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第23話 魔法少女特訓編 『反撃開始!! ガラン攻防戦』

「フローレア、無事ですか?」


 魔法少女の変身の光が落ち着く頃、ティアナクランが騎士たちを引き連れてやってくる。

 騒ぎを聞きつけたにしては早い到着にフレアは疑問を持った。


「ティアナ? どうしてここに」

「ガラン近郊で巡回の騎士団から無魔襲撃の知らせを受け迎撃態勢を敷くところだったのです。しかし間に合わなかったようですね」


 従っていた騎士団の団長がティアナクランに礼をして仕事にかかる。

 

「殿下、我々は防衛網の構築に移ります」

「わかりました。方針が決まり次第追って指示を出します」


 従っていた赤虎騎士団はすぐに動き出し準備にかかる。フレアの商会のあるこの場所は見晴らしも良く高台にもなっていて陣地を形成するに適しているといえた。

 敵に入り込まれた以上城壁でせき止めるのは難しい。都市内部で防衛ラインを再構成し敵を押しととどめる必要があった。


「マルクス、あなたも来ているのですか?」


 フレアの視界にはマルクスを始めとして魔導騎士科最上級生、上級生たちの姿があった。

 魔導鎧と武器を装備するところから戦いに参加するようである。


「おうよ。この広い都市をカバーするには人手が必要だろ。有志を募って参加することになった」

「実戦ですよ。大丈夫なのですか?」


 有志を募っただけあり30人ばかりだが彼らはやる気に満ちていた。

 表情にも自信と覚悟がみてとれる。

 

「心配すんな、あくまでフォローだ。騎士団が漏らした敵を抑えることになるだろうな」

「それでも今いる敵は新種の無魔です。厄介ですよ」


 そこでレイが話に割って入る。


「嬉しいですね。フローレア様に心配してただけるなんて感激で涙が出そうです」

「ああ、イケメンはどうでもいいので勝手にどうぞ」

「……ああ、違う意味で涙が出そうです」


 フレアの『いたんだ?』という冷たい視線にレイが悲しげだ。

 マルクスはレイを気遣い、肩をたたきながら言う。


「それによ、俺より年下の魔法少女に戦わせてばかりなのは男として面白くねえんだよ。せめて盾役にでもなって活躍しねえと騎士の名折れだろ」


 それにはきょとんとしていたフレアだがにぱっと笑った。


「あはは、だったら魔法少女のために死んでください」

「おい、やるのは盾役であってマジで身代わりになるわけじゃねえからな」

「それはフリですか?」

「フリじゃねえよ!?」

 

 一連の様子を見ていたティアナクランはリリアーヌに尋ねる。


「先ほどまでフローレアが落ち込んでいたように見えたのですか持ち直したようですね」

「それはジルちゃんが……ね」


 風の精霊がいなくなっていることから察した王女はあえて言葉を飲み込んだ。

 リリアーヌはマルクスにちょっとだけ嫉妬する。


(落ち込んでいたフレアっちがあんなあっさり笑うなんてね)


 マルクスはフレアにとって随分と気の置けない友人になっていた。ああも簡単にフレアを笑顔にするなどリリアーヌにはできそうもなかった。

 ティアナクランは敵が迫っていることもあり強引に話をフレアに振った。

 

「この丘を境に防衛ラインを引き、敵の侵攻を防ぎます。民にはここより後方に存在する王立ウラノス魔導騎士学園に避難してもらいます」


 学園は城代わりにもなり得る頑丈な作りをしている。さらには予備役とはいえ、いまだに王国屈指の実力を持つフロレリアをはじめとする教師陣。50人の見習い魔法少女、魔導騎士科の学園生たちたちもいる。

