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第28話 魔法少女特訓編 『心に響け!! パティとアリアのミラクルマギカブレス炸裂』

 ライルは必死に逃げていた。

 必ず友達の元に戻る。その約束を守るために。

 息は切れ、所々に怪我をしているがライルの心は折れていない。


「絶対に戻るんだ」


 彼の周囲は無魔であふれている。抜け道などないように思える。もう助からないかもしれない。それは何度も脳裏を過ぎては振り払う。


「約束したんだ、戻るって」


 そんなライルの気持ちをあざ笑ういやらしい声が頭上より降りかかる。


「あははは、まだ諦めてないんだ。あんたが死ぬのは確定じゃん」


 圧倒的な威圧感を振りまくシンリーにライルは体が震えだす。目の前の無魔は絶対的な力を持っている。シンリーから逃げ切れる可能性が皆無に等しい。

 それでも友達が泣くのを想像すると虚勢を張る。


「だまれ、俺は友達の元に帰るんだ」


 言い返してきたことにシンリーは驚きの後、狂気的な笑みを浮かべた。

 ライルがぞっと身震いしてしまう冷たい瞳。恐怖で体が絡め取られたように動かない。


「いいじゃん、いいじゃん。あんたならきっと良質な感情を振りまけそう」


 シンリーはライルに人差し指を向けると指先からドス黒い邪悪な光が迸る。それは矢のように飛び出すとライルの心臓を撃ち抜いた。


「がはっ……」


 痛みは感じない。ただ心臓がはち切れんばかりに動悸する。暗い底冷えするような邪悪な意志が内から広がっていった。

 気がつけばライルは小さな丸い黒の結晶体に閉じ込められ封じられている。そして、吹き上がる邪悪な力が巨大な人型の悪魔のような体を形成した。


『グオオオオッ!!』


 ライルの意志とは無関係に暴れだし周囲の家屋をなぎ倒しつつ歩き出した。

 そして、徐々に理性は失い意識はもうろうとする。それでもライルはあらがおうとする。

 友達の元に戻る。

 その想いだけがわずかに彼をつなぎ止めていた。


「あははは、どうかしら。純粋種のアタシが使う『よこし魔』。強い正の感情を負に反転させ魔物に変える秘術よ。あらがおうとするほどに私のオーブには負の力が集まる。これでますますグラハム様の復活が近づくのよ」


