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She's So ×××(改稿版)  作者: 青月クロエ
シーズ・ソー・クール
9/93

シーズ・ソー・クール(8)

今回短いです。

(1) 


 かつて自分が渇望して止まなかったものを見せつけられた時、人はどう反応するのか。 


 純粋に憧れだけを抱くのか、羨望と嫉妬に身を焦がすか。

 馬鹿馬鹿しいと否定に走るか、どこかに綻びがないかと探りを入れるか。

 手に入れた気になりたいがために彼らに近づくのか。


 彼らの稀有と言える関係を少し、観察してみたい。

 本や映画でストーリーを追うような感覚――、同調しようにも憧憬を抱こうにも、彼らの事情と自分の事情は全くの別物すぎるから。


 そう結論付けたが、ジル自身の中で確実に起きた変化には無自覚だった。

 どんな形であれ、他人に興味を持ち始めたということを。








(2) 


 週末に突発的な仕事が入ってくれないだろうか。

 前日の土曜日まで抱いていた淡い期待は叶うことなく、オールドマン父子の自宅前にジルは佇んでいた。


 チェスターに教えられた住所を元にアパートから徒歩約三〇分で到着した家は、建売住居の多くに見られる、茶色い煉瓦造りの三階建てセミデタッチド・ハウスで、左右対称に二つの玄関扉と部屋の窓が複数あった。

 右と左に分かれた二世帯住宅なので間違えないようにしなければ、と思っていたが、右側の駐車スペースに見覚えのある車が止まっている。

 ポーチの階段を上がり、数秒迷ってから扉横のインターホンを押す。

 室内から誰かが玄関に近づいてくる音と気配が扉越しに薄っすらと感じる。


「本当に来たんですか」

「……悪かったね」

 扉を開けたフレッドの不躾な第一声に、思わずムッとなる。

 いっそのことプレゼントだけ渡して帰ってやろうか、と思っていると、フレッドの後頭部に白い手が伸び、スパコーン!と小気味良い音が鳴った。

「いって!何するんだよ」

「お客さんに失礼なこと言うからでしょ!」

 後頭部を抑えるフレッドの背後には、片手を腰に当ててもう片方は拳を握るメアリがいた。

「えっと……、私、メアリっていいます!チェスターおじさんからは話を聞いてます。どうぞ!中に入ってください!!」

「メアリ、勝手に」

「うっさい、フレッドは黙ってなよ」

 睨みを利かせてフレッドを黙らせると、メアリはしきりにジルを中へと手招く。

 にこにこ笑っているメアリの横で、フレッドは唇をへの字にひん曲げている。

「ごめんなさい、この子素直じゃないだけで、ギャラガーさんが来てくれたことが嬉しいんです」


 メアリの言葉に反し、誕生日会の主役からは歓迎されているようにはちっとも見えない。

 このまま参加してもいいのだろうか。

 一抹の不安が擡げるが、メアリに促されるまま遠慮がちに家の中へと足を踏み入れる。


「……言っておきますけど、別に、ギャラガーさんが来てくれたのが迷惑とか思ってませんから。ただ、半年遅れの誕生日会なんかに時間割いてもらうのが、ちょっと気が引け」

「『なんか』は余計!」

「いってーな!いちいち叩くなよ!」

「二人とも、仲良いのね……。あ、あと、メアリちゃん……の言う通りだと思う。時期はどうあれ、誕生日を家族とか友達に祝ってもらえるっていうのは有難いもんだよ」


 薄青の瞳が翳り、声のトーンが微妙に下がる。

 ほんの一瞬だけ見せたジルの憂いをフレッドは見逃さなかった。

 返答に詰まり、薄い唇を開けては閉じを二、三度繰り返し――、結局、諦めたように押し黙ってしまう。


「ですよね!」

 タイミング良く、メアリがジルの言葉に同調してくれたので、フレッドとの気まずい空気はすぐに解消された。

 更には、前方の廊下をバタバタと駆けてくる足音が近づいてくる。

「ですよねー!!!!」

 騒がしい足音の主が飛びつくように、背後からフレッドを羽交い絞めにする。

 げっ、と苦しげに息を吐き出すフレッドの肩越しから、彼はジルとメアリの間に顔を突っ込んできた。


「お、なになに、新しいお客さん?!ていうか、なに、フレッドさー、こんなきれーなおねーさんとー、どこで知り合ったんだよー?!」

「耳元ででかい声出すな!うるさい!」

 小柄なフレッドの背に合わせて落とした腰や膝の深さから、この年頃にしてはかなり背が高い。

 ひょっとしたらジルの身長よりも高いかもしれない。

 癖の強いアッシュブロンドの髪や大きな口がライオンみたいだが、悪戯めいた緑の目はまだあどけない。

「あのさー、エド。まずはお客さんにちゃんと挨拶しなさいよ」

 じゃれ合う少年達(片方はされるがままだが)にメアリはすっかり呆れ顔。

 エドと呼ばれた少年はジルに向かってニカッと笑ってみせた。

「こんちわー!俺、エドワードっていいまーす!エドって呼んで呼んで!!」

「こんにちは、ジル・ギャラガーよ……。よろしく、……エドくん??」

「へへへー、よろしくぅ」


 (約一名を除く)子供達の勢いに圧倒され、ジルの足は玄関よりも奥へ一向に進められない。

 いつまでも玄関で話し込むのも埒が明かないのだが、複数の子供に囲まれた経験がないのでどう話を切り上げればいいのか。


「あーあー、ギャラガーさんてば、子供達に人気じゃないですかー」

 エドが出てきた部屋――、きっとあそこで会が行われているだろう――、の扉が開き、チェスターが扉の影からひょこっと顔を覗かせた。

「ほらほらー、お客さんをいつまでも玄関に立たせておかないのー。早く、みんなでこの部屋までギャラガーさんを案内するんだぞー」

「はーい!!」


 この時、知り合ってから初めて、ジルはチェスターに心から感謝した。

 早く早くとメアリとエドに背中を押され、板張りの廊下をギシギシ軋ませてチェスターが待つ扉まで進んでいく。

 三人の後ろに続くフレッドは、相変わらずムスッと不貞腐れていた。


「フレッド君」

 メアリとエドに急かされて部屋に入る直前、ジルは斜めがけの鞄をごそごそ漁りながらフレッドを振り返る。

「何ですか」

「これ、あんたにプレゼント」

 怪訝そうにジルを見返すフレッドに、無地の青い包装紙でラッピングした本を手渡す。

 薄灰の瞳をパチパチと瞬かせるフレッドに、「吃驚しなくてもいいじゃない、プレゼントくらい、ちゃんと用意するよ」と笑ってみせる。

「あんたくらいの年頃に夢中になった本。もしかしたら、とっくに読んでるかもしれないけど」

「ギャラガーさん、早く入ってー」


 チェスターとメアリ、エドの呼び声が重なり、今度は室内を振り返る。

 だから、本を両手に握って立ち尽くすフレッドがどんな顔をしていたのか。

 ジルは知る由もなかった。

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