第101話 魔技研編 『邪神眷属の包囲を突破せよ』
ルージュは聖地の奥にある隠し部屋で真実に迫っていた。人類を守護する伝説の魔法少女ピュアマギカは2人存在する。それは世に言い伝えられていたどの預言書にもないことであり人類に希望の光が差したように思える。
ルージュは壁画に描かれた超古代語の解読を更に進めた。
「希望のピュアマギカ、世界に希望の光を振りまき、無数の伝説を生み出すだろう。魔法少女の救世主は伝説と魔法少女を守り育むことだろう。そして、あまたの伝説と魔法少女は邪神とその民から人類を救うだろう」
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聖地の隠し部屋で得た衝撃の情報にその場にいた魔法少女たちは言葉を失っていた。衝撃的な内容を飲み込むのに時間が必要だったのだ。
隠し部屋を出たルージュは言葉にして情報を整理する。
「あの部屋で得た情報。伝説の魔法少女ピュアマギカが実は2人誕生すること。世界で知られる予言とは異なる未来が伝えられていることね」
だがあの部屋には敵との戦いの結果が記されていない。それに希望のピュアマギカが振りまく伝説とは何をさしているのかも気にかかる。
それに結局の所レイスティアを救う方法がまだ見いだせていないのだ。ルージュは頭を振って一呼吸置く。
「ふうぅ、駄目ね。今のわたくしでは頭が上手く回らないわ」
「人類には希望の道がある。……その示唆で終わっていたね。もしかしたらどこかに続きが描かれたものもあるのか?」
腕を組みマヘリアは考え込んだ。ホウショウは今も必死でレイスティアを救おうとしているフレアを思い心配する。
「ん。それに希望のピュアマギカは呪いで命を失いかけている。その呪いの代償で覚醒することになっている優しさのピュアマギカはフレア様に間違いない。そんなことになったらフレア様が悲しむ。何とかしないと……」
そこでユーフェリアが小さな背丈に負けないようぴょんぴょんはねながら手を挙げる。
「魔法少女の救世主さんを探してみるのも1つの手かもしれないよ。魔法少女を助けてくれる人なんでしょ?」
「そのことならわたくしに心当たりがあるわ」
「え、ほんとですか」
周囲の驚きの声にルージュはしっかりと頷いた。
(魔法少女の救世主。それはあなたなのでしょ。――マコトさん)
人類にとって驚きの連続と未来に希望をもたらす聖地の調査は確かな成果を上げたといっても過言ではない。それだけ重要な情報を入手することができた。
だがルージュはこの地での調査に腰を据えて行う気はない。拙速ともいえる短い調査だけで切り上げる判断を下した。
「制限時間を設ける。その間に各々可能な限りの記録と情報収集を始めなさい。怪しいものを見つけたらわたくしに報告を」
そういって始まった調査。持ち込んだ様々な魔導具を用いて映像を記録し、隠し部屋がないか透視スキャンなどを行い、魔法少女たちはせわしなく動いていた。
「ん~~、ルージュ総長。何でこんなに急ぐ必要があるの?」
ホウショウの疑問にルージュが全員にも聞こえるように魔法通信の回線を開いて説明した。
「1つはここで得た情報をいち早く持ち帰るためね。フレアさんと情報を共有する必要があるのよ」
「納得。それは言えてる」
「もう1つは敵がのんびり聖地の調査をさせてくれるとは考えられない。監視の眷属が倒されたことで、ここに刺客が向かっているでしょうね。それが大軍を率いてくるのか、私たちを全員葬れるだけの精鋭を送ってくるのかは分からないけれどね」
ルージュの説明にマヘリアが考えを添える。
「現実的な話としてまずは精鋭による速さを生かした襲撃が確率的に高いだろう。大軍は時間がかかるからな」
