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第110話 魔技研編 『魔法少女リリアーヌの飛躍。無魔カノンを撃破せよ』

 カノンはワクワクしていた。

 フレアが戦場に到着したときに見せた銃技。どういう能力か一度に12の強力な銃を操り、カノンの誘導弾を全て撃ち落としてみせた。それも同じ砲撃使いとして高みにある敵と競い合えることに高揚する。


「あのガキやっぱとんでもねえじゃん。あれでも天帝様の呪いで魔法少女の力を封じられてるって話だろ?」


 人類の救世主は生まれる前から無魔の頂点に立つ天帝によって呪われている。これにより魔法少女になるどころか、魔法すら使えないはずであった。

 にも関わらず、この戦場で最大の脅威はフレアである。その事実にカノンは震えた。力を取り戻したらどれほどの強さなのか、戦ってみたいという誘惑がカノンの中にくすぶる。

 だが、誘惑を振り払い今の任務を遂行する。


「イカした俺の巨砲でてめえら全員消しとばしてやんよ」


 カノンの体中にある砲身から凄まじい砲撃の花が乱れ咲く。耳をつんざく砲声は大気を震わせ王都の城壁に降り注いだ。

 砲弾は城壁に近づくと無数の小さな砲に散弾して城壁に襲いかかる。これには魔法少女たちが慌てふためくことだろうとカノンは口端をつり上げた。


「俺のとっておき第2弾だ。正に豪雨のごとき砲撃に手も足も出ないはずじゃん」


 何百、いや何千という砲撃を防ぐ手段はない。並の魔法障壁では砲撃の圧力で砕け散ることだろう。城壁のそこら中から爆発が上がりボロボロとなっていく。その凄まじい攻撃はまるで(じゅう)(たん)(ばく)(げき)のようであり、情け容赦ない砲撃だった。


「さあ、これで何人生き残ったかな?」


 これで確実に魔法少女の何人かは死んだだろう。

 その慢心を貫くようにカノンのほほを鋭い砲撃が駆け抜けていく。ぞっとするような鋭い殺気が駆け抜け、耳障りな音がカノンの片耳を潰した。


「ぐああああ、俺の障壁ごと貫いた!?」


 どういうことかと思ったがカノンの反魔の障壁は正面からの対砲撃防御に特化している。その性能はキャロラインの強力な長距離砲撃の直撃にも耐えたことで証明していた。だが、それ以外の方向からは(ぜい)(じゃく)であった。フレアの斜め側面から射線には障壁が持たなかったのである。

 反魔障壁は簡単に砕け散り、カノンのくらましていた姿があらわになる。


「いや、そもそもどうやって俺に当てた? 見えないはずじゃん」


 カノンの目の前には双眼鏡のようなゴーグルがかけられ、射線を追う。すると向かって左側の城壁にいつの間にか移動していたフレアとリリアーヌが見える。鬼のようなカノンの攻撃を逃れ、魔装ライフルをしっかりかまえるフレアの姿に意表を突かれた。


「あっちは無傷じゃん!? まさか俺の砲撃を読んであらかじめ退避していたのかよ」

 

