職業と名前
「ふぃー、殺った殺った。流石に全部回るのはキツかったなぁ。二百は居たからなぁ。疲れた‥‥」
スクリーンを一つ一つ回って、二百人程を灰に変えた。もう何も思わなくなっている。
「感覚が可笑しくなってるなぁ‥‥まぁ、今はコッチの方がやりやすいけど」
魔物の姿は無く、実に簡単なレベル上げだった。それでも、12だったレベルが16と、たった4レベルしか上がっていない。
やはり、メイン職業になってからの経験値は最初よりも多いようだ。一般人の時はもう20になっていても可笑しくなかった。
レベル20にならなかったのは残念だったが、収穫も合ったので良しとしよう。
「ねー美咲先輩。もう少しで助けますんで、ちょっと我慢ですよー」
「んんーー、んんぅぅー」
『黒化』してしまった、如月先輩や伊波先輩と同じ今年の卒業生で、我が部の部長だ。
用事があって先に帰ってきていたと言うのは聞いていたが、まさかこんな所にいるなんて‥‥部員は全員助けるつもりだったから、ラッキーだった。
『雀羽織』で室内明るくしてなかったら間違って斬っていた所だ。アッブネー。
部長に布を噛ませて、攻撃出来ない用にして、縄で縛っている。これで逃げられないし、噛まれない!!
二人で、最初にスライム‥‥名前決めてなかった。
スライムと闘った所に戻って、三人を探そうとするが、探すまでも無かったようだ。
「スライムさんすっげー強いっすね!!」
「酸を使うって聞いたのに、まさか素手で首をもぎ取るなんて‥‥スライムって最弱モンスターじゃ無かったんですか?」
「はぁ?スライムが最弱だぁ?そりゃ普通のスライムの話だ。俺は知能持ち。普通のスライムとは格が違うんだよ。格が」
オーガウスの時も思ったけど、なんでそんなに意気投合してるの?君たち順応早くない?
「おっ、主のお帰り‥‥なんで殺してねぇんだ?」
「知り合いなんだよ。ちょっとお前ら警戒してろ。生き返らせる」
いち早く気づいたのはやはりさっき契約したスライムだった。名前、どうしようかな‥‥
「ちょちょっ、生き返らせるってどういうことだ櫻木!?『黒化』した人は死んだんじゃないのかよ!?」
「ど、どうやって生き返らせるってんだコウ!?というか、僕達は生きてる人を‥‥」
あれぇ?ちゃんと確認しないと駄目じゃないか二人とも。
やれやれ‥‥そう言えば確認する時間なんて与えなかったな。俺のせいか。
「落ち着け、今は死んでる。『解黒薬』とか買うところの一番下みてみ?10万ポイントで『蘇生薬』が買えるんだよ。まぁ、今のお前たちには関係無いけどな。そんなポイント無いだろうし」
「ほ、ホントだ‥‥」
「こ、これがあれば‥‥」
「千人殺してやっと一人だ。そんな簡単に使えない。部長には世話になったし、大切な人だ。だから生き返らせる」
部長には本当にお世話になった。
あんな噂が流れてて、深月とレイ、南以外人なんて寄りつかなかった俺を、ただの後輩として見てくれた数少ない恩人だ。
この人には返しきれない恩がある。
「それと、勘違いしないように言っておくが、『蘇生薬』が効果を発揮するのは『黒化』した人間に限る。自然死や魔物に殺された命は助けられないらしい。『黒化』した人も斬られたら終わりだそうだ。それを見分ける為に灰になるんだろうな」
「‥‥‥そうか。まぁ、万能って訳じゃないな。ポイントも殆ど絶望的だし」
「そんな簡単には行かない‥‥待って、なんでコウは10万ポイントなんてあるの?」
「俺は人類初レベアップボーナスでポイントが一時間十倍だったんだよ。その時ポイントが大量に手に入った」
「そう、だったんだ‥‥」
そろそろ先輩生き返らせたいんだけど、良いかな?それに戻らないと流石にバレる‥‥
「こんな所で生き返らせるつもりか主?『蘇生薬』ってのは飲ませても起きるのは一時間後だぞ?」
「えっマジで?じゃあさっさと戻ろうぜ。そう言えばお前らレベルは?」
「二人とも20だよ」
「じゃあ帰ったらメイン職業とサブ職業決めるか。‥‥帰りの敵は俺がやるから、お前ら手と足それぞれ持って先輩運べ」
俺まだレベル20行って無いんだよなぁ。コイツら預ける前に次のサブ職業決めときたいんだよ。
