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第14話 王都防衛編 『近衛壊滅の危機!? ルージュ対オズマの邪道騎士』

「手口が似ているわ」


 それはルージュの祖国であるビッテンブルグ騎士国の王都が陥落したときのことである。あのときも無魔に人間が通じているかのように内部でほころびがあった。


「忌々しい記憶……」


 祖国では不遇な扱いを受けていたルージュ。そのせいで反乱の首謀者の疑惑も向けられた経緯があった。そして、力がありながら無魔を退けられなかった責任も周囲は押しつけた。


「人間は残酷で卑劣だわ。私の母は絶望の淵に追い込まれ死んでしまった」


 当時魔装宝玉すら与えてもらえなかったルージュにはなおさら酷な話であった。


「だから私は人の敵になっていたかもしれない」


 ルージュの心はフレアと出会う頃には暗く落ちきっていた。それこそ魔法少女になれそうもないほどに。


「それでもフレアさんが私を救ってくれた」

 

 特区が解放されて間もない頃、フレアはルージュを魔法少女にすると約束し何度も通い詰めた。そのたびに拒絶しフレアの心も体も何度傷つけたことだったか。


『ルージュさんの憎しみはきっと誰よりも深いのですね』


 そのときのフレアはルージュの拒絶の魔法を受けて肩に大きな傷を負い、それでも痛みを堪えて笑顔で歩み寄ろうとする。


『ですが、気づいていますか? ルージュさんはそれだけ愛情も深いのです。だからこそ人を憎めるのですよ』


 不意を突かれた気持ちになった。愛情が深いなどと考えたことがなかった。自分でも気づいていなかった本質を言い当てられたことに酷く狼狽してしまった。

 だからこそ後のフレアの言葉が胸に響いた。


『人を憎んでもいいのです。それでも、ルージュさんは誰よりも優しく他人を愛することができるのだと思います。その愛はきっと誰よりも人を救うでしょう』

 

 フレアは懐から1つの魔装宝玉を取り出した。フレアの血まみれの手に乗るそれを見てルージュが何のつもりだと尋ねると。


『約束しましたよね。あなたを魔法少女にすると。これはあなたのために私が初めて完成させた魔装宝玉です。私からの贈り物です』


 まだ幼いフレアが作ったという。信じられない話だがルージュはそれが間違いなく魔装宝玉だと確信した。それもとてつもない力を持っている。かつて、王の鶴の一言で手からこぼれ落ちた後期型すら比較にならない。


『誇っていいですよ。魔装宝玉100個分に相当する精霊結晶を用いた完全規格外品です。恐らくこれほどのものは二度と作る機会がないでしょうね』


 ルージュは魔装宝玉をもらえず祖国の大事に魔法少女になれなかった。そのいき届かなかった思いをフレアは想像を超える贈り物で晴らしてみせた。

 ルージュが涙ながらにそれを受け取るとフレアはその場で倒れた。ルージュは慌てて抱き起こして闇の魔法の癒やしを与えた。


『ルージュさんの闇の力はどこまでも優しいのですね。とても安らぎます」


 闇の属性は畏怖と忌避の対象だ。フレアのように受け入れられたのは始めてだった。

 ルージュはこのときになって深く後悔した。フレアをいままで傷つけてしまったことを。大きく裂けた服からみえるフレアの肌は傷跡だらけだ。中には完全には消えないものもあるだろう。それを見ると憎しみにとらわれた過去の自分が許せなくなる。


『ルージュさん、私だけの魔法少女になってください』


 ルージュにはそれがまるで愛の告白のように聞こえた。フレアはそれっきり気を失ってしまっている。自分はこんなにも胸がざわめき苦しくなっているというのにフレアは満足顔で眠っている。そんなフレアを眺めながらルージュは穏やかな笑みを浮かべ耳元でささやく。


