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触手付き


「‥‥失礼しまーすっ!!」


あれから三十分程走って、目的地である体育館まで着いた。その道中、『黒化』が一体も居なかったのはやはり、巨豚討伐の際に引き寄せられたからだろう。

この調子なら中も大丈夫なんじゃないか?と思い勢い良く中に入っていく。


「‥‥‥?」

「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥失礼しましたー!!」


扉を閉める。一旦落ち着こう。深呼吸‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ナニアレ?

一応人の形を保ってはいる。『黒化』しているのは間違いない。が、背中から生えている触手はなんだ!?しかも、『黒化』した奴らを食べてたぞ!?コッチみた目も赤じゃなく青だったし‥‥‥ナニアレ?


「ガウガォォェォォ!!」

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?」


右側の扉が吹き飛ばされる。コウが開けて閉めたのは左側だ。触手を背中に背負った『黒化』から進化した奴が、首をゆっくりと此方に向けてくる。


「先手必勝ッ!!」


相手が此方を向くのを待っている必要はない。右の剣で首を刎ね飛ばし、そのまま左の剣で胴体も斬る。

首から上が体育館の奥の方に飛んでいき、上半身が下に落ちて下半身がゆっくりと倒れていく。


「ふぅ‥‥怖かった。今までで一番怖かった。なんだよあれ『黒化』って魔物になるんじゃねーのかよ?」


剣を鞘に収め、更衣室の方へと歩いて行く。中にいた『黒化』はさっきの触手付きが全て食べたようで一体も残っていなかった。


「さて、‥‥良しっ!!スイマセーン!!部長のご両親生きてますー?俺です、櫻木でーす!!」


気合いを入れて女子更衣室の扉をノックする。本当は思いっきり開けて目一杯深呼吸したかったが、肝心の女子が入ったのは最低でも一日半前だし、その間ずっと籠っていたなら匂いが凄い事になっているだろうと考え、諦める。


部長の両親とは去年の文化祭や少し前の卒業式で会った事がある。多分覚えてもらえてると思うけど‥‥

そんな不安は杞憂だったようで、中から顔がやつれて今にも死にそう。と言った風な年配の夫婦が恐る恐ると言った感じで扉から顔を覗かせる。確かに、先輩のご両親だ。


「あぁ良かった。生きてた‥‥さ、ここを出ましょう。安全区域でお二人を向かい入れる準備が出来ています。勿論、部長は無事です。九州に向かいましたが、お二人も速くて今日の夜。遅くても明日の昼には出発の準備が出来ていますよ」

「おぉ、櫻木君。本当か‥‥」

「本当に、あの子にまた会えるの‥‥?」


扉を完全に開けて目を潤ませて近づいて来る。余程嬉しいんだろう。良かった良かった。


「えぇ勿論。‥‥野島さんってご夫婦はどちらに?」

「わ、私と横のが野島ですが‥‥」


部長の両親とさほど年は変わらないだろう夫婦が手を挙げる。コッチも無事なようだ。少しやつれているが、問題ないだろう。


「野島雄大先輩も、九州に向かっています。勿論、お二人も九州に向かう準備が整っていますよ」

「おぉっ!!本当かい!?」

「あぁ、ありがとう。本当にありがとう‥‥‥」


部長の両親と同じような反応だ。いやぁ、本当によかったなぁ。さて、自己紹介も終わったし、そろそろ行くか。


「さて、では付いて来てください。ここから三十分ほどですが、道中なにが出て来るかわからないので。俺の後ろを絶対に離れないで。あと、コレを‥‥万が一奴らに噛まれたらコレを飲んでください。解毒薬みたいな物なので。あと、今はコッチのコレを飲んで下さい。体力回復の効果もあるので。あと‥‥‥」

