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第16話 王都防衛編 『魔法少女の長ティアナクランと無魔の将グラハム』

 グラハムの登場に張り詰めた緊張が広がる。魔法少女の生徒たちはグラハムの威圧を感じとり体が萎縮して動かない。

 動けば死ぬ。

 そんな強迫観念が心を占めていた。

 支配者級と比較されグラハムは不機嫌そうに鼻を鳴らす。

 

「ふん、指揮官級と俺ではまるで違う。一緒にしないでもらおうか」


 リリアーヌすら迂闊に動けない中でフレアだけが前に出る。フレアは会話を認められているのは自分だけなのだろうと気がついていた。

 

「つまりあなたが無魔の上位種である。そう判断して良いのですね」

「その通りだ、人間の救世主」

「救世主?」

 

 フレアは自分のことなのかと眉をひそめる。

 そんなフレアに大仰な仕草で礼をする。

 

「初めてお目にかかる。俺の名はグラハム。純粋なる無魔。貴様らにあわせて呼称するなら支配者級と言うべきかな」

「支配者級……あなたが全ての無魔のトップということですか」

「残念ながら違う。そう名乗りたいところだが御神帝の耳に入れば俺は消されるだろう。まあ、これも貴様らにあわせていうなれば貴族が一番しっくりくるだろう」

 

 それを聞いていた生徒たちはショックで青ざめる。目の前にいるグラハムだけでも絶望的な力の差を感じていた。それなのに御神帝という上が存在するいう事実。それは彼女らの心を折りそうになる。

 そんな中、まるで臆した様子もなくフレアが問いかける。

 

「今姿を見せたのは私を殺すためですか?」

「そうしたいのはやまやまだが気が早いな。今回は挨拶といったところだ」


 フレアはグラハムの言い回しに違和感を覚える。

 

(『そうしたいのはやまやま』?)

 

 グラハムは翼を広げて一気に上空に上がると手のひらを王都に向けて反魔の力を集め出す。轟々とおぞましい力の胎動を予感させる塊は今球状になり急速に育ちつつある。

 

「何をする気ですか。――まさか王都を狙って!?」

「そうだ、貴様らブリアント王国に宣戦を布告する。これはデモンストレーションのようなものだ。無魔の力を思い知りたまえ」

「させない」

 

 リリアーヌの風の魔法剣。兵卒級の無魔を一度に200なぎ払った強力な剣閃がグラハムを襲う。だが。

 

「そんなっ」

 

 リリアーヌの攻撃はグラハムの強大な反魔の力に阻まれびくともしない。

 

「リリアーヌ教官補佐のあの攻撃が効かないなんて」

 

 アリアは信じられないと顔色が青くなっている。

 

「リリー止めてください。西門を破壊したのもきっとあいつです。あの力の収束ははさっきの砲撃よりも強力ですよ。あれでは城下が壊滅してしまいます」

「だめ、フレアっち。相手の守りが堅すぎる。アタシの接近戦奥義でもないと通じない」

 

 リリアーヌは接近戦タイプ。しかし、空高く滞空するグラハムに対して相性が悪い。

 そうこうしている間にグラハムのおぞましい砲撃が放たれた。


「絶望と恐怖を振りまくがいい。人間ども」

 

 そんなとき一際響く声が上がった。

 

「させません!!」

 

 グラハムの砲撃にブリアント王国最強の魔法少女ティアナクランが立ちはだかった。王女は既に変身を完了し、フレアからもらった杖を持って魔法を展開した。

 

「なに!?」

 

 グラハムは虚を突かれた形だ。王都中を覆うほど光の守護障壁を素早く張り巡らしたティアナクランはグラハムの攻撃を受けきった。

 余波が飛び散り拡散する反魔の力。障壁にはじかれ王都の外に広がり各地で大爆発を巻き起こす。

  

「すごい。すごいよ。あれが王女様の力……」

 

 興奮した様子でパティは西門前に堂々と立つ王女をたたえた。

 全身を白が基調のドレスで身を包み高貴にして神聖な出で立ちの魔装法衣。

 遺跡で発見された光属性の後期型魔装宝玉ライトニングジュエルはいまティアナクランの胸元で力強い輝きを放ち、圧倒的な守護の魔法を支えている。

 

「俺の攻撃を防ぐか。これほどの魔法少女が存在していたとはな」

 

 グラハムは更に両手で反魔の砲撃を放射し威力を上乗せしてきた。両手で行使される砲撃は先ほどよりも耳障りな轟音を響かせ王都に襲い来る。

 圧倒的な力の猛威を見ても、ティアナクランはひるむことなく、強い意志でもって応じる。

 

