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第22話 魔法少女特訓編 『死人級の脅威』

「活きのいい死体が転がっているのね」


 反魔妖騎シンリーはその妖艶の唇を舌で一なめする。

 目の前にはガリュードが壊滅させた騎士団の亡骸が無造作に転がっている。


「ちょうどいいわ。グラハム様復活のためにもあなたたちには協力してもらいましょう」


 シンリーは邪悪な自身の力を周囲に振りまき、黒い雪のような物を降らせていく。


「よほどのクズじゃない限り人間を簡単には無魔に出来ないけど死んだ直後ならどうかしらね」


 死したことで魔力を失いつつある騎士の亡骸に無魔が侵食し寄生する。

 すると死んだはずの騎士たちがゆっくりと起き上がっていくのだ。

 その姿はまさに活きる屍、ゾンビのようでありみるものを恐怖させることだろう。


「ふふ、あはははは。これを見た人間どもの顔が目に浮かぶようだわ。せいぜい恐怖を、(えん)()をまき散らすといいじゃん。それが大地の加護を弱め、グラハム様の復活の糧となるのだから」


 シンリーが扱うこの技能は他の純粋種の無魔も毛嫌いする。しかし、彼女は(ちゅう)(ちょ)しない。

 目的のためならば手段を選ばない非道ぶりをグラハムに見いだされた。

 死したとはいえ騎士たちの崇高なる心はわずかに残っている。体は操られるがわずかに拒絶のうなりを上げつつ彼らはガランに向かって歩く。

 それがまたあまりにも残酷であった。


「嫌なの? でも人間がどうなろうと知ったことじゃないしーー、せいぜい私の役に立ちなさい。あはははは」


 反魔五惨騎で最も残虐かつ(こう)(かつ)なシンリーもまたガランに向かって動き出した。




 交易都市ガランは北方の物流が集中して行き交うため活気にあふれる重要な拠点となる。この都市を起点として多くの特産品や加工品が国内各地だけでなく共和国や帝国にも出荷される。

 両国とも食糧は常に不足しており、ブリアント王国北方で豊富に生産される農畜産物などは彼らの需要を満たすため注目を集めつつあった。


 お金が活発に動くということはこの都市が豊かにする。この地でもっとも大きな店を構えるのはフレアが経営するグローランス商会の支店。グローランス商会はもはやその規模が異次元であり、窓口となる店の他に工場や幾つも連なる倉庫が隣接し商品を管理している。

 フレアは物流も重視しており物をいかに安全に素早く届けるかを追求した結果、配送業者を独自に創設して新たな産業をつくる。またも大きな利益を生んでいた。


 ガランがこれほどの賑わいを見せるのはグローランス商会が出来てからである。都市の住人はフレアのことを領主以上に尊敬し慕い、いつの間にか《姫ちゃん》などと愛称で住民たちに呼ばれるようになった。

 今日もフレアが街中を歩くと露天の店主たちが声をかけてくる。


「おう、姫ちゃんか。生きのいい魚が揚がってるぞ。買ってきな」

「なにおー、女の子はやっぱり果物だろ。こっちはみずみずしい梨が入荷してんだぞ」

「いや、ここは肉だろ。たくさん肉くって成長してもらいてえだろうがっ」


 最後の肉屋の店主に周囲は、ああ~~と納得する。

 彼らは発育残念なフレアの体を見て哀れみの視線を向けた。


「超可愛いんだがなあ」

「成長しねえなあ」

「もったいない」

「うるさいですよ!?」


 ちょっと傷ついたフレアは怒りやるかたない。

 怒りを引きずって少し先を行くとまたも声をかけられる。

 

「あら、姫ちゃん。今日はお買い物かい。だったらたくさんおまけするから買っていきな」


 野菜を取り扱うお店のおばちゃんがフレアに声をかける。


「いえ、今日は課外実習に来てまして。これでも私は学園の教官なのですよ」


 ふふんと胸を張るフレア。おばちゃんは微笑ましくそれを見守る。

 

「そうかいそうかい、偉いねえ」


 フレアが教官だと信じてはもらえず子供にするように頭をなでられる。


「ふみゅ、信じてもらえません」


 それというのも幼女にも間違われる小柄な体型が原因なのだろうと肩を落とす。

 