『いずれ責任をとってもらうわよ』と。



 ルージュが追跡していた兵士たちは大通りを迂回し王城の裏手門に通じる場所を目指していた。王城には城下を囲む城壁とは別に外郭が存在していた。

 裏手門とは物々しさを与える兵士を余人の目から避けると同時に円滑に出撃を行うための門でもある。


「あの兵士たちから微弱の反魔を感じるわ。人型ということは指揮官級の可能性があるわね。王国の兵士に擬装し混乱に乗じて王城に忍び込み攻撃する。それが狙いか」


 そして、はるか先の裏手門から喧噪と血のにおいを察知する。


「王城への攻撃がもう始まっているのね。ならばこの兵を合流させるわけにはいかないわ」


 ざっと見て50人の兵士。それが一体でも厄介とされている指揮官級なのであれば王城はさらなる危機にさらされる。

 何より王城にはルージュにとってのフレアがいるのだ。

 ルージュは体の身体強化魔法を更に引き上げ兵を追い越すと行く手を遮った。


「止まりなさい。あなたたちはここで人生の終着を迎えてもらうわ」

「貴様、我らを王国の兵士と知っての狼藉か。我らは無魔の襲撃に備えて急いで城に行かねばならぬのだ」

 

 ルージュは問答無用で手を振ると雷の矢が無数に出現し兵士たちに放った。雷の矢によって致命傷になった兵士は魔力を受けて消滅してしまう。魔力による消滅は無魔独特の性質である。


「王国の兵士? 無魔が何を言っているのかしら。本性を現しなさい」


 ルージュの対応に擬装は意味がないと悟った兵たちは突然肌が金属質に変わり、反魔の力を纏う。

 そして、腕が変質し禍々しい大きな刃に変わるとルージュに殺到した。


「それでいいわ。あなたたちは前座。主戦場はこの先のようだから、手早くいくわ」


 ルージュはフレアからもらった新装備マギカ・コンパクトを手にすると閉じられていた蓋を開く。中には磨き抜かれた鏡と3つの魔装宝玉が納められている。


「まずは()()()()()()()で相手してあげる。《変身(トランス)魔装法衣(マギカコート)》!」


 ルージュは3つの魔装宝玉の中から量産型の魔装宝玉に触れると鏡から闇のルージュの幻影があわられる。ルージュは魔装宝玉の光を幻影の頬にそっとあてると優しく抱きしめた。2人は1つとなり闇色に輝く光がルージュを包み込むと黒のドレス法衣になった。同時に精霊結晶の半透明な手甲と胸当て、そして、黒の装飾剣を腰に下げると変身は完了した。


「魔法少女ルージュ。愛と守護の誓いにかけて主の敵を斬る」


 一瞬で変身を終えたルージュは素早く剣を抜くと炎を付与した魔法剣で指揮官級をなぎ払った。斬撃を受けた無魔は全身に炎ではなく雷撃が駆け抜けて消滅した。

 それを見て無魔たちは驚き、距離をとる。

 

「何だ? どうして反魔の防御が効かない」


 反魔の力を纏った無魔は魔法を相殺し無効化できるはずであった。それがルージュの攻撃に対しては働いていないように思えた。


「簡単よ。私の剣には基本5属性魔法を同時に纏わせているわ。1つ防いだところで残りの属性を味わうことになるだけ。私に反魔の防御なんて意味がないわ」

「馬鹿な、同時に5属性だと!? そんな魔法使い、聞いたことがないぞ」

「私、天才だから」


 それには無魔たちはあんぐりと口が開いた。そして、叫ぶ。


「この姿になれば魔法少女すらしのぐ力を手に入れられるという話ではなかったか?」


 ルージュは以前似たような台詞を聞いていた。


「そう、あなたたちはギアンと同じケースなのね」

 

