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第100話 魔技研編 『秘密の魔法少女部隊、御園衆と邪神眷属の戦い』

 8000体の無魔がエリザベートの特級殲滅魔法『壊全』によって壊滅した。その後強力な個体が6体生き残る。まもなくしてその邪神の眷属たちと魔法少女の3小隊が戦闘に突入する。

 まずは右翼にいたユーフェリア小隊がいち早く敵を発見し戦いは始まっていた。

 

「行って。ライセント、ラピスホルン」


 小柄な愛らしい見た目の魔法少女ユーフェリアが2体の聖獣を呼び出す。鎧を身に纏い8本足、額には帯電した大きな一角を伸ばした巨馬にまたがり疾走する。空には青き炎を纏う大きな(ほう)(おう)が空を舞う。

 向かうは緑の肌と固い殻に覆われた体長8メートルを超える一つ目の巨人。その大きな一つ目より極光の光線が迸るとユーフェリアに襲い来る。


「ライセント、蹴散らして」


 ライセントと呼ばれた馬型の聖獣は大気を震わせる雷鳴が角よりとびだすと向かってくる光線を切り裂き力強く押し込んでいく。


「ラピスホルン、《ホーリーフレイム》」

 

 空に舞う青き鳳凰が翼を広げると一対の青き炎弾が渦となって巨人の顔に直撃する。青炎の熱さに驚き、手で覆い払おうとするが青き浄化の炎は消えることがない。じりじりと巨人の体を焼き、焦げた匂いがつんと鼻につく。

 

 視界が塞がれているそのすきにユーフェリアの部下の魔法少女たちが魔法砲撃を行った。しかし体を覆っている強固な殻はビクともしない。また近接戦でもその装甲は破るに至らない。表面に傷ができる程度だった。その状況をみるや素早くユーフェリアは判断。自らうって出る。


「みんな。さがって。あたしがやるよ」


 虚空に手を伸ばすと亜空間から呼び出された巨大な槍が姿を現す。長さは3メートルに及び、小さな少女が持つには余りにも不釣り合い。

 これでもユーフェリアの専用装備『マギカ・レインサー』である。

 刀身も巨大でまるで大剣のごとく野太い。白く聖なる光を帯びた槍は小柄な少女の手にあればまるで手足のごとく軽々と振り回し轟轟と大気を脅かした。

 槍が風を切る音に気がつき巨人はビクッと反応するとユーフェリアを警戒する。

 

 だがその警戒は意味をなさない。聖獣ライセントの足が発光すると閃光のごとく突撃したからだ。あまりの速さに反応できない巨人の横をすり抜ける。ユーフェリアの槍はそのときには振るわれた後だった。その威力は凄まじく、すれ違いざまに固い殻を砕き、それだけに飽き足らず脇腹を大きく切り裂いた。


『グオオオオォォォーー!!』


 斬られたことに対して怒りのまなこでユーフォリアを追う巨人。大きな動作でふり返るが巨人にとっての敵は他にもいる。ユーフォリアの部下の魔法少女たちが次々に砕けた殻の弱点を突き追撃。魔法力で形成された刀身で自在に形を変える新装備『マギカ・マナセーバー』が威力を発揮する。魔力光に輝く赤い刀身は火の属性であることを示す。それが突き立てられると巨人を上級魔法でも浴びせたかのように炎に包みこむ。

 ユーフェリアが機を見て号令をかける。


「みんな~~、フィニッシュアタックいっくよ~~」

 

 ユーフェリアが聖獣から降りると自らもマギカ・マナセーバーを持ち4人で魔法剣を掲げ一気に色彩豊かな空間、精霊境界を周囲に展開する。

 魔法少女の力を高め、精霊の加護が強い別世界が一時的に広がり強力な浄化の力をもつ魔法攻撃の準備が整った。

 4つの剣は交差しあい融合、1つの巨大な魔法剣を形成していく。そして、ユーフェリアの手に1本の虹色の輝きを放つ浄化の剣が誕生し剣を水平に構えた。


「「「フィニッシュアタック《ミラクルマギカストラッシュ》」」」


 ユーフェリアによって横一文字になぎ払われると虹色の魔法剣から浄化の力が込められた剣閃が(ほとばし)り巨人の体を飲み込んでいく。巨人は浄化の力になすすべなく塵となっていく。自身の体、手足を見て信じられないと驚き固まった表情のまま巨人は消滅していった。