 ライルが抵抗するたびに負の感情は吹き出しシンリーの手にあるオーブには力が集まっていく。


「さあ、そのまま人間どもを(じゅう)(りん)しなさい。そしてもっともっと負の感情を私にもたらすといいじゃん」


 反魔妖騎シンリー。外道もますます極まり災厄を振りまこうとしていた。




「――ふっ、はあっ」


 リリアーヌは走る速度を落とすことなく立ち塞がる無魔を次々に剣で打ち据えて無力化していく。

 続くパティたちに無魔が回ってくることはない。

 リリアーヌたちは既に現場にたどり着き無魔と接敵していた。


「さすが教官補佐。耐久力が取り柄の死人級では足止めにもなっていませんわ」

「うん、強すぎるよ。特に剣は速すぎて全然目で追えない」


 アリアとパティが感心しているとミュリがはっとする。


「アリアちゃん、この道を外れた通路で人が襲われてるよ」


 身体強化に優れたミュリは五感も人一倍優れている。見なくとも周囲の状況を把握することに長けていた。

 それを知るアリアは疑うことなくリリアーヌに声をかける。


「聞いていましたか、教官補佐」

「うん、すぐに向かうよ」


 レーダーのような感知用の魔法を周囲に展開したリリアーヌはその位置を正確に割り出して襲われている人の救出に向かう。

 一気に走る速度を上げると大きく跳躍し、建ち並ぶ住宅を飛び越えていった。


「私たちも続きますわよ」


 変身した魔法少女の身体能力は跳ね上がる。アリアたちも軽々と家屋を飛び越えてリリアーヌの後に続いた。



 襲われていたのはレナという女の子だった。魔法少女を探してさまよっていたところ無魔に見つかり追われていた。


「きゃ」


 恐怖と焦りと疲労で足がもつれレナは転んでしまう。その間にも死人級は迫っていてレナは必死に立ち上がろうとする。

 しかし剣を振り上げる死人級をみてレナは死が脳裏をよぎる。


「いやああああっ」


 頭を抱えて叫ぶレナだが刃が降りかかることはなかった。なぜならパティが割って入りガンマギカナックルで撃ち抜いていたのだ。

 ドサリと地に倒れる死人級に気がついたレナはようやく見上げてパティを認識する。戦場には似つかわしくない可愛らしい法衣に身を包み、だが圧倒的な力を持って人類を守る守護者。


「魔法少女……」


 実際に目にするとレナの目には後光が射したかのように輝いて見える。そして、視線を巡らせると他にも3人の魔法少女がいとも簡単に死人級を排除してしまった。

 わずか数秒の出来事。


「すごい、これが魔法少女の力」


 兵士たちは抑えるのが精一杯だった無魔を圧倒する魔法少女の力。これならば、友達を助けにいけるかもしれない。

 そう思うとレナはとめどなく涙があふれて止まらない。


「君、大丈夫だった?」

 

 パティから差し伸べられる手を取るとしがみつく。

 そのままレナは必死に魔法少女に(こん)(がん)した。


「お願い。ライルちゃんが、あたしの大切な友達を……助けて……」

 

 その切実なお願いに1度緊張がはしったパティだがすぐに笑顔を作って頷いた。


「任せて」


 力強い答えにレナの涙は安どのそれに変わり頭を下げる。


「ありがとう、お姉ちゃん」

 ――――

 ――


 その後、レナから話を聞いたパティたちは現場に向かっていた。レナはパティに背負われながらも道を指し示す。


「後はこのまままっすぐだよ」

「わかったわ」


 リリアーヌが先行し立ちはだかる敵を全て打ち払いながら道を切り開く。その圧倒的な強さはレナも目を見開いた。


「魔法少女ってこんなに強かったんだ。すごいよ」


 キラキラした目で語るレナにパティは乾いた笑いを返す。


「あはは、あの人は私たちの先生で特別強いんだよ」

「お姉ちゃんも強かったよ。ものすごい速いパンチで無魔をやっつけてた」

「君、あの攻撃が見えてたの?」


 パティのガンマギカナックルは通常の人間では捉えきれない速度のはずなのだがレナには見えていたという。そのことに驚く。

 魔法による身体強化が苦手な女性が強化できている。それが意味するところは1つだ。


「魔法少女の才能があるのかもしれませんわよ」

「ほんとに?」


 嬉しそうな声を上げるレナにアリアは頷いた。


「ええ、嘘は言ってませんわ」

「あたしも魔法少女になればライルちゃんも、皆を守れるのかな」

「……レナちゃん」


 自分の非力さを嘆く様子にパティはかける言葉が見つからない。

 リリアーヌは目的の場所に着くと周囲を魔法で探る。


「ここには人の気配はないわね」

「でもライルちゃんと別れたのはこの辺りなの」


 もしかして手遅れだったのか、不安に落ち着かないレナは声が震えている。そんなレナを気遣いミュリが頭をなでる。


「大丈夫、わたしに任せて」


 ミュリはフレアハンマーを補助に用いて大幅に強化した福音魔法を発動する。現在は光としてしか認識できない精霊の声を聞き入れようとする。精霊ならば何か見知っているかもしれない。そう思ったミュリはじっと耳を澄ませてかすかに訴えてくる精霊の声をたぐり寄せる。