「あら、教官。少しお聞きしたいことがございますの~~」


 どこかおっとりした声がフレアにかけられる。

 その声の主はで18歳でも通用しそうな身長と豊満な巨乳を持て余し、ぽよんぽよんとダイナミックな絵で駆け寄ってくる。

 フレアの生徒でクラス最年長の13歳。西の侯爵家クラインのお嬢様、リリィサラである。クラスでは親しい者からサリィの愛称でよばれ、穏やかな性格から精神的な癒やし要因となっている。


「姫ちゃん。引率の先生が迎えに来てくれたみたいだね。はぐれちゃ駄目よ」

「私が先生なのですよ!?」


 サリィの美しくもメリハリのある体型と容貌に周囲の男性陣は視線を集中させていく。

 それに気がついたフレアは睨みをきかせる。


「ああ!? 去れ、男ども。じゃなきゃ潰す」


 この都市の実質的な最高権力者がフレアだと分かっている周囲の男たちは慌てて視線をそらしては逃げて行く。

 それを見ておばちゃんは溜め息交じりに言った。


「男どもはしょうがないねえ」

「あ、あははは、お騒がせしまして申し訳ありませんでしたわ~~」

「いいんだよ。今度落ち着いたら買い物に来ておくれ」

「ええ、そのときはよろしくお願いしますわね~~」


 サリィはぺこりと謝るとフレアの手を引いて歩き出した。

 

「ふふふ、教官は慕われているのね」

「ずいぶん失礼なことも言われましたけどね」


 フレアは恨みがましい目でサリィの大きな胸をみる。


(私もママの娘。きっと、いつかは大きくなるはず。それまでの我慢です)


 そうすれば発育不良をネタにされることもないはずと自身に言い聞かせた。


「それよりも教官、これの使い方のコツを教えてもらえるかな~~」


 サリィの取り出したのは生徒たちに支給した懐中時計型の魔導具である。

 フレアにかがみこんで抱きついた。


「わぷっ、息が出来なくなります。……わざとですか。もしそうなら私に対する宣戦布告ですか?」


 力一杯サリィの胸を押し返すフレアにサリィは首をひねり不思議そうに返す。


「宣戦布告? そんなつもりはなかったんだけどね~~」


 仕方ないとばかりにサリィはふわっふわっなフレアの髪を愛でる。


(そういえばサリィさんは他の生徒ともスキンシップが激しかったですし悪気はないのでしょうね)


 そして、フレアはサリィの手にある魔導具を見つめる。

 その魔導具の名は《精霊時計》。

 これは精霊の感知を助けるために開発したものだ。福音魔法習得のための補助器である。

 フレアは自分の精霊時計を手にもう1度説明する。


「この精霊時計は持っているだけで魔力受容体を活性化させ精霊感知のための器官を成長させるように設計しました」


 そして、懐中時計を開くとレンズがたち上がる。それをのぞき込むようにしながら周囲を見る動作をやってみせる。


「そして、このレンズを通して精霊を視認することが出来ます。精霊の居場所と自身の精霊の認識を確信することで、福音魔法の感覚を掴む。今回の課外授業は都市に潜む精霊を視認しあわよくば友達になっていこうという趣旨なのです」


 それにはサリィが頷いた。


「それは分かっているのだけどなぜか私のレンズには精霊が映らないの」

「不良品でしたか? 動作確認はしてあるはずですが」

 

 フレアは貸してくださいと手を出すとサリィはフレアを後ろから抱きしめてレンズを見せる。


「ねえ、教官。見えますか?」

「……なぜ抱きつく必要があるのですか?」

「まあまあ、いいから、いいから」


 押しつけられる胸に対して嫉妬と怒りを抑えながらも不承不承フレアはレンズをのぞき込む。

 すると元気に飛び回って見える精霊たちがしっかりと視認できた。


「ちゃんと見えますけど?」

「おかしいなあ、私が見ると」


 サリィがフレアに顔を近づけてのぞき込むと精霊たちは慌てて視界から消えていく。


「ねえ、やっぱり見えないよ~~、どうしてなの~~」


 これにはフレアも不思議に思うが精霊たちの様子から納得がいった。きゃっきゃと笑いながら逃げる精霊たちをみてかくれんぼで遊んでいるのだと気がつく。


(サリィさんは大らかな雰囲気がにじんでいますからねえ。精霊たちも子供のように甘えているのでしょう)

 