「みんなあたしの頼もしい仲間です。甘く見たのが間違いですね」


 小さな胸をはってエッヘンと仲間を誇る彼女に部下の魔法少女たちが集まって抱きつき可愛がる。姉妹のように親しげであり、ユーフェリアは皆の妹的な存在のよう。実際ユーフェリアは隊長だがこの小隊では最年少である。ユーフェリアは困り顔で仲間に注意した。


「ほええーー、ちょっと皆、まだ作戦中です。気を抜いたら駄目ですよ~~」


 ユーフォリアの隊は()()(あい)(あい)、とても仲が良さそうであった。





 一方左翼側でも戦闘が始まっていた。ユーフェリアの戦場と違ってここは激しい砲撃戦が繰り広げられる。凄まじい魔法砲撃の弾幕が上空にばらまかれ、悪魔のような体と翼、爬虫類のような肌と特徴をもつ異形が空を3体飛び回る。地上から魔法少女たちが放つ魔法砲撃の嵐に近寄れず手をこまねいていた。


 彼らは同じような見た目ではあるが違いは角が1本2本3本とそれぞれ持っている。地上の魔法少女に向けて応戦の砲撃を撃ち返す。戦場に互いの砲撃が交錯した。

 両者の砲撃戦では地形の有利を味方につけた魔法少女側が翻弄する側となった。(はい)(きょ)となった建物を盾に移動しながら応戦されると角つきの悪魔たちは思うように戦えず苛立ちが顔ににじみ出る。


 すると闇雲な攻撃が増え砲撃の精度も落ちる結果を招いた。周辺の建物は次々と爆発を起こしもくもくと黒い煙が立ち昇る。爆撃機の攻撃のごとく爆発は連続し地上は火の手が上がり赤と熱気で支配されていく。だがこれでますます視界が悪くなり、悪魔たちは相手を見失うという墓穴を掘るのである。


 一方で魔法少女たちは冷静で冷徹だった。自分の役割をきっちりこなし、味方とフォローしあいながら徐々に空にいる邪神の眷属を追い込んでいく。魔法通信も上手く活用し、位置取りと連携は()(みつ)である。その戦いようはまるで現代の精強な特殊部隊だ。


「敵は()れているな。そろそろ短気な奴が突っ込んできそうだ。そのときは遠慮はいらん。誘い込んでしこたま砲撃を羽にぶち込め」

『『『了解』』』

 

 左翼の隊長はマヘリアという。彼女は魔法少女たちの中でも異色の存在である。

 9つの魔力の尾を持ち耳はふさふさでみごとな狐耳をもつ獣人である。色白の肌は透き通るようで黄金色の髪は神々しいまでに美しい。長命で御園衆でも最年長の魔法少女である。年上の自覚もあって精神的支柱であり、規律を重んじる。その影響は部下にも及び、命令に忠実な強者たちがそろっている。


 部下の魔法少女の1人は新兵器の1つ『マギカ・ガトリングガン』を装備。1秒に3000発の魔法の弾丸を吐き出すとゲリラ豪雨のごとく魔法砲撃を浴びせかける。

 もう1人は『マギカ・ブラストキャノン』という大型の砲を構え、極太のレーザー光線を発射し、まるでどこまでも伸びる剣のごとく流し撃ちすることで空の悪魔たちは回避に難しく近づけない。

 最後の1人が気配を消し、姿を魔法で惑わせる。その中で長い砲身を持つ『マギカ・スナイパーライフル』の精密射撃が悪魔たちの油断に鋭く切り込んでくる。休む暇もない緊張の連続で角つき悪魔たちは精神も体力も急激にすり減っていったのだ。


「かかった」


 マヘリアがいったとおりに一角の悪魔がダメージ覚悟で飛び込んできた。しかしこれは待ち構えていた3人の魔法少女による集中砲火を浴びることになる。翼をねらって撃ち抜かれ墜落させられた。だが魔法少女たちは墜落させただけでそれ以上の攻撃はしなかった。だがこれは慈悲ではない。

