第125話 魔技研編 『最凶の敵現る。魔法少女絶体絶命!!』
夜空に瞬く星々のごとく巨大ドローペ内亜空間は魔法の光で彩られていく。
闇の中で大きく、怪しく輝く赤紫のドローペとそれに相対する3つの魔法使いの光が交錯しては離れていく。それらは高速で移動し、激しくぶつかり合い亜空間を揺るがすほどの爆音が絶え間なく続いていた。
「やはり遠距離魔法が効かないようだ」
ドローペが鎧のようなものをまとってからというもの遠距離魔法が無効化されてしまう。ピュアマギカの上級魔法砲撃ですら例外ではなかった。遠距離に対して無敵にも思える能力に苦戦を強いられていた。
「ふみゅ~~、お兄ちゃん。理論魔法や無極性魔法も通じないの」
「ホロウの絶対魔法障壁とは違うということですね」
フレアはどうしようとマコトに不安に揺れる赤い瞳を向け、ティアは冷静に対応策を思案する。
こうなると物理でひたすら殴るしかない。フレアもティアも遠距離型の魔法少女だ。マコトが先頭に立ちドローペと暑苦しい肉弾戦に入るしかない。更には近接戦でダメージを与えてもすぐに回復してしまう。このままではじり貧だとマコトは舌打ちした。神について多少知識のあるティアがマコトに助言する。
「マコト、邪神の権能というのは魔法の上位互換に当たる超常現象です。ドローペの権能は遠距離魔法、遠距離攻撃を無効化するタイプのようです。魔法では権能の能力に打ち勝つことができません」
遠距離魔法を無力化するだけなら理論魔法は通じるはずだ。試しに神龍眼スキルで実弾の銃を発砲してみれば、ドローペの体に届く前に弾かれてしまう。
「あの権能は物理現象も影響下におけるものらしいな」
「むむっ、ずるい能力なんだよ」
「もっと近接の技術を習得しておくべきでした。遠距離を全て無効化されてしまうと戦術が絞られてしまうでしょう」
歯噛みするような2人を横に、マコトは引っかかりを覚えていた。
無効化? 果たしそうなのだろうか、と。
「イッヒッヒッヒ、どうやら手も足も出ないようだね」
「いや、そうでもない。そろそろ反撃させてもらうつもりだ」
「負け惜しみを」
「ティア、フレア。手を出すな。試したいことがある」
2人の返事を待たずマコトはドローペと格闘戦に入った。マコトも基本は銃使いであり遠距離型だ。それでも戦うのは男の意地と何より共和国王女シルヴィアとの契約、『龍人の花婿の儀式』による恩恵がある。竜人のごとき身体能力。更には鉄壁の鎧竜鱗の力だ。鎧竜鱗は扱いが難しい。まだまだお粗末なものだがマコトの受けるダメージ軽減に大きく貢献していた。
「おおおおおおおっ」
防御を捨ててひたすら一点に拳をたたき込んでいく。何度も、何度も。
ドローペとの応酬でマコトが受けるダメージは無視できない。幾度と打撃を受けて肋骨と左肩の骨が折れる重傷を負う。
「あと少し、砕けてくれ」
渾身の右拳を相手の左肩にたたき込む。そうして、ドローペの鎧部分の粉砕がようやくかなう。
チャンスは今しかない。そのまま拳を押し当てて魔法をたたき込む。
「《ガンマギウスナックル、ギガントキャノン》」
押しつけた拳から魔法で形成された巨大な拳が放たれ鎧が剥がれた破損箇所に攻撃がとおっていく。
(やはりそうだ)
意図したとおり魔法はドローペに届いた。激しい爆発と共にドローペの肉体へと著しい損害を与えていった。
「ぐああああああっ」
内側からの攻撃には弱かったのかドローペの纏う邪神の鎧は伝染するように損傷箇所からヒビが走り割れていく。マコトとドローペは反発し合うように吹き飛び、ティアがマコトを背後から抱き留める。
「マコト、大丈夫」
「なんとか」
「魔法が通じたよ。どういうことなの」
不思議そうにしているフレアにマコトが説明する。
「奴の能力は無効というよりはあの鎧のような装甲で弾く特性を持つようだ。つまりカギはドローペの纏う邪神気で形成された鎧だ」
「つまり鎧を近接戦闘で砕けば通じるってことなんだね。でも違ってたらどうするの」
