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不運は突然に

全身に痛みを感じながら目を覚ます。

あれ、ここは何処だったか。


目の前の赤はなんだろう?


ぼやけていた視界が徐々に鮮明になり、自分が置かれた状況が明確になる。


「……そうだ、私は」


白髪の老人がいるのは赤く塗装された鉄骨の山の下。体はもう言うことを聞かず、動くことは出来なかった。


※―――※

第三話

「不運は突然に」

※―――※


《前回までのあらすじ》

リア充を爆発するぜヒャッハー!

→自爆→現在


そんなこんなで死神は隣町までぶっ飛んでいる。落ちたのは幸か不幸かごみ袋の上だったのでダメージは少なかったが、死神はおしりを擦りつつ涙目になっていた。


「うー、いたたた」


だが、因果なことに彼女の思いはこれによって届くことになるのだ。


「って、あれ? 」


彼女の目線の先にあるのは、崩れて山になっている鉄骨と、それに下敷きにされた白髪の人間。死神は立ち上がり広角を上げて、それに近づいた。すると、鉄骨をどかそうとしていた重機も、飛んでいた鳥さえも止まって、動けるのは老人と死神だけになる。


「こんにちわ、はじめまして人間。私は死神、あなたを迎えに来たわ」


挨拶されて、人間は唇を噛んだ。


「死神? ふざけないでくれ、私はまだ生きている! 」


すると、死神はほうとため息を漏らし、男の身体を指差す。


「生きてる、ね。どうかしら、それは致命傷に見えるけど? 」


男の背中は潰れ、歪に変形している。誰にどう聞いても、生きているとは言うまい。それでも、老人はいい続けた。


「……私は生きている。まだこうして、お前と話せているじゃないか」


それはさながら、聞き分けのない子供のようだ。死神はもう一度彼に現実を突きつけるべきか迷う。だって、そんなことをしなくたって、この《鎌》を振るえば魂の回収は出来るから。


ただ、その迷いも無意味だったのだ。黙る死神に次に声を掛けたのは老人ではなかったし、


「ぐおー! 死んだー ! 」


そもそも、それは死ぬべき人間ではなかったから。死神は蹴りの大きな衝撃で鉄骨の半数をぶっ飛ばし、声の主を踏みつける。


「いつの間に潜り込みやがったこのサボり魔がぁあ! 」


鈴木は踏みつけられつつ説明した。


「落ちてくる瞬間にたまたま出くわしてスライディング侵入しましたー! 」


まぁ、その内容はとても納得できるようなものではなかったけれど。死神は怒りのままに鉄骨の一本を持って、うつ伏せになっている鈴木の目の前の地面に突き刺した。


「あんたバカじゃないの!? 死ぬべきじゃないっていってんじゃん! 実際、この状況でもスーパーラッキーに生き延びてんじゃん! 」


鈴木は真っ直ぐな瞳を死神に向けて、指を老人に向ける。


「何言ってんすか! スーパーアンラッキーっすよ! なんでこんな奴が死ねて、俺が生きなきゃいけないんすか! 」


死神は言った。


「運の問題でしょ」


その無情な回答に男は叫ぶ。


「ちくしょー神めぇ! 俺が神器手に入れたら絶対イートしてやるからな! 」


「いちおう、私も神なんだけどね」


そして、こんな感じの無意味なやり取りのあと、このまま有耶無耶にされては堪らないと鎌を構えた死神の姿は、老人には恐ろしく見えただろう。慌てた彼は、咄嗟に思考を巡らせて死神に提案した。


「な、なぁ! 私が死ぬ必要なんて無いだろう? その男が死ねばいいんだ! 」


予期せぬ援軍に鈴木は立ち上がり、格好つけて指を鳴らす。


「それ、正解! 」


ただ、それでも死神は腕を組んで鼻をならした。


「無理よ。魂には回収時期ってもんがあるの。それ以外を回収したら私の方があらゆる拷問を受けて、挙げ句に抹殺されるわ! 」


そう、回収本部はマジで恐怖組織だったのだ。鈴木はその一般的なブラック企業を超越したブラック体制に思わず、


「本部怖すぎでしょ!! 」


と指摘する。すると、死神はやれやれと両手を持ち上げて首を振った。


「何言ってるの、企業なんてどこも一緒よ。5時間の残業と、休日の返上くらい365日迫ってくるもんなの。死んだ以外で休めると思ったら大間違いよ! 」


「いやいや! まだそんなに社会荒廃してませんからね! 」


鈴木は反論したが、彼女の勢いは止まらない。倒れ込んだままの老人に顔を近づけて、


「あんたは拷問無しに死ねるんだから、むしろ感謝すべきよ! それとも何!? 文句あるわけ!? 」


と食って掛かる。

老人は死神の問いに暫し沈黙して、それからゆっくりと口を開いた。


「……まだ……てない」


その声はあまりに小さく、鈴木は彼に聞き返す。


「え? 」


老人はもう一度息を吸って、答えた。


「まだ、万馬券を当ててない! だから、私は死ぬわけにはいかないんだ! 」


その答えに死神と鈴木は絶句する。

ギャンブルは人をここまで狂わせるものなのだろうか。


「なぁ、死神! 私を助けてくれ! 私がやりたいと思うことならなんでもするから! 」


死神は頭を抱えつつ老人に尋ねた。


「あんたのやりたいことって? 」


その質問に老人は素早く答える。


「競馬、競輪、カジノ、パチンコ! 」


しかし、それを聞き終わらぬ内に死神はもう鎌を構えていて、言葉の終わりと同時にその魂は死神の手に捕まれていた。

鈴木はそのとき魂を始めて見たが、それはまるで白い風船だ。


鈴木は刹那に思った。


「地に足つかないってこういうことか」


とにかく、これで今日の仕事は終了だ。



《つづく》

さぁて、次回の「おしわす」はぁ?

遂に上司が登場! そして、まさかの展開に涙がとまらない!?

次回、「裁判」お楽しみに!

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