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第109話 魔技研編 『交錯する砲撃。王都を守れ』

 二丁で1つの魔装銃《ダブルマギスター》はキャロラインの専用装備である。1つは実弾式魔装銃。もう1つは魔法の光学銃である。

 キャロラインは二丁の魔装銃を直列連結し、1つの長距離対応型の狙撃ライフルとした。これにより弾道補正可能な魔弾を超出力の魔法砲撃で発射可能となる。飛距離と命中精度を両立したおそるべき魔装兵器である。

 キャロラインはそのダブルマギスターをかまえながら、無魔カノンの長距離砲撃の弾道を計算し、発射地点を割り出す。


「…………」


 肌に刺さるような緊張の中で、キャロラインはただ敵を狙い撃つことだけに集中していた。カノンからの長距離砲撃が迫っていても微動だにしない。

 なぜなら――。


「うりゃうりゃ、うりゃあーー」

「にゃああーー、なの」


 南門近くの城壁上でキャロラインを守るように2人の魔法少女が次々に襲いかかる砲撃を迎撃する。

 一撃で建物数軒を破壊するような威力の砲撃に対し、シャルは魔装大剣に雷撃の付与魔法で強化し斬り落とした。

 ニャムも植物の魔法で太い蔓を鞭のように振るいはたき落とす。2人の援護があればこそキャロラインは仲間を信頼し引き金を引く。

 もう30発目になる反撃の砲撃が空に響く。1キロ以上先の見えない敵に向かって光の線条が吸い込まれた。そして、遠くから聞こえる着弾の音からキャロラインは手応えを感じる。


「よっしゃ、今のはダイレクト。鬼ヤバな手応えやったんよ」

「よくやったわ。キャロラインさん」

「やったね。キャロちゃん」


 シャルとニャムは抱き合って喜び合った。実際、それから敵の砲撃が止んでいた。それがキャロラインの言葉に真実味を与える。

 調子に乗ったシャルがもう勝ったかのようにはるか先にいるカノンに向かって指さしあざ笑う。


「ふふん、無魔の幹部だか知らないけどたいしたことなかったわね。これが魔法少女の力よ。思い知ったか。あーーっはっはっは」

「あの、シャルちゃん。そういう挑発はやめた方が良いよ」

「そうやね。教官がいってたんよ。そういうんはフラグだからやめようって」

「心配しすぎよ。相手が怒って砲撃が倍になっても全て叩き落としてやるんだから」

「だからそういうんやめようって話だからね」


 キャロラインは銃の照準器を操作して着弾地点を拡大していくと目を見開いた。


「あちゃーー、相手に反魔の障壁あるの忘れてたんよ。無傷やね」

「うそ、あの威力の砲撃をまともに受けて無傷!?」

「つまり、障壁が回復する前に次弾を当てないと駄目ってことやね。それに敵の障壁は姿をかく乱する能力もあったんよ。だから今はめっちゃみえるんよ」

「だったら追撃しなさいよ」


 だがキャロラインはみた。シャルがバカにしていた所を見ていたのだろう。顔には怒りが見え、体が一回り大きくなり、著しい変化が見られた。両肩に野太くも長い砲身。口からも砲撃を撃てるようになり、両手も砲身に代わっている。カノンは第2形態と呼ばれる、より戦闘に特化した体に変身したのである。

 もはや全身凶器のような狂った姿を目の当たりにして、キャロラインは背筋が震えた。


「シャルちんの挑発で敵が怒って攻撃的に変身しとるんよ。これ無理」

「変身ってどんな感じよ」

「両肩にごっつい大砲もってるんよ。――もう鬼ヤバ。退避、退避。逃げるんよ」


 キャロラインは慌てて城壁の内側に向かって飛び降りていく。


「ちょっと、何逃げてるのよ。無魔の砲撃なんかうち落としてやるんだから」


 キャロラインに逃げるなと怒鳴るも、シャルはニャムに慌てた様子で体を揺らされた。


「はわわ、シャルちゃん……あれ見て」

「んっ?」


 空からは先ほどの10倍はあろう砲撃が正に鬼のように降ってくる。2倍どころの話ではない。


「「し、しんじゃうーー!!」」


 シャルとニャムはキャロラインにならって命からがら城壁の内側に飛び降り退避する。そのタイミングはもう危機一髪といったところだ。飛び降りるシャルたちのすぐ後ろまで爆炎が追いかけてくる。


「あちちちっ」

 