 直後に、辺り一帯に黒の薔薇の花びらが無数に宙を舞う。その花びらは魔力で作られている。それは触れたものを鋭く、容赦なく切り裂いていく。


「な、この花びらは、魔法なのか?」


 気がついたときにはもう遅い。無魔たちの周囲を逃げ場がないほどに舞い踊っている。


「天才を自称するなら戦い方にも品格が必要よ。花とともにその命散らしなさい」


 ルージュが指先を無魔に向けると風の魔法で嵐を巻き起こす。風に乗って花びらが無魔を切り刻み消滅に追い込んでいった。


「御機嫌よう。もう二度と会うことはありませんけれど」


 軽薄な挨拶によってこの場の戦いは終わりを告げた。



 王都襲撃を受けて近衛軍は慌てて第一陣を編成し先駆けて王城を出ようとしていた。


「急げ。敵は既に城下に入り込んでいる。我らで押し返し近衛軍が精鋭であると民に知らしめるのだ」


 300人に及ぶ精鋭の騎士たちが勇み裏手門から飛び出していく。全身を金色の装飾であしらった豪華な魔導の鎧は王都にいる最高の魔導技師たちによって仕上げたもの。近衛軍の鎧の性能は魔法少女の法衣にも匹敵する物であると王国の魔導技師たちは自負している。実際、鎧によって引き上がる身体能力と防御力は大型の無魔と肉弾戦をこなしても押し返すほどである。


「無魔の軍勢何するものぞ。増援が来る前に我々で平らげてくれる」

 

 この一団を率いる部隊長グラートは自信があった。特に兵卒級は大隊規模であろうとも簡単に蹴散らせるだろうと見込んでいた。彼自身それだけの実績も積み、近衛の持つ王国最新装備はそれだけの力がある。

 だが、王城の裏手門を出ると彼は違和感を覚える。外に警備の兵が1人も見えないのだ。


「これは……っ!?」


 グラードは、すぐに勘違いを改める。兵士は確かにいた。だが全てが地に伏している。

 グラードは倒れている兵に駆け寄る。


「おい、何があった?」


 虫の息であった兵は辛うじて犯人を指し示し力なく事切れる。グラードは指を追った先で異様な気配を放つ3人の騎士を確認する。

 1人はリーダー格なのか後ろで大きく構えてたっている。その男の立ち姿だけでグラードは恐怖に似た感情を覚えた。


(こいつ、強い。近衛騎士団長クラスかそれ以上の威圧を感じる。何者だ)

 

 更に恐ろしいのは両どなりにいる騎士が格は下がるものの圧倒的な殺意をまとっていることだ。これほど危険で凶悪な気配を出せる騎士はグラードの部隊にはいない。

 グラードは立ち上がり目の前の3人に問いかける。


「ここにいた兵をやったのは貴様たちか?」


 グラードの言葉を受けて右側にいるモヒカン頭の騎士が応じる。


「ああそうさ。ちょっと中に入ろうとしたら邪魔しやがってよ。邪魔だからぶっ殺した。お前ら部下の教育はちゃんとしとけよな」


 続いて左に控える若い女性騎士が続く。


「きゃはははは、そうだよねーー。あたしらと戦ったら100パー死ぬってこともわかんない弱者だよ。よくこんなのに城の守りを任せてるよねーー」


 グラードは相手の騎士の狂気を会話から感じ取り危機感をつのらせる。


(こいつら、まともな騎士ではない。この国の騎士ではあるまい)


 そう思い至ると1つ心当たりがある。


「口調からみて貴様ら神聖オラクル帝国の者か?」

「ぎゃははは、俺らが帝国の兵に見えるってよ」

「きゃはははははは、うけるーー」


 どうにも相手をしていて疲れる。グラードはそんな心情を口には出さず中央の騎士に視線を向ける。


「では聞こう。貴様らは何者だ。なぜ我らを攻撃したのか?」


 そこで沈黙を守っていた中央の騎士が口を開く。


「我らは邪道騎士団と名乗るものだ。我が主の命により、ブリアント王国に制裁を加えに参った。貴様ら近衛にはここで壊滅の憂き目を見てもらおう。抵抗してもかまわない。だがこの2人はここにいる近衛部隊よりもはるかに強いぞ」


