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第108話 魔技研編 『立ちはだかる無魔キリングをぬけろ』

 近衛部隊の1つ、グラード隊がティアナクランを迎えに行くために王都から魔技研に通じる森の中に切り開らかれた道を進む。その途中、強力な無魔と遭遇し戦闘に入っていた。

 

「フヒヒヒヒィ、切る斬るキルゥーー」


 反魔五惨騎のキリングが王女ティアナクランを迎えに来た近衛部隊を相手に乱れ斬る。一体から繰り出されたものとは思えない凄まじい連撃が周囲を結界のように駆け巡り迂闊に近づけない。


「くっ、なんだこの無魔は。強いぞ」

 

 近衛の一部隊を預かるグラードはキリングと斬り結び、何とかしのぐと距離を取った。だがそれもやっとのことである。

 一瞬でも気を抜けばキリングの剣がグラードを貫くことだろう。


「(姫殿下をお迎えするどころではない。こいつはここで仕留めなければ)」


 ティアナクランは強力な魔法少女だが遠距離型で対多数の戦闘を得意とする。キリングとは相性が悪い。


「むやみに斬りかかるな。遠距離魔法使いと連携し、隊列組んで戦え。相手は強敵だ」

『『『応!』』』


 とはいうもののキリングには援護の魔法がわずかに被弾するぐらいで近衛の騎士の剣が全く届いていないのが現状だ。

 流れ弾が当たった程度の魔法ではまるで致命傷にはならない。それどころか逆に相手のテンションがあがって手がつけられなくなりつつある。


「クヒヒヒ、そらそらもっと死ぬ気でかかってこい。じゃないと斬り殺しちゃうぞ」

『ぐあああーー』

「まあどっちにしろ斬るがな。フヒヒヒヒッ」


 また1人キリングの剣に近衛の騎士が斬られて大地に沈む。

 

「我が国の精鋭騎士がこうも易々やすやすと……化け物がっ」

 

 味方を次々にやられたグラードは怒りに駆られてキリングに斬りかかる。魔導剣による猛烈な連撃を浴びせかけるがキリングは余裕を持ってさばく。


「貴様はそこそこやるようだな」

「(部隊長であるこの私でそこそこだとぉ)」

 

 グラードは焦りに冷や汗がどっとわいた。事実、対峙するキリングにはまだ余裕が感じられる。グラードと切り結びながらその隙を狙う他の騎士の攻撃をいなし、逆に切り捨てるのだ。これで力量差を感じないのならどうかしている。


「(まずい、このままでは全滅するぞ)」


 グラードの部隊は以前、邪道騎士のたった3人に壊滅寸前まで追い込まれている。

 栄光ある近衛騎士がまたも醜態をさらしてはならない。

 だが耳障りな笑い声とともにグラードは絶望を突きつけられる。


「フヒヒ、忘れていたが我は1人じゃない」

「なにっ」


 周囲に気を配るとグラードの部隊は無魔の兵卒級に囲まれていた。しかも、中には大型の魔物『よこし魔』の姿も見える。いかに強力な鎧に守られた近衛騎士でも兵卒級に奇襲を受ければ不覚を取ることもある。

 他の無魔の存在を失念していたグラードのミスだ。


『うわあああっ』


 耳を塞ぎたくなるような騎士の悲鳴があちこちからあがり、森の静寂を切り裂く。キリングを包囲しているはずがグラード隊が逆に包囲される失態にグラードは精神的にも追い詰められていた。。


「おのれえええ」


 悔しさで脳の血管が焼き切れるのではないかという凄まじい怒気。グラードはキリングに斬りかかるが逆に痛い一撃をもらってしまう。


「ぐはっ」


 鎧がグラードを守ったが一撃で砕け散り、体を突き抜ける衝撃は凄まじい。思わず膝を突く。


「もう終わりか。王国の精鋭とやらも対したものではないな」


 キリングは既に興味を失ったようでまだ近衛騎士がいる中、背中を向けて魔技研に歩を進める。


「……どこに行くつもりだ」

「この先に王国最強の魔法少女がいるのだろう。どれほどのものか、フヒヒ」

「待て」


 怪我をおして立ち塞がろうとするグラードに無魔の兵卒級が多数取り囲む。周囲の騎士も立っているものは半数以下に減っている。巨大な魔物、よこし魔の力に次々と騎士が倒れていくのだ。