 強固な造りの城壁が猛烈な砲撃によって無残にもえぐられてしまっていた。

 慌てていたためみっともなく地面に着地した2人にキャロラインは冷ややかだ。


「シャルちん。撃ち落とすんじゃなかったん?」

「限度ってものがあるでしょ」

「ごめんね。シャルちゃんすぐ調子に乗っちゃうの。悪い癖なの」

「え、なにこの流れ。あたし1人が悪いの?」


 上を仰ぎ見ると今までとは比較にならない数の砲撃が頭上を抜けて王都へと降り注ぐ。


「ねえ、これって(やぶ)をつついて蛇をだしたんじゃ……」


 被害を抑えるはずが余計に被害が加速する事態に3人の顔色が一気に悪くなる。


「キャロラインさん、応戦しないの?」

「いやいや、シャルちんが空飛んでおとりになれば? 多分死ぬん思うけど……」

 

 遠慮し合う2人にニャムが手を挙げる。


「2人が出ないのなら私がでるの」

「そんなの駄目よ。ニャムちゃんに行かせるくらいならわたしがでるんだから」

「でも危ないよ、私もいくの」


 危険でもあえていこうとする2人にキャロラインは頭をかいて気が進まなそうにしつつも提案する。

 

「はあ~~しゃあないなあ。1つ策があるんやけど聞く?」

「「ぜひ聞きたい」」


 (わら)にも(すが)る思いのシャルとニャムは前のめりでその提案に食いついた。

 こう見えてキャロラインはフレアを銃技の師と仰いでいる。多少の戦術も教わっていた。正し、フレアの戦術の()(そく)な部分ばかりをキャロラインは模倣する傾向があった。





「おいおい、モグラたたきじゃないんだぜ」


 第2形態となり、火力が大暴走しているカノンは城壁に向かって狂ったような数の砲撃を加えていた。しかし、その表情はキャロラインたちが取った戦術に困惑を示していた。

 それは城壁の上を魔法少女が散開し顔を出してはカノンが狙い撃つのだが、すぐに城壁の裏に逃げかくれるという姑息な戦法をとりはじめたのだ。

 ただ翻弄するだけなら無視すれば良い。しかし、カノンはそうもいっていられなくなった。カノンの周りをニャムの魔法の植物が生い茂り立ちはだかった。


「ええい、鬱陶しいじゃん」


 手で振り払おうにも簡単には払えず、浄化の力が宿る植物に触れてはカノンの体がやけどをしたように焦げた匂いを発する。

 

「だったら俺のたくましい砲身から迸る砲撃で植物ごときなぎ払ってやんよ」

 

 カノンの口、両肩、そして両手から次々に発射される砲撃に魔法の植物は木っ端となってはじけ飛ぶ。だがそれ以上の再生と成長によってカノンの視界を(さえぎ)っていく。


「くそ、なら無視すればいいだけじゃん」


 カノンの周りだけに生えてきた植物だ。それを避ける場所に移動すれば良い。カノンはそう楽観視していた。

 すると植物を吹き飛ばし、突破したところをキャロラインの砲撃がカノンにつき刺さる。反魔障壁がまたも大きく削られた。そして移動した先でも新しい植物が前を遮るのである。


「くおおおおーーーー、なんだかイライラしてきたじゃん。王都へ攻撃ができなくなったじゃんよお」


 フレアの戦術はただ姑息なだけではない。相手の嫌なことを悪魔のようないやらしさで突いてつきまくり、精神まで責め立てる。その点をキャロラインは実に忠実にとらえ実行する。こういう所はフレアの弟子であった。

 キャロラインはクラスで魔力が最低クラスだがそれを補う頭があった。悪い言い方だとしたたかさがあった。

 カノンはキャロラインの策を火力で強引にねじ伏せにかかる。


「のおおーー、もうあったまきたじゃん。とっておきの砲撃でけしとばしてやんよ」


 カノンの背中にはまるでミサイルポットのような箱形の形状が見えた。上一面に発射口が無数に開くと誘導式の砲弾が48発一斉に真上に射出された。砲弾は凄まじい噴射で加速しながら正面の植物を飛び越えてキャロラインたちに襲いかかった。


「火力祭りだ。パァーーッと消しとぶと良いじゃん。爆発は俺の美学よ」


 


 不思議な軌道を描いて向かってくる砲撃にニャムが真っ先に気づいた。


「ほええーー。シャルちゃん。おかしな軌道でこっちに来る砲撃があるよ」

「あはは、なによ。数は多いけど今までの砲撃に比べれば遅いじゃない。斬り落としてやるわ」

 

 そういうシャルだがキャロラインは敵の不可解な攻撃に眉をひそめる。


「おかしい。あの速度の砲撃ならシャルちんがすべて斬り落とせるとおもうんけど……まさか」


 キャロラインはあえて1発ライフルを撃ち、カノンの砲撃を撃ち落とす。、まじい爆発が広がっていった。空を明るく照らすほどの大輪の赤にシャルはポタポタと冷や汗がとまらない。


