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第30話 魔法少女特訓編 『決断の在り方』

 よこし魔に取り込まれた人々を救えるのか。

 不安そうなティアナクランにフレアは説明する。


「あの魔物については途中で合流したパティさんたちから話を聞いています。《ミラクルマギカリング》の力を引き出し、取り込まれた人を救ったことも」

「ミラクルマギカリングですか」

「はい、工場で支給した腕輪のことですよ」

「確かフィニッシュアタック用の魔導具だといっていましたね」

「はい、この魔導具は魔に囚われた人を救うためにつくったのです。正に現状にうってつけですね」


 納得すると同時に本当に都合良く開発したものだとティアナクランは感心した。


「この事態も既に予見して魔導具を開発していたのですか。民を救うために……、見直しましたよ」


 褒められて胸を張るフレアだが、リリアーヌの記憶が確かならば魔法少女が攻撃をためらうと危険だから開発したのだ。


 (フレアっち、言ってることが違ってる)


 といっても結果的に人を救えることも事実なのであえてリリアーヌは言及しなかった。


「集めた情報から分析するに囚われた人々はよこし魔の右胸の結晶体に封じられているようです。であればそれ以外の部位に攻撃しても問題ないでしょう」

「そうなのですか」

「ええ、むしろ攻撃によってある程度反魔の力を弱体化させた方が元に戻すには効果的といえるでしょうね」


 初めての敵にもかかわらずフレアは相手のわずかな情報を読み取り対処法を導き出す。ティアナクランはフレアの頭の回転と洞察の鋭さには舌を巻いた。


(知恵者というのは時として千の兵よりも価値があるのかもしれませんね。フローレアがそれだけずば抜けた知能を持っているということですが)


「それにミラクルマギカリングは王都防衛戦の集団砲撃からヒントを得て開発しました。複数協力発動型を採用しましたからみんなで制御した方が強力な浄化となるでしょう。それこそあの巨大な魔物になった人々も戻せるくらいに」


 そう言ってフレアは自身の魔力を封印する腕輪を解除する。するとたちどころに周囲に魔力が吹き荒れ、フレアの体は魔力の光で満ちていく。


「さらには私の膨大な魔力を皆さんに制御してもらえれば成功率は限りなく高くなるでしょう」


『くるしい、たすけて』


 倒れていたよこし魔は魔装砲の攻撃によって損傷した体を修復しながらゆっくりとたちあがる。

 よこし魔から上がる悲痛な声。

 それは吸収された人々の嘆きである。


「助けよう」


 パティが第一声仲間に呼びかける。


「ええ、わたくしたちは魔法少女ですわ。人々を救うのは当然ですものね」


 アリアが集まっているG組の生徒たちを見回す。彼女たちは誰1人救うことに異論はない。むしろ当然だと頷いた。


「苦しんでいる人を助けたい。それは人として当たり前よね」


 ユーナも賛同の意思を示す。


「早く助けてあげましょう。あんな姿にされるなんて悲しすぎます。見ているだけで胸がぎゅっとなっちゃいますよ」


 ミュリが囚われた人々のことを案じ悲しそうにする。


「弱きを助け悪を(くじ)く。騎士として、魔法少女として民を救うんだから」


 シャルが勇んで声を上げた。


「まっていて。わっちがいま助けたるかんね」


 苦しみの声をあげ続けるよこし魔にキャロラインが叫ぶ。


「魔物さん、すぐに人間さんに戻して差し上げますわ~~」


 おっとりしたサリィもいつも以上に気合いが入っているようだ。

 他にも次々魔法少女たちが声を上げる中リリアーヌとルージュがフレアの両隣に立つ。


「フレアっち、今度は間違えない。『みんな』で困っている人を助けよう」

「フレアさん、魔法少女の心はいま、1つよ」


 2人の言葉を受けてフレアは呼びかける。


「《ミラクルマギカロッド》召還」


 魔法少女たちの腕輪からは精霊結晶でつくられた杖がそれぞれに現れる。

 彼女らはその杖を手にとってフレアを中心になるように掲げる。そして、フレアの膨大な魔力を取り入れつつ力を合わせて制御を始める。


『ガアアアアアアーー』

 