「おいっ!!我々にはなにも無しか!?私はあの大塚議員の親類だぞ!!お前が例の政府が用意してくれたというアレだろう?だったらまずは私の保護が先だろう!!」


さっきまで黙っていた中にいた内の一人が怒鳴って来る。もの凄いおデブさんだ。中の匂いが予想以上に酷いのは9割コイツのせいだろう。


‥‥本当だ。何枚かめくったら目の前のデブと同じ顔の写真がある。写真の下に『最優先ッ!!』って書いてあるな。此処に居たのか‥‥面倒なのが一緒に居るなぁ。


「悪いけど、俺の優先順位はこの人達四人だ。他は付いてきたければ付いてこい。この解毒薬は一つ渡すが、それだけだ」

「‥‥‥‥‥‥は?お前は政府に言われて此処に来たんじゃないのか?」


口を開いてマヌケ面をしている大塚議員の親類だというデブ男。この国のお偉方はおデブしかいないのか?


「お前、俺の事知ってるんだろう?だったらわかる筈だ。俺が『何者』なのか」

「‥‥『限定英雄』か。しかし、そんな適当な事をしてその九州に向かったと言う奴らがどうなるか‥‥‥」

「お前らじゃ俺の使い魔はどうにかできないぞ?‥‥『此処には居たけどもう死んでいた』って報告してもいい。幸い、さっき新型を見たからなぁ。ソイツのせいにしても良いな」

「なっ!?貴様それでも人間か!?私を殺すと言うのか!!‥‥フンっ出来もしないのに威張るなクソガキッ!!いいから、さっさと私を」


俺は生きた人を殺せないチキン野郎だと思ったのだろう。自分の方が威張ってくせに何を言う。なんて考えていたら、急にデブ男の声が言葉の途中で止まってしまった。真っ赤だった顔が一気に真っ青になっていく。


「なんだ、お化けでもみたような‥‥‥‥‥‥‥‥なんで?」


ゆっくりと後ろを振り向くと、さっき頭と胴体を斬った筈の触手付きが立っていた。ちゃんと顔と胴体が元に戻っている。


「‥‥‥ガウガァァァァォォォォォ!!」


少し間が空いたと思ったら、次の瞬間コウに向かって飛びかかる。

後ろには部長と先輩の両親。横に飛んで避けるのは論外だ。


「雀羽織ッ!!」


『雀羽織』を翻して、炎に変える。触手付きはスピードを落とすことなく顔から燃え盛る炎になった『雀羽織』に突っ込んだ。


「どっこい‥‥せっ!!」


『雀羽織』ごと奥の方に放り投げる。まだ灰にはなっていないようだ。重いし、横から触手が飛び出ている。


「二人とも、早く中に入って!!扉閉めて、声や物音を立てないで下さい!俺が声を掛けるまで、出てきたらダメですよ!!!」


部長の両親をもう一度更衣室に押し込んで、扉を閉めさせ、指示を出す。


「さて、どうやったら死ぬのかねぇ‥‥?」


さっき、確実に頭と胴体を切り離した。頭が飛んでいくのを確認したし、胴体も床に落ちたのをちゃんと見ている。それでも奴はくっついて生き返った。しかも、『雀羽織』をマトモに喰らった筈なのにまだ奥の方で気配がある。‥‥起きあがってきたようだ。雀羽織は床に落ちている。まずは回収からだな。


「うしっんじゃあ、此処じゃやりにくいし外に出ようか‥‥‥ッ!!」


一気に体育館を駆け抜け、触手付きの懐に入る。立ち上がったばかりで反応しきれないようだ。思いっきり横に蹴って体育館の壁をぶち抜く。

外まで出たのを確認して、コウも『雀羽織』を羽織って破られた壁から外に出る。


「ガゥ‥‥‥ガォォっ!!」


奇声をあげて背中の触手をコウに向かって一直線に伸ばしてくる。

避けて背後から攻撃される訳にもいかない。全て『疾風迅雷』で切り刻んでいく。


もう一回、首を刎ねてみるか‥‥‥


触手を斬りながら近づき、懐に入る。すると、触手付きが右手を前に突き出し、左手に持っている『疾風』を素手で掴まれる。


「ばーか。‥‥『疾風』ッ!!」


風を纏わせて手を斬り落と‥‥‥せない?