 端正のとれた青年騎士は落ち着き払った様子で淡々と無感情に宣告してきた。

 周囲にいた近衛兵たちは精鋭部隊としての誇りがあった。自分たちが王国最強であるという(きょう)()を踏みにじられ怒りに沸き立つ。


「グラート隊長。攻撃の許可を。もう我慢できません」


 血気にはやる若い騎士が訴える。直後、その騎士は胸を槍で貫かれた。


「なっ」


 邪道騎士たちを見ると右にいたモヒカン頭の男が警備兵の槍を手に取って投擲してきたのだ。


「おいおい、今の反応は何だよ。もしかして誰も俺様の投擲を目で追えてねえんじゃねえか。これで精鋭とか何の冗談だあ」


 そこからはグラードの静止も届かず戦闘に突入した。怒りに燃える近衛兵たちは邪道騎士たちに剣を抜き突撃していく。

 中央にいる男はその場から一歩も動くことない。たった2人の邪道騎士に近衛部隊が蹂躙されていく。

 グラードは呆然とその様子を眺めていた。


「ぎゃはははっ、おせえーよ。飯食いながらでも戦えらあーな」


 モヒカン男の方は目にもとまらぬ身のこなしで近衛騎士たちを翻弄する。身体強化されているはずの精鋭の兵が男1人捕らえること叶わず、次々に両手のかぎ爪の武器に切り裂かれ血の海に沈んでいく。

 かぎ爪は魔導具らしく、切れ味が恐ろしく強化されていた。金属の硬度と魔法の守護を容易に突き抜けて紙のように簡単に切り裂かれてしまう。


「ほらほら、もっとふんばりなよ。じゃないとミンチだよ」


 一方左にいた女性の邪道騎士は小柄で華奢な体格に惑わされるが魔法の身体強化が異常であった。大槌とその柄の頭に鎖でつながれた棘のついたハンマーを振り回して近距離と中遠距離、両方で甚大な被害をまき散らす。

 彼女の恐るべき膂力で振るわれる鈍器に近衛の魔導の鎧は砕け散り人がボールのように吹き飛ばされていく。


「馬鹿な、こいつら、本当に人間か?」


 グラードは恐怖に震える手を押さえ込み、部下を救うため自身も戦いに身を投じた。



 戦いはそれほど時間がかからなかった。300人いた近衛部隊に無傷の者はいない。半数以上が倒れ、立っている者も満身創痍だ。


「ば、ばかな。近衛が、私の部隊がたった2人に負けるだと」


 負傷した体を推して立ち上がろうとするが戦闘に参加していなかった邪道騎士に背中を足蹴にされて再び這いつくばる。

 

「貴様はそこで見物していろ。部下が無残に殺される様をな」

「ぐうう、貴様ら、何が目的だ」

「さきほど言ったとおりだ。制裁だよ。貴様は生きて上に伝えるんだ。我々を怒らせるとどうなるか。その恐怖を魂に刻め」

「怒らせるとは一体何のことだ?」


 リーダ格の邪道騎士はグラードの髪を掴み頭を引き上げるとささやく。


「わからんか? 奴隷制を廃止したことだ。あれには我が主が大層お怒りだ」

「まさか、貴様らは奴隷商人の手の者か?」


 グラードは一度地面に顔をしたたかに押しつけられる。


「いま、侮蔑を込めて言ったな。それは我が主に対する侮辱と判断する」


 リーダー格の邪道騎士は女性騎士に指示を出す。


「この男は選択を誤った。これからお前の部下を皆殺しにする。せいぜい目に焼き付けろ」

「きゃはははははは、おっけーー、隊長の許可が出たよ。こいつら全コロするよ。ぶっ殺すよ」

「やめろおおおおおおっ」


 グラードの悲痛な叫びが空に溶けていく。


(頼む、誰か、部下を、助けてくれ)


 グラードの願いは天には届くことなく女性騎士の凶悪な大槌が近衛騎士に振り挙げられる。


「はーーい、まずは1人ぶっころーー」

「よせえええええ」


 グラードの叫びは天には届かなかったかもしれない。だが1人の魔法少女には届いていた。ルージュは素早く懐に入り込むと大槌をいとも簡単に左手で受け止め、女性騎士の腹部に風の魔法をたたき込む。圧縮された風圧が渦を巻いて相手胸部に向かって衝突した。その衝撃音は爆音のように重く響く。