「んじゃいくぞ!!‥‥名前はもうちょっと待ってくれ」
「いくらでも待ちますよー主」
ーーーーーーーーーー
「あっ、レイ君!!どこに行ってたの!?心配したんだから、バカッ!!」
「ご、ごめん南。起きてたんだね‥‥(コウ助けて!!)」
「さて、俺と先輩はちょっとトイレ言ってくる。名前もその時決めとくから、使い魔同士仲良くやっててくれ。(自分でなんとかしろ。それからトイレ来い。わかったな?)」
「そんなっ!?」
「なにがそんななのレイ君!?今日はお説教!!皆に邪魔にならないようにコッチでやるから来て!!!」
あいつ、今日はメイン職業決められないなぁ。ま、先輩だけでも良いか。しっかし、暗くて助かった。南に部長は見られてないみたいだ。
「先輩、いきますよ。‥‥オーガウス、引き続き見張り頼む」
「了解。主」
「さて、部長はこれで良いだろ。さて次は先輩だけど‥‥」
『蘇生薬』を飲ませた途端、真っ黒だった肌がスーッと肌色に戻っていき、目の色も元に戻って瞼が閉じていった。
これ、凄い光景だな。
「なぁ、お前の時は一番下に特別そうな職業が合ったんだよな?俺、『アサシン』なんだけど?なんで?ねぇなんで?」
「知りませんよそんなの‥‥先輩、こんな世界になる前から殺しとかしてたんですか?」
「してねーよ!!してたら捕まってるわ!!!」
おっかしいなぁ?俺がおかしいのか?‥‥レイの見てから判断しよう。
「ちょっとレイ呼んできます。それまで決めちゃ駄目ですよ?」
「わかってるよ‥‥ちくしょう、なんでだよ、もっと格好いいのが良かった‥‥‥」
落ち込んでる先輩を置いて、まずは部長を先生の所に持って行く。何時までもトイレに居させる訳には行かないからな。
「先生、さっき偶然部長見つけたんで連れてきた。一時間程で目が覚めると思うから、ちょっと頼んだ。あと、レイがどこに行ったか知らね?」
「おぉ!美咲‥‥生きていたんだな。良かった‥‥‥櫻木弟なら裏にいるよ。南が顔を真っ赤にしてお説教中だ。君たち、一言言ってから出て行きたまえ」
「裏ね、りょーかい。黙って出て行ったのは止められると思ったから。‥‥もう少し寝とけ。明日、思ってる以上にヤバいかも知れない」
部長を抱きしめて涙ぐんでいる二ノ宮に、少し強めに警告しておく。
この数時間でオーガウスにオーク、スライム。東京中心部に落ちるって予想は外れたかも知れない。
「わかった。‥‥出発まであと数時間ある。君も休みたまえ」
「わかってる。あと少ししたら休むよ」
「いいですかレイ君!いずれはこうやってレイ君も力を得る為にコウさんにお願いすると思ってました。でも!!私に相談も無しに、しかも!!私が寝てるときにコッソリ行くとは何事ですか!!起きてレイ君が居なかったとき、私がどんな思いでいたと思ってます!?」
「う、うん。ゴメンね南。ちゃんと言ってから行くべきだったね。反省してる。だからそろそろコウの所に‥‥‥‥」
「ダメです!!出発まで私と一緒にいるんです!!私が、どれだけ‥‥‥‥‥‥ヒック、どれだげぇ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」
あーあ、泣かせちゃったなぁレイ。さぁ、どうする!?
「‥‥‥‥‥ゴメン南。そうだね。出発まで此処にいるよ。‥‥‥大好きだよ。南」
おぉ!!南を思いっきり抱き締めて耳元で愛を囁く!!我が弟ながらやりますなぁ。
「グスッ、レイ‥‥‥くん‥‥‥‥‥‥んっ」
「南‥‥‥‥‥‥‥‥」
おぉ!南の方からキスのおねだりですか!!レイも顔を近づけていく!!でも、ここら辺でお邪魔しましょう。
‥‥‥俺だって如月先輩とイチャイチャしたいっての。
「えーっと、イチャイチャはそこまでにして、ちょっとレイ、きてくんない?」
いきなり声を掛けられてビクッと震える二人。勢い良く離れていく。
やっべえ超ストレス解消になるなぁこれ。すっごい楽しい!!
「南ゴメンなー。十分ぐらい借りるなー」
「ちょ、コウ!?お前どこから見てた!?」
「『いいですかレイ君!』っていう説教からイチャつき始めるまでずっと」
「ふざっけんなぁぁーーー!!」
やっべえ超楽しい。これからもこういう機会あったらドンドン邪魔して行こう!!
