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スキル


「おらぁっ!!」


もう何度、避けて斬ってを繰り返しただろう。日が沈み、一気に周りが闇に包まれる。辺りを照らしてくれるのは壊れかけの街頭のみ。

周りが暗くて殆ど見えない状況で、倒し方がわからない。さっきから斬っているのに、一向に魔力が尽きる様子がない。まるで、無尽蔵の魔力を何処かから吸っているようだ。


「‥‥‥‥もしかして、自分の魔力じゃない魔素って奴で回復してたりしねーよな?」


もしそうだとしたら、このデタラメな回復速度にも納得がいく。コウは苦笑いで、剣をもう一度握り直す。


「冗談じゃねーぞ。そんなの、何時まで経っても終わらないわけだ‥‥‥さて、どうするかね?」


魔素での回復なら、いくら斬っても意味がない。此方が消耗するだけだ。そうなると、今のコウにこの触手付きを倒す手段が無くなった。


‥‥‥スキル習得かな?召喚士は今使えるほど余裕無いし。


『スキル』は、巨豚討伐を成功させたとき、レベル30になった時習得可能となった新しい戦力だ。‥‥いや、まだなにも見てないから戦闘に使えるのかは分からないが。


「‥‥っとぉ!?あっぶねぇ!!」


スキルをぶっつけ本番で習得するかどうか決めるために、視界のボタンを押して、スキル欄を探そうとした。が、その一瞬の隙を突かれて触手が足下まで迫ってきていた。

間一髪の所でジャンプして避けるが、空中まで追ってくる。

『疾風』で触手を斬って、もう一度距離を取る。


「ガウァァァッ!!」


触手を斬り、距離を取ったのに今度は触手ではなく身体ごと此方に向かって走ってきて、確実に距離を詰めてくる。


「‥‥ッ!!」


スキルを見ている場合ではない。『迅雷』を使い、伸ばしてきていた腕を真ん中から斬っていく。

肘の辺りまで斬った所で、触手が再生したようだ。後ろでスルスルと動き出す音がする。


「チッ!!」


肘を真ん中から内側に向けて半分斬り落とし、上に飛ぶ。後ろから追ってきていた触手は『雀羽織』で燃やし尽くす。


「ガガウァァッ!!」


斬り落とした腕が再生する前に、触手付きが飛んで追いかけてきた。今までは回復するまでジッとしていたのに、突然の事に驚いて右足を掴まれる。


「‥‥‥‥ッグ!?」


そのまま思いっきり地面に叩きつけられ、身体が軋み、掴まれた右足から鈍い音が聞こえてきた。


足の骨を握り潰された‥‥この状況で『回復薬』を取り出して飲み干す時間は無い。だったら‥‥ッ!!


「ハァァァッ!!」


掴んでいた右手はそのままに、再生した左手で腹部を貫こうとしてくる。当然、そんな事はさせない。『迅雷』を使い、もう一度左手を斬ろうと思いっきり振る。が、さっき『疾風』を掴まれた時のように『迅雷』の刃が入らず左手を弾いてしまう。


「なっ!?」

「‥‥‥ガァァァァァァッ!!」


コウの剣だけが弾かれ、そのまま触手付きの左手が腹を突き破る。さっき治したばかりなのにまた腹をグチャグチャにかき混ぜられてはしまう。


「ガァァァァァァァァァァッァァァァァァァァァッ!!」


今度は触手では無いし、腕は斬れない。しかも背を地面に付けて仰向けの状態で逃げることも出来ない。


あぁ、これはヤバい。死んだわ‥‥‥‥


「なーに諦めてんですか『限定英雄』?」


諦めて目を閉じていると、急に腹の異物感と掴まれて骨を砕かれた右足が地面に落ちる音がする。感覚が無く、触手付きがまだ掴んでいるのかどうかまでは分からない。

そんな中で、数時間前自分の背中で眠っていた少女の声が聞こえてくる。

ゆっくりと目を開き、己の状況を確認する。


「漸くお目覚めですか?起きたならさっさと回復薬使ってその変に曲がった足とグッチャグチャなお腹をどうにかしてください。穴から腸やらなんやらが飛び出てて正直キモイです」

「お前、そんな事言うなら治しといてくれても良いんじゃねーか?」


ぼやける視界の中、なんとか回復薬を取り出し、剣をソッと地面に置いてまずは腹に掛ける。治り始め痛みが薄くなってきたのを見計らって起き上がり、足にも掛ける。


「ポイントが勿体ないです。それに、アナタの方がポイント持ってるでしょう?」

「いや、確かにそうだけど‥‥」


それにしたって、少しぐらい分けてくれてもよくない?というか、なんでさっきからコッチ見てくれないの。


「『限定英雄』、アナタあんなのずっと一人で相手してたんですか?」


額に冷や汗を流しながら、コッチを全く見ようとせずに前だけを向いて聞いてくる。まるでお化けでも見たかのようだ。


「あんなのって、触手付きか?そうなんだよ。コッチに来たの夕方なのに、もう日が暮れてるんだぜ?朝しか飯食ってないから腹減ってるのに二回も腹グチャグチャに掻き回されて食べたもの全部出ちゃって‥‥」

