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第15話 王都防衛編 『フレア、空を飛ぶ』

――一方、王城にて――

 

 王都を無魔が襲う。

 その伝令は正に(せい)(てん)(へき)(れき)だった。

 北と西の領土の防衛網をぬけて王都に無魔がせまるなど今まで経験したことのない非常事態だ。

 一番に我に返り声を上げたのはビスラードだ。

 

「何だと。疾く報告せよ」

「西方より無魔の大隊規模が進行中。なおも数を増やし王都西門に迫りつつあります」

 

 ジルベール公が立ち上がり疑問を口にする。

 

「ばかな、西方だと。西の前線は何をしていた。突破されたのか」

「分かりません。西の防衛網には全く異変はなく突然わいてでたとしか……」

 

 およそ数千以上の大部隊が発見されれば即座に王都に知らせはもたらされる。本来突然敵が王都に押し寄せるなどあり得ないことだ。

 

「何にしても対策をとねばなるまい」

 

 ビスラードは両手で手を打ち合図を送るとすぐに控えていた近衛兵がブリアント王国の地図とそれを広げる台を用意する。

 

「我が国の防衛網はいわば卵の殻よな。外周の防衛網は強固だが一度突破されればもろい。戦力の要たる魔法少女がまだまだ足りていないことも大きな要因と言えよう。だからこそ国境に戦力を集中して絶対防衛戦を敷いているのだがのう」

 

 無魔の支配領域に接する北方、そして西側にブリアント王国は強固な防衛網をしき無魔の侵攻を阻んできた。

 南の領土はファーブル翼竜共和国の国境と接し、無魔の脅威のない豊かで安全な領土が広がっている。

 王城が存在する王都ロンドウィルとその周辺の中央地域は北、西、南の領土と東に海とが接する戦略上最も安全な場所に存在する。

 今回の問題は戦力が前線に集中し、王都には大軍を撃破するに足る十分な兵がないことにある。

 

「王都を守る兵力が足りませんわ。ここは機動力のある魔法少女レティカの小隊を呼び戻して王都の兵力と挟撃します。幸い王都外周には高さ18メートルの強固な城壁が張り巡らされ簡単に突破されることはありません」

 

 ティアナクランの提案にビスラードはうなり指示を飛ばす。

 

「王都の警備隊に伝令。城壁にて敵を迎え撃ち増援あるまで各門を死守せよ」

「はっ」

 

 ビスラードの命を受けて伝令の兵が玉座の間を飛び出していく。その後王はフレアに確認をとる。

 

「フローレア。そなたの教える魔法少女が王都に滞在していると聞く。戦力としてあてにしてよいものか」

「陛下、おそれながら魔法少女候補生は変身を覚えて日が浅く戦闘訓練も始めたばかり。戦力としては現在魔導騎士団にも及びません。大隊規模相手と戦うのは危険でしょう」

 

 生徒には一部力を隠している才女がいる。だがフレアはあえてそこには触れず戦力外であると報告した。初陣も経験したことのない彼女らには荷が重いと判断した。

 

「なるほど、確かに魔法少女とはいえまだ11歳の子供であるか。今回は見送るしかあるまいな。せっかくの魔法少女の卵をここで失うわけにはいくまいて」

 

 ビスラードの配慮にフレアは感謝の礼をする。

 伝令の兵が地図上に駒を配置しながら報告する。

 

「敵の後続の有無、指揮官級の存在は未確認です」

 

 それには居合わせたものの多くが頭を悩ませる。

 熟練の魔導騎士か魔法少女が当たらなければ死者が増えるばかりである。

 指揮官級がいるだけで兵卒級の脅威度は格段に増加する。

 そこに新しい知らせを携えた伝令兵がやってくる。

 

「陛下、大変です。王都西側の城門が突破されました」

「な、何だとっ」

 

 その報告はさらなる衝撃をもたらした。

 

「そんな、どうして。城門は強固な魔法金属製でしてよ」

 

 あまりにも突破が早すぎる。誰もが困惑を隠せないでいる。

 

「詳細は不明ですが城門は破壊されたにあらず。ひとりでに空いたとのことです」

 