 民の避難場所としては立地の面からも納得の采配といえた。


「敵もなかなかに奇抜な策を用いますね。味方を投げ入れるとは……」


 城壁を乗り越えて投石機で投げ入れられたかのように無魔は空を飛び都市内に侵入する。

 正し、これには味方も着地の際に大きくダメージを負うことだろう。王女は無魔の戦法の心なさに複雑な思いがあった。しかし――――。


「ティアナ、残念ですが無魔に味方の意識があるかは疑問ですよ」

「どういうことですか?」

「先ほど投げ入れられている無魔を倒したのです。……そこに」


 フレアの指し示す先には騎士の()(きがら)が無残に倒れている。その意味を飲み込むとティアナクランは胸にこみ上げる激情を辛うじて飲み込んだ。


「今度の敵は新種です。死人級とでも呼びましょうか。恐らく巡回の騎士の死体を用いて無魔にしたのでしょう」


 周囲の騎士たちはそれを聞いてわずかに動揺が走る。

 なんと卑劣な、と怒りの声があがる。


「耐久力も非常に高く通常であれば致命傷の攻撃を受けてもなお動きます。動きは生前程のキレはないようです。とはいえ反魔の力も存在し、戦闘力は指揮官級に匹敵すると想定します」

「弱点はないのですか?」

「無魔は寄生する性質上、死人級に限っては個体というより人の形をした群体と考えられます。頭を破壊しても動きを止めないでしょう。もし、有効な攻撃があるとしたら……」


 そこでフレアははっとする。ついこの間完成させた魔導具が有効なのではと思いついたのだ。

 ティアナクランもフレアが閃いたであろうことを察した。


「何か策があるのですね」

「ええ、ちょうどいい新装備があります」


 そこに赤虎騎士団の伝令から報告があがる。


「殿下、団長より伝令。既にここより先は新種の無魔が多数徘徊し突破は困難とのことです」

「……分かりました。可能な限りでかまいません。民の救出を急いでください」


 そして、ティアナクランは都市を見渡す。無魔は西門より壁を飛び越えて侵入する。侵入を果たした無魔によって西の城壁付近の住民とは分断。そこは孤立状態にある。

 今の報告は孤立した住民の救出が困難であるとの報告だった。西の城門は駐在する警備兵のみで頑張ってもらうしかない。

 これは非情に厳しい状況であるとティアナクランは判断した。


(孤立した民を見捨てるというの? できるはずがありません)


 救出のために戦力を割けばこの防衛ラインが(ぜい)(じゃく)()する。それでは全てを救えなくなるということは頭で分かっている。

 広い都市内を壁もなく無魔を阻むには少しでも戦力が必要だった。

 それでもティアナクランは決断できない。王女で最強の魔法少女といえどまだ14歳だ。簡単に命を割り切れるものではない。


「わたくしは……」


 命を諦めたくなくて、すがるような視線でフレアを見てしまう。

 フローレアならもしかして……。

 それは都合のいい話だった。それでも気がつくと視線で助けを求めてしまう。

 そして、フレアから返ってくる表情は――――、自信にあふれていた。


「ティアナ、誰も見捨てる必要はありませんよ」

「どうするつもりなのですか?」

「要は安全に死人級の中を突っ切って、大量の住民を運び安全圏に退避すればいいのです」

「それができれば苦労はありません」

「可能です。ティアナも知っているはずですよ。以前乗車したではありませんか」

「まさか《移動魔工房》のことを言っているのですか?」


 それには生徒たちも納得した。金属製の装甲に覆われ、頑丈で、魔導の力で動くそれはうってつけだった。


「死人級の対策もあります。皆さんついてきてください」

「どこに行くというのですか?」


 そこでフレアは思い出したように1度足を止めてティアナクランを見る。


「何ですか?」

「本当は気が進まないのですが緊急時です」

「だから何だというのですか」

「……怒らないでくださいね」


 フレアの不穏なせりふにティアナクランは猛烈に嫌な予感をおぼえつつ後に続いた。G組の生徒たちもまた教官がやらかしたのでは? と王女の雷が落ちないことを祈った。



 フレアが向かった先はグローランス商会敷地内に存在する工場施設の1つ。その見上げるような外見だけでパティは感嘆の声をあげる。


「うわああっ、フレアちゃんって、ほんとお金持ちだあ」


 それにはルージュがふふっと笑う。


「この程度で驚いていたら中で意識を持っていかれるわよ。口はちゃんと閉じておくことを勧めるわ」

「どうして?」

「きっと、あいた口が塞がらないもの」

 

