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第118話 魔技研編 『絶望の始まり』

 その日、王都の民は本当の絶望を知ることになる。今までの危機すらかすんでしまう脅威が空からふりかかる。

 はじめは恐ろしく巨大な雲が近づいているように見えていた。嵐がやってくるのか、と空を見た人々は思った。

 だが違った。突然厚い雲を突き破り、王都すら飲み込んでしまう巨大な空の島が姿を現したのだ。


『なんだあれは……』


 人々は圧倒的なスケールゆえに襲撃であることすら失念して、ただ無防備にそれをながめる。脳が処理できない異常事態に危機感が麻痺しているようだ。

 だから空の島が全容を現し、守りの堅そうな城塞であると頭で理解してもただ息をのみそれを見守っている。

 だがそれもここまで……。


『キシャアーー』


 地獄の底から湧き出すような怨嗟にもにた叫びが王都の空に響き渡った。ホロウイーターと呼ばれる化け物が何万という数で一気に空から押し寄せ、王都の民を南側から襲い始める。

 半霊体のようなホロウイーターたちは人々の魂を喰らい、次々に命を奪っていく。

 魂がぬかれて食べられるおぞましい光景に人々は割れんばかりの悲鳴を上げて逃げ惑う。人々は狂いそうなほどの恐怖にパニックを起こしている。


『きゃああああーーーー』

『ひいぃーーーー、助けっ』


 無慈悲なまでのホロウイーターは人を喰らい尽くす。悪夢は空から幾らでも迫ってくる。逃げようにもそこら中にそれはいて絶望した人々はうずくまり、命乞いをする。または神に祈る。だが無情にも届かない。

 無防備な人々をホロウイーターは醜悪な笑みを浮かべると寄って集ってむさぼっていった。


『た、民を守れ』


 この危機に近くの警備兵たちが駆けつけてホロウイーターの群れに立ち向かう。だが魔力を帯びた程度の武器、彼らにとってはおもちゃを振り回す子供と変わらない。兵の武器は全く脅威にならず、わずかにたじろがせる程度の効果しかない。剣が当たってもすり抜けてしまう。こうなると兵すら無防備な一般人と変わらない。

 新しい獲物が飛び込んできた。彼らはそう思ったことだろう。兵の思いと覚悟をあざ笑うように被害は増えるばかりであった。





「な、なんてことですの」


 ティアナクランは顔が真っ青となり、あまりの悲惨な光景に崩れ落ちそうになる。

 ホロウイーターは王都の城壁など軽々と飛び越えて侵攻してくる。あまりの、あんまりすぎる圧倒的な物量と、絶望を植え付けるには十分な空中要塞の威容に、民も、魔法少女たちすら希望を見いだせない。

 それというのも無魔と岩の魔物たちとの連戦で魔法少女たちも既に疲弊しきっている。もはや、大軍に抗うだけの力が残されていない。

 

 大半の魔法少女が魔力切れで倒れ、グローランス商会の支店の中で寝込んでいる。

 マコトも飲まれそうになっていたが不安そうな魔法少女たちを見回しはっとする。自分が奮い立たなくてどうすると。拳を握り自分に言い聞かせた。そして声を張り上げ魔法少女たちに呼びかけた。