現にマコトはボロボロだ。体の複数箇所で骨が折れ、戦闘継続は難しい重傷である。心配もあってフレアの言葉には責めるような色も混じっていた。
マコトは妹に心配をかけたと申し訳なく思いつつも答える。
「俺が倒れてもピュアマギカのティアとフレアがいる。それに自信はあった。覚えているか。最初の激突でドローペは鎧を纏う前だったが魔法攻撃は通じていたろ」
「「――あっ」」
2人ははっとしたように思い出し、そう言えば顔を見合わせた。
「権能を得る前と後であれほどわかりやすい外見の違いがあるのだから結びつけて考えるのは簡単だ。今なら魔法が通じる。ティア、フレア。後は頼んだ」
「……やっぱりとんでもないねえ。あの御方が執着するわけさね」
ドローペの損傷は大きく回復も幾分鈍い。それを見たティアとフレアは好機であるとフィニッシュアタックの準備に入る。
「「《ミラクルマギカロッド》」」
浄化の力を持った魔装具の杖を召喚した。ティアとフレアは周囲に精霊境界を展開し景色が一変する。虹色に輝く聖なる空間が広がり、2人はドローペに向かいミラクルマギカロッドを向ける。
「ぐあああ、なんだいこの空間は。不快感は。まさかこれが精霊境界だっていうのかい。まずい、まずいさね」
邪悪な者の力を弱め、魔法の力を何倍にも高める精霊境界の特性にドローペが苦しみ出す。このままではまずいとドローペは渾身の力を込めてティアとフレアに遠距離邪神砲を討ちだしてくる。
「くらいなっ、特大邪神砲!!」
迫り来る巨大な破壊の渦に対してピュアマギカの2人は慌てることなく迎え撃つ。精霊結晶のロッドを重ね合わせ、浄化の光が一気にあふれ出す。火、水、地、風、雷属性が2人の周囲に絡みつき突き出したロッドの先に力を蓄えていく。もはや目の前の視界を覆い尽くすほどに迫る攻撃を前に2人は恐れることなく踏み出して力を解放した。
「フィニッシュアタック《ミラクルマギカエレメンタルブレス》」
いろとりどりの魔法の光が邪神砲をのみこむ。そして、より圧倒的な力で押しつぶした後ドローペに迫った。逃げ場のないほどの光。迫り来る死の恐怖にドローペは慌てて背を向けようとするがもう遅い。
「ひ、ひぃ、や、やめとくれえーー」
圧倒的な浄化の光がドローペを消滅させていく。ミラクルマギカブレスは邪悪を打ち破る聖なる力。ドローペは体から魂の芯まで邪悪に染まり残らず消しとばされたのだった。
あとに残ったのは虹色の神気を纏った小さな宝玉だけである。その宝玉もひび割れて砕けると中から膨大な神気が放出させ天へと昇り去って行く。
「なんだ今のは。宝玉?」
疑問に思うも答えはない。王都の空は邪悪と共に晴れていく。囚われていたホロウイーターも浄化され天に昇っていく。白い光が何千、何万と上っていく光景は祝福のようでもあり、魔法少女へ感謝を送るかのように幻想的であった。
王都の人々も魔法少女たちもしばし時間を忘れて見入っていた。
――――――
――――
――
マーガレットも撤退の動きを見せ始め徐々に勝利の実感が湧き上がろうかという刹那のこと、異変は起こった。それは空が割れ空間を強引に割り砕いて出現する。
空間がガラスのように砕け、耳障りな音が響き渡る。時空が、世界が悲鳴を上げるような甲高い音にいい知れぬ不気味さを感じずにはいられない。
「あ、ああ、そんな、どうして……、まだ動けないはずなのに、早すぎる」
いち早くその存在の正体に気がついたフレアは極度に怯え、顔が青ざめていた。
「フレア。どうした。何があった」
「来る。あの怖い女の人が来る。私を殺しに来たんだ。いやああーーーーーー」
頭を抱えてしゃがみ込み、フレアが泣き出してしまった。
「怖い女……。まさかフレアの予知に出てくるっていう女のことか」
だとすればマコトにとっても敵である。だがそれにしても圧倒的な威圧感だ。彼女の纏う魔力は研ぎ澄まされすぎて寒気がするほどにおぞましい。見下ろす視線は冷え切って全てを見下しているかのようだ。
(どうすればここまで冷めきった目ができるんだ?)
