかなわない。

 そこにフレアが臆することなく近づいていく。


「フローレア、いけません」


 ティアナクランの静止も無視してバックから食べ物を取り出し赤髪の少女の口に放り込んだ。その瞬間、少女の様子は一変。不意に殺気と威圧は消し飛び驚いたようにフレアを見ている。


「う、うまい……。なんだこの食べ物は?」

「マカロンです。もっと食べますか」


 赤髪の少女は何度も頷くとフレアはバックからありったけのお菓子を渡した。


「ふおおお~~~~」


 見た目にも美しい美味に心を奪われた様子で赤髪の少女はおとなしく堪能しつつ頬張っていく。

 周囲の人々は安どの息を漏らしてその場にへたり込む。

 そしてフレアは人差し指を赤髪の少女に持っていき、


「あなたのしたことはメッ、ですよ」


 フレアは可愛らしく子供に言い聞かせるように赤髪の少女に注意する。

 そんなフレアの様子に赤髪の少女はきょとんとしていたが自分が何を言われたのかと自覚すると豪快に笑った。


「あっははははは」


 そして、人差し指についたチョコクリームをなめとりながらフレアに言う。


「貴様はわらわが怖くないのか?」

「だからなんだというのです。ここは私の住む街です。私がいる限り誰であろうがおいたは許しませんよ」

「ふふふ、くくくくくっ。おまえ面白いな」


 心底愉快だと言いたげにして赤髪の少女の瞳には奇妙な欲望の色がともった瞬間、外が騒がしくなる。


「この騒ぎは何事だ」


 ガラン駐在の赤虎騎士団の団員が駆けつけようとしていた。それを知った赤髪の少女はフレアに伸ばしかけた手を止めた。


「ちっ、今騒ぐのはまずいか」


 赤髪の少女は素早くフレアの首に近づくと舌で触れた。


「っ!? なにを」


 首を押さえてあとずさるフレアと今度こそ敵意を持って刀を抜こうとするランスロー。

 赤髪の少女はペロリと自身の唇に艶めかしい舌を走らせた。


「貴様にはマーキングをしておいた。いずれまた会おう」

 

 謎の言葉を残して赤髪の少女はガランの外に向かって走っていく。


「……変態に目をつけられたかもしれませんね」

 

 もう視界から見えなくなった少女に対してフレアは面倒なことになりそうだとため息を残した。



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