掴まれた剣に風を纏わせようとするが、風が纏まらない。どうなっている?オーガウスは拳に魔力を纏わせたと言っていたが、その時は纏わせた風から拳を守る壁を作ったに過ぎない。風を纏わせる事をキャンセルなどはしていないのだ。なのに、コイツはそれをやっている。明らかに知能が有るようには見えない。


「どうなって‥‥つかコイツ、力強くね!?」


風を纏わせられていないとは言え、剣だ。なのに、全く腕が斬れない。剣が剣として機能せず、只の鉄の塊に変わってしまったかのように全く手が斬れそうにない。

しかも、33レベルになり相当力が強くなった筈なのに触手付きの方が力が強いようだ。手を斬れないなら一旦離れようと剣を引こうとしているのにビクともしない。


「くっそ、どうなってんだよ‥‥がっ!?」


思いっきり引き抜こうとしても全く抜ける気配が無く、ジタバタとしているといきなり背中が燃える様に熱くなる。その熱は背中を抜けて腹にまでやって来た。剣を引き抜こうとする手を止めて下を見る。すると、さっき全て斬った筈の触手が腹から顔を出していた。


「ガオゥァァァッ!!」

「があぁぁぁぁぁぁぁっぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」


腹から顔を出していた触手がそのまま叫び声と共に暴れ出し、血とグチャグチャになった内蔵や腸と共に搔き出される。

思わず剣から手を離してその場に蹲ってしまう。それを待ってましたと言わんばかりに触手付きが肩に思いっきり噛み付く。


「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!‥‥‥グッ、クッソ‥‥調子に‥‥‥‥乗ってんじゃねぇっ!!」


右手の剣『迅雷』を逆手に持ち直し、背中に突き刺し横に捌く。すると、『疾風』が触手付きの手から一気に抜ける。力を入れられなくなったんだろう。此方も逆手に持ち直して感覚で触手を斬り裂く。上手く斬れたようだ。腹の異物感が無くなり、飛び出していた触手の先が灰に変わって行くのを確認し、一気に飛び退く。


「はぁっ、はぁっ‥‥ングッ‥‥‥プハァッ!!生き返る。一応、腹にも直接掛けておくか」


回復薬を取り出し、一気に煽る。すると、途端に身体が軽くなり、痛み少しずつ収まって行く。が、念のために腹にも直接ぶっかけておいた。その後、触って見ると少しずつだが、確実に傷が塞がって行く。触っても痛みは無かった。


「凄いなコレ。滅茶苦茶万能じゃんか。‥‥今度歯の奥に仕込むか」


今後の事も考え、歯に仕込む事を決める。が、その前に‥‥‥


「まずはアイツをどうにかしないとな。って、もうくっ付きかけてるし!どうなってんだ!?」


触手付きの方を見るとまるで逆再生するかの様に血以外が宙に浮いて身体がぴったりとくっ付いていく。再生速度が以上だ。どうやったら完全に殺せるのか全くわからない。手詰まりだ。


「‥‥ガウァァァッ!!」


完全に再生を終えた触手付きが考え無しに一直線に向かって来る。横には触手だ。『疾風迅雷』を構え、もう一度斬り刻む。が、今度は懐に入らず一旦後退する。触手も斬ったし、今のアイツは少し他の奴より速いだけ。まずは触手がどうやって再生するのか調べなければ、またやられる。


「‥‥おいおいウソだろ?そんなのありかよ‥‥‥」


思わず絶句してしまうのもしょうがないだろう。それほどまでに触手の治りは反則だった。斬ったはずなのに、次の瞬間には元の触手にくっついているのだ。多分アレは魔力だろう。見えない糸とか、物理攻撃の効かない何か線みたいなので繋がっていて、そこから魔力を流して瞬時に回復しているのだろう。


「‥‥‥ハッ!おもしれぇ。だったら魔力が空になるまで避けて斬ってを繰り返してやるよ。‥‥‥‥さぁ、どっちが先にギブアップするかな?」


ニヤリと笑い、突っ込んで来る触手付きに向かっていく。さぁ、根比べの始まりだ‥‥‥‥‥‥‥‥‥


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