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第122話 魔技研編 『妹にして1番弟子フレア』

 フレアとレイスティア、2人の持つ神秘の宝石。マスターマギカジュエル。

 真っ赤な情熱の光はフレアの魔装宝玉『セイクリットホーン』。

 青の清らかな光はレイスティアの魔装宝玉『キラリ』。

 魔装宝玉が城を光で満たしていく。あふれかえる光にマーガレットもドローベも目をかばい立ち尽くすほどである。

 これは魔法少女の変身の光。伝説の魔法少女ピュアマギカの光だった。

 究極の母なる魔装宝玉《マスターマギカジュエル》がフレアとレイスティアを魔法で包み込む。フレアは詠唱を歌うように読み上げ、伝説の魔法少女ピュアマギカへと変身する。


「笑顔と未来を守る優しさの光――」

 

 フレアの衣装が濃厚にして膨大な魔力による魔法で物質化されていく。太陽のような光が天より降りかかり、閃光の粒子が花のつぼみのようにフレアの体を覆っていく。

 色は輝くフレアの長い髪に合わせて閃光の黄と純心の白。神聖にして清らかな乙女思わせるドレス姿のフレアが大輪の光の花から姿を現す。光の帯がフレアの周囲に纏わり付くと胸元に魔装宝玉が収まり、彩るようにオレンジ色のリボンと装飾があしらわれていく。


「――青空のごとく人々を導く光となれ」


 帯状の光はフリルと小さなリボンが愛らしいグローブとソックス、羽根つきの靴となって一層フレアの愛らしさを引き立てる。フレア本来の明るさと笑顔を取り戻させるような衣装ができあがっていく。最後にフレアのふわふわな長い髪をツインテールにまとめ上げ、髪飾りがあらわれた。

 一方でレイスティアも変身が始まっていた。


「輝く光。それは希望なる光。夜空に輝く星々のごとく人々の道標となれ」


 無数の星と尾を引いていく光のカーテンにレイスティアは覆われていく。光のカーテンは清純な魔装法衣へと変わる。衣装は夜空に輝く星々のきらめきを思わせる優雅な装い。明日への希望を連想させ、どこまでも深い無限の可能性をうかがわせた。

 2人の魔装法衣は日中と夜。相反する二つを象徴するようであった。

 変身を終えたフレアとレイスティアはその後、手を取り合って詠唱する。


「「それは偉大なる愛、包み込む守護の誓い」」


 お互いに声を揃え、祈りを世界に振りまいた。


「「清らかな願いよ、届け明日へ」」

「――優しさのピュアマギカ、フレアいっくよーー」

「――希望のピュアマギカ、ティア参ります」


 フレアが恐怖を乗り越えてついに魔法少女に覚醒した瞬間だった。



 

 ピュアマギカが2人もそろった歴史的な瞬間を目にしたマコトは、体が邪気に蝕まれながらもしっかりと目に焼き付けた。そして、痛恨の表情で涙する。


「魔法少女……。くっ……なんてことだ」

「あんた、なんて泣いてるんだい」


 不気味に思っているドローベにマコトは憎しみ混じりに訴える。


「新しい魔法少女の誕生に隣で立ち会えなかったあーーっ。無念過ぎるーー」

「そんな理由かいっ!?」


 さすがのドローベもマコトの飽くなき魔法少女への執着にドン引きだった。

 フレアは視線を巡らせると状況を把握する。マコトを助けるためにはマーガレットを越えなくてはならない。更にマコトの間には邪神の力がこもった不可侵の障壁が邪魔をする。最後にホロウの幹部ドローベが立ちはだかる。たとえピュアマギカが2人そろうとも、とらわれたマコトを助け出すのは容易ではないと思えた。

 どうしたものかと悩んだ末にフレアはレイスティアに提案する。


「ティアちゃんはマーガレットさんを抑えて。私がお兄ちゃんを助け――」

「お断りします!!」


 レイスティアがかぶせるように素早く否定する。


「マコトは私が助けます。任せて下さい」


 自己犠牲と献身を建前としたすばらしい偽善の笑顔でレイスティアが一歩前に出る。それをフレアがむっとした内心を隠しつつ踏み出し対抗する。

 フレアはずるいと思ってしまったのだ。フレアも兄であるマコトを慕っている。だからこそ譲るわけにはいかない。

 2人は互いに押し合って火花を散らしていく。


「ふみゅうーー、お兄ちゃんは渡さないもん」

「フレアちゃんのブラコン!!」

「それって褒め言葉?」

「……褒めてません」

「それにマーガレットっておばさんの相手は嫌。だって私をすっごく睨んでて怖いもん」


 マーガレットはティアナクランたちを一方的に追い詰めた恐ろしい堕天使である。鋭い眼光は剣のように鋭く近寄り難い。特にフレアにばかり殺気を振りまき今にも襲いかかってきそうだ。怖がりなフレアが遠慮するのも頷ける。