「がはあっ」


 石作りの民家にぶつかり壁を突き抜けてようやく止まった。女性騎士は口からこぼれる自らの血を見て血走った視線をルージュに向けた。


「ちょっと、私に傷を負わせるなんて何者?」


 浴びせられる殺意を涼しい顔で受け流し優雅にルージュは挨拶する。


「御機嫌よう、私は魔法少女ルージュ。あなたたちの敵よ」


 直後、闇を残して消えたルージュはグラードを掴んでいる邪道騎士の影から飛び出して漆黒の剣で刺突を仕掛ける。


「むっ、この太刀筋……」


 ルージュの剣は相手の持っていた大剣で止められるがまるで蛇のようにからみつき武器を飛ばそうと試みる。素早く察知した男は力にものをいわせ防ぐ。だが、その後の体勢で不利を悟った邪道騎士がグラードを手放し大きく後ずさる。

 それを見たモヒカン頭の邪道騎士はルージュをみて口笛を吹く。


「ヒュー。隊長が引いたのなんて初めて見たぜ」


 リーダー格の邪道騎士はルージュをみて問う。


「今のは巻き技か?」

「そうよ。うまく逃げたわね」

「剣の魔法強化をしなかかさに特化する一方で、オレすら上回る身体強化と剣のしなりを利用し剣を絡め取る。凄まじい技量だな」

 

 ルージュはその間、グラードを確保し後方に飛び退いた。


「あなたは近衛の部隊長ね。動ける者に指示を出し下がっていなさい」

「魔法少女か。我が国の魔法少女はおおよそ知っているはずだったが何者だ」

「私はウラノス魔導騎士学園魔法少女科の生徒よ」

「学生だと!?」


 グラードはルージュを見て驚きを隠せないでいる。近衛兵が手も足も出なかった女性騎士を吹き飛ばし、見事な剣技を見せたのだ。

 間違いなく現役の魔法少女だと思い込んでいた。それが学生だと知らされめまいを覚えた。


(新しく新設されたという魔法少女科は一体どうなっている。この実力で学生などと悪夢を見ているようだ。あの学園はいつから魔窟になったというのだろうか)

 

 ルージュが特殊なだけなのだがグラードは知るはずもない。

 女性騎士が隊長と呼ぶ男に許可を求める。


「隊長、あの魔法少女、私がぶっ殺しても良いよね、ね」


 らんらんとした殺意に満ちた目で求める部下に隊長は言った。


「やめておけ。身体強化でお前は負けている。力しか能のないルーキーには荷が重い」


 それは最初の乱入で大槌をとめられたことを指摘していた。

 そこでモヒカン頭の邪道騎士が割って入る。


「ここは俺様の出番じゃん。ブリアント王国の魔法少女、なぶり殺してやんよ」

 

 前に出るモヒカン男を見てグラードはルージュに注意を促す。


「気をつけろ。奴は素早い。まずは足を止めないと勝ち目はない」

「その方法は品格に欠けるわね。私も速度で勝負しましょう」


 ルージュの宣言にモヒカン頭の邪道騎士は腹を抱えて笑った。


「ぎゃはははははは、この俺様に速さで勝てると思ってるのか?」


 そして、次々と周囲の建物の上飛び跳ねり身軽な調子を披露する。それは常人の目では追うのも難しい速さだ。

 グラードが無茶だとつぶやく中でルージュはあざ笑う。


「何のつもりかしら? まるで猿ね」


 その言葉にモヒカン男はこめかみに血管を浮かび上がらせて叫ぶ。


「猿……、てめえええ、マジでぶっ殺す」

「さっきから殺すばかり。品性は猿にも劣るわ」

「死にてええらしいな」


 明らかに上から目線で語るルージュにモヒカン男の怒りは頂点に達した。


「おらあ、かかってこいやあ」

「では、遠慮なく行かせてもらうわ」


 ルージュは《マギカ・コンパクト》を取り出して蓋を開く。


「《変身(トランス)上位魔装法衣(ハイマギカコート)》。法衣選択(コートセレクト)《イェーガー》」

 