「絶対に止めろ!!!」
「さて、先輩は『アサシン』で、レイは『愛の勇者』か。いやぁ流石俺の弟だな!!笑いが止まらねぇよ!!」
「止めろぉ!!なんだよこれ!?ふざけてるだろ!!!こんなメイン職業嫌だぁぁぁぁ!!」
「ブッハハハハハハ!!あ、愛の勇者って限定されてる!!!愛の為以外に勇者の力は使いませんってか!?アハハハハハハ!!!」
いやぁ面白い。なんだよそれ、俺のも可笑しいけどレイの方がヤバいな。先輩の『アサシン』が一番マトモじゃねぇかよ。
アサシン‥‥重い武器や大きい武器は一切使えなくなるが、短剣などは達人級。日中、動きがレベル相応の動きしか出来なくなるが、夜は普段よりも動きが俊敏になり、職業特有の夜目が使える。
日中の動きがレベル相応はちょっとヤバいが、此処を出て直ぐの戦闘を全て任せてレベル上げをすれば問題無いだろう。夜に明かり要らずで動けるのは大きい。当たり職業じゃ無かろうか?
愛の勇者‥‥勇者らしい力は愛の大きさで力の発揮が制限される。愛が大きければ大きい程、力は強くなり、レベル差が気にならない程の強さを誇る。逆に、愛が小さくなればレベル以下の力にまで下がってしまう危険がある。
これは、ハズレかもなぁ‥‥ちょっと危険だが剣士や戦士にしといた方がいい気もする。まぁ、サブ職業でなんとかするってのもアリだが。
「メイン職業も決まったし、次はサブ職業を決めようぜ!!」
「待って!?僕これにするなんて一言も言ってないよ!?」
「なんだ櫻木弟。お前の彼女へと思いはその程度なのか?」
「‥‥‥‥‥はい?」
「そうだぞレイ。お前、南への思いはそんな軽い物なのか?だからメイン職業にするのをイヤがってるのか?」
「なっ、ちがっ‥‥‥‥‥」
「だったら良いじゃないか!!さぁサブ職業決めるぞぉ!!」
「おぉー!!」
「いやだから‥‥‥」
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「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
「いってぇぇぇぇぇぇぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
おー、俺もあんな感じだったんだろうか?‥‥見てる側だと面白いな。
いや、あの時の痛みを思い出したら同情するけど、何も考えず見ると面白い。
「頑張れーあと四分だぞ~」
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
「待ってもう無理だってぇぇぇぇぁぁぁぁぁ!!!」
いやぁ、良いねぇ。頑張ってくれたまえよ。
二人のサブ職業は、レイは勇者と言うことで魔力が俺みたいに増えるだろう。という考えで『風魔法使い』を選んだ。
氷の短剣使ってるんだから『氷の魔法使い』にすれば?と言ったんだが、素早さを上げるために風にすると言っていた。まぁ次でも良いしな。
先輩は『闇魔法使い』だ。
サブ職業を決める時、『アサシン』や『忍者』と、言った職業は闇魔法を使う時、使用魔力が半分になるらしい。これはセットで使うのを想定しての職業なんだろうな。二人とも魔法使い。いいなぁ‥‥‥‥
「ぁぁぁぁぁぁぁぁ‥‥‥‥お?収まった?」
「なんか、ピタリと止まったな。十分きっかりなんだなぁ」
お、終わったか。んじゃ戻るとしますかね。スライムの名前も教えてやらんといけないし。
「おぉ、主。俺の名前考えてくれたか?」
「あぁ。お前は今日からアシッドな。‥‥‥そろそろ眠いから寝る。四時半になったら起きるから、それまでよろしく」
先に二人をホールに戻して、コウは一人で名前を伝える為に入り口に向かった。
名前も伝えたし、戻ろう。限界だ。
欠伸をしながら来た道を戻ってホールへと入っていく主を見ていた二人の使い魔。自分達の主が中に入ったのを確認して前に向き直る。
「‥‥‥‥なんか、サラリと言われたな。もうちょっとなんか合ってもいいんじゃね?」
「考える時間が合っただけ良いではないか。我など数秒で決められたぞ」
「マジかよ、お前ちゃんと言ったか?名前が魔物にとってどれだけ大事かって」
「向こうとこちらは違うのだ。それに、酷い名前じゃなくて良かっただろう?」
「まぁな。スライムだからスー君とかスラさん。とかだったら泣いてた」
魔物にとって名前とは、自身を象徴する物。
名前があるだけで周りから恐れられ、羨ましがられるのだ。
向こうの人間達はそれを理解し、十分に悩んで名前を考える者も居れば、遊び半分で面白い名前を付ける者もいる。
なので、楽しみ半分怖さ半分という訳だ。
「まぁ、格好いいし、それでいいかぁ‥‥‥」
「うむ。そうだな‥‥‥‥」