「おのれえええっ、騎士の誇りにかけて行かせるものかっ」


 鎧は砕け、剣もボロボロであってもグラードは兵卒級を振り切りキリングに斬りかかる。


「雑魚が」


 キリングは鬱陶しそうにグラードに剣を振るった。しかし――。


「なっ?」

「フヒッ、貴様は!?」


 グラードは驚き、キリングは強敵の登場に喜びの声があがる。キリングの剣を刀で受け止める隻眼の騎士が割って入ったのだ。その体は大岩のように揺るぎなくキリングの重い一撃をしっかりと抑え込んでいる。


「クロノスナイツ11番隊長ランスロー推参。我が主君フローレア様の道に立ち塞がる敵はたたっ切る!!」


 交錯する刃から押し返して弾き、素早く刃を返してキリングの体に刀を打ち付ける。キリングの纏う鎧が破損し、体が大きく吹き飛ばした。


「クロノスナイツ? 貴殿は一体」


 近衛騎士では一撃すら当てることが叶わなかったキリングをランスローがなした。グラードはそのことに衝撃を受けていた。

 立ち尽くすグラードにランスローがふり返らず、そのまま声をかける。


「この敵は俺が引き受ける。まずは部隊を立て直せ」

「すまない。恩に着る」


 グラードは部下たちの指揮に戻り、ランスローは油断なく吹き飛ばれたキリングを注視する。


「まさか、この程度で立てなくなるたまじゃねえよな」


 ランスローの言うようにすぐに立ち上がり、嬉々としてキリングは言う。

 

「フヒ、ガランで戦った騎士だな。この手応えは前よりも強くなっているな。驚いたぞ。見違えるようだ」

「おかげで団長の地獄の特訓をやらされた。テメーには恨みと感謝の2つがある。以前は不覚を取って主の前で恥をかかされた」

「恨みは分かるが感謝だと?」

「ああ、お前のおかげで俺は強さの壁をまた1つ超えることができた」


 そのえはランスローによる振り切った刀が証明した。通常の斬撃にも関わらず剣圧で凄まじい突風がキリングを襲う。その中で鋭い飛ぶ剣閃がキリングの体に突き刺さった。ランスローの素振りが風の一撃を生み出したのである。


「ぐはっ」

「今の俺の剣は一撃一撃が必殺級の技に等しい。初撃は奇襲に近かったからな。手加減したが次は鎧ごとテメーの体をぶった切る」


 キリングはランスローの殺気と威圧に危機感を覚え、同時に興奮し闘志がみなぎる。


「ヒヒヒヒッ、いいぞ。我に危機感を与える騎士。ようやく出会えた。これは最高の切り合いができそうだ」



 一方グラード隊は隊長が指揮に専念したとはいえ、よこし魔の強さを前に苦戦していた。


「そのデカブツは力で対抗しようと思うな」


 よこし魔の巨木のごとき豪腕から奮われる膂力は木々すらなぎ倒し、人間の体であれば3人まとめて吹き飛ばす。隊列を組んで戦おうとしてもよこし魔の圧倒的な武力に近衛騎士たちは手を焼いていた。


『ぐああああっ』

 

  よこし魔の体は10メートル級。人の体では魔法による強化があったとしてもどうにかなるとは思えない。

 そう本来であれば――。

 なぎ倒した巨木をこん棒代わりに振るわれようというとき、1人の少女が駆けつけた。少女は無謀にも正面から受けて立つ。


「これ以上のオイタは見過ごせないなあ」


 両手で巨木を押さえ、近衛騎士たちを救ったのは魔法少女ソルである。彼女は身体強化を得意とし、地の魔法属性で鉱物を体に纏わせ、防御や攻撃に使い分けることもできる。

 巨木にストレートパンチを振るうとボンッと音を立てて巨木は砕け散り、飛び散る繊維が宙を舞った。


「はあっ」


 そのまま一足飛びによこし魔に踏み込むとよこし魔を魔法金属で覆った拳で殴り飛ばす。途中幾つもの木々すらなぎ倒し、それでも勢いは衰えず、ようやく止まったのは300メートル先だ。