 この施設の中は一体どんな魔境が広がっているのかと生徒たちは息を飲む。

 そしてフレアは自身の胸元からカードを取り出すとスキャナーに読み取らせて声を出す。


「『魔法少女最高』」


 両手を挙げて叫ぶフレアに何事かと思ったが直後、重厚なドアがひとりでに開いた。

 まだ入り口だというのにティアナクランはどこからツッコむべきか判断に迷う。


「……フローレア、今のは一体?」


 王女は実に万能な質問を投げかける。

 

「特定の魔導処理がなされたカードと音声認証によって開く防犯対策です。これがないと中に入れません」

「今の恥ずかしいせりふは必要なのかしら。それに万歳も……」

「恥ずかしいとは失礼な。この施設で勤務する者は皆やってることです。……万歳は私の趣味ですが」

 

 ティアナクランはここで働く者全てに同情し心の中で手を合わせた。

 出入り口の技術だけでも驚かされた一同だが中に入るとまた一層驚かされる。

 廊下を歩いていると横の壁がガラス張りとなっていて工場内の様子が一望できる。その光景にティアナクランたちは思わず足を止めて見入った。


「フローレア、こ、これは何なのですか」


 至る所に見たこともない機械装置があり従業員たちが製品を加工している。

 一方では溶接のために火花を散らしており、また一方では機械が自動で精密機械の回路を作成し、更に別の場所ではベルトコンベアで大量の部品がどこかへと流れていく。

 彼女たちからすれば異世界のように見えるのかもしれない。

 しかし、前世の現代社会で技術者だったフレアからすれば見慣れた光景であった。


「何って工場ですが。ここでは魔導製品を製造しています。移動魔工房もこの工場内の工房でつくられたのですよ」


 パティはルージュに向かって言った。


「うはあ、確かにこれは驚いたよ。忠告されてなかったらぽかーん、てなっちゃってたかも」


 それにはルージュから思いも寄らない言葉が返ってくる。


「何を言っているのかしら。まだ序の口よ」

「へっ?」


 ルージュの言葉は少し遅かったようだ。

 フレアが目的地の扉を開け放つと活気にあふれた作業場が広がる。

 改修されている移動魔工房はもとより先行試作量産型の魔導式自動車が何台も並んでいるのだ。

 

 移動魔工房は全身を分厚い漆黒の装甲で覆い、城門すら突き破りそうな鋭角先端型に形状を変えていた。車輌上部には凶悪なまでに大きな全長20メートルの砲身が取り付けられており、遠距離砲撃型の兵器であることは明白だ。

 しかも後部車輌にも所々に防衛用の魔装銃とおぼしきものがみえる。

 

 見てしまったティアナクランはこみ上げる怒りをどうにかとどめる。そんな自分の忍耐を褒めてあげたかった。


「フローレア、気のせいかしら。移動魔工房に似た車が幾つもあるのだけど」

「ええ、近々流通革命を起こそうと思いまして。安全に素早く人と物を運ぶ道具として商会に導入する予定です」


 えっ、道具? 

 生徒たちに疑問が飛び交う。凶悪な形状と取り付けられている武装が明らかに過剰であり兵器と言われた方が納得の外見だ。

 重厚にして威圧感のある車体の面構えはこれら数台で都市を壊滅できるのではと思わせる脅威を感じさせた。生徒たちはとんでもないことだとすぐに自覚する。

 一方ティアナクランは自身の油断を激しく後悔する。移動魔工房はフレアしか動かせないのだ。まさか量産などあり得ないはずであった。

 

「以前フローレアでなければ動かないと聞いていましたが?」

「それはティアナが以前別荘を運んだ魔法技術、質量操作から着想をえて画期的な省力化が可能となったのです。いやあ、ティアナには感謝ですよ」

「わたくしのせいなの!?」


 今度は過去の自分を叱りつけたい気分に襲われる。

 こんなものが大量に王国を駆けずり回った暁には大混乱が巻き起こることはすぐに分かる。王都にいる魔技研の技術者が見れば衝撃のあまり正気を失うことも考えられた。


「きちんと釘を刺しておくべきでした。フローレアに砂の一欠片でも自重を期待するのは誤りだということなのですね」

「……なにやら酷いこといいますね」

「これを混乱なく世に知らしめるのに一体どれだけの根回しと法整備に、民の周知の徹底が必要か分かりますか? お父様の胃に穴が空いたらどうするのです」

「その辺はお任せします。頑張って、としかいえません」

 