「……おばさんだと?」


 なによりフレアの不用意な発言がますますマーガレットの沸点を下げていくのだ。

 

「そもそもフレアちゃんはどうやって邪神の障壁を越えるつもりですか」

「考えがあるんだよ。だからマーガレットのおばさんをしばらく抑えて」


 言いたいこともあったが、マコトの苦しそうな声が再び城に響き渡ると、レイスティアは頷くしかない。問答している時間も惜しかった。


「分かりました。時間もないですし、うけたまわりましょう」

「それとティアちゃん」

「何ですか?」

「……うまく逃げてね」


 それはどういう……、言いかけて迫ってきたマーガレットに気がつきレイスティアは飛びだした。


「フロレリアの娘っ、貴様は生かしておけない!!」

「――っ、フレアちゃん!!」


 レイスティアは靴裏から紫電の光を放出し一気に加速すると、マーガレットに激しい勢いで体当たりをくらわせる。そのままフレアから引き離す。

 マーガレットのフレアに向ける殺意は直接向けられていないレイスティアであってもぞっとする。体の芯から凍ってしまいそうな冷たい殺意。フレアに向けさせまいとレイスティアが遮り、力尽くで押しのけた。


「はあーーっ」

 

 マーガレットは数メートルほど後退したところで、黒くも美しい翼が雄大な広がりをみせる。空中で姿勢を立て直してその場でぴたりと静止する。マーガレットは涼しげな銀髪をなびかせ、凍り付くような声でレイスティアに警告する。


「マコトの婚約者に剣は向けたくない。殺されたくなくばそこをどけ」


 それは静かに、しかし声に力のこもった警告だった。心に深く突き刺さるような恐怖が広がっていく。立ち尽くしてしまいそうな圧力にぐっと耐えて見つめ返す。

 

「私はマコトを助けたいのです。婚約者だからこそ、ここは通せません」


 これはマコトを助けるためだと両手を広げて決意を態度で示す。

 マーガレットは苦しむマコトの方に目だけを向けて様子を確認すると、腰に下げた剣にかける手を離した。レイスティアはマーガレットの持つ剣を確認すると言いようのない悪寒を感じる。

 あれは使わせてはいけない、レイスティアの勘が告げていた。どうやら使う気はないようなのでほっとする。

 マコトが苦しむこの状況はマーガレットにとっても不本意であると感じていた。レイスティアは説得の余地があるのではないかと考えている。


「私はマコトを助けたい。けれど私はあなたともわかり合いたい。だってマコトの育てのお母様なのでしょう」


 ほんのわずかだがマーガレットの意思が乱れた。それはわずかな揺らぎだったのかもしれない。それでもフレアに集中する意識が今はレイスティアに向けられる。


「いいだろう。ならば試させてもらおうか。その意思と力を」

「分かりました。それで伝わるものがあるのならば」


 剣を抜かずともマーガレット単体の戦闘力はピュアマギカとなったレイスティアと同等か、それ以上だ。

 レイスティアは閃光の身体強化を得意としていて、速度ならば自信がある。常人ならば星の瞬き程度にしか目で捉えることしかできないほどの圧倒的な高速戦闘を仕掛ける。それをマーガレットはこともなく対応しレイスティアと渡り合う。


「(信じられない。閃光の魔法を得意とする私の速度についてくる。この人の強さは底が知れない。私勝てるの?)」


 恐怖で硬直しそうな体を鼓舞しながらレイスティアはマーガレットと空中で格闘戦に突入した。



 

「《アークフレア》!!」

 

 フレアは体の内から沸き上がる膨大な魔力を用いて、火属性の特級規模にも匹敵する高威力魔法を障壁に叩きつける。触れるものを焼き尽くす白熱の渦に飲まれても邪神の力による障壁はビクともしなかった。

 城の中は一時的に業火の世界に様変わりしている。凄まじい炎に晒され、さすがのドローベもヒヤヒヤした。


「ふう、なんて威力の魔法だい。驚かせるんじゃないよ」

「ふーーん、確かにこれは破れそうにないね」


 魔法が通じなかったというのにフレアは悔しそうな態度が見受けられない。むしろ興味深そうに障壁を観察している。ドローベはそれが不気味に感じられた。だからだろうか。多弁に語り出す。


