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第115話 魔技研編 『結果オーライ? マルクスとカロンのファインプレー』

 共和国の竜人カロンは岩の鎧兵団を指揮する人物を驚きに目を見開く。


「あれはまさか、ホロウの幹部ドローベではありませんか」

「知ってるのかい?」


 ただ事ではないカロンの様子にミレイユがたずねる。


「ホロウの大幹部です。下手をすれば奴1人でこの王都は滅んでしまいますよ。それほどに強いと聞きます。共和国ではどれだけの同胞が犠牲になったことか」

「おやあ、王国に竜人がいるじゃないわさ。同盟組んだって話は真実だったんだねえ。実力主義の共和国が弱小国と手を結ぶなんて何の冗談かとおもっていたよ」

「そちらこそわざわざその王国に出向いて来るとはどういった用件でしょうか。速やかにお引き取り頂きたいものです」


 カロンは油断なく鎧竜鱗をまとい、闘気と魔法で形成された風の爪を両手にまとって侵攻の意図を問う。


「なあに、こっちはある御方をお迎えにあがっただけさね。大人しく引き渡すなら半殺し程度で勘弁してやるよ」

「それは誰のことです」

「我らがプリンス、マコト様さね。いずれは人類を滅ぼしあの御方とともに我らを導く存在さね」

『――っ!!』


 モニター越しに聞いていたフレアがきょを突かれて息を飲む。特に人類を滅ぼすという辺りに衝撃を受けた。


『ありえませんね。マコトがイケメン相手ならともかく人類(=魔法少女)の敵になるなんてあり得ないことです』


 マコトとはつまりフレアと体を共有し、今主人格となっている今の自分のことだ。だからこそわかる。魔法少女が悲しむことをするなどあり得ない話だ。

 ドローベがミレイユの持つモニターに視線を向ける宝石でも見つけたかのように狂喜する。


「いーーひっひっひ、これはこれは。宿敵と主君を同時に見つけることができたわさ。今からお迎えに上がりますよ。マコト様」


 聞いていたマルクスは首をひねる。


「何言ってやがる。こいつはフローレアだ。マコトなんてヤローじゃねえぞ」


 ドローベはマルクスを無視し岩の魔物たちに指示を出す。


「さあ、仲間を救いたければ早く助けにくることさね。でないと全滅するよ」

『……言われるまでもありません』


 フレアは真顔のままモニターの通信を切り端末は沈黙した。

 その間にも岩の鎧兵団の包囲網はじりじりと縮まっていく。グラードは剣の柄を持つ手を緩めうつむいた。


「くそっ、このまま全滅か。無念」

「おい、エリート様。簡単に諦めんじゃねえよ。うたれ弱いな。ほんと、つかえねえ」

「その通りですよ」


 直後、カロンがわずかな間に岩の魔物を強力な爪で切り刻み1体を無力化してしまう。

 カロンの敵を翻弄するすさまじい速度と鉄壁の防御力を誇る鎧竜鱗。その力を攻撃に回し爪のように伸ばして振るわれる攻撃力は岩の鎧兵の防御力すら上回る。

 その場で舞うように次の敵に躍りかかり味方を鼓舞していく。


「ちょうど良い。このまま作戦を遂行しましょう。鮮やかに、美しく。このカロンが活路を開いて御覧に入れましょう」

「無茶だ。相手は……」


 一度は王都で邪道騎士。そして、キリングと立て続けに挫折しグラードの心は折れかけ弱音がこぼれる。

 だがマルクスが詠唱し敵に突撃していった。

 

「『刮目してみよ。この磨き上げられた肉体を。日夜欠かさず鍛えあげた筋肉美。それははち切れんばかりに隆起する男の勲章。はあああーー《筋肉無双》』」


 マルクスの肉体はムクムクと隆起し、超人のような大男に変身していく。鋼のような肉体からなる大胸筋の盾はビクビクと脈動し、岩の魔物は強力なパンチを打ち込むが逆に跳ね飛ばされる有様だ。そして、マルクスの(こん)(しん)のストレートで岩の魔物の体の方は鎧ごと右肩辺りからはじけ飛んだ。


「ばかな、なんて筋肉だ」

「グラード、何をぼさっとしてるんだい。逆に敵を食い破る。この包囲網は逆にみれば敵の陣形を分断する好機だよ」


 みればミレイユ率いる赤虎騎士団の団員たちも凄まじい強さを発揮している。岩の魔物に対して力負けどころか逆に押し返す勢いで突き進んでいく。それが最新式のグローランス製魔導鎧の力だ。元魔技研の魔導鎧とはものが違う。