「諦めるなっ!!」


 驚いた魔法少女たちははっとしてマコトに視線を集めた。


「諦めたら終わりだぞ。魔法少女は絶対に諦めない。それは何度も教えられていたはずだ。王都の民を守れるのはもう魔法少女しかいない。なのに諦めてどうする」


 はじめはマコトのことを知らない魔法少女が誰だと思った。しかし、聞いているうちに教官のフレアに叱られているような、励まされているような気分になる。

 マコトの言葉は胸の内に勇気を与えてくれる。親しくもない少年の言葉が魔法少女たちの心によく響く。それが魔法少女たちには不思議だった。

 だがいままで彼女たちを導いてきたのは姿が違えどマコトなのだ。心に響かないはずがない。


「諦めなければ希望はある。周りを見てみろ。守るべき人がいる。支えてくれる仲間(魔法少女)がいるはずだ。守るために戦って欲しい。俺も全力を尽くす。だから頼む……」

「――諦めるな」


 マコトの絞り出すような願いに周囲は静まり返る。だがレイスティアがまず空へと上がり、巨大な雷の槍を矢代わりにして魔法の弓を形成して射出する。

 巨大な雷の槍はホロウイーターたちの群れに穴を穿(うが)ち、何百という数をほふった。


「皆、諦めたら駄目だよ。戦いましょう。そして、不安になっている民に示しましょう。ここに魔法少女がいると。希望はここにあるとしらせるのよ」


 レイスティアの言葉にいち早く立ち直ったティアナクランは杖を掲げ、巨大な光の魔法障壁を展開。人々を包み込む。

 

「その通りですわ。ここに示しましょう。希望の光を」


 ティアナクランの魔法の光が空に打ち上がる。それは逃げ惑う人々へここなら安全だと示す意味もある。

 王女の決意に魔法少女たちが頷いた。


「うふふ~~、私はまだまだ元気ですわよ~~。魔力には自信がありますもの~~」


 サリィが賛同する。


「わたしはほどほどに頑張ります……あたた、アリアさんつねらないでくださいよ」

「委員長としては皆を見守る責務がありますもの、否はありませんわね」


 怠けようとするセリーヌを引っ張りアリアも輪に加わった。


「あーーっはっはっは、私なんてまだまだ元気だし。諦める? そんなのわたしじゃないわ」

「拙者も力の限り戦い抜こう」

 

 シャルやカズハ、残っている魔法少女たちも全員賛同した。

 それを見届けるとマコトは皆に指示を出す。


「よし、フレアにかわって俺が策を提案する。敵は死霊系の魔物らしい。南にある大きな教会に奴らは近づけていない」

「先ほどから目が光っていますが瞳術でそんな離れた状況も分かりますのね」

「ああ、だから王都に点在する霊的加護が強い教会などの拠点、並びにティ……王女殿下が光の障壁で守るここを拠点として人々の避難を進める。この際だ。王城にも邪悪なものを寄せ付けない結界が張り巡らされている。避難場所として解放できないだろうか」


 マコトの言葉にティアナクランも理解を示した。


「手配しましょう」


 近衛兵の伝令に指示を出し使いをだす。


「実は俺の方で保険をかけてある。諦めるなと言った手前で申し訳ないがこの戦力で反撃は難しい。皆には信じてしばらく耐えて欲しい」

「保険とは一体何のことですか?」

「それは――」


 そこに耳触りな男の声が割って入る。


「おおーー、ここにはまだ戦えそうな奴らがそろってんな。ヒュー、楽しめそうだぜ」


 ぞくりと肌に突き刺さるような邪悪な気配と場違いな軽いノリ。魔法少女たちは反射的に声のした方をばっと振り向き身構える。

 それに遅れて近衛部隊がその男を取り囲み警戒した。


『おい、なんだ貴様は』


 近衛兵の1人が無礼な男に質問しながら肩に手をかけるとクライムがその手を掴んだ。


「おっと気安く触るなよ」


つかまれた近衛兵がボッと発火し、あっという間に消し炭にされていく。あっという間に火に包まれ断末魔すら許されない。


「――じゃないと火傷しちゃうぜえ、ヒャーハハハハッ」


 クライムの狂ったような笑いがこだまする。それが近衛兵たちの怒りを誘った。


『貴様あ!!』


 近衛兵たちが囲んで襲いかかるが、クライムは手に炎をまとわせて、180度ぐるっと振り回すと、一遍に吹き飛ばす。まるで爆発にでもあったかのように触れた近衛兵が吹き飛ばされていく。