 

 残り2体の悪魔が墜落した悪魔を拾おうと降りたきた。マヘリアはこのときをずっと息を潜めて待っていた。不用意に飛び込んで来たところをすかさず飛び出し迎え撃った。

 手には魔装銃剣マギカソードガン。それもマヘリア専用に作られた最新兵器『ガントランソード』がロケットのように火を噴き急速に空に飛び上がる。3角の悪魔がマヘリアに気がついたときには翼はもう斬り裂かれている。マヘリアはそのまま相手を地上に蹴り落とした。

 ようやく罠だと気がついた2角の悪魔が上昇し飛び上がるもマヘリアは逃すほど甘くない。


「にがさん」


 ガントランソードが銃の形状に一瞬で変形すると赤い魔法砲撃の銃声が空に響き渡った。赤い閃光が一条の光となって2角の悪魔を撃ち落とす。


「お前も仲良く落ちておけ」


 2角の悪魔の首を掴むと地上に放り投げ3体を1カ所に集める。


「総員フィニッシュアタック、スタンバイ」


 3体の悪魔たちを虹色の精霊境界の空間が包み込み四方から強力な魔法砲撃が放たれ悪魔たちに集中砲火。

 

「「「《ミラクルマギカクロスファイア》」」」

 

 4つの砲撃がぶつかり合うと巨大な聖なる光が高々と立ちあがり、悪魔たちを一網打尽、殲滅した。後には塵すら残らなかった。


「邪神の眷属を3体撃破。我が小隊に被害無し。引き続き殲滅作戦を続行する」

 

 マヘリアは魔法通信機でルージュに報告すると淡々と任務を続けた。





 最後に正面から堂々と突き進むのがホウショウを隊長とする小隊だ。

 宝石のような()(はく)(いろ)の瞳が力強く、ブロンドの三つ編みおさげの少女がホウショウだ。すらっとした体格からは想像できない(ごう)(そう)(ほこ)を思わせる凶悪な武器を肩に乗せて自然体で歩く。


「ん、一匹隠れてる」

 

 市だった廃墟はまっすぐ中心を大きな通りがのびていて奥の絶壁に続いている。ひらけた通路に沿ってかつては商店だった建物がびっしりと軒を連ねて名残をみせる。

 この市は周囲の防備が弱くすぐに放棄されたのだろう。人と無魔が争った形跡はほとんど見られず建物のほとんどが原形をとどめていた。だからこそ気配に敏感なホウショウの言葉に部下の魔法少女たちが警戒し陣形を組む。ここにはひそめる場所が多いので奇襲を警戒する必要があったのだ。


 建物の端でさっと(うごめ)く影が見えると魔装銃を持つ魔法少女が狙うがそれよりも早くホウショウが止める。


「撃っちゃ駄目。相手の思うつぼ」


 相手は混乱の誘発を誘いすきを作る意図をすぐに理解する。音の大きな銃声は五感の聴覚が削がれ自分たちの首を絞めることになる。ホウショウたちが狙うのは相手が仕掛けてきたときだ。攻撃は同時に大きなリスクとすきをうむのだ。

 魔法少女たちはじっと敵の誘いに耐えながら進む。今は精神戦の段階なのである。


「ん、停止」


 ホウショウが短く指示を出すと小隊は前進を中止する。正面の通路に不自然な形で切断された枯れ葉が落ちている。邪神の眷属には蜘蛛男がいる。それを知っているホウショウは武器を正面にふるって目には見えない透明な蜘蛛の糸を断ち切った。


「獲物を捕らえるのではなく切り裂く蜘蛛の糸。皆、注意する」

 

 それからも注意深く進む魔法少女たちに次々と狙いがかわされた蜘蛛男がしびれを切らした。物陰から溶解液を跳ばして降らせると魔法少女たちは素早く回避し反撃に移る。土の魔法で蜘蛛男の足を石で固めて封じると残りの2人の魔法少女が手に持つ『マギカ・キャノン』から火の魔法砲撃を発射。勢い凄まじい熱線に貫かれて崩れ落ちる。ホウショウの部下3人が集まって魔装銃を1つにすると強力な浄化の力が銃身より放出。蜘蛛男をなぎ払う。