マコトは理解に苦しむ。フレアが怯えるのもわかるというものだった。
なにより今は状況が悪い。連戦で味方の消耗は著しくマコト自身重傷だ。間が悪いにもほどがある。まるで王都を、ピュアマギカを何が何でも滅ぼそうとしているかのよう。次から次と敵の新手が来るこの連鎖にマコトは見えない何者かの悪意すら感じる。
(迷っている暇はないな。ルージュに助けを求めよう)
マコトは緊急連絡用の非常通信端末を亜空間から取り出すと起動した。
空からゆっくり降りてくるのは一見すれば女神か天女を思わせる清廉な装い。そして、浮世離れした儚く可憐な容姿。だというのに心の底から沸き上がるこの不快感と恐怖はどういうことなのか。その女を警戒してか、動ける魔法少女たちがティアナクランに率いられてマコトたちと合流する。
「マコト」
「ティアナか」
地上に降りて満身創痍に横たわるマコトを見てティアナクランが慌てて治癒魔法を施す。
「治療します」
「助かる」
ゆっくりとこちらに降りてくる謎の少女を警戒しつつ、ティアナクランがマコトにたずねる。
「彼女は……敵なのですか」
誰ではなく、敵と聞くあたりティアナクランも友好的な雰囲気ではないと理解していた。
「恐らくな。正体は分からない」
ふわりと少女は地上に降り立つと、黄金の錫杖をシャリンと打ち鳴らし一度見回した。
その少女は煌めくような長い黒髪で、あまりみられない特徴的な顔立ちをしていた。ブリアント人に比べると起伏のない顔。スレンダーな体つき。まるで”日本人”を思わせる美少女である。
「……まさかな」
そして、マコト自身彼女の顔を見てからどうにも落ち着かない。どこかで見たことのある。だが思い出せない。沸き上がる疑念。
少女はマコトを見つけると目が合った。思わず気圧される強い視線。マコトは言い知れない恐怖と不快感が体を駆け巡っていく。
「ああ、やっと見つけた。やっと会えた」
ポロポロと涙をこぼす少女。だがマコトを抱きかかえて治療するティアナクランを見ると突如態度が激変する。
「魔法少女……」
剣呑な雰囲気を纏うと一歩足を踏み出す。かと思えば既にティアナクランの前に立っていた。おそるべき速度で音もなく距離の壁を飛び越えてきた。
「邪魔だあああああああああああああっ」
まるで火山の噴火を思わせるような激しい激情が裂帛の声と共に吐き出された。
まるで虫けらのようにティアナクラン手で払うと変身しているはずの魔法少女がいとも簡単に吹っ飛ばされた。
「きゃあああーーーー」
「殿下」
慌ててティアナクランを受け止めに走る者と王女に手を上げた黒髪の少女を取り押さえようと動く魔法少女たち。
少女はマコトを確保すると、
「邪魔だって言ってるでしょうがああああああああああああっ。失せろっ!!」
黒髪の少女が周囲に錫杖を振ると圧倒的な暴風が突き刺さるように魔法少女たちに襲いかかっていく。漆黒の激しい風がマコト以外全てを吹き飛ばす。
そして、マコトを不可視の魔法で縛り付けると空中にふっと立ち上げ抱きしめる。まるで宝物のようにギュッと抱きしめてきた。
「ああ、マコト、マコト、マコト、マコト、マコトマコトマコト…………」
何度も少女は頬擦りしてマコトの名前を連呼する。はねのけようとするも全身を縛られ動けない。拘束魔法を解除しようにも同等の処理速度で再構成される。まるでいたちごっこだ。
(俺と同等の魔法処理速度!? 抜け出せない)
「ああ、マコト逃げようとしなくてもいいじゃない。大丈夫、私があなたを傷つけるはずないじゃない。”あのこと”だって誤解なんだから。私はあなたを裏切ったわけじゃない」
「……何のことだ」
見たことのある顔。どこかで聞いたことのある声、そして、言動。嫌な予感が、信じたくない推測が……マコトの頭を駆け巡っていく。知りたくないが、それでも問わずにはいられない。
「お前は一体誰だ。なぜ俺のことを知っている」
ぱちくりと目を瞬いたあと、黒髪の少女は薄い唇を動かした。
「私の今世の名はイーリス。あなたには皐月と言った方がわかるかしら」
「――――なっ」
絶句した。皐月とは前世でマコトの信頼する秘書だった女性だ。しかし、彼女の裏切りによって大事にしていた研究が大企業に奪われることになった。そして、その大企業はその技術、大事な娘とも言うべき存在を操り無理矢理マコトを殺害したのである。原因となった皐月はマコトにとって到底許すことができない相手だ。
「お、お前が、あの、皐月なのか。ありえない。お前も転生していたっていうのか」