「シャルちゃん、砲撃斬っていたらあの爆発まともに受けてたよ」


 ニャムの言葉を受けてシャルはキャロラインに叫ぶ。


「キャロラインさん、全部撃ち落として!!」

「それ無茶ぶりだかんね。そもそも銃でも魔法でも砲撃を撃ち落とすってめっちゃ高等技術やね。あと2発がいいところ」

「2発って……」

 

 見上げれば40を超える砲撃がみえた。


「あっちの攻撃多すぎるでしょ」

「ああ、こりゃ死んだね。もう無理」


 そんな諦めの声が出たときだ。空から聞き慣れた声が響く。

 

『魔法少女はどんなときでも諦めない。そう教えたはずですよ。キャロラインさん』

 

 そこで一度の砲撃で3発の砲撃を同時に撃ち抜く離れ業がキャロラインの目にはいった。


「えっ、すごっ。なにこの鬼ヤバな砲撃」

 

 キャロラインがふり返ると空を飛び、リリアーヌに抱えられた不安定な状態で二丁銃を両手に持ち、次々と撃ち落とすフレアが目に入る。

 リリアーヌは空で急減速して止まるとフレアはリリアーヌから飛び降りて城壁の上に着地した。すぐに体を起こすと目が赤く輝き、フレアの瞳術が展開される。


「神龍眼スキル《亜空間操作》、《サイコキネシス》同時発動」


 すると亜空間からフレアの魔装銃が周りに10丁新たに出現し、サイコキネシスで空中に固定された魔装銃が一斉に火を噴く。


「魔装銃フルバーストショット」


 おそるべき精密射撃一発一発が一度に2発、3発と貫き、時には誘爆を利用して迎撃していく。フレアの一度の斉射でカノンのとっておきの砲撃を全ておとしてみせたのだ。


「鬼強ーー。フレア教官ってこんなに強かったん」

 

 信じられない神業にキャロラインは呆気にとられてしまう。

 一方でシャルは一瞬嬉しそうな表情を浮かべたがすぐにぷんすかと怒りをあらわにした。


「遅いわよ。もっとはやく助けにこれなかったの」

「すみませんシャルさん。これでも急いで来たのですが」


 ふん、と不機嫌にそっぽを向きつつもシャルはちょっとだけデレる。


「(ぼそっ)でも、助けに来てくれてありがと」

「どういたしまして」


 聞こえないように行ったつもりがバッチリ聞かれてしまい、シャルは顔を真っ赤にしてフレアを睨んだ。


「あれ、どうして怒っているのですか?」

「何でもないわ。さっさとやっつけちゃいなさいよ。わたしは近接タイプだからああも距離があると戦いようがないわ」


 城壁の外はしばらく見晴らしの良い平原だ。むやみに突っ込んでも凄まじい砲撃の嵐をうけて終わりが見えている。

 

「そうですね。それに今も敵の姿が見えませんか」


 次は改めて何十という速い砲撃が音を置き去りにして向かってくる。それをリリアーヌが青の装飾剣を手に迎えうった。直撃コースは斬り払い、それ以外は傾けた剣の腹でそらしてあらぬ方にはじく。それを最小の動きで数度高速で振ると全ての砲撃を防いでしまった。


「ふわああ、あれだけ数の砲撃をさばくなんてリリアーヌ教官補佐はやっぱりすごいのーー」


 ニャムは尊敬を含んだまなざしでリリアーヌを見た。素直に感動しているニャムだがシャルはこの芸当がどれほど凄まじく、同時に胆力のいる剣技か理解する。


「ちょっと、リリアーヌ教官補佐。少しでも目測と剣筋がすれていれば大変なことになっていたわよ。どういう神経してるのよ。まともじゃないわ」


 シャルの言い分にリリアーヌは首を傾けて不思議がる。


「えっ、このくらいは普通だよ」

「な、普通?」


 シャルはぼかーんとした顔で耳を疑う。


「フレアっちに付き合ってればもっと無茶ぶりもしてくるしこのくらい普通だよね。シャルちゃんもすぐにできる様になるんじゃない?」


 それにはぶるんぶるんと大きくシャルが首を振る。


「ちょっとフレアさん。あなたに振り回されてリリアーヌ教官補佐がとんでもない化け物になってるんじゃないの!?」

「そうなんですよねえ。けど、本人は無自覚なんですよ」

「おそろしいわね」


 他人事のように言うシャルにキャロラインは溜め息をこぼす。


(なにいってるんよ。Gクラスの魔法少女は外から見れば皆化け物だかんね)

 

 それほどにGクラスの生徒は急成長を遂げている。実際、単純な力は現役の魔法少女を超えている生徒も多い。足りないのは経験値だけだろうとキャロラインは見ていた。

 

「さて戦況は千里眼で見ていました。キャロラインさんたちの頑張りのおかげで敵の能力も知れましたし反撃といきますか」


 そう言ってフレアは不敵に笑った。



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