「魔法少女は民を見捨てません」

 

 ティアナクランは魔法障壁の強度を上げて迎え撃つ。そして2人の力の衝突が始まった。

 

「すごい。王女様がこんなに凄かったなんて」

 

 歓喜の声を上げる魔法少女たちの中でフレアは悲観的な声を上げる。

 

「いけません。これはティアナに分が悪いのですよ」

「フレアっち、どういうこと」

「ティアナは広大な王都全体に魔法障壁を張って高出力で支えています。そうなれば魔力の消費量はどれほどのものかわかるでしょう?」

 

 考えれば至極当たり前の話に周囲ははっとする。

 パティが王女の窮地を知ってあたふたし始める。

 

「アリア、どうしよう。このままじゃ」

「でもわたくしたちの攻撃があの無魔に通じるとは思えませんわ」

 

 うろたえる生徒たちの中でフレアだけが静かに魔導銃をグラハムに構える。

 

「フレアっち、何をする気?」

「知れたこと、ティアナを助けます。私の魔力ならあの無魔の防御も突き破ることが可能です」

 

 (まん)(しん)(そう)()の体をかえりみることなくフレアは決断していた。自身の魔力を封印する腕輪を1つ外す。すると目を覆いたくなるほどのまばゆい光が一気に一帯に広がる。

 

「ぐうううう、ティアナを絶対助ける」

 

 手に持った魔導銃は許容を超えた出力に高音の軋むような悲鳴を上げる。砲身が暴れ出しフレアは必死に反動を押さえ込む。その間にもフレアは暴走した魔力の反動に傷つき血が周囲に飛び散る。

 

「フレアっち、駄目ええーー、今度こそしんじゃう」

 

 悲鳴のようなリリアーヌの静止声にもフレアは聞き入れる様子がない。

 

「私は、……私だけは魔法少女を見捨てない」

「フレアっち、どうしてそこまでするの。もういいよ」

 

 懇願するようにフレアの銃を手に取った。フレアは首を左右に振って拒絶する。

 

「いいえ。自分を犠牲にして、人類のために戦う魔法少女を、私だけはどんなときだって見捨てたらだめなのです」

 

 リリアーヌは確かにそれによってフレアに救われた。そのことを思い出しわずかに戸惑う。

 

(フレアっち、あたしにもっと力があれば……)

 

 フレアの覚悟を見て生徒たちは心が揺り動く。

 しかしリリアーヌ同様にどうしたらいいのか分からず誰もが立ち尽くしているとルージュがフレアの隣に立った。

 

「お困りのようね、フレアさん」

「ルージュさん、あなたいままで何をしていましたの?」

 

 アリアがあきれ混じりに言うのを無視してルージュはある人物を厳しい目で射貫いた。その視線を受けたリリアーヌが思わず身構える。

 

「ピアスコート、一体何をしているの?」

 

 生徒であるルージュが教官補佐を厳しく(しっ)(せき)した。聞いていた生徒たちはびっくりしている。

 リリアーヌに対するルージュの声音はどこまでも冷たく残酷な印象だった。


「あなたには心底失望するわ」

 

 その言葉にリリアーヌは過剰なまでに反応し表情が曇る。ルージュはフレアの銃に手を重ね魔力の制御を支えた。するとフレアの銃の暴走が安定していく。

 それをもってリリアーヌに糾す。

 

「フレアさんがどうして魔法少女を増やそうとしているのか、あなたは散々言葉をかけてもらいながらその意味に気がつかないの?」

 

 ルージュに言われてリリアーヌははっとする。ついこの間も言われたばかりだったこと思い出す。

 

『1人だけ強くならなくてもいいのです。足りないところは周りが支えますから』

 

 ずっと傍にいたのにわかっていなかった。そしていつも傍にいるわけではないルージュに諭される。リリアーヌは悔しさを覚えながらも銃に手を添えた。するとフレアの血吹雪が鳴りをひそめていく。

 

「ごめん、フレアっち。アタシ何もわかってなかった」

「ふふ、かまいません。リリー、力を貸してくれますか」

「もちろんだよ」

 

 血を失いすぎて倒れそうになるフレアをパティとユーナが背中から支える。

 

「つまり、フレアさんの魔力をみんなで制御すればいいのよね」

「フレアちゃん、私も力を貸すよ。なんかこういう展開燃えるしね」

 