 魔法少女たちの行動に感づいたよこし魔は真っ先に向かって来ているがティアナクランが立ちはだかる。


「ここは通しません」


 今度はしっかりと魔法障壁を張り巡らせている。よこし魔の体当たりにも動じない強固な障壁が立ちはだかった。

 さらには手を振り多重魔法を展開する。


「光魔法ディバインバスター」


 極光の聖なる砲撃が同時に2発、よこし魔の巨大な両腕をいとも簡単に吹き飛ばす。ティアナクランもまたフレアの新理論によって更に力をつけていた。それは高出力魔法の多重無詠唱という離れ技を可能にしている。

 これが王国最強の魔法少女の実力である。


「皆さん、今のうちに」


 ティアナクランは浄化の制御に参加しながら光の拘束魔法を続けて発動する。光の鎖が無数に地上よりわきあがり、よこし魔をその場に縛りつけていく。


「精霊境界、発動」


 続いてフレアは虹色の精霊世界によこし魔を引き込みフィニッシュアタック発動に取りかかる。フレアが掲げるミラクルマギカロッドの先には光の球体が浮いていた。それはあふれんばかりに世界を照らしだす。


「っ!!」


 そんな中でフレアの腕から血がこぼれ落ちていく。魔法の使えないフレアが変身もせずに輪の中心にいるのだ。無理がたたり体に過度な負担がかかっていた。それがフレアの体を傷つける。


「フレアっち」


 それに気がついたリリアーヌだがフレアは遮る。


「チャンスは一度です。やり直しはききません」


 魔法少女たちに動揺が走ったがそれでも止めることはしなかった。この気を逃せばよこし魔に取り込まれた人は助けられない。二度はフレアの体が耐えられない。心配だが彼女たちは自分たちのすべきことを理解する。


「皆さん、フローレアをカバーしますよ」

 

 魔法少女たちは王女の指示にはっとした。より制御の質を高めフレアの負担を軽くしようと集まり皆で支えようとする。


「フレアちゃん。もっと頼っていいよ」

「そうですわ。こっちにもっと負担を回しなさい」


 パティとアリアが率先して負担を申し出る。


「分かりました。みんなでやり遂げましょう」


 時が経つにつれて頭上にはまるで小さな太陽のようなまばゆい浄化の力の塊が現れる。


「民は見捨てない。必ず助けます」


 ティアナクランは更にとびっきりの思いをそこに押し込み全員で叫ぶ。

 

「「「《ミラクルマギカブレス・リミテッド》!!」」」

 

 巨大なよこし魔を軽々と飲み込んでしまうような圧倒的な光の放射。鋭くも凄まじい放射音は他のいかなる音すら塗り替えるほどだった。よこし魔は逃げ場がない浄化の光にさらされ最初こそ苦しむも最後には穏やかな様子で言った。


『……あったかい……』


 魔法少女たちの救いたいという心。その気持ちが体現した光は囚われた人々にぬくもりと魂の救済をあたえた。

 邪悪な体は消失し、黒い結晶の牢獄は塵と化して人々を解き放つ。

 だが魔法少女の、――何より王女の想いは思いも寄らない奇跡を引き起こす。

 それは取り込まれた全ての人が生きていたことだ。

 殺され死人級になったはずの騎士や住民まで息を吹き返したのである。

 生き返った人々は信じられない様子で最初こそ戸惑っていたが徐々に周囲の人と喜びを分かち合う。


「うそ……、信じられない。こんなことって」


 (ぼう)(ぜん)と立ち尽くし目の前の光景が信じられず困惑するティアナクラン。フレアは冷静に事態を分析する。


「すごいですね。死人級は人の意識がわずかに残っている。それは生きているという定義に入るのでしょうか。それとも《ミラクルマギカブレス・リミテッド》は攻撃と浄化だけではなく蘇生の効果も付与されているのでしょうか。興味深い」

 

 それからちらりと王女をみると両手で口元を押さえて震えている。


「あ、ああ、……よかった。本当に良かった」


 民が無事であったこと。ティアナクランは心の底から安どし涙ぐんでいた。

 そんな彼女をフレアは眩しそうに見守る。


(他人を家族のように愛し喜ぶことができる。だからこそティアナは魔法少女として強いのでしょうね)

 