 その馬鹿力ぶりには屈強な騎士たちがどよめいた。

 さらに、一陣の風のようにもう1人の魔法少女が戦場を駆け抜ける。その風がぬけると兵卒級が次々と斬られて消滅していく。

 魔法少女カズハが健脚で駆け抜け、鋭い斬撃で次々と無魔の兵卒級を撃破しているのだ。

 起き上がろうとするよこし魔に3人目の魔法少女が介入する。


「重力魔法《グラビティバインド》」


 魔法少女ミュリがその動きを封じる重力の過負荷を与え、地面にその巨体を縫い付けるように封じた。その隙を逃すカズハではない。すぐに指示がとんだ。


「フィニッシュアタックの準備でござる」

「「了解」」


 3人の魔法少女がミラクルマギカロッドを呼び出すと虹色の魔法空間とともにあふれんばかりの浄化の魔法を放出し、よこし魔と周囲の無魔を消滅へと導いた。


『すごい。これが魔法少女か』

『人類の希望と呼ばれるわけだ』


 見ていた騎士たちは魔法少女の(せん)(めつ)(りょく)にただ感心するしかない。


「グラード、無事でしたか」


 わずかに遅れてティアナクラン率いる一団が魔技研方面から駆け足で到着した。


「殿下、お迎えに上がるはずがこの体たらく。まことに申し訳なく……」


 痛恨の表情でボロボロの近衛部隊をふり返るグラード。

 

「いえ、よく戦ってくれました。ですが戦いはまだ終わっていません。無事な騎士で再編成し、無魔の殲滅に協力してください」

「はっ」


 ティアナクランはさっと治癒魔法を広範囲に展開し騎士を癒やした。グラードは無事な部下に命じて負傷者の搬送を急がせる。

 ミレイユも部下たちにそれを手伝わせつつグラードに声をかけた。


「手ひどくやられたね、グラード」

「ミレイユか。王国の武威の象徴たる近衛騎士がこの有様とは情けない限りだ」


 2度の挫折を味わいグラードの声に覇気がない。


「魔法少女とはこうも圧倒的な強さを持っているものなのか」

「いや、これでこいつらはまだ今年入学したばかりの学生だよ」


 それにはグラードが信じられないと首を振る。


「末恐ろしいな」

「あんまり落ち込むな。このガキどもを率いている奴が異常なのさ」

「それは誰のことだ?」


 ミレイユはティアナクランとともにあり、近衛騎士に魔法薬を提供して治療するフレアを指差した。


「魔法少女の中心は殿下ではないのさ。実質あのグローランスの嬢ちゃんがまとめあげ鍛えている」

「グローランス嬢。いろいろとうわさは聞いているがそれほどか。正直、(まゆ)(つば)な話だと思っていたが」


 たったの11歳の少女が北方の貴族連合を叩きのめして掌握。巨大な権力を持つ魔技研を潰した。今や王国最大のグローランス商会の最高責任者で技術者としても希代の天才。料理人としても生ける伝説とされている。あまりに人間離れした実績に疑念を持つのは仕方ないといえる。

 

「いまあんたが思い浮かべた話は恐らく皆事実だ。あそこで戦っている凄腕の騎士も嬢ちゃんの専属騎士だよ」

「すべて本当だったのか?」


 今もランスローはキリングと激しい戦闘を続けている。もはや別次元の戦いに割って入る気も起きない。グラードの目が正しければランスローが押しているように見える。


「それでも魔法少女は軍隊じゃない。手が足りないところはあたしらで支えないとね。落ち込むのは戦いが終わった後だよ」

「……そうだな」


 負傷者の応急処置と手配も終わり、フレアたちはカズハたちとも合流を果たす。


「教官殿、無魔兵卒級並びによこし魔の浄化が完了したでござる」

「ご苦労様です」

「後はあの無魔の幹部キリングでござるな」


 フレアに対してランスローが叫ぶ。


「姫、先に行ってくれ。こいつを()退()したら追いかける」


 フレアはランスローの妙な言い回しに気がつき、その意味をすぐに理解する。


「なるほど、そういうことなら任せましたよ」

「フローレア、いいのですか?」


 相手は無魔の幹部クラス。1人に任せて良いのかとティアナクランは心配するがフレアは頷いた。

 

「ここで足止めされる方が問題ですよ。大丈夫、ランスローはここにいる誰よりも戦が見えています。先を急ぎましょう」


 フレアはそこでリリアーヌとレイスティアに目配せした。2人は既に魔法少女に変身済みだ。レイスティアは呪いのこともあるのでフレアに渡された量産型魔装宝玉での変身である。

 フレアはカズハにティアナクランの護衛を引き継ぎ別行動を取る。

 

「私たちはここからキャロラインさんの救援に向かいます。ティアナはグローランス商会支店を拠点にして全体の指揮をお願いします。魔法少女の指揮はセリーヌさんが補佐してくれますので安心してください」