「ええ、ええ、そうよ。会いたかった。ずっと後悔していた。守れなくてごめんなさい。あの企業は平気で技術は盗むし嘘もつく。契約も守らない。汚い方法にも平気で手を染める。あそこまでするなんて予想していなかった。本当にごめんなさい」
ほろほろと泣き出す彼女だが同情も憐憫もわかない。あるのはただ怒りだ。
「お前、おまえがああっ、お前のせいでヒカリたちがああっ」
女性に手を上げるのに抵抗があるマコトだが彼女ばかりは例外だ。おもいっきりひっぱたこうとするも魔法で拘束されて動かない。ただ血走った目でイーリスを睨めつけることしかできない。
「ああ、怒らないで。誤解、誤解なのよ。全てはあなたのためだったのよ」
傷ついた表情で彼女は語る。
「大丈夫。ちゃんと話せばあなたはきっとわかってくれるはず。私はあなたを愛してるのだから」
そう言ってイーリスはマコトの頬を舐め上げる。それを見たティアは不快感と怒りで立ち上がる。
「マコトから離れて下さい」
「雑魚がっ」
ティアの魔力のこもった拳が半透明の魔法障壁に阻まれる。しかもあまりの強度にティアが逆に弾き飛ばされてしまうほどに強度だった。
「魔法少女が忌々しい」
錫杖を空中に固定させて遠隔操作し、一度振り鳴らすとイーリスの百メートル頭上に何万という球状の攻撃魔法が出現する。それも複数属性で出現した魔法に見上げた魔法少女たちがあ然とし、ある者は恐怖に体が震え出す。
「消しとべ」
イーリスの周囲を残して圧倒的な魔法砲撃が絶え間なく降り注いでいく。どれだけの魔力、制御力を費やせば可能となるのか。絶対者による魔法の蹂躙が魔法少女たちに襲いかかる。もはや絶望そのものが降り注いだ。
「よせっ、やめろ。さつきーーっ」
「だめよ。マコトを惑わす悪い虫は全て駆逐しないと。魔法少女は皆殺しよ」
イーリスの目には狂気が宿り、魔法少女に対する激しい殺意と憎しみがにじんでいる。
イーリスの圧倒的な魔法攻撃が止むと辺り一帯クレーターだらけになる。ほとんどの魔法少女が傷つき地に伏していた。幸いにしてマコトの魔装法衣に対する過剰なまでの防御性能重視によって彼女たちの命は繋がれていた。
「これで生き残るのか。しぶとい。ならばもう一度……」
それを止めるようにイーリスに挑みかかるものたちがいた。先ほどの魔法砲撃をなんとか耐えぬき、反撃に転じたティアとリリアーヌ、シルヴィア、ユーフェリアである。フレアは恐怖に耐えながら強大な魔法力で倒れた魔法少女たち全員を風の魔法で避難させ、ティアナクランが防御魔法で守護しつつ治癒魔法を広範囲で展開している。
「遠距離タイプなら接近戦で畳み掛ければいいのよ」
「愚かな。権能《スローワールド》」
「なっ」
シルヴィアは驚愕した。イーリスに挑みかかった4人の動きが突然鈍ったのである。時の流れを停滞させたかのようにゆったりと動く。
「時空魔法《フィジカルアクセル》」
更に今度はイーリスの動きが突如として加速する。信じられないほどの速度と質量もった体術で吹き飛ばした。イーリスは時間すら操り、最後は超加速した蹴りを放ったのだ。その威力は凄まじく竜人のシルヴィアすらもはや立ち上がれないほどである。
「なんてことなの。あれは強すぎます」
ティアナクランは立っているのが自分とフローレアだけという絶望的な現状に震えが止まらない。リリアーヌたちにすら完勝してしまう圧倒的な実力。そして、イーリスはこの場にいる魔法少女全てを殺すつもりだ。
「諦めるわけには……でも」
イーリスを倒すどころかどう凌げばいいのかすら方策が立たない。イーリスの実力の底がしれない。ティアナクランは体の震えを抑え込むので精一杯だ。
その間にも無慈悲なイーリスの魔法はとまらない。詠唱もなく、予備動作もなく、濃縮された雷光の塊が魔法障壁へ高速で撃ち出されていく。対してフレアがとっさに王女の前に立ち魔法を放つ。
「ピュアマギ、《ファイアジャベリン》」
魔力にものをいわせた超高熱の投擲型の槍が轟音を響かせて迎え撃つ。魔法出力も大きさもイーリスの攻撃を上回り飲み込むかと思われた。しかし。
「権能|《貫く雷光》」
不思議なことにフレアの魔法はあっさりと食い破られる。それを見聞きしたティアナクランがとっさに判断した。硬い障壁を斜めに傾けて上空にそらす障壁を形成させる。
「権能|《消失する守護》」
イーリスがまたも不可思議な詠唱を行った後、ティアナクランの魔法障壁が途端に消失してしまう。この異常事態にマコトは目を見開いた。
(これは神々の使う権能という能力か。しかしどういうことだ。なぜ個人が、いや人が複数保持している?)