「ん、だったら大軍は来ない?」
「それは甘いな。軍事作戦は常に最悪を想定するんだ。高い確率で精鋭が足止めしつつ大軍で包囲網を敷いていくことだろう。このパターンが王道だ」
「そうね。だからこそ調査は素早く切り上げ包囲が完成する前に突破する」
「そっか、行きよりも帰りが大変なんだ」
この会話を聞いていた皆が危機感を共有し調査に集中した。そして、ほどなくユーフェリアから報告が上がった。
『ルージュ様、隠し部屋を見つけたんだよ。そこでご遺体と気になる物を見つけたよ、どうぞ』
「了解、すぐに向かう。どうぞ」
ルージュはユーフェリアの調査担当エリアに向かうと隠し通路を見つける。
「この隠し部屋は最近作られたものね。といってもここ十数年といったところかしら」
明らかに掘り進めて人工的に作られた通路。奥に向かうと人の生活感の名残が見て取れる部屋にたどり着く。ベッドや机などの生活家具に最低限の調理器具などがあるだけだ。部屋の大部分が書棚いっぱいの本や資料で占められている。
そしてユーフェリアが死体のそばで悲しそうに俯きながらミイラに祈りを捧げている。ルージュが近寄り死体を確認すると朽ちかけた服装などから想像が付いた。
「この人はきっとお母様が支援していた考古学者ね。遺跡に住みこんでまで調査していたのかしら。逃げ延びたか、あえてここに残ったのかは分からないけれど」
ルージュも死体に対して手を合わせ黙祷するとユーフェリアが涙ながらにある物を手渡した。
「ぐすっ、この人はこれを守るように抱きながら亡くなっていました。手紙も一緒に……」
ルージュは手に持った宝珠をみて目を見開く。
「これは神具ね。力はそれほど感じられないけれど……」
そう言いつつルージュは手紙の内容に目を通すと突然食い入るように読み進め、終わると再び死体に対して手を合わせた。
「……感謝します。よくこの神具を発掘してくれました。あなたの命がけの献身で人類の首の皮が1枚でどうにかつながるかもしれない」
「どういうことだい」
気になってたずねるとルージュから手紙を受け取りマヘリアとホウショウが目を通した。そして、ルージュ同様に死体に手を合わせる。
「全てはくるかも分からない私たちにこの神具をつなぐため。そのために残りこれを見つけ出したというわけか」
「この部屋にある資料は全て回収して。時間がないから持ち帰って確認するわ」
ルージュの指示を受けてユーフェリアとホウショウが急いで亜空間収納ボックスに資料を放り込んで回収していく。
大きな書棚も小さな箱へ面白いように吸い込まれてあっという間に消えていった。
直後、静謐であるはずの聖地は罰当たりな大音響と地響きに脅かされる。そして、何事かと口にするより早く魔法通信から報告が上がる。
『こちらエリザベート。入り口で敵の攻撃を受けていますわ。この強さ……恐らくは――きゃあっ』
更に聖地は大きくゆれ動き、爆発の音が空間に響く。そして魔導インカムからのノイズ混じりの声が切迫した状況を伝えてくる。
「エリザベート、無事なの? どうぞ」
『ええ、今のところは。長くは持ちそうにありません。敵は――邪神ですわ』
その言葉を受けてルージュすぐに決断する。
「調査は直ちに中断。急ぎ撤退する。急ぎなさい。敵はすぐそこまで迫っているわよ」
『『『了解』』』
聖地の入り口ではオギンとエリザベートの小隊が強大な敵との戦いを余儀なくされていた。
わずかな戦闘時間だったにもかかわらず2小隊規模の魔法少女たちはボロボロだ。強力な魔装法衣の防御力を持ってしてもダメージが見て取れた。
「つ、強い……。眷属とは比較にならない強さですわよ」
