戦巫女
「くっそ、数が多すぎるっ!!」
朝部にバリケードの補強と、第八位を呼ぶように行って出てから三十分。最初に来たとき、初めてバリケードを確認した場所の近くまで離れていた。
此処まで来ても、雄叫びを上げた奴の姿は見えていない。
「くそ、どこにいるってんだ!?全然見えないぞ!?」
あの雄叫びは、多分オーガやオークとは比べ物にならないぐらい強い。ここ三十分でレベルが25に上がったとは言え、勝てるかわからない。
「あぁーー、あぁぁぁ」
「おまえ等は呼んでないってのっ!!」
叫びながら真っ二つに斬り捨てる。まだまだ減る気配はない。
「我が魔力を贄とし、邪を祓う光となりて天より降り注げ!!」
突如、頭上から光の雨が降り注ぎ、『黒化』した奴らの体が灰になって消えていく。生きている人間には効果が無いようだ。
どうなってる?あの光、魔法か?
「アナタが第一位ですか?始めまして。第九位『戦巫女』です!!」
街灯の上に立って、コウを見下ろしている第九位。巫女とは思えない服装。学生服を身に付け、薙刀を携えている。
‥‥ふむ、水色。深月とは違ってちゃんと年相応だ。安心した。
「第九位?なんで此処にいる」
「それは‥‥後ろっ!!」
「っ、雀羽織っ!!」
剣を抜いている暇が無く、雀羽織を使って後ろにいる奴らを焼き尽くす。
今ホント忙しいから、邪魔しないで!?
「うわぁ、それがガチャで出たっていう‥‥カッコイいですねっ!!」
「そんな事より、なんで君は此処にいる!?千葉の先っぽ辺りだと聞いたんだが!?」
「話を聞いて直ぐ、バリケードか突破されまして。なんかデッカい豚みたいなのが其方に向かってるのを見て、海を渡って突っ切ってきました!!」
いや、突っ切るって‥‥‥一番近道しても五十キロ以上あるぞ?どんなサブ職業ならそんな事が出来るんだ?
「そんな事より、今は目の前の脅威です!デッカい豚みたいなの、最初はオークだったのに、今じゃ五十メートルはある豚ですよ!!どうします!?」
「は?五十?しかも、オークだった!?いやいや、話が可笑しいぞ。俺の知ってるオークはそんなにデカくない!!」
「私の知ってるオークだって同じですっ!でも、実際大きくなってるんですから、しょうがなくありません!?」
もしかしなくても、あの雄叫びはデカくなったオーク。‥‥五十か。勝てる気がしない。いや、実物を見ないと何とも言えないが、はっきり言って勝率0に近いんじゃないか?
「取りあえず、此処の奴らを片付けよう。手伝ってくれ」
「はーい」
第九位の全方位に注ぐ光の雨を何度か降らすと、漸く全員灰に変える事ができた。レベルも相当上がったのでは無かろうか。コウのレベルも、27に上がっている。
「さて、話を聞きたいんだけど、まず最初に。千葉方面のバリケードか破れたのは本当か?」
「はい。もう千葉は堕ちました。今は茨城方面で新しくバリケード張ってるんじゃありません?」
「そうか‥‥そっちには誰が居たっけ?」
「第三位と五位ですね。二人は一緒にいるそうですよ。あと、大阪でもバリケードが張られたらしいです」
「なっ!?アソコは『黒化』が出る場所じゃないぞ!?」
「新幹線に乗ってたみたいです。駅に突っ込んだらしいですよ。乗客が全員『黒化』した新幹線が」
くそ、先輩達は九州。大阪が破られたら‥‥っ!!
[主、聞こえてるー?アシッドだ]
[アシッド!?どうした、そっちまで奴らが行ったのか!?]
いきなりの念話に驚いてしまう。バリケードは張り直されてるだろうし、周囲の奴らも片付けている。これ以上どんなイレギュラーが現れたのだろう。
[いやいや、バリケード破られたって聞いたから、もう出発するな。運転は如月と伊波の親が交代でする事になった。一応、許可を貰いたいんだけど]
どうやら、思っていたような事態では無かった様子。アシッド
[命令変更っ!オーガウスはそのままレイ達と九州に。途中で深月の両親拾ってけ!!アシッドは今すぐ栃木に行け。千葉のバリケードが破られた。茨城でもう一度張り直してるが、時間の問題だ!!]
[了解、主。深月の両親は顔覚えたしすぐにでも出る。‥‥世話になってる親戚はどうする?]
[出来れば連れていけ。第一保護対象は深月の両親だ!!]
[了解。こっちは任せろ主!]
[頼んだ!!]