「ムダさね。この障壁は城全体に張り巡らされた魔導回路によって出力が増幅されているさね。地面に落とし込んだ複雑な術式で邪神様の力を再現しているのさ。いかにピュアマギカといっても破れやしないよ。大人しく指をくわえて眺めているといいさね」

「絶対そうはならないよ」

「どういう意味さね?」


 フレアはいたって落ち着いた様子でドローベに指摘する。


「そもそもお兄ちゃんは魔法少女の敵に死んだってならないよ。それに……」

 

 右手を前に突き出しフレアは魔法を練っていく。


「私が絶対に阻止するから!!」


 フレアは魔装法衣の原理を応用し、魔法で強力な魔法具を一から作り上げていく。右手には可愛らしくも巨大なハンマーができあがる。キラキラでデコりにデコった少女趣味のデコハンマー。そのセンスを見ただけでもドローベは衝撃を禁じ得ない。


「なぁんて悪趣味な武器さね」


 冗談のような魔導具を生み出したフレアにドローベはいろんな意味で警戒を強くする。

 一方でマコトといえば思いもよらない魔法少女フレアの力を目にして苦痛も忘れ、キラキラとそれはもう子供のような瞳で目を奪われている。


「うはあーー、すっげえーーーー。なんだよその魔法は?」

「魔法で武器をこの場で作り上げたというのかい。ありえないさね」


 マコトもドローベも見たこともない魔法に驚きの声が上がる。あえて言うならば魔装宝玉の変身による魔装法衣に近い。だがそれは魔装宝玉あっての発現だ。フレアの見せた力は一から魔法で形成しているのである。

 

「これは『創造魔法』だよ。魔法は奇蹟の力。膨大な知識と魔力、そして想像力が可能とする私だけの魔法。お兄ちゃんの作る魔導具を誰よりもそばで見てきた私だからそこ可能な力だよ」

「創造魔法!? それはもう神の領域に届く魔法じゃないか」


 もう何年もフレアとマコトは体を共有し、技術と知識と経験を共にしてきた。それはつまりマコトの一番弟子のようなものである。フレアは現代地球の技術力と進んだ文明の知識に触れ下地を得ていたことになる。その才能が今一気に開花しようとしていた。

 創造魔法は素材から原理と内部構造まで全て理解し、緻密に設計図を頭に描くことができる今のフレアだからこそ可能とする魔法である。


「しかし、幾ら強力な魔導具を作ったところで無駄さね。この障壁は戦術級の魔法を連続でたたき込まれてもビクともしない。正に鉄壁さね」


 またもドローベは余計なことまで語り出す。相変わらずフレアはニコニコと笑顔のままにその真っ赤な瞳がドローベをとらえている。その目の奥から感じる揺らぎのない自信がドローベを不安に駆り立てる。


「へーー、そうなんだ。でも関係ないよ。私の狙いはそっちじゃないから」

「はっ?」

 

 フレアはにっこりと太陽のように眩しい笑顔を浮かべると、巨大なデコハンマーを振り上げて狙いを定める。しかし、その攻撃対象がフレアとドローベを隔てる障壁ではなかったのだ。この城そのものだと気がついたとき、ドローベはフレアのぶっ飛んだ思考におののいた。


「待てえーーーー、ちょっと待つさね。まさかこの城ごと障壁を破壊するつもりかい。あんた、城の崩落に巻き込まれて無事じゃすまないよ」

「大丈夫だよ」

「本当かい」

「完膚なきまでに破壊するだけだから」

「全然大丈夫じゃないよ!?」


 その後、ドローベは破壊神を見た。金色の髪を振り回し、ついでに可愛らしい冗談のようなハンマーで次々と城の大事な柱を吹き飛ばしいく魔法少女はかいしんの姿を。

 小柄なフレアが握ったハンマーで巨人も真っ青な暴れっぷりを見せつける。ハンマーはフレアの天井知らずの魔力をたっぷり吸い上げて、爆発の力を持った破滅的な力を生み出していた。

 美術的価値も高い城が無残にも崩れ落ちていく様をドローベはなすすべなく見送るしかない。


「ああ、ああ~~。この城にどれだけの技術と資金をかけたと思っているんだい。この城は邪神様をたたえる宮殿代わりでもあるんだよ。それを、それを、あんたは鬼かい」


 ついには鬼でもあるドローベから鬼と()()されるフレア。悲痛なドローベの叫びも意に介さず破壊行為は止まらない。

 破壊によって城は揺らぎ、天井から巨大な質量をもった構造物が降り注ぐ。それすらもフレアは爆発のハンマーで打ち砕いていく。もうフレアの暴走は留まるところを知らない。城中に爆発が乱れ被害が加速する。