「ええ、いきなり邪神そのものが降臨して介入してくるとは思いませんでした」
エリザベートが皆に治癒魔法を広げ、オギンとその小隊はエリザベートを守るように陣形を組む。
上空からはゆったりと降り立つ禍々しい災厄そのものが地上に降り立った。
深々とローブをかぶり全容がうかがえないが人型の存在。それが3体もいるのである。
「我らの攻撃を耐えきるか」
「こやつら他の魔法少女よりはやりおる」
「しかし、無駄なこと」
「「「貴様らはここで滅びよ」」」
まるで3体で1つの存在であるかのような息が合った敵。それもあってオギンたちは得体の知れなさが大きく膨らんで恐怖に変わっていく。
中心の1体が単身オギンたちに向かってくると迎撃に移る。オギンは右手に魔装剣、左手に魔装銃を持つオールラウンドの戦闘スタイル。素早いオギンの3段攻撃がふるわれる。風が音すら忘れたような瞬剣にも敵は残像を残し悠々とかわしてしまう。そして、ゆったりと突き出されたように見える不可避の拳をまともに受け、オギンは派手に吹き飛ばされていった。
「あぐっ」
すぐにオギンの部下たちが魔装銃で集中砲火をあびせるとそれすらも残像を残してかわしていく。何十という魔法砲撃だったにもかかわらず敵は1歩も動かず体を複雑にそらすだけで全てを回避するという離れ業を行った。
「一体どうなってますの。あの回避はあまりにも異常ですわよ」
為す術がないように思え攻撃の手が緩むと敵3体は邪気を込めた力の塊を手のひらに集中しエリザベートたちに向ける。
「まずい。あの攻撃からとんでもない力を感じますわ」
「「「滅びを受け入れよ」」」
3体による同時砲撃が迫る中、とっさに駆けつけたルージュが前に立ち黒の装飾剣で全て切り伏せた。
「「「ルージュ様」」」
「間一髪だったわね」
エリザベートたちは最強の魔法少女が来てくれたことに安どし士気を取り戻した。ルージュは油断なく3体の敵を見据えて問う。
「いきなり攻撃を仕掛けるなんてそちらは何者かしら?」
「我らは無魔と邪につらなるものたちの神の使い」
「人が邪神と呼ぶ存在の」
「その邪神より力を頂いた誉れある眷属」
「「「我らは”邪神の使徒”なり」」」
エリザベートは邪神の使徒から感じる邪なる力に、邪神そのものと勘違いしたようだがそれは違った。
彼らは神の力を分け与えられた使徒なのである。
「使徒、ね。邪神と聞いたときは驚いたけどこれならどうにかなりそうだわ」
ルージュの言葉に使徒たちは気配がわずかに剣呑となる。
「それは侮辱なり」
「本来神は地上には降りられぬ」
「ゆえに我らは神格者にして代行者」
「「「我らもはや神の1柱」」」
更に事態は悪化の一途を辿りつつある。
空からはもう1人の神があらわれたのだ。しかし、纏う力は邪気とは正反対の性質でありながら”彼女”が降り立ったのは邪神の使徒たちの側である。
魔法少女たちが今度こそ驚きに包まれる中でその神はふんわりと微笑んだ。
「無駄な抵抗はやめるんだね。大人しく投降するなら身の安全は保証するよ。正し、来たるべき日まで君たちの身柄はボクが預かる。当然君たちが聖地で手に入れたであろう神具も渡してもらうよ。無理だとは思うけれどそれは神力かそれに匹敵する力をたくさん込めないと発動しない。君たちが持っていても意味がないよ」
とどめとばかりに勧告してきたのは知の女神ミルである。人類側の女神がなぜ邪神と使徒と一緒にいるのか。
魔法少女たちの顔色は失望と悲しみが広がっていた。ルージュは沸き上がる怒りの感情を押し殺してミルに問いかけた。
「……いろいろ言いたいことがあるけれどまずは聞きましょうか。どうしてあなたがそちら側に立っているのかしら?」