「熱くなるなよ。クールにいこうぜ、俺の攻撃はこの上なくホットだけどな」

「皆、さがれ」


 部下ではかなわないと判断したダールトンが魔剣を手に斬りかかる。それをひょいっとかわし、続く連続攻撃もあしらったが最後の攻撃がほほをかすめる。


「ひゅーー、かすっただけでピリピリくるぅーー。しびれるーー、なんちゃって」


 攻撃を受けてクライムは反撃に転じる。ダールトンの(えり)を掴むと、背中に堕天使の翼があらわれ空に飛び上がる。

 ダールトンを炎で包むとそのまま空から地上に叩きつけた。


「ぐはっ」


 ダールトンは炎にはある程度魔力で抵抗したがそれ以外のダメージは深刻だ。


「あちちっ、あちちっ」


 うっかり自らの尻に火がついたクライムは慌ててはたき消火する。


「もっとクールにいこうぜ。うっかり俺まで火傷しそうになったけどな、ヒャッハー」


 独特のテンションにシャルが困惑気味だ。


「何なのよこいつ。滅茶苦茶じゃない」

「でも強いよ。みんな気をつけて」


 パティがクライムの強さを肌で感じ取り警告を促す。だがカズハはクライムのふざけた態度が許し難くて既に踏み込でいた。


「これ以上好きにはさせない!!」


 鋭い斬撃にクライムが慌ててかわした。


「おおう? すげえはええな。ちょークール。お前は退場な」


 クライムの爆発する蹴りを受けてカズハが弾かれたように吹き飛ぶ。アリアが慌てて駆け寄り抱き留め、追撃するクライムをパティがガンマギカナックルで(けん)(せい)する。無数の魔法砲撃が襲いかかりクライムもあわてて対抗する。


「ぬおおーー、ちょっと聞いてたより強いんだけど、おれっち、ちょっと本気出す」


 クライムが両手に炎を纏うと凄まじいパンチの連打で全てを撃ち落とした。


「うそっ、防がれた!?」

「これはお返しっと。イヤッハー」


 爆発の力を込めた魔法球を高速で投げ込みパティだけでなくアリアたちも爆発に巻き込まれた。


「危ない、ですの~~」


 サリィが割って入って岩の防御壁を張り巡らせるがクライムの引き起こした爆発は凄まじく、壁の防御ごと吹き飛ばした。後には何も残らず大きなクレーターだけが残された。サリィたちの姿がどこにも見つからない。


「うそ、でしょ……」


 ティアナクランたちを始め、多くの魔法少女たちは仲間の死がよぎり絶望が広がる。同じ魔法少女の仲間が死ぬのは初めてのことで動揺は予想以上だった。

 ショックの余り立ち尽くして動けない者が大半だ。

 悪夢はまだ終わらない。クライムだけでなく更なる強大な敵が続けて現れる。


「魔法少女か、忌ま忌ましい」


 今度は空から女性の声が聞こえた。圧倒的な存在感と威圧をもって降り立つ女性は6枚の汚れた翼を背に持つ。そして冷たい美貌の持ち主。マーガレットだ。

 その凍り付くような雰囲気は魔法少女たちを黙らせるには十分な迫力があった。

 ゆっくりと地上に足をつけ魔法少女たちに手をかざすと皆地面に縫い付けられたかのように大地に倒れ込んだ。


「がはっ、何なのよこれは」


 シャルが力を込めて立ち上がろうとするが一層の圧力が上からかかり、地面に叩きつけられる。強力な重圧がシャルたちを襲う。

 立っていられた魔法少女はティアナクランとレイスティア、リリアーヌ、ユーナ、カレンだけだ。


「これはふるいだ。我が威圧に耐えられぬものは戦う資格すらもたぬ」

「――そして眠れ、永久に」


 マーガレットが手遊びかのように軽く手を振るだけで魔法少女たちをまとめて吹き飛ばす。閃光がバッと広がり、激しく叩きつけるような衝撃波が広範囲に広がった。防御すらままならない生徒たちを強烈に襲い深刻なダメージを与える。