 フレアの言葉を受けて誰もが理解した。好き勝手開発しておいて事態の収拾は王族にぶんなげたのだと。

 いろんな意味で硬直する一同。その中で工房の技術者たちは周りなんて関係ねえと言わんばかりに自身の作業に集中していた。


「おい、何してやがる。工具は大事に扱え、解体した部品はネジ一本たりともなくすんじゃねえぞ。俺たちの仕事が現場の生死に直結するってことを頭にたたき込みめやっ!!」

「すいません、工房長」


 そして、工房長と呼ばれた中年の男は通りがかった新人にどなりかかる。


「ふざけんなよ。ボルトはしっかり締めろってあれほど言ってんだろうがっ、てめーの締め方は緩いって何度いやー分かりやがる」

「ひい、すいません」


 監督者の罵声。

 金槌の打ち付ける音。

 漂う熱気と油の匂い。

 戦場のように張り詰めた空気。

 ここに来るとフレアは思わずテンションが上がってしまう。

 フレアは生き生きとした表情で工房長のもとに向かった。


「工房長、こんにちは」


 フレアが軽い口調で挨拶すると(いか)つい中年が振り向いた。

 いかにも頑固親父風の男がフレアと対等に話す。


「おう、姫嬢ちゃんか、今日はどうした。どんな無茶ぶりを聞かせてくれるんだ」

「いきなり御挨拶ですね。まあ、移動魔工房を使いたいのですぐ準備してください。強襲輸送仕様で輸送車輌10連結と武器格納庫8番仕様車を10分でつないで用意して下さいね」

 

 にこりと可愛い笑顔で恐ろしいほどにタイトな要求だった。それには工房の技術者たちがざわついた。

 まじかよ、など悲鳴にも似た声が響く。

 だが工房長がすかさず急かす。


「お前ら、すぐに取りかかれ。姫嬢ちゃんのオーダーだ。どんな無茶ぶりでも応えるのがプロってもんだ」


 特に若い衆は悲鳴を上げながら急いで取りかかる。工房の従業員は一気に殺伐とした雰囲気に変わり、死ぬ気で取りかかり始めた。

 

「無茶ぶりって、一応ギリギリ可能な範囲で言ってるはずですが」

「そのギリギリ具合が絶妙すぎるのが姫嬢ちゃんの怖いところだぜ。自覚しな」

 

 そして、フレアの後ろにいる魔法少女たちを見て工房長は王女がいることに気がつく。


「で、強襲輸送仕様とは物騒だな。何があった」

「それはですね……」


 フレアは手短に状況を説明すると工房長の反応はあっさりしたものだ。


「なるほどね。まあ、俺らは俺らの仕事するだけだ」

「ずいぶんとドライなのですね」


 王女に言われようが工房長の姿勢は変わらない。


「そうだ、それぞれ人には役割がある。俺たちにとっての戦場はここだ。ここで作り上げる道具が人類を支える。その誇りを胸に俺たちは工具を武器に戦っているんだ」


 その言葉に王女は納得する。


「そういうことでしたか。それでしたらこれからもフローレアの力になってあげてください。それが国のためになるでしょう」

「その言葉、後で部下たちにも伝えさせてもらうぜ」


 その後、しみじみとティアナクランは言う。

 

「フローレアの相手は大変でしょう。本当に頑張ってください」

「ああ、姫嬢ちゃんはマジで容赦ねえからな。同時にやりがいもある。王都でもこれほどの技術と設備にはありつけねえ。ここに来て良かったぜ」

「あなたは元王都の技術者だったのですか」

「ああ、殿下のまえで言いたくはないが王都の魔技研はクソだ。保身と権力争いばかりで新しい技術なんて到底出せる環境じゃねえ。出る杭はうたれる。あそこはそういう魔窟だよ。ここにいる連中はそういうのが嫌で飛び出した奴ばかりだ。拾ってくれた姫嬢ちゃんには感謝してるよ」