 更に頭のおかしい殺人的な訓練を日々課しているクロノスナイツに鍛えられ、自力が上がっていることも大きい。


『『『おおおう!!』』』


 勇ましい赤虎騎士団は野太い声をあげて岩の鎧兵団に躍りかかっていく。その勢いは強く、ひるむことなく突き進んでいく。この突破力があるなら確かに敵の包囲も逆効果だとグラードには思えた。


「……ここにいる奴らは皆怪物か?」

『グラード隊長、我々も続きましょう』

「う、うむ。そうだな。近衛の意地を見せるぞ」


 応、とグラードの部下たちも士気を取り戻し戦いに加わっていった。

 グラードは思ったのだ。赤虎騎士団だけなく、学生騎士や共和国の助っ人すら奮闘しているのだ。近衛である自分は何をしているのかと。


「うおおお、つづけえええっ」

 

 弱気心を叱りつけグラードはあらん限りの声を張り上げて攻撃の輪に加わっていった。

 それを眺めていたドローベは困惑していた。


「なんだい、近衛が最強の騎士団じゃなかったのかい。この赤い鎧の騎士たちの方がはるかに強いわさ。どうなってるんだい」

 

 予想外の実力を発揮して見せた赤虎騎士団にドローベの手駒たちが次々に数を減らしていく。ドローベからしてみれば目を疑うような光景だ。王国騎士がこれほど強いはずがない。完全な計算違いが起きている。


「こいつらまるで共和国の精鋭と変わらないじゃないか。この強さは予想外だよ」


 そして、視線を外して金色の魔導鎧の騎士たちに視線を向ける。


「それに比べて情けないねえ、王国最強(笑)。3人がかりでこっちの鎧兵と互角って笑えるわさ」

「やかましい。こっちだって必死なんだよ」


 このままでは突破される。そう感じたドローベは杖を掲げ、邪法を詠唱する。邪神の力を借りて奇蹟を起こす超常の力。

 頭上で黒い攻撃的で破壊的な炎が渦巻くと向かってくる騎士たちをなぎ払おうとする。すぐに指揮官のミレイユが指示を飛ばす。


「総員1度退け。魔法使いは対防御障壁」


 赤虎騎士団の魔法使いの女性たちは背後で準備していた魔法を発動し、ドローベの攻撃の大半をそぎおとす。その間に赤虎騎士団の騎士たちは鮮やかにひいていく。

 その見事な連携はドローベも感心し吐息をこぼした。


「やるねえ」


 逆にグラードは多少のダメージを覚悟し邪法攻撃を突き破りドローベに斬りかかる。


「もらったっ」

「ほい」


 小さな老婆のようなドローベの杖によってグラードの重い一撃が難なく受け止められてしまう。


「ばかな、ビクともしない」

「貧弱だねえ。ちゃんと肉食ってるのかい?」


 グラードが体重を乗せて押し切ろうとするがまるで動く気配がない。装甲している間にもドローベの頭上には邪法による炎弾が幾つも浮かび上がりグラードに襲いかかる。

 グラードは慌てて飛び退き炎弾を剣で弾きながら後退する。


「ほう、今のを弾くとは思ったよりやるじゃないか、色男」

『グラード隊長!!』


 部下たちも遅れて駆けつけドローベに襲いかかるが彼らには炎弾が直撃し大きく吹き飛ばされていく。100以上もの砲撃が高速で飛来するのだからなかなかかわせるものではない。すぐに立ち上がろうにも彼らはすぐに膝を突く。さすがに王国最高峰の魔導鎧だけあって致命傷には至っていないがそれでも十全には戦えないことは明らかだ。


「負傷したものはさがれ!!」


 無事だった近衛騎士が負傷者に手を貸して後退していく。それを守るようにグラードが前に出て剣を構えて(けん)(せい)する。

 

「こいつ、無詠唱でこれほどの数の砲撃を。魔法使いタイプか」


 赤虎騎士団とミレイユも包囲を抜けてグラードに並んだ。


「見ていたがすごい火力じゃないか。まだまだ余力はありそうだよ。こいつは骨が折れそうだ」

「ならば私が参りましょう」


 カロンが今度は1人でドローベに突撃していく。何十という攻撃がカロンめがけて襲いかかるがその身軽さはこの中でも抜き出ている。まるで当たらないのである。しなやかでスマートな体にアクロバティックな動きでドローベの狙いをかき乱しながら迫っていく。