 爆発によって吹き荒れた砂塵が晴れる頃にはほとんどの魔法少女が倒れたまま負傷し戦闘不能に追い込まれていた。


「みんな、無事か!?」


 今まで大地に手をついていたマコトが立ち上がり慌ててシャルにかけより容体をみる。変身魔装法衣の防御力は最優先で強化してきたマコトである。皆息があり、致命傷の生徒はいないようでほっとする。だが、大切な生徒を傷つけられてマコトの怒りは頂点に達した。

 沸き立つ憤りは握る拳の力強さからもはっきりと見てとれた。

 圧倒的な力を見せつけるマーガレット。

 一方でクライムがティアナクランに迫っていた。


「あんたが王女か。邪魔だから死んじゃいな」

「――っ」


 マーガレットの強大な存在感にすっかり失念していたティアナクランは息をのむ。全くの無防備で敵に入り込まれた()(かつ)さに後悔が浮かぶ。

 殺される!?

 もうどうにもならない。そう目を背けそうになる絶望的な状況でマコトが動いた。


「おい、てめえ。随分舐めたことしてくれたなっ」


 マコトだ。魔法少女を傷つけられてぶち切れたマコトが、炎に守られたはずのクライムの腕を掴む。強力な魔法制御で炎を中和し、クライムの腕を握力でへしおろうと力を込めた。ミシミシと腕が(きし)み、クライムの顔は苦痛でしかめる。


「ぬおおおっ。いてえええ」


 振りほどくため乱暴に振り払い、腕は解放されたがクライムの懐に入り込んだマコトはガンマギウスナックルをたたき込む。


「ガンマギウスナックル、ショットライフル!!」


 予備動作の少ないこの技は攻撃準備が攻撃の発動とほぼ同時に行える。ためがないのだ。拳を振り抜かなくとも飛ぶ魔法の拳がクライムに次々と突き刺さる。


「あぶぶぶぶっ……」

 

 そして無数に炸裂さくれつする魔法砲撃を至近距離から滅多打ちにされて大きく後ずさる。


「いってえええーー、堕天使の防御障壁がなかったら昇天してたぜ。ちょっとあつすぎじゃ……」


 会話の途中にもかかわらずマコトの攻撃の手は休まらない。容赦なく追撃した。拳が届く距離に肉薄し、強力な魔法を付与した拳の連打が飛び出す。


「しねえええーー、このクソイケメンがっ」

「ぬおおおおーーーー、やべええええーーーー、それとイケメン関係ねえーー」


 クライムがそれはもうに物狂いでかわし、避けきれないものは腕で防御する。まるでマシンガンのような攻撃の嵐にクライムの表情から余裕が消えている。


「すごい、パティたちが手も足も出なかった堕天使を圧倒している!?」


 ティアナクランはマコトの想像以上の強さに驚き見守っていた。周囲の王国兵たちもあの少年は一体何者だと色めき立った。

 近衛将軍や魔法少女たちすら敗れた相手を追い詰めていく。そんなマコトに熱い視線が集中する。


「魔法少女に手を出してただですむと思うな」


 凄まじいアッパーカットがクライムの顎をとらえ空中に打ち上げた。

 マコトの周囲には100もの魔装銃が姿を現し、サイコキネシススキルでその全てが発射態勢に入る。撃鉄の音が力強く連続しマコトの激しい怒りがうかがえる圧倒的な砲撃が解放されようとしていた。

 それをみたクライムは本気で焦った。


「おごっ、ま、まてえーい。マジか、こいつほんとに容赦ねえ、鬼かっ」

「塵も残さず消しとべ!!」


 100もの強力な魔法砲撃が逃げる隙すら与えず撃ち込まれた。一発一発が上級魔法数発分の常軌を逸した威力。それがいっぺんに100発もこられてはクライムであっても死を覚悟した。

 それをマーガレットが割って入り、強力な防御障壁を張り巡らした。障壁は三角錐に突き出した形状で角度によって砲撃がその大半をそらされ弾かれる。直撃弾のみをマーガレットは防ぎ切ってみせた。