「そこまでは聞いてないです。‥‥流石に第一位なだけありますね。あんな化け物相手に何時間も‥‥私なら無理です」

「そうか?動きをちゃんと見ておけば問題ないぞ?」


触手斬れば治るまで数秒止まるからな。その間に離れて態勢を立て直せるし‥‥さっきのは驚いたけど。


「それで、なんでこんなにのんびりしてるんです?朝部さんに聞きましたけど、目当ての人を助けに来たんですよね?なら早く‥‥」

「倒せないんだよ。何度斬っても再生する。しかも、再生スピードが異様に速いから斬って離れてを繰り返すしかない。巨豚の時みたいに核があるんだろうけど、それがどこにあるのか分からないんだ。頭斬っても起き上がってきたし‥‥」


ゆっくりと立ち上がって身体の調子を確かめる。まだ触手付きは起き上がって来ないようだ。『戦巫女』が何をやったのかは分からないが、何にしても起き上がって来るまで時間があるのはラッキーだ。


「‥‥なる程。じゃあ私の出番ですね!!巨豚の時と同じ方法で行きましょう。今回は的が小さいですし、簡単です」

「ま、それしか核を見つける方法は無いしな。んじゃ、行ってくるわ」


剣を拾って、ゆっくりと前に歩き出す。今回はこの『戦巫女』も居るし、何より触手付きの攻略法が見つかった。コウ一人では出来なかった事だ。何時までも触手付きと戯れてる時間は無い。そろそろ『黒化』もここら辺に溜まってきているだろう。チャンスは今しか無い。


「はい。行ってらっしゃい」


ニッコリと笑って送り出してくれる。‥‥着いてきてくれても良いんだよ?ほら、あの雨降らせるだけなら一瞬じゃん?


チラチラと後ろを振り返りながら歩いていくコウを見て、少し安心する『戦巫女』の少女。

触手付きは彼女から見たら勝てる要素が見当たらない化け物。しかし、そんな化け物相手に怯まず、立ち向かっていく事のできる『限定英雄』がいるという事で、最初触手付きを吹き飛ばした時よりもリラックスして魔力を練る事が出来ていた。

そして、安心する事ができたのは『限定英雄』も同じ。無尽蔵の魔力に『疾風迅雷』の特殊効果を打ち消す腕。何時までも終わりが見えず、たった数時間なのに倍以上に思えた戦闘が終わりを迎えるかもしれないのだ。安心し、少しふざけるのもしょうがないだろう。


‥‥‥‥さて、問題はどうやってあの化け物の動きを止めるかだな。せっかく降らしてもある程度は避けられるだろうし、そうなると四肢の切断‥‥あれ、無理じゃね?

腕は特殊効果打ち消す上に物理攻撃も利かないし、直ぐに再生する。‥‥腕は諦めて足を切り落とそう。


土煙の奥の方で触手付きが動き出す音がする。そろそろ飛びかかってくるだろう。その前にもう少し時間があるので、サッとスキル欄に目を通す。




スキル


邪眼シリーズ

耐性シリーズ

武器効果シリーズ

魔力効果シリーズ

使い魔効果シリーズ

職業効果シリーズ




の合計六種類のスキルシリーズがあった。どれも魅力的だ。『使い魔効果シリーズ』は召喚士や魔物使い専用のスキルだろうが、コウは両方持っているので二倍お得だ。が、今コレを取ったとしても召喚士は使う暇がないし、遠く離れてる二人の使い魔にしか効果がない。という訳で、このシリーズは次回以降に回す。

次に『耐性シリーズ』と『職業効果シリーズ』だが、正直今コレを取ってもあまり意味がない気がする。どんなものがあるのかわからないが、『耐性シリーズ』はその名の通り物理攻撃や魔法。『黒化』の耐性を引き上げる物だろう。

『職業効果シリーズ』は自身の強化な気がする。それだけではなく、もしかしたら残忍さまで上がるかも知れない。この二つも次回以降に回そう。

そうなると残るは『邪眼シリーズ』と『魔力効果シリーズ』だが、『邪眼』ってカッコイいイメージがあるし、ちょっと欲しい気もする。けど『黒化』した奴らの目って赤色で、触手付きは青だ。『邪眼』の効果があるのか分からない。前に、先生が魔力を狙っていると仮説を立てた。となると、アイツらは目で見ているんじゃなくて、魔力を察知して動いている可能性もある。と言うわけでコレも次回以降に回そう。

で、最後に残ったのは『魔力効果シリーズ』だ。まぁ今はコレが一番良さそうだ。




魔力効果シリーズ


魔力霧散耐性1 使用ポイント1000

魔力吸収耐性1 使用ポイント1000

魔力無効化耐性1 使用ポイント1000

魔力視認1 使用ポイント1000

魔力操作1 使用ポイント1000

魔力感知1 使用ポイント1000

魔力障壁1 使用ポイント1000




「おおっ!!コレはなかなか‥‥」


「使える」そう言おうとした時、土煙が動く。触手付きが完全に回復して、飛びかかってくるのだろう。

上位10位までが使える念話を使い、巨豚の時と同じ魔法を用意するように伝達を済ませ、取り敢えず『魔力霧散耐性1』を取ってそのまま画面を閉じる。


スキル『魔力霧散耐性1』を取得したよ!効果はもう出てるから、実践で試してね!!


