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裁判

 そこは冥界の入り口に設置された法廷。まぁ、法廷といっても傍聴席も無ければ弁護士の席も検事の席もなく、大きな机がひとつあるだけだから、すっきりしたものなのだが。


「はぁー遅いなぁ、まだかなぁ……」


その机の椅子に腰かけた大きな《ひと》はその異様さを物語っているだろう。


「はやく、裁きたいよぉ……」


そう、椅子をつまらなそうに揺らす、角の生えた大きな赤ん坊が。


※―――※

第四話

「裁判」

※―――※


《前回までのあらすじ》

さがせぇ! お前の求めるものを鉄骨の下に置いてきたぁ! →死亡した老人のおかげでシリアスに突入か!? →そう思っていた時期が僕にもありました


 紆余曲折あって命じられた仕事を無事にこなすことが出来た死神は、町中のマンホールを開き、下水道を歩き、そこになぜかある両開きの鉄扉をくぐると、たどり着いた場所にある赤い屋根瓦の平等院鳳凰堂もどきを指差した。


「さぁ、ここが魂を届ける場所、《閻魔邸》よ! 」


鈴木は敬礼のような格好でそれを感心しながら見上げる。


「へー、こんなとこにあるんすね」


彼の左手には死神から無理やり持たされた白い風船のようなもの、人の《魂》があった。ちなみに彼はそれを手癖のように何度ももみ込んでいるが、死神はそんなことなど気にせずに鈴木にノリノリで言った。


「ふっふっふ! 知らなくても無理はないわ、だってここは死者の来る場所! 生きている人間で知ってるのは水道管理局か工事業者か観光マップを見てきた人だけだもの! 」


「結構知ってる人いますね」


鈴木は魂をボールのように丸めて三つ指で持ち、死神の後頭部に投げつける。死神はそれを片手でキャッチすると、ニヤリと笑った。


「それに、ここからは更に機密な場所よ! 死者を裁く閻魔様のお宅ですもの! 人間にとっては入れるだけで貴重な経験よ! 」


それを聞いた鈴木は扉に駆けていき、勢いよく蹴破ろうとする。


「それ、幾らで買えますか!? 」


しかし、死神はワープでもしたように鈴木の前方に回り込み、彼の足を掴んで彼の身体を扉とは反対方向に投げた。


「通常で5000円! ツアーだとお得な3500円よ! しかも裁判見学つき! 」


次の瞬間、開かれる扉。

それは死神によってではない、外からは誰も触れていないのに、扉が開いたのだ。扉を開けたのは二体の悪魔っぽい人たちである。彼らは見事なシンクロ率で死神と鈴木に言った。


「「死神様、鈴木様、ようこそおいで下さいました。閻魔様がお待ちです」」


言われた鈴木は大きく息を吸い込むと、まっすぐ先に待ち構える扉に向けて全力疾走を始める。


「なんと! お待たせするのはよくありませんね! 鈴木、逝っきまーす! 」


だが、死神によってその背中に魂と言う名のデッドボールを打ち当てられて、鈴木はあえなくその歩みを止められた。そして、死神は彼の後ろ首を掴んで扉を開き、ついに閻魔に謁見する。


「……閻魔様、今戻りました」


閻魔の姿は想像を絶していた。

太い手足に丸い腹、体に対して大きい頭……それはまるで赤子のようである。角の生えた赤子は手を叩いて死神の登場を喜ぶ。


「やったぁ! 死神ちゃんありがとー! 直ぐに裁判に移るね~」


死神は頭を下げて、とってきたお爺さんの魂を証言台と浮かせた。槌を持った閻魔はそれを見届けると、こほん、とひとつ咳をする。


「さて、僕は閻魔、君の全ての罪を知ってる、冥土の番人だよ。被告人は、それでも弁明したいことはあるかな? 」


魂は閻魔の前で半透明ではあるが、再び人の姿を取り戻した。


「ええ、ありますとも! 私は家族想いのめっちゃいいお父さんです! 娘からも好かれてます! 当然、天国です! 」


すると、閻魔は二度槌を叩いて笑う。


「うんうん、ギャンブルで多額の借金を作って、母親がようやく貯めた娘の進学費用を全てボートレースに溶かしたのね! よく分かったよ! 」


それから、また槌を叩いて軽く言った。


「はい、判決! 地獄行き! 」


見た目は赤子だが、仕事はきっちりやるタチらしい。判決が下ると、先程入り口で見た二体が現れて人のかたちをした老人の魂の両腕を掴み、右側の扉に彼を連れていく。しかし、ここで事件は起こった。


「はっ!? 」


鈴木が目を覚ましたのだ。

彼は老人が向かう先の扉に目をつけて、死神のみぞおちに拳を叩き込み、靴の脇を押して、その靴をスケートシューズに早変わりさせる。


「いーかーせーるーかー!!」


そして、彼は滑るように老人に追い付くと、老人に地面とキスさせて、扉へと急いだ。


「死ぬのは、僕だぁああ!! 」


ところが、なぜか足元はパカリと開き、そこに落ちるとどういう仕組みなのか、瞬間移動して閻魔の机の上に落下した。閻魔は言う。


「いや、君は違うでしょ」


鈴木は大きな赤ちゃんの手に掴みかかって訴える。


「なんでですか!! 僕は神聖な魂をぞんざいに扱って、重要な扉を蹴破ろうとし、死神に危害を加えたんですよ!? 」


閻魔は答えた。


「いや、まず君は死んでないからね。僕の裁判の対象にさえなってないの」


「なっ!? 」


その答えに鈴木は机の上から飛び降り、死神の鎌を奪って、自分の首を切り落とそうとする。ただ、なぜか鎌はなんど振るっても身体を通り抜けてしまったが。


「なぜなんだぁあああ! 」


死神は崩れ落ちる鈴木から鎌を取り返して説明する。


「前に事故があったから危機管理委員会の指導が入って、今は死神のライセンス持ってないと扱えない安全仕様なのよ」


「危機管理委員会この野郎っ! 」


鈴木は悔しそうに床を叩いた。

閻魔は老人が無事に地獄送りになったことを確認すると、鈴木に尋ねる。


「あのさ、まずどうして君はそんなに死にたいわけ? 給料はまずまずだし、同僚に大きな問題もない、客も良心的だし、理想的でなくとも良い暮らしでしょ」


鈴木は拳を固めて下唇を噛み、その重い口を開いた。


「……だからこそっすよ。俺はこんなにも駄目な奴なのに、周りはいつも優しくしてくれる。だから、辛いんすよ……っ!! 」


彼の答えに死神はため息をつく。


「分からないわね。愛されて、生きていける、それだけで十分じゃない」


閻魔はそんな死神に目を向けた。


「死神ちゃん。ちょっと頼まれてくれる?前に頼んだ仕事の方は別に回しとくから」



《つづく》

《次回予告》

さぁて、次回のおしわすはぁ?

ついに大きな事件が発生? ここまで来るのに本当に長かった! みんなー! ありがとー!みんなのことは忘れないからねぇえ!!

次回、「規則違反と混乱」、あれ?最終回じゃないの? 次回もお楽しみに!


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