「サリィさん、精霊さんたちに呼びかけてください。かくれんぼしようって。そうすれば皆喜んであつまってきますよ」

「あらあら、子供みたいね」

「実体を持たない若い精霊は大抵無邪気ですからね」

「それなら仲良くなれそうだわ~~、ありがとう~~」


 原因が分かり、呼びかけると集まる精霊たちをみてサリィは更にフレアをぎゅっと抱きしめる。

 そこに妙に冷めた声がフレアの背筋を刺し貫く。


「フレアっち、何してるの?」

「あら、教官補佐。どうしたの~~」

「そろそろ学園に引き返していこうと思うの。ジルちゃんのお別れ会をするから早めに帰らないとでいけないっしょ」

「ああ、そうでした。ジルさんの実体化は今日が限界ということでしたね」


 サリィは仕方ないと集まった精霊たちにまた今度遊ぼうと告げる。

 気がつけば都市の城壁外周付近にまで近づいてしまっていた。


「皆さんはどこに?」

「この先に立派な教会があるわ。その前で待っているわよ」


 リリアーヌに連れられてたどり着くとパティがフレアをせかす。


「もう、遅いよフレアちゃん。はぐれちゃ駄目」

「うぐ、ごめんなさい」


 そこでジルがフレアのそばに飛んできて抱えているプチケーキを見せる。


「ねえ、見てよ。フレアちゃん、買ってもらったんだ。凄く美味しいの」


 見ればプチケーキは少しだけかじった跡が見られる。小さなジルではプチケーキでも大きく見えてしまう。


「プチケーキ、ということは私の商会の商品ですか」

「うん、1度食べてみたかったの。ふふ、これも精霊の皆に自慢出来るかな」


 ジルの言葉はふと別れを連想させるものだった。それだけで仲良くなりつつあった生徒たちの表情は陰りを見せる。

 それはジルも一緒で声に元気がなくなった。

 それをみてフレアは皆に申し訳ないことをしたと反省する。

 

「すみません、私の都合で呼び出してしまって」

 

 フレアは浅はかだったかもしれないと謝った。心優しい魔法少女たちと精霊が仲良くなり別れ難くなることは予想できたはずだったのに。フレアは考え及ばず落ち込んだ。


「いいんだよ。むしろ呼んでくれてありがとうだね。すっごく楽しかったよ。だからいつかみんなが凄い魔法少女になったら私を契約精霊にして欲しいな。帝国のやり方は一方的に従わせるだけだけど皆はそんなことしないもん」

「ジルちゃん」


 既に涙目のパティがジルに泣きついた。


「うん、絶対だよ。絶対、ジルちゃんと契約する方法見つけるからね」


 そこでフレアに視線が集中する。


「ええ、精霊と対等の契約が出来る新しい契約精霊のシステムを私はいつの日か見つけて見せます。それまでのお別れです」

「うん、それならドントウォーリーだね。お別れじゃないよ。福音魔法でいつでもつながることは出来るから。みんなのこと見てるからね」


 どうもしんみりしてしまった雰囲気を変えるためフレアは手を叩く。


「では私の商会支部に参りましょう。あそこにはあらゆる物が集まります。そこで買い物をして美味しい物をたくさんつくってあげますよ」


 それには生徒たちが活気づいた。

 諸手を挙げてしまいそうなはしゃぎぶりにジルはパティに聞く。


「一体何事なの?」

「ジルちゃんは知らないか。フレアちゃんって凄い料理得意なんだよ。しかも見たこともないような料理たくさん知ってるんだから」

「うわああ、楽しみだなあ。今からわくわくだよ」

「うん、食べたらハッピーな気持ちになれるよ」


 生徒たちが騒ぎながら引き返していく中で突如フレアとルージュが同時に城壁の方を振り返る。

 まるで刺すような殺気と悪意が2人の体を突き抜けた。


「どうしたの? フレアっち」


 リリアーヌは不思議そうにしているとルージュが冷めた目で言った。


「ピアスコート、あなた今の殺気に気がつかなかったの?」

「殺気!?」

 

 一気に緊張で体をこわばらせつつ周囲に気を配る。


「……今のところ何も感じないけど」

「ですね、すぐにひっこんでしまいました」

「フレアさん、どうするの?」

「一応この都市を守る騎士団に警戒を促しましょう」

「分かったわ」


 ルージュが視線を視界の外れに移すと路地裏に隠れ控えていた渡り商人が意を受けて去って行く。


「何も起きないといいのですが……」


 フレアたちは今度こそその場を後にしていった。


 