 続いてカノンは息つく暇もなく次の攻撃が別方向から向けられた。右側の城壁からキャロラインの長距離砲撃がカノンの右腕に直撃する。


「ぐああああ」


 障壁を一時失っていたカノンは直撃弾を受けた。これにより右腕と砲の1つを失う。これにはカノンはしばし頭が真っ白になる。

 まさか得意の砲撃戦でこれほど追い詰められるとは思っていなかったカノンはついにぶち切れた。


「……クククッ、やるじゃん。だったら第2ラウンド開始といこうじゃんよ」


 カノンの体はズブズブと地面に埋もれて隠れていく。


「俺も本気でいかせてもらうじゃん。全員ヘッドショットどころじゃすまさねえ。ボロボロになるまで撃ち抜いてやるじゃんよ」




 カノンの位置を割り出し、障壁を破って見せたフレア。リリアーヌはフレアから前もって警告を受け、次の砲撃は大きく避けるように指示された。

 フレアの予測は的中し、猛烈な砲撃もすぐに高速飛行で抱えて逃げたことで事なきをすんだのだ。

 同じくキャロラインたちもシャルとレイスティアがそれぞれ抱えて逆方向に飛んで逃げている。二手に分かれたのもフレアの指示だ。


「でもどうしてフレアっちは次の攻撃が途中で散るって分かったの?」

「私の神龍眼スキルに千里眼があります。遠くのものがよく見えたり、意識すれば普通の肉眼には見えないものも知覚することができるのですよ」


 加えて言えばフレアの前世の現代知識には集束爆弾(クラスター爆弾)を連想させる砲弾であったことも素早い判断の要因となっている。


「この能力のおかげで姿の見えないカノンをとらえることができたのです。今回は大気の流れを意識してとらえることで場所を割り出したのですよ。視覚はごまかせてもそこにいる以上、体に当たって生じる風の乱れはごまかせませんよ」

「はあ~~、相変わらずフレアっちは頭良いね。アタシじゃ思いつかないことばかりだよ」

「いやあ、リリーも大分染まってきてると思いますけどね。昔だったらまず何言ってるか分からないって顔していましたから」


 そこでフレアはとどめの一撃を撃ち込もうとした。しかし、予想外の事態に引き金の指がピクリと止まった。


「なっ!!」

「どうしたの、フレアっち」


 フレアはカノンが地面に隠れていった様子を目撃して魔法通信を起動する。


「カノンが地中に消えました。キャロラインさんたちは城壁の裏に今すぐ避難してください。何が起こるか分かりません」

『えっ、了解』


 返事からは戸惑いがうかがえたがキャロラインたちはすぐに行動に移った。フレアも長距離戦用の魔装ライフルを一度亜空間に収納する。


「フレアっち、地中に消えたってどういうこと?」

「言葉通りの意味ですよ。さすが無魔の幹部となると厄介な能力を持ってますね」

「潜るってモグラじゃないんだから」


 すると突然砲撃が前触れもなくフレアたちに迫ってきた。地中を突き進み巨大な砲弾が城壁近くで地上に飛びだして城壁に向かってくる。


「リリー、回避!!」

「わかってる」


 フレアを抱えてリリアーヌが高速飛行で逃げるとどうにか避難が間に合った。しかし、巨大な砲弾が直撃した城壁は大爆発を起こし、大きな穴が開けられてしまった。


「城壁が一撃で!? なんて威力なの」

「まずいですね。何度も直撃したら南側の城壁が完全に破壊されてしまいます」


 それでは王都の護りに深刻な影響を与えてしまう。王都を囲う城壁が人々にもたらす安心感は治安の意味でも非常に重要だからだ。

 リリアーヌは離れた城壁の上に着地しフレアを降ろす。

 直後、カノンは王都外の地面から両肩の砲身を出し、フレアたちに砲撃を浴びせかけてきた。


「このっ」


 この砲撃は魔装銃を両手に持ったフレアがどうにか迎撃し切り抜ける。次に顔を出した砲身にめがけてフレアが遠距離砲撃を放つとカノンはすぐに地中深くに潜り込み隠れてしまった。結果、大地をえぐるだけに終わってしまう。


「ぐぬう~~、まるで海で潜水艦を相手している気分です」

「潜水艦って何?」

「海に潜ることができる船と言えば分かるでしょうか。先の巨大な砲弾もまるで魚雷のようでした。こちらの位置も音で探り当てているようですね。先の砲撃も空から着地した直後の攻撃でしたから」

「へえ、そんな船があるんだ。聞いたことなかったよ」

(まあ、私の前世の話ですからこの世界には存在しないでしょうが……)


 カノンの砲撃が鳴りを潜めてつかの間の静寂が訪れる。だがどこから攻撃がくるかも分からないこの状況は一層の恐怖が襲いかかるものだ。


「フレアっち、その潜水艦が相手だとどうやって反撃するの?」

「機雷という兵器を水中に落とすのですよ。水中で大爆発を起こして沈めます」

「都合良く爆発するものなの? 水中のどの深さにいるかも分からないのに」

「機雷は()(せつ)が基本でセンサーという…………ほむ」


 話の途中でフレアは思案に入ると作戦を思いつく。


「そうですね。何も砲撃だけが攻撃ではありませんよねえ」


 悪巧みを思いついたフレアはそれはもう邪悪な笑みを浮かべた。それがわかってしまう親友のリリアーヌは顔が引きつった。


「フレアっち、いまろくでもないことを考えたでしょう?」

「いえいえ、とーーっても楽しいことですよ」

「楽しいのはフレアっちだけだと思うよ」

 