 その様子を見ていたアリアは思うところがあった。フレアが魔法少女たちの中心となっている光景に希望を見た気がした。

 

(救世主、フローレア教官はもしかして本当に……)

 

 アリアは今胸にこみ上げる熱の正体を確かめる間もなく周囲に呼びかける。

 

「皆さん、全員で力を合わせて敵を追い払いましょう」

 

 アリアに続いてクラスの全員が次々に手を重ねていき強大な魔力を皆で支え合う。そうしてフレアの魔力は完全に安定した。

 

「フレアっち、今だよ」

「ええ、これならいけます」

 

 フレアは上空のグラハムに狙いを定めて引き金を引く。

 直後、極光の魔法砲撃が荒れ狂いながら空にかけ上がる。フレアの魔法砲撃が駆け抜けた空は一面赤に塗り替わる。

 ティアナクランに意識が集中していたグラハムは完全に油断していた。予想もしていなかった所からあり得ないほど高出力の魔法砲撃を体に浴びていく。

 

「な、ぐおおおおおおお、なんだとおおおおお」

 

 危機感を感じたグラハムはとっさに攻撃をやめるももう遅い。グラハムを包む反魔の力すら突き破り右半身と翼がただれ腕は完全にちぎれ飛ぶ。

 

「ぬうううううう、ばかなあああ」

 

 片腕を失い、半身に魔力を受けて重傷のグラハムはすぐに撤退を決めた。

 忌々しい目でフレアのことを見下ろす。

 

「ぬうう、まさか、これほど力を取り戻していようとは。なにより加護の強い地でこれ以上は……」

 

 フレアにむかってグラハムは捨て台詞を残す。

 

「次は圧倒的な戦力を引き連れて貴様らの国に侵攻をかける。首を洗って待っていろ」

 

 グラハムはすぐに翻し夜の闇へと溶けるように消えていった。

 それを見届け魔法少女たちは歓喜の声を上げる。無邪気な若い魔法少女たちに一瞬笑顔を向けるもティアナクランは重苦しい表情でグラハムの消えた先を見つめる。かつてない強大な敵の出現に気を引き締めた。

 

 ――空を飛ぶ無魔の存在。

 

 それは後の戦略において大きな脅威となることを予感させた。

 フレアは魔法少女の無事に安心すると気を失う。

 急激に血を失ったことで割と危険な状態であり、ティアナクランとユーナは必死で治療に当たることとなる。

 

 その後、目を覚ましたフレアは王都を救ったにもかかわらずこってりと王女にお説教されてしまった。数日療養を兼ねた引きこもりに陥ったのである。


 


 王都を大混乱に陥れた無魔の奇襲から5日が経った。

 ティアナクランはまだ王都に滞在するフレアの療養先をわざわざ訪れる。それというのもフレアがずっと引きこもってしまっていると耳にしたからだ。


「まさか独断で魔法少女を助けに行ったことを叱ったからでしょうか」


 以前にもフレアが叱られたとき引きこもったというのは耳にしている。だから心配になった。


「フローレアにはあの空飛ぶ無魔に対する策を用意して欲しいのですが」


 先の戦いの事後処理と対策が早急に求められる中、忙しい合間をぬって会いに来たのは王女がフレアを頼りにしているからだ。


(あの恐ろしい力を持った無魔を撃退したフローレアの魔法といい、魔装具で空を飛んでいたという目撃証言といい、問いただしたいことも多いわ)


