今後の方針
「しょうがねぇだろ?俺だって、結構ギリギリの所で此処までやってきたんだから、他人に構ってる暇なんて‥‥‥」
[主、ちょっと良いか?]
黒川と有栖川の先ほどの発言に対してグチグチと文句を言っていると、アシッドから連絡が来た。栃木の南の親戚の家に着いたのだろう。予想よりも少し遅いが、多分迷ったのだろう。想定内なので特に問題は無かった。
「どうした、何か問題でもあったか?」
[いや、問題と言うか、なんと言うか‥‥‥親戚の人が全員乗れるようにクルマ?って言うのは確保出来たし、話も半信半疑って感じだけど聞いてくれたんだ。で、家をさっき出たんだけど]
なんと、もう話をして家も出たと言う。着いたから連絡してきたと思っていたら、予想よりも遥かに速く動き出していたようだ。流石は外見がホストなだけはある。
だが、だったら何故アシッドは連絡をして来たのだろう?特に問題はなさそうな物だが?
[‥‥‥ちっとも前に進まねぇんだけど。反対側が空いてるから逆走して良い?]
なるほど、確かに進まないだろう。今は関西方面に逃げる人で高速道路が溢れているのを忘れていた。と言う事は、オーガウス達も動けないでいるのか?と考えていると、丁度タイミング良く連絡が来た。
[主、不味い事になった。今オオサカという所の近くまで来ているのだが、此処からは徒歩になりそうだ]
オーガウスからの報告は、アシッドとは違い頭を抱える事になる物だった。
大阪にはバリケードが張られたと聞いていたんだが、もしかして破られたのか?まぁ新幹線が突っ込んでからバリケードを張ったんだとしたら碌な物になっていないだろうから仕様がないのかもしれないが‥‥‥となると、オーガウスだけでも先に如月先輩達のいる所に行って貰った方が良いのか?
ちょっと怖いがレイと野島先輩だけを起こして護衛をさせるのも有りだな。今は夜だから、野島先輩が職業の恩恵を十二分に発揮できる。
[主、バリケードは破れて居ないのだ。問題は、バリケードの中に双葉の両親が居る事だ]
「オーガウス、中に入れ。野島先輩を起こして待機させろ。おじさんとおばさんを連れたら合流して、それから九州へと向かえ。アシッド、逆走してディーダと合流して九州に向かえ」
[[了解、主]]
使い魔二人に指示を出して念話を終了する。
使い魔二人はディーダを知らないが、俺の魔力で繋がっているので見ただけでわかるだろう。が、一応ディーダにもこの事を伝え、アシッドと合流するまではそのままゆっくりと進むように指示を出しておく。アシッドと合流したら一緒に逆走だ。
多分、逆走している間にオーガウスが深月の両親と合流できるだろう。そしたら、丁度いい具合に使い魔二人と精霊が合流できる。
これで、暫くは使い魔達からの連絡は無い。そろそろ話し合いを再開しなければいけない。
「悪い、使い魔達と話をしていた。取りあえず、大阪のバリケードは今の所壊れていないのは確認できた。それじゃ次は、各地に散っている上位十人と話をする。朝部とテン姉には後で報告するから、外を見て来て欲しい。今聞いても俺達の言葉しか聞こえないからあんまり意味がないんだ」
今現在、この場にいるのは第一位である俺『限定英雄』、第二位のテン『勇者』、第八位の黒川『狂戦士』、第九位の有栖川『戦巫女』の四名。明らかに過剰戦力である。これから二人に減るが、それでも一位と二位の二人が残る。
他の六人はそれぞれ、二人組で行動していた。茨城にいる『剣姫』と『パラディン』は暫く動けないとのこと。
『賢者』と『精霊使い』が合流し、此方に向かっているようだ。バリケードはどうしたのかと思ったが、レベルアップ者が出たようだ。それで此方に向かっていると言っていた。着くのは朝方になるらしい。
一番驚いたのは、『死霊使い』と『聖女』だ。なんと大阪にいるらしい。しかも、バリケードの中だ。知り合いが大阪にいるからだと言っていたので、このままオーガウス達と合流してもらう事にした。
俺達上位十人で作る国の話は全員が頷いてくれた。全員、手を取り合わないで争うのは意味が無いと解っていてくれたようで何よりだ。
今は俺が指揮を取っているが、将来的には俺達十人が『王』になり国を纏める事になると言うと、それで構わないとも言ってくれた。
敵対してくる奴が居なかったのは、本当に幸運だと思う。
ただでさえ力を持っている上位陣なのに、反対されたらそちらにも人員を割き、処理しなければならなかったので、本当に良かったと最後に言うと、少し変な雰囲気になって慌てた。
と、こんな感じで第二回上位陣の会議は終わった。本格的に動き出すのは明日の朝になる。と言っても、今まで麻雀やってた黒川と朝部はそのまま軍を動かしてる奴らの始末に向かわせた。正直、あの態度で此方に引き込んでも後々邪魔になるだろうと判断し、殺す事に決めたからだ。