「援護するぜ。ガリュードのまねごとだがな」


 マルクスが全力で拳を振り抜くとすさまじい拳圧が飛びだしドローベの頭上の炎弾に直撃。かき消されていく。

 その機を逃さぬカロンではない。素早く踏み込みドローベに鎧竜鱗の爪を突き立てた。


「もらいましたよ」


 だがすぐにカロンはその手応えのなさに驚き、直後に体を突き抜ける悪寒が防御態勢を取らせた。

 カロンが貫いたのはドローベの羽織っていた深いローブのみ。中身がなかったのである。そして、カロンは訳も分からぬままにとんでもない大きさの拳が目に入り鎧竜鱗の防御ごと吹き飛ばされていく。


「がはっ」


 弾けるように飛ばされたカロンだが強力な防御、鎧竜鱗と強靱な竜人の肉体によって深刻な損害は免れた。空中で翼を広げ姿勢制御を行うと空中で宙返り。綺麗に着地する。しかし、一時的なめまいでカロンはその場で俯いてしまっている。

 ドローベの動きを遠目に把握していたのはミレイユとマルクスとグラードぐらいだ。そして、姿を見せたドローベの異様な肉体に表情が凍り付く。


「おいおいおい、なんじゃそりゃあ」


 マルクスは思わず顔をしかめるほどにドローベの体は大きかった。体長は4メートル近く顔のしわの深さから察するに高齢をうかがわせる。それに似合わないほどムキムキの鍛え上げられた肉体がおぞましくも違和感も著しい。

 肌は赤く、額に2本の角があり、口からは収まりきらないほど凶悪な牙をのぞかせる。その姿は鬼を思わせた。

 体からは闘気なのか、もやが湯気のように立ち上がり圧倒的な威圧感を周囲に開放していた。


「おい誰だ。こいつを魔法使いタイプだって言った奴。ゴリゴリの武闘派タイプじゃねえか」


 それにはグラードが逆ギレ気味に反論した。


「いやだっておかしいだろ。どうかんがえればあの小さなローブにこんなゴツい化け物が収まると考えられるんだ」

『『『確かに!!』』』


 グラードの反論は周囲の騎士たちも納得だ。


「誰もあたしゃあ魔法使いタイプだって言っていないわさ。それと……」


 スッとドローベの姿が消えたかと思うとグラードたちがいる騎士たちに肉薄していた。ほとんど目に負えない速度で動き、


「誰が化け物だい!!」


 怒りとともに振り下ろされた拳は大地にぶつかると大爆発を起こしたようにはじけ飛び周囲につぶてが襲いかかる。爆発の衝撃波が周囲に広がり不意を突かれた騎士の多くは吹き飛ばされる。


「これでも花も恥じらう乙女になんて言い草だい」

「ぶははははっ、乙女って自虐ネタか」

「なんだってガキィ」


 更に暴れだし騎士たちがポンポンとボールのようにドローベの豪腕になぎ払われていく。


「手がつけられん。なんて強さだ。おい、学生。敵をいたずらに挑発するんじゃない」


 何とかドローベの猛攻から逃げながらグラードはマルクスを注意する。

 ドローベの力の前に騎士たちはなすすべなく一方的に排除されていく。


「確かにやべえな。このままじゃこいつ1人に負けちまうぞ」

「くっ、油断しました。ドローベは本来この王都にいる戦力全てで当たるべき強敵とわかっていながら無様にも踏み込み攻撃をもらうとは……」

「カロン、大丈夫か?」


 カロンは首を振りながらようやく目眩から立ち直りドローベを探す。


「ええ、ご安心を。鎧竜鱗をもつ竜人の防御力は伊達ではありませんよ」


 そして、ついにドローベを目にしたカロンは視界におさめた瞬間、全身から鳥肌、いや、竜肌? となり、心の底から恐怖を感じ取った。


「マルクス、私は地獄に来てしまったのでしょうか」

「はあ? まだ生きてるよ。どうした頭がいかれたのか」

「そうかもしれません。あそこに世にも恐ろしい筋肉だるまの鬼ババアが見えます。何とおぞましい姿。これほど醜い筋肉太りを私はかつて見たことがありません」


 それはもう青ざめた表情で切実に語るものだからドローベの怒りも更に膨れ上がる。


「なあああーーーーんだってええっ。筋肉だるま? 鬼ババア?」


 全身から赤黒い邪法の炎を立ち上らせて怒り狂ったドローベが更に烈火のごとく暴れ回り、ますます手がつけられなくなっていく。ドカンドカンと爆裂魔法級のパンチが乱れ飛びグラードは逃げ惑うので精一杯だ。