「……想像以上に成長している。本調子ではないとはいえ私が傷を負うとは」


 障壁を張った右手にプスプスと火傷が広がっていてマーガレットは全てを防ぎきれなかった。そのことに純粋に驚いている。

 マコトが空へと飛び上がり、マーガレットとクライムに対峙たいじする。マコトは南に見える空中要塞を指差して言った。


「あれはあんたのものか?」

「あれはホロウの空中要塞マガツという。誰の、という問いは正確ではないがあれを持ち出したのはドローベだ。この状況は私の本意ではない」

「どういうことだ?」

「私が連れてきた手勢は部下のクライムのみ。クライムに護衛を排除させ、その隙に目的を静かに達する。王都をいたずらに刺激する意図はなかった」

「ドローベとあんたの目的は別なのか?」

「恐らく同じだろう。ただし奴は任務の重要性をはき違えている。手柄欲しさに欲が出たのだろう。愚かしいな」


 マガーレットはスッと音もなくマコトに近づいていく。マコトは魔装銃をかまえ引き金に手をかける。が、不可解なものを見て(ちゅう)(ちょ)した。

 マーガレットが静かに涙をこぼしていた。加えて無防備な様子で近づいてくるのだからなおさら動揺する。


「なぜ泣いている?」

「やっと会えた。ずっと探していた」

「……初めて会ったはずだが」


 だというのにマコトは奇妙な感情が胸に渦巻くのを感じていた。


(どこかで会っているのか?)


 あるとしたら記憶のない幼少の頃に出会っている可能性だ。

 

「マコト、どうしたの」


 金縛りに遭ったように動かないマコトをみてレイスティアが心配している。

 マコトは気がつけば思案に耽っていた。その間にマーガレットはかなり近くまで踏み込んでいる。


「止まれ。撃つぞ」

「私はそれでもかまわない。そもそも私はあなたと戦えない」


 両手を広げて近づいてくるマーガレットに()(かく)(しゃ)(げき)をするが全く動じない。


「次はほんとに撃つ」

「……撃たれても恨まない」


 やむを得ずマコトは無抵抗であっても撃つつもりで引き金を引いた。

 ――いや、引こうとした。


「――なっ、体がいうことを聞かない!? 何をした」


 指がまるで石になったかのように動かない。それをマコトは相手の術か何かと思った。しかし、マーガレットはおもむろに首を横に振った。


「何も……。記憶がないのは分かっていた。それでも信じていた。きっとこうなるであろうと」

「何を言っている。あんたは一体……」


 焦りと得体の知れない恐怖がマコトの中で膨れ上がる。なのに、相手からは殺意が全く感じられず目元に涙を溜めている。

 撃たなくては取り返しがつかない事態を引き起こすという予感と、ほんとに撃って良いのかという疑念。心の底で撃っては駄目だと叫ぶ感情もわき上がり、入り交じってマコトは動けなくなっていた。

 そしてついにマーガレットは攻撃されることなくマコトを両手で大事そうに抱きしめ喜んだ。


「ようやく会えた。この手に抱ける。それがとても嬉しい」

「――あっ、な……」


 抱擁から逃れようと力を込めるがそれは弱々しくなすがままになっている。そして、マコトを心の底から驚かせる言葉を耳元で聞いた。


「お帰り、私の息子よ。もう離さない」

「むす、……こ?」


 マコトを見るマーガレットの表情はいとしさであふれていた。しかし、突然それとは全く逆の、憎悪に充ち満ちた声がマコトを震わせる。


「だから死んでもらう」

 

 魔力で輝くマーガレットの腕が心臓に突き刺さり、マコトは意識が暗転しだらりと両手足から力を失い垂れ下がる。

 見ていたティアナクランたちは更に衝撃を受けて言葉を失った。

 まるで糸の切れた人形のようになったマコトを見てレイスティアは両手で側頭部を押さえて崩れ落ちる。世界の終わりを見たような切り裂くような悲鳴をあげた。


「マコトーーーー!!」


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