 ルージュは最新式の魔装宝玉と後期型魔装宝玉を指で選択すると2つを魔力で結びつける。すると風のルージュの幻影があらわれルージュと重なり1つとなる。

 風の魔力光は速度に特化した法衣に進化を促す。青く、風を思わせる流線的なドレスは以前よりも丈が短く軽快な印象を与える。まるで鳥の羽を思わせる装飾が手足、頭に飾り付けられると変身が完了した。

 それを見た誰もが驚愕の目でルージュを見た。


「なっ? 魔法少女が更に変身しただと。聞いたことがないぞ」


 グラードは正気を疑った。近衛部隊が半壊した現状もそうだが目の前で起きた現象を説明できない。近衛にいると自然と機密に触れることになる。それにしても初耳であった。


「な、なんじゃそりゃああ」


 モヒカン男も想定外の出来事に困惑して動きを止めてしまう。

 戸惑う周囲にルージュは説明する。


「これが魔法少女の新たなる力、《コートチェンジ》よ。戦況に合わせて特化した変身法衣を使い分けることができるわ」


 話が終わるとルージュの姿がぼけて見えた。少なくともモヒカン男にはそう思えた。しかしそれが何を意味するか本能で理解しとっさに全力で回避する。

 モヒカン男の肩を切り裂く漆黒のきらめきが走る。


「残像かよ。おいおい、冗談だろ。マジで俺様よりはええじゃねえか」


 ルージュが立っていた場所には幻影が残るのみ。一瞬でモヒカン男に踏み込みルージュは斬りつけていたのだ。

 しかもルージュの剣は次々と休むことなく襲いかかる。


「この、くそがっ」


 必死の形相でかぎ爪を使って受け止めるが防御で精一杯だ。距離をとろうにもモヒカン男の速度を上回るルージュに距離を詰められる。


「やべえ、こっちがやられる」


 口にした途端、隊長が煙幕を周囲にまき散らし視界を塞ぐと部下を2人抱えて素早く退散していく。


「隊長、まさか逃げるの? 任務果たせてないじゃん」


 怒りを隠せない女性騎士にモヒカン男は言う。

 

「いや、隊長の判断は正しいぜ。任務続行は無理だありゃ」

「その通りだ。あのルージュという魔法少女も厄介だが王城には王国最強の魔法少女ティアナクランもいる。我々は撤退する」


 隊長はチラリと後ろを見るとルージュが追ってくる気配はない。


「ブリアント王国の力を我々は過小評価していたようだ。出直しだ。このことをオズマ様に報告せねばなるまい」

(これではグラハムも手痛い反撃にあうかもしれないな。無魔のことなど心配する義理はないが)



 ルージュは周囲に敵がいないことを確認すると凄惨な戦いの傷跡を見て回る。もはやこれでは無魔を迎撃に向かうどころではないだろう。

 ルージュは両手を空に伸ばすと詠唱する。


「母なる闇よ。そのどこまでも深い慈悲の心で傷つく戦士の傷を癒やしたまえ」


 周囲に闇の光が差し込むと重傷をおった騎士たちをたちどころに癒やしていく。


「これは闇の魔法。それも癒やしの魔法だと?」


 ルージュはグラードに向かって言う。


「現在、私のクラスメイトが必死に無魔と戦っているわ。でもまだまだ未熟だから長くは持たない。このことを王女に報告しすぐに増援の手配を」


 そう言って立ち去ろうとするルージュにグラードは言う。


「そこの魔法少女」

「何かしら」

「部下を救ってくれたこと、感謝する」


 ルージュはたおやかに礼を返すと西に向かって戻っていく。


「仲間を助けに戻ったのか……。急いで殿下に知らせなければなるまい」


 グラードは傷ついた体をおして城にかけだした。



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