「ふむ。誤解しないでほしいな。ボクは飽くまでも君たち人類の味方さ。正し、今は協定に従いここに立っているに過ぎない」
「協定ですって?」
ルージュの問いにミルは言葉を濁してはぐらかす。
「神々にもいろいろあるのさ」
「希望のピュアマギカに呪いをかけておきながら人類の味方とかふざけているの」
「不本意ではあったのだけれどねえ。分かってくれないかな」
「聖地にあった神具ならば救えるかもしれないのに邪魔をするのね」
「人類の状況は絶望的だ。今からひっくり返せる可能性は皆無に等しい。それなのに希望だけがあっても人類のためにはならないよ。それより確実に人類が生き残る道を取ることも必要だとは思わないのかい?」
そこでルージュははっとした。女神ミルの協定の内容や思わくがようやく見えてきたのだ。
「ようやく分かった。あなたは人類の神。何よりも回避すべきは人類の完全な滅亡。それを回避するために取ったのが協定なのね。世界に広がる預言書が恣意的なのは……人類の最後がとある結末で統一されているのは……そのふざけた”協定”のせいなのね」
周囲で聞いていた隊長格の魔法少女は全員が同じ結論を導き出した。預言書では最後に小さいながらも楽園を手にして人類は生き残る。その結果が協定によって決められた見返りなのだとしたら……。
ならばその代償となるのは『人類の希望』だ。選ばれなかった多くの人類の命だ。
そのことに気がつくとユーフェリアが叫んだ。
「ふざけるなああああああーーーーっ!!」
ポロポロと大粒の涙をこぼしてユーフェリアはあらん限りの声で怒りを示した。
「あたしの大切な人がたくさん死んだんだよ。故郷のビッテンブルグも滅んだよ。それが決められていたなんて。神様にも見捨てられていたなんて、そんなの絶対に許せないんだよ!!」
マヘリアも神との決別の意味も込めてミルに向けて魔装銃剣を放った。砲撃はミルの体を通り抜けるだけだ。神は地上にめったに降りない。目の前にいるのも幻にすぎない。それが分かっていてもマヘリアは銃を撃たずにはいられない。
「何の真似だい。抗うだけ無駄だということが分からないのかな」
「勝手に決めつけるな。”あんた”は多くの人を見捨てた。だが魔法少女は見捨てない。救うことを諦めちゃいけないんだよ」
「はあ~~、トップがフローレアだと部下も聞き分けがないね。そういう所がそっくりだよ。全てが無駄に終わるというのにね」
ミルが手をかざすと神力が光り輝き魔法少女の頭上を神々しい光で包む。それがすむとミルは悟りの視線で彼女らを見つめる。
「……そう。無駄なんだよ」
だがミルは自らを囲む箱形の封印結界が展開されたのを見て驚愕する。
「なっ!?」
エリザベートとオギンとホウショウが3人がかりで魔法を行使し、ミルの一時的な干渉を遮断したのである。
「ばかな、君たちの精神を、知識に干渉して無力化したはず。なぜ動けるんだい」
困惑するミルにルージュが答えた。
「あなた以前にフレアさんにこう言ったそうね。知識というのは危険なんだ、と。知っているが故に道を誤り誰かを傷つけることもある、と。フレアさんはあなたが人の認識や記憶に干渉できるのはないかと対策を考えたのよ。その対策が記憶の封印」
「なっ、まさか……」
「フレアさんは何げない会話でもヒントを得て答えを導き出す。あなたの権能は恐らくあなたの名前や特定の記憶を知っている人に干渉できるようになる。気づかなかった? この場で誰もあなたのことを名前で呼ばなかったしどういう神かも分かっていなかったでしょう。魔導具で特定の記憶を封印。対処済みだったのよ」
これには目をむくようにしてミルが固まっていた。そして呆れたように笑い額に手を当てる。