「フィニッシュアタック《ミラクルマギカバスター》」

『――――!!』


 声にならない蜘蛛男の悲鳴を最後に眷属はあっさりと倒された。


「皆、よくやった。続けて警戒しつつ前進」

『『『了解』』』

 

 その後もホウショウは進んでいくとついに3つ首のトラが見えてきた。

 近くで見るとその大きさに圧倒される。邪神の眷属が持つ邪気が黒いオーラとなって体から漏れ出ている。おぞましい力の波動に常人であればそれだけで倒れることになろう。それだけこの邪神の眷属は先の眷属とは一線を画す強さと威風を持っていた。


「よく来たな、下等な人間ども。我は邪神の配下ウシオ。蜘蛛男を撃破するとはな。なかなかやるではないか。だが奴はここにいる眷属の中では最弱。グルルルルゥ、わざわざ我の糧になれにやってくるとは殊勝なことだ」


 魔法少女たちはトラが言葉を投げかけてくることに虚を突かれた思いだ。同時に怒りを滲ませる声と覗かせる鋭い牙に緊張が走る。

 ――正し、1人の魔法少女を除いては、だが。

 コテン、と突然ホウショウが倒れた。


「いきなり倒れただと!?」


 意表を突かれて戸惑うウシオに部下の魔法少女たちが慌てる。


『大変。戦闘前にホウショウ隊長はちゃんとご飯を食べたの?』

『食べたわよ。おにぎり10コと燻製肉10人前がっつり食べたわ』


 魔法少女たちがまさか……と思いホウショウを調べる。するとすやすや~~とご機嫌な寝息が漏れ聞こえた。部下3人はポンと手を打ってようやく正解にたどり着く。


『『『そっか、食後の眠気にやられたんだ!!』』』

「――貴様ら正気か!?」


 ウシオが呆気にとられて動けない。いままで恐れられることはあっても目の前にして眠るという図太い人間を見たことがない。ウシオはかつてない混乱の極みあった。むしろ罠だと警戒し襲いかかることすら(ため)()う異常事態だ。

 部下の1人が仕方なしと決断し亜空間収納ボックスを取り出すと涙ながらに手を入れる。


「あいつ何を泣いているのだ。それほどの切り札を出そうというのか?」


 恐ろしい兵器でも飛び出すのかと身構えていると取り出したのはなんとも愛らしいウサギ型のまんじゅうだった。

 ――恐ろしさなどこれっぽちも感じられない、脅威度など皆無の物が姿を現す。


『フローレア様お手製、ウサギまんじゅう~~(×10個)』


 大事そうに掲げられるおやつに3人の魔法少女たちが涙を飲んでいた。


「ほんとにただのまんじゅうだった!?」

 

 だが突然ウシオは噴火するがごとく吹き荒れる殺気に気がつきはっとするとその発生源であるホウショウを見た。


「な、何という殺気。やはり罠だったのか」


 だが様子がおかしい。ホウショウは殺気を部下の魔法少女たちに向けるとにじり寄った。


「フレア様の……お手製?」


 気がつけばホウショウは我を忘れておまんじゅうを取り上げパクパクとほお張っていく。


『ああ、私も食べたかったのに……』

『ううぅ、ホウショウ隊長が今は憎い』

『みんな我慢よ。耐えるの』


 フレアの作るお菓子は絶品ばかり。忙しいフレアに作ってもらえる機会はそうそうあるものではなく部下たちの悲哀は限りない。

 ようやく茶番に気がついたウシオが怒りに沸き立ち咆哮を上げた。


「うぬらああっ、虚仮にしおってええっ、くらえ。《デストロイヤーハウル》」


 3つの大口から放たれる破壊の咆哮が魔法少女たちに襲いかかる。障害物は次々と塵に変えて忍び寄る脅威にホウショウは専用装備『マギカ・ジェノサード』を振り下ろし2つに断ち切った。

 縦に両断され過ぎ去っていく破壊の咆哮は周囲の建物を消しとばし何百という建造物がそれだけで失われた。一帯を更地にしてしまったおそるべき攻撃に3人の魔法少女が息を飲んで固まる中でホウショウも別の意味で固まった。