 フレアは油断することなく西門の奥を見つめる。まだガリュードとシンリーの消滅は確認していない。まだ次があるかもしれない。

 そう警戒していたのだがその心配は()(ゆう)に終わる。

 その頃、西門外ではクラウディオ直属のクロノスナイツが到着。ガランの外では控えていた予備戦力と戦闘が始まっていたのである。




「おうおう、うじゃうじゃいやがるな」


 四十代と思われる短髪の騎士が馬に乗り目の前にいる兵卒級2000程の予備戦力を軽い調子で眺めている。

 体はがっちりしていて風格ある容貌。巨大な剣を肩に担ぎ漆黒の騎士の鎧を身に纏っている。


「団長、どうしますか。急いで進軍したので部下たちがはるか後方に取り残されています。到着を待ちますか」


 眉目秀麗の若い男性騎士が隣で冷静に判断を仰ぐ。髪は腰まで伸ばしており、まるで女性と見間違うような美青年である。

 だが彼は冷静沈着。見方を変えれば冷たい印象を受ける。

 その判断はもう1人の左目に眼帯をつけた男によって封じられる。


「馬鹿野郎。あそこには俺たちの姫がいるんだぞ。あの程度の敵1人で蹴散らせずに何がクロノスナイツだ」


 熱く感情的な物言いの眼帯の男はすぐさま腰から二刀を抜いて臨戦態勢に入る。

 彼らにとっての姫とはティアナクランではなくフレアのことだ。

 片目の()()(おとこ)がそのまま勇んで1人敵に突撃していく。


「うおおおおお、我こそはクロノスナイツ11番隊長、ランスロー。命の惜しくない者は前に出ろ。たたき切ってやる」


 ランスローの勢いは凄まじい。兵卒級は突然の襲撃による恐慌から立ち直れないままに分断されていく。


「でたらめだ」


 作戦も何もあったものではないと頭を抱える美青年に団長と呼ばれた男は豪快に笑い飛ばした。


「がはははは、時には勢いに任せることが最善の策でもある。見ろ。敵が組織だって反撃がとれないだろう」

「そうですね。私も姫様が心配なのは変わりません。この混乱を広げるよう立ち回りましょう」


 美青年は馬を走らせるとランスローの戦功を広げるよう巧みに敵を追い立てていく。そして、集団が陣形もとれず固まっているところを団長が凄まじい身体能力で何百メートルと上空に跳躍するとその中心に飛び込んだ。巨大な大剣が禍々しい炎を纏い敵の中心で振り下ろされる。


「ダウンバーストストライク!!」


 団長を中心に猛烈な衝撃波と炎が広範囲にまき散らされた。一撃で兵卒級の大半が消滅に至る。

 その戦いを少し離れた場所でガリュードが興奮気味に観戦していた。


「おおっ、何という強さか。惜しい。実に惜しい」


 自身の体を見下ろすと大きく損傷し満足に動けない体がある。魔装砲を至近距離からまともに受けて未だに回復が間に合っていない。


「この体では満足に戦えぬか」

「ずいぶん派手にやられたじゃん」


 そこにシンリーが姿を現す。


「お前こそ腹に風穴が空いておるぞ」

「うるさいし。悔しいけどこれ以上の戦闘は無意味よ」

「そうだな。一度撤退するか」


 シンリーは反魔の力でガリュードごと包み込むと空を飛び高速でその場を離脱していくのだった。

 