「あはははは、本当にあの子は恐ろしいね。でも良いのかい。ボクに無力化された方が君たちは助かったかもしれないのに」
再び向かってくるのはオギンを圧倒して見せた使徒だ。マヘリアとホウショウ2人を相手にしても無数の連続攻撃をかいくぐり鋭い蹴りが2人を吹き飛ばす。だが2人もしっかり防御してダメージのコントロールをしている辺り別格の魔法少女である。
「くっ、どなってるんだい。当たる気がしない」
「ん、おかしい。幾つか不自然な回避があった。何かがねじ曲げられたような」
観察していたルージュが助言を口にする。
「使徒は邪神の力を与えられていると言っていたわ。神には概念に干渉する特別な力がある。魔法の奇蹟すらねじ伏せる絶対の力よ。そこの女神が知識を司るようにその敵にも何かしらの司る概念の力があるとみるべきね」
「そんなの関係ない」
ユーフェリアが単身突撃するとあえて敵の攻撃を受ける。突き出される打撃に耐えつつもユーフェリアは気合いで耐え抜き使徒の拳を捕まえた。
「魔法少女は絶対に諦めない!!」
使徒の手をしっかり握って逃げらないようにするとマギカ・レインサーをふるい回避不能な攻撃を繰り出した。
「がはっ」
使徒は初めてダメージを受けてあとずさる。強力な障壁に守られダメージは半減するも確かなダメージを与えたのだ。
「あたしは救えるかもしれない命を見捨てたりしないんだよっ」
ユーフェリアが見せた闘志にマヘリアが嬉しそうに頷く。
「良いガッツだ。さすが若いのに隊長になるだけはあるねえ」
「ん、私たちも負けてられない。あの使徒の能力は絶対じゃない。回避できる”可能性”をしっかりと潰せば当てられるとみた」
「なるほど、そういう能力かい」
意気込んで踏み出そうとするマヘリアたちにルージュが手で制する。
「総員撤退準備。F作戦を採用する」
「「「えっ」」」
思いも寄らない指示に驚く魔法少女たちだがマヘリアがすぐに冷静になって周囲に指示を出す。
「総長の命令だ。すぐに撤退する」
「マヘリア隊長、どういうことですの?」
問い詰めるエリザベートにマヘリアが答える。
「ここで足止めされれば敵さんの大軍が包囲を完成させるだろうさ」
そうなっては幾ら精鋭とはいえ少数のエリザベートたちは不利になることは明白だ。魔力には限りがある。大軍を殲滅する前に魔力が尽きることは目に見えている。魔法少女はまだ軍隊と呼べるほど数があるわけではない。
危機感が共有されたところでルージュが命令する。
「その通りよ。殿はわたくしがするわ。皆は先に行きなさい」
「でも、ルージュ様をおいていけないよ」
ユーフェリアはルージュの実力は信じている。が、それでも相手は概念をも歪める力を持つ危険な使徒。心配ではあるしユーフェリアは仲間だって見捨てるのは信条に反するのだ。
それをマヘリアが止めるとあえて言った。
「”F作戦”、了解した。ここは我々が先にいかせてもらう」
「ふっ、それでいいわ。あとで合流しましょう」
ホウショウはF作戦なんて聞いてないとマヘリアに不満を漏らすがルージュは構わず前を向き突破口開くために歩き出す。
ルージュが手に持つのは魔装宝玉1つ。これは変身の構えなのだがそういえば、とユーフェリアは疑問を抱く。
(あれあれ? ルージュ様の魔装宝玉はマギカコンパクトだったよね)
魔装宝玉3つセットの変身魔道具。ルージュだけが許されている特別仕様。特にフレアが最初に作って贈った規格外の魔装宝玉をルージュは決して手放したりしないはずである。そのことに気がついたユーフェリアははっとした顔でルージュを見るのだった。
「愚かな」
「1人で止められると思うたか」
「矮小な人間よ」
「「「絶望せよ」」」