 そして、続けて上がった報告は深刻さを露呈させる。

 

「バカな、それは、内部で誰かが無魔を手引きしたということか?」

 

 ジルベール公は信じられないと伝令兵に問いかける。

 

「分かりません。西門は混乱状態に陥り警備兵は満足な応戦もできておりません」

 

 その報告を聞いて何より内心気が気でないのはフレアだ。城下には魔法少女候補生たちがいるのだ。この危機を黙って見ているだけとも思えない。今すぐにもリリアーヌを連れて助けに行きたいところであったが動けなかった。

 事情を見透かしたティアナクランがフレアに力ずくで止めると目で牽制している。

 

(ティアナ、あなたは……止める気ですか?)

 

 現在、魔装宝玉を量産できるのはフレアだけ。フレアまで危険にさらすわけにはいかないという判断だった。直接釘を刺さないのはすぐに対応を導き出し兵に指示を出さねばならないからに過ぎない。

 

(ティアナに命令されたら魔法少女を助けにいけなくなります。……でも)

 

 ティアナクランはフレアが逃げ出せば拘束魔法ですぐに捕らえることも可能だ。

 

(どうすればいいのですか、このままではみんなが危ない)

 

 フレアのことを友達だといってくれた。彼女らを失うなど耐えられない。フレアはぎゅっと拳を握りしめて悔しさに立ち尽くす。

 それを見ていたのはリリアーヌだ。

 

(フレアっち、みんなを助けに行きたいんだね。でも、王女様がきっといかせてくれないんだ)

 

 ティアナクランの気持ちも理解出来なくもないがリリアーヌにとってはフレアの力になることが最優先だ。

 

(フレアっちの望みを叶えるにはどうしたら……。どうしたらここから堂々ととがめられることなく退出できるのかしら?)

 

 そこでリリアーヌが思い至ったのはフレアが魔法少女至上主義であり異常なまでの執着心だった。フレアは以前魔法少女のティアナクランに怒られただけで体調を崩してしまったことがある。


(これはいけるかも)

 

 それは名案であるとリリアーヌには思えた。だからフレアにそっと耳打ちする。

 

「フレアっち、ここから抜け出してみんなを助けに行きたいんでしょ」

 

 その言葉にフレアは目で問い返す。

 

 何か策があるのですか、と。

 リリアーヌは頷く。

 

「でもフレアっち、誤解しないでね。これからするのは策の一環だから」

 

 フレアはリリアーヌが何をするのか分からなかったがすぐに首を縦に振る。

 そしてリリアーヌは言った。

 フレアっちのこときらい、と。

 ――――言ってしまったのである。



 取りあえず近衛兵を手配するしかないと結論に至った頃、ティアナクランは騒ぎに気がついた。

 

「はわあああああああああああーーーーーーーーーー」

 

 フレアのちょっと変わった奇声にはっとして注目すると、目に入ったのはこてん、っと倒れるフレア。それを顔面蒼白になり抱き起こしてリリアーヌがうろたえていた。

 

「ちょっと、フレアっち、大丈夫?」

(っていうかどんだけよーー)

 

 ティアナクランはすぐには直感した。これは救出に出るための策だと。

 

「フローレア、あなたの魂胆は分かっていますよ。仮病で抜け出して魔法少女候補生を助けに向かうのでしょう。わたくしは水の魔法も習得しています。それは治癒にも精通しているということ。仮病など魔法を巡らせればすぐに分かるのですよ」

 

 ティアナクランは水の魔法をフレアにめぐらせ容体を見るとはっとした。

 

「えっ、これって……」

 

 困惑するティアナクランは直後、フレアが本当に吐血して咳き込むのを目にする。

 

「フローレア、ちょっと、どうしたの? あなた本当に内臓が痛んでいるわ」

 

 慌てて駆け寄りフレアに治癒魔法を行使する。

 

「リリアーヌこれは一体どうしたのです」

 

 真っ青な顔のリリアーヌが引きつった頬を抑えながら応える。

 

「た、多分、魔法少女候補生たちが城下の宿にいるのを思い出して心配して倒れたんだと――思う」

 