 これには一層強い抗議の声をあげた。


「おい、だから挑発するな何度言えば分かるんだっ、学生」

「いまのは俺じゃねえよ。カロンに言え!!」

 

 カロンはグラードの声が聞こえていなかったようで前に踏み出すとはっきりと指摘していく。


「あなたもっと体をお絞りなさい。何ですか、その醜く膨れ上がった体は。真なる乙女とはしなやかで美しく、控えめで美しいフローレア様のようなスレンダーな体(特に胸)の持ち主をいうのです。その体で乙女を語るなど美の女神たるフローレア様への侮辱と心得なさい」

「いや、おまえもあとでフレアに謝った方が良いぞ(特に胸のあたり)」


 カロンの発言にドローベの怒りは火が付いた。それはもうガソリンをくべられたかのように爆発的な荒れ狂いっぷりだ。それは燃えさかる炎のように激しい。もはや大怪獣が暴れているかのように手がつけられない。

 岩の鎧兵たちすら巻き添えになって倒れるくらいである。怒りの余り理性すらぶっ飛んでいるかもしれない。


「だぁれが醜いってええーーーー」

「だ・か・ら、挑発をやめろと何度いえば分かる。味方を殺す気か学生!!」

「だから俺じゃねえ!!」


 言い合っているうちにドローベがギラリと獰猛どうもうな獣の目でマルクスたちをとらえた。それはもう恐ろしい形相でかけだした。


「おのぉれらぁああ、ぶっころしたらあああーー」

「「のわあああああ」」

 

 マルクスはあまりの威圧感に耐えかねて、カロンはあまりの醜い体に耐えかねて一目散に逃げ出していった。それはもう必死の形相で2人とも全速力で駆け抜けていく。

 それを高齢とは思えぬ健脚でドローベも走って追っていく。


「むわあああてえええええええーーーい」

「ぬおおおーーーー、なんて高速ばあさんだ。あ、ありえねえーー」

「く、くるなあーー、目が腐るーー」

「あんたら絶対殺してやるーー」

「「ひいぃーー!!」」

 

 気がつけばドローベはマルクスたちを追ってこの場からいなくなり戦場からいなくなっていた。


「「「…………」」」


 しばし静寂が支配したが、マルクスの同級生がとんでもないことを言い出した。


『はっ、そうか。マルクスの奴、わざと敵を挑発して俺たちから引き離したんだ』

「「えっ、何だって!?」」


 どうしてそうなる。その結論にはミレイユもグラードもびっくりだ。


『あいつ、水くせえ。自ら危険なおとり役を買って出るとは』

『グスッ、マルクスゥ、お前って奴はかっこつけすぎだぜ』

『さすがマルクスだよな。漢の中の漢だぜ』


 感極まって語る男子学生たちに多くの赤虎騎士たちもそうだったのか、と(けい)(もう)された。この流れに『おいおい、偶然だろ』とグラードが突っ込みたい気持ちでいっぱいだ。


『正に負け戦で撤退の殿をつとめる騎士の中の騎士だな。学生なのに骨のある奴だ』

「いやいやいや」


 どうにもマルクスの株が急上昇していくことにグラードは疑問を呈したい。

 グラードは違うと言いたかったがいち早く冷静になったミレイユがふむ、と頷くと力強く指示を出す。


「よし、最大の脅威は去った。マルクスとカロン殿の男意気を無駄にするんじゃないよ。作戦を成功させて彼らに花を持たせてやるんだ」

『『『応』』』


 悲しみを押し殺し騎士たちはそろって拳を振り上げて戦意をあげていく。

 

「ええ~~」


 助けに行かなくていいのか、と思わないでもないがどうにも言い出せる雰囲気ではない。あっさりと2人を切り捨てて任務を優先させたミレイユにグラードは(せん)(りつ)するのだった。


 間もなく士気が高い騎士たちの活躍で巨人と兵団の分断に成功する。それはマルクスとカロンの献身に心を1つにした彼らの奮闘のたまものだった。

 その後到着するティアナクラン王女率いる魔法少女たちに見事バトンをつなぐことに成功したのである。

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