 ぽとり、と最後のまんじゅうが今の攻撃で地面に落ちてしまったのだ。


「…………」


 呆然とそれを眺めながらもリスのように口いっぱいに入ったまんじゅうを咀嚼し飲み込む。すぐに慈しむように落ちたまんじゅうを拾って汚れを取って迷いなく口に含んだ。

 それを見ていたウシオはホウショウをあざ笑う。


「くはははは、どこまでも食い意地のはった奴だ。落ちた物を拾って食うとはこれだから下等な人間どもは……」

「黙れ!!」


 ホウショウはおちたまんじゅうを飲み干して武器を構える。その形相は鬼気迫りその場の空気が一変した。

 チリチリと肌に刺すような気迫を受けてウシオは表情が凍り付く。


「私の故郷は穏やかで平和な国だった。無魔によっては滅ぼされるまでは。生き残った国の人々は難民となり渡り歩いた国々で飢えに苦しみ、行く先々で迫害されてきた。どこも戦争で荒廃し難民に食糧を分け与えてくれる余裕なんてなかった。私たちは雑草でも何でも食べられそうなものは食べるしかなかったんだ」


 ホウショウの部下の魔法少女たちも同じ国の出身でそのときから苦難を共にしてきた。ホウショウが落ちた物を食べたことを馬鹿にするはずもない。食べ物の有り難みをよく知っているからだ。


「だから食べ物を粗末にするやからは許さない」


 ホウショウは左手を胸に当てて尊敬するフレアのことを思い出す。ホウショウの国の難民を受け入れて救って入れた大切な恩人だ。


(難民特区のうわさを聞いて向かった私たちは途中で力尽きた。食べ物もお金もなくてもう死んじゃうんだなって悲しくて……悔しかった。でもわざわざ私たちの話を聞きつけて助けに来てくれた人がいる。食べ物を持って自ら炊き出しをして手を差し伸べてくれたすごい人。その人はとても温かかった。このまんじゅうもその人が作ってくれた物。捨てられるわけないじゃない)

 

 食べ物がどうしても手に入らなかったあの頃を思えばホウショウの食べ物に対する思いは当然の反応だったのだ。

 ホウショウの部下の魔法少女たちは援護のためウシオに魔法砲撃を集中すると見えない障壁に阻まれ消しとんでいく。本来であればウシオの巨体すら吹き飛ばすような威力の砲撃が無力化されたのである。


「効かん。我をそこらの眷属と一緒にするな。常時邪気による加護に守られ、貴様らの魔法など豆鉄砲のごとくはじくのよ」

「ん、だから特級殲滅魔法『壊全』を受けてもダメージがほとんど通らなかった?」


 ホウショウたちは状況を把握しすぐに対策を導き出す。


『恐らく絶対魔法障壁、邪神の眷属版といったところでしょうか』

『ならば物理法則に変換して放つ理論魔法か、それとも……』

「ん、接近戦で片をつける。私がやる」


 戦意は充実。ホウショウは『マギカ・ジェノサ―ド』を構え、前に出る。


「接近戦? (わい)(しょう)な魔法少女ごときが我を相手に接近戦とは愚かなり」


 ウシオは体を起こすと威嚇するようにその巨大な体の全容を見せつける。10メートルを超える巨大な体と鋼鉄すら易々と引き裂く鋭い爪。巨岩すらかみ砕く牙。何より3つ首からそれぞれ炎と雷、風の力が漏れ出てブレスの準備に入った。


「消しとべっ。破砕轟雷波」


 3つの属性による同時ブレスが逃げ場もないほどに勢いよく広がりホウショウたちに襲いかかった。金属は溶かし、当たれば消し炭にする雷撃、そして、凝縮された風の衝撃波。その威力にウシオは勝利を確信する。


「ふはははっ、我こそは人類が恐れる獣の王よ。人類のことごとくねじ伏せる無敵の王よ」


 三属性同時の凶悪なまでの破壊の波が襲い来るもホウショウは一歩も引かずに武器を突き出して立ち向かう。マギカ・ジェノサードの先が甲高い音を立てて激しく回転する。まるでドリルが掘削していくがごとくウシオのブレスを突き破り、雷は散らし、赤熱しながらも先の刃は耐え抜き周囲にはじき散らす。