 視線をそらしたリリアーヌ。なぜ冷や汗がそんなに出ているのかと気になったティアナクランだがフレアの容体は仮病ではないことを知っている。

 

「だからって、血を吐いてるわ。尋常ではないわよ。病気ではないの?」

「フレアっち、以前王女様に怒られたことがあったでしょ。あのときだって体調を崩して寝込んだんだよ。フレアっちにとってそれだけ魔法少女が特別なんだよ」

 

 ティアナクランは以前魔装宝玉の生産量を偽ったフレアを叱ったことを思い出す。

 

「たったそれだけで……」

 

 そのときでさえ本気で叱りつけたわけでははない。フレアが寝込んでいたとは予想していなかった。

 

「とにかく急いでベッドに運んで安静にさせないと、王女様、いいですか?」

 

 リリアーヌの切迫した様子に押され、ティアナクランは腑に落ちないと感じつつも首肯した。

 

「ええ」

 

 リリアーヌは礼をするとフレアを抱きかかえながら速やかに退出していった。ビスラードは意外そうにつぶやく。

 

「貴族の間では悪魔などと呼ばれておるようだがクラウディオの孫も繊細な11歳の子供であったのだな」

「……お父様、フローレアはあれで優しい子なのですよ」

 

 感慨深く思いながら王とティアナクランはフレアを案じつつ見送るのだった。


 

 人気のない廊下にさしかかるとようやくフレアが目を開ける。当然リリアーヌは病室ではなく城の出入り口に向かって駆け抜けていた。

 

「……けほっ、……うまくいきましたね」

「ごめん、フレアっち」

 

 申し訳なさそうに謝るリリアーヌにフレアは首をひねる。

 

「なぜ謝るのですか?」

「だってこんなに容体が悪くなるなんて思わなくて」

「私は魔法少女に関してはわたあめメンタルですから」

 

 冗談っぽく言ってリリアーヌの罪悪感を和らげようとする気遣い。長い付き合いになるリリアーヌはそれがわかってしまう。

 

「……魔法少女になら誰でもそうなるの?」

 

 突然意図が分からないリリアーヌの問い。

 フレアは首をかしげつつも正直に応える。

 

「リリーだからですよ」

「えっ」

 

 リリアーヌは思わず立ち止まりフレアを見た。

 

「リリーは魔法少女であると同時に大切な人ですから」

 

 嘘偽りないまっすぐな瞳とよどみない声。それがリリアーヌの聴覚を、脳を揺さぶる。すぐに心臓が震え、心が歓喜で沸き上がるのを自覚する。

 

(ど、どういうことっ? 大切ってどういう意味か知りたい)

 

 でも今のリリアーヌにそれ以上聞く勇気はない。聞くと何かが壊れてしまいそうで怖くなる。だからうやむやにごまかしてしまう。

 

「そ、そうなんだ。フレアっちはどうしてそんなに魔法少女を神聖視しているのかな」

「神聖視、ですか。なるほど確かにそうかもしれません」

「理由、聞かせてほしいな」

 

 言われてフレアはうつむき考え込む仕草を見せると重苦しい口調で言葉少なめに話す。

 

「魔法少女は裏切りませんから」

「えっ?」

 

 どういうことか聞き返す前にフレアは促す。

 

「リリー、もう降ろしてくれていいですよ。自分で歩けます」

 

 そう言われてリリアーヌはフレアをずっとお姫様抱っこで王城の廊下を駆けていたことに気がつく。

 

「うひゃあ、ごめん、フレアっち」

 

 恥ずかしくなりリリアーヌはフレアを慌てて開放すると周囲を窺う。見られているは城のメイドぐらいだ。

 

「よかったあーー。見られたのメイドさんぐらいか」

 

(いえ、リリー、むしろメイドにみられたのは最悪ですよ。きっと噂は風のように広がりますから)

 

 羞恥心の強いリリアーヌにフレアはそう思いつつも気を遣って口を堅く閉じた。

 フレアは多少足どりに頼りなさを残しつつも歩き出す。短い時間ながら王女の治癒が効いていた。

 