「くっ、くくくくくっ」

「なにがおかしいんだい」


 突然笑い出したマコトはドローベに忠告する。


「フレアはただ俺に任せていただけじゃなかったんだな。こんな手を思いつくとは立派に成長して……お兄ちゃんは感動だ」

「こんな状況で感激してるんじゃないよ、このシスコンがっ」


 フレアは仲間の支えもあったとはいえ、恐怖を克服してみせた。兄として奮い立たないわけがなかった。


「俺が魔法少女の敵になる? 確かに冗談じゃないよな」


 マコトは神龍眼のスキルを気力で発動すると、どうにか一つだけ魔装銃を呼び出すことに成功する。それはかつて空を覆う雲すら吹き飛ばして見せた強力な魔装銃だった。サイコキネシスの能力で遠隔操作し、地面に向けてマコトは発射する。魔装銃から迸る破壊の力は障壁内で荒れ狂い、マコトとドローベに襲いかかる。


「なっ、何をするんだい。自滅するつもりかい」

「魔法少女の敵になるくらいなら死んだ方がマシだ。それに俺に死なれたら困るんだろ。俺を死なせたくなかったら解放するんだな」

「バカなのかいっ!?」


 まさかこの状況で逆に脅迫されるとは……。

 ドローベは慌てた。一方は城ごと障壁を壊そうとし、もう一方は自分の命を使った脅迫を仕掛けてくる。どちらも破天荒な行動をする2人。ドローベは毒づきたくもなる。

 

「このイカれ兄妹がっ」


 ドローベはやり場のない怒りに絶叫した。とはいえこのまま障壁内部で強力な魔法砲撃を連発されてはドローベだってただではすまない。逃げ場のない魔法砲撃が障壁内部で荒れ狂う。泣く泣くドローベは一度障壁を解除するしかなかった。


「がはっ、ごほっ」


 しかし、代償は大きい。(きょう)(じん)な肉体を持つドローベと違い、マコトの体は自ら放った魔法砲撃でボロボロだ。体中から血が流れ、素人目にもすぐに治療が必要と判断できるほど傷は深い。


「お兄ちゃん!!」


 フレアがそんなマコトの姿に泡を食って駆けつける。魔法をぶつけて拘束を解除すると抱えて後方にさがる。そして、マコトに問い詰める。


「どうしてこんな無茶をしたの」

「魔法少女の足手まといにはなりたくないからだ」


 ぐったりと力なく軽口を返すマコトにフレアの語気は強まる。

 

「――お兄ちゃん!!」


 フレアは怒っているようだがマコトは真面目な話、小さく耳打ちする。


「フレアの着眼点はいい。障壁を壊すだけならな」

「えっ!?」

「だが思い出せ。ティアが言った『落日の預言書』の内容を」


 言われてフレアははっとする。

『偽りの安寧あんねい(きょう)(じゅ)せし都、大地は岩に蹂躙じゅうりんされ、うつろな悪夢が空を埋め尽くし命を食らう。末に空からの鉄槌が降りかかり、死が埋め尽くす墓標とならん』

 問題は最後の一文だ。


「ホロウイーターが悪夢と解釈するなら、現状から王国が滅びるカギはこの空中要塞にあるとしか読み取れない。この城に制御装置があるなら迂闊に破壊するべきじゃない」

 

 フレアはようやくマコトの意図を理解する。もしこの空中要塞が制御を失い王都に落下したのなら、その被害は計り知れない。その後訪れる光景を想像すると血の気が引く思いだ。


「がはっげほっ」

「お兄ちゃん!?」


 フレアは慌ててマコトに治癒魔法をかけようとするが手を止める。目の前にはダメージを負って怒り心頭のドローベが睨み付けている。とても回復させてもらえる余裕があるとは思えなかった。


「よくもやってくれたね、このガキがっ」

「いけない、多重魔法障壁展開」


 ドローベの豪腕から放たれる拳が振り下ろされるのとフレアの魔法障壁展開は同時だった。一瞬で20もの強力な障壁を張り巡らせる。障壁はドローベの岩盤すら砕くようなパンチの連続に次々と貫かれては砕け散る。ドローベの拳は暴風のようであり、叩きつけてくるような衝撃が障壁を突き抜けフレアにビシビシ伝わってくる。障壁を展開する右手はしびれフレアは表情が歪む。