「な、んだとっ」

 

 (しの)いで見せたホウショウがあんぐりと口を開くウシオに言い返す。


「ん、だったら私は魔法少女の女王。誰もが羨む()(ぼう)と無魔をひれ伏せる強さをあわせもつ。絶世の美少女よ!!」

『『『(何か張り合ってる!?)』』』

 

 ホウショウは軽くその場でステップを踏むと俊足でウシオに飛び込み顎の1つをアッパーカット。衝撃が駆け巡り勢いよくその巨体を浮き上がらせる。

 ホウショウも追って大きく跳躍。二度、三度と顎を打ち抜き、3つの頭全てを揺さぶるととどめのマギカ・ジェノサードによる脳天打ち下ろし。今度は弾丸のように地上に巨体が降りそそぎウシオは大地に顔面から直撃。体中から耳を覆いたくなる音が響く。

 ウシオはあり得ない強さを見せるホウショウに(きょう)(がく)の目を向ける。

 

「ガハッ、そんな……これまで戦ってきた魔法少女と比較にならん。何だ、この強さは……」


 ホウショウは無言のままにダメージで動けないウシオに近づき手のひらに水色に輝く魔法の渦を集め出す。そして、周囲に広がる精霊境界の輝きにウシオは今度こそ恐怖をにじませる。


「ばかな、これは精霊境界!? フィニッシュアタックを使える魔法少女がまだいるというのか?」

「ん、その情報は古い。ブリアント王国には無詠唱とフィニッシュアタックを使える魔法少女がたくさん育っている。いつまでも人類を狩られるだけの獣と思わないで」


 浄化魔法の渦はホウショウの手に宿りウシオの額に添えられた。


「ま、待ってくれ。幾ら我でもフィニッシュアタックをうけたら完全に死んでしまう。た、助けてくれ」

「ならあなたは一度でも命乞いした人間を助けたことがあった?」

「それは……」

 

 息を飲むウシオとホウショウの攻撃は同時に行われた。


「フィニッシュアタック《破邪仙練掌》」

 

 ウシオの体が爆ぜるように塵となって消滅していった。


「せめて来世は優しい未来でありますように」


 敵とはいえ命を奪うことにホウショウはわずかばかりの悲しみを感じつつ周囲を確認する。

 右翼側からはユーフェリアの小隊。左翼側からはマヘリアの小隊が姿を現す。

 3人はうなずき合って敵の殲滅を確認するとルージュに報告をあげた。


「こちらホウショウ。敵の殲滅を確認。どうぞ」

『了解。こちらも確認した。目標の入り口を固め待機。すぐに合流する。どうぞ』


 5つの小隊すべてが健在。損害無し。敵地にて無魔8000と強大な力を持つ邪神の眷属たちを相手におそるべき戦果を挙げて作戦は終了した。




 合流したルージュたちは絶壁の隠された入り口を見つけた。魔法での幻惑を解除し魔法少女たちが見守る中で首元からビッテンブルグ騎士国の王家の紋章の入った宝玉を取り出した。


