第3話 初めての戦闘
私とリリスさんが森に再び入ってから10分、私の足はリリスさんが大量に買ってくれた治癒ポーションのおかげで疲れることなく歩くことが出来るようになった。そして今、私の目の前には周りとは少し地形で隠れてあった大きな穴がある。その穴からは少し冷たい冷気のようなものが外に向かって吹いており、時々何かの音がする。
「ここは私がよく来るダンジョンであまり攻撃力のある魔物はいないから安心してね。勿論、私も最後の階層までは行ったことが無いんだけどね」
リリスさんはこのダンジョンに何回も来たことがあり、中にいるモンスターは攻撃力が低い。だが、彼女はまだ最下層まで行ったことが無い。となると理由は魔物の防御力と体力が多すぎて、負けはしないが、勝つことも出来ないのか、それともダンジョンの階層が多すぎるのか。
「ところでどうしてダンジョンへ?」
「お金が無いからよ。それにあなたはとてもじゃないけど町まで歩いては行けないから馬車を借りるお金を今から稼ぐの」
私の為だったとは…。確かに今の私では町まで到底行けないし、持てる治癒ポーションも限られている。お金は私が少し高額で時計屋に売ることが出来たけど、馬車を借りるお金ほどではないはず。私もこの世界の馬の相場を知っているわけでは無いけど、かなり高額なはず。
「リリスさん、何から何までありがとうございます」
「別に良いってことよ」
「はい、リリスさん。よろしくお願いします」
リリスさんは笑顔を作り、ダンジョンの中へ入って行った。私は魔物からの攻撃を受けない為にリリスさんの後ろを少し離れた所からトコトコと付いて行った。ダンジョンに入ってすぐに階段にたどり着いたため、私達は2階層へと進むと、そこには魔物が大量にいた。正確にはスライムだと思うのだけど、そのゼリー状の生き物は勢い良くリリスさんに飛び掛かっていき、彼女の少し前まで飛んでくると何をすることも出来ず、すぐに消滅してしまった。
そう、彼女は[フレイムII]を連発していたのだ。この世界には詠唱などといったものが存在しない為、時には何百もの魔物を連続で倒すこともできるのだ。私も連発することは出来るけど、MPが現在7しかないため、その回数はたったの7になってしまう。それにゲームでは最弱であるスライムも今の私のステータスでは一回の攻撃で倒されるとも限らない。
『レベルが1から2にレベルアップしました』
『ステータスポイントが2追加されました』
リリスさんがスライムを10匹ほど倒した後、このようなシステム音が頭の中で鳴った。私はステータス画面を目の前に表示させると頭に鳴り響くシステム音の通り、ステータスポイントには2という数字が表示されていた。私はもちろんそのポイントをINTに振り、
魔力と魔法威力であるMPとMATKが上がった。
その後もリリスさんに前方を任せ、私はその後ろをトコトコと付いていった。そしてそれから2時間が経つ頃、私のレベルはもう3に上がっていた。
「さて、もう帰りますかね。アイテムや材料は集まった?」
「はい、溜まりました」
そう、私がリリスさんに渡されたマジックバッグには大量のアイテムと材料が。このマジックバックには自動回収機能というものがあり、いらない物もいらない物も全てを使用者が通った場所から広い上げる機能だ。というわけで私のマジックバッグの中にはモザイクを掛けなければいけないようなグロく、何故か動き回っている魔物の体の一部がたっぷり入っている。
「あの、これ本当に持って帰るんですか?」
「何言っているの? このゴブリンの足なんか物凄く美味しいんだから」
全くもって美味しそうに思えないのだが…。それに美味しかったとしても決して食べたくないね。だが、それと共に鉄の指輪や腕輪などの小物のアイテムも一緒にマジックバッグの中に回収されていた。
「ところでどうして魔物を倒すとアイテムがドロップするんですか? ゴブリンなども腕輪なんか着けていなかったですし」
リリスさんがスライムなどを倒すと一定の確率で腕輪や指輪がドロップする。そのアイテムは必ずともそのモンスターが着けていた物では無い。
「どういうこと? 魔物を倒したら一定確率でアイテムや材料がランダムで落ちる。常識でしょ?」
「えっ、あ、はい」
どうやら魔物からアイテムと材料がランダムでドロップするのはこの世界での常識だったようだ。リリスさんの返答からして誰もその事を不思議には思わなかったのだろうね。それにしてもこの世界はゲームと似すぎているね。この感じだとこの世界で生きていくにはそれほどまで苦労をしなくてもよさそうだ。
「何か光っている」
私はその光った物の正体を知るためにその光を追った。
「ちょっと待って、それ罠…」
そうリリスさんが言うと、私のおびき出された部屋の床が抜けた。リリスさんは瞬間的に底へと落ちている石を踏み台にしてこの部屋の入り口に向かって私を持ち飛んだ。リリスの足がその入り口のすれすれに着地した瞬間、ドアが勢いよく閉まった。勿論、私達はそのせいで再び床が抜けたことによって現れた下へと続く深い穴へと落ちていった。
「ん…」
首が痛い。腰が痛い。体全体が痛い。私は体を起こそうとしたが、全く体に力が入らない。その時、私の体が下にある何かによって横に移動された。
「けふっ、けふっ」
下にいたのはリリスさんだった。リリスさんは彼女の上に乗っかっている私を横に移動させ、立ち上がった。こんなに高い所から落ちたのにも関わらず、私とリリスさんは生きていた。そして驚くべきなのはリリスさんのその頑丈過ぎる体。彼女は私によって潰されたにもかかわらず、今は肩や腰を回して普通に立っていた。
「ふう、びっくりした。そういえば葵、大丈夫?」