「――っ! 大変、皆わたしについてきて」


 ミュリは慌てた様子で急に走り出す。そんなミュリにパティは尋ねずにはいられない。


「何があったの」

「……早く止めないと」

「どういう意味?」


 それにはミュリが口を紡ぎ無言で、ただひたすらに走っていってしまう。パティたちはただ困惑し無言でついて行くしかなかった。



 広大な広さを持つ王立ウラノス魔導騎士学園もガラン中から集まる人々を簡単に収容できるわけではない。領主の屋敷でも協力しても時間はどうしてもかかる。それは渋滞となり長蛇の列となる。

 そんな人がごった返す最後尾に無魔の魔の手が忍び寄る。


「うわああああっ、無魔がもうやってきたぞ」


 不気味な挙動で群れを成し迫ってくる死人級。絞り出すような苦しげなうめき声が人々に言いようのない死の予感を植え付ける。

 自分たちはああはなりたくない。恐怖に追い立てられて人々は前へ前へと無理にでも進もうとする。

 そんな人々にさらなる追い打ちがかかる。


『生きてかえるんだあああ』

 

 脳を揺さぶるような悲壮な叫びが大気を震わせた。死人級の後ろからは巨大な人型の魔物が暴れながら向かってくる。

 巨大化した鍋の蓋を振り回し、周囲の建物を切り倒して走ってくる姿は脅威。この魔物こそがライルだった。


「いいぞ、よこし魔。もっと、人間を追い立てておびえさせるといいし」

 

 シンリーの命令でよこし魔は走り出す。

 猛突進して人々に迫ったよこし魔は手近な人を見つけては鍋の蓋を叩きつけようと振り下ろす。


「いやあああ、誰かあああ」


 逃げられないと悟った20代の女性はただかがんで身を固くする。

 もう駄目だ。

 ここにいる人々は誰もが諦めかけたとき、少女の声が響く。


「待ちなさい」


 よこし魔の攻撃をリリアーヌは青い装飾剣ではじき跳ね上げた。


「ガンマギカナックル」

 

 さらには無防備な土手っ腹にパティの風を切り裂くような魔法のパンチがぶち当たる。猛烈な打撃に魔物は大きく宙に浮かび上がって200メートル先まで吹き飛んだ。

 よこし魔は空にいるシンリーのすぐ脇を過ぎていく。シンリーは人々を守るように4人の魔法少女が並び立つのを忌忌しい目つきで見た。

 それに気がついたリリアーヌがシンリーに叫ぶ。


「アタシは魔法少女リリアーヌ。魔法少女がいる限り人々を傷つけさせない。この清い剣に誓い、悪を斬る」


 青く膨大な魔力を纏う装飾剣を向けられシンリーはわずかにたじろいだ。それほどにリリアーヌから感じる魔力の圧力は凄まじい。

 フレアが魔法少女の中で最高の潜在能力を持つと言わしめるリリアーヌの力の片鱗である。

 

「……また魔法少女。この都市には一体どれだけいるのよ」

 

 当初は魔法少女といえど学生であり見習いの雑魚ばかりと甘く見ていた。シンリーが警戒に値する敵がこうも次々と現れては非常に面白くない。

 それに魔法少女の登場によって人々は正気を取り戻りつつある。

 