「あの、どうかしましたか?」
「ん?あぁいや、使い魔とお話。取りあえず、第八位が此処にいるのは知ってるよな?」
「えぇ。今は私、四位ですけどねっ!!」
胸を反らしてふんぞり返る。おぉう。顔に似合わずデカい‥‥‥
「そうか。さっきので順位が‥‥‥結構上がってるな。上がってない奴は防衛ラインに付いたのか」
「多分そうですね。で?どうします、もう見えてきてますけど?」
気にしないようにしていたが、さっきからズシンズシンと何かの足音がコッチに近づいてきていた。あぁ、気のせいだと思いたかったのに‥‥‥
「まぁ、迎え撃つしかないだろ。第八位‥‥今は七位だな。に連絡とってくれないか?君は後方支援に徹してもらって、第七位に君の護衛を頼む」
「私、『戦巫女』ですよ?ある程度は闘えますけど‥‥」
「君の実力を疑ってるとか、女だからとかじゃなくて、後方支援出来るの君だけなんだよ。俺は魔法使えないし使い魔もこの場には居ない。それに、俺には『疾風迅雷』がある。前衛は決定。第七位は職業的にも会った時の印象的にも前衛タイプだろうから。‥‥‥ほら、君しかいないだろ?」
「確かにそうですね。わかりました。後ろは任せてください」
そう言って第七位と連絡を取り始める。さて、デッカい豚さん、どんな感じかなぁ‥‥‥キッモ!!!
「ちょちょちょ、ナニコレナニコレ!?豚じゃん!!思いっきり豚じゃん!!全然オークの面影無いんですけど!?」
「アハハ、だから言ったじゃ無いですか~。豚だって」
「オークの面影完全に無くなってるとは思わねぇよ!!これをみて誰が元はオークだって信じる!?」
「いや~、誰も信じないと思います‥‥‥って、来ましたよ!!」
「チッ!!」
大きい十字路を埋め尽くす元オークだという豚。前足動かすだけで怖い。上に足裏が迫ってきている。
素早くその場を飛び退いて、距離をとる。コウ達を踏みつぶそうとした前足は、コンクリの道路に埋まっている。あんなのどうやって倒せと?
「くそっ、集まってきた『黒化』は任せた!!七位はまだこないのか!?」
「もうちょっとです!!‥‥我が魔力を贄とし、邪を貫く槍となれっ!!」
『戦巫女』の作った槍は、コウ達を踏みつぶそうとした足を貫く。が、
「う、嘘でしょ!?貫いた瞬間にはもう殆ど治ってる!?」
「はぁ!?どうなってんだ!!」
コウはその時『黒化』を相手していて見ていなかったが、確かに頭上に合った槍で貫かれたであろう足の修復している所がチラリと見えた。有り得ない程の超回復。こんなのデタラメすぎるぞ。
「チィッ!!『狂戦士』はまだ来ねぇのか!?」
「うるせぇな。コッチにも事情ってもんが有るんだよ!!」
「悪い、遅れたな。俺の『アップデート』があったんだ。すまなかった」
後ろから、『狂戦士』と『アップデート』を果たした朝部という男が走ってきていた。此処で予想外の戦力登場。が、今は好都合だ。
「よぉし、朝部は『戦巫女』の護衛。『狂戦士』は俺と前に出るぞ!!『戦巫女』、さっきの雨をもう一回降らせろ!!多分、核がどこかに有るはずだっ!!」
「わかりました!」
「なんでお前が仕切ってんだよガキィ!!」
「彼が第一位だからですよ。それよりも、黒川さんも早く行ってください」
「うるっせぇ今行くっての!!」
愛用している軍用ナイフを引き抜き、前を走っているコウを飛び越えて先ほど『戦巫女』が貫いた前足に飛びかかる。
「おらぁっ!!」
さっきの槍では分からなかったが、以外と肉は柔らかいらしい。スルスルッとナイフが内側に入っていく。辺りに血が飛び散る。が、凄い速さで再生していく。これで確定だろう。どこかに核があって、それ以外はいくら攻撃しても意味はない。
「『戦巫女』!!俺が身体を小さくする。そこを狙え!!『狂戦士』は敵を引き付けとけ!!」
二人に指示を出してその場を離れる。向かう先は近くで一番高い建物だ。屋上まで階段を駆け上る。
「邪魔なんだよ、どけぇぇぇぇっ!!」
中には『黒化』した人達で溢れていた。会社の社員なのだろう。皆スーツが真っ黒に染まっている。全員の相手をしている時間は無い。目の前の奴らだけを斬り、それ以外は無視する。
斬って斬って、漸く屋上だ。
「ついたぁっ!!」
鍵の付いた扉を蹴り壊し、端の方へと向かう。
「雀羽織っ!!」
最大限まで引き延ばした『雀羽織』を最大火力のまま下にいる豚を包むように落とす。
「ブワァァァァァァァァァァァァァァッッ!!!」
「よっし!!」
核か何かに当たるまで焼けたようだ。このまま焼き続ければいける。
「『戦巫女』!!今なら邪魔するものはないっ!さっきの雨よろしくっ!!」
「我が魔力を贄とし、邪を祓う光となりて天より降り注げっ!!」
先ほどよりも規模の大きい光の雨が、豚を覆い尽くすように降り注ぐ。当たっては再生していくので、どこに核があるのか全くわからない。『雀羽織』が付けた火傷も、どんどん治っていってしまう。
「くっそ!!こんなのどうしたら‥‥‥おぉっ!?あれかっ!!」
一番光の雨が当たっていた頭に核らしき物が見えた。ちょうど左目の上辺りだ。
コウはビルの屋上から飛び降りて、豚の頭に『疾風迅雷』を突き刺す。
「疾風っ!!」
風の刃を作り、着地した豚の頭右半分を吹き飛ばす。斬り刻まれた脳や目玉が先ほど飛び降りたビルの壁に飛び散る。ガラスが割れて、中に脳の欠片が入っていく。
吹き飛ばして丸見えになった左半分の脳を駆け上がり、核があるであろう場所に先ほどとは違う方の剣を突き刺す。
「迅雷っ!!!」
辺りが青白い光で包まれる。電撃が身体中に流れ、破裂する。先ほどとは比べ物にならない量の血や内臓、身体中の臓器が辺りに飛び散る。
テッテレーン!レベルアップ!!28レベルになったよ!!