 一連のフレアとルージュの対応を遠く上空にいるシンリーが驚きの表情で見る。


「たいしものね。この距離から私の殺気を感じ取るなんて。攻撃はもう少し離れるのを待った方が良さそうじゃん。城壁にたどり着く前に迎撃態勢をとられたら面倒だしーー」


 シンリーは眼下に広がる死人級ともいうべき騎士団のなれの果ての部隊と、適当に調達した兵卒級の部隊を見やる。

 その数は大隊規模でありシンリーは侵攻のときを思うと興奮で体を震わせ自分を抱きしめる。


「ああ、楽しみ。人間どもの泣き叫ぶ姿が早く見たいわ」


 すぅーーと地面に降り立ち着地するとそばにガリュードが立っている。


「お前までやってくるとはな。シンリー」

「グラハム様の命令じゃん。悪く思わないで」

「かまわん、こうして捨て駒を用意してくれたのだからな」


 ガリュードは精霊の加護にあふれるガランを禍々しいものを見るように睨む。

 加護に穴を開けるにはそろえた軍勢は都合が良かった。


「ただでさえこの地は力を制限されておるのだ。単身乗り込んでも少々面倒であったわ」

「ええ。あなたの戦いの邪魔はしないわ。私は別任務があるし」

「ふむ、では存分に暴れさせてもらおうか」



 フレアの計らいで支部の店舗の一角を貸し切り、パーティの準備に生徒たちは忙しい。フレアはジルに対してのお詫びも込めて特に力を入れ料理に取りかかる。

 ジルは自分を歓迎してくれて、そしてこんなにも一生懸命に送り出そうとしてくれる人間を暖かい気持ちで見守っていた。


「胸が熱くなる。これ、私のためにしてくれてるんだ」


 そう思うとジルの涙腺は既に緩みそうだ。全員で一生懸命に部屋を飾り付けていく姿だけでジルは胸が一杯になる気がした。


「これからも皆のために私、力になるからね」


 たとえ実体を失おうとも、ふれあうことは出来なくなっても魔法を通じてつながっていられる。奇跡の力で手を貸してあげられる、ジルは心に決めていた。


(精霊の皆に伝えたいな。人間と精霊は友達になれるんだってことを)


 帝国の契約精霊のこともあって精霊には人間に不信感を持つものも多い。それでもここにいる人間は違うのだとジルは世界中に伝えたかった。


 そんなときだった。

 まるで幸せを切り裂くような悲鳴が外から上がってきたのは。


『いやあああーーーー、無魔よ。みんな逃げてーーーー』


 その声に生徒たちは手を止めて揃って外に出る。広い路地に出ると既に住民たちは避難のため逃げ出していく。


「一体何があったのです」


 店先の店員にフレアが尋ねると。


「無魔が、無魔が空を飛んでこの都市に攻め込んで来てます」

「無魔が空を飛ぶ?」


 フレアを始め生徒全員が驚いてそれを聞く。店員は更に城壁の方を指差した。

 全員が指し示す先を視認すると確かに空を飛んで何かが放物線を描いて飛んでくる。

 それは飛翔してくるというよりも、何かに放り投げられているといった方が適切かもしれない。なぜなら、これは死人級の騎士をガリュードがその豪腕でもって城壁の外から投げ入れいているのだ。


 その一体がパティのすぐそばに着弾する。

 それはゆっくりと起き上がると生徒たちは悲鳴を上げる。


「ひっ、なんなのこれ」


 体に欠損が見られる無魔。まるでゾンビのような不気味な挙動。

 何より人間の魔導鎧を着ている。それが何を意味するのか薄々気がついた面々は硬直する。

 起き上がった死人級の騎士ははじかれたように跳躍し剣を振りあげてパティに襲いかかる。


「い、いやああ」


 変身もできず、見た目の恐怖と、人間なのでは? そんな疑念がパティの冷静さを奪っていた。

 突然のことにフレアもパティを救おうと動くが間に合わない。

 そこに小さな精霊が割って入る。

 パティを突き飛ばして死人級の邪悪な力を纏った剣に背中を斬られてしまう。


「――っ、ジルちゃん!!」

 