 安全な地中で次の攻撃地点に移動中のカノンは不可解な音を聞いた。ドシーンッ、ドシーンッと重い音が大地に突き刺さるのをカノンは感じていた。


「なんだあ? あちこち地面に何かを落としている音はするんだが何をやってんだ?」


 しばらくするとそれも止み、城壁を伝わってフレアたちの足音がかすかに聞こえてくる。


「くくくっ、焦ってるな。地中じゃあ目は見えないがその分音には敏感なんだぜ」


 今のカノンは遠くにいようが足音からも相手の位置を割り出すほどに鋭敏化されている。ほんのかすかな足音と震動からカノンはフレアの位置をつかんだ。


「ばかめ、まさか俺が音で位置を探れるとは夢にも思わねえはずじゃん。こんな戦法初めて見るだろ。きっと手も足も出ずに焦ってる違いないじゃんよ」

 

 足をばたつかせて不用意に音を出している様子からカノンは()(だん)()でも踏んでいるのだろうと予想しほくそ笑む。


「今度は迎撃も回避もできねえ、全弾発射の爆砕祭りじゃん。吹っ飛ばされて消しとんじゃいな」


 カノンが勝利を確信し、地中からショルダー砲を出したそのときである。突然脳を揺さぶるような凄まじい大音響が四方から一斉に響いたのだ。不快で凄まじい音が共鳴し合い、悪夢のような音がカノンを襲った。


「うっほおおおおーーーー!?」


 敏感になっていた聴覚は完全に狂い、ぐわんぐわんと視界がぐるぐると回っているかのように錯覚する。たまらずカノンは地上にでてのたうち回った。


「ぎゃあああっ、一体何が起こったじゃん?」


 周囲に視線を向ければ等間隔で地面に突き刺さった杭のような魔導具が設置され、激しく震動し大音響を地面に流し込んでいたのだ。


「なっ、音による攻撃だと!? バカじゃねえのか。こんな魔導具までつくってあったとか頭おかしいんじゃんよ」


 気がつけばキャロラインからの遠距離砲撃が目に入る。


「ちぃ、やらせるかよ」

 

 カノンはこれを迎撃。だが、更に別方向からくる殺気にカノンは寒気がした。視界をスライドさせると今度はフレアから巨大な魔法砲撃が差し迫っている。


「のおおっ、なんていやらしい攻撃するじゃんよ」


 カノンの体をまるごと包んで消しとばしてしまいそうな特大の砲撃にカノンは全力の砲撃で応戦した。


「ぬおおおっ、間に合えええっ」

 

 砲撃は(きっ)(こう)しせめぎ合い、ついには互いにうち消し合って相殺した。


「へっ、なめんなよ」


 どうにか凌ぎきった。そうあんどしたカノンをあざ笑う次なる手をフレアは打っていた。高速推進飛行で飛び込んできたリリアーヌが目に入ったのだ。

 ――どういうことだ?

 カノンは既に迎撃もできない距離に踏み込まれ疑問に支配される。

 実はフレアの特大の魔装砲撃を隠れ蓑にすぐ後ろをリリアーヌが絶妙な速度で追走し、カノンに接近を試みていたのである。

 だがそれは本当に神業のような魔法制御と身体感覚が必要となる。フレアの砲撃に追いつけば誤爆となり、離れすぎてもカノンに気づかれていたことだろう。

 そんな危険な策を平然と決行し、超スピードのままに突っ込むリリアーヌにカノンは諦めと称賛を込めたつぶやきをこぼす。


「おまえ、頭ぶっ飛んでやがるじゃん」


 リリアーヌは聞こえていなかったのかそのまま動じることなくカノンの体に魔法斬撃をたたき込んだ。


「時空魔法《追憶の軌跡》」


 これまでカノンの砲撃を迎撃してため込んでいた斬撃エネルギーを時間差で解放する。これはリリアーヌのユニーク魔法だ。それによって生じる威力は巨大化したカノンですら致命的だ。


「ブゥオルルルバアァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」


 きりもみしながら盛大に空中へ投げ出されるカノン。勢い余って空中を駆け抜けるリリアーヌとともに数百メートル吹き飛んだ。

 両肩の砲も粉々に砕け、左腕も破損。もはやまともにたつことすらできないカノンにリリアーヌが装飾剣を突きつける。


「終わりだよ。反魔五惨騎のカノン」

「くくくくくっ」

「何がおかしいの?」

「まさか、この俺が剣使いに追い詰められるなんてな。やられるときは砲使いらしく砲で、っておもってたのによお。まさか弾丸剣士にやられるとはな。お前、いかれてるぜ」

「……策を考えたのはフレアっちだよ。アタシはただ指示をこなしただけ」


 それには更におかしそうにカノンが笑った。


「何がおかしいの?」

「おかしいに決まってるじゃん。こんな指示を当たり前にこなせるお前も十分化け物じゃん。普通はやらねえし。言われてできる芸当じゃねえよ」

「意味が分からない」

「お前筋金入りだな。まあいい。ただやられるのも性に合わねえ。悪あがきをさせてもらうぜ」

「何をする気?」


 カノンは口から巨大な球状のものを吐き出すとそれが空高く上がっていく。


『リリー、高速推進飛行でこっちに退避。最優先!!』


 フレアの切迫した声にリリアーヌは考えるよりも早く体が動いた。

 

「――っ!? 分かった」


 リリアーヌはフレアの指示を忠実に守り、カノンにとどめも刺さずに超速度で城壁に引き返していく。


「すげえ愚直な奴。真っ先に退避しやがったじゃん。でもよ」

 

 空を駆け上がるそれはまるで花火のようだ。


「こいつはとっておきの爆発じゃん。王都も道連れに華々しく散ってやんぜ」


 カノンが言うようにこれは自爆技とでも言うべき最後の攻撃だった。爆発半径は王都の半分以上をカバーする。

 

「さあ、派手にいこうぜ」



 遠くからカノンを見張っていたフレアは”最後の悪あがき”を看破し、一か八かの策を準備していた。魔装ライフルの先にランチャーのアタッチメント取り付けて弾頭をセットする。

 ほどなく高速飛行で戻ってきたリリアーヌが血相を変えて問う。


「フレアっち、どういうこと?」

「カノンは最後に自爆するつもりなのでしょう。恐らく王都もただではすまない威力の爆発です。打ち上がる弾頭にはそれだけのエネルギーを感じます」

「ちょ、どうするの?」

「ご安心ください。こんなこともあろうかとっ」


 フレアは引き金を引き、ロケット砲のようなものを打ち上がる弾頭に向けて発射した。


「フレアっち、今何を撃ったの」

「リリー、すぐに城壁の裏に退避します」

「えっ、ちょっと。ちゃんと説明してーーーー」


 フレアはリリアーヌの手を引いたまま高い城壁を飛び降りる。それに追うようにして凄まじい爆発音。壁の向こうからは叩きつけるような衝撃が吹き付けてくる。カノンが大穴を開けた城壁からは凄まじい爆炎が吹き出し渦を巻いた。