テッテレーン!レベルアップ!!29レベルになったよ!!
テッテレーン!レベルアップ!!30レベルになったよ!!スキルを習得出来るから、選んでねっ!!
テッテレーン!レベルアップ!!31レベルになったよ!!
テッテレーン!レベルアップ!!32レベルになったよ!!
テッテレーン!レベルアップ!!33レベルになったよ!!
頭の中にレベルアップの効果音が流れてきた。一気にレベルか6もあがった上に新しく『スキル』というものが出てきた。これは後で調べよう。
「身体中血だらけで気持ち悪い‥‥『ピュリフィケイション』ふぅ。これでスッキリ」
足場が無くなったので、地面に飛び降りる。ほんの十数秒なのに、地面に立つと変な感じになった。船から陸に上がったときみたいな感覚だ。
「うっわー‥‥やりましたねぇ。グチャグチャじゃ無いですか。片付けるの大変だなぁ」
「お前『ピュリフィケイション』使えなかったら血だらけで帰ることになってたんだぞ?そこら辺も考えろよな」
「黒川さん、そんな事言わないで下さいよ。それよりも、俺達必要なかった気がしません?俺なにもしてないからレベル上がってないんですけど」
『ピュリフィケイション』を使い血を落とした三人が文句を言いながら近づいてきた。そんなに言うなら自分達でやれば?
「冗談キツいですよ。あんなの、私達に出来るわけ無いじゃないですか」
「レベルアップすれば出来るよ。魔法職取ればいけるんじゃないか?」
「まだ20いってねぇよ。自分は20越えてるからって偉そうに‥‥」
「実際偉いじゃ無いですか。この年で最強ですよ?俺達大人は政府の言いなりですからね」
「そうだよなぁ~‥‥命令無視したからなぁ。俺達、どうなるんだろうなぁ」
なんと、命令無視って。ちゃんと許可貰ってから来たのかと。だって朝部『バージョンアップ』したって言ってたし。向こうで殺してきたってことはOKでたのかと思ったのに、やるなこの二人。
「まぁまぁ、お陰でバリケードも貼り直せたんですから。良しとしましょう」
「とりあえず、この血とか内臓はどうにかしなきゃな。このままじゃ病気とかの原因になるだろ」
「わかりました。じゃあ私が‥‥我が魔力を贄とし、不浄な物を浄化せよっ!!」
雨とは違い、霧のような物が辺りを覆い尽くしていく。壁に付いた血や腸らしき物体がら『黒化』した奴らが消えるみたいに灰になって消えていく。大変とか言ってたのに簡単に消えるな?
「ハァ、ハァ、ハァ‥‥つ、疲れた。これ、魔力を殆ど消費するんです。と言うわけで第一位さん。おんぶしてください」
「えー‥‥‥まぁ良いけどさ」
コウに向かって伸ばしてくる手を肩に乗せて、一気に持ち上げる。すると、背中が幸せな感触で包まれる。耳元に当たる吐息をくすぐったくて変な気分にさせる。
「おい『限定英雄』顔が弛んでるぞ。彼女いるんじゃねーのかよ」
「それはそれ。これはこれ」
「いや真顔で言うことじゃ無いぞ?‥‥‥じゃあ綺麗になりましたし、戻りましょうか。黒川さん」
「おう。んじゃこっからは任せた」
「えっ」
「お前だけ何もしてねーんだから。それぐらいやりやがれ」
確かに。豚に一太刀も入れてないし、護衛もする事がなかった。後はこの人に任せてゆっくりしよう。
「ちょ、マジですか?『限定英雄』もなんとか言ってくれ!!」
「ファイトッ!!」
「ちょっと!?」