これには全員が納得してくれた。近いうちにバリケードは全て破られる事になるが、遅いか早いかの違いなので守りは最低限にする事に変える。
この変更でテン姉にも朝には九州に向かってもらう事になった。此処に残るのはテンと此方に向かっている『賢者』と『精霊使い』の三人になる。戦力的には元の考えとあまり変わらない。防衛側が厚くなって一安心だ。
そして俺はと言うと、
「コウさん、本当に中に戻るんですか?さっき話してくれた触手付きなんかが現れたら‥‥‥」
俺は、両親を探す為にバリケードの中に戻る為の準備を進めていた。これは私的な事なので、勿論一人でだ。
「大丈夫だよ。もし出くわしたら逃げるから。それに、誰かが中に入ればお前らの負担を減らせる。将来的には此処に国を作りたいと思ってるんだ。だったら、少しでも数を減らしておいた方が良いだろ?」
先ほどの上位会議で、巨豚や触手付きの対処方については話している。そんな頻繁にあんな化け物が出て来るとは思いたくないが、会わない確率はゼロではない。皆には十分に警戒するように伝えていた。
「でも、何も1人で行く事無いじゃないですか。それに、『魔弾銃』も俺に貸してくれましたし‥‥」
「だってお前、此処までサバイバルナイフで来たんだろ?他の上位陣は全員何かしら獲物持ってたのに、お前だけ何も無しってのは問題だろ。しかも、二位だしなお前」
そう。なんとテンは、此処までサバイバルナイフを幾つも使い潰しながら来たようだ。普通に考えて、コイツおかしい。そんな装備で此処まで来れたコイツこそ、本物の化け物だと思う。
「だから、此処は任せたぞ。連絡はちゃんとするし、生きてる奴見つけたら道案内ぐらいはしとくからさ」
「いや、ちゃんと連れて来てくださいよ‥‥‥」
「ねぇ、コウ君達大丈夫かな?東京、病気の人で溢れてるんだよね?私たちも向かった方が良いんじゃ‥‥」
「そんな事したらあの子、ブチ切れるわよ(私に)。私たちは此処でコウの弟君達を待ってれば良いの。明日には着くらしいから」
現在の時刻は深夜。丁度コウが有栖川と触手付きの討伐に成功した頃にまで遡る。
コウの先輩である伊波真子は、何度目か解らない台詞をコウの先輩兼恋人である如月彩に向かってそう返していた。流石に疲れたのか、随分と適当な感じになっている。それを感じ取り、彩が少し頬を膨らませ、
「もぉ〜、マコは心配じゃないの?新種の病気だよ?もしもの事があったら‥‥‥」
「大丈夫よ。もう危険区域からは出てるみたいだし。それに、あのコウに万が一とかあり得ないって」
それに、本当の所は病気なんかじゃ無いしね。
心の中でそう呟く。ニュースでは人が無差別に人を襲う精神に影響を及ぼす新種の病気と言う少し無茶のある説明になっているが、コウ達の置かれてる状況から見るに、そんな簡単な問題では無いということが解っていた。そして、病気等よりも危険な事も。
だが、それを横で頬を膨らませている親友に告げる事は出来なかった。いずれはバレるだろうし、それももの凄く近い未来だと言うのも解っている。真実を知った親友が、絶交だと言ってもそれを受け入れる覚悟が出来ていた。彼女が死ぬより、ずっとずっと良いからだ。
彼女は、コウの状況を知ったら直にでも飛び出してしまうだろう。それは何としてでも避けなければならなかった。
だから真子は、親友である彼女にウソを付いて守っていた。
速く助けに来い。バカコウ‥‥‥
「ちょっと、聞いてるのマコッ!!」
「あぁ〜、はいはい。聞いてるよー。で、なんだっけ?」
「もうッ!!」
適当に返事をし親友を怒らせながら、頼りになる、酷く脆い。可愛い後輩の姿を頭の中に思い浮かべていた。きっと、後少しで会えると信じて。
「ギャッ!?」
「へ?」
「ん?」
突然、ドアの方で物音と女の子の声が聞こえてくる。この階は真心が貸し切っているので誰もいる筈が無い。
いたとしても、それは真心達がホテル側に食事を頼んだときぐらい。だが、今は夜中。夕食は食べ終えたし食器も片づけられている。
それ故に従業員が来るのは非常時の時だけ。だが、いくら非常時だからといってドアの開く音も無しに、しかも「ギャッ!?」等と言いながら部屋に入ってくる訳がない。
恐る恐るドアに近づいていく。コウが来たとき、もしもの事が合ったらと買ってあった木刀を携えて。
「あら、可愛らしい侵入者さんね」
「可愛い~!!何のコスプレかな?」
「う、うぅん‥‥‥」
ドアの前に倒れていたのは、アニメのキャラクターのような格好をした女の子だった。