「リリー、時間がありません。すぐに救助に向かいます」

「どうするの?」

「西門が破られたということは既に戦闘に巻き込まれている可能性が高いです。更に王都の民は今頃パニックになり王城に殺到することでしょう」

「うわあ、その流れに逆らって西門に向かうと時間がかかりそうだね」

 

 城の入り口を出てフレアが作った《移動魔工房》に向かう。

 それはフレア専用の移動研究施設であり、試作の魔導兵器が幾つも詰んである。フレアは荷馬車の中に入ると格納部屋を開放した。

 

「それでは手遅れになります。ですのでこれを使います」

 

 フレアが取り出したのはまるで現代の日本で言うならスティッククリーナーによく似た形状の魔導兵装だった。

 

 見たこともない形状に心当たりがないリリアーヌは首ひねった。

 

「それって何?」

「いわゆる魔女の箒と杖を一緒にした未来型の魔導兵器です」

「え、魔女の箒って、おとぎ話にある空飛ぶ魔法具のこと?」

「そのとおりなのです」

「ええーー」

 

 リリアーヌの表情は懐疑的に変わる。箒とは似ても似つかない。そもそも先端に毛がないのだ。現代で言うクリーナーヘッドのような形、噴射口がのぞくだけでとてもリリアーヌは空を飛べるとは思えなかった。

 

「リリー、最初に謝っておきます」

「えっ?」

 

 フレアは魔導箒にまたがるとリリアーヌの手を引いて抱き寄せ不吉なことを言う。

 

「これ、試作なので乗り心地と操縦性、魔力の燃費も最悪です。ゆえに私しか使い手がいない欠陥品ですので悪しからず」

 

 それを聞いてリリアーヌはようやくこれから訪れる不幸に思い至る。

 

「いやああああ、フレアっち、代替案、代替案を検討してえええっ」

「却下」

 

 にこりと笑みを浮かべるフレア。

 この後、男らしいほどの決断力でもってフレアは蛮行をとおしたのだった。



 時は夕日が地平線に隠れ始める頃、高速で空に舞い上がり弾丸のように大気をかき分け進むフレアとリリアーヌ。

 またがった魔装兵器の後ろから爆音を響かせて高出力の風が吐き出される。そのすさまじい反動によって今も加速を止めることなく城下を抜けていく。

 

「ひいいい、フレアっち、アタシ死んじゃううう」

 

 落ちないようにぎゅっとフレアにしがみつく。

 

「あはは、大げさですねえ」

 

 魔法障壁で保護されているにもかかわらず風が叩きつけてくる音はリリアーヌの体験したことのない恐怖をかき立てる。しかもまたがる箒がガタガタと震えて怪しい挙動を起こすのも恐怖を増長する。

 

「空を飛ぶって、さいてーー」

 

 その後、フレアの右腕から血が滴ってくる。それをリリアーヌに見えないように押さえ込む。

 

(空を飛ぶにも多少風の魔法を使いますからねえ、試作だから魔導機構での制御には限界があります)

 

 こうして飛んでいる間にもフレアの魔力が暴走し体を傷つけていた。

 

「もうすぐ王都西到達しますよ」

「もう? 速すぎだよ」

 

 そうこうしている間にもう王都の西門が見えてくる。

 

「ほむ、情報では西門が突破されたと聞いていましたが」

 

 王都内に無魔の姿はなく門は閉め切られている。リリアーヌと顔を見合わせて2人は困惑する。

 だが高度を上げて西門前の様子が見えてくると状況を理解する。

 

「見て。西門前でみんなが戦ってる」

 

 門の前で必死に防戦する魔法少女たちの姿。無魔に押されて危機的状況なのが目に見えて分かりフレアは目を見開く。

 それだけでも怒り心頭に達するほどなのに。

 

「西門の警備兵は何をしているのですか」

 

 間接的に味方の魔法少女をおいつめている。そのことは一目で見抜いた。

 同時に疲労や魔力切れで次々倒れる仲間の姿を見てはフレアの堪忍袋が切れた。

 

「魔法少女をやらせはしません!!」

 