「――――魔法少女だ」


 誰かが叫び、人々の心に先ほどまでにはない希望がともっていく。


「魔法少女が来てくれたぞ」


 それはすぐに大きな歓声となった。


「あの、ありがとうございます」


 リリアーヌはお礼を言う女性に柔らかな笑顔で応じる。


「無事で何よりです。危ないからさがっていてください。怪我をして動けない人には手を差し伸べてあげてください」


 リリアーヌの言葉に従い人々は混乱時と違って徐々に立ち直っていた。互いを気遣い合いながら少しずつ列が進み出した。

 それを見届けリリアーヌは襲いかかる死人級を見据える。


「時空魔法《転移残響》」


 リリアーヌがその場で剣を振ると死人級の背後に空間の亀裂が走りそこからリリアーヌの斬撃が飛び出した。

 空間と距離を飛び越した転移する斬撃。威力は半減するものの視界に捉えた中距離までの敵を即座に斬ることができる強力な魔法だ。

 リリアーヌは人々の盾となる位置にいたまま次々と攻撃を跳ばすことができる。

 みるみるうちに減少していく死人級を見てシンリーは焦りを募らせる。


「ふざけんなし。これじゃあ、私の計画丸つぶれじゃない」


 自分が相手をするしかない。そう判断したシンリーはリリアーヌに仕掛ける。

 リリアーヌも待っていたとばかりに飛び上がりシンリーを迎え撃った。


「アリアさん、アタシは敵の統率者を叩くわね。後はまかせたよ」

「分かりましたわ。教官補佐も気をつけて」


 アリアはシンリーを見て直感で感じ取っていた。あの無魔はリリアーヌでなければ太刀打ちできないことを。

 それだけ力の開きが分かるほどにはアリアも力をつけたといえる。


「死人級は教官補佐にほぼ倒していただきました。残るは――」


 巨大な魔物、よこし魔が立ち上がっていた。パティの攻撃のダメージは外見上は見受けられない。

 そして、よこし魔は叫ぶ。


『生きてかえるんだああ』

『約束、まもらなきゃあ』


 悲痛なまでの叫びを上げるよこし魔。

 その声を聞いてレナが何かに気がつき震え出す。

 パティがそのことに気がつき尋ねた。


「どうしたの、レナちゃん」


 瞳がゆれ動き真っ青な表情でレナは言った。


「あの声、ライルちゃんだ。間違いない。ライルちゃんだよ」

「ええっ!?」


 パティはしかしまたも向かってくるよこし魔に迎え撃とうと前に出るが。


『レナとの約束守らなきゃ』


 その叫びにレナが叫んだ。


「パティさん、攻撃しないで。やっぱりあれはライルちゃんだよ」

「っ!!」


 パティはすんでのところ攻撃を止めたがそれは致命的な隙を生む。

 横なぎに払われる大きな鍋に叩きつけられて近くの家屋を突き破りながら吹き飛ばされる。あまりの衝撃に建物は倒壊しパティの状態はわからない。


「パティさん!?」


 アリアが慌てて助けに駆け出すとそれを阻むようによこし魔が立ち塞がる。

 蹴り上げる足をガードし耐えるもよこし魔は口から怪音波をアリアに叩きつけてくる。


「くうううっ」


 防御不能の音撃になすすべがないアリアにミュリが割って入り防御魔法を展開する。


「重力魔法《因果応報》」

 

 攻撃をそのまま反発力にして相手にたたきかえす攻守伴った防御魔法。よこし魔は自らの力によって遠く吹き飛んでいく。


「大丈夫? アリアちゃん」

「助かりましたわ、ミュリさん」


 耳鳴りと平行感覚の混乱でアリアはよろめきつつ立ち上がる。

 生徒の窮地を見たリリアーヌは一度魔力を放射して魔力圧で強引にシンリーを遠くに引き離す。その後パティがいる倒壊した()(れき)にツッコんだ。

 そして、中からパティを救出するとアリアのそばに降り立った。

 

「パティさん、怪我は?」

「大丈夫。フレアちゃんのくれた法衣すっごく頑丈だから。まだ戦える」


 アリアはほっと胸をなで下ろす。

 

「あれがレナさんの言っていた男の子なんですの? あの姿はどういうことですの」

「わかんない。でも間違いないよ。あれはライルちゃんだよ」


 困惑している魔法少女たちにシンリーが空から饒舌に語り出す。


「あはははははは、そうよ。そいつは確かに元人間よ。私は人を魔物に変えることができるの。そして、そいつは私の忠実なしもべ、よこし魔として生まれかわったのよ」

「……なんて卑劣な」


 リリアーヌが剣を握りしめてシンリーをにらみつけた。

 レナがシンリーに向かって懇願した。


「お願い。ライルちゃんを元に戻して」

「あはははは、無理よ。よこし魔になった人間は元には戻せないし」

「そんなあ……」


 レナが力なく崩れ落ちる。

 