「セリーヌさんの嫌そうな顔が目に浮かびますわね」


 めんどくさがりなセリーヌの不満顔がティアナクランの脳裏に浮かぶ。またもなし崩し的に重責を押しつけたフレアにティアナクランは苦笑いだ。


「いやよいやよも好きのうちでしょ。あれできっと内心は美味しいと思っているに違いありません」

「いや、それは絶対に違うでござるよ!?」


 最近はセリーヌと仲の良いカズハが思わず友の不遇を(よう)()した。しかし、フレアの次の一言にカズハは自信を失う。


「今回は特にセシルさんがいますから。良いところを見せられると張り切っていると思うのですが」

「ああ、それはそうかも」


 セリーヌが重度のシスコンなのは魔法少女クラスの生徒ならば共通の認識である。思わずティアナクランも納得してしまった。


「フレアっち、高速推進飛行は危ないからしっかり掴まってね」


 リリアーヌがフレアの小さな体をしっかりと両手で抱え空に浮かぶ。


「多少の砲撃は私が随行飛行して迎撃します」


 雷の槍を魔法で形成し、レイスティアは頼もしくリリアーヌの隣に並んだ。


「ティアっちは高速推進飛行は初めてでしょう。大丈夫なの?」

「リリー、ティアちゃんは伝説の《ピュアマギカ》ですよ」

「ええ。同等か、それ以上の高速飛行戦闘も経験済みなので安心してください」

「さすがだね。じゃあいくよ」


 リリアーヌは空に飛び上がるとあっという間に音速を突き破り去っていく。それをレイスティアも追ってティアナクランたちの視界から外れてしまった。

 

「さあ、わたくしたちも王都に急ぎますわよ」


 ティアナクランは一団を引き連れて走り出し、グラードとミレイユはキリングと戦うランスローに敬礼すると後に続いた。


 


 あっという間に王都上空にさしかかるリリアーヌ。音速を超え、体に感じる抵抗は凄まじい。リリアーヌはフレアごと強力な魔法障壁で包み込み護った。

 凄まじい速度ゆえに高層建築を盾にしながら間を縫っていく飛行はリリアーヌの心胆を寒からしめる。

 思わずぎゅっとフレアを抱きかかえる腕に力がこもる。


「リリー、大丈夫です。あなたは自分が思う以上にすごい魔法少女なのですよ。自信を持って」

「フレアっち……うん」


 たったそれだけでリリアーヌの胸は温かくなる。フレアの言葉はいつでもリリアーヌの心を容易に動かし、信頼しきった笑顔で頷く。


「リリアーヌさん、敵からの長距離砲撃が来ます」


 レイスティアの忠告にリリアーヌはカノンの精密射撃をとらえる。このまま直進すれば直撃コースの軌道にリリアーヌは驚きを隠せない。


「この速度で飛んでいるのに当てられるの!?」


 やむを得ずリリアーヌは減速して軌道を修正し反魔砲撃を回避する。わずかな旋回にもかかわらず体に思った以上に負荷がかかり顔を歪めるリリアーヌ。変身できないフレアの負担を考えると心配になった。


「フレアっち。大丈夫」

「問題、ありません。がはっ、魔法少女に抱きしめられて飛ぶなんて、げふっ、むしろご褒美ですから」

「苦しそうだけど、変な余裕があるね。なんか大丈夫そう」


 フレアはなんとか耐えられそうだが直後、レイスティアはリリアーヌも怯えるくらいの魔力と闘気をみなぎらせて前をとった。

 

「……これはいけませんね。私が先行して迎撃します」

「あっ、うん。お願い」


 そこからはレイスティアの奮闘が始まる。


「おのれええい、無魔がっ。貴様のせいでフレアちゃんが他の女にぎゅっとされることになっただろうがっ。なんてうらやま……じゃなくてゆるさない」


 それはもう獅子奮迅ししふんじんの活躍で、襲いかかる砲撃を次々とうち払った。その勢いを見るにリリアーヌは恐縮してしまう。


「あの、フレアっち運ぶのティアっちに譲ろうか?」

「いいえ、計算通りです。こうすればティアちゃんが奮い立ってくれると信じていましたから」

「えっ、わざとだったの」

「さあ、張り切って飛んでこーー」


 ひどいと内心思いつつも本当にリリアーヌの進路には攻撃が来なくなった。リリアーヌは複雑な気持ちで南の城壁に急ぐ。

 レイスティアの嫉妬が自分にむかないことを切に願いながら……。



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