 

 工房長の言葉にティアナクランは耳が痛かった。魔技研の腐敗ぶりは国王も頭を悩ませているところだが現状は思っていたよりも深刻だと認識を改めた。

 だが今は目の前の危機に対処する方が先である。

 移動魔工房の先頭車両の後部には次々と人員輸送専用の車輌が並べられ必死の連結作業が行われている。


「工房長、確か依頼していた試作兵器の中に《MMK5》がありましたよね」

「おう、まだ反動が強くて使えたもんじゃねえぞ」

「かまいません。それと車輌の擬装には試作の浄化魔鋼弾を装填してください」

「また、無茶言いやがる」

「加えて生産中のフィニッシュアタック用の魔導具をここに集めてください」

「あれか、あれが、必要になるときが来たか」


 工房長はぼやきながら近くの作業者に声をかけて用意するように指示を出す。

 その一方でティアナクランは聞き捨てならない言葉を聞いた。


「フローレア、今フィニッシュアタック用の魔導具と言いましたか?」

「ええ、それが何か?」

「初耳なのですが」

「あれ、言いませんでしたっけ」

「フローレア、この戦いが終わったらお説教ですよ」


 お説教。フレアはそれだけで顔が青ざめてガクガクと震え出す。


「お、怒らないでって言ったのに」

「怒らないとも約束していませんが」


 2人のやりとりを見て工房長が豪快に笑う。


「がっはは、なんだあ、姫嬢ちゃん。まるで嫁の尻に敷かれている旦那みてえじゃねえか。俺とかみさんのやりとりにそっくりだぜ」


 それにはフレアが非情に嫌そうな顔をする。

 だがティアナクランの方は顔を赤くして黙り込んでしまった。それを幸いにとフレアはうやむやにすべく持ち込まれた魔導具の説明を急ぐ。

 その魔導具の形状は腕輪のようになっていた。


「これは腕に装着して使用してください。装備者の魔法にわずかながら浄化の機能を持たせることが出来ます」


 それにはアリアが質問する。


「教官、先ほどから聞こえる浄化というのはどういうものなのですか」


 いい質問ですと頷くとフレアは授業のように説明を始める。


「浄化とは無魔特攻の特殊属性であり、反魔の力を正常な力に清める効果があります。魔法少女のフィニッシュアタックでは必ず現れる現象です。まだ完全に無魔に取り込まれていない生物は元の姿に戻せるという効果も期待できます」


 フレアの言葉に周囲がざわつく。フィニッシュアタックはある意味魔法少女の憧れであるからだ。だからこそ興味津々のパティが質問する。


「フレアちゃん。これをつければ私たちでもフィニッシュアタックができるようになるの?」

「ええ、理論上は。これは複数の魔法少女によって発動するタイプなのですがあいにくと使い方を練習しているほどの余裕はありません。今は緊急時です」


 ルージュが身体強化で重量感のある身の丈以上の長距離狙撃用魔装銃《MMK5》を持ち、フレアが浄化魔鋼弾を収めたケースを持って外に向かって歩き出す。


「工房長、車輌は準備ができ次第、外の店先に待機させてください」

「おう、まかせな」

「皆さんは腕輪をつけたら1度外に出ましょう。反撃に出ますよ」


 フレアが一体何をするつもりなのか分からず生徒たちは顔を見合わせながらも後に続いた。

 

 