「あんたあのガキの知り合いなの? だったらいいこと教えてあげる。そいつさ。私に生意気にもこう言ったのよ。『友達の元に帰るんだ』って」

「ああっ……」


 レナはライルと分かれる前の言葉を思い出し、ぽろぽろと大粒の涙がこぼれる。


『約束だ。絶対生きて戻る』

 

「ライルちゃんはずっと私との約束を守ろうとしてくれたんだ」


 そのことに気がつくと大粒の涙があふれて止まらなかった。


「ごめんね、ごめんね、助けられなくてごめんね、ライルちゃん」


 絶望と悲しみに心が染まっていくレナからシンリーの持つオーブに一気に力が吸収されていく。


「レナちゃん……」


 レナの姿はパティにとってジルを失った出来事と重なって見えてしまった。

 そう思うと戦意が急激に失せてよこし魔を攻撃することにためらいを持ってしまう。


「あーーはははは、やっぱりあのガキをよこし魔にしてよかったじゃん。感謝するといいし。ちゃんと友達の元に戻れたんだから。正し、化け物になっちゃったけど――っ」


 続く(あざけ)りの声は怒り心頭のリリアーヌによるパンチで強制的に止められる。拳が顔面を消し飛ばさんばかりに打ち付けて吹っ飛ばした。


「この、度しがたいクズがっ、アタシはあなたを絶対に許さない」


 温厚なリリアーヌが完全にキレた瞬間だった。


「教官補佐……」


 あまりの剣幕に驚くアリア。リリアーヌは懐から薄い冊子を投げ渡す。それは魔導具の説明書だった。


「これは……?」

「工場でフレアっちが渡した腕輪型の魔導具ミラクルマギカリングはこういうときのために開発したってきいているわ」

「それって、まさか」

「ただ状況が違うから絶対の確証はない。けど試してみる価値はあると思う。あの無魔が邪魔しないしないように釘付けにするからあとはお願い」


 それだけ言ってリリアーヌはシンリーの追撃に入る。

 アリアは急いで魔導具の説明書に目を通そうとした。

 

『ミラクルマギカリングは無理矢理無魔にされた善良な人を元に戻し救い出すために考案されています。これは2人以上で発動するフィニッシュアタック用装備です』


「何ですって!?」


 正にいまの状況にうってつけだった。アリアは食い入るように目を通す。

 

『使い方は非常に簡単です』


「簡単、それは助かりますわ」


 アリアは次のページに目を移すと大きく1行。


『それは《心》です』


「簡単すぎて逆にわかりませんわよーー!!」


 アリアは思わず説明書を地面に叩きつけた。

 だが、同時によこし魔が向かってきていることに遅れて気がつく。狙いは無防備に立ち尽くすパティだ。

 よこし魔の手から直径3メートルもある鍋の蓋が(とう)(てき)され家屋を切り倒して向かってくる。


「パティさん、危ない」


 アリアがパティをかばい防御結界を正面に展開するもあまりの衝撃にもろくも崩れ去る。そのまま直撃しアリアは倒れた。


「かはっ」

「アリア!?」

「アリアちゃん」



 はっとしたパティがアリアを抱き起こす。その間にミュリがよこし魔に向かって素早い動きで翻弄し注意を引いていた。


「どうしてかばったりしたの」

「ともだ……仲間を助けるのは当然でしてよ」

「いま、友達って言おうとした?」

「空耳ですわよ。それよりも何を考えてますの。死にたいのですか?」

 