魔法少女たちに襲いかかる威圧は突風のように吹き付けるがルージュは後ろ髪を掻き上げてあざ笑う。
「その矮小な人間がどこまでやれるのか見せてあげるわ」
空に魔装宝玉を掲げてルージュは魔法少女に変身した。
「「変身・上級魔装法衣、闇姫モード」
「「「えっ!?」」」
驚きの声は御園衆の魔法少女たちのものだ。ルージュから聞いたこともない変身形態が詠唱されたのだ。
すぐにルージュの体は聖なる光に包まれ、黒と紫の高貴な魔装法衣に包まれることになる。正に闇の姫といった優雅なドレスに身をまとい、紫の精霊結晶でできた輝く武具に身を包む。
両脇には守護者のように自立飛行型の魔装砲が付き従い、片手に黒の精霊結晶剣。もう片方に紫の盾を装備している。
変身が終わると神聖な光が一帯を包み込み邪気を一時的に払う。
「ミドル魔装砲、発射!!」
ルージュは剣を敵に向けると2つの魔装砲ユニットが魔法エネルギーを純粋な物理エネルギーに変換していく。銃口からは視界を埋め尽くさんばかりの砲撃が力強く迸り使徒たちに襲いかかる。
逃げ場がないほどの圧倒的な砲撃に使徒たちも防御障壁を展開。3体で防いだ。
「今よ。皆突破しなさい」
使徒たちが防御に手一杯になっている間に御園衆の魔法少女たちは撤退していく。渋る者もマヘリアが率いて素早く行われた。
それと一番反対しそうなユーフェリアが文句も言わずに従ったことが大きかった。
魔装砲にすら届きそうな圧倒的な2連魔法砲撃であったがほどなくして使徒たちは耐えきりとはじいてみせる。
「我ら、かわすだけが権能ではないぞ」
「然り。防御も盤石」
「そして絶対なる攻撃も」
「「「故に貴様の死は免れぬ」」」
「いい加減そのハモりが気持ち悪いわ。こっちこそ吠え面をかかせてあげる」
圧倒的な力を持つルージュであるが概念をねじ曲げる使徒の能力に苦戦を強いられることになる。20分ほどの激しい戦闘の末劣勢に陥ったのはルージュだった。
使徒たちはクツクツと不気味な反応を示す。
「はあはあ、……何がおかしいのかしら?」
「滑稽なのだよ」
「その通り、我らがむざむざお前らを逃がすと思うか」
「そこの女神が言った、厄介なのは貴様だけだと」
「……へえ、つまりわたくしが逆に罠にかかったと?」
「然り。既に包囲は完成しつつある。100万の無魔と1000の眷属がにげた魔法少女たちを盛大にもてなすことだろう」
魔法少女相手とはいえ、あまりにも過剰な戦力だった。女神ミルの入れ知恵もありルージュと魔法少女たちを分断されてしまったのである。
これを受けてルージュのまぶたは下がり、鋭い眼光をミルに向けた。
直後、ルージュは使徒から投擲された邪悪な剣に反応し剣ではじこうとする。しかし、はじくはずの剣が突然消えたかと思えば、自分の腹部に突き刺さる奇妙な現象に驚く。
「がはっ、……この力は……」
「言ったはずだ。絶対なる攻撃もあるとな」
「実体と虚構を操作した!?」
剣で弾こうとしたときは実体化を失い、攻撃が当たるときには突然現実となる。同時に魔法少女の強力な防御が虚構にされてしまったのは防ぎようもない。
(……だから絶対なる攻撃なのね)
ルージュは痛みで顔が歪みながらその場に膝を突いた。そして、力なく大地に沈んだ。
「ちょっと、引き返しなさいな。総長をお見捨てになるつもりですか?」
エリザベートが暴れるので部下たちが3人がかりで抱えられている状況。今も魔法少女の人間離れした身体能力で馬よりも早くブリアント王国にむけ走り続けている。
「ユーフェリアさんも何か言って下さいまし。魔法少女は誰も見捨てないのですわ。これではわたくしたちもあの裏切り者の女神と同じでしてよ」