いや、全然大丈夫じゃないです。助けて。死にそう。
「どうやら全然大丈夫じゃないようね。本当にあなたステータスポイントを何に振ったの? ちょっと待ってね。すぐに治癒魔法を掛けるから」
そう言い、リリスさんは治癒魔法を私に掛けた。私の体の痛みは徐々に和らいでいき、すぐに立てるくらいまで回復することができた。回復時にミキミキと体のあちこちから骨の合わさる音が聞こえたから体中の骨が折れていたのだろう。
「またまた凄いトラップに掛かったわね。これじゃあ、地上に上がることは出来なさそうね」
「ではどうすれば…」
「もうこのまだ下を目指すしか無いわね。確か何百年前に世界一の冒険者、ゼブルスターがダンジョンの奥深くで迷ってしまい、地下を目指してダンジョンを進めていくと、最下層にボス部屋があってそのボスを倒すと地上に戻ることが出来ると聞いたことがある。私達もその可能性を信じて下に降りた方が良さそうね」
それってダンジョン攻略クリアで地上へ返されたということじゃないかな? もしこの世界が本当にゲームとそっくりの世界ならその可能性もありえるかも。それにトラップのおかげで今、私達はかなり最下層に近い場所にいるのではないだろうか。
「はい! 地下へ向かいましょう。その方が地上に戻れる可能性も高いですしね」
「あ、ああ」
というわけで私達はその場からまだ下の階層に向かうことになった。
「葵、アローを」
「はい!」
それから5階層ほど降りた今、私達はボス部屋にたどり着くことが出来た。私は後方から現在の最大火力である[アロー]を放ち続け、リリスさんは前衛で魔法と拳を使いボスと戦っていた。そしてボスのHPはもう底を付きそうになっており、同様に私とリリスさんのHPとMPも底を付きそうになっていた。
ちなみにボスの名前はフォレストボスゴブリン。そのボスは名前通り、大きいただのゴブリンと言った感じだった。しかし攻撃の速度や一発の威力は普通のゴブリンとは比べ物にならないほどで、その防御力はリリスさんのスキルの威力を半減させるほどのものだった。
もうポーションも残っておらず、今はどちらのHPが尽きてもおかしくは無い状況になっていた。私は集中して少しづつMPを回復するも、その速度は遅く、あと一回でも[アロー]をリリスさんかボスが倒される前に撃てるかどうかもわからなかった。
すると回復の集中がうまくいったようで、すぐにMPが1回復した。[アロー]は基本中の基本の魔法なため、使うのに必要な魔力はたったの1とかなりの低コストで撃つことができるのだ。
「[アロー]!!!」
私はそう叫び、光輝く光の矢[アロー]をボスに放った。するとボスは丁度、私の[アロー]によって消滅した。やっと倒せた。そう私とリリスは安心し、地面に座り込むと、またしてもシステム音が頭の中で鳴った。
『森林ダンジョン、初攻略クリア』
『クリアパーティーメンバー。リリス&葵』
『パーティー森林ダンジョン攻略。新スキル習得』
『森林ダンジョン、レベル5以下で最下層初攻略者登録。新スキル習得』
どうやら最後の一撃でボスの残りのHPを削ることができたようだ。もし私が回復に集中できていなかったら確実にリリスさんはやられていただろう。そう思うとかなり嬉しい。だけど、やっぱりゲームと同じくボス攻略はパーティーやレイドの方が安全だね。今回はかなりやばかったように思える。
『レベルが5から6にレベルアップしました』
『ステータスポイントが2追加されました』
そしてレベルもぎりぎりだったようだ。もしレベルが6にすでになっていたら、新スキルを習得することが出来なかったのだろう。そして私は二つのスキルを得ることができるようになった。
「し、新スキルが追加された!?」
どうやらリリスさんも新スキルを獲得することが出来たようだ。私はステータスポイントをINTに振り、スキル一覧を開いた。するとそこには[フロート]と[50%キル]というスキル名がスキル欄に追加されていた。
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スキル[フロート]
効果:「中に浮かぶことができる」
フロート時:ASPDを1.2倍に修正。
スキル制限:無し
消費魔力:0
取得条件:森林ダンジョンパーティー攻略
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「[フロート]って効果は地味だけどフロート時のステータス修正、これは凄いわよ! これで葵も足が速くなるわね。て、そもそも歩かなくても大丈夫のようね」
そう言ってリリスさんはフロートを使い、空中に浮いた。そして彼女はASPDの修正を試すために一度ボスの部屋の端まで行き、そこから勢いよく反対側の壁までフロートを使った。以前でも十分彼女の足は速かったが、今はそれよりも早くなっており、足は全く動かさずにただ彼女が体を前にするだけで地面から数十センチ上の空中を滑るように移動した。
「これは凄いわね。これからは歩く必要が全く無くなるわね。それにHPやMPも減らず、全く疲れない!!」
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アキカゼ アオイ / LV6
MP / 12+5
HP / 0+0
ATK / 0+0
MATK / 30+5
DEF / 0+0
HIT / 0+0
AVOID / 0+0
ASPD / 0+0
MSPD / 0+0
STR:0 INT:6 VIT:0 DEX:0 AGI:0
スキル
≪魔力I≫≪魔法I≫
[フロート][50%キル]