 悲鳴に近いパティの悲鳴が上がった。痛々しい声は生徒たちを金縛りから解き放つ。


「このおおおっ、なんてことを」


 フレアはこの敵が一体何なのか。素早い頭の回転から正解を既に導き出していた。

 それでも魔法少女を、いや、友達の精霊を攻撃されフレアは躊躇せず魔導銃の引き金を引いた。

 1発で反魔の障壁を破壊し、2発、3発と砲撃を浴びせかけてもフレアの銃声は鳴り止まない。


「フレアっち、そこまでしなくても」

「いいえ、私の予想が正しいのならまだです」

 

 既に数発魔法砲撃を受けたのにもかかわらず……、銃創から無魔の特色の肌が消えていくにもかかわらずその無魔は消滅しない。まだ動こうとしていた。

 フレアの砲撃が10発に及ぶとようやくそれは動きを止めて地面に倒れた。


「うそ、なんで消滅しないの」


 しかも、なぜか撃たれている無魔からフレアに向かって『殺してくれ』とおぞましい声がもれ聞こえる。それがまた恐怖を増長する。

 後には人の亡骸が残っていた。生徒たちはその異常性に気がつき体が震えた。

 

「その魔導鎧、見たことがあります。この都市を守る白狼騎士団のものです」

「じゃあ、フレアっち、今攻めてきているのはまさか……」

「元々の体の破損状態からおそらく死体を無理矢理無魔にしたのでしょう。なんて卑劣な……」


 フレアは拳を強く握りしめてこれを成した無魔に強い敵意を抱く。

 そんな中でパティの悲痛な叫びが響く。


「ジルちゃん、お願い、しっかりしてーー」


 パティが表情を悲しみでゆがみ、あふれるような涙をこぼしながら両手にパティをいだく。


「ユーナ、お願い。治癒魔法をかけて」


 パティの(こん)(がん)にユーナは首を左右に振る。ジルの体は既に透き通り消え始めていた。もはや手の施しようがない。


「駄目よ。もうどうしようもない。それに体の構造が分からない精霊に下手な治癒はかけられないわ」

「そんな、そんな、あんまりだよ。これからみんなでジルちゃんを送り出してあげるって、せっかく、せっかく……うわあああああ」

 

 嗚咽しそうなほどに悲しむパティに弱々しくジルが目を開けた。


「泣かないで、私、皆の思いたくさん受け取ったよ。凄く嬉しかった。短い間だったけどすごく幸せだった」

「でも、でも……」

「大丈夫、私は死なないよ。ちょっと時間かかるかもだけど、それでもきっとパティちゃんの元に戻るから、だから悲しまないで」

「や、約束だよ」


 震える手で小指を出すパティにジルはその小さな小指をふれあわせるといった。


「……約束……した、から」


 ジルは一筋の涙を残して消滅した。予期しない突然の別れに生徒たちは悲しみを抑えることができない。

 そんな中でアリアが怒りの声を上げる。


「許しませんわ!!」


 怒りに震えるアリアに全員が注目する。

 

「……絶対に許さない。死者を冒涜し、わたくしたちの友達を奪った無魔を絶対に許しはしませんわよ」

 

 G組の面々は心を1つにして戦う決意を固めていく。

 すると、周囲には幻想的な魔力の七色の光が広がっていく。


「これは一体なんですの」


 困惑するアリアにフレアが言った。


「皆さんはどうやら精霊たちを光として視認できるようになったようですね」

「これは精霊なんですの?」

「ええ、ジルさんのことを見ていた精霊たちも皆さんに力を貸してくれようとしています。いまならかつてない強力な魔法を。そして無詠唱の上限も上がったはずですよ」


 涙を拭い、パティは立ち上がる。こみ上げる悲しみを力に変えて大地にしっかりと足を踏みしめる。


「アリア、やろう。私たちの特訓の成果を見せよう。今の私たちなら指揮官級だって倒せる。皆でこのガランを守るんだ」

 

 パティの言葉に生徒たちは一斉に魔装宝玉を手に取った。


「ええ、わたくしたちは魔法少女。悪は絶対に許しませんわ。

 ――皆さん、変身ですわよ」

「「「変身(トランス)魔装法衣(マギカコート)」」」


 卑劣な無魔の奇襲に魔法少女たちが立ち上がった。まるで魔法少女たちの決意を表すかのように巨大な変身の余波が空高く広がる。その魔力光がガランの人々の目にとまる。

 ガランに魔法少女あり。

 そのことを民に示し希望を与えるかのように強く、強く光り輝く。

 

 交易都市ガランを舞台に他の学園生マルクスたちも巻き込んで新たなる強敵たちとの激戦が始まろうとしていた。


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