憤慨して主張し続けるエリザベートは周囲の説得もまるで通じていない。だがある程度進んだところでずっと思案していたユーフェリアが口を開く。
「エリザベートちゃん、多分あれは……」
ユーフェリアが何か言うよりも先にあり得ない人物から声がかけられた。
「遅かったじゃない。待ちくたびれたわ」
聞き覚えのある声を聞いて皆が足を止め心底驚いた声を発する。
「「「ええーーーーっ!!」」」
エリザベートは顎が外れないか心配になるくらい意表を突かれて開いた口が塞がらない。
なぜなら、聖地に残ったはずのルージュが先にいて待っていたのだから。
それも――。
「あんまり遅いから包囲しようとしていた周辺の無魔10万と邪神の眷属100は掃除しておいたわ。ここから先は魔導自動車で快適に、かつ急いで帰還するわよ」
見れば周囲には激しい戦闘が行われた後をうかがわせる火の手があちこちから上がっている。赤熱してドロドロになっている溶岩のような地面を見ればどれほどのおぞましい魔法が行使されたのかと想像をかき立てられてしまう。
高速で先回りしたとしてもこれだけの敵を殲滅できるとは思えない。魔法少女たちの頭上には疑問符が飛び交い乱舞しそうな勢いである。
そんな部下たちの様子をおかしそうに笑っているルージュは亜空間収納ボックスから魔導自動車を取り出す。魔導機関を搭載したオフロード対応車がずらりと並んでいく。
納得のいっていないエリザベートがルージュに詰め寄る。
「ちょっと待ってくださいな。意味が分かりませんわ。どうして総長が私たちより早くたどり着けていますのよ」
その答えはユーフェリアから発せられた。
「ルージュ様は最初から退路の確保のためここにいたんだね」
「ふふっ、正解よ。ユーフェリアは賢いわね。将来有望だわ」
ルージュがユーフェリアの頭をなでて褒めているとエリザベートは今にも失神しそうな顔で恐る恐るたずねる。
「さ、最初から? ということは先ほどまでわたくしたちといたのは誰ですの」
「あれはわたくしが魔装宝玉で作り出した分身よ。魔装宝玉を1つ犠牲にしてしまったわね。あとでフレアさんに謝らないと」
「大丈夫だよ。それより無事に戻ってきてくれたことを喜んでもらえると思うな」
「ふふ、それもそうね」
もはや白めをむいてエリザベートをはじめとして何人かの魔法少女は叫んだ。
「「「私たちの心配を返して!!」」」
「何を言っているの。ユーフェリアはちゃんと自分で気づいたわよ。むしろ皆精進することね。さあ、グズグズしない。気を抜くのは無魔の支配領域を抜けてからよ」
こうして、御園衆は無事に任務を果たし帰還を果たすことになる。
一方聖地でルージュの宣言通りのことが起こっていた。使徒たちはまさに吠え面といってもいい苦々しい表情を浮かべることとなる。消えたルージュの分身の後に残された魔装宝玉の残骸を見つめていた。
重苦しい沈黙が訪れ、女神ミルは滑稽な使徒たちを見て笑いを堪えるのに忙しい。
(ぷくくくく、やるものだね。さすがフローレアの親友にして最強の切り札だね。ただ強いだけじゃない。同じくらい頭も回るようだ)
F作戦のFとはフローレアの略ではない。フェイク(偽物)のことだった。最初からルージュはこの状況を読んで逃げることに重点を置いた作戦を立てていたのだ。
「我々が出し抜かれるなど魔導大国エルドラと戦って以来か」
「あのルージュという人間本当に魔法少女か」
「確かにあまりにえげつない策士ぶり」
「「「してやられたわっ」」」
敵地で危険は侵さず目的だけを果たす。実に見事な作戦にミルは感心した。怒りの矛先がこちらに向かないようミルは早々に地上への干渉を取りやめ消えていった。
(最初の会話で目的の情報は吹き込んだ。あとはどうなることやら……)