 魔法少女のことになるとわたあめメンタルらしいフレアには慎重に言葉を選ばなくてはならない。その上で元気づけ、立ちなおってもらわないと困ってしまう。

 だが、ティアナクランは想像もしていなかった。フレアの引きこもりが普通ではないということに。


「面会謝絶?」


 フレアの部屋の前にはリリアーヌが立っていて困ったように頷いた。


「ごめんなさい王女様、フレアっちアタシともまともに話してくれないくらいおかしくなってて」

「おかしい?」


 フレアがおかしいなど日常茶飯事では? と失礼なことを思い浮かべたが口にしないのはティアナクランの優しさだ。


「おかしいとはどのように?」

「もう別人みたいに他人を怖がっちゃって」


 あの自信過剰なまでに堂々としているフレアが人を怖がるなど想像できない。


「フレアっちのお母さんが言うには一時的に昔の頃に戻っただけでは? って言ってて深刻には考えてないみたい」

「昔のフローレアですか?」

「小さい頃は人見知りですごい気弱な性格だったみたいだよ。ちょっと想像がつかないけど」


 確かに、とティアナクランも同意する。


「とはいえ一度顔を見せてもらえませんか」

「今は寝ているみたいだけど?」

「それは都合が良いですね。わたくしは光の魔法使い。精神治療も得意ですから」

「ああ、それは良い考えだね。お願いしようかな」


 そう言ってリリアーヌはティアナクランを部屋に通した。

 部屋の中の寝室にはすやすやと眠るフレア。その顔を見ていると本当にあどけない。普段のフレアの言動の方が異常に思える。


「眠っているようですね……」


 起こさないよう静かに声をたてるティアナクラン。ベッドのそばに立つとフレアが泣きそうな表情でうなされる。


「おにいちゃん、どこにいるの? ……行かないで。一人じゃ、私……」

「おにいちゃん?」


 ティアナクランの疑問にリリアーヌも首をひねる。ずっとそばにいたリリアーヌにしてもフレアがおにいちゃんと呼ぶ人物に心当たりがなかった。


「フレアっちに兄弟はいないはずだけど……」


 引っかかりを覚えた2人ではあるがただの夢だろうと気にとめなかった。


「では始めましょう」


 ティアナクランは光の魔力で輝く右手をフレアの上にかざして容体を調べる。


「これは……」

「どうしたの?」

「いえ、……何でもありません」


 そう答えたが本当は何でもないどころではない。常人にはない異常が見られた。前例がなかったため再度調べても結果は同じ。ティアナクランはどうしてか触れてはいけない何かに抵触する恐れを抱いた。


(フローレアの魂が他の人とは明らかに違う。これではまるで……)


 そこで明らかに弱っている魂の一部分を発見する。


「もしかしたら原因はこれかしら?」

「なにかわかったの?」

「はい、フローレアの魂の一部? ――が弱っているようです。幸いわたくしの魔法で治療ができそうです」

「そう、よかった」


 そういうティアナクランの表情はうかないものだった。


(これは本当に治療しても良いのかしら。魂の輝きを見る限り悪いものではなさそうだけど)

 

 気になった王女はその部分のみを更に詳しく調べようと魔法を落とし込んでいく。すると突然脳に大量の情報が流れてくるのを認識する。


「なっ!」


 驚いたティアナクランは後ろによろめき後ずさると、部屋の壁にぶつかるまで距離をとる。


「どうしたの? 大丈夫?」


 心配するリリアーヌの声も届かない。ほとんどが理解出来ず記憶もできないままにかき消えていく。胸に下げた後期型魔装宝玉を握りしめてただ一言つぶやく。


「殿方……」

「えっ?」


 ティアナクランも自分で何を言っているのか理解出来なかった。ただ、自分のするべきことはわかった。


「ごめんなさい。少々取り乱しました。これより治療いたしします」

「そ、そう……?」


 意味がわからず困惑するリリアーヌをよそに、フレアのそばに立ち魔法を行使する。


「庇護の魂よ。その魂に安らぎと平穏があらんことを。《スピリチュアル・ヒーリング》」


 ティアナクランの魔法は部屋中を光で満たした。10秒ほど経った後、部屋は何事もなかったように元の色を取り戻す。


「終わったの?」

「ええ、これで次に起きるときには元のフローレアに戻ることでしょう」

「そっか、良かったあーー」

「そのときには伝言を頼めますか」

「いいけど、何を伝えれば良いの?」

「今後の戦略で相談したいことがあると伝えてください」

「うん、わかった。伝えておく」


 その後、立ち去ろうとするティアナクランにフレアから声が上がる。


「ありがとう」


 振り返るとフレアはまだ眠ったまま。また寝言だったのだろうと今度こそティアナクランは立ち去った。

 廊下を歩きながら彼女は心臓の上に手を当てる。


「フローレアの正体は、……殿方? いいえ、気のせいよ」


 海での合宿のときも少女の体であることはしっかり確認している。それでも意識してしまうとますます心臓が跳ね上がる。友人の秘密の一端に触れ、膨れ上がる疑惑をつとめて考えないようにする。


「ああ、駄目ね。気になって仕方ありません。今度フローレアに顔を合わせるときまでに先ほど見た記憶を整理しておかなくては」

 

 頼もしい友人だった年下の少女が実は男の子でもあるかもしれない。

 そう意識するとティアナクランのフレアへの感情は激しくゆれ動く。

 フレアの秘密の一部に触れたティアナクラン。

 2人の関係は今後大きな転換を迎えようとしていた。


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