無事にスキルを取ったと頭の中にアナウンスが流れてくる。

これで霧散か何か分からない触手付きの腕を止められれば嬉しいのだが‥‥


触手付きが遂に、土煙の奥から飛び出し、真っ直ぐにコウへと向かって走っていく。身体には傷一つなく完全に再生したのがわかる。全く、厄介な奴だ。


「ガァガァァッ!!」


走りながら触手を伸ばしてきたので、左右の剣で難なく斬り落とし、先ほど再生した触手に腹を突き破られた時のように突っ込んでいくのではなく、右斜め後ろに避けて触手の再生と、触手付き自身が近付いてくるのを待つ。数秒待っている間に触手が治り触手付きも近付いてくるが、もう遅い。治した触手はほんの十数秒動きが遅くなる。それを狙って一気に懐に飛び込み、まずは『魔力霧散耐性1』の効果を試す。

すると、吸われていっていた風の刃が消えることなく触手付きの腕を斬り刻み腕を使えなくする。


「よしっ!」


声には出したが流石にガッツポーズはせず、変わりに右の『迅雷』で伸びていた左手も焼き落とす。これで後は足だけだが、タイムアップのようだ。動きが鈍っていた触手が直ぐ後ろまで戻ってきているのを感じ、後ろを一瞬向いて目の前の触手だけを斬り落とし右斜め後ろに逃げる。当然、其方の触手も斬る。

丁度『戦巫女』の準備も出来たようだ。直ぐに離れなければ巻き添えを食らう。


「我が魔力を贄とし、邪を祓う光となりて天より降り注げ!!」


最初会ったときに使ったものよりも小さく、しかし光の濃さが増している雨が触手付きの真上に降り注ぐ。辺りが光に満ち、触手付きの姿が見えなくなった。


「おぉ!さすが『魔法』だなっ!!完全に消滅したんじゃねーか!?」


光が収まっていくのに触手付きが見えず、完全に消滅したのではと喜ぶコウを見ながら目を細めている。どれだけの長い間、一人で相手をして来たのかを考えると、今の喜んでる姿をもう少し見ていよう考えでいると、右足に変な感触が纏わりついた。


「‥‥‥‥‥なっ!?」


消滅したと思っていた触手が、地面から突き出して『戦巫女』の右足に纏わりついていた。が、気がついた時にはもう遅い。触手を枝分かれさせ形を針のように鋭く尖らせる。枝分かれし、尖った触手は纏わりついている『戦巫女』の右足を無数の触手で突き破る。


「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

「っ!?おい『戦巫女』、どうした!?」


光が完全に収まり、触手付きが消滅したと思って喜んでいたコウを、後ろでトドメを刺した筈の『戦巫女』の悲鳴で現実に引き戻す。

急いで振り向くと、右足を押さえ、薙刀を地面に落とした『戦巫女』の姿があった。周りに『黒化』の姿や、オーク、ゴブリンといった魔物の姿も見当たらない。

敵の姿を探していたが見当たらず、『戦巫女』が押さえている右足の方を見ると、血の他に何か変な、蔓のような物が纏わりついていた。よく見ると、その蔓が足から色んな方向に飛び出して、先から血が滴っている。


「‥‥っ、このぉっ!!」


コウが走っていく途中で、『戦巫女』が側に落とした薙刀を上手く使って触手を根元から断ち切るのが見えた。後は「回復薬』と、念のために『解黒薬』を掛ければ大丈夫だろう。

そう判断したコウは、走っていた足を少しゆっくりにしてもう一度スキルを見る。




魔力効果シリーズ


魔力霧散耐性1 使用ポイント2000

魔力吸収耐性1 使用ポイント1000

魔力無効化耐性1 使用ポイント1000

魔力視認1 使用ポイント1000

魔力操作1 使用ポイント1000

魔力感知1 使用ポイント1000

魔力障壁1 使用ポイント1000




さっき獲得した『魔力霧散耐性1』が、『魔力霧散耐性2』になり消費ポイントが倍に増えている。レベル毎に1000も使用ポイントが上がるのならば、これからは考えて取らないと直ぐに無くなってしまう。

が、取り敢えず今はポイントを見ずに取るべきだと判断し、『魔力感知1』を5にまで一気に上げる。次いでに、『魔力霧散耐性』も3に上げておいた。


「さて、土の中にいるのは一体何かな?‥‥‥どゆこと??」


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