 これを見てリリアーヌは心の底から恐怖しフレアを問い詰める。


「ほんとにちゃんと説明してーーーー」




 地震かと(さっ)(かく)するような凄まじい地響きも収まり、荒れ狂う大気も落ち着いてくるとフレアたちは城壁の上に戻ってきた。


「な、なによこれーーーーーーーー」


 シャルが今日一番の大声で叫んだ。

 そうなるのも無理はない。南の城壁は裏側を除いてこんがり焼け焦げ煤だらけになっている。しかも城壁の上から見渡す景色は焼け野原になってみるも無残な光景だった。

 シャルはフレアに詰め寄った。


「フレアさん、あなた一体何したの!? これは立派な環境破壊よ」


 それはもう力強くフレアの肩を揺さぶるシャルを誰も止めようとしない。

 皆驚きに目を見開き、言葉もなかったのだ。


「あはははっ、どうして責められるのですか? むしろ私は王都を災厄から救ったのですよ」

「どういうことよ」

「説明しましょう。カノンの最後に放った攻撃は反魔のおそるべき力を込めた爆弾です。それこそ王都が消しとぶ威力でした」

「けど辛うじて王都は無事だったじゃない」

「それは私がとっさに機転を利かせて手を打ったからですよ」


 シャルたちは最後にフレアの打ち込んだ謎の兵器を思い出していた。


「あの最後に撃ち込んだ攻撃は何なのよ」

「あれは開発中の魔装式ナパームボム。王都を消しとばす威力のとっておきの兵器でした」

「やっぱりあんたのせいでしょうがーーーー」


 怒りやるかたないシャルがフレアを一層責め立てた。


「誤解です。私のナパームボムがあったからこの程度の被害だったのですよ」

「意味が分からないんだけど……」

「毒を制するなら毒を。爆発を制するなら爆発を。爆発に爆発をぶつけて相殺しようとしたのですよ。一か八か上手くいってよかったですねえ」

「失敗してたら余計被害が出たんじゃ……」

「ええ、その可能性もなきにしもあらず。運が良かったですね。あはははは」

「あたしたちを殺す気かあああーーーー」


 ますます怒りを強めるシャルを誰も止めようとはしなかった。レイスティアすら完全に顔が引きつっていたのだから今回ばかりはフレアも反省すべきであった。良い子は真似をしないようにしましょう。





「ふふ、ふひゃははははは…………」


 カノンはフレアの放った兵器で相殺した爆発の影響ではるか上空の彼方へと投げ出されていた。

 下半身は消しとび上半身もボロボロであったがカノンはおかしくて笑いが止まらない。


「爆発を爆発で止めやがった。すげえ、マジすげえじゃん。ほんといかれてやがる。面白すぎて笑いがとまらねえじゃんよ。ふはははははは……」


 まるで星になるがごとくぶっ飛ばされたカノンだが辛うじて生き残った。今は大きくも厚い雲の層を飛んでいて果てがないように思える。


「まあ、今回はこのへんにしといてやるか。魔法少女は予想以上にやるみたいだし、この先始まる大戦もこれなら楽しめそうじゃんよ」


 厚い雲を突き抜けるとしかし、カノンは息を飲んだ。


「なんじゃこりゃあーーーー」


 目の前には空中に浮かぶ大きな島が飛び込んできたのだ。その大きさは王都に匹敵する。しかも周囲を城壁で囲まれ巨大な城もそびえ立つ。その物々しい建造物は物騒ですらある。


「まさか、空中要塞か? なんでこんなところに……」


 これが共和国の仕業であれば敵対行為とも受け取られかねない。ここはブリアント王国の領内上空なのだ。

 しかし、カノンは次に目にしたもので確信する。


「これはホロウの要塞じゃん」


 よく見ればまるでゴーストのように足がない人型の化け物が大量に飛び交っている。瞳はどす黒い赤で、(どう)(もう)な牙を持つ口。手には鋭い爪が目を引く。


「あれはホロウイーター。人のうつろな感情や魂を食らうホロウの主力の1つじゃん」

 

 見た目通り幽霊のように半霊体化した体は物理がほとんど通じない。魔法や魔法を強く宿した武器がないと太刀打ちできない。


「やべえじゃん。王都に責める気か」


 ブリアント王国の兵には魔導武器がほとんど行き渡っていない。ホロウイーターに襲われては守備兵も戦えない一般の民と大差ない。それほどに厄介な敵だ。

 これに襲われたとき、王国に太刀打ちできるかと言えば絶望的に思える。


「あ~~あ、こりゃあ王国が滅びるな」


 カノンはそのまま空中要塞をも飛び越えてはるか彼方へと消えていった。

 ブリアント王国にかつていない危機が迫っていた。そのことを王都の誰も知らない。帝国の皇后エレンツィアが予言した王都での無魔との戦いは前哨戦。それは決して誇張ではなかったのである。

 王都の、いや王国の存亡をかけた戦いが間もなく始まろうとしていた。



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