 怒号とともに魔力を解放し、空は魔力光であふれかえった。

 

「フレアっち、だめっ。魔法を使ったら死ぬかもしれないんでしょ」

 

 リリアーヌの静止も無視してまるで流星のごとく魔法少女に襲いかかる無魔の大部隊に向かっていく。

 無魔の大部隊の真ん中に特攻したフレアは地面に衝突する寸前に魔力を爆発させなぎ払っていく。

 悲壮な戦いを強いられていた魔法少女たちはまるで火山が爆発でもしたかのような現象を唖然として見つめる。

 

「ねえ、今敵のど真ん中にフローレア教官がツッコんでいかなかった?」

 

 パティの言葉にアリアはだらだらと冷や汗をかきつつ頷く。

 

「わたくしもそう見えましたわ。しかも()から飛んで来ませんでしたか?」

 

 爆発の余波は魔法少女たちがとっさに防いだが果たして。

 もうもうと舞い上がった土煙が晴れた後、大きなクレーターを残して無魔の大半を消し飛ばしてしまっている。

 そして、その爆心地の真ん中に空飛ぶ箒を支えに辛うじて立っているフレアをみつける。

 

「ああ、やっぱりだ。やっぱりフレアお姉様がきてくれたあ」

 

 感極まって走り出すミュリを皮切りに魔法少女たちはフレアに駆け寄っていく。

 近づく生徒たちを見てフレアは誰一人致命傷を負っている様子がなくて安堵する。

 

「……助けに来ましたよ」

 

 盛大に吐血して倒れるフレアにアリアが駆け寄った。

 

「皆さん、げほっ、ごほおっ、無事ですか?」

 「いや、教官が無事なんですの!?」

 

 あまりの吐血量にアリアが心配してしまう。

 

「私が来たからにはもう安心です、ごほっ。助けに来ました」

「いや、いま助けが必要なのフレアちゃんだよね?」

 

 パティがあわてて抱き起こす。

 

「あなたが助けられに来てどうするの」

 

 呆れたような顔をしながらユーナが治癒魔法を唱える。

 

「そういえばリリアーヌ教官補佐はどこにいらっしゃいますの」

「それなら」

 

 フレアの視線の先には生徒たちを守るように立つ魔法少女がいる。他国の魔装宝玉のため、その装いはフレアの作った物と異なり金属質の防具に身を包み騎士としての頼もしさを覚える。

 

「あれが教官補佐の法衣なのですね。なんだか強そうですわ」

 

 襲い来る無魔を次々に切り伏せて敵がひるむとリリアーヌの剣が魔力を溜めて輝き、風の刃を飛ばしつつ横一線、敵をなぎ払った。

 

「すごい、今のたった一振りで200近い無魔が消滅しましたわ」

 

 無魔の残党もリリアーヌの敵ではなかった。見ていた生徒たちはリリアーヌの計り知れなかった実力を(かき)()見て固唾をのんで見守った。

 

「これほどの実力を持ちながら無名だったなんて信じられない」

 

 パティのつぶやきに周囲が賛同した。

 そうこうしている間にリリアーヌは全ての無魔を駆逐し剣を鞘に収めて戻ってくる。彼女の顔には汗一つなく呼吸の乱れすらない。

 見ていた生徒たちはリリアーヌを取り囲んでその強さをたたえる。

 

「す、すごい。あの強さありえないよ。もう胸がドキドキだあーー」

 

 パティが目をキラキラさせている。特に近接戦闘を得意とする生徒が羨望の視線で見る。

 

「訓練すればみんなこれくらい強くなれるわ、それより」

 

 リリアーヌはフレアに近づき容体をユーナに尋ねる。

 

「大丈夫なの?」

「私の治癒はまだ覚えたてなのよ。しばらく安静にした方がいいわ」

「そっか、フレアっち無理しすぎよ」

 

 困ったように警告するリリアーヌ。そこにアリアが尋ねる。

 

「そういえばフローレア教官はどうしてそんなにぼろぼろなのですか?」

「フレアっちは魔力だけなら王女様すら比較にならないほど強大なのよ」

「ええっーー、フローレア教官も魔法少女なの?」

 