「ふみゅ~~、どうしよう。マコトお兄ちゃんを回復させないと危ないのに」

「男をかばいながらじゃあたしには勝てないさね。このまま押しつぶしてやるさね」

  

 チラリと視線をマコトに向けると出血がひどい。焦りが募りティアに助けを求めようと視線をむけてもマーガレットと激しい攻撃の応酬でそれどころではない。もはや手も足も出ないフレアは魔法通信を開いて助けを求めた。


「みんな、お兄ちゃんが大変なの。お願いはやく助けに来てーー」

「その前にぶっ潰してやるだわさっ」

 

 フレアの悲鳴とドローベの叫びが城中に響く。直後、それらを上回る激情が大気を震わせた。不意に聞き慣れないドスのきいた少女の声が耳に入ってくる。

 

「ああんっ!? そこのババア、マコト様に何してくれてんの」

 

 その声音は怒りを通り越して爆発しそうな迫力があった。


「誰がババアだって、でてこいや」


 声の主を探して見回すドローベはフレアに突き出したままの、丸太のような太い腕を掴まれ捻りあげられてしまう。そのまま間髪いれず新たな乱入者による細腕から圧倒的な威力の拳がドローベにむかって放たれる。


「ここにいるわよ!!」

「ぎぃええええぅ」


 血走った目で周囲をなめ回すドローベは顔を強かに打ち抜かれた。脳を震わせる重い衝撃音のあと、城の壁にめり込むほどの力で吹き飛ばされる。

 城の壁は崩れドローベも思わず膝をつく。


「……くっ、誰だい。あたしの顔を殴り飛ばした命知らずはっ」


 ドローベは凄まじい打撃を受けたにもかかわらず機敏に立ち上がった。そして、犯人を捜してフレアの隣にいる人物を見つけ出す。そこで麗しき水色の髪をした竜人の姿を目にした。縦に割れた瞳孔。頭にある一組の竜の角、力強い背中に生えた翼が竜人である事を示している。

 今水晶のように透き通った瞳は怒りで染まり、ドローベを敵意の視線で貫いていた。


「お前は『共和国の至宝』第五王女のシルヴィア!? なんでこんな所にいるんだわさ」


 (きょう)(がく)に目を見開くドローベをシルヴィアは烈火のごとく激情をみなぎらせると全身を炎の魔法と闘気で包み込む。燃えさかる炎を纏った姿だけでもシルヴィアの怒りがしれる。


「マコト様に手を出してただで済むと思ってんの。ホロウ幹部ドローベ。あんたはここで殺す。私が決めたわ!!」

「シルヴィアちゃん、ありがとう。助けに来てくれたんだね」

「あなたのためではありませんわ。全てはマコト様のため。私があの筋肉だるまを引き受けますわ。回復は任せたわよ」

「うん、任せて。そのためには五分だけ治癒魔法に集中したいの。絶対に守り切って。邪気の影響もあるから浄化には繊細な魔法制御が必要になるんだよ」

「わかりましたわ。その間マコト様には指一本触れさせませんわよ」


 ドローベはシルヴィアの登場を受けて体に力を溜めると肉体に変化があらわれる。筋肉が更に隆起し、激しい蒸気に包まれたかのような闘気を振りまいていく。

 邪気を纏った拳を振り抜き、大砲のような邪気の塊が襲い来る。あまりの速さにシルヴィアは迎撃が間に合わない。両手でそれを受け止めてフレアとマコトをかばった。


「――痛っ。炎竜鱗で防御しても効いたわ。なんて馬鹿げた攻撃力」


 竜人の鉄壁の防御力を誇るはずの鎧竜鱗。その発展系である炎竜鱗すら無残にひしゃげダメージがシルヴィア本体に通ってしまう。

 ホロウの幹部であるドローベ。簡単な相手ではないとは覚悟していたシルヴィアだがより気を引き締める。

 

「みくびられたものさね。わたしゃあ強いよ」


更新が遅くなってしまい申し訳ありません。今日から再開していこうと思います。ただし、病気の治療には時間がかかりそうです。これからは体調を見極め負担がかからないペースで続けるつもりです。以前のような頻度では更新できなくなるとは思いますがこれからも応援をよろしくお願い致します。

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[一言] ドローべはヒントをくれた、地面を壊せば障壁は維持できなくなると。: 地面に落とし込んだ複雑な術式で邪神様の力を再現しているのさ。
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