「ここは人の神の1柱が作り上げた封鎖空間。さすがの邪神の眷属も手が出せなかったみたいね」


 神聖なる力で覆われた金属の扉は全く傷つくことなく、踏み入られた形跡もなく残されていた。


「ほえぇ、すごいです。とっても強くて温かい力を感じますです」


 ユーフェリアがコロコロと表情を変えているとルージュのもつ宝玉に注目する。


「ルージュ様、その宝玉は何ですか?」

「ここはビッテンブルグ騎士国が管理する聖地。王家直系の血と由緒あるこの宝玉のカギを持つ者だけが開くことができるのよ」


 ルージュが針で指を突くと一滴の血と宝玉を合わせ掲げることで光が漏れ出て扉に伸びていく。すると重厚な大きな扉がゆっくり開き、奥へと続く洞窟が姿を現す。


「つまりここだけは証拠を消されることなく手がかりが残っていると分かっていた」


 周囲の魔法少女たちはしかしあ然とする者も多い。これら一連のことからルージュが大国の1つであったビッテンブルグ騎士国の王族と分かったからだ。


「「「ええ~~!?」」」


 驚きは大きな声となり洞窟に響き渡っていった。


 エリザベートとオギンの2小隊を入り口の見張りに残し、洞窟を進む。マヘリアは歩きながらルージュにたずねる。


「なぜここを一番最後に回したんだい?」

「マヘリアも薄々勘づいているのでしょう。正体不明の見えざる敵の正体が。そしてここには彼らが必ず監視を置いているだろうことも分かっていた。奴らもすぐに気づいて動くことになるわ。ギリギリまでこちらの動きは気取られたくないのよ」


 ここまで来るとこの場にいる魔法少女たちはみんな背後にいる敵の見当が付いた。そして、敵の大きさを思い黙り込む。

 この場所を守護していた敵は何だったか。それを思えば答えは容易にたどり着ける。

 

「あの特定の記憶を封じるというのも対策の一環なのかい?」

「それも含めてよ」

「しかし、あの対策は確か……」

 

 直後、ひらけた場所にたどり着く。大きな空間が広がっていて壁には絵や文字が記されている。神話の物語が表現されているようで圧倒されつつも魔法少女たちは引き込まれた。畏れ多い神秘的な光景に自然と畏怖に飲まれているようだ。

 ルージュに指示されて魔法少女たちは壁画の内容を魔導カメラで余すことなく記録していく。


「ルージュ様。なぜここは壁に記録を残すのでしょう。持ち出せる本に記せば便利だよね」


 ユーフェリアの疑問にルージュは優しく教える。


「持ちだせた場合、改変されたり消されるかもしれないでしょう。紙媒体はそもそも保存魔法を用いても1万年持てば良い方よ。遠い未来に正しく伝えるべきことがあるならこのような原始的な方法が確実だったのね」

「はあ~~、ルージュ様納得できました。ありがとうなのです」

「ふふ、どう致しまして」


 ユーフェリアの頭をなでながらルージュは更に奥へと進んでいく。


「以前は分からなかったけれどフレアさんから超古代語を習得した今の私ならこの聖地を知ることができる」


 奥にあって立ち入ることができなかった部屋もルージュが解読できたことで進み方を理解する。


「悠久のときを経ても変わらない希望を示せ」


 ルージュは宝玉をかざし超古代語を日本語として詠みあげると固く閉ざされてきた扉が開く。

 神聖な乳白色の光に包まれた部屋でルージュは目にしたものに驚く。

 そこには人類の救世主たる魔法少女と仲良く手をつなぎ邪悪な敵に立ち向かうもう1人の魔法少女の姿が描かれている。

 そして、その下に続く1人の男に導かれる大勢の魔法少女たちの姿。


「優しさのピュアマギカ」


 ルージュは恐る恐る震える指で救世主の少女を指さし、次に隣にいる少女の上にに書かれた超古代語を読み上げる。


「希望のピュアマギカ」


 そして、その下にいる魔法少女の中心に少年がいる。ピュアマギカが2人いることが聖地にて預言されていた。これだけでも驚きであるのに更に重要なファクターを見いだした。


「なぜ男が描かれているの。それも魔法少女の救世主!?」


 ルージュの言葉にユーフェリアたちははっとしたが更に続きを知りたくて誰もが黙り込み注視する。この場で超古代語を読めるのはルージュだけなのだ。

 ルージュは1度息をのみ、ゆっくりと震えそうになる声を耐えながら読み上げた。


「魔法少女の女神ヒカリ。その娘であるセレスティアは人類の危機に転生し地上に降臨する。希望の魔法少女ピュアマギカとなり救世主を導くであろう。そして、世界に希望をもたらすであろう」


 レイスティアの正体は女神ヒカリの娘セレスティア。魔法少女として転生するはずがこの未来を快く思わない者たちによって歪められたのだ。

 それが倒すべき敵である。そして、レイスティアはなんとしても救わなくては人類の未来が閉ざされる。母はこのことを言っていたのだとルージュは確信し、立ち向かう敵の強大さを思い顔が強張るのだった。


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