 都市内に敵がいなくなったことで戦線を西門まで押し上げていたティアナクランたち。そこに外の無魔を殲滅したクロノスナイツの3人と鉢合わせる。


「おおっ!! 姫」


 クロノスナイツの団長がフレアを見つけると猛烈な勢いで向かってくる。


「はわあっ、あれはジーク」


 慌てて逃げようとするが両脇から抱えられると高い高いと持ち上げられる。


「ちょ、やめるのです。もう子供ではないのですよ」

「がははは、俺様にとっては11歳なんてまだまだガキ同然よ」


 そういってひげの生えたむさい顔を近づけて頬ずりしてくるのでフレアは絶叫した。


「いやああああああ」


 全身鳥肌が立つ。そして断末魔のような悲鳴がフレアからあがった。

 必死に逃れようとしているがか弱いフレアの力では抗えない。


「落ち着け、おっさん」


 そう言って団長の尻を容赦のない前蹴りでけっ飛ばすランスロー。

 吹っ飛んだジークはそのまま部下の麗人に厳重にしばりあげられる。


「おい、ロラン。てめー何しやがる」

「姫様が嫌がってますよ。小さい頃から娘のように面倒を見てきたのは分かりますが自重してください」


 フレアはぷるぷる震えながらランスローの後ろに隠れてしがみつく。


「ふえええ、ランスロー。助かりました~~」


 おびえているフレアの頭をなでて落ち着かせている様子を一歩引いた場所でティアナクランたちが呆気にとられてみていた。


「フローレアが翻弄されている? それに見慣れない鎧を着ていますね。彼らは一体?」


 不思議に思っているティアナクランにリリアーヌが説明する。


「王女様、彼らはクラウディオ様直属の騎士たちです」

「なるほど。お父様から聞いたことがあります。王族ではなくグローランス家に忠誠を誓う騎士団があると。もしや彼らがそうですか」

「知ってるんだ?」

「グローランス家は元々他国から来たときいています。その際に付き従っていた騎士団があるとも。お父様は彼らの強さとその経緯を尊重し黙認しているようですけれどね」

「え、グローランス家ってこの国出身じゃないんだ」

「だからこそグローランス家は功績の割にいつまでも騎士爵なのですよ」

 

 それは聞いていなかったとリリアーヌはフレアを見つめている。フレアがリリアーヌたち難民を即決で受け入れたのにはグローランス家の出自も関係しているように思えた。

 ティアナクランはジークに近寄ると尋ねる。


「あなたたちはどうしてこのガランに?」

「おお、ティアナクラン殿下か。俺様たちはクラウディオ司令の命令でガランの救援に来た。外にいた兵卒級2000ばかりはかたづけておいたぜ。2体ほど強力な個体もいたがそいつらは完全に撤退したみたいだぞ。もう外に敵はいない」

「そうでしたか」

「城外に俺様の部下を待機させてある。西門が復旧する間ここに滞在させてもらうつもりだがよろしいか」

「それは助かります。あなた方の強さは聞き及んでいますので」


 敵が撤退した。それを受けてようやくティアナクランは宣言する。


「敵は全て追い払いました。我々の勝利です」


 王女の宣言にガランでは歓声が一気に伝え広がっていく。兵士たちの表情は明るい。

 それは魔法少女たちによる奇跡によって人的被害が驚くほど軽微であったことが大きい。

 

 のちにこのことは、

『ガランの奇跡』

 と呼ばれ国中で語り継がれることとなる。




 ガランでの戦いも終わり、事後処理と復興の手配で一息つけたのは深夜だった。綺麗な月が空に輝いているというのに心はよどんでいる。

 寒さすら失念しティアナクランは1人屋敷の外に出て夜空を見上げている。

 それは思い悩んでいるようであり(はかな)げな印象をうける。

 仕事にのめり込むときは忘れていられたが、ふと1人になるとずっと思い悩んでいた問題を突きつけられて落ち込んだ。

 元気のない様子はずっとフレアが気にかけていた。だから頃合いを見計らい声をかける。


「奇遇ですね、ティアナ」

「うそね。ずっと見ていたくせに」


 振り向きもせずティアナクランはフレアに答える。

 ずっと心配されていたことは知っている。それが幾分安心にもつながっていた。

 誰もいない深夜の外に出たのはこうして声をかけてくれるのを期待していたから。


「はなしたいことがあるのですよね」

 

 隣にやってきたフレアにティアナクランは力なく微笑む。


「フローレアはわたくしが王女で不安にはなりませんか」

「いいえ」


 はっきりきっぱり否定するフレア。王女は予想通りの反応に苦笑する。


「わたくしには姉がいました。それは優秀で将来は女王を望まれるほどに」

「そういえば陛下には嫡出に男子はいなかったはずですね」

「ええ、ブリアント王国は建国の祖が女王だったこともあって王位継承に性別はあまり関係ありません」


 ティアナクランの姉にフレアは出会ったことがない。というより社交界でも耳にしたこがない。


「姉上は魔法少女にこそなれませんでした。それでも任された王族直轄領の経営も素晴らしく、その手腕が評価され、王位を継ぐことを周囲に望まれていたのです」


 それからティアナクランは肩を落とした。


「それに比べてわたくしは凡庸だった。堅実過ぎて可もなく不可もなくといったものでした。昔から即断が苦手で慎重に過ぎるため機を逸することがあったのです」

「ですがわたくしが魔法少女に覚醒してから状況は一変しました。突然お父様はわたくしを後継者に指名したのです」


 その言葉を吐き出した後のティアナクランの表情はとても痛ましい。

 どうして自分が選ばれたのか深く悩んでいるのがよくよくフレアに伝わってくる。


「後継者を姉上にしなかった。それが世襲制の王国にとっていかに危険なことかお父様が知らないはずがない。それでもわたくしを選んだのです。国を乱すことになりかねないのに」