 パティが興味津々で乗り出してくるのでフレアがあっさりと否定する。

 

「いいえ、魔力が大きすぎるがゆえに制御できず暴走してしまうのです。私は魔法少女にはなれません」

「そうだね。フレアっちは魔法を使うと今みたいに大けがを負う。死ぬ可能性だってあるんだから」

「では最初の爆発はフローレア教官の魔法ですの?」

「そうよ。フレアっちみんなの危機を見て魔法を使っちゃったのよ。ほんと無茶」

 

 それを聞いたクラスの生徒たちはフレアを見て涙腺がゆるむ。自分の身を顧みず助けに来てくれたのだと分かったからだ。

 

「リリー、無魔はもういないのですか?」

「ええ、周囲にもう無魔の気配はないわ」

「そうですか、ではもう一つの敵を殲滅しなくてはなりません」

「へ、何言ってるの? だから無魔はいないって……」

 

 そう言いかけてリリアーヌが誰よりも早く気がついた。フレアの攻撃対象は西門にいる友軍だと言うことに。

 だがそのときにはもう遅くフレアは腰に下げた魔導銃をホルスターから取り出すと西門上にいる貴族の警備兵長に発砲した。

 

「死ねえーーーー、このクズ兵士どもっ」

 

 それは《《運良く》》狙いがはずれて兵長の頬を掠めるだけだった。

 

「ちょっとフレアっち、落ち着いて」

 

 リリアーヌは慌ててフレアの銃を押さえにかかる。遅れてアリアやユーナすら泡を食って取り押さえた。

 

「教官、落ち着いてくださいまし。それはいけませんわ」

「ええい、はなしてください。あいつら人類の希望たる魔法少女を追い詰めて、万死に値します。軍法会議など必要ありません」

 

「だめよフレアさん、気持ちは分かるしスカッとしたけど殺しては駄目よ」

 

 ユーナはさらっと毒を吐いたがそれどころではない。周りは暴れるフレアを止めるのに必死だ。

 

「私の怒りはいまあそこにいる兵士共々西門を消し飛ばさなければ晴れることはありません。止めないでください」

 

 フレアが西門を指さすと突然異変が起きた。

 空から黒い砲撃が飛来し西門を綺麗さっぱり消し飛ばしたのである。フレアが起こした大爆発に匹敵する攻撃が周囲に破壊をもたらす。

 呻るような暴風が吹き荒れフレアたちにも降りかかる。

 

「「「きゃああああ」」」

 

 リリアーヌがとっさに前に立ち巨大な魔法障壁を展開して生徒たちを守る。

 突風がおさまってリリアーヌが風の魔法で荒れ狂う砂煙を晴らしたとき、その光景にクラスの全員が目を疑った。

 強固にして巨大な建造物である西門が何者かの攻撃によってか跡形もなく消滅していた。

 

「うそ、西門が――消えた!?」

 

 それは誰のつぶやきだったか。フレアははっとして言い訳する。

 

「ま、待つのです。私じゃないですよ。ほんとに西門を吹き飛ばすはずないですよ」

 

 慌てるフレアに生徒たちの疑いの視線が突き刺さった。

 フローレア教官ならやりかねない。

 そう思っていたところにリリアーヌが緊張の孕んだ声を張り上げる。

 

「あなたは何者です!!」

 

 リリアーヌははるか上を仰ぎ、空に滞空する存在を警戒する。

 その姿はまるで悪魔を思わせる外見。爬虫類、あるいはコウモリのような翼を力強くはためかせ、威圧感のある3つの瞳が魔法少女たちに注がれている。

 だがその肌質を見れば無魔なのだと誰もが気がつく。

 おそるべきは体からあふれ出る反魔の力の強大さ。そのプレッシャーの強さはリリアーヌすら感じたことのないほどだ。

 

「これって、指揮官級すら比較にならない。こんな無魔が存在するというの?」

 

 未熟な魔法少女たちは絶望的なまでの力の差を感じ取った。

 支配者級の無魔グラハム。

 魔法少女たちの前にかつてない強大な敵が現れたのだった。


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