マコトの知識が確かなら個人につき1つのはずだった。イーリスは少なくとも3つ使って見せた。これは異常なことだ。
「うあああああっ、間に合ってええっ」
とっさにフレアが魔法の炎を付与した手で無理矢理飛来するイーリスの雷光を下から突き上げて上空にそらした。フレアが触れた瞬間、雷撃一部が弾け、ティアナクラン共々雷撃に包まれ膝を突く。大半は上空に逸れたがそれでもフレアとティアナクランは身体機能に深刻なダメージをうける。
「あら、しのいだのね。ゴキブリ並にしぶといわ」
イーリスは冷え切った目でフレアを見下ろしながらゆっくりと近づいていく。
「あ、ああ、こないで。こないでえええっ」
イーリスの強さに触れ、予知のトラウマがよみがえったフレア。体は雷撃でしびれて動かずただ叫ぶことしかできない。
「安心して。すぐには殺さない。あなたにはもっと残酷な死を与えてあげる。魔法少女は根絶やしにしてやるから、あははははっ」
「いやあ、いやあああ、お兄ちゃん、たすけてええ」
マコトは必死にもがくがイーリスの魔法拘束は揺らがない。だがふとマコトは気がついた。わずかだが知っている魔力を感じ取れた。そのおかげで冷静さを取り戻す。まだ執れる手段が他ある事に気がついた。
(サイコキネシス)
「ん?」
障壁越しだがガツンと頭を殴られたような衝撃にイーリスはのけぞりわずかに体勢を崩す。その隙を逃さず一瞬で小さな時空の穴が割開かれる。そこからイーリスの顔に拳が突き出される。何重にも張られた障壁を次々と突き破り、おもいっきりイーリスの横顔を殴り飛ばす。
「がはっ」
弾丸のように吹き飛ばされイーリスが300メートルは後ずさっていく。イーリスにとって直接ダメージを受けることなどあまりに久しい。体勢を立て直し現れたルージュに瞠目する。
転移の魔法で現れたルージュは辺りを見回すとほぼ全滅といっていい魔法少女たちの現状を目の当たりにする。何よりマコトも重傷のため拘束から解放されても満足に立ち上がれない。徐々にルージュから湧き出る魔力が張り詰めていく。
ルージュは普段クールで無感情に見える。だがそれは大切なものを守るために強い理性で戒めているだけだ。かつてマコトがこう言った。
ルージュは誰よりも愛情が深いと。
仲間をこうまで傷つけられたルージュは理性の戒めを解き放つ。
「あなたがこれをやったのね。皆を傷つけた……」
ルージュの怒りが魔力圧となり、威圧となってイーリスに叩きつけられていく。このときになりようやくイーリスの顔から余裕が消えていく。
「まさか、ピュアマギカ以外でそれ以上の魔法少女が存在するなんてね。ふふっ、あなた何者なの。イーリスが命じる。名前をこたえよ」
そのときマコトはイーリスの妙な言い回しに気がついた。そして、とある可能性を思いつく。とっさにルージュに叫ぶ。
「この女は複数の権能を使う。名乗るな。迂闊に応えるのも危険だ」
マコトの言葉にイーリスの眉がわずかにつり上がる。これを見てルージュは全てを理解した。マコトの忠告は的外れではないと。
(さすがマコトさん。洞察と危険察知、機転はわたくしよりも上だわ)
改めて、ルージュはイーリスに目を向ける。しかし、視線は下げてイーリスの顔を見ないようにした。これは敵がどれほどの権能を持つのか把握しないうちは目を見ることも危険だと判断したためだった。
(思いつく限りの異能力を想定し、可能な限り安全マージンを取りつつ対策も取っておく必要がある。”わたくしより強い”とみるべきだわ。全力で行くしかない)
ルージュは魔装具を取り出すとコンパクトを開き、3つの魔装宝玉を全てに手をなぞり添えて起動する。
「《変身・究極・魔装法衣》」