 びくっと体を縮こまらせて消沈するパティ。後ろめたさからかようやく想いを素直に口にする。


「ジルちゃんもやっぱり戻ってこないじゃないかって、あれを見てそう思ちゃって、そしたら私もう、あの魔物に攻撃できないよ」


 手が震えがアリアにも伝わってくる。ふがいないライバルの姿に怒りと同時に沸き上がる想いがある。


「だからって立ち止まるのがあなたの友情ですか?」

「えっ?」

「私だったらひっぱたいてでも連れ戻しますわよ」

「……」


 そこでさっきもアリアに助けられたときに頬を叩かれたことを思い出す。

 アリアはよこし魔となったライルを指差していった。


『約束をまもるんだあああ』


「聞こえますか。彼は今も友達の約束を守ろうと戦ってますの。だったら私たちがすべきことなんて分かりきっているでしょう」

「うん、助けてあげなきゃだね」

「ええ、ジルさんもきっとあなたとの約束を守るために戦ってくれているはずでしてよ。友達の想いを信じてあげなさいな」

「うん、……うん。私が間違ってたよ」

「そう、なら戦えるわね」

「うん、私はアリアも大事な友達だって思ってるから、アリアの言葉も信じる」

「なっーー」


 思わず違うと反論しそうなところで2人の間で変化が起こる。正確には2人が装備してるミラクルマギカリングが眩しいほどの輝きを放っていた。


「これって……」


 困惑する2人の前にミラクルマギカリングから少女趣味満載のピンクの柄と精霊結晶でつくられた杖が飛び出し現出する。

 パティとアリアはそれぞれ杖をとり顔を見合わせて苦笑い。


「これはまさしくフレアちゃんの趣味満載の魔導具だね」

「ええ、持つだけで恥ずかしいですわよ」

「でも、分かるよ。これって()()()()魔導具なんだね」

「どうやらそうらしいですわ」


 そこにレナがおそるおそる尋ねる。


「お姉ちゃん、ライルちゃんをどうするの?」

「大丈夫、今なら君の友達を助けてあげられる」


 パティの言葉にアリアも同意する。


 そして、2人は杖を合わせてよこし魔に向けると虹色の煌びやかな空間が広がっていく。大精霊の支配する精霊境界。

 2人は憧れのフィニッシュアタックに胸を躍らせている。


「ここって精霊境界だよね。うわああ、ドキドキだよ」

「でも一体ここは何の大精霊の空間のなのかわかりせんわね」

「この感じ、なんだかフレアちゃんの魔力に似てない?」

「そうかしら? 違うと思いますわよ」

 

 幻想的な空間にレナは目を輝かせて見回している。奥には色とりどりの植物と豊かな自然の大地が見えていて平和な様子が伝わってくる。

 そして、レナもこの世界にあふれる優しい魔力に包まれて確信をもった。

 友達はきっと助けられるのだと。


「お姉ちゃん、ライルちゃんを助けて」

「任せて」


 パティは今度は心からの笑顔ではっきりと応じた。

 アリアとパティは杖に力を送り込むとあふれ出る光が正面に収束し始める。

 2人は心を1つにする。

 救いたい。その思いを乗せて。


「「フィニッシュアタック《ミラクルマギカブレス》」」

 

 善の光のエネルギーが前方を白く染めながらよこし魔に放射されていく。

 圧倒的なエネルギー波を全身に浴びて魔物の体は消滅しライルを閉じ込めていた黒い結晶も砕けて消えた。

 残ったのは確かに息づく少年の姿だ。


 暖かな魔力の光に包まれライルはレナの元に降りていく。

 それをレナが受け止めて抱きしめる。


「お帰り、……ライルちゃん」


 それを見届けたパティとアリアとミュリは3人で手を取り合って喜んだのだった。


 地面にうち捨てられた説明書の最後にはこうある。

『発動は通じ合った友達が心を1つにすること』

 ――そう付け足されてあった。



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