 外では既に逃げ込んでくるガランの住民と追い立てる死人級。その無魔から守る騎士たちが戦闘に入っていた。耳を塞ぎたくなるような武器と命をぶつけ合う喧騒が鳴り響く。

 逃げ惑う住民の悲鳴と死人級のおぞましさがなおさら恐怖をまき散らす。

 そのような中でフレアはマルクスを探して呼びつけた。


「マルクス、頼みがあるのです。手伝ってください」


 人々の盾になって戦う隊列から抜けてマルクスはやってくる。


「どうした?」

「敵の後続を断ちます。力を貸してください」

「力?」


 フレアは地面に三脚台で固定した《MMK5》を持つと構える。

 照準器をのぞき込みレンズに表示された情報を読み取る。


「弾道修正システム問題なし」


 フレアの手には余るような長さの銃弾をケースから取り出し細長い銃身の魔装銃に(そう)(てん)する。


「マルクスは後ろから私を押さえてください。反動が凄いので私では吹き飛ばされてしまいます」

「マジかよ。年下を抱き留める趣味はねえんだけどな」

「これで活躍すれば年上の美女に言い寄られるかも知れませんよ」

「よし、やるぞ。ガンガン撃て、フローレア」

「そのつもりです」


 フレアは飛来する新たな死人級を照準器におさめると引き金を引いた。大気を震わせる大きな音とともに銃身が火を噴き猛烈な勢いで弾丸が発射された。


「――――っ!!」


 あまりの反動に銃を構える右肩がしたたかに打ち付けられ激痛がフレアを襲う。

 周囲にそれを悟られないようにフレアは歯を食いしばり必死に耐えた。

 同時にマルクスは簡単に反動に耐えてみせた。マルクスは身体強化にかけては学園でもトップクラスだ。そのためフレアはマルクスを指名したのだ。


「すげえ反動だな、おまえ大丈夫か」

「心配いりません。続けますよ」

 

 そして、軌道を魔法制御された砲撃は目標に向けて風の魔法で微調整しながら吸い込まれるように空中の死人級に命中する。

 すると死人級に風穴が開いて地面に落下した。

 落下した死人級はルージュが双眼鏡を取り出して確認していた。


「フレアさん、命中よ。死人級の沈黙を確認したわ。浄化の力で着弾と同時に無魔の感染は取り払われている。予想以上に効いてるわよ」

「……それは、なによりです」


 浄化の力が死人級に効く。それを聞いた生徒たちが歓声を上げる。


「凄いよフレアちゃん。あんなに遠くの、それも飛んでくる無魔を撃ち落とすなんて普通無理だよ」


 距離にして2キロ以上ある空中の無魔をフレアは続けて撃ち落としていく。それは素人目に見ても神業に思えたことだろう。フレアが20を撃破する頃には投げ入れられる死人級はなく後続が途絶えたのである。


「敵の後続が本当になくなった?」

「思った通りやみましたね」

「フローレア教官、どういうことなんですの」


 アリアの疑問にフレアは説明する。


「投げ入れられてくる死人級は同じ方向、同じ地点から順々に飛んできます。それでおもったのです。投げ入れてくるそれは恐らく1つなのだろうと。ならば一度完全に意図をくじくことで敵は諦め次の手を打ってくると考えたのです」

「そうか、このままではいたずらに戦力を喪失するだけですものね」


 周囲が感心している中でフレアは指摘する。


「ですが気を抜いてはいけません。先も言ったように敵は次の一手を打ってくるでしょう。この隙に避難を速やかに完了させ都市内の敵を殲滅します」


 フレアの活躍にティアナクランがこの中で一番胸を熱くした。


(やはりフローレアは頼りになります。これで本当に正体が殿方だとしたらわたくしは……)


 以前に見たフレアの謎の記憶。そのことを思い出すとやはり顔が熱を帯びて赤くなっていく。それは工房長にフレアとのやりとりを指摘されたときの熱と同じだった。

 だが新たに入った伝令兵の報告によって現実に引き戻される。


「報告します。たった今西の城門が、……巨大な人型の無魔によって破壊されました」


 フレアははっとして照準器越しに破壊された西門を確認する。


「な、何ですか。あの巨大な無魔は? また新種ですかね」

 

 ティアナクランも双眼鏡を取り出しそれを確認する。


「真正面からの力業ですか、また厄介な敵がでてきたようですわね」


 それは純粋種の無魔ガリュードのほんの力の一端に過ぎない。

 ――戦いはまだ始まったばかりだ。



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