 それにはフレアも同意する。前世の歴史でも世継ぎの問題によって国が傾くなどありふれたものだ。

 だからこそ、長子が後を継ぐ。その徹底が世襲政治を安定させることにつながる。国王ビスラードの判断は危ういものだといえた。


「それからの姉上の転落は悲惨でした。任されていた領地の経営も一気に傾き領民の不満も爆発し地位を追われたのです」

「わたくしはその後失踪する前に姉上に投げかけられた言葉が今でも忘れられません。

『あなたに女王は務まらない。大を救うため小を切り捨てられないあなたでは国の舵取りを誤る。決断してこそ王なのよ』と」


 その後、重苦しい沈黙が流れる。


「今度のことでわたくしは思い知らされました。魔物に取り込まれた人たちを見捨てられず多くの民を失うところでした。姉上の言うとおりわたくしにはお父様の後を継ぐ資格はないのかもしれません」

 

 直後、フレアがはっきりと否定する。


「そんなことありません」

「えっ?」


 フレアは嘆息する。


(きっとお姉さんの言葉が呪いのようにティアナを苦しめているのですね)


 ならばその呪いから解き放つのが役目だろうと理解する。

 そもそも他人を切り捨てるなどという行いは前世の毛嫌いするイケメンたちが何度も行ってきた。それは()()すべき外道の所業である。認識から変える必要があった。

 

「ティアナ、まず言っておきますが非情な決断ができるから王になれるのではありません。根本から誤りです」

「えっ、ですが……」


 思わず反論しかける王女にフレアは真なる王とは何なのかをはっきりと伝える。


「民に支持されている者が王になれるのです」


 その言葉にティアナクランははっとする。


「統治が優れている、血筋、貴族の支持。それらは王の要因の一部でしかありません。民あってこそ国は存続できるのです」

「民あってこそ……」

「国王陛下は賢明な方です。あなたを指名したのはその本質をよく理解したからこそなのだと思います」


 そこでフレアはティアナクランに渡り商人で知り得た情報を伝える。


「あなたのお姉さんは領地経営においてずいぶん貴族寄りな対応だったようです。税は生かさず殺さず取り上げ、役人等への不満も陳情にも身内びいきで処したようです。女王になるために貴族への根回し。連日の社交パーティ。豪遊と散財は目に余るものだったとか」


 それはティアナクランには伝えられていなかった情報だった。知らない姉の一面を知って驚きに声が出ない。


「ティアナは決断できないのではありません。ただ民を慈しみ大切だからこそ最大限救う努力をしただけです。本当に駄目なときはちゃんと決断できる人ですよ。そんなあなただから民は信じ慕うのです」

「すぐに駄目だと諦め、切り捨てることなんて誰にでも出来るのです。そんなのはただ思考停止した愚物です。そんな人は偉くも何ともないのですよ」


 フレアの言葉にティアナクランは胸が晴れ渡る思いだ。そのように言ってくれる人はいなかった。王とはなんなのか教えてくれる人はいなかったのだ。


「私は他人を愛し思いやれるあなたが好きです」


 そして、とどめが今の言葉だ。心臓がとくっとくっと早鐘のように暴れ出す。もはやごまかしようもない。ティアナクランはこのときはっきりと自分の気持ちを自覚した。


(フローレア、あなたはずるいです。それはきっと友人としての言葉なのでしょう。ですがわたくしには……)


 きっと、今のティアナクランの気持ちはかけらも伝わらないことだろう。それでも精一杯の思いを乗せて言葉を返す。


「ならばわたくしはフローレアの好かれる王女でありたい」

 

 ティアナクランは吹っ